説明

平版印刷版の処理方法

【課題】現像液の塗布量が60ml/m以下の場合であっても、インキ汚れが少なくかつ高い耐刷力を有する平版印刷版が得られ、かつ製版作業性の高い平版印刷版の製版方法を提供する。
【解決手段】銀塩拡散転写法平版印刷版の版面に1平方メートル当たり60ml以下の現像液を塗布して現像する平版印刷版の製版方法において、該現像液が下記一般式(1)で表される化合物を含有し、かつプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールから選ばれる化合物の少なくとも一つを含有することを特徴とする平版印刷版の製版方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀錯塩拡散転写法を利用する平版印刷版の製版方法に関するものであり、特に塗布現像を用いた製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版は、水とインキの両方を版面に供給して、画像部は着色性のインキを、非画像部には水を選択的に受け入れ、該画像上のインキを例えば紙などの被印刷体に転写させることによって印刷がなされる。平版印刷版には、画像の形成方法等によって、種々の方式があるが、その中でも製版が比較的簡単な方法として銀錯塩拡散転写法を用いた平版印刷版が知られている。
【0003】
銀錯塩拡散転写法を用いた平版印刷版(以下銀塩拡散転写法平版印刷版と称す)、特にハロゲン化銀乳剤層上に物理現像核層を有する平版印刷版は、例えば、米国特許第3,728,114号明細書、米国特許第4,134,769号明細書、米国特許第4,160,670号明細書、米国特許第4,336,321号明細書、米国特許第4,501,811号明細書、米国特許第4,510,228号明細書、米国特許第4,621,041号明細書等に記載されている。
【0004】
上記のごとき銀塩拡散転写法平版印刷版においては、露光されたハロゲン化銀結晶が現像処理により乳剤層中で化学現像を生起して黒化銀となり、親水性の非画像部を形成する。一方、未露光のハロゲン化銀結晶は、現像液中の銀錯塩形成剤により可溶化し表面の物理現像核層まで拡散、さらに物理現像核上に現像主薬の還元作用によっていわゆる溶解物理現像を生じ、インキ受容性の画像銀として析出する。
【0005】
このような銀錯塩拡散転写法における製版処理方法は、具体的には、露光後に多量の現像液を貯溜した現像槽中を通過させた後、ローラー間を通過させて版面上に残る現像液を絞り取り、さらに版面のpHを整えるために中和液槽中を通過させ、現像液同様版面上に残る中和液を取り除く方法、いわゆる浸漬現像方式が長く一般的であった。
【0006】
しかし、上記のような製版処理方法では、製版処理量の多い使用業者では現像液の廃液量が非常に多くなり、これら廃液の保管、処理等のために環境面においても、経済的側面においても使用業者にとって大きな負担であった。また、多数枚処理による現像液の疲労、例えばpHの低下、スラッジの発生等欠点を有していた。
【0007】
これらの問題を改良するための製版処理方法として、特開昭48−76603号公報、同昭57−115549号公報、米国特許第5,398,092号明細書等には、平版印刷版の版面に現像液を塗布供給して製版する塗布現像方式、国際公開第95/18400号パンフレットには非常に小型の現像槽に瞬間的に浸漬しながら現像液を塗布する塗布現像方式が開示されている。
【0008】
塗布現像方式は、はじめに版面に塗布供給した後には新たな現像液が補給されず、しかも現像液の廃棄量を減少するために現像液の塗布量を少なくすると、現像液塗布量の僅かなフレによって、化学現像と物理現像のバランスが崩れ易くなり、浸漬現像方式に比べて、十分な耐刷力が得られにくいと言う欠点を本質的に内包している。加えて、塗布現像における重大な問題は、現像液の温度管理が極めて困難なことである。そのため平版印刷版を加熱するローラーを用いたり、現像部周辺の温度を一定にする手段等が講じられたりするが、現像液の水が蒸発し、次第に現像液の組成が変動して、上記欠点が益々大きくなるという問題も有している。
【0009】
塗布現像方式に関するこのような問題点は、もちろん、塗布量を増やすことによって改善することは可能であるが、塗布量を増やすと、廃液量も増え、塗布現像方式の最大の利点である廃液量の減少という特徴を損なうことになる。従って、特開平9−244198号公報、特開平10−282674号公報(特許文献1)等に記載があるように、塗布現像方式の利点を生かすためには、平版印刷版の版面に塗布する現像液の量は60ml/m以下にすることが求められている。
