説明

平版インキ組成物

【課題】ISO規格のジャパンカラー標準インキを印刷した場合よりも、演色領域(ガモット)を広げることができるプロセス4色の水無しインキを使用した印刷方法であり、より「RGB」の色再現領域に限りなく近い色領域を再現することのできる印刷方法に使用することができる水無し平版印刷インキ組成物の提供。
【解決手段】
すなわち本発明は、(A)着色成分5〜30重量%、(B)バインダー樹脂20〜50重量%、及び(C)溶剤成分を含有し、(C)溶剤成分として、植物油類及び/または鉱物油類が、20〜70重量%を含有する水無し平版印刷用インキにおいて、着色成分(A)が、黄、紅、藍及び墨の色相を有する4色インキのセットから成り、黄顔料としてジスアゾイエロー系化合物を含有し、紅顔料としてローダミン系染料の金属レーキ化合物を含有し、藍顔料としてフタロシアニン系化合物を含有することを特徴とする水無し平版印刷インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿し水を必要としない水無し平版印刷において、黄、紅、藍、墨のプロセス4色からなる平版インキ印刷方法であって、4色で高彩度の印刷再現性に優れた水無し平版印刷インキ組成物、印刷方法、ならびに印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の印刷の主流をなす平版印刷は、非画線部に湿し水を供給し、湿し水とインキ反発性を利用し画像部と非画像部を形成する。しかし、この平版印刷方法では、湿し水に起因する印刷品質のバラツキが大きく、それを制御する為に多大な設備、消耗剤、時間や熟練した技術が必要となっていた。近年、この湿し水に関わる作業、環境上の問題を解決する方法として水無し平版印刷方法が提案され、特に湿し水に代わってインキ反発性を示すことを目的として非画線部にシリコーンゴムを設けて印刷する方法が実用化されている。
【0003】
一方、90年代より始まったIT革命は、印刷現場を取り巻く環境を急速にデジタル化の方向へと導いてきている。従来の印刷方式のワークフローは、撮影・ポジ・スキャン・データ・デザイン・EPS(Encapsulated Post Script)・面付け・フィルム・刷版・印刷などの非常に多くの過程からなる。他方、デジタル化された印刷方式のワークフローは、デジタルカメラによる撮影・DTP(Desk Top Publishing)・CTP(Computer To Plate)・印刷などの過程からなる。デジタル化によって、従来の印刷方式に対し、印刷のワークフローを飛躍的に短縮することに成功した。また、デジタル化によって、入稿データの「RGB」化が標準となりつつあり、また、取り扱われるデータがより色再現領域の広いものへと変化しつつあるのが現状である。この様な環境の中で、印刷現場を取り巻く環境の「標準化」ということが重要なポイントとなっており、「ジャパンカラー」も標準化の1つの手段として注目されている。
【0004】
しかし、現在、印刷の主流であるジャパンカラー標準インキを用いた平版オフセット印刷では、黄インキ、紅インキ、藍インキ、墨インキのプロセス4色(CMYK)インキを用いる。したがって、平版オフセット印刷を行うには、「RGB」として入稿されたデータを、「CMYK」に色変換(色分解)せざるを得ない。プロセス4色インキを用いた平版オフセット印刷物は、減色混合によって色相が表現されているため、色を重ねるごとに色相に濁りが生じ、必然的に色再現領域が「RGB」のそれよりも狭くなる。また、撮影段階の「RGB」色空間の規格の選定によっては、あるいは、「RGB」から「CMYK」への色変換の方法によっては、色再現がうまくいかない。このように、「RGB」デジタルデータと、プロセス4色(CMYK)インキを用いた印刷物との間の色再現性の差異が問題となっている。
【0005】
一般的に、色再現領域を広げるためには、各色の理想的な分光反射率曲線に近づける必要がある。
【0006】
すなわち、人が色を認識する波長領域は400nm〜700nmの光(この波長を可視光線という)において、黄インキでは、500nm〜700nmの波長領域での反射率が100%、400nm〜500nmの波長領域での反射率が0%であり、紅インキでは、400nm〜500nm、600nm〜700nmの波長領域での反射率が100%、500nm〜600nmの波長領域での反射率が0%であり、藍インキでは、400nm〜600nmの波長領域での反射率が100%、600nm〜700nmの波長領域での反射率が0%であることが理想であると言われている(理想のプロセスインキの分光反射率曲線を表8に示す)。
【0007】
しかし、現状使用されているプロセス4色からなる、黄、紅、藍、墨のオフセット印刷
用インキ組成物の反射スペクトルは理想の反射スペクトルとはかけ離れている。完全反射
しなければならない部分での不必要吸収があるためにインキの濁り成分が存在し、色再現
性を狭めている。
【0008】
特に、紅インキ、藍インキの2色のインキで表現される紫(ブルーバイオレット、RGBの「B」にあたる)の領域に関しては、紅インキ、藍インキともに不必要吸収成分が多いために、2色を掛け合わせた色相が紫顔料単独のインキで表現される場合よりも、彩度、明度ともに劣っている。そのため、プロセス4色(YMCK)インキを用いて「RGB」入稿データの「B」の領域を再現することが困難であった。
【0009】
また、特に、一般的に最終色として印刷される黄インキが不透明であると黄かぶり現象を起こし、下刷りのインキ各色へ与える影響が大きく、このことも、「RGB」入稿データの再現を難しくしている。したがって、黄インキはできる限り透明であり、他の色と刷り重ねた時に、濁りのない二次色、三次色が得られるインキであることが望ましい。
【0010】
これらを解決する手段として、特許文献1では高彩度の印刷物が得られる印刷方法として、5〜7色のインキセットを使用する印刷方法が開示されている。この印刷方法においては、インキセットとして、プロセス4色に橙、緑を加えた6色(ヘキサクロム印刷)からなるインキセットや、プロセス4色に橙、緑、紫を加えた7色(ハイファイ印刷)からなるインキセット等が用いられている。
【0011】
ヘキサクロム印刷においては、一次色のみならず、二次色、三次色の濁りを抑え、色再現領域を広げるための手段として、一部の色のインキに蛍光顔料を含有させる等の方法が取られている。しかしながら、この方法を用いた場合、印刷適性の劣化(転移不良、光沢低下等)や耐光性不足による印刷物の褪色等が生じてしまう。
【0012】
また、ハイファイ印刷においては、従来のプロセス4色では再現しきれない橙、緑、紫の3色相を補うために、これら3色のインキを追加した計7色の印刷方式を用いている。しかしながら、これらの方法においては、使用するインキの色数が6色、7色となり、印刷機の胴数が6胴以上である高価な多色印刷機を必要とし、また、6版以上の多色に色分解した版を必要とする。したがって、これらの方法を新たに始めるためには、巨額な設備投資と、高度の色分解技術、複雑な色調管理(印刷濃度、見当精度の管理)などが要求されるため、限られた範囲での使用に止まっている。
