説明

平板状部材の熱処理炉

【課題】大型の平板状部材であっても、熱処理することができる平板状部材の熱処理炉を提供する。
【解決手段】平板状部材50を一定方向に回転するローラ2に載置し、トンネル状の炉体の炉長方向に移送しつつ熱処理を行う平板状部材の熱処理炉であって、ローラ2は、記炉体の両側壁から互いに対向されて、炉長方向に複数回転自在に配設され、ローラ2の先端部に、先端2a側に向かって徐々に外径が小さくなる縮径面2cを形成し、平板状部材50が、縮径面2cに線接触するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネルのような大型のフラットパネルに代表される平板状部材の製造に用いられる平板状部材の熱処理炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル等のフラットパネルは、ガラスやセラミックスからなる基板上に機能性材料を多層に印刷し、乾燥や焼成などの熱処理を施すことによって製造される平板状部材である。このような平板状部材の熱処理を効率よく行うために、特許文献1に示されるように、従来からローラーハースキルン等の熱処理炉が広く使用されている。
【0003】
このようなローラーハースキルンは、図8に示されるように、炉体122に、多数のセラミックス製のローラ120を、貫通させて一定ピッチで配置した形式のトンネル炉である。各ローラ120は、炉体122外に設けた駆動装置121によって同一方向に回転されるようになっている。炉体122内は予熱帯、乾燥帯や焼成帯、冷却帯などに区分され、バーナやヒータ123等の加熱手段によって炉室内に所定の温度勾配が形成されている。多数のローラ120上に載置された平板状部材131は炉長方向に移送されながら、予熱帯、乾燥帯や焼成帯、冷却帯などを通過する間に所定の温度履歴が与えられ、熱処理される。
【0004】
最近では、製造されるフラットパネルが大型になりつつあることから、炉幅が大きくなり、ローラ120の長さも長くなりつつある。しかしながら、ローラ120はセラミックス製であることから、長尺のローラ120を製作することは困難であるという問題があった。また、ローラ120が長くなるにつれて、ローラ120の中央部分の曲げモーメントも増大することから、ローラ120が撓むことや、破損する可能性があるという問題があった。また、炉体122をメンテナンスする場合に、ローラ120を炉体122から抜き取る必要があるが、ローラ120が長尺である場合には、ローラ120を抜き取るスペースの確保が困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、ローラ120の代わりに、炉体122内の床面に、浮上用気体の噴出手段設けて、平板状部材131を、前記浮上用気体で浮上させて炉体121内を搬送する熱処理炉が提案させている。しかしながら、このような熱処理炉は、炉体122内の温度が低下することを防止するために、前記浮上用気体を炉体122内の温度と殆ど同じ温度に加熱する必要があり、多大なエネルギーを消費してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、大型の平板状部材131であっても、熱処理することができる熱処理炉の開発が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−292404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大型の平板状部材であっても、熱処理することができる平板上部材の熱処理炉を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、
平板状部材を一定方向に回転するローラに載置し、トンネル状の炉体の炉長方向に移送しつつ熱処理を行う平板状部材の熱処理炉であって、
前記ローラは、前記炉体の両側壁から互いに対向するように、炉長方向に複数回転自在に配設され、
前記ローラの先端部に、先端側に向かって徐々に外径が小さくなる縮径面を形成し、
平板状部材が、前記縮径面に線接触するように構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、縮径面基端と、縮径面よりもローラの基端側のローラ外周面とを、円滑な接続面で接続し、縮径面と前記ローラ外周面との間で変節部が生じないようにしたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、対向するローラの下方に、前記ローラを転支する受けコロを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明は、ローラを、前記炉体の両側壁から互いに対向させて、炉長方向に複数回転自在に配設したので、長尺なローラを製作する必要がなく、炉幅を広くすることが可能となり、更に、炉体をメンテナンスする際の、ローラを抜き取るための広大なスペースを確保する必要が無い。
