説明

平版印刷版原版及びその製版方法

【課題】赤外レーザー光を用いて画像記録が可能であり、高耐刷かつ耐汚れ性良好であり、アルカリ現像液により現像処理が可能であるか、又は機上現像可能な平版印刷版原版を提供する。
【解決手段】親水性支持体上に、(A)ポリマー微粒子、(B)ラジカル重合性化合物、及び(C)赤外線吸収染料の組合せを含有する重合性組成物を画像記録層に有する平版印刷版原版であって、(A)ポリマー微粒子が、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物からなる重合開始剤群、並びに特定の構造の重合助剤化合物から選択される少なくとも一つの化合物と共有結合で連結されているポリマー微粒子であることを特徴とする平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピューター等のデジタル信号から各種レーザーを用いて直接製版できる、いわゆるダイレクト製版可能な平版印刷版原版、特に耐刷性、汚れ性及び保存安定性の改良された平版印刷版原版及びその製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長300nm〜1200nmの紫外光、可視光、赤外光を放射する固体レーザー、半導体レーザー、ガスレーザーは高出力かつ小型のものが容易に入手できるようになっており、これらのレーザーはコンピューター等のデジタルデータから直接製版する際の記録光源として、非常に有用である。これら各種レーザー光に感応する記録材料については種々研究されている。特に感光波長760nm以上の赤外線レーザーで記録可能な材料を用いた場合、明室での取り扱い性が容易になる長所があり、代表的なものとして、例えば、特許文献1に記載されているラジカル重合型のネガ型記録材料等がある。
【0003】
また、従来の平版印刷版原版(以下、PS版ともいう)では、露光の後、非画像部を溶解除去する工程(現像処理)が不可欠であり、現像処理された印刷版を水洗したり、界面活性剤を含有するリンス液で処理したり、アラビアガムや澱粉誘導体を含む不感脂化液で処理する後処理工程も必要であった。これらの付加的な湿式の処理が不可欠であるという点は、従来のPS版の大きな検討課題となっている。前記のデジタル処理によって製版工程の前半(画像形成処理)が簡素化されても、後半(現像処理)が煩雑な湿式処理では、簡素化による効果が不充分である。
特に近年は、地球環境への配慮が産業界全体の大きな関心事となっている。環境への配慮からも、より中性域に近い現像液での処理や少ない廃液が課題として挙げられている。更に湿式の後処理は、簡素化するか、乾式処理に変更することが望ましい。
【0004】
このような観点から、処理工程をなくす方法の一つに、露光済みの印刷原版を印刷機のシリンダーに装着し、シリンダーを回転しながら湿し水とインキを供給することによって、印刷原版の非画像部を除去する機上現像と呼ばれる方法がある。すなわち、印刷原版を露光後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷過程の中で現像処理が完了する方式である。
【0005】
機上現像の要求を満足するために、親水性バインダーポリマー中に熱可塑性疎水性重合体微粒子を分散させた画像記録層を親水性支持体上に設けた平版印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献2参照)。その製版に際しては、赤外線レーザーで露光して、光熱変換により生じた熱で熱可塑性疎水性重合体微粒子を合体(融着)させて画像形成した後、印刷機のシリンダー上に版を取り付け、湿し水及びインキの少なくともいずれかを供給することにより機上現像できる。この平版印刷版原版は感光域が赤外領域であることにより、明室での取り扱い性も有している。
しかし、熱可塑性疎水性重合体微粒子を合体(融着)させて形成する画像は、強度が不充分で、印刷版としての耐刷性に問題がある。
【0006】
また、熱可塑性微粒子に代えて、重合性化合物を内包するマイクロカプセルを含む平版印刷版原版が提案されている(例えば、特許文献3〜8参照)。このような提案にかかる原版では、重合性化合物の反応により形成されるポリマー画像が微粒子の融着により形成される画像よりも強度に優れているという利点がある。
また、重合性化合物は反応性が高いため、マイクロカプセルを用いて隔離しておく方法が多く提案されている。そして、マイクロカプセルのシェルには、熱分解性のポリマーを使用することが提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜8に記載の従来の平版印刷版原版では、レーザー露光により形成される画像の耐刷性が十分ではなく、更なる改良が求められている。即ち、感光波長760nm以上の赤外線レーザーで記録可能な材料で硬化した画像では、十分な耐刷性を得ることが難しい。耐刷性を向上させるために、親水性の低い表面を有する支持体を使用すると、印刷中に非画像部にもインキが付着するようになり、印刷汚れが発生してしまう。このように、感光波長760nm以上の赤外線レーザーで記録可能な材料の場合、耐汚れ性が良好であり、かつ十分な耐刷性を持たせることが課題となる。特に、湿し水及び/又は印刷インキを用いた機上現像においては、アルカリ現像液で現像するシステムよりも現像性が劣るため汚れやすく、より難しい課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−212558号公報
【特許文献2】特許2938397号公報
【特許文献3】特開2000−211262号公報
【特許文献4】特開2001−277740号公報
【特許文献5】特開2002−29162号公報
【特許文献6】特開2002−46361号公報
【特許文献7】特開2002−137562号公報
【特許文献8】特開2002−326470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、赤外光を放射する固体レーザー又は半導体レーザー光を用いて記録することによりコンピューター等のデジタルデータから直接製版可能な平版印刷版原版において、特に高耐刷かつ耐汚れ性及び保存安定性が良好な平版印刷版原版を提供することにある。また、本発明の目的は、高耐刷かつ耐汚れ性及び保存安定性が良好な機上現像可能な平版印刷版原版とその製版方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.親水性支持体上に、(A)ポリマー微粒子、(B)ラジカル重合性化合物、及び(C)赤外線吸収染料の組合せを含有する重合性組成物を画像記録層に有する平版印刷版原版であって、(A)ポリマー微粒子が、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物からなる重合開始剤群並びに下記一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも一つの化合物と共有結合で連結されているポリマー微粒子であることを特徴とする平版印刷版原版。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式(1)中、Aは芳香族炭化水素基又は複素環基を表す。Xは、−O−、−S−、−N(R)−から選択される2価の連結基を表す。Rは水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
【0013】
2.ポリマー微粒子が、多価イソシアネート化合物と、ヒドロキシ基又はアミノ基を有する、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物からなる重合開始剤群並びに一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも一つとの付加反応により得られるポリマー微粒子であることを特徴とする前記1に記載の平版印刷版原版。
3.ポリマー微粒子が、ラジカル重合性基を有する一般式(1)で表される化合物のラジカル重合により得られるポリマー微粒子であることを特徴とする前記1に記載の平版印刷版原版。
4.赤外線吸収染料が、下記一般式(2)で表されるシアニン色素であることを特徴とする前記1〜3のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【0014】
【化2】

【0015】
式中、Z及びZはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香環あるいは複素芳香環を表す。R及びRはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数20以下の炭化水素基を表し、R及びR10はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。Zaは、電荷の中和が必要な場合に存在する対アニオンを表す。
【0016】
5.画像記録層の未露光部が湿し水及び/又は印刷インキにより除去可能であることを特徴とする前記1〜4のいずれか一項に記載の機上現像型平版印刷版原版。
6.前記5の機上現像型平版印刷版原版を、赤外線レーザーにより画像露光した後、印刷機シリンダーに取り付け、画像記録層未露光部を湿し水及び印刷インキにより除去することを特徴とする製版方法。
【0017】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように考えられる。すなわち、(A)スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物からなる重合開始剤群並びに一般式(1)で表される化合物の少なくとも一つが、共有結合で連結されているポリマー微粒子を重合性組成物に用いると、赤外線レーザー露光により、ポリマー微粒子表面にラジカルが生成し、(B)ラジカル重合性化合物と重合することで強固な画像部を形成できる。また、前記ラジカル重合開始剤又は化合物は、ポリマー微粒子に結合されることで熱安定性が向上し、重合性組成物の安定性も向上する。これは、本発明に係るラジカル重合開始剤がポリマー微粒子に取り込まれているため、他の化合物との相互作用が抑制され、生保存時においてラジカル重合開始剤を熱的に安定化させるためと考えている。
一方、未露光部においては、画像記録層がポリマー微粒子を含有することで、例えば湿し水、インキ溶剤又は湿し水とインキとの乳化物に分散することが容易になり、良好な機上現像性を付与できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コンピューター等のデジタル信号から各種レーザーを用いて直接製版できる、いわゆるダイレクト製版可能な高い生産性を有する平版印刷用原版を得ることができる。特に耐刷性と経時安定性、及び耐汚れ性が良好な機上現像型の平版印刷版原版を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の平版印刷版原版は、親水性支持体上に画像記録層を有する。必要に応じて、支持体と画像記録層の間に下塗り層を、画像記録層の上に保護層を有することができる。保護層は多層構成であってもよい。支持体裏面にバックコート層を有してもよい。
本発明は、露光後、従来の現像液を用いて現像する製版方式、及び現像液を用いない機上現像での製版方式のいずれの平版印刷版原版にも利用できる。
以下、本発明の平版印刷版原版に使用しうる各化合物について順次説明する。
【0020】
[画像記録層]
本発明の画像記録層は、(A)ポリマー微粒子、(B)ラジカル重合性化合物、及び(C)赤外線吸収染料の組合せを含有する重合性組成物を含有し、(A)ポリマー微粒子が、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物からなる重合開始剤群並びに下記一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも一つの化合物と共有結合で連結されているポリマー微粒子であることを特徴とする。下記一般式(1)で表される化合物はラジカル重合を促進する重合助剤である。
【0021】
【化3】