【0010】
特に少量の現像液を塗布することによって発生する上記のような欠点を克服するために、特開平10−282674号公報において現像液の成分にチオエーテル化合物を含有させる製版方法が開示されている。この方法によれば、60ml/m以下の少量の現像液を平版印刷版の版面に塗布供給して現像処理を行う塗布現像方式において、安定的に高耐刷力で地汚れのない印刷版を得ることができる。
【0011】
上記の製版方法によれば塗布現像方式による現像処理を安定的に行うことができる一方で、安定的に製版を行うためには未だに解決されていない問題がある。即ち、塗布現像方式では少ない液量を取り扱うために、現像液の水分が蒸発してその成分が結晶化しやすく、特に長期間の使用により結晶化が進行すると、安定的に製版を行う上で様々な問題が生じる。例えば塗布部分に結晶が発生すると現像液の塗布が均一に行われなれずに均一な製版物が得られないという問題が発生する。また結晶の成長によって現像液のパイプがつまったり、搬送ローラーやギアが固着したりすることで現像装置に負荷がかかり装置の故障の原因となる。これらの問題は、チオエーテル化合物を含有する現像液において特に顕著であった。従って、結晶の発生が酷くなる前に装置を洗浄して結晶を取り除く作業が必要であり、このようなメンテナンス作業は製版作業の効率を著しく低下させていた。
【0012】
一方、銀錯塩拡散転写法における製版方法において、塗布現像方式による結晶化の問題を克服する方法として、特開平10−288840号公報(特許文献2)にはグリセリンまたはその誘導体、またはポリオキシエチレングリコールの誘導体を現像液に含有させる製版方法が開示されている。しかしこの方法においても、数日間現像装置を停機した場合には、結晶化を抑制する効果が十分でなく、特にチオエーテル化合物を含有する現像液においてはその効果は満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−282674号公報
【特許文献2】特開平10−288840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、銀塩拡散転写法を用いた平版印刷版の製版方法において、塗布量が60ml/m以下の場合であっても、インキ汚れが少なくかつ高い耐刷力を有する平版印刷版が得られる塗布現像方式の製版方法を提供することであり、かつ現像液の結晶化が十分抑制され、そのことによって製版作業性の高い製版方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
銀塩拡散転写法を用いた平版印刷版の版面に1平方メートル当たり60ml以下の現像液を塗布して現像する平版印刷版の製版方法において、該現像液が下記一般式(1)で表される化合物を含有し、かつプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールから選ばれる化合物の少なくとも一つを含有することを特徴とする平版印刷版の製版方法によって本発明の課題は達成された。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、nは1以上の整数を表し、RとRはそれぞれアルキル基又は置換アルキル基を表し、RとRとは同一でも異なっていても良い。Rは他の2価基が介在しても良いアルキレン基を表す。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、塗布量が60ml/m以下の場合であっても、インキ汚れが少なくかつ高い耐刷力を有する平版印刷版が得られる塗布現像方式の製版方法を提供することができ、かつ1ヶ月以上の長期間にわたってメンテナンス作業の必要のない製版方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明に用いられるチオエーテル化合物は、チオエーテル結合部位を2個以上含有することを特徴とし、下記一般式(1)で表される。
【0020】
【化2】

【0021】
式中、nは1以上の整数を表し、RとRはそれぞれアルキル基又は置換アルキル基を表し、RとRとは同一でも異なっていても良く環を形成していても良い。Rは他の2価基が介在しても良いアルキレン基を表す。
【0022】
本発明において一般紙(1)で表される化合物は、水溶性を高めるためにRまたはRの少なくとも一つは、親水性基で置換されていることが好ましい。親水性基の例としては、アミノ基、アミド基、アンモニウム基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、カルボキシル基等を挙げることができる。また、RとRが環を形成している場合、エーテル基のような親水性基で連結していることが好ましい。
【0023】
は他の二価基が介在しても良いアルキレン基を表す。アルキレン基の間に介在することができる二価基としては、エーテル基、アミド基、スルホンアミド基などである。チオエーテル結合を形成する硫黄原子同士は相互作用して本発明の効果を発現するので、極端に離れていない方がよい。Rにおける硫黄原子間の原子数は、好ましくは10以下、より好ましくは7以下である。
【0024】
nは1以上の整数を表し、好ましくは1から4である。またnが2以上の場合、各々のRは同一であっても異なっていても良い。
【0025】
本発明に用いられる一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
【化3】

【0027】
一般式(1)で表される化合物は銀錯塩形成剤として機能し、未露光のハロゲン化銀結晶を可溶化することによって溶解物理現像によるインキ受容性の画像銀形成に関与する。銀錯塩形成剤として一般式(1)で表される化合物を使用することで、塗布現像においてもインキ汚れが少なくかつ高い耐刷力を有する製版を実現できる。
【0028】
本発明の一般式(1)で表される化合物は単独で使用しても2種以上を併用しても良い。一般式(1)で表される化合物の現像液における添加量は、処理時間、処理装置、現像液における他の成分などの条件によって最適量は様々であるが、一般的には少なすぎると効果が十分でなく、多すぎると結晶化を助長する。一般式(1)で表される化合物の好ましい使用量としては、0.01モル/Lから0.2モル/Lである。
【0029】
本発明に用いられる現像液は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールから選ばれる化合物の少なくとも一つを含有する。ジプロピレングリコール及びトリプロピレングリコールにはエチレン鎖に結合しているメチル基の位置によっていくつかの異性体が存在するが、いずれのものであっても良く、異性体の混合物であっても良い。
【0030】
プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールはどれを使用しても結晶防止の効果を有するが、同じ含有量ではプロピレングリコールよりジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールよりトリプロピレングリコールの方が結晶防止の効果が高いので、トリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールの順に好ましい。
【0031】
本発明の現像液が含有するプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールの添加量は、主に現像液の他の成分組成に依存し、上限は溶解度で規定され下限は結晶化防止の効果によって決まる。通常、好ましい添加量は、10〜200g/リットルで、さらに好ましくは、30g/リットルから100g/リットルである。
【0032】
銀塩拡散転写法で通常用いられる現像液の構成には、ハロゲン化銀の還元剤となる現像主薬を現像液に含むデベロッパータイプと、現像される前の印刷版に現像主薬をあらかじめ含有させておき、現像液には現像主薬を実質的に含まないアクチベータタイプがある。本発明の製版方法はいずれの方法を用いても良いが、空気酸化の影響の少ないアクチベータタイプの方が好ましい。
【0033】
塗布現像方式におけるアクチベータタイプの現像液の構成の具体例は、特開平10−22674号公報に示されている。本発明の現像液に用いられる基本的な構成を以下に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
アクチベータタイプの現像液の基本構成は、アルカリ剤、ハロゲン化銀溶解剤、保恒剤からなり、保恒剤には通常亜硫酸塩が用いられる。さらに必要に応じて、現像抑制剤、銀画像親油化剤、界面活性剤などの添加剤を含ませることができる。
【0035】
本発明に用いられる現像液は、保恒剤として亜硫酸塩を含有することが好ましい。亜硫酸塩は保恒剤の他にハロゲン化銀溶解剤の機能も有する。亜硫酸塩の例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0036】