【0013】
非特許文献1〜3では、色再現領域の拡大を目的として、従来よりも印刷濃度を高濃度で印刷する方法を検討している。高濃度で印刷することで、平版印刷物においても写真のようなボリューム感、メリハリ感を得ることが可能となるが、従来のプロセスインキでは顔料成分の濁りの影響もあり印刷濃度を上げていくと早い段階で色相の変化が起きてくる。特に従来インキに使用している紅顔料には僅かに黄味成分が含まれ、藍顔料には僅かに赤味成分が含まれているため、濃度を上げることで紅は黄味に、藍は赤味に色相が変化していく。
【特許文献1】特開2001−260516号公報
【非特許文献1】木下 堯博:国際印刷大学校研究報告[5],2-6(2005)
【非特許文献2】木下 堯博:野間賞受賞記念講演,12-21(2003)
【非特許文献3】橋爪吉之:印刷雑誌,79[9],15-18(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、水無し平版印刷において、上記の従来技術における問題点のいずれかを解決するためになされたものである。すなわち本発明の課題は、ISO規格のジャパンカラー標準インキを印刷した場合よりも、演色領域(ガモット)を広げることができるプロセス4色の水無しインキを使用した印刷方法であり、ジャパンカラー標準インキを使用した印刷物よりも、より「RGB」の色再現領域に限りなく近い色領域を再現することのできる印刷方法を提供することである。また、本発明のさらに他の課題は、これらの印刷方法に好ましく使用することができるインキセット及びインキを提供すること、また、これらの印刷方法により印刷された印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち本発明は、(A)着色成分5〜30重量%、(B)バインダー樹脂20〜50重量%、及び(C)溶剤成分を含有し、(C)溶剤成分として、植物油類及び/または鉱物油類が、20〜70重量%を含有する水無し平版印刷用インキにおいて、着色成分(A)が、黄、紅、藍及び墨の色相を有する4色インキのセットから成り、黄顔料としてジスアゾイエロー系化合物を含有し、紅顔料としてローダミン系染料の金属レーキ化合物を含有し、藍顔料としてフタロシアニン系化合物を含有することを特徴とする水無し平版印刷インキ組成物に関するものである。
【0016】
また本発明は、ジスアゾイエロー系化合物として、C.I.ピグメントイエロー12またはC.Iピグメントイエロー13をインキの全重量に対して5〜15重量%含有し、濃度値1.85〜1.90の墨インキ上に濃度1.40〜2.10の範囲で刷り重ねた場合のL*値が17以下である黄インキを使用する上記記載の水無し平版印刷インキ組成物に関するものである。
【0017】
さらに、本発明は、ローダミン系染料の金属レーキ化合物として、ローダミン系染料の金属レーキ化合物として、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド81:1、C.I.ピグメントレッド81:2、C.I.ピグメントレッド81:3、C.I.ピグメントレッド81:4、C.Iピグメントバイオレット1、または、C.I.ピグメントレッド169をインキの全重量に対して15〜30重量%含有する紅インキを使用する上記記載の水無し平版印刷インキ組成物に関するものである。
【0018】
また本発明は、フタロシアニン系化合物として、C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4をインキの全重量に対して10〜25重量%含有する藍インキを使用する上記記載の水無し平版印刷インキ組成物に関するものである。
【0019】
さらには、上記記載のC.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4の比表面積が74m2/g以上である藍インキに関するものである。
【0020】
さらには、C.I.ピグメントグリーン7またはC.I.ピグメントグリーン36をインキの全重量に対して0.5〜2.0重量%含有する上記記載の藍インキに関するものである。
【0021】
また本発明は、バインダー樹脂(B)として、重量平均分子量が80000〜300000のロジン変性フェノール樹脂をインキの全重量に対して10〜40重量%含有することを特徴とする上記記載の水無し平版印刷インキ組成物に関するものである。
【0022】
また本発明は、溶剤成分(C)として、炭素数6〜30のα−オレフィンをインキの全重量に対して、0.5〜30重量%含有することを特徴とする上記記載の水無し平版印刷インキ組成物に関するものである。
【0023】
さらに、本発明は、上記の水無し平版印刷インキを使用した印刷において、
(a)黄インキとして、すなわち、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜480nmの波長領域が1〜20%、540nm〜700nmの波長領域での反射率が90〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする着色成分をインキの全重量に対して5〜15重量%含有する黄インキ、
(b)紅インキとして、すなわち、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜500nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、500nm〜560nmの波長領域での反射率が1〜20%、640nm〜700nmの反射率が90%〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする着色成分をインキの全重量に対して15〜30重量%含有する紅インキ、
および
(c)藍インキとして、すなわち、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、420nm〜530nmの波長領域の反射率が50〜100%、600nm〜700nmの反射率が1〜20%の反射スペクトルを有することを特徴とする着色成分をインキの全重量に対して10〜25重量%含有する藍インキ
であることを特徴とする水無し平版印刷方法に関するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明が提供する水無し平版インキ組成物を用いることにより、従来、ジャパンカラー標準インキの黄、紅、藍、墨プロセス4色に加えて、橙、緑、紫等を加えた6色、7色印刷で表現していたRGBの色再現領域を、ジャパンカラー標準インキよりも演色領域の広い黄、紅、藍、墨の4色で限りなく近づけることが可能となる。
【0025】
また、本発明では、印刷物の色再現領域を向上させる手段として蛍光顔料を使用していないため、印刷適性、印刷物の経時での褪色等を劣化させることなく、高彩度の印刷物を得ることができる。
【0026】
さらに、本発明では、製版工程での現像廃液、印刷工程での湿し水廃水の削減が可能である、地球環境保全、労働環境保全に対応した環境対応型インキを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0028】
本発明は、顔料と、合成樹脂、植物油、石油系溶剤とを必要に応じてステアリン酸アル
ミニウム、アルミキレート等のゲル化剤と共に加熱溶解したビヒクル成分と、耐摩擦剤等
の補助剤とからなる黄、紅、藍、墨の4色からなる平版インキを使用し、本発明のインキは、従来公知の方法によって製造することができる。
【0029】
本発明に使用するインキは、ISO規格のジャパンカラー標準用紙、例えば三菱製紙(株)製「特菱アート両面四六判/110kg」に印刷し、黄、紅、藍、墨の各色をグレタグマクベス社製SpectroEye(光源D50、2度視野、測定光学45°/0°、濃度基DIN16536、偏光フィルター無し、絶対白紙基準)にて測定した際の濃度値が、黄が1.30〜2.00、紅が1.40〜2.00、藍が1.40〜2.05、墨が1.60〜2.05の範囲内で単独でベタ印刷した場合、各色のグレタグマクベス社製SpectroEye(光源D50、2度視野、測定光学45°/0°、偏光フィルター無し、絶対白紙基準)にて測定したL*a*b*値が、黄インキで、L*:87〜95、好ましくは88〜93、a*:−4〜−12、好ましくは−5〜−10、b*:90〜110、紅インキで、L*:47〜55、好ましくは48〜54、a*:75〜83、好ましくは76〜82、b*:−14〜−20、好ましくは−15〜−19、藍インキで、L*:50〜58、好ましくは51〜57、a*:−40〜−46、好ましくは−41〜−44、b*:−45〜−53、好ましくは−46〜−52、墨インキで、L*:7〜15、好ましくは8〜15、a*:−1.5〜1.5、好ましくは−1〜1、b*:−1.5〜1.5、好ましくは−1〜1の範囲内になることを特徴とする。
【0030】
並びに、黄、紅及び藍インキから選択される2種をベタ刷り重ねした場合の各色のL*a*b*値、さらには、黄、紅及び藍インキ3色をベタ刷り重ねした場合のL*a*b*値が、紅インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:49〜56、a*:63〜70、b*:52〜68、藍インキ×黄インキの刷り重ねで、L*:45〜53、a*:−74〜−84、b*:23〜33、藍インキ×紅インキの刷り重ねで、L*:19〜31、a*:25〜40、b*:−60〜−70、さらには、藍インキ×紅インキ×黄インキ3色のベタ重ね刷りで、L*:17〜27、好ましくは18〜26、a*:−3〜−14、好ましくは−4〜−11、b*:−5〜5、好ましくは−3〜3の範囲内になることを特徴とする。
【0031】
次に、ジャパンカラーとは、ISO/TC130国内委員会が策定した印刷に関する標準色のことである。ジャパンカラー色再現印刷2001では、ISO12642パターン(928色、IT8ともいう。)の測色値(L*a*b*値)をデータで示している。このジャパンカラー色再現印刷2001を再現するための印刷条件として、商業オフセット印刷に関する国際規格ISO12647−2の標準条件を使用する。インキ及び印刷用紙は、日本国内で普通に使われているインキ、印刷用紙(ジャパンカラー2001では4種類の用紙について決められている)を使用する。
【0032】
ジャパンカラーで制定されているベタ標準測色値とは、正確には「JAPANCOLOR SOLID VALUE」であり、ベタ色の標準を示している。これは社団法人日本印刷産業連合会の協力のもと、代表的な印刷会社21社の社内標準濃度を計測する為のベタパッチの測色値を求めたものであり、用紙は各印刷会社が使用しているアート紙を使用している。この平均測定値(CIELAB値)を求め、その値を日本の印刷物の平均的ベタ色と考え、ジャパンカラー標準インキ及びジャパンカラー標準用紙を使用して印刷したサンプルがこの平均値に対して色差(ΔE)が最小になるような測色値を求めて、JAPANCOLOR SOLID VALUEとしたもので黄、紅、藍、墨、ブルー、グリーン、レッド、ホワイト(白紙)の8色に対して測色値が決められている。現在は、2000年に改定された第3版の「ジャパンカラー2000ベタ色標準測色値」が標準となっており、その値は、黄がL*:87.9、a*:−7.5、b*:91.5、紅が、L*:46,6、a*:75.1、b*:−4.4、藍が、L*:53.9、a*:−37.0、b*:−50.1、墨が、L*:13.2、a*:1.3、b*:1.9、ブルーが、L*:21.0、a*:20.0、b*:−51.0、グリーンが、L*:49.0、a*:−73.5、b*:25.0、レッドが、L*:46.5、a*:68.5、b*:48.0、ホワイトが、L*:93.0、a*:0.5、b*:0.4と定められている。測定条件は、光源D50、2度視野、測定光学45°/0°、ブラックバキング(ISO13655)に準拠し、許容色差範囲として、ΔE値が6以下と定められている。
【0033】
一般的なジャパンカラー標準インキ(例えば、東洋インキ製造(株)「TKハイユニティ各色」)を、ジャパンカラー標準用紙(例えば、三菱製紙(株)製「特菱アート両面四六判/110kg」)に印刷した場合の黄、紅、藍、及び墨の単色ベタ部のL*a*b*値、及びそれより計算したC値は、黄インキについて、L*:86、a*:−7、b*:92、C:92程度であり、紅インキについて、L*:45、a*:72、b*:−5、C:72程度であり、藍インキについて、L*:54、a*:−36、b*:−49、C:61程度であり、墨インキについては、L*:15.0、a*:1.5、b*:2.0、C:2.5程度である。
【0034】
また、ジャパンカラー標準用紙とは、次のようにして定められた日本の標準用紙である。まず、国内製紙メーカー6社のアート紙表面の光学特性平均値を、「ジャパン ペーパーの標準特性値」と規定した。その標準特性値に近い特性を有する2社のアート紙を、ジャパンカラー標準用紙と定めた。現在、ジャパンカラー標準用紙の光学特性は、白色度:80±5(%)、光沢度:75±2(%)、L*:93.0±3、a*:0.5±2、b*:0.4±2である。ジャパンカラー標準用紙は、オフセット印刷の工程管理を規定したISO規格の用紙タイプ1に相当する。
【0035】
「ジャパンカラー色再現印刷2001」では、国内のISO規格相当品であるアート紙、コート紙、マットコート紙、上質紙の4種類の用紙を用いている。アート紙としては、例えば、王子製紙(株)製「OK金藤N」、日本製紙(株)製「NPI特アート」、三菱製紙(株)製「特菱アート両面N」が挙げられる。コート紙としては、例えば、王子製紙(株)「OKトップコートN」、日本製紙(株)製「NPIコート」、三菱製紙(株)製「パールコート」が挙げられる。マットコート紙としては、王子製紙(株)製「OKトップコートマット」、日本製紙(株)製「ユーライト」、三菱製紙(株)製「ニューVマット」が挙げられる。上質紙としては、王子製紙(株)製「OKプリンス上質」、日本製紙(株)「ニューNPO上質」、三菱製紙(株)製「金菱」が挙げられる。
【0036】
本発明においては、濃度やL*a*b*値などのインキの特性を評価する際に、インキを印刷する用紙として、ISO規格のジャパンカラー標準用紙(例えば、三菱製紙(株)製「特菱アート両面四六版/110kg」)を用いることができる。なお、本発明の方法、又は、本発明のインキセット等を用いて、実際に平版印刷を行う際に用いる用紙は、ジャパンカラー標準用紙に限定されない。上述のアート紙、コート紙、マットコート紙、上質紙等のあらゆる用紙を用いることができる。好ましくは、アート紙である。
【0037】
本発明において、「濃度値」とは、ISO規格のジャパンカラー標準用紙(例えば、三菱製紙(株)製「特菱アート両面四六版/110kg」)に、黄、紅、藍及び墨のインキをベタ印刷し、黄、紅、藍及び墨の各色をグレタグマクベスSpectroEye(Gretag Macbeth社製)にて測定した際の濃度値をいう。
【0038】
色再現領域の表現方法としては、XYZ表色系(CIE1931表色系)、X10Y10Z10表色系(CIE1964表色系)、L*a*b*表色系(CIE1976)、ハンターLab表色系、マンセル表色系、L*u*v*表色系(CIE1976)等挙げられる。
【0039】
L*a*b*表色系では、色相に関係なく比較できる明るさの度合いとして「明度」をL*で表現し、L*が大きくなるほど色が明るく、小さくなるほど暗くなることを示している。また、各色によって異なる「色相」をa*、b*の値で示し、a*は赤(+)から緑(−)方向、そしてb*は黄(+)から青(−)方向を示し、各方向とも絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、0に近づくに従ってくすんだ色になることを示している。これによって一つの色を、L*、a*、b*を用いて数値化することが可能となる。L*、a*、b*が限りなく0に近づくと、無彩色且つ暗い色相、つまり理想的な黒になる。また「明度」「色相」とは別に、鮮やかさの度合いを数値化する方法として「彩度(C)」があり、以下の計算式にて求めることができる。
【0040】
【数1】


Cに関しても同様に、絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、値が小さくなるにつれてくすんだ色になることを示している。
【0041】
さらに、L*a*b*表色系で表された個々の色が持つ数値を利用して、微妙な色の違い(色差)も数値で表すことが可能になる。2つの色の色差(「△E」と表現)は、以下の計算式にて求めることができる。
【0042】
【数2】

△Eの絶対値が小さいほど2つの色が近似しており、△Eの絶対値が大きいほど2つの色が異なっている。
【0043】
L*a*b*表色系を利用した演色領域(ガモット)を求めるためには、まず、黄、紅、藍、墨及びその他のインキを用いて、ISO12642チャート(IT8チャート)などのカラーチャートを印刷し、チャートの各色(ISO12642チャートの場合928色)のL*a*b*値を分光測定器(Gretag Macbeth社製 Spectro Lino)を用いて測定し(測定条件:光源D50、2度視野、測定光学45°/0°、絶対白紙条件)、測定結果からGretagMacbeth社のProfileMakerを使用してICCプロファイルを作成する。インキを印刷する用紙としては、ISO規格のジャパンカラー標準用紙(例えば、三菱製紙(株)製「特菱アート両面四六版/110kg」)を用いることができる。
【0044】
次いで、作成したICCプロファイルを用いて、Adobe社のPhotoshopにより、RGB画像の色再現可能領域を画面上で表現したり、または、CHROMIX社のColorThinkを使用して3Dガモット図(L*a*b*表色系)を作成することができる。
【0045】
一つの印刷物(印刷物以外のカラースペースも含む)で表現できる全ての色再現領域を
演色領域(ガモット)と呼ぶが、ガモットを表す最も簡便な方法として、a*を横軸、b*縦軸とした2次元空間に、単色ベタ部(黄、紅、藍)、及び、単色ベタ刷り重ね部(黄×紅、紅×藍、藍×黄)計6色のa*対b*の値を、プロットした六角形の面積で表現することが可能である。ガモットの面積が広い程、色再現領域が広いことを示している。
【0046】
本発明で使用される印刷方法としては、従来公知の水無し平版印刷方法が用いられる。例えば、水無しオフセット枚葉印刷、水無しオフセット輪転印刷などが挙げられる。
【0047】
本発明で使用されるインキセットとしては、従来公知の平版印刷インキが用いられる。例えば、酸化重合型インキ、ヒートセット型インキ、浸透乾燥型インキなどが挙げられる。
【0048】
また、印刷に使用する版についても従来公知の製版技術が用いられる。例えば、振幅変調スクリーニング(AMスクリーニング)法により形成した版、周波数変調スクリーニング(FMスクリーニング)法により形成した版などが挙げられる。
【0049】
本発明で使用される着色成分(A)としては、黄、紅、藍及び墨の色相を有する有機顔料、無機顔料及び染料が挙げられ、インキの全重量に対して5〜30重量%含有することが好ましい。
【0050】
本発明で使用される黄インキに関し、濃度値1.85〜1.90の範囲内で印刷した墨
インキ上に、濃度1.40〜2.10の範囲で刷り重ねした場合のL*値が17を超えな
い透明性を有していれば、二次色、三次色の重ね刷りをした際の下刷りインキへの影響が
少なく、良好な色再現領域を得ることができる。さらには、補色としてC.I.ピグメントイエロー83を上記黄顔料の全重量に対して0.5〜10重量%、好ましくは2〜5重量%加えて使用することも可能である。
【0051】
本発明で使用される黄顔料としては、C.I.ピグメントイエロー12またはC.Iピグメントイエロー13をインキの全重量に対して5〜15重量%使用することが好ましい。
【0052】
本発明で使用される紅顔料としては、ローダミンB、ローダミン3G、ローダミン6Gなどのローダミン系染料のモリブデン、タングステン金属レーキ化合物、銅鉄コンプレクスレーキ化合物等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド81:1、C.I.ピグメントレッド81:2、C.I.ピグメントレッド81:3、C.I.ピグメントレッド81:4、C.Iピグメントバイオレット1、または、C.I.ピグメントレッド169をインキの全重量に対して15〜30重量%含有することが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いることもできる。
【0053】
本発明で使用する藍顔料である銅フタロシアニン系化合物は、結晶多型(同質異晶)を示す物質であり、その結晶構造の違いによってα、β、γ、ε、π、τ、ρ、χ、R型などに分類されるが、結晶安定性、分散性が優れているβ型を使用することが好ましく、さらには比表面積が74m2/g〜100m2/gの微細なβ型銅フタロシアニンであることが好ましい。74m2/gよりも小さいと良好な色再現ができなくなる。また100m2/gを超えてしまうと顔料が凝集しやすくなり、分散性が困難となってしまう。
【0054】
本発明においては、上記銅フタロシアニン化合物の全重量に対し、補色としてフタロシアニン分子のベンゼン環上の水素原子をハロゲン化合物で置換したハロゲン化銅フタロシアニン化合物を5〜15重量%より好ましくは8〜11重量%加えて使用することも可能であり、これにより、藍インキ単色の色再現領域を損なうことなく、黄及び紅インキと刷り重ねた際の緑及び紫の色再現領域を広げることが可能になる。
【0055】
具体的には、C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4をインキの全重量に対して10〜25重量%含有することが好ましく、さらには、補色としてC.I.ピグメントグリーン7またはC.I,ピグメントグリーン36をインキの全重量に対して0.5〜2.0重量%加えて使用することも可能である。
【0056】
本発明で使用する緑顔料としては、ハロゲン化されたフタロシアニン系化合物があげられる。最も多く使われているものは塩素化銅フタロシアニンであり、他に塩素の変わりに臭素の入ったものや、塩素と臭素を含むもの、またさらには、銅を含まない無金属フタロシアニンブルーなどがある。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いることもできる。
【0057】
墨顔料としては、カーボンブラック、例えばC.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。カーボンブラックの特性として、粒子径、窒素吸着比表面積、着色力、DBP吸油量、揮発分、pH値、PVC黒度などの物理化学的性質が挙げられるが、一般的なカーボンブラックの特徴として、窒素吸着比表面積が大きく、つまり粒子径が小さく、また、DBP吸油量が小さいカーボンブラックほど、高濃度且つ高光沢のインキが得られるとされている。逆に、粒子径が大きく、DBP吸油量が大きいカーボンは、表面平滑性の低い低級紙や新聞用紙において高い印刷濃度を再現できるが、アート紙、コート紙などの塗工紙などでは、光沢の劣化が著しい。
【0058】
通常の平版印刷インキ(低級紙用インキを除く)に使用するカーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積が80m2/g以上、粒子径が約30nm以下、DBP吸油量が100cm3/100g以下のカーボンを使用している。
【0059】
本発明で使用するカーボンブラックとしては、C.I.ピグメントブラック7をインキの全重量に対して10〜30重量%、好ましくは15〜25重量%、より好ましくは16〜20重量%含有することが好ましい。含有量が30重量%以上を超えると、分散性、流動性が著しく劣化し、10重量%以下であると印刷に十分な濃度が得なれない。
【0060】
本発明では、墨インキの黒色感を出す方法として、上記カーボンブラックの組み合わせに補色としてアルカリブルーレーキ化合物をインキの全重量に対して4〜10重量%含有することを特徴とする。アルカリブルーレーキ化合物としては、C.I.ピグメントブルー18、C.I.ピグメントブルー19、C.I.ピグメントブルー56、C.I.ピグメントブルー57、C.I.ピグメントブルー61などが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いることもできる。4重量%以下であると十分な黒色感が得られず、10重量%以上を超えると、色相がブルーとなり墨色として十分な色調とならない。
【0061】
また、本発明において例示した着色成分(染料、顔料)は、1種で各インキに用いても良いが、2種類以上混合して使用しても良い。
【0062】
本発明に用いられるバインダー樹脂(B)としては、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、石油樹脂変性アルキッド樹脂、ロジンエステル等が挙げられ、それらは任意に単独または2種類以上を組み合わせて使用することが可能であり、インキの全重量に対して20〜50重量%含有することが好ましい。
【0063】
さらに本発明では、重量平均分子量80000〜300000のロジン変性フェノール樹脂をインキの全重量に対して10〜40重量%含有することが好ましい。分子量80000以下では、ワニスの凝集力が不足し、また含有量が10重量%未満であるとインキの凝集力が不足する為、インキとして十分な地汚れ耐性が得られない。一方、分子量が300000を超えると、また含有量が40重量%を超えるとインキとしての流動性が不十分となり、印刷機上でのインキ転移性が劣化する為好ましくない。
【0064】
本発明で用いられる溶剤成分(C)としては、植物油類及び/または鉱物油類をインキの全重量に対して20〜70重量%含有することが好ましい。
【0065】
本発明における植物油類とは、植物油ならびに植物油由来の化合物であり、グリセリンと脂肪酸とのトリグリセライドにおいて、少なくとも1つの脂肪酸が炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する脂肪酸であるトリグリセライドと、それらのトリグリセライドから飽和または不飽和アルコールとをエステル反応させてなる脂肪酸モノエステル、あるいは植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類が挙げられる。
【0066】
植物油としては、たとえばアサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、桐油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油などが例示できるとともにそれらの熱重合油および酸素吹き込み重合油なども使用できる。また、本発明ではこれら植物油を単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0067】
脂肪酸モノエステルは上記植物油とモノアルコールとをエステル交換したものや植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステルである。モノアルコールの代表的なものは、メタノール、エタノール、n−またはiso−プロパノール、n,secまたはtet−ブタノール、へプチノール、2−エチルヘキサノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール等の飽和アルコール、オレイルアルコール、ドデセノール、フイセテリアルコール、ゾンマリルアルコール、ガドレイルアルコール、11−イコセノール、11−ドコセノール、15−テトラコセノール等の不飽和脂肪族系アルコールが挙げられる。
【0068】
エーテル類として代表的なものは、ジーn−オクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジへプチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジデシルエーテル、ノニルヘキシルエーテル、ノニルへプチルエーテル、ノニルオクチルエーテル等が挙げられる。
【0069】
また、本発明に用いられる鉱物油類は、芳香族炭化水素の含有率が1%以下でアニリ
ン点が70〜110℃、沸点が230℃〜350℃好ましくは240〜350℃の範囲にある石油系溶剤である。アニリン点が70℃未満の場合には、樹脂を溶解させる能力が高すぎる為インキの粘度が低くなり過ぎ地汚れ耐性が十分でなくなる。また、110℃を超える場合には樹脂の溶解性が乏しい為インキの流動性が劣り、その結果、光沢、着肉等が悪くなり好ましくない。沸点が230℃未満に場合には、印刷機上でのインキ溶剤の蒸発が多くなり、インキの流動性の劣化により、インキがローラー、ブランケット、版等への転移性が悪くなり好ましくない。また、350℃を超える場合には、ヒートセット型のインキの乾燥が劣る為、好ましくない。
【0070】
さらに本発明では、炭素数6〜30、好ましくは炭素数12〜20のα−オレフィンをインキの全重量に対して0.5〜30重量%、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%含有することが好ましい。例えば、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラエイコセン、1−ヘキサエイコセン、1−オクタエイコセン、1−トリアコンテン等、及びその混合物が挙げられる。含有量が0.5重量%未満では地汚れ耐性が不足する為に好ましくなく、また30重量%を超える場合にはインキの転移性、着肉性が悪くなりやすく好ましくない。本発明のα−オレフィンを水無し平版印刷インキ中に所定量含有させることにより、水無し平版の非画線部からのインキの剥離性が非常に良好になり、インキとしての地汚れ耐性が向上するばかりでなく、インキ転移性、着肉性の劣化も少ないので好適である。
【0071】
さらに、本発明の水無し平版インキ組成物には、必要に応じてゲル化剤、顔料分散剤、金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤、多価アルコールなどの添加剤を適宜使用することができる。
【実施例】
【0072】
次に具体例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら記載実施例に限定されるものではない。なお、以下の記述の部は重量部、%は重量%を表す。
【0073】
[ロジン変性フェノール樹脂の製造例]
(ロジン変性フェノール樹脂A)
撹拌機、冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコにP−オクチルフェノール1000部
、35%ホルマリン850部、93%水酸化ナトリウム60部、トルエン1000部を加
えて、80〜90℃で6時間反応させた。その後6N塩酸125部、水道水1000部の塩酸溶液を添加し、撹拌、静置し、上層部を取り出し、不揮発分49%のレゾールタイプフェノール樹脂のトルエン溶液2000部を得て、これをレゾール液Aとした。
【0074】
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、上記で製造したレゾール液A1800部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン110部を仕込み、250℃で10時間反応させ、酸価20以下として、重量平均分子量50000、新日本石油化学(株)AFソルベント6号での白濁温度80℃、樹脂粘度10.0Pa・sのロジン変性フェノール樹脂Aを得た。
【0075】
(ロジン変性フェノール樹脂B)
撹拌機、冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコにP−オクチルフェノール720部、P−ドデシルフェノール375部、パラホルムアルデヒド290部、93%水酸化ナトリウム60部、キシレン800部からなるを加えて、80〜90℃で5時間反応させた。その後6N塩酸125部、水道水200部を加えて、撹拌、静置し、上層部を取り出し、不揮発分63%のレゾールタイプフェノール樹脂のキシレン溶液2000部を得て、これをレゾール液Bとした。
【0076】
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン600部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、上記で製造したレゾール液B770部を添加し、トルエンを除去しながら220℃で4時間反応させた後、グリセリン67部を仕込み、250℃で10時間反応させ、酸価25以下として、重量平均分子量90000、新日本石油化学(株)AFソルベント6号での白濁温度90℃、樹脂粘度18.0Pa・sのロジン変性フェノール樹脂Bを得た。
【0077】
尚、白濁温度は新日本石油(株)製AFソルベント6の10%希釈状態のものをNOVOCONTROL社製、CHEMOTORONICにて測定。樹脂粘度は、樹脂/アマニ油=1/2の重量比の混合物を180〜200℃で加熱攪拌溶解して得たワニスのコーンプレート型粘度計による25℃での粘度値である。
【0078】
[ワニス製造例]
(ワニス製造例1)
ロジン変性フェノール樹脂A 42部、大豆油33部、AFソルベント6号(新日本石油化学(株)製溶剤)24部、ALCH(川研ファインケミカル(株)製ゲル化剤)1.0部を190℃で1時間加熱撹拌して、ワニスAを得た。
【0079】
(ワニス製造例2)
ロジン変性フェノール樹脂B 42部、大豆油15部、ダイアレン168(三菱化学(株)製 1−ヘキサデセン、1−オクタデセン混合物)20部、AFソルベント6号(新日本石油化学(株)製溶剤)22.5部、ALCH(川研ファインケミカル(株)製ゲル化剤)0.5部を190℃で1時間加熱撹拌して、ワニスBを得た。
【0080】
[インキ実施例](黄インキ)
表1のような配合にてC.I.ピグメントイエロー12(東洋インキ製造(株)製LI
ONOL YELLOW 1235−P)をニーダー中で温度75℃の条件下、ワニスA60部を徐々に添加して混練して一次脱水を行った。次にニーダー温度100℃〜120℃、減圧度76mmHgの条件下で1時間バキュームし、ベースインキ中の水分を0.5%以下になるように二次脱水を行った。脱水後、ワニスB、AFソルベント6号を添加して混練して希釈し、ニーダーより未分散ベースインキを取り出した。取り出したベースインキをロール温度60℃の3本ロールを用いて、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で顔料の粒径が7.5ミクロン以下になるまで練肉し、黄のベースインキ1を得た。次いで、ベースインキ1に対して、表2の配合でワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し黄インキ1を得た。
【0081】
[インキ実施例](紅インキ)