【0022】
一般式(1)中、Aは芳香族炭化水素基又は複素環基を表す。Xは、−O−、−S−、−N(R)−から選択される2価の連結基を表す。Rは水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
【0023】
本発明の画像記録層は、(C)赤外線吸収染料が赤外レーザーによる赤外線を吸収して画像記録層の露光部を重合硬化するものである。重合開始剤及び重合助剤は、ポリマー微粒子に結合した化合物として含有されるが、それに加えてポリマー微粒子と結合していない重合開始剤及び重合助剤を含有させることもできる。
また、画像記録層は皮膜特性向上等の目的でバインダーポリマーを含有することもできる。更に、画像記録層は、現像処理あり、又は機上現像など、目的とする製版方式に応じて、公知の種々の添加物を選択して含有することができる。
以下に、本発明の画像記録層について更に詳細に説明する。
【0024】
〔ポリマー微粒子に共有結合する化合物〕
本発明のポリマー微粒子は、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物からなるラジカル重合開始剤群並びに一般式(1)で表される重合助剤化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を共有結合により結合している。これらのラジカル重合開始剤及び重合助剤は、赤外線吸収染料、ラジカル重合性化合物と相互作用することで安定性が悪くなるが、これらをポリマー微粒子に導入することにより熱安定性が向上し、重合性組成物の安定性も向上する。
また、ラジカル重合性化合物と重合反応することにより、膜強度が高まり、耐刷性が向上する。
【0025】
以下にポリマー微粒子に共有結合する上記重合開始剤及び重合助剤について更に詳しく説明するが、これら重合開始剤及び重合助剤のうち特にスルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩及び一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0026】
<スルホニウム塩>
本発明におけるスルホニウム塩は下記構造式により表すことができる。
【0027】
【化4】

【0028】
一般式(A1−3)中、R31、R32及びR33は各々独立に置換基を1〜5有していてもよい炭素数20以下のアリール基又はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基を表し、好ましくは反応性、安定性の面から、アリール基であることが望ましい。好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリールオキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基又はアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。
31は1価の陰イオンを表し、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオンであり、安定性、反応性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、カルボン酸イオンが好ましく、より好ましいものとして特開2001−343742号公報記載のカルボン酸イオン、特に好ましいものとして特開2002−148790号公報記載のカルボン酸イオンが挙げられる。
【0029】
<ヨードニウム塩>
本発明におけるヨードニウム塩は下記構造式により表すことができる。
【0030】
【化5】

【0031】
一般式(A1−2)中、Ar21及びAr22は各々独立に置換基を1〜5有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表し、好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリールオキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基又はアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。
21は1価の陰イオンを表し、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオンであり、安定性、反応性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、カルボン酸イオンが好ましい。
【0032】
<ジアゾニウム塩>
本発明におけるジアゾニウム塩は下記構造式により表すことができる。
【0033】
【化6】

【0034】
一般式(A1−1)中、Ar11は置換基を1〜5有していてもよい炭素数20以下のアリール基を表し、好ましい置換基としては炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、炭素数1〜12のアリール基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアリールオキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキルアミノ基、炭素数1〜12のジアルキルアミノ基、炭素数1〜12のアルキルアミド基又はアリールアミド基、カルボニル基、カルボキシ基、シアノ基、スルホニル基、炭素数1〜12のチオアルキル基、炭素数1〜12のチオアリール基が挙げられる。
11は1価の陰イオンを表し、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、チオスルホン酸イオン、硫酸イオンであり、安定性の面から過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオンが好ましい。
【0035】
<アジニウム塩>
本発明におけるアジニウム塩は下記構造式により表すことができる。
【0036】
【化7】

【0037】
一般式(A1−4)中、Rは一価の有機基を表し、RからRは、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の有機基を表す。Xはアニオンを表す。
〜Rが1価の有機基を表す場合、該1価の有機基としては、例えば、アミノ基、置換アミノ基、置換カルボニル墓、ヒドロキシル基、置換オキシ基、チオール基、チオエーテル基、シリル基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、スルホ基、置換スルホニル基、スルホナト基、置換スルフィニル基、ホスホノ基、置換ホスホノ基、ホスホナト基、置換ホスホナト基、等が挙げられ、導入可能な場合には更に置換基を有していてもよい。
【0038】
<オキシム化合物>
本発明におけるオキシム化合物は特開2005−215147号公報に記載の下記構造式により表すことができる。
【0039】
【化8】

【0040】
一般式(A1−5)中、Xはカルボニル基、スルホニル基、又は、スルフィニル基を表し、Yはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ベンゾイル基、又は、複素環基を表す。
Q及びZは、各々独立に、非金属原子からなる一価の置換基を表し、これらは、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、窒素原子、及び硫黄原子からなる群より選択される1以上の原子を含む置換基を有していてもよい。
【0041】
<トリアジン化合物>
本発明におけるトリアジン化合物は特開2006−330155号公報に記載の下記構造式により表すことができる。
【0042】
【化9】

【0043】
一般式(A1−6)中R1及びR2は、ハロメチル基であり、Yは炭素数5以上の有機基である。ハロメチル基としては、例えばトリクロロメチル基、トリブロモメチル基、ジクロロメチル基、ジブロモメチル基などがあり、炭素数5以上の有機基としては、例えば置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基、スチリル基、スチリルフェニル基、フリルビニル基、四級化アミノエチルアミノ基などがある。
【0044】
<一般式(1)で表される化合物>
【0045】
【化10】

【0046】
一般式(1)中、Aは芳香族炭化水素基又は複素環基を表す。Xは、−O−、−S−、−N(R)−から選択される2価の連結基を表す。Rは水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
【0047】
ここで、一般式(1)中、Aで表される芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、2個から3個のベンゼン環が縮合環を形成したもの、ベンゼン環と5員不飽和環が縮合環を形成したものなどが挙げられる。具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、インデニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基を挙げることができ、これらのなかでは、フェニル基、ナフチル基がより好ましい。
また、芳香族炭化水素基は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基及びアルコキシ基が挙げられる。
【0048】
Aで表される複素環基としては、ピロール環基、フラン環基、チオフェン環基、ベンゾピロール環基、ベンゾフラン環基、ベンゾチオフェン環基、ピラゾール環基、イソキサゾール環基、イソチアゾール環基、インダゾール環基、ベンゾイソキサゾール環基、ベンゾイソチアゾール環基、イミダゾール環基、オキサゾール環基、チアゾール環基、ベンズイミダゾール環基、ベンズオキサゾール環基、ベンゾチアゾール環基、ピリジン環基、キノリン環基、イソキノリン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、フタラジン環基、キナゾリン環基、キノキサリン環基、アシリジン環基、フェナントリジン環基、カルバゾール環基、プリン環基、ピラン環基、ピペリジン環基、ピペラジン環基、モルホリン環基、インドール環基、インドリジン環基、クロメン環基、シンノリン環基、アクリジン環基、フェノチアジン環基、テトラゾール環基、トリアジン環基、等が挙げられる。
また、複素環基は置換基を有していてもよく、そのような置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基及びアルコキシ基が挙げられる。
【0049】
一般式(1)中、R及びRで表されるアルキル基としては、炭素原子数が1から20までの直鎖状、分岐状、及び環状のアルキル基を挙げることができ、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、2−ノルボルニル基を挙げることができる。これらの中では、炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状、並びに炭素原子数5から10までの環状のアルキル基がより好ましい。
【0050】
このようなアルキル基は置換基を有してもよく、有することのできる置換基及び具体例としては、特開2005−59446の段落番号[0080]〜[0097]に記載されているものを挙げることができる。
【0051】
上記R及びRの中でも、特に好ましくはR及びRが共に水素原子の場合である。
【0052】
次に、前記一般式(1)におけるXは、−O−、−S−、−N(R)−が感度の点から好ましく、−N(R)−であることが感度及び保存安定性の観点からより好ましい。
【0053】
ここで、上記Rとしては、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又はヘテロ環のいずれかである。特に水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基が好ましい。このようなアルキル基が有することのできる置換基としては、特開2005−59446の段落番号[0080]〜[0097]に記載されているものを挙げることができる。
【0054】
上記の中でもRは、その構造内に、−CO−及び−CON(R)−の少なくともいずれかを1つ以上有することが好ましく、Rの最も好ましい構造は、下記式(i)で表されるエステル構造を有する構造、又は、式(ii)で表されるアミド構造を有する構造であり、特に、式(ii)で表されるアミド構造を有するものが好ましい。
【0055】
【化11】