本発明に用いられる現像液は銀錯塩形成剤として、一般式(1)で表されるチオエーテル化合物以外の化合物を添加することができる。銀錯塩形成剤の例としては、アミン類、チオ硫酸塩、チオサリチル酸、メソイオン化合物、環状イミド化合物等を挙げることができる。これらの化合物は一般式(1)で表されるチオエーテル化合物と組み合わせて用いることができる。
【0037】
チオエーテル化合物以外の銀錯塩形成剤としてはアミン類が一般的であり、その中でも最も一般的に用いられるものはアルカノールアミン類である。アルカノールアミン類の例としては、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、N−(β−アミノプロピル)エタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エタノールアミン、4−アミノブタノール、N,N−ジメチルエタノールアミン、3−アミノプロパノール、N,N−エチル−2,2′−イミノジエタノール、2−メチルアミノエタノール等を挙げることができる。アルカノールアミン以外のアミン類の例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、N−アミノエチルピペラジン等を挙げることができる。
【0038】
本発明に用いられる現像液には、銀画像部のインキ受理性を向上させるために、親油化剤としてメルカプト基またはチオン基を有する化合物を含有させることが好ましい。例えば特公昭48−29723号公報、特開昭58−127928号公報等に記載されている化合物が挙げられる。特に炭素数が3〜12のアルキル基、アリール基、アルケニル基等の親油性基を有する含窒素複素環化合物が好ましい。
【0039】
上記化合物の具体例としては、2−メルカプト−4−フェニルイミダゾール、2−メルカプト−1−ベンジルイミダゾール、2−メルカプト−1−ブチル−ベンズイミダゾール、1,3−ジベンジル−イミダゾリジン−2−チオン、2−メルカプト−4−フェニルチアゾール、3−ブチル−ベンゾチアゾリン−2−チオン、3−ドデシル−ベンゾチアゾリン−2−チオン、2−メルカプト−4,5−ジフェニルオキサゾール、3−ペンチル−ベンゾオキサゾリン−2−チオン、1−フェニル−3−メチルピラゾリン−5−チオン、3−メルカプト−4−アリル−5−ペンタデシル−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−5−ノニル−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−4−アセタミド−5−ヘプチル−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−4−アミノ−5−ヘプタデシル−1,2,4−トリアゾール、2−メルカプト−5−フェニル−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−n−ヘプチル−オキサチアゾール、2−メルカプト−5−nヘプチル−オキサジアゾール、2−メルカプト−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール、2−ヘプタデシル−5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール、5−メルカプト−1−フェニル−テトラゾール、3−メルカプト−4−メチル−6−フェニル−ピリダジン、2−メルカプト−5,6−ジフェニル−ピラジン、2−メルカプト−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−メルカプト−6−ベンジル−1,3,5−トリアジン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
本発明に用いられる現像液には、アルカリ性物質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、リン酸3ナトリウム等を用いることができる。現像液のpHは10以上であることが好ましく、さらに好ましくは12以上である。
【0041】
本発明に用いられる現像液には、塗布を安定化するために、界面活性剤を含有することが好ましい。表面張力を落とす効果があれば界面活性剤の種類や量に特に制約はない。最適な表面張力は塗布方式に依存するが、概ね50dyne/cm以下に調整することが好ましい。
【0042】
本発明に用いられる現像液は、上記化合物の他に増粘剤、例えばヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等、かぶり防止剤、例えば臭化カリウム、特開昭47−26201号公報記載の化合物等を含有することができる。