また、ローラの先端部に、先端側に向かって徐々に外径が小さくなる縮径面を形成し、平板状部材が、前記縮径面に線接触するように構成したので、平板状部材がローラの先端に接触することなく縮径面と線接触し、当該接触部分が過大な圧力とならず、平板状部材の表面に傷がつくことを防止することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、縮径面基端と、縮径面よりもローラの基端側のローラ外周面とを、円滑な接続面で接続し、縮径面と前記ローラ外周面との間で変節部が生じないようにしたことを特徴とする。これにより、平板状部材が接続面と線接触し、当該接触部分が過大な圧力とならず、平板状部材の表面に傷がつくリスクを更に低減させることが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、対向するローラの下方に、ローラを転支する受けコロを設けたので、多大な曲げモーメントが、ローラに作用することを防止し、ローラの破損を防止することが可能となる。また、ローラの撓みを防止して、ローラ上に載せられた、板状部材の変形を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の平板状部材の熱処理炉の断面図である。
【図2】受けコロユニットの斜視図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図1のB−B断面図である。
【図5】受けコロユニットの高さ調整機構の説明図である。
【図6】ローラの先端形状の説明図である。
【図7】ローラ上に平板状部材を載置した状態の説明図である。
【図8】従来のローラーハースキルンの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(平板状部材の熱処理炉の構造)
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。図1に示されるように、炉体1は、床壁1a、側壁1b、天井壁1cとから構成され、トンネル状である。炉体1は、耐火材や断熱材で構成されている。炉体1には、加熱手段が設けられ、この加熱手段により、炉体1内を昇温するようにしている。加熱手段の一例として、天井ヒータ、床ヒータが含まれる。
【0017】
2は円筒形状又は円柱形状のローラである。ローラ2は、耐熱材料であるセラミックスで構成されている。なお、前記セラミックスには、アルミナ(Al)や炭化珪素(SiC)、Si含浸SiCを焼成したものが含まれ、ローラ2をこれらのセラミックスで構成することが好ましい。ローラ2は、炉体1の両側壁1bから、互いに対向するように炉内に延出している。ローラ2は、炉体1に、炉長方向に対して一定間隔をおいて、複数配設されている。なお、本実施形態では、ローラ2の長さは、2.5m程度である。
【0018】
ローラ2は、炉外から、側壁1bを貫通して配設されている。ローラ2の基端2bは、炉外に配設されたローラ支持部材3により回転自在に支持されている。ローラ2は、図示しない駆動手段により、同一速度で一定方向に回転するようになっている。前記駆動手段には、サーボモータやインバータモータ等が含まれる。
【0019】
ローラ2の上には、平板状部材50が載置され、一定方向に回転するローラ2により、炉体1の炉長方向に移送されるようになっている。この際に、平板状部材50が、熱処理されるようになっている。
【0020】
対向するローラ2の両先端2aの下方には、対向するローラ2の両先端2aを転支する、円盤形状の受けコロ4が配設されている。受けコロ4は、耐熱材料であるセラミックスで構成されている。なお、前記セラミックスには、アルミナ(Al)や炭化珪素(SiC)、Si含浸SiC、窒化珪素(SiN4)が含まれ、受けコロ4をこれらのセラミックスで構成することが好ましい。
【0021】
図2に受けコロユニット7の斜視図を示し、図3の図2のA−A断面の断面図を示す。図4に図1のB−B断面の断面図を示す。図2に示されるように、複数の受けコロ4が、縦長の支持部材5に回転自在に列設されていて、受けコロユニット7を構成している。本実施形態では、支持部材5は、角パイプ形状をしている。あるいは、支持部材5は、箱形状であっても差し支えない。支持部材5は、耐熱材料であるセラミックスで構成されている。なお、支持部材5を耐熱金属で構成することにしても差し支えない。