【0056】
上記式中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は一価の置換基を表し、Zは、一価の置換基を表す。そのような一価の置換基は、前記一般式(1)におけるR又はRと同義である。
【0057】
上記の中から共有結合する化合物を選択する観点としては、通常、赤外線吸収染料との反応性を考慮し決めることができる。ポリマー微粒子への導入は、重合時に導入してよいし、重合後に高分子反応を利用して導入してもよい。
【0058】
〔ポリマー微粒子〕
本発明のポリマー微粒子は、特に限定されないが、例えば、界面重合で得られるマイクロカプセル、ミクロゲル、又はラジカル重合により得られるポリマー微粒子等が挙げられる。
本発明に用いられるポリマー微粒子は、前記ラジカル重合開始剤又は一般式(1)で表される化合物で修飾できるものである。このような観点から、粒子形成素材の主鎖はラジカル重合により得られるポリマー微粒子よりも界面重付加により得られるポリマー微粒子の方が好ましい。
【0059】
(界面重合で得られるポリマー微粒子)
本発明に用いられる界面重合によるミクロゲルは、ラジカル重合開始剤又は一般式(1)で表される化合物で修飾できるものである。界面重合としては、ポリウレタン、ポリウレアなどの界面重付加型とポリエステル又はポリアミドなどの界面重縮合型がある。
好ましくは界面重付加により得られるポリウレタン、ポリウレアであり、特にウレタンとウレアの共存するポリマー微粒子が好ましい。
なお、ポリウレタンはウレタン結合(−NH−CO−O−)を主鎖に含むポリマーであり、ポリウレアはウレア結合(−NH−CO−NH−)を主鎖に含むポリマーであり、ポリエステルはエステル結合(−CO−O−)を主鎖に含むポリマーであり、ポリアミドはアミド結合(−CO−NH−)を主鎖に含むポリマーである。
【0060】
ポリウレタン、ポリウレア及びそれらのコポリマーは、ポリオール又はポリアミンと多価イソシアナートとの反応により合成することができる。また、多価イソシアナートの加水分解により生成した多価アミンと、多価イソシアナートとの縮合反応により合成することもできる。合成反応においては、まず、n価のポリオール1モルに対して、多価イソシアナートnモルを反応させた付加物(adduct)を中間体として合成し、次に付加物を反応させることが好ましい。
なお、実際の反応においては、n価のポリオール1モルに対して、過剰量の(nモルより多くの)多価イソシアナートを反応系に加える場合が多い。
【0061】
ポリオールに加えて、求核性基(例、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基)を有する求核性化合物(例、アルコール、フェノール、チオール、アミン)を多価イソシアナートと反応させる場合もある。また、ポリオールと多価イソシアナートとの付加物に、求核性化合物を反応させて一部を変性させてから合成する場合もある。
【0062】
ラジカル重合開始剤及び一般式(1)で表される化合物は、それ自体が求核性基を有する場合はそのまま、多価イソシアナートと反応させる。それ自体が求核性基を有さない場合は、ラジカル重合開始剤及び一般式(1)で表される化合物をポリオール又はポリオールと共に用いる求核性化合物に導入し、それから多価イソシアナートと反応させる。また、多価イソシアナートと反応することによりイソシアナート付加物を合成し、その付加物を更に反応させてもよい。
なお、マイクロカプセルの場合には、上記の製造方法を応用し、内包物を含有させることにより得られる。
【0063】
<求核性基を有するラジカル重合開始剤及び一般式(1)で表される化合物>
重付加型ポリマー微粒子の合成に用いるラジカル重合開始剤を含む化合物は、下記式(A−1)で表されるものが好ましい。
【0064】
1 (In)m (Z)n (A−1)
式(A−1)において、L1 はm+n価の連結基であり、m及びnはそれぞれ独立に、1乃至100の整数であり、Inはラジカル重合開始剤又は一般式(1)で表される化合物からなる一価の基であり;そして、Zは、求核性基である。
1 は、二価以上の脂肪族基、二価以上の芳香族基、二価以上の複素環基、−O−、−S−、−NH−、−N<、−CO−、−SO−、−SO2 −又はそれらの組合せであることが好ましい。
m及びnは、それぞれ独立に、1乃至50の整数であることが好ましく、1乃至20の整数であることがより好ましく、1乃至10の整数であることが更に好ましく、1乃至5の整数であることが最も好ましい。
Zは、OH、SH又はNH2 であることが好ましく、OH又はNH2 であることが更に好ましく、OHであることが最も好ましい。
【0065】
以下に、本発明で好適に用いられる求核性基を有するラジカル重合開始剤及び一般式(1)で表される化合物の具体例(A−1−1)〜(A−1−18)及び(A−2−1)〜(A−2−10)を列挙するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
【化12】

【0067】
【化13】

【0068】
【化14】

【0069】
一般式(A−1)で表される化合物は二種類以上併用してもよい。エチレン性二重結合を含む化合物と多価イソシアナートとの付加物及び他のポリオールと多価イソシアナートとの付加物を併用することもできる。また、他のポリオールと多価イソシアナートとの付加物と一般式(A−1)で表される化合物とを反応させて付加物を合成(付加物を変性)してもよい。
【0070】
一般式(A−1)で表される化合物又はポリオールに加えて、多価アミンをシェルポリマーの形成に使用してもよい。多価アミンは、水溶性であることが好ましい。多価アミンの例には、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン及びテトラエチレンペンタミンが含まれる。
【0071】
<多価イソシアナート>
本発明に用いる多価イソシアナートは、下記式(A−2)で定義されるジイソシアナートであることが好ましい。
OCN−L4 −NCO (A−2)
【0072】
式(A−2)において、L4 は、二価の連結基である。L4 は、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、置換アリーレン基及びそれらの組合せからなる群より選ばれる二価の基であることが好ましい。アルキレン基とアリーレン基との組合せからなる二価の連結基が特に好ましい。
アルキレン基は、環状構造又は分岐構造を有していてもよい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至20であることが好ましく、1乃至15であることがより好ましく、1乃至10であることが更に好ましく、1乃至8であることが最も好ましい。
置換アルキレン基及び置換アルキル基の置換基の例には、ハロゲン原子、オキソ基(=O)、チオキソ基(=S)、アリール基、置換アリール基及びアルコキシ基が含まれる。
アリーレン基はフェニレンであることが好ましく、p−フェニレンであることが最も好ましい。
置換アリーレン基及び置換アリール基の置換基の例には、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基及びアルコキシ基が含まれる。
【0073】
ジイソシアナートの例には、キシリレンジイソシアナート(例、m−キシリレンジイソシアナート、p−キシリレンジイソシアナート)、4−クロロ−m−キシリレンジイソシアナート、2−メチル−m−キシリレンジイソシアナート、フェニレンジイソシアナート(例、m−フェニレンイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナート)、トルイレンジイソシアナート(例、2,6−トルイレンジイソシアナート、2,4−トルイレンジイソシアナート)、ナフタレンジイソシアナート(例、ナフタレン−1,4−ジイソシアナート)、イソホロンジイソシアナート、アルキレンジイソシアナート(例、トリメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、プロピレン−1,2−ジイソシアナート、ブチレン−1,2−ジイソシアナート、シクロへキシレン−1,2−ジイソシアナート、シクロへキシレン−1,3−ジイソシアナート、シクロへキシレン−1,4−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−1,4−ジイソシアナート、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、3,3’−ジメトキシビフェニルジイソシアナート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルヘキサフルオロプロパンジイソシアナート及びリジンジイソシアナートが含まれる。
【0074】
イソホロンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート及びトルイレンジイソシアナートが好ましく、イソホロンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナートが更に好ましく、イソホロンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナートが特に好ましい。二種類以上のジイソシアナートを併用してもよい。
【0075】
(ラジカル重合により得られるポリマー微粒子)
一般式(1)で表される化合物(以下、一般式(1)のカルボン酸誘導体とも称する)は熱的に安定であるため、ラジカル重合を利用してもポリマー微粒子を合成できる。以下では、ラジカル重合によるポリマー微粒子の合成に用いる一般式(1)のカルボン酸誘導体について説明する。
【0076】
ラジカル重合によるポリマー微粒子の合成に用いる一般式(1)のカルボン酸誘導体としては、エチレン性不飽和二重結合が直接一般式(1)のカルボン酸誘導体に結合した化合物、及び連結基を介して一般式(1)のカルボン酸誘導体に結合した下記式(A−3)で表される化合物が挙げられる。
【0077】
2(A)m(Y)n (A−3)
式(A−3)において、L2 はm+n価の連結基であり、m及びnはそれぞれ独立に、1乃至100の整数であり、Aは一般式(1)のカルボン酸誘導体を含む一価の基であり、そして、Yはエチレン性不飽和二重結合である。
2 は、二価以上の脂肪族基、二価以上の芳香族基、二価以上の複素環基、−O−、−S−、−NH−、−N<、−CO−、−SO−、−SO2 −又はそれらの組合せであることが好ましい。m及びnはそれぞれ独立に、1乃至50の整数であることが好ましく、1乃至20の整数であることがより好ましく、1乃至10の整数であることが更に好ましく、1乃至4の整数であることが最も好ましい。
【0078】
以下に、ラジカル重合によるポリマー微粒子の合成に用いられる重合性基を有する一般式(1)のカルボン酸誘導体の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
【化15】

【0080】
本発明のポリマー微粒子の平均粒径は、0.01〜3.0μmが好ましい。0.05〜2.0μmが更に好ましく、0.10〜1.0μmが特に好ましい。この範囲内で良好な耐刷性と経時安定性が得られる。
【0081】
ポリマー微粒子の画像記録層への添加量は、固形分換算で、10〜80質量%であることが好ましく、15〜60質量%であることが更に好ましい。
【0082】
〔(B)ラジカル重合性化合物〕
本発明における画像記録層に用いるラジカル重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物などの化学的形態をもつ。
【0083】
モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシ基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類或いはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。
【0084】
また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。これらは、特表2006−508380号公報、特開2002−287344号公報、特開2008−256850号公報、特開2001−342222号公報、特開平9−179296号公報、特開平9−179297号公報、特開平9−179298号公報、特開2004−294935号公報、特開2006−243493号公報、特開2002−275129号公報、特開2003−64130号公報、特開2003−280187号公報、特開平10−333321号公報、を含む参照文献に記載されている。
【0085】
多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド(EO)変性トリアクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。また、多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
【0086】
また、イソシアネートとヒドロキシ基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(b)で示されるヒドロキシ基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (b)
(ただし、R4及びR5は、それぞれ独立にH又はCH3を示す。)
【0087】
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、特公平2−16765号公報、特開2003−344997号公報、特開2006−65210号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号公報、特公昭56−17654号公報、特公昭62−39417号公報、特公昭62−39418号公報、特開2000−250211号公報、特開2007−94138号公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類や、US7153632号公報、特表平8−505958号公報、特開2007−293221号公報、特開2007−293223号公報記載の親水基を有するウレタン化合物類も好適である。
【0088】
上記の中でも、機上現像性に関与する親水性と耐刷性に関与する重合能のバランスに優れる点から、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどのイソシアヌル酸エチレンオキシド変性アクリレート類が特に好ましい。
【0089】
これらのラジカル重合性化合物の構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。上記の重合性化合物は、画像記録層の全固形分に対して、好ましくは5〜75質量%、更に好ましくは10〜70質量%、特に好ましくは15〜60質量%の範囲で使用される。
【0090】
〔(C)赤外線吸収染料〕
赤外線吸収染料は、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して後述のラジカル重合開始剤に電子移動及び/又はエネルギー移動する機能を有する。本発明において使用される赤外線吸収染料は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料である。
【0091】
染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0092】
【化16】

【0093】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−N(R9)(R10)、−X2−L1又は以下に示す基を表す。ここで、R9及びR10は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数1〜8のアルキル基、水素原子を表し、またR9とR10とが互いに結合して環を形成してもよい。なかでもフェニル基が好ましい(-NPh2)。X2は酸素原子又は硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロアリール基、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。以下に示す基において、Xa-は後述するZa-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0094】
【化17】

【0095】
1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。画像記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましい。またR1とR2は互いに連結し環を形成してもよく、環を形成する際は5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0096】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を示す。好ましいアリール基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、画像記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0097】
本発明におけるより好ましい赤外線吸収染料として下記一般式(2)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0098】
【化18】

【0099】
式中、Z及びZはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香環あるいは複素芳香環を表す。好ましい芳香環としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられ、炭素原子数12個以下の炭化水素基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が最も好ましい。
及びRはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数20以下の炭化水素基を表す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
及びR10はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。Zaは、電荷の中和が必要な場合に存在する対アニオンを表す。好ましいZa-は、画像記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0100】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]に記載の化合物、特開2002−023360号公報の段落番号[0016]〜[0021]、特開2002−040638号公報の段落番号[0012]〜[0037]に記載の化合物、好ましくは特開2002−278057号公報の段落番号[0034]〜[0041]、特開2008−195018号公報の段落番号[0080]〜[0086]に記載の化合物、最も好ましくは特開2007−90850号公報の段落番号[0035]〜[0043]に記載の化合物が挙げられる。
また特開平5−5005号公報の段落番号[0008]〜[0009]、特開2001−222101号公報の段落番号[0022]〜[0025]に記載の化合物も好ましく使用することが出来る。
【0101】
また、これらの赤外線吸収染料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、赤外線吸収染料以外の赤外線吸収顔料を併用してもよい。顔料としては、特開2008−195018号公報[0072]〜[0076]に記載の化合物が好ましい。
【0102】
本発明における画像記録層中の赤外線吸収染料の含有量は、画像記録層の全固形分の0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5.0質量%である。
【0103】
〔ラジカル重合開始剤〕
本発明の画像記録層は、上記のポリマー微粒子に共有結合したラジカル重合開始剤に加えてポリマー微粒子に結合していない公知のラジカル重合開始剤を含有させることができる。このようなラジカル重合開始剤としては、例えば、(a)有機ハロゲン化物、(b)カルボニル化合物、(c)アゾ化合物、(d)有機過酸化物、(e)メタロセン化合物、(f)アジド化合物、(g)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(h)有機ホウ酸塩化合物、(i)ジスルホン化合物、(j)オキシムエステル化合物、(k)オニウム塩化合物、が挙げられる。なかでも、前述のポリマー微粒子が結合できる重合開始剤として掲げた、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物を挙げることができる。
これらの具体例としては、例えば、特開2008−195018号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0104】
上記ラジカル重合開始剤は、画像記録層の全固形分に対し、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは0.8〜20質量%の割合で添加することができる。
【0105】
〔バインダーポリマー〕
本発明の画像記録層には、画像記録層の膜強度を向上させるため、バインダーポリマーを用いることができる。本発明に用いることができるバインダーポリマーは、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。なかでも、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0106】
なかでも本発明に好適なバインダーポリマーとしては、特開2008−195018号公報に記載のような、画像部の皮膜強度を向上するための架橋性官能基を主鎖又は側鎖、好ましくは側鎖に有しているものが挙げられる。架橋性基によってポリマー分子間に架橋が形成され、硬化が促進する。
【0107】
架橋性官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、スチリル基などのエチレン性不飽和基やエポキシ基等が好ましく、これらの基は高分子反応や共重合によってポリマーに導入することができる。例えば、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルポリマーやポリウレタンとグリシジルメタクリレートとの反応、あるいはエポキシ基を有するポリマーとメタクリル酸などのエチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応を利用できる。
【0108】
バインダーポリマー中の架橋性基の含有量は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは0.25〜7.0mmol、最も好ましくは0.5〜5.5mmolである。
【0109】
また、本発明において、該バインダーポリマーは、更に親水性基を有することが好ましい。親水性基は画像記録層に機上現像性を付与するのに寄与する。特に、架橋性基と親水性基を共存させることにより、耐刷性と現像性の両立が可能になる。
【0110】
親水性基としては、たとえば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキレンオキシド構造、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基、リン酸基等などがあり、なかでも、炭素数2又は3のアルキレンオキシド単位を1〜9個有するアルキレンオキシド構造が好ましい。バインダーポリマーに親水性基を付与するには親水性基を有するモノマーを共重合すればよい。
【0111】
また、本発明において、該バインダーポリマーには、着肉性を制御するため、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などの親油性の基を導入できる。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルなどの親油性基含有モノマーを共重合すればよい。
【0112】
以下に本発明に用いられるバインダーポリマーの具体例(1)〜(11)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお繰り返し単位の比はモル比である。
【0113】
【化19】

