説明

平版インキ印刷方法

【課題】黄、紅、藍、墨のプロセス4色からなる平版インキ組成物と、FMスクリーン版との組み合わせにより高彩度の色再現性に優れた平版インキ印刷方法を提供する。
【解決手段】黄インキ、紅インキ、及び藍インキならびに、墨インキを使用する平版印刷において、周波数変調スクリーン(FMスクリーン)の版を用いて印刷することを特徴とし、且つ、黄、紅、藍の3色がジスアゾイエロー系化合物を顔料成分とする黄インキと、ローダミン系染料の金属レーキ化合物を顔料成分とする紅インキと、フタロシアニン系化合物を顔料成分とする藍インキとを組み合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄、紅、藍、墨のプロセス4色からなる平版インキ組成物と、FMスクリー
ン版との組み合わせにより高彩度の色再現性に優れた平版インキ印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
90年代より始まったIT革命は、印刷現場を取り巻く環境を著しくデジタル化の方向
へと導いてきており、このデジタル化によって、従来の印刷方式のワークフロー(撮影・
ポジ・スキャン・データ・デザイン・EPS・面付け・フィルム・刷版・印刷)が多段階
式過程であったのに対し、デジタルカメラによる撮影・DTP・CTP・印刷とその過程
を飛躍的に短縮することに成功した。それによって、入稿データの「RGB」化が標準化
しつつあり、取り扱われるデータがより色再現領域の広いものへとシフトしつつあるのが
現状である。
【0003】
しかし、現在主流となっている黄、紅、藍、墨のプロセス4色(CMYK)からなる平
版オフセット印刷では、減色混合による色相となるため、色を重ねるごとに色相に濁りが
生じ、必然的に色再現領域がRGBのそれよりも狭いものとなりデジタルデータと印刷物
との間の色再現性の差異が問題となっていった。特に、印刷の最終色として印刷されるこ
とが一般的な黄インキが不透明であると黄かぶり現象を起こし、下刷りのインキ各色へ与
える影響が大きい為、黄インキはできる限り透明であることが望ましく、他の色と刷り重
ねた時に、濁りのない二次色、三次色が得られることが望ましい。
【0004】
これらを解決する手段として、特許文献1では高彩度の印刷システムとして5〜7色の
インキセットを使用する印刷方法が確立され、それぞれの特定した色相を持つインキセッ
トを用いる印刷方法として、プロセス4色に橙、緑を加えた6色(ヘキサクロム印刷)や
プロセス4色に橙、緑、紫を加えた7色(ハイファイ印刷)等が確立されている。また、
ヘキサクロムインキに代表されるように、二次色、三次色の濁りを抑え、色再現領域を広
げる手段として一部の色に蛍光顔料を含有させる等の手法もとられるが、印刷適性の劣化
(転移不良、光沢低下等)や耐光性不足による印刷物の褪色等のデメリットもある。更に
、使用するインキの色数が6色、7色となり、印刷機の胴数が6胴以上の高価な多色印刷
機を必要とする事に加え、それと同数の多色分解した版数が必須条件となり、新たに始め
るには巨額な設備投資と、色調管理の複雑化などで本システムを用いるには限られた範囲
に止まっている。
【0005】
また、製版に関する技術としてコンタクトスクリーン時代から現在に至るまで、最も一
般的に使用されているのが網点(ドット)の大小で色の濃淡を表現していた振幅変調スク
リーニング(AMスクリーニング)である。AMスクリーニングの長所としては、ざらざ
らとした粒状感のない均一で美しい平網の再現と、自然な仕上がり、また、長年に渡る経
験の蓄積から印刷したときの色調予測が容易であることが上げられる。しかしながら、ス
クリーン角度の存在による干渉モアレ、ロゼッタ模様等の発生が避けられないのが現状で
ある。ロゼッタ模様に関してはスクリーン線数を上げれば解消に向かうが、むやみに線数
を上げることは、網点のつぶれ等考慮すると実印刷に適していない。昨今では、CTPに
よる製版技術の進歩により、AMスクリーニングに対してより微細なドットをランダムに
配置し、ドットの密度を変化させて色の濃淡を表現する周波数変調スクリーニング(FM
スクリーニング)が増加しつつあり、AMスクリーンで問題となっていたモアレ、ロゼッ
タ模様の発生を抑制すると共に、高精細(微細)な表現が可能となってきたが、最終印刷
物の色調予測が難しいこと、印刷標準化の為の条件詰めが必要であることなどの問題があ
った。
【0006】
一方でFMスクリーニングは、インキ膜厚が薄膜化されることによって画像の鮮明性が
向上し、色再現領域の向上が期待されているが、従来のプロセス4色とFMスクリーニン
グとの組み合わせではインキ自体の色再現可能領域が限られている(ベタ部の色再現性は