【0022】
図2に示されるように、支持部材5には、支持部材5の幅方向を貫通する軸支穴5aが貫通形成されている。図2や図3に示されるように、支持部材5の上部には、支持部材5の内外を連通する、断面形状が長方形状の連通穴5bが形成されている。受けコロ4を支持部材5内に入れた状態で、受けコロ4の上部を、連通穴5bから支持部材5の外部に露出させている。
【0023】
また、図3に示されるように、受けコロ4の中心には、断面形状が円形状の貫通穴4aが形成されている。受けコロ4の貫通穴4aには、円柱形状のピン6が挿通されている。ピン6は、耐熱材料であるセラミックスで構成されている。ピン6は、支持部材5の軸支穴5aに挿通されている。このように構成することにより、受けコロ4の上部が、支持部材5の連通穴5bから突出するとともに、受けコロ4の上部以外の部分が、支持部材5の内部に収納されている構造となっている。
【0024】
ピン6の外径は、貫通穴4aの内径よりも僅かに小さくなっていて、受けコロ4は、ピン6に対して回転自在になっている。受けコロ4のピン6に対する回転による、受けコロ4の貫通穴4aとピン6の摩耗を減少させるために、受けコロ4とピン6は同材質で構成することが好ましい。受けコロとピンを前記実施例のように別構造とする形式の他に、受けコロ4とピン6を一体で成型する、または接合する構造としても良い。本構造の場合は支持部材5の軸支穴5aの内径をピン6の外形より僅かに大きくする構造となっている。
【0025】
受けコロユニット7は、受けコロユニット7の長手方向を、炉体1の炉長方向に向けて、炉体1内に配設されている。このように、複数の受けコロ4を、支持部材5に列設して、受けコロユニット7を構成することにしたので、炉体1の炉長方向の位置決め作業が容易となる。
【0026】
図4に示されるように、ローラ2の先端は、隣接する2個の受けコロ4で転支されている。このように、ローラ2の先端を、受けコロ4で転支することにしたので、ローラ2のローラ支持部材3で支持されている部分に、多大な曲げモーメントが作用することを防止している。また、ローラ2の撓みを防止し、ローラ2上に載せられた板状部材50の変形を防止している。
【0027】
図5に受けコロユニットの高さ調整機構の説明図を示す。図5は炉体1の床壁1b部分の断面を詳細に示した図である。10は外壁材である。外壁材10は、金属製の板材で構成されている。外壁材10の内側には、断熱材11が配設されている。断熱材11は、ファイバー状、又はボード状であり、セラミックファイバー、珪酸カルシウム等で構成されている。外壁材10及び断熱材11により、炉体1の床壁1bが構成されている。
【0028】
外壁材10には、調整ネジ穴10aが螺刻されている。外壁材10の調整ネジ穴10aには、アジャスタボルト12が螺設されている。アジャスタボルト12の先端は、外壁材10を貫通して、断熱材11が配設されている側に突出している。一方で、アジャスタボルト12のネジ頭は、炉体1の外側に露出している。
【0029】
アジャスタボルト12の先端には、板部材13が載置されている。板部材13は、金属やセラミックスで構成されている。板部材13上には、断熱部材14が載置されている。断熱部材14上に、受けコロユニット7が載置されている。アジャスタボルト12を回転させると、板部材13及び断熱部材14が上下に移動し、更に、受けコロユニット7もまた、上下に移動するようになっている。このように構成したので、アジャスタボルト12を回転させるだけで、炉体1外から、受けコロユニット7の高さを微調整することが可能となり、受けコロユニット7の高さ方向の位置決め作業が容易となっている。より好ましい構造として、受けコロユニット直下部の外壁材10を部分的に取り外し可能な構造とし、板部材13及びアジャスタボルトごと炉の外部に取り外し可能とすることにより、受けコロの交換を容易にする構造としてもよい。
【0030】
断熱材11の上で、受けコロユニット7の支持部材5の両側方には、耐火材15が配設されている。耐火材15と支持部材5の両側面とは当接している。このように、耐火材15を支持部材5の両側面に当接させて、ピン6が支持部材5から抜けることを防止している。受けコロユニットの支持部材を固定する方法としては、前述の耐火材の他、耐熱金属製の溝状のものとしてもよい。またピン6の支持部材5からの脱落を防止するため、ピンをその中央部を太くした段付構造としてもよい。また支持部材5の上部よりピンをはめ込み、固定部材により脱落を防止する構造としてもよい。
【0031】
(ローラの先端構造)