【0114】
【化20】

【0115】
なお、本発明におけるバインダーポリマーは質量平均モル質量(Mw)が2000以上であることが好ましく、5000以上であるのがより好ましく、1万〜30万であるのが更に好ましい。
【0116】
〔その他の成分〕
本発明の画像記録層には、必要に応じて、更に下記の成分を含有することができる。
【0117】
(1)低分子親水性化合物
本発明における画像記録層は、耐刷性を低下させることなく機上現像性を向上させるために、低分子親水性化合物を含有してもよい。
低分子親水性化合物としては、例えば、水溶性有機化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類及びそのエーテル又はエステル誘導体類、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等のポリオール類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等の有機アミン類及びその塩、アルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類及びその塩、アルキルスルファミン酸等の有機スルファミン酸類及びその塩、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸等の有機硫酸類及びその塩、フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類及びその塩、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類及びその塩、ベタイン類、等が挙げられる。
【0118】
本発明においてはこれらの中でも、ポリオール類、有機硫酸塩類、有機スルホン酸塩類、ベタイン類の群から選ばれる少なくとも一つを含有させることが好ましい。
【0119】
有機スルホン酸塩の具体的な化合物としては、n−ブチルスルホン酸ナトリウム、n−ヘキシルスルホン酸ナトリウム、2−エチルヘキシルスルホン酸ナトリウム、シクロヘキシルスルホン酸ナトリウム、n−オクチルスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩;5,8,11−トリオキサペンタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、13−エチル−5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11,14−テトラオキサテトラデコサン−1−スルホン酸ナトリウムなどのエチレンオキシド鎖を含むアルキルスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、イソフタル酸ジメチル−5−スルホン酸ナトリウム、1−ナフチルスルホン酸ナトリウム、4−ヒドロキシナフチルスルホン酸ナトリウム、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジナトリウム、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸トリナトリウムなどのアリールスルホン酸塩、特開2007−276454号公報の段落番号[0026]〜[0031]、特開2009−154525号公報の段落番号[0020]〜[0047]に記載の化合物などが挙げられる。塩は、カリウム塩、リチウム塩でもよい。
【0120】
有機硫酸塩としては、ポリエチレンオキシドのアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール又は複素環モノエーテルの硫酸塩が挙げられる。エチレンオキシド単位は1〜4であるのが好ましく、塩は、ナトリウム塩、カリウム塩又はリチウム塩が好ましい。これらの具体例としては、特開2007−276454号公報の段落番号[0034]〜[0038]に記載の化合物が挙げられる。
【0121】
ベタイン類としては、窒素原子への炭化水素置換基の炭素原子数が1〜5である化合物が好ましく、具体例としては、トリメチルアンモニウムアセタート、ジメチルプロピルアンモニウムアセタート、3−ヒドロキシ−4−トリメチルアンモニオブチラート、4−(1−ピリジニオ)ブチラート、1−ヒドロキシエチル−1−イミダゾリオアセタート、トリメチルアンモニウムメタンスルホナート、ジメチルプロピルアンモニウムメタンスルホナート、3−トリメチルアンモニオ−1−プロパンスルホナート、3−(1−ピリジニオ)−1−プロパンスルホナートなどが挙げられる。
【0122】
上記の低分子親水性化合物は、疎水性部分の構造が小さくて界面活性作用がほとんどないため、湿し水が画像記録層露光部(画像部)へ浸透して画像部の疎水性や皮膜強度を低下させることがなく、画像記録層のインキ受容性や耐刷性を良好に維持できる。
【0123】
これら低分子親水性化合物の画像記録層への添加量は、画像記録層全固形分量の0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、更に好ましくは2質量%以上10質量%以下である。この範囲で良好な機上現像性と耐刷性が得られる。
これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0124】
(2)感脂化剤
本発明の画像記録層には、着肉性を向上させるために、画像記録層にホスホニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマーなどの感脂化剤を用いることができる。特に、保護層に無機質の層状化合物を含有させる場合、これらの化合物は、無機質の層状化合物の表面被覆剤として機能し、無機質の層状化合物による印刷途中の着肉性低下を防止する。
【0125】
好適なホスホニウム化合物としては、特開2006−297907号公報及び特開2007−50660号公報に記載のホスホニウム化合物を挙げることができる。具体例としては、テトラブチルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、1,4−ビス(トリフェニルホスホニオ)ブタン=ジ(ヘキサフルオロホスファート)、1,7−ビス(トリフェニルホスホニオ)ヘプタン=スルファート、1,9−ビス(トリフェニルホスホニオ)ノナン=ナフタレン−2,7−ジスルホナートなどが挙げられる。
【0126】
上記含窒素低分子化合物としては、アミン塩類、第4級アンモニウム塩類が挙げられる。またイミダゾリニウム塩類、ベンゾイミダゾリニウム塩類、ピリジニウム塩類、キノリニウム塩類も挙げられる。なかでも、第4級アンモニウム塩類、及びピリジニウム塩類が好ましい。具体例としては、テトラメチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、テトラブチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ドデシルトリメチルアンモニウム=p−トルエンスルホナート、ベンジルトリエチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルオクチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、特開2008−284858号公報の段落番号[0021]〜[0037]、特開2009−90645号公報の段落番号[0030]〜[0057]に記載の化合物などが挙げられる。
【0127】
上記アンモニウム基含有ポリマーとしては、その構造中にアンモニウム基を有すれば如何なるものでもよいが、側鎖にアンモニウム基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として5〜80モル%含有するポリマーが好ましい。具体例としては、特開2009−208458号公報の段落番号[0089]〜[0105]に記載のポリマーが挙げられる。
【0128】
上記アンモニウム塩含有ポリマーは、下記の測定方法で求められる還元比粘度(単位:ml/g)の値で、5〜120の範囲のものが好ましく、10〜110の範囲のものがより好ましく、15〜100の範囲のものが特に好ましい。上記還元比粘度を質量平均モル質量(Mw)に換算すると、10000〜150000が好ましく、17000〜140000がより好ましく、20000〜130000が特に好ましい。
【0129】
<還元比粘度の測定方法>
30質量%ポリマー溶液3.33g(固形分として1g)を、20mlのメスフラスコに秤量し、N−メチルピロリドンでメスアップする。この溶液を30℃の恒温槽で30分間静置し、ウベローデ還元粘度管(粘度計定数=0.010cSt/s)に入れて30℃にて流れ落ちる時間を測定する。なお測定は同一サンプルで2回測定し、その平均値を算出する。同様にブランク(N−メチルピロリドンのみ)の場合も測定し、下記式から還元比粘度(ml/g)を算出した。
【0130】
【数1】