AMスクリーニングと変わらない)為、その向上にも限界があった。また最近では、AM
スクリーンとFMスクリーンの長所を組み合わせたハイブリットタイプのスクリーニング
も増加傾向にある。
【特許文献1】特開2001−260516号公報
【特許文献2】特開平6−234434号公報
【特許文献3】特開平7−264402号公報
【特許文献4】特開平10−210292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の技術における問題点を解決する為になされたものであり、
その課題とするところは、従来多く普及している4色印刷機を用いて、FMスクリーン版
との組み合わせにより、RGBの色再現領域を限りなく表現することができる、黄、紅、
藍、墨のプロセス4色からなる平版インキを提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般的に、色再現領域を広げるためには、各色の理想的な分光反射率曲線に近づける必要がある。
すなわち、人が色を認識する波長領域は400nm〜700nmの光(この波長を可視光線という)において、黄インキでは、500nm〜700nmの波長領域での反射率が100%、400nm〜500nmの波長領域での反射率が0%であり、紅インキでは、400nm〜500nm、600nm〜700nmの波長領域での反射率が100%、500nm〜600nmの波長領域での反射率が0%であり、藍インキでは、400nm〜600nmの波長領域での反射率が100%、600nm〜700nmの波長領域での反射率が0%であることが理想であると言われている(理想のプロセスインキの分光反射率曲線を表7に示す)。
【0009】
しかし、現状使用されているプロセス4色からなる、黄、紅、藍、墨のオフセット印刷
用インキ組成物の反射スペクトルは理想の反射スペクトルとはかけ離れている。完全反射
しなければならない部分での不必要吸収があるためにインキの濁り成分が存在し、色再現
性を狭めている。
【0010】
すなわち本発明は、黄インキ、紅インキ、及び藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、
ならびに墨インキを使用する平版印刷において、周波数変調スクリーン(FMスクリーン)の版を用いて印刷することを特徴とし、且つ、黄、紅、藍の3色がジスアゾイエロー系化合物を顔料成分とする黄インキと、ローダミン系染料の金属レーキ化合物を顔料成分とする紅インキと、フタロシアニン系化合物を顔料成分とする藍インキとの組み合わせによって良好な色再現性を有する平版インキ印刷方法に関するものである。
【0011】
また、本発明は、周波数変調スクリーニングによって得られるドットが1〜50μm、好
ましくは5〜30μm、より好ましくは10〜20μmである上記記載の平版インキ印刷方法に関する。
【0012】
また、本発明は、ジスアゾイエロー系化合物として、C.I.ピグメントイエロー12またはC.Iピグメントイエロー13をインキの全重量に対して5〜15重量%含有し、濃度値1.85〜1.90の墨インキ上に濃度1.40〜2.10の範囲で刷り重ねた場合のL*値が17を超えない透明性を有する黄インキを使用した上記記載の平版インキ印刷方法に関する。
【0013】
また、本発明は、ローダミン系染料の金属レーキ化合物として、C.I.ピグメントレッド81またはC.Iピグメントバイオレット1をインキの全重量に対して15〜30重量%含有する紅インキを使用した上記記載の平版インキ印刷方法に関する。
【0014】
また、本発明は、フタロシアニン系化合物として、C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4をインキの全重量に対して10〜25重量%且つ、C.I.ピグメントグリーン7を0.5〜2.0重量%含有する藍インキを使用した上記記載の平版インキ印刷方法に関する。
【0015】
更には、上記記載のC.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4の比表面積が74m2/g以上である藍インキを使用した上記記載の平版インキ印刷方法に関する。

さらに、これら(a)黄、(b)紅、(c)藍が、下記の反射率を有する上記印刷方法に関する。
(a)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに
、400nm〜480nmの波長領域が1〜20%、530nm〜700nmの波長領域
での反射率が90〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする黄色相化合物をインキの全重量に対して5〜15重量%含有する黄インキ。
【0016】
(b)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたとき
に、400nm〜500nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、500nm
〜560nmの波長領域での反射率が1〜20%、630nm〜700nmの反射率が9
0%〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする紅色相化合物をインキの全重量に対して15〜30重量%含有する紅インキ。
(c)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに
、400nm〜530nmの波長領域の反射率が50〜100%、600nm〜700n
mの反射率が1〜30%の反射スペクトルを有することを特徴とする藍色相化合物をインキの全重量に対して10〜25重量%含有する藍インキ。

【発明の効果】
【0017】
本発明が提供する平版インキ印刷方法を用いることにより、従来黄、紅、藍、墨プロセ
ス4色に加えて、橙、緑、紫等を加えた6色、7色印刷で表現していたRGBの色再現領
域を、黄、紅、藍、墨の4色で再現することが可能になる。更に、FMスクリーン版との
組み合わせにより、従来のAMスクリーン版にて印刷した場合よりも広い色再現領域を表
現させることが可能になる。また、本発明では、印刷物の色再現領域を向上させる手段と
して蛍光顔料を使用していないため、印刷適性、印刷物の経時での褪色等を劣化させるこ
となく、高彩度の印刷物を得ることができる。更には、FMスクリーンの特徴であるイン
キ膜厚の薄膜化、特にライト〜中間部の膜厚がAMスクリーンと比較して薄膜になるため
、セット、乾燥、裏移り性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
本発明に使用するインキは、顔料と、合成樹脂、植物油、石油系溶剤とを必要に応じてス
テアリン酸アルミニウム、アルミキレート等のゲル化剤と共に加熱溶解したビヒクル成分
と、耐摩擦剤等の補助剤とからなる黄、紅、藍、墨の4色からなる平版インキであって、
ISO規格のジャパンカラー標準用紙、例えば三菱製紙(株)製「特菱アート両面四六版
/110kg」に印刷し、黄、紅、藍の各色をグレタグマクベスD196濃度計にて測定
した際の濃度値が、黄が1.40〜1.44、紅が1.52〜1.56、藍が1.63〜
1.67の範囲内であるときに単色及び各単色の刷り重ねのL*a*b*表色系による色度
(JIS Z 8729)が、黄インキで、L*:87〜95、好ましくは88〜93、a*:−4〜
−12、好ましくは−5〜−10、b*:90〜100、好ましくは92〜98、紅イン
キで、L*:50〜55、好ましくは51〜54、a*:75〜83、好ましくは76〜81、b*:−14〜−20、好ましくは−15〜−18、藍インキで、L*:52〜58、好ましくは52〜57、a*:−40〜−45、好ましくは−41〜−44、b*:−45〜−53、好ましくは−46〜−51、更には、紅インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:51〜56、a*:65〜70、b*:56〜61、藍インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:47〜53、a*:−77〜−83、b*:25〜32、藍インキ×紅インキの刷り重ねで、L*:23〜29、a*:28〜33、b*:−63〜−68の範囲内になることを特徴とする。
【0019】
色再現領域の表現方法としては、XYZ表色系(CIE1931表色系)、X1010Z1
0表色系(CIE1964表色系)、L*a*b*表色系(CIE1976)、ハンターLa
b表色系、マンセル表色系、L*u*v*表色系(CIE1976)等挙げられる。
L*a*b*表色系では、色相に関係なく比較できる明るさの度合いとして「明度」をL*で表現し、L*が大きくなるほど色が明るく、小さくなるほど暗くなることを示している。また、各色によって異なる「色相」をa*、b*の値で示し、a*は赤(+)から緑(−)方向、そしてb*は黄(+)から青(−)方向を示し、各方向とも絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、0に近づくに従ってくすんだ色になることを示している。これによって一つの色を、L*、a*、b*を用いて数値化することが可能となる。
【0020】
また「明度」「色相」とは別に、鮮やかさの度合いを数値化する方法として「彩度(C
)」があり、以下の計算式にて求めることができる。
【0021】
【数1】

Cに関しても同様に、絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、値が小さくなるにつ
れてくすんだ色になることを示している。
【0022】
一つの印刷物(印刷物以外のカラースペースも含む)で表現できる全ての色再現領域を
演色領域(ガモット)と呼ぶが、ガモットを表す最も簡便な方法として、a*を横軸、b*縦軸とした2次元空間に、単色ベタ部(黄、紅、藍)、及び、単色ベタ刷り重ね部(黄×紅、紅×藍、藍×黄)計6色のa*対b*の値を、プロットした六角形の面積で表現することが可能である。ガモットの面積が広い程、色再現領域が広いことを示している。
【0023】
本発明で使用される黄インキに関し、濃度値1.85〜1.90の範囲内で印刷した墨
インキ上に、濃度1.40〜2.10の範囲で刷り重ねした場合のL*値が17を超えな
い透明性を有していれば、二次色、三次色の重ね刷りをした際の下刷りインキへの影響が
少なく、良好な色再現領域を得ることができる。更には、補色としてC.I.ピグメントイエロー83を上記黄顔料の全重量に対して0.5〜10重量%、好ましくは2〜5重量%加えて使用することも可能である。
本発明で使用される紅顔料としては、ローダミンB、ローダミン3G、ローダミン6Gな
どのローダミン系染料のモリブデン、タングステン金属レーキ化合物が挙げられるがこれ
らに限定されるものではない。
【0024】
本発明で使用する藍顔料である銅フタロシアニン系化合物は、結晶多型(同質異晶)を
示す物質であり、その結晶構造の違いによってα、β、γ、ε、π、τ、ρ、χ、R型などに分類されるが、結晶安定性、分散性が優れているβ型を使用することが好ましく、更には比表面積が74m2/g以上の微細なβ型銅フタロシアニンであることが好ましい。
本発明においては、上記銅フタロシアニン化合物に対し、フタロシアニン分子のベンゼン
環上の水素原子をハロゲン化合物で置換したハロゲン化銅フタロシアニン化合物を5〜1
5重量%より好ましくは8〜11重量%加えて使用することにより、藍インキ単色の色再現領域を損なうことなく、黄及び紅インキと刷り重ねた際の緑及び紫の色再現領域を広げることが可能になる。
【0025】
墨顔料としては、カーボンブラック、例えばC.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0026】
本発明に用いられる合成樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキ
ッド樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂変性アルキッド樹脂、ロジンエステル等
が考えられる。好ましくは、ロジン変性フェノール樹脂を使用する。ロジン変性フェノー
ル樹脂は、特に限定されないが、重量平均分子量1万〜30万のものを使用するのが好ま
しい。分子量1万以下ではインキの粘弾性が低下し、30万以上ではインキとしての流動
性が不十分となる。
【0027】
植物油としては、たとえばパーム核油、ヤシ油、綿実油、落花生油、パーム油、コーン
油、オリーブ油、亜麻仁油、コーン油、大豆油、サフラワー油、桐油等の植物油由来のも
のが例示できるとともに、それらの熱重合油および酸素吹き込み重合油なども使用できる
。また、本発明ではこれら植物油を単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いる
こともできる。
【0028】
また、インキに用いられる石油系溶剤は、芳香族炭化水素の含有率が1%以下でアニリ
ン点が75〜95℃好ましくは80〜95℃及び、沸点が260℃〜350℃好ましくは
280〜350℃の範囲にある石油系溶剤である。アニリン点が75%未満の場合には、
樹脂を溶解させる能力が高すぎる為、インキのセット性が遅くなり好ましくなく、また9
5℃を超える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、光沢、着肉等が悪くなり好ましくない。
沸点が260℃未満に場合には、印刷機上でのインキ溶剤の蒸発が多くなり、インキの流
動性の劣化により、インキがローラー、ブランケット、版等への転移性が悪くなり好まし
くない。また、350℃を超える場合には、ヒートセット型のインキの乾燥が劣る為、好
ましくない。
【0029】
更に、本発明に使用する平版インキ組成物には、必要に応じてゲル化剤、顔料分散剤、
金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界
面活性剤、多価アルコールなどの添加剤を適宜使用することができる。
【0030】
本発明に使用するFMスクリーニングは、ランダム・スクリーニング又はストカステ
ィック・スクリーニングと呼ばれることもある。本発明でいうFMスクリーニングとは、
ドットとドットの間隔すなわち周期性を変調すること、基本ドットを打つ頻度(ドットの
密度)により色の濃淡を表現する方法を指す。具体的には、クリスタル・ラスター・スク
リーニング法、ダイヤモンド・スクリーン法、クラス・スクリーニング法、フルトーン・
スクリーニング法、ベルベット・スクリーニング法、アキュトーン・スクリーニング法、
メガドット・スクリーニング法、クリア・スクリーニング法、モネット・スクリーニング
法等が知られている。これらの方法はいずれもドット発生のアルゴリズムは異なっている
が、ドット密度の変化により濃淡を表現する方法であり、FMスクリーニング法の種々の
方法である。
【0031】
また、AMスクリーニング法は、規則的に配置された網点の大小(網点面積)で階調を
表現する方法であり、網点の形状により、スクエア・ドット・スクリーン、チェーン・ド
ット・スクリーン等がAMスクリーニング法の種々の方法として用いられる。AMスクリ
ーニング法においては、解像度を表現する方法としてスクリーン線数(1インチ当たりに
並んでいる網点の数)が用いられ、65線程度から1500線程度の高精細線印刷の任意
の解像度においてAMスクリーニング法を用いることができるが、一般的な商業印刷のレ
ベルでは175線が使用されることが多い。AMスクリーニングによる網点はその配置に
規則性がある為に複数の網点を重ね合わせたときにモアレが発生しやすく、通常の4色印刷物では、カラー原稿を色分解後、4色(YMCK)に分版する際に、各色ごとの網目スクリーンの角度をずらすことでモアレの発生を防止していた。一般的には網目スクリーンの角度を0〜90度の角度の中で振り分けるものであるが、モアレを認識しにくくすることはできても、規則性網点を使用する限りモアレを完全に防止することはできない。
【0032】
FMスクリーニング法で用いる一定の大きさのドットとしては、1〜50μmのドット
が好ましい。1μm以下では印刷手法にもよるが安定的なドット径の再現が難しく表現す
る濃度階調が不安定となり、50μmを越えると解像度の実用性能が見劣りする。一般的
には、印刷適性を考慮すると、10〜20μmが好ましい。
FMスクリーニング法も面積階調の一種であり、この点では従来の網点と同一であるが、
規則性がない点が最大の特徴であり、規則性に起因するモアレ、更にはロゼッタ模様の発
生も解消できる等の利点がある。
【0033】
一方、FMスクリーニングはドットがランダムに配置される為、平網、特に中間部の平
網においてガサツキ感が発生するのも事実である。これは、隣接するドット同士が「接触
する箇所」と「接触しない箇所」とが同時に存在し、それが「ざらつき」として認識され
るためである。更には、高精細な表現が可能になる反面、より原稿に忠実な表現、例えば
、AMスクリーニング175線では再現しなかった「しわ」などを再現してしまう場合も
ある。
【0034】
上記問題を解決する為に、昨今では、AMスクリーニングの持つ扱いやすさと、FMス
クリーニングの持つ品質の高さの両方を兼ね備えたハイブリッドスクリーニングの開発も
進んでいる。ハイブリッドスクリーニングとは、画像の濃淡に応じて網を使い分け、絵柄
のあらゆる部分において最適な表現を行うことであり、ハイライト領域(1〜10%)と
シャドウ領域(90〜99%)ではFMスクリーニングの様に一定の大きさの網点密度を
変化させ、10〜90%の中間領域では、AMスクリーニングの様に網点の大きさを変え
て階調を表現する方法などが多く用いられている。近年、CTPの導入でこのような新し
いスクリーニングを使用した高付加価値印刷が多くなっている。
【0035】
本発明では、一般的な平版印刷に使用されているジャパンカラー準拠のインキより色再
現領域の広いインキを用いることで、インキ自身の色再現領域を広げると共に、更にFM
スクリーン版との組み合わせにて印刷することでより色再現領域の向上に効果を発揮する
。これは、AMスクリーンと比べてライト〜中間部のインキ膜厚が薄膜化されることでイ
ンキの透明性が上がり、画像の鮮やかさが増す。更に、印刷濃度を上げることで、ジャパ
ンカラー準拠インキはより色相に濁りを生じて行くのに対し、本発明のインキはインキ自
体が透明性、高鮮明性を有している為、濃度をあげた場合の濁りを極力抑えることが可能
となり、良好な色再現性を誇る。
【0036】
ジャパンカラーとは、ISO/TC130国内委員会が策定した印刷に関する標準色の
ことで、オフセット枚葉ジャパンカラー2001では、ISO12642パターン(92
8色、IT8とも言う)の測色値(L*a*b*値)をデータで示している。印刷条件は、
商業オフセット印刷に関する国際規格ISO12647−2の標準条件をもとに、日本国
内で普通に使われているインキ、印刷用紙(ジャパンカラー2001では4種類の用紙に
ついて決められている)を使用することで定義されている。一般的なジャパンカラー準拠
のインキを、ジャパンカラー標準用紙、例えば三菱製紙(株)製「特菱アート両面四六版
/110kg」に印刷した場合の黄、紅、藍、単色ベタ部のL*a*b*値、及びそれより
計算したC値は、黄インキで、L*:86、a*:−7、b*:92、C:92、紅インキで
、L*:45、a*:72、b*:−5、C:72、藍インキで、L*:54、a*:−36、b*:−49、C:61程度になるといわれている。
[実施例]
次に具体例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら記載実施例に
限定されるものではない。なお、以下の記述の部は重量部、%は重量%を表す。
ロジン変性フェノール樹脂の製造例
撹拌機、冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコにP−オクチルフェノール1000部、
35%ホルマリン850部、93%水酸化ナトリウム60部、トルエン1000部を加え
て、90℃で6時間反応させた。その後6N塩酸125部、水道水1000部の塩酸溶液
を添加し、撹拌、静置し、上層部を取り出し、不揮発分49%のレゾールタイプフェノー
ル樹脂のトルエン溶液2000部を得て、これをレゾール液とした。
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000
部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、上記で製造したレゾール液1
800部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン
110部を仕込み、260℃で10時間反応させ、酸価20以下として、重量平均分子量
50000、新日本石油化学(株)AFソルベント6号での白濁温度90℃のロジン変性
フェノール樹脂を得た。
ワニス製造例
ロジン変性フェノール樹脂45部、大豆油40部、AFソルベント6号(新日本石油化学
(株)製溶剤)14部、ALCH(川研ファインケミカル(株)製ゲル化剤)1.0部を
190℃で1時間加熱撹拌して、ワニスを得た。
インキ実施例(黄インキ)
表1のような配合にてC.I.ピグメントイエロー12(東洋インキ製造(株)製LIO
NOL YELLOW 1235−P)をニーダー中で温度75℃の条件下、ワニスを徐
々に添加して混練して一次脱水を行った。次にニーダー温度100℃〜120℃、減圧度
76mmHgの条件下で1時間バキュームし、ベースインキ中の水分を0.5%以下にな
るように二次脱水を行った。脱水後、残りのワニス、石油系溶剤を添加して混練して希釈
し、ニーダーより未分散ベースインキを取り出した。取り出したベースインキをロール温
度60℃の3本ロールを用いて、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で7.5ミク
ロン以下になるまで練肉し、黄のベースインキ1を得た。次いで、ベースインキ1に対し
て、表2の配合でワニス、植物油、石油系溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑
制剤を添加し黄インキ1を得た。
インキ実施例(紅インキ)
黄インキと同様に、表1の配合にてC.I.ピグメントレッド81(不二化成(株)製フ
ァナルローズRNN−P)を用い、紅のベースインキ2を得た。次いで、ベースインキ2
に対して、表2の配合で植物油、石油系溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制
剤を添加し紅インキ2を得た。
インキ実施例(藍インキ)
表1の配合にて、C.I.ピグメントブルー15:3(東洋インキ製造(株)製LION
OL BLUE GLA−SD)をワニス、石油系溶剤と混合し、分散粒子系測定機(グ
ラインドメーター)で7.5ミクロン以下になるまで練肉、藍のベースインキ3を得た。
また、別途表1の配合にてC.I.ピグメントグリーン7(東洋インキ製造(株)製LI
ONOL GREEN YS−2A)をワニス、石油系溶剤と混合し、分散粒子系測定機
(グラインドメーター)で7.5ミクロン以下になるまで練肉したベースインキ4を用い