図6にローラ2の先端形状の説明図を示して、以下に、本発明で使用されるローラ2の先端形状について説明する。図6に示されるように、ローラ2の先端部には、ローラ2の先端2a側に向かって徐々に外径が小さくなる縮径面2cが形成されている。本実施形態では、縮径面2cは、ローラ外周面2d(なお、縮径面2c基端よりもローラ2の基端2b側の外周面をローラ外周面2dと定義する)に対して、所定角度傾いているテーパー面となっている。本実施形態では、ローラ2を焼成後に、ローラ2の先端部分をダイヤモンド砥石等で研削することにより、縮径面2cを形成している。
【0032】
図7にローラ2上に平板状部材50を載置した状態の説明図を示す。図7に示されるように、ローラ2上に平板状部材50を載置した場合には、ローラ2で支持されていない部分(対向するローラ2の先端2a間)は、平板状部材50の自重により、下方に湾曲して垂れ下がる。本発明では、ローラ2の先端部に縮径面2cを形成したので、平板状部材50がローラ2の先端2aに接触することなく、縮径面2cと線接触し、当該接触部分は過大な圧力とならず、平板状部材50の表面に傷がつくことがない。
【0033】
ローラ外周面2dと、縮径面2cとのテーパー角度は、平板状部材50をローラ2上に載置した場合に、平板状部材50がローラ2の先端2aに接触しない角度、つまり、平板状部材50が縮径部2cを線接触する角度に設定される。
【0034】
なお、焼成後のローラ2の先端部には、焼成に伴い僅かな変形が生じる。例えば、ローラ2の先端2aが垂れ下がるように変形している場合には、ローラ2の先端2aが周期的に平板状部材50に当接し、平板状部材50に傷がついてしまう。前述したように、焼成後のローラ2の先端部を研削することにより、縮径部2cを形成すると、前記変形部分が研削により除去され、平板状部材50に傷がつくことがない。
【0035】
以上説明した実施形態では、縮径面2cはテーパー面であるが、縮径面2cを、曲率半径が大きく、外側に膨出した円弧面で構成しても差し支えない。
【0036】
なお、縮径面2を形成後に縮径面2c基端とローラ外周面2との接続部に生じる変節部を、研磨することにより接続面を形成し、縮径面2c基端とローラ外周面2とを、円滑な接続面で接続することが望ましい。なお、本明細書において変節部とは、角度の異なる2平面の交線をいう。前記接続面は、微視的には外側に膨出した円弧面となっている。このように、縮径面基端とローラ外周面2との境界を、円滑な接続面で接続すると、縮径面2c基端とローラ外周面2との境界に変節部が生じず、平板状部材50が接続面と点接触することなく線接触し、当該接触部分が過大な圧力とならず、平板状部材50の表面に傷がつくリスクを更に低減させることが可能となる。
【0037】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う平板状部材の熱処理炉もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0038】
1 炉体
1a 床壁
1b 側壁
1c 天井壁
2 ローラ
2a ローラの先端
2b ローラの基端
2c 縮径面
2d ローラ外周面
3 ローラ支持部材
5 支持部材
5a 軸支穴
5b 連通穴
6 ピン
7 受けコロユニット
8a 軸穴
9 回転軸
10 外壁材
10a 調整ネジ穴
11 断熱材
12 アジャスタボルト
13 板部材
14 断熱部材
15 耐火材
50 平板状部材
120 ローラ
121 駆動装置
122 炉体
123 ヒータ
131 平板状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状部材を一定方向に回転するローラに載置し、トンネル状の炉体の炉長方向に移送しつつ熱処理を行う平板状部材の熱処理炉であって、
前記ローラは、前記炉体の両側壁から互いに対向するように、炉長方向に複数回転自在に配設され、
前記ローラの先端部に、先端側に向かって徐々に外径が小さくなる縮径面を形成し、
平板状部材が、前記縮径面に線接触するように構成したことを特徴とする平板状部材の熱処理炉。
【請求項2】
縮径面基端と、縮径面よりもローラの基端側のローラ外周面とを、円滑な接続面で接続し、縮径面と前記ローラ外周面との間で変節部が生じないようにしたことを特徴とする請求項1に記載の平板状部材の熱処理炉。
【請求項3】
対向するローラの下方に、前記ローラを転支する受けコロを設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の平板状部材の熱処理炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate