説明

平版印刷版用支持体、平版印刷版用支持体の製造方法、および平版印刷版原版

【課題】本発明は、平版印刷版としたときに放置払い性および耐刷性に優れ、かつ、優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を得ることができる、耐傷性に優れた平版印刷版用支持体を提供することを目的とする。
【解決手段】アルミニウム板と、その上にアルミニウムの陽極酸化皮膜とを備え、該陽極酸化皮膜中に該アルミニウム板とは反対側の表面から深さ方向にのびるマイクロポアを有する平版印刷版用支持体であって、該マイクロポアが、陽極酸化皮膜表面から深さ方向にのびる大径孔部と、大径孔部の底部と連通して、その連通位置(連通位置X)から深さ方向にのびる小径孔部と、小径孔部の底部と連通して、その連通位置(連通位置Y)から深さ方向にのびる中径孔部とから構成されることを特徴とする平版印刷版用支持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用支持体、平版印刷版用支持体の製造方法、および平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷法は水と油が本質的に混じり合わないことを利用した印刷方式であり、これに使用される平版印刷版の印刷版面には、水を受容して油性インキを反撥する領域(以下、この領域を「非画像部」という。)と、水を反撥して油性インキを受容する領域(以下、この領域を「画像部」という。)とが形成される。
【0003】
平版印刷版に用いられる平版印刷版用アルミニウム支持体(以下、単に「平版印刷版用支持体」という。)は、その表面が非画像部を担うように使用されるため、親水性および保水性が優れていること、更にはその上に設けられる画像記録層との密着性が優れていること等の相反する種々の性能が要求される。支持体の親水性が低すぎると、印刷時に非画像部にインキが付着するようになり、ブランケット胴の汚れ、ひいてはいわゆる地汚れが発生する。また、支持体の保水性が低すぎると、印刷時に湿し水を多くしないとシャドー部のつまりが発生する。よって、いわゆる水幅が狭くなる。
【0004】
これらの性能の良好な平版印刷版用支持体を得るために、様々な検討がなされている。例えば、特許文献1においては、粗面化したアルミニウム板の表面を第一段階として陽極酸化処理した後、第二段階として第一段階の陽極酸化皮膜のマイクロポアよりもポア径が小さくなる条件にて再び陽極酸化処理することにより、平版印刷版用支持体を製造する方法が開示されている。該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版は、インキ払いを劣化させずに、感光層との密着性を向上させ、ハイライトが飛ばず耐刷性に優れることが記載されている。
【0005】
一方、印刷するときには、印刷を一時停止する場合がある。この場合、平版印刷版は、版胴に取り付けられた状態で放置され、雰囲気中の汚染の影響などにより、非画像部が汚れてしまう。このため、印刷を一時停止して再開したときに、正常な印刷が行われるまで何枚か印刷する必要が生じてしまい、印刷用紙の無駄が生じるなどの不都合がある。この不都合は、塩酸を含む酸性溶液中で電気化学的粗面化が施された平版印刷版に、特に顕著であることが判明している。なお、以下では、印刷を一時停止して再開したときに生じる損紙の枚数を放置払い性として評価し、損紙の枚数が少ないことを放置払い性が良好であるという。
【0006】
さらに、近年進展が目覚ましいコンピュータ・ツウ・プレート(CTP)システムについては、多数の研究がなされている。中でも、一層の工程合理化と廃液処理問題の解決を目指すものとして、露光後、現像処理することなしにそのまま印刷機に装着して印刷できる平版印刷版原版が求められている。
【0007】
処理工程をなくす方法の一つに、露光済みの平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着し、版胴を回転しながら湿し水とインキを供給することによって、平版印刷版原版の非画像部を除去する機上現像と呼ばれる方法がある。即ち、平版印刷版原版を露光後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷過程の中で現像処理が完了する方式である。このような機上現像に適した平版印刷版原版は、湿し水やインキ溶剤に可溶な画像記録層を有し、しかも、明室に置かれた印刷機上で現像されるのに明室取り扱い性を有することが必要とされる。なお、以下では、未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として評価し、損紙の枚数が少ないことを機上現像性が良好であるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−291657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが、特許文献1に具体的に記載されている平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版および平版印刷用原版の諸性能について検討を行ったところ、放置払い性と耐刷性、または、機上現像性と耐刷性とがトレードオフの関係にあり、これらの両立ができず、実用上必ずしも満足できるものではないことを見出した。さらに、平版印刷版用支持体の耐傷性についても、改良の必要があることを見出した。