、表2の配合にて上記藍ベースインキ3とベースインキ4とを混合後、更に植物油、石油
系溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し、藍インキ3を得た。
インキ比較例(黄インキ)
表1のような配合にてC.I.ピグメントイエロー12(東洋インキ製造(株)製LIO
NOL YELLOW 1229−P)をニーダー中で温度75℃の条件下、ワニスを徐
々に添加して混練して一次脱水を行った。次にニーダー温度100℃〜120℃、減圧度
76mmHgの条件下で1時間バキュームし、ベースインキ中の水分を0.5%以下にな
るように二次脱水を行った。脱水後、残りのワニス、石油系溶剤を添加して混練して希釈
し、ニーダーより未分散ベースインキを取り出した。取り出したベースインキをロール温
度60℃の3本ロールを用いて、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で7.5ミク
ロン以下になるまで練肉し、黄のベースインキ5を得た。次いで、ベースインキ5に対し
て、表2の配合でワニス、植物油、石油系溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑
制剤を添加し黄インキ4を得た。
インキ比較例(紅インキ)
黄インキと同様に、表1の配合にてC.I.ピグメントレッド57:1(東洋インキ製造
(株)製LIONOL RED 6B 4240−P)を用い、紅のベースインキ6を得
た。次いで、ベースインキ2に対して、表2の配合で植物油、石油系溶剤、コンパウンド
、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し紅インキ5を得た。
黄インキの透明性の評価については、以下の試験法で評価した。
【0037】
濃度値1.85〜1.90の範囲内で印刷した墨インキ上に、濃度1.40〜2.10
の範囲で黄インキを刷り重ねし、L*を測定した。結果を表4に示す。
実施例の黄インキは、濃度値を2.20まで上げてもL*が17を越えず、下刷りの墨イ
ンキに影響を与え難く、透明性に優れているといえる(L*は値が小さいほど黒く、大き
くなるほど白くなることを示している)。
一方、比較例はL*が高く、上刷りの黄インキが不透明であるために下刷りの墨インキの
黒さを阻害してしまっていることがわかる。
印刷実施例
表3の組み合わせにて印刷テストを実施した。
【0038】
印刷に関する詳細な条件を以下に示す。
【0039】
印刷機 :ハイデルベルク゛スピードマスター 菊全4色機(ハイデルベルグジャパン
(株))
用紙 :特菱アート両面 110Kg(三菱製紙(株))
湿し水 :アストロマーク3プラス((株)日研化学研究所)4.0%水道水溶液
印刷速度:9000枚/時
濃度 :D196(GretagMacbeth社)にて印刷物の単色(黄、紅、藍
、墨)ベタ部の濃度値を測定
黄;1.40〜1.44、紅;1.52〜1.56、藍;1.63〜1.67、
墨;1.88〜1.92
測色 :グレタグマクベス社製SpectroEye(D50、2度視野、StatusT)にて 印刷物の単色ベタ部(黄、紅、藍)を測定

【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

FMスクリーンは大日本スクリーン製造(株)のRandotX、AMスクリーンは1
75線を用い、ECI2002Rチャート(1485色:GretagMacbeth社
)を印刷。
【0044】
印刷後、SpectroLino(GretagMacbeth社)を用いてチャート
を測定し、測定結果からICCプロファイルを作成した(GretagMacbeth社
のProfileMakerを使用)。
作成したプロファイルをCHROMIX社のColorThinkを使用して3Dガモッ
ト図(Lab表色系)を作成した。
【0045】
実施例1と比較例1、及び、実施例1と比較例2の3Dガモットの比較を表5〜表12
に示す。尚、各表は上面図(L軸+方向から見た図)、側面図(a軸+方面、及びb軸−
方面から見た図)、斜面図(Lab各+方面から見た図)の計4方向から示した。
【0046】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【0047】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

実施例1のガモット図をワイヤーフレームで表現、比較例1及び2のガモット図を塗り
つぶしで表現した。
【0048】
ワイヤー部分が隠れていない部分(塗りつぶし部分の内側にない部分)は、比較例より