表1の配合にてC.I.ピグメントレッド81(猪名川顔料(株)製109N FastPink)をワニスA、ワニスB、AFソルベント6号と混合し、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で顔料の粒径が7.5ミクロン以下になるまで練肉、紅のベースインキ2を得た。次いで、このベースインキ2に対して、表2の配合で大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し紅インキ2を得た。
【0082】
[インキ実施例](紅インキ)
表1の配合にてC.I.ピグメントレッド169(BASF製Fanal PinkD4810)をワニスA、ワニスB、AFソルベント6号と混合し、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で顔料の粒径が7.5ミクロン以下になるまで練肉、紅のベースインキ3を得た。次いで、このベースインキ3に対して、表2の配合で大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し紅インキ3を得た。
【0083】
[インキ実施例](紅インキ)
表2の配合にて紅のベースインキ2と紅のベースインキ3を混合し、次いでワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し紅インキ4を得た。
[インキ実施例](藍インキ)
表1の配合にて、C.I.ピグメントブルー15:3(東洋インキ製造(株)製LIO
NOL BLUE GLA−SD:比表面積74.625m2/g)をワニスA、ワニスB、AFソルベント6号と混合し、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で顔料の粒径が7.5ミクロン以下になるまで練肉、藍のベースインキ4を得た。次いで、このベースインキ4に対して、表2の配合でワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し藍インキ5を得た。
【0084】
[インキ実施例](藍インキ)
表1の配合にてC.I.ピグメントグリーン7(東洋インキ製造(株)製LIONOL GREEN YS2A)をワニスA、ワニスB、AFソルベント6号と混合し、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で顔料の粒径が7.5ミクロン以下になるまで練肉したベースインキ5を用い、表2の配合にて藍ベースインキ4とベースインキ5とを混合後、さらにワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し、藍インキ6を得た。
【0085】
[インキ実施例](墨インキ)
表1の配合にてC.I.ピグメントブラック7(三菱化学(株)製ミツビシカーボンMA11)をワニスA、ワニスB、AFソルベント6号と混合し、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で顔料の粒径が7.5ミクロン以下になるまで練肉、墨のベースインキ6を得た。次いで、このベースインキ6に対して、表2の配合でアルカリブルートナー(森村ケミカル(株)製MT−15Nコンパウンド:C.I.ピグメントブルー61の38.5重量%品)、ワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し墨インキ7を得た。
【0086】
[インキ比較例](黄インキ)
表1のような配合にてC.I.ピグメントイエロー12(東洋インキ製造(株)製LI
ONOL YELLOW 1229−P)をニーダー中で温度75℃の条件下、ワニスA60部を徐々に添加して混練して一次脱水を行った。次にニーダー温度100℃〜120℃、減圧度76mmHgの条件下で1時間バキュームし、ベースインキ中の水分を0.5%以下になるように二次脱水を行った。脱水後、ワニスB、AFソルベント6号を添加して混練して希釈し、ニーダーより未分散ベースインキを取り出した。取り出したベースインキをロール温度60℃の3本ロールを用いて、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で顔料の粒径が7.5ミクロン以下になるまで練肉し、黄のベースインキ7を得た。次いで、ベースインキ7に対して、表2の配合でワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し黄インキ8を得た。
【0087】
[インキ比較例](紅インキ)
黄インキと同様に、表1の配合にてC.I.ピグメントレッド57:1(東洋インキ製造(株)製LIONOL RED 6B 4240−P)を用い、紅のベースインキ8を得た。次いで、ベースインキ8に対して、表2の配合でワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し紅インキ9を得た。
【0088】
[インキ比較例](藍インキ)
表1の配合にてC.Iピグメントブルー15:3(東洋インキ製造(株)製LIONOL BLUE FG7330:比表面積71.750m2/g)を用い、藍のベースインキ9を得た。次いで、ベースインキ9に対して、表2の配合でワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し藍インキ10を得た。
【0089】
[インキ比較例](墨インキ)
表2の配合にて墨のベースインキ6に対して、アルカリブルートナー(森村ケミカル(株)製MT−15Nコンパウンド:C.I.ピグメントブルー61の38.5重量%品)、ワニスB、大豆油、溶剤、コンパウンド、金属ドライヤー、乾燥抑制剤を添加し墨インキ11を得た。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
黄インキの透明性の評価については、以下の試験法で評価した。
【0093】
濃度値1.85〜1.90の範囲内で印刷した墨インキ(東洋インキ製造(株)製アクワレスエコーネオ墨)上に、濃度1.40〜2.10の範囲で黄インキを刷り重ねし、L*を測定した。結果を表3に示す。実施例の黄インキは、濃度値を2.20まで上げてもL*が17を越えず、下刷りの墨インキに影響を与え難く、透明性に優れているといえる(L*は値が小さいほど黒く、大きくなるほど白くなることを示している)。一方、比較例はL*が高く、上刷りの黄インキが不透明であるために下刷りの墨インキの黒さを阻害してしまっていることがわかる。
【0094】
【表3】

【0095】
尚、比表面積については、島津製作所製流動式比表面積測定装置「フローソーブII」を用いて測定した表面積より以下の式により算出した値を比表面積と定義し記載した。

比表面積(m2/g)=表面積(m2)/粉末質量(g)
【0096】
実施例及び比較例のインキを印刷した際の濃度値及びL*a*b*値の測定結果を表4に記す。尚、濃度値は黄が1.30〜2.00、紅が1.40〜2.00、藍が1.40〜2.05、墨が1.60〜2.05の範囲内で任意に変化させ、その際のL*a*b*値の変化を調査した。
【0097】
印刷条件を以下に記す。
印刷機 :ハイデルベルグスピードマスター 菊全4色機(ハイデルベルグジャパン
(株))
用紙 :特菱アート両面 110Kg(三菱製紙(株))