【0010】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、平版印刷版としたときに放置払い性および耐刷性に優れ、かつ、優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を得ることができる、耐傷性に優れた平版印刷版用支持体、平版印刷版用支持体の製造方法、および平版印刷版原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、陽極酸化皮膜中のマイクロポアの形状を制御することにより、上記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供する。
【0012】
(1) アルミニウム板と、その上にアルミニウムの陽極酸化皮膜とを備え、該陽極酸化皮膜中に該アルミニウム板とは反対側の表面から深さ方向にのびるマイクロポアを有する平版印刷版用支持体であって、
該マイクロポアが、陽極酸化皮膜表面からの深さ(深さA)が5〜60nmである大径孔部と、前記大径孔部の底部と連通して、その連通位置(連通位置X)からの深さ(深さB)が10nm以上である小径孔部と、前記小径孔部の底部と連通して、その連通位置(連通位置Y)からの深さ方向にのびる中径孔部とから構成され、
前記深さBと前記中径孔部の深さCとの合計が510nm以上であり、
前記大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(大径孔部径)と、前記小径孔部の連通位置Xにおける平均径(小径孔部径)と、前記中径孔部の連通位置Yにおける平均径(中径孔部径)とが、以下の式(I)の関係を満たし、
式(I) 大径孔部径>中径孔部径>小径孔部径
前記大径孔部径と前記小径孔部径との比(小径孔部径/大径孔部径)が0.8以下であることを特徴とする平版印刷版用支持体。
【0013】
(2) 大径孔部径が、10〜60nmである、(1)に記載の平版印刷版用支持体。
(3) 小径孔部径が、1〜10nmである、(1)または(2)に記載の平版印刷版用支持体。
(4) 中径孔部径が、1nm超20nm以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体。
【0014】
(5) 小径孔部の深さ(深さB)と、中径孔部の深さ(深さC)との比(深さB/深さC)が、1.0以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体。
(6) アルミニウム板を陽極酸化する第1陽極酸化処理工程と、
第1陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板を、酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させ、陽極酸化皮膜中のマイクロポアの径を拡大させるポアワイド処理工程と、
ポアワイド処理工程で得られたアルミニウム板を陽極酸化する第2陽極酸化処理工程と、
第2陽極酸化処理工程で得られたアルミニウム板を陽極酸化する第3陽極酸化処理工程とを備え、(1)〜(5)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体を製造する、平版印刷版用支持体の製造方法。
【0015】
(7) (1)〜(5)のいずれかに記載の平版印刷版用支持体上に、画像記録層を有することを特徴とする平版印刷版原版。
(8) 画像記録層が、露光により画像を形成し、非露光部が印刷インキおよび/または湿し水により除去可能となる画像記録層である(7)に記載の平版印刷版原版。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、平版印刷版としたときに放置払い性および耐刷性に優れ、かつ、優れた機上現像性を示す平版印刷版用原版を得ることができる、耐傷性に優れた平版印刷版用支持体、平版印刷版用支持体の製造方法、および平版印刷版原版を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の平版印刷版用支持体の一実施形態の模式的断面図である。
【図2】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法を工程順に示す基板および陽極酸化皮膜の模式的断面図である。
【図3】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【図5】本発明の平版印刷版用支持体の作製における機械粗面化処理に用いられるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【図6】本発明の平版印刷版用支持体の作製における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の平版印刷版用支持体、およびその製造方法について説明する。
本発明の平版印刷版用支持体は、アルミニウム板とその上に形成される陽極酸化皮膜とを備え、陽極酸化皮膜中のマイクロポアが、平均径の大きい大径孔部と、平均径の小さい小径孔部と、平均径が中程度の中径孔部とが深さ方向(皮膜の厚み方向)に沿って連結して構成される形状を有する。
特に、本発明においては、大径孔部、小径孔部、中径孔部の平均径および深さを制御することにより、トレードオフの関係とされていた放置払い性と耐刷性、または、機上現像性と耐刷性との関係を、より高いレベルで両立することができる。
【0019】
図1は、本発明の平版印刷版用支持体の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す平版印刷版用支持体10は、アルミニウム板12とアルミニウムの陽極酸化皮膜14とをこの順で積層した積層構造を有する。陽極酸化皮膜14は、その表面からアルミニウム板12側に向かってのびるマイクロポア16を有し、マイクロポア16は大径孔部18、小径孔部20、中径孔部22とから構成される。なお、ここではマイクロポアという用