【0131】
以下に、アンモニウム基含有ポリマーの具体例を示す。
(1)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比10/90 Mw4.5万)
(2)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.0万)
(3)2−(エチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比30/70 Mw4.5万)
(4)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/2−エチルヘキシルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.0万)
(5)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=メチルスルファート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比40/60 Mw7.0万)
(6)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比 25/75 Mw6.5万)
(7)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルアクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.5万)
(8)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=13−エチル−5,8,11−トリオキサ−1−ヘプタデカンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw7.5万)
(9)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート/2−ヒドロキシ−3−メタクロイルオキシプロピルメタクリレート共重合体(モル比15/80/5 Mw6.5万)
【0132】
上記感脂化剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して0.01〜30.0質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15.0質量%、1〜10質量%が更に好ましい。
【0133】
(3)その他
更にその他の成分として、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、無機質層状化合物、及び共増感剤若しくは連鎖移動剤などを添加することができる。具体的には、特開2008−284817号公報の段落番号[0114]〜[0159]、特開2006−091479号公報の段落番号[0023]〜[0027]、米国特許公開2008/0311520号明細書の段落番号[0060]に記載の化合物及び添加量が好ましい。
【0134】
〔画像記録層の形成〕
本発明における画像記録層は、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0142]〜[0143]に記載のように、必要な上記各成分を公知の溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、これを支持体上にバーコーター塗布など公知の方法で塗布し、乾燥することで形成される。塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/mが好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
【0135】
[下塗り層]
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層と支持体との間に下塗り層(中間層と呼ばれることもある)を設けることが好ましい。下塗り層は、露光部においては支持体と画像記録層との密着を強化し、未露光部においては画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、耐刷性を損なわず現像性を向上させるのに寄与する。また、赤外線レーザー露光の場合は、下塗り層が断熱層として機能することにより、露光により発生した熱が支持体に拡散して感度が低下するのを防ぐ。
【0136】
下塗り層に用いる化合物としては、ホスホン酸、リン酸、スルホン酸などの酸基を有する化合物を有する下塗り層が好ましく用いられる。更に、支持体表面に吸着可能な吸着性基、及び画像記録層と密着性を向上させるために架橋性基を有するものが好ましい。これらの化合物は、低分子でも高分子ポリマーであってもよい。又、これらの化合物は必要に応じて2種以上を混合して使用してもよい。
【0137】
高分子ポリマーである場合は、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー、及び架橋性基を有するモノマーの共重合体が好ましい。支持体表面に吸着可能な吸着性基としては、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、−PO32、−OPO32、−CONHSO2−、−SO2NHSO2−、−COCH2COCH3が好ましい。親水基としては、スルホ基が好ましい。架橋性基としてはメタクリル基、アリル基などが好ましい。
この高分子ポリマーは、高分子ポリマーの極性置換基と、対荷電を有する置換基及びエチレン性不飽和結合を有する化合物との塩形成で導入された架橋性基を有してもよいし、上記以外のモノマー、好ましくは親水性モノマーが更に共重合されていてもよい。
具体的には、特開平10−282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性二重結合反応基を有しているシランカップリング剤、特開平2−304441号公報記載のエチレン性二重結合反応基を有しているリン化合物が好適に挙げられる。特開2005−238816号、特開2005−125749号、特開2006−239867号、特開2006−215263号の各公報記載の架橋性基(好ましくは、エチレン性不飽和結合基)、支持体表面に相互作用する官能基、及び親水性基を有する低分子又は高分子化合物を含有するものも好ましく用いられる。より好ましいものとして、特開2005−125749号及び特開2006−188038号公報に記載の支持体表面に吸着可能な吸着性基、親水性基、及び架橋性基を有する高分子ポリマーが挙げられる。
【0138】
下塗り層用高分子樹脂中の不飽和二重結合の含有量は、高分子ポリマー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、最も好ましくは0.2〜5.5mmolである。
下塗り層用の高分子ポリマーは、質量平均モル質量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましい。
【0139】
本発明の下塗り層は、上記下塗り層用化合物の他に、経時における汚れ防止のため、キレート剤、第2級又は第3級アミン、重合禁止剤、アミノ基又は重合禁止能を有する官能基とアルミニウム支持体表面と相互作用する基とを有する化合物等(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6−テトラヒドロキシ−p−キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)を含有することができる。
【0140】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0141】
[支持体]
本発明の平版印刷版原版に用いられる支持体としては、公知の支持体が用いられる。なかでも、公知の方法で粗面化処理され、陽極酸化処理されたアルミニウム板が好ましい。
また、上記アルミニウム板は必要に応じて、特開2001−253181号公報や特開2001−322365号公報に記載されている陽極酸化皮膜のマイクロポアの拡大処理や封孔処理、及び米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号及び同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケートあるいは米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号及び同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸などによる表面親水化処理を適宜選択して行うことができる。
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。
【0142】
本発明の支持体には必要に応じて、裏面に、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されているケイ素のアルコキシ化合物を含むバックコート層を設けることができる。
【0143】
[保護層]
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層の上に保護層(オーバーコート層)を設けることが好ましい。保護層は酸素遮断によって画像形成阻害反応を抑制する機能の他、画像記録層における傷の発生防止、及び高照度レーザー露光時のアブレーション防止の機能を有する。
【0144】
このような特性の保護層については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書及び特公昭55−49729号公報に記載されている。保護層に用いられる酸素低透過性のポリマーとしては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシ基又はスルホ基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005−250216号、特開2006−259137号の公報に記載の変性ポリビニルアルコールが好適である。
【0145】
また、保護層には酸素遮断性を高めるため、特開2005−119273号公報に記載のように天然雲母、合成雲母等の無機質の層状化合物を含有することが好ましい。
また、保護層には、可撓性付与のための可塑剤、塗布性を向上させための界面活性剤、表面の滑り性を制御する無機微粒子など公知の添加物を含むことができる。また、画像記録層の説明に記載した感脂化剤を保護層に含有させることもできる。
【0146】
また、保護層にとって、画像部との密着性や耐傷性も、版の取り扱い上極めて重要である。すなわち、水溶性ポリマーからなる親水性の層を新油性の重合層に積層すると、接着力不足による膜剥離が発生しやすく、剥離部分が酸素の重合阻害により膜硬化不良などの欠陥を引き起こす。これに対し、これらの2層間の接着性を改良すべく種々の提案がなされている。例えば特公昭54−12215号公報、英国特許1303578号明細書には、主にポリビニルアルコールからなる親水性ポリマー中に、アクリル系エマルジョン又は水不溶性ビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体などを20〜60質量%混合し、重合層の上に積層することにより、十分な接着性が得られることが記載されている。本発明における保護層に対しては、これらの公知の技術をいずれも適用することができる。このような保護層の塗布方法については、例えば米国特許第3,458,311号明細書、特開昭55−49729号公報に詳しく記載されている。
【0147】
保護層は、公知の方法で塗布される。保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/mの範囲であることが好ましく、0.02〜3g/mの範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/mの範囲である。
【0148】
[製版方法]
本発明の平版印刷版原版は、露光後、現像処理工程で現像されてから印刷に供せられるか、現像処理工程を経ることなく、印刷インキと湿し水とを供給して機上現像されて、そのまま印刷に供せられる。以下、本発明の製版方法について詳細に説明する。
【0149】
〔露光〕
本発明において画像様の露光に用いられる光源としては、レーザーが好ましい。本発明に用いられるレーザーは波長760〜1200nmの赤外線を照射する固体レーザーが好適に挙げられる。
赤外線レーザーの出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20マイクロ秒以内であるのが好ましく、また照射エネルギー量は10〜300mJ/cmであるのが好ましい。露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
【0150】
〔現像処理〕
本発明の平版印刷版原版の現像処理は、公知の方法で行うことができる。界面活性剤、有機溶剤、アルカリ剤、水溶性高分子化合物、防腐剤、キレート化合物、消泡剤、有機酸、無機酸、無機塩などから選ばれる成分を含有する水溶液からなる公知の現像液が用いられる。また、自動現像機を用いるのが好ましい。
なお、本発明において、現像処理後の平版印刷版を、引き続いて、水洗、乾燥処理、不感脂化処理することも任意に可能である。不感脂化処理では、公知の不感脂化液を用いることができる。
【0151】
以上の現像処理等を行うことで得られた平版印刷版はオフセット印刷機に掛けられ、多数枚の印刷に用いられる。
【0152】
〔機上現像〕
露光された平版印刷版原版は、印刷機の版胴に装着される。レーザー露光装置付きの印刷機の場合は、平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着したのち画像様露光される。
【0153】
平版印刷版原版を赤外線レーザー等で画像様に露光した後、湿式現像処理工程等の現像処理工程を経ることなく印刷インキと湿し水とを供給して印刷すると、画像記録層の露光部においては、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する印刷インキ受容部を形成する。一方、未露光部においては、供給された湿し水及び/又は印刷インキによって、未硬化の画像記録層が溶解又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。その結果、湿し水は露出した親水性の表面に付着し、印刷インキは露光領域の画像記録層に着肉して印刷が開始される。
【0154】
ここで、最初に版面に供給されるのは、湿し水でも印刷インキでもよいが、除去された画像記録層の成分によって湿し水が汚染されることを防止する点で、最初に印刷インキを供給するのが好ましい。湿し水及び印刷インキとしては、通常の平版印刷用の湿し水と印刷インキが用いられる。
このようにして、平版印刷版原版はオフセット印刷機上で現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0155】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、高分子化合物の分子量は質量平均分子量であり、繰り返し単位の比はモル比である。
【0156】
〔開始剤部位を有する多価イソシアナート付加物溶液(NCO−1〜8)の合成例〕
【0157】
(合成例1: NCO−1の合成)
トリメチロールプロパンとキシリレンジイソシアナート付加体50質量%酢酸エチル溶液(三井化学ポリウレタン(株)製、タケネートD−110N)9.6gに、下記スルホニウム化合物(A−1−6)0.7gを加え、水浴中でオクチル酸第一錫(スタノクト、吉富製薬(株)製)を40mg添加した後、一時間撹拌した。ついで70℃で3時間撹拌を行った。このようにしてスルホニウム塩部位を有する多価イソシアナート付加物の溶液(NCO−1)を得た。
【0158】
【化21】

【0159】
(合成例2〜8:NCO−2〜8の合成)
前記合成例1において、スルホニウム化合物を下記表1に示す化合物に変更した以外は合成例1と同様の方法により、開始剤部位を有する多価イソシアナート付加物(NCO−2〜8)の溶液を得た。
【0160】
〔ポリマー微粒子(ミクロゲル)の合成例〕
【0161】
(ミクロゲル(P−1)の合成)
油相成分として、スルホニウム塩部位を有する多価イソシアナート付加物(NCO−1)の溶液10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてクラレポバールPVA205((株)クラレ製ポリビニルアルコール)の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これをミクロゲル(P−1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0162】
(ミクロゲル(P−2)〜(P−8)の合成)
前記ミクロゲル(P−1)の合成において、スルホニウム塩部位を有する多価イソシアネート付加物の溶液を、下記表1に示すように、多価イソシアネート付加物の溶液に変更した以外は、ミクロゲル(P−1)の合成と同様の方法により、ミクロゲル(P−2)〜(P−8)を得た。
【0163】
(ミクロゲル(P−9)の合成)
前記ミクロゲル(P−1)の合成において、スルホニウム塩部位を有する多価イソシアネート付加物の溶液を添加しない以外は、ミクロゲル(P−1)の合成と同様の方法により、ミクロゲル(P−9)を得た。
【0164】
【表1】

【0165】
【化22】

【0166】
(ポリマー微粒子水分散液(P−10)の製造)
1000mlの4つ口フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PEGMA エチレングリコールの平均の繰返し単位は50)9g、蒸留水200g及びn−プロパノール200gを加えて内温が70℃となるまで加熱した。次に予め混合された下記カルボン酸化合物(A−3−1)1g、メチルメタクリレート(MMA)90g及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.8gの混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後5時間そのまま反応を続けた後、2,2’‐アゾビスイソブチロニトリル0.4gを添加し、内温を80℃まで上昇させた。続いて、0.5gの2,2’‐アゾビスイソブチロニトリルを6時間かけて添加した。合計で20時間反応させた段階でポリマー化は98%以上進行しており、質量比でPEGMA/A−3−1/MMA=9/1/90のポリマー微粒子水分散液(P−10)が得られた。このポリマー微粒子の粒径分布は、粒子径150nmに極大値を有していた。
【0167】
【化23】