【0043】
本発明における塗布現像方式は、一般的には銀塩拡散転写法平版印刷版の版面(ハロゲン化銀乳剤層が塗布されている側の感光面)に現像液を塗布供給する方法があり、特開昭48−76603号公報等に記載されている。例えば液上げ塗布方式、滴下法ローラー塗布方式、滴下法ナイフ塗布方式、スプレー塗布方式及びブラシ塗布方式等ある。また米国特許第5,398,092号明細書等のようにバーコーター(ETO CHEMICAL APPARATUS Co.製)を用いるローラー塗布方式や国際公開第95/18400号パンフレットに記載の浸漬塗布現像方式も好ましい。
【0044】
本発明における製版方法においては、現像処理に引き続いて、安定処理を行うことが好ましい。安定処理の主な機能は、現像処理において、アルカリ性になった版面を中和することである。従って、安定液のpHは中性から酸性に調整されていることが好ましい。安定液のpHは7.5以下であることが好ましく、より好ましくは4〜7である。
【0045】
安定液にはさらに上記pH付近に緩衝性能を付与することが好ましい。緩衝剤としてはリン酸とその塩あるいはトリエタノールアミンのごとくアミン類を使用することが好ましい。リン酸塩を緩衝剤として使用する場合、その含有量は使用液にして0.05モル/L以上、好ましくは0.1〜1.0モル/Lの範囲で添加する。リン酸塩としてはカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、あるいは前述のトリエタノールアミンのごとくアミン類との塩等を用いることができる。
【0046】
また、現像液同様、安定液にも銀画像部のインキ受理性を向上させるために、親油化剤としてメルカプト基またはチオン基を有する化合物を含有させることができる。これらの化合物は、安定液においても現像液と同様の化合物を用いることができる。
【0047】
本発明に用いられる銀塩拡散転写法平版印刷版の好ましい実施態様は、支持体上に少なくとも下塗層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層を順次塗布されてなる平版印刷版である。これら順次塗布された層の総ゼラチン量は1〜5g/mであることが好ましい。
【0048】
総ゼラチン量が1g/m以下では、印刷版として必要な被膜強度が得られない場合がある。また、5g/m以上では塗布現像方式で処理する際に、インキ受理性及びインキ脱離が遅く印刷作業性が低下する場合がある。
【0049】
本発明の銀塩拡散転写法平版印刷版はバインダーとしてゼラチンを含有しており、その含有層は下塗層であり、乳剤層であり、また物理現像核層でもありうる。また、ゼラチンの一部を澱粉、デキストリン、アルブミン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシルエチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルルチルエーテル−無水マレイン酸共重合体等の親水性高分子の一種又は二種以上で置換することもできる。
【0050】
これらのゼラチン含有層は、ゼラチン硬膜剤で硬化することができる。ゼラチン硬膜剤としては、例えば、クロム明ばん等の無機化合物、ホルマリン、グリオギザール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサンのようなアルデヒド等価体、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や、2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−s−トリアジン塩のような活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンやN、N、N−トリアクロイルヘキサヒドロトリアジン、活性な三員環であるエチレンイミノ基やエポキシ基を分子中に二個以上有する化合物類、高分子硬膜剤としてのジアルデヒド澱粉等の種々の化合物の一種もしくは二種以上を用いることができる。
【0051】
硬膜剤はすべての層に添加することもでき、幾つか又は一層にのみ添加することも可能である。もちろん、拡散性の硬膜剤は二層同時添加の場合、いずれか一層にのみ添加することが可能である。添加方法は塗液製造時に添加したり、塗布時にインラインで添加することもできる。
【0052】