も色再現領域が広いことを示している。また、Photoshop(Adobe社)にて
再現可能色数を計算した結果、実施例1は比較例1の1.25倍、比較例2の1.46倍
再現可能であった。

また、得られた分光反射率曲線を表14に示す。比較例の従来インキに比べ、実施例のインキの方が理想の分光反射率曲線に近くなっており、完全反射しなければならない部分の不必要吸収が少なくなっている。そのため、インキの濁り成分が減少し、色再現領域が広がっている。

【0049】
【表13】









【0050】
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄インキ、紅インキ、及び藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、ならびに墨インキを
使用する平版印刷において、周波数変調スクリーン(FMスクリーン)の版を用いて印刷することを特徴とし、且つ、黄、紅、藍の3色がジスアゾイエロー系化合物を顔料成分とする黄インキと、ローダミン系染料の金属レーキ化合物を顔料成分とする紅インキと、フタロシアニン系化合物を顔料成分とする藍インキとの組み合わせによって良好な色再現性を有する平版インキ印刷方法。
【請求項2】
周波数変調スクリーニングによって得られるドットが1〜50μmであることを特徴とす
る請求項1記載の平版インキ印刷方法。
【請求項3】
ジスアゾイエロー系化合物として、C.I.ピグメントイエロー12またはC.Iピグメントイエロー13をインキの全重量に対して5〜15重量%含有し、濃度値1.85〜1.90の墨インキ上に濃度1.40〜2.10の範囲で刷り重ねた場合のL*値が17を超えない透明性を有する黄インキを使用した請求項1記載の平版インキ印刷方法。
【請求項4】
ローダミン系染料の金属レーキ化合物として、C.I.ピグメントレッド81またはC.Iピグメントバイオレット1をインキの全重量に対して15〜30重量%含有する紅インキを使用した請求項1記載の平版インキ印刷方法。
【請求項5】
フタロシアニン系化合物として、C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4をインキの全重量に対して10〜25重量%且つ、C.I.ピグメントグリーン7を0.5〜2.0重量%含有する藍インキを使用した請求項1記載の平版インキ印刷方法。
【請求項6】
C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4の比表面積が74m2/g以上の請求項5記載の藍インキ。
【請求項7】
黄インキ、紅インキ、及び藍インキのうちいずれか2つ又は3つ、ならびに墨インキを使
用する平版印刷において、(a)黄、(b)紅、(c)藍の反射率が、下記である
ことを特徴とする、請求項1の平版印刷方法。
(a)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたとき
に、400nm〜480nmの波長領域が1〜20%、530nm〜700nmの波長領
域での反射率が90〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする黄色相化合物
をインキの全重量に対して5〜15重量%含有する黄インキ。
(b)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたとき
に、400nm〜500nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、500nm
〜560nmの波長領域での反射率が1〜20%、630nm〜700nmの反射率が9
0%〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする紅色相化合物をインキの全重量に対して15〜30重量%含有する紅インキ。
(c)400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに
、400nm〜530nmの波長領域の反射率が50〜100%、600nm〜700n
mの反射率が1〜30%の反射スペクトルを有することを特徴とする藍色相化合物をインキの全重量に対して10〜25重量%含有する藍インキ。

【公開番号】特開2007−182058(P2007−182058A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263615(P2006−263615)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】