【0168】
(ポリマー微粒子水分散液(P−11)の製造)
1000mlの4つ口フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PEGMA エチレングリコールの平均の繰返し単位は50)9g、蒸留水200g及びn−プロパノール200gを加えて内温が70℃となるまで加熱した。次に予め混合された下記カルボン酸化合物(A−3−2)1g、スチレン(St)10g、アクリロニトリル(An)80g及び2,2’‐アゾビスイソブチロニトリル0.8gの混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後5時間そのまま反応を続けた後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4gを添加し、内温を80℃まで上昇させた。続いて、0.5gの2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを6時間かけて添加した。合計で20時間反応させた段階でポリマー化は98%以上進行しており、質量比でPEGMA/A−3−2/St/An=9/1/10/80のポリマー微粒子水分散液(P−11)が得られた。このポリマー微粒子の粒径分布は、粒子径150nmに極大値を有していた。
【0169】
【化24】

【0170】
(ポリマー微粒子水分散液(P−12)の製造)
1000mlの4つ口フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PEGMA エチレングリコールの平均の繰返し単位は50)9g、蒸留水200g及びn−プロパノール200gを加えて内温が70℃となるまで加熱した。次に予め混合されたメチルメタクリレート(MMA)91g及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.8gの混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後5時間そのまま反応を続けた後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4gを添加し、内温を80℃まで上昇させた。続いて、0.5gの2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを6時間かけて添加した。合計で20時間反応させた段階でポリマー化は98%以上進行しており、質量比でPEGMA/MMA=9/91のポリマー微粒子水分散液(P−12)が得られた。このポリマー微粒子の粒径分布は、粒子径150nmに極大値を有していた。
【0171】
(ポリマー微粒子水分散液(P−13)の製造)
1000mlの4つ口フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PEGMA エチレングリコールの平均の繰返し単位は50)10g、蒸留水200g及びn−プロパノール200gを加えて内温が70℃となるまで加熱した。次に予め混合されたスチレン(St)10g、アクリロニトリル(An)80g及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.8gの混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後5時間そのまま反応を続けた後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4gを添加し、内温を80℃まで上昇させた。続いて、0.5gの2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを6時間かけて添加した。合計で20時間反応させた段階でポリマー化は98%以上進行しており、質量比でPEGMA/St/An=10/10/80のポリマー微粒子水分散液(P−13)が得られた。このポリマー微粒子の粒径分布は、粒子径150nmに極大値を有していた。
【0172】
【表2】

【0173】
[実施例1〜11] アルカリ現像処理用の平版印刷版原版
【0174】
1.支持体(1)の作製
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質JIS A 1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50℃で30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm)を用いアルミニウム表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、更に60℃で20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/mであった。
【0175】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0176】
続いて、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃の電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dmの条件で、硝酸電解と同様の方法で、電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
次に、この板に15質量%硫酸(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dmで2.5g/mの直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗、乾燥し支持体(1)を作製した。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0177】
2.下塗り層の塗設
次に、この支持体(1)上に下記下塗り層用塗布液をワイヤーバーにて塗布し、100℃10秒間乾燥した。塗布量は10mg/mであった。
【0178】
−下塗り層用塗布液−
・下記構造の高分子化合物A 0.05g
・メタノール 27g
・イオン交換水 3g
【0179】
【化25】

【0180】
3.画像記録層の塗設
下記組成の画像記録層用塗布液を調製し、ワイヤーバーを用いて乾燥後の塗布量が0.9g/mとなるように下塗り層の上に塗布し、温風式乾燥装置にて115℃で34秒間乾燥して画像記録層を形成した。
【0181】
−画像記録層用塗布液−
・ポリマー微粒子(表3記載) 4.568g
・赤外線吸収染料(IR色素)(表3記載) 0.038g
・ラジカル重合開始剤A(下記構造のS−1) 0.030g
・ラジカル重合開始剤B(下記構造のI−1) 0.047g
・メルカプト化合物(下記構造のSH−1) 0.015g
・増感助剤(下記構造のT−1) 0.081g
・付加重合性化合物(下記構造のM−1) 0.428g
・バインダーポリマーA(下記構造のB−1) 0.311g
・バインダーポリマーB(下記構造のB−2) 0.250g
・バインダーポリマーC(下記構造のB−3) 0.062g
・重合禁止剤(下記構造のQ−1) 0.0012g
・銅フタロシアニン顔料分散物 0.159g
〔銅フタロシアニン顔料:15質量部、分散剤としてアリルメタクリレート/
メタクリル酸(80/20)共重合体:10質量部、溶剤としてシクロヘキサノン/
メトキシプロピルアセテート/1−メトキシ−2−プロパノール
=15質量部/20質量部/40質量部〕」
・フッ素系界面活性剤 0.0081g
(メガファックF−780−F 大日本インキ化学工業(株)、
メチルイソブチルケトン(MIBK)30質量%溶液)
・メチルエチルケトン 5.886g
・メタノール 2.733g
・1−メトキシ−2−プロパノール 5.886g
【0182】
【化26】

【0183】
【化27】

【0184】
4.保護層の塗設
<下部保護層>
画像記録層表面に、合成雲母(ソマシフMEB−3L、3.2質量%水分散液、コープケミカル(株)製)、ポリビニルアルコール(ゴーセランCKS−50:ケン化度99モル%、重合度300、スルホン酸変性ポリビニルアルコール日本合成化学工業株式会社製)界面活性剤A(日本エマルジョン社製、エマレックス710)及び界面活性剤B(アデカプルロニックP−84:旭電化工業株式会社製)の混合水溶液(保護層用塗布液)をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃で30秒間乾燥させた。
この混合水溶液(保護層用塗布液)中の合成雲母(固形分)/ポリビニルアルコール/界面活性剤A/界面活性剤Bの含有量割合は、7.5/89/2/1.5(質量%)であり、塗布量は(乾燥後の被覆量)は0.5g/mであった。
【0185】
<上部保護層>
下部保護層表面に、有機フィラー(アートパールJ−7P、根上工業(株)製)、合成雲母(ソマシフMEB−3L、3.2質量%水分散液、コープケミカル(株)製)、ポリビニルアルコール(L−3266:ケン化度87モル%、重合度300、スルホン酸変性ポリビニルアルコール日本合成化学工業株式会社製)、増粘剤(セロゲンFS−B、第一工業製薬(株)製)、前記高分子化合物A、及び界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710)の混合水溶液(保護層用塗布液)をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置にて125℃で30秒間乾燥させた。
この混合水溶液(保護層用塗布液)中の有機フィラー/合成雲母(固形分)/ポリビニルアルコール/増粘剤/高分子化合物A/界面活性剤の含有量割合は、4.7/2.8/67.4/18.6/2.3/4.2(質量%)であり、塗布量は(乾燥後の被覆量)は1.8g/mであった。
このようにして、実施例1〜11の平版印刷版原版を得た。
【0186】
[比較例1〜5]
実施例1において、ポリマー微粒子及び赤外線吸収染料を下記表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により、比較例1〜5の平版印刷版原版を得た。
【0187】
[比較例6]
実施例1において、ポリマー微粒子(P−1)を(P−9)に変更し、重合開始剤(A−1−6)を0.095g(実施例1でポリマー微粒子に含まれている重合開始剤と同等量に相当する。)を添加した以外は、実施例1と同様の方法により、比較例6の平版印刷版を得た。
【0188】
〔平版印刷版原版の評価〕
(1)感度評価
得られた平版印刷版原版を、水冷式40W赤外線半導体レーザーを搭載したCreo社製Trendsetter3244VXにて、解像度175lpi、外面ドラム回転数150rpm、出力0〜8Wの範囲でlogEで0.15ずつ変化させて露光した。なお、露光は25℃50%RHの条件下で行った。露光後、富士フイルム(株)社製LP−1310Newsを用い、30℃12秒で現像した。現像液は、富士フイルム(株)社製DH−Nの1:4水希釈水を用い、フィニッシャーは、富士フイルム(株)社製GN−2Kの1:1水希釈液を用いた。
現像して得られた平版印刷版の画像部濃度はマクベス反射濃度計RD−918を使用し、該濃度計に装備されている赤フィルターを用いてシアン濃度で測定した。測定した濃度が0.8を得るのに必要な露光量の逆数を感度の指標とした。なお、評価結果は、比較例1で得られた平版印刷版の感度を100とし、他の平版印刷版の感度はその相対評価とした。値が大きいほど、感度が優れていることになる。結果を表3に示す。
【0189】
(2)耐刷性評価及び汚れ評価
作製された平版印刷版原版に、水冷式40W赤外線半導体レーザーを搭載したCreo社製Trendsetter3244VXにて、解像度175lpiの80%平網画像を、出力8W、外面ドラム回転数206rpm、版面エネルギー100mJ/cmで露光した。露光後、水道水による水洗により保護層を除去した後、(1)感度評価の現像工程と同じ方法で現像した。そして、得られた平版印刷版を、小森コーポレーション(株)製印刷機リスロンを用いて印刷を行い、画像がかすれはじめた枚数(刷了枚数)を耐刷性の指標とした。印刷汚れ性は1000枚印刷し、非画像部の印刷汚れを目視で評価した。結果を表3に示す。
【0190】
(3)保存性評価
平版印刷版原版を60℃、75%Rhで4日間強制経時した後、上記同様の方法で平版印刷版を作製して、経時してないものと同様に印刷を行った。
【0191】
【表3】