版 :東レ(株)製 水無し平版用CTP版 VG5
印刷速度:10000枚/時
濃度 :SpectroEye(Gretag Macbeth社製、光源D50、2
度視野、測定光学45°/0°、濃度基準DIN16536、偏光フィルター無し、絶
対白紙基準)にて印刷物の単色(黄、紅、藍、墨)ベタ部の濃度値を測定
測色 :SpectroEye(Gretag Macbeth社製、光源D50、2
度視野、測定光学45°/0°、偏光フィルター無し、絶対白紙基準)にて印
刷物の単色ベタ部(黄、紅、藍、墨)のL*、a*、b*値を測定。C値は
a*及びb*から下記の計算式にて求めた。
【0098】
【数3】

【0099】
【表4】

【0100】
黄、紅、藍の3色については、比較例と比べて実施例のC値が大きく、印刷物の彩度が高い。また、墨については、比較例と比べて実施例のL*値が低く、また、C値も0に近いことから墨インキとしての黒色感に優れているといえる。
【0101】
さらには、実施例及び比較例のインキの中から表5の組み合わせにて4色印刷テストを実施し、各インキの2次元ガモット図による色再現領域の評価行った。
【0102】
尚、濃度値は、黄:1.40〜1.44、紅:1.52〜1.56、藍:1.63〜1.67、墨:1.85〜1.90の範囲内になるようベタ濃度を調整して印刷し、上記と同じ条件でSpectroEyeを用いて印刷物の単色ベタ部(黄、紅、藍、墨)、及び、単色ベタ刷り重ね部(2色重ね:黄×紅、紅×藍、藍×黄、3色重ね:藍×紅×黄、4色重ね:墨×藍×紅×黄)のL*、a*、b*値を測定した。
【0103】
【表5】

【0104】
結果を表6に示す。得られた結果から、a*を横軸、b*縦軸とした2次元空間に、各a*、b*値をプロットし、2次元のガモットで比較した。(表7)実施例1〜6の組み合わせは全て比較例よりも色再現領域が広い。また、3色重ねでは、比較例と比べて実施例のL*値が高く、墨が加わった4色重ねでは実施例のL*値が低くなることからも墨インキの黒色感が比較例と比べ優れていることが分かる。
【0105】
【表6】



【0106】
【表7】

【0107】
また、得られた分光反射率曲線を表9に示す。比較例の従来インキに比べ、実施例のインキの方が理想の分光反射率曲線に近くなっており、完全反射しなければならない部分の不必要吸収が少なくなっている。そのため、インキの濁り成分が減少し、色再現領域が広がっている。
【0108】
【表8】



【0109】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)着色成分5〜30重量%、(B)バインダー樹脂20〜50重量%、及び(C)溶剤成分を含有し、(C)溶剤成分として、植物油類及び/または鉱物油類が、20〜70重量%を含有する水無し平版印刷用インキにおいて、着色成分(A)が、黄、紅、藍及び墨の色相を有する4色インキのセットから成り、黄顔料としてジスアゾイエロー系化合物を含有し、紅顔料としてローダミン系染料の金属レーキ化合物を含有し、藍顔料としてフタロシアニン系化合物を含有することを特徴とする水無し平版印刷インキ組成物。
【請求項2】
ジスアゾイエロー系化合物として、C.I.ピグメントイエロー12またはC.Iピグメントイエロー13をインキの全重量に対して5〜15重量%含有し、濃度値1.85〜1.90の墨インキ上に濃度1.40〜2.10の範囲で刷り重ねた場合のL*値が17以下である黄インキを使用する請求項1記載の水無し平版印刷インキ組成物。
【請求項3】
ローダミン系染料の金属レーキ化合物として、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド81:1、C.I.ピグメントレッド81:2、C.I.ピグメントレッド81:3、C.I.ピグメントレッド81:4、C.Iピグメントバイオレット1、または、C.I.ピグメントレッド169をインキの全重量に対して15〜30重量%含有する紅インキを使用する請求項1記載の水無し平版印刷インキ組成物。
【請求項4】
フタロシアニン系化合物として、C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4をインキの全重量に対して10〜25重量%含有する藍インキを使用する請求項1記載の水無し平版印刷インキ組成物。
【請求項5】
C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4の比表面積が74m2/g以上の請求項4記載の藍インキ。
【請求項6】
C.I.ピグメントグリーン7またはC.I.ピグメントグリーン36をインキの全重量に対して0.5〜2.0重量%含有する請求項4記載の藍インキ。
【請求項7】
(B)バインダー樹脂として、重量平均分子量が80000〜300000のロジン変性フェノール樹脂をインキの全重量に対して10〜40重量%含有することを特徴とする請求項1記載の水無し平版印刷インキ組成物。
【請求項8】
溶剤成分(C)として、炭素数6〜30のα−オレフィンをインキの全重量に対して、0.5〜30重量%含有することを特徴とする請求項1記載の水無し平版印刷インキ組成物。
【請求項9】
請求項1記載の水無し平版印刷インキを使用した印刷において、
(a)黄インキとして、すなわち、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜480nmの波長領域が1〜20%、540nm〜700nmの波長領域での反射率が90〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする着色成分をインキの全重量に対して5〜15重量%含有する黄インキ、
(b)紅インキとして、すなわち、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、400nm〜500nmの波長領域での最大反射率が50%〜100%、500nm〜560nmの波長領域での反射率が1〜20%、640nm〜700nmの反射率が90%〜100%の反射スペクトルを有することを特徴とする着色成分をインキの全重量に対して15〜30重量%含有する紅インキ、
および
(c)藍インキとして、すなわち、400nm〜700nmの波長領域において、最大反射率を100%としたときに、420nm〜530nmの波長領域の反射率が50〜100%、600nm〜700nmの反射率が1〜20%の反射スペクトルを有することを特徴とする着色成分をインキの全重量に対して10〜25重量%含有する藍インキ
であることを特徴とする水無し平版印刷方法。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか記載の水無し平版印刷インキを用いて印刷した印刷物。




【公開番号】特開2008−260803(P2008−260803A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102796(P2007−102796)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】