本発明においては、銀塩拡散転写法平版印刷版の感光面側の構成層中に平均粒子サイズが0.3〜6.0μmであるマット化剤を用いることが好ましい。本発明に用いるマット化剤は、例えば、シリカ粒子、スチレンなどの有機物粒子等がある。
【0053】
本発明においては、前記マット化剤は支持体とハロゲン化銀乳剤層の間の下塗層に含まれることが好ましい。マット化剤の添加量は、種々の条件により異なるが、感光面側の構成層中に0.1〜5.0g/mの範囲で含まれることが好ましく、好ましくは0.3〜3.5g/mの範囲である。
【0054】
下塗層にはハレーション防止の目的でカーボンブラック等の顔料、染料等を含ませることができる。さらに現像主薬等の写真用添加物も含むことができる。また下塗層は特開昭48−5503号公報、同昭48−100203号公報、同昭49−16507号公報に記載のような下塗り層であってもよい。
【0055】
本発明の実施に用いられる銀塩拡散転写法平版印刷版のハロゲン化銀乳剤は、塩化銀、臭化銀、塩臭化銀、塩ヨウ化銀、塩臭ヨウ化銀等が使用でき、好ましくは塩化銀が70モル%以上のハロゲン化銀である。これらを含有するハロゲン化銀乳剤は分光増感剤(光源、用途に応じた分光増感色素)、ゼラチン硬化剤、塗布助剤、かぶり防止剤、可塑剤、現像剤、マット剤等を含むことができる。
【0056】
本発明の平版印刷版に用いられる支持体は、紙、各種フィルム、プラスチック、樹脂様物質で被覆した紙、金属等が使用できる。
【0057】
物理現像核層に使用される物理現像核は、この種の薬品の例として周知であって、アンチモン、ビスマス、カドミウム、コバルト、パラジウム、ニッケル、銀、鉛、亜鉛等の金属及びこれらの硫化物が使用できる。また、特開平5−265164号公報記載の物理現像核を用いることもできる。物理現像核層にも現像主薬を含んでもよく、バインダーを含んでもよい。
【0058】
印刷方法あるいは使用する不感脂化液、給湿液等は、一般によく知られている方法によることができる。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を実施例により説明するが、もちろん本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
塗布方式の現像装置は、三菱製紙株式会社より市販されているSDP−Eco1630IIIRを使用した。この装置は、波長630nmの赤色レーザーを用い、デジタルデータを走査露光方式により銀塩拡散転写法平版印刷版にデータ画像の潜像を形成させ、引き続いて、塗布現像、安定処理を行い、製版する自動製版装置である。現像液の塗布量は1平方メートル当たり40ml±10mlであり、現像液が塗布されてから安定液に接するまでの時間は12秒である。
【0061】
銀塩拡散転写法平版印刷版は、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートベースの片面に平均粒子径5μmのシリカ粒子を含有するマット化層を設け、反対側の面に、カーボンブラックを含み、写真用ゼラチンに対して20質量%の平均粒子径7μmのシリカ粒子を含む下塗層(pH4.5に調整)と、ハイポ及び金化合物で化学増感された後に、2−メルカプト安息香酸を加えたハロゲン化銀乳剤層(pH4.5に調整)とを設けた。
【0062】
ハロゲン化銀乳剤は公知の方法によって赤色に色素増感させた。
【0063】
下塗層のゼラチンは3.0g/m、ハロゲン化銀乳剤層のゼラチンは1.0g/m、硝酸銀に換算したハロゲン化銀は1.0g/mとなるように塗布した。この下塗層と乳剤層は硬化剤としてホルマリンをゼラチン1gに対して100mgの量を含んでいる。
【0064】
下塗層のゼラチンはジメトキシフェニドンを0.105g/m、ハロゲン化銀乳剤層は0.024g/m、物理現像核層は0.006g/m含んでいる。
【0065】
下塗り層とハロゲン化銀乳剤層を塗布した後、50℃で2日間加温し、ハロゲン化銀乳剤層の上に特開昭57−86835号公報の実施例1にある核塗液を塗布した。このようにして設けた物理現像核層は0.001g/mの硫化パラジウムを含んでいる。
【0066】
このようにして得た銀塩拡散転写法平版印刷版を幅414mm、長さ30mのロール状にし、上記SDP−Eco1630IIIRに装填することで露光及び製版処理を行った。
【0067】
上記製版処理において、現像液は、下記現像液AからNをそれぞれ使用し、安定液には下記安定液を使用した。なお、現像液のpHは、12.8であった。
<現像液A>
水酸化ナトリウム 10g
水酸化カリウム 15g
無水亜硫酸ナトリウム 40g
化合物A−1 10g