【0192】
表3から明らかなように、本発明のポリマー微粒子を用いた平版印刷版原版(実施例1〜11)は、ポリマー微粒子を含まない平版印刷版原版(比較例1)、開始剤を含まないポリマー微粒子を用いた平版印刷版原版(比較例2〜5)と比較して、感度、耐汚れ性及び耐刷性のいずれにも向上が見られた。更に、実施例1〜11の平版印刷版原版は、アンモニウムを用いた平版印刷版原版(比較例5)と比較しても、感度、耐汚れ性及び耐刷性に加え、保存性(強制経時後の耐汚れ性)において向上が見られる。また、開始剤を別添加した場合(比較例6)と比較して保存性(強制経時後の耐汚れ性)において向上が見られる。
【0193】
[実施例12〜22]機上現像型の平版印刷版原版
(1)支持体(2)の作製
非画像部の親水性を確保するため、前記支持体(1)に2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて60℃で10秒間、シリケート処理を施し、その後、水洗して支持体(2)を得た。Siの付着量は10mg/mであった。
【0194】
(2)下塗り層の形成
次に、上記支持体(2)上に、下記下塗り層用塗布液(1)を乾燥塗布量が20mg/mになるよう塗布して、以下の実験に用いる下塗り層を有する支持体を作製した。
【0195】
<下塗り層用塗布液(1)>
・下記構造の下塗り層用化合物(1) 0.18g
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.10g
・メタノール 55.24g
・水 6.15g
【0196】
【化28】

【0197】
(3)画像記録層の形成
上記のようにして形成された下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成した。
画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)及びポリマー微粒子液を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0198】
<感光液(1)>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕 0.240g
・赤外線吸収染料(IR色素)〔種類:表4に記載〕 0.030g
・ラジカル重合開始剤(1)〔下記構造〕 0.081g
・ラジカル重合性化合物
トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
(NKエステルA−9300、新中村化学(株)製) 0.192g
・低分子親水性化合物
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.050g
・感脂化剤 ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・感脂化剤 アンモニウム基含有ポリマー
[下記構造、還元比粘度44ml/g] 0.035g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・2−ブタノン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0199】
<ポリマー微粒子液>
・ポリマー微粒子〔種類:表4に記載〕 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0200】
上記処方で用いる、バインダーポリマー(1)、赤外線吸収染料(1)、ラジカル重合開始剤(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物(1)、アンモニウム基含有ポリマー、及びフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0201】
【化29】

【0202】
【化30】

【0203】
(4)保護層の形成
上記画像記録層上に、更に下記組成の保護層用塗布液(1)をバー塗布した後、120℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/mの保護層を形成して実施例12〜22の平版印刷版原版を得た。
【0204】
<保護層用塗布液(1)>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製CKS50、スルホン酸変性、
けん化度99モル%以上、重合度300)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−405、
けん化度81.5モル%、重合度500)6質量%水溶液 0.03g
・日本エマルジョン(株)製界面活性剤
(エマレックス710)1質量%水溶液 0.86g
・イオン交換水 6.0g
【0205】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0206】
[比較例7〜11]
実施例12において、ポリマー微粒子を下記表4に示すように変更した以外は、実施例12と同様の方法により、比較例7〜11の平版印刷版原版を得た。
【0207】
[比較例12]
実施例16において、ポリマー微粒子(P−5)を(P−9)に変更し、重合開始剤(A−2−5)を0.056g(実施例16でポリマー微粒子に含まれている重合開始剤と同等量)添加した以外は実施例16と同様の方法により、比較例12の平版印刷版原版を得た。
【0208】
[比較例13]
実施例12において、ポリマー微粒子(P−1)を(P−9)に変更し、重合開始剤(A−1−6)を0.056g(実施例1でポリマー微粒子に含まれている重合開始剤と同等量添加)添加した以外は実施例12と同様の方法により、比較例13の平版印刷版原版を得た。
【0209】
〔平版印刷版原版の評価〕
【0210】
(1)機上現像性
得られた平版印刷版原版を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像には細線チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とValues−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を100枚行った。
画像記録層の未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測した。結果を表4に示す。
【0211】
(2)細線再現性
一般に、ネガ型平版印刷版原版の場合、露光量が少ないと画像記録層(感光層)の硬化度が低くなり、露光量が多いと硬化度が高くなる。画像記録層の硬化度が低すぎる場合には、平版印刷版の耐刷性が低くなり、また、小点や細線の再現性が不良となる。一方、画像記録層の硬化度が高い場合には、耐刷性が高くなり、また、小点や細線の再現性が良好となる。
本実施例では、以下に示すように、上記で得られた平版印刷版原版を、上述した同一の露光量条件で耐刷性及び細線再現性を評価することにより、平版印刷版原版の感度の指標とした。即ち、耐刷性における印刷枚数が高いほど、また、細線再現性における細線幅が細いほど、平版印刷版原版の感度が高いと言える。
具体的には、上述したように100枚印刷して非画像部にインキ汚れがない印刷物が得られたことを確認した後、続けて500枚の印刷を行った。合計600枚目の印刷物の細線チャート(10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、60、80、100及び200μmの細線を露光したチャート)を25倍のルーペで観察し、途切れることなくインキで再現された細線幅により、細線再現性を評価した。10μmまで再現できるレベルを○、16μmまで再現できるレベルを△、とした。結果を表4に示す。
【0212】
(3)汚れ性(保存安定性)
未露光状態で、強制経時(温度:45℃、湿度:75%で3日間保存)した平版印刷版原版を、上記機上現像性評価の場合と同じ条件で露光・現像し、100枚印刷したときの印刷物の非画像部汚れを目視評価した。強制経時をしなかった場合と比較することにより、保存安定性が評価できる。結果を表4に示す。
【0213】
(4)耐刷性
上述した機上現像性の評価を行った後、更に印刷を続けた。印刷枚数を増やしていくと徐々に画像記録層が磨耗するため印刷物上のインキ濃度が低下した。印刷物におけるFMスクリーン50%網点の網点面積率をグレタグ濃度計で計測した値が印刷100枚目の計測値よりも5%低下したときの印刷部数を刷了枚数として耐刷性を評価した。結果を表4に示す。
【0214】
【表4】

【0215】
表4から明らかなように、本発明のポリマー微粒子を用いた平版印刷版原版(実施例12〜22)は、ポリマー微粒子を含まない平版印刷版原版(比較例7)、開始剤等を含まないポリマー微粒子を用いた平版印刷版原版(比較例8〜10)と比較して、感度、耐汚れ性及び耐刷性のいずれにも向上が見られた。更に、実施例12〜22の平版印刷版原版は、アンモニウムを用いた平版印刷版原版(比較例11)と比較しても、感度、耐汚れ性及び耐刷性に加え、保存性(強制経時後の耐汚れ性)において向上が見られる。また、実施例16の平版印刷版原版は、カルボン酸化合物を別添加した場合(比較例12)と比較しても感度、耐汚れ性及び耐刷性に加え、保存性(強制経時後の耐汚れ性)において向上が見られる。また、実施例12の平版印刷版原版は、開始剤を別添加した場合(比較例13)と比較して保存性(強制経時後の耐汚れ性)において向上が見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性支持体上に、(A)ポリマー微粒子、(B)ラジカル重合性化合物、及び(C)赤外線吸収染料の組合せを含有する重合性組成物を画像記録層に有する平版印刷版原版であって、(A)ポリマー微粒子が、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物からなる重合開始剤群並びに下記一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも一つの化合物と共有結合で連結されているポリマー微粒子であることを特徴とする平版印刷版原版。
【化1】

一般式(1)中、Aは芳香族炭化水素基又は複素環基を表す。Xは、−O−、−S−、−N(R)−から選択される2価の連結基を表す。Rは水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
【請求項2】
ポリマー微粒子が、多価イソシアネート化合物と、ヒドロキシ基又はアミノ基を有する、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、アジニウム塩、オキシム化合物及びトリアジン化合物からなる重合開始剤群並びに一般式(1)で表される化合物から選択される少なくとも一つとの付加反応により得られるポリマー微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
ポリマー微粒子が、ラジカル重合性基を有する一般式(1)で表される化合物のラジカル重合により得られるポリマー微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
赤外線吸収染料が、下記一般式(2)で表されるシアニン色素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【化2】

式中、Z及びZはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい芳香環あるいは複素芳香環を表す。R及びRはそれぞれ独立に置換基を有していてもよい炭素数20以下の炭化水素基を表し、R及びR10はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。Zaは、電荷の中和が必要な場合に存在する対アニオンを表す。
【請求項5】
画像記録層の未露光部が湿し水及び/又は印刷インキにより除去可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の機上現像型平版印刷版原版。
【請求項6】
請求項5の機上現像型平版印刷版原版を、赤外線レーザーにより画像露光した後、印刷機シリンダーに取り付け、画像記録層未露光部を湿し水及び印刷インキにより除去することを特徴とする製版方法。

【公開番号】特開2011−213113(P2011−213113A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61447(P2011−61447)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】