2−メルカプト−5−n−ヘプチル−オキサジアゾール 0.2g
水で1Lとする。
【0068】
<現像液B>
現像液Aの成分にプロピレングリコールを10g加えて水で1Lとした。
<現像液C>
現像液Aの成分にジプロピレングリコールを10g加えて水で1Lとした。
<現像液D>
現像液Aの成分にトリプロピレングリコールを10g加えて水で1Lとした。
<現像液E>
現像液Aの成分にプロピレングリコールを50g加えて水で1Lとした。
<現像液F>
現像液Aの成分にジプロピレングリコールを50g加えて水で1Lとした。
<現像液G>
現像液Aの成分にトリプロピレングリコールを50g加えて水で1Lとした。
<現像液H>
現像液Dの成分化合物A−1に替えて、A−2を10g加えて水で1Lとした。
<現像液I>
現像液Aに対して、化合物A−1の添加量を5gに変更し、N−(β−アミノエチル)エタノールアミンを5g加えて水で1Lとした。
<現像液J>
現像液Iの成分にトリプロピレングリコールを10g加えて水で1Lとした。
<現像液K>
現像液Iの成分にグリセリンの2量体を10g加えて水で1Lとした。
<現像液L>
現像液Iの成分にポリエチレングリコール(平均分子量600)を10g加えて水で1Lとした。
<現像液M>
現像液Iの成分に下記化合物B−1を5g加えて水で1Lとした。
<現像液N>
現像液Aに対して、化合物A−1に替えてN−(β−アミノエチル)エタノールアミンを10g加えて水で1Lとした。
【0069】
【化4】

【0070】
<安定液>
トリエタノールアミン 5g
リン酸二水素カリウム 15g
2−メルカプト−5−n−ヘプチルオキサジアゾール 0.1g
リン酸 1.5g
水を加えて1Lとする。pHは6.0であった。
【0071】
各現像液において以下の方法で印刷性能及び現像液の結晶化による悪影響を評価した。まず1日目に414mm×510mmの版を50版製版し、その後一週間機械を停機した。一週間後に機械起動前に現像装置を観察し、結晶化の状態を見た。引き続き、機械を起動し、再度結晶化の状態を観察した。機械の起動により5分間液の循環が行われるために、結晶化の程度の低いものは現像液に溶けて消失する。さらに、洗浄作業を行わずに製版を行った。現像装置に付着した結晶の状態、その後の製版の均一性によって結晶化による悪影響を評価する。起動前に現像装置に結晶化が見られないものは◎、起動前に結晶化は見られるが起動後には消失するものは○、装置起動後も結晶は残存するものの、製版には影響ないものは△、結晶化によって製版の均一性に問題が生じたものは×とした。また、機械を停機してから一週間後に製版した版を使用して印刷性能の評価を行った。印刷評価の印刷条件は下記の通りに行った。
【0072】
<印刷条件>
・インキ汚れ試験
印刷機: ハイデルベルグ社製 QM46
インキ: DIC社製 F−Gross紫 68(ソフトタイプ)
給湿液: 富士フイルム社製 ECOLITY−2 2質量%
・耐刷試験
印刷機: ハイデルベルグ社製 QM46
インキ: T&K TOKA社製 スーパーテックGT墨SOYA(ハードタイプ)
給湿液: 日研化学研究所社製 アストロマークIII 2質量%
【0073】
インキ汚れの試験では、1万枚の印刷を行い、非画像部にインキの汚れが見られるかどうかで評価を行った。耐刷性試験では2400dpiで出力した175線5%の網点面積の変化率で評価した。印刷開始を100%とし、2万枚印刷時に80%以上の面積を維持しているものを○、50%以上80%未満のものを△、50%未満に減少したものを×とした。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果より、本発明の塗布現像方式の製版方法によって、インキ汚れが少なくかつ高い耐刷力を有する平版印刷版が得られ、かつ現像液の結晶化が十分抑制された製版方法が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀塩拡散転写法を用いた平版印刷版の版面に1平方メートル当たり60ml以下の現像液を塗布して現像する平版印刷版の製版方法において、該現像液が下記一般式(1)で表される化合物を含有し、かつプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールから選ばれる化合物の少なくとも一つを含有することを特徴とする平版印刷版の製版方法。
【化1】

(式中、nは1以上の整数を表し、RとRはそれぞれアルキル基又は置換アルキル基を表し、RとRとは同一でも異なっていても良い。Rは他の2価基が介在しても良いアルキレン基を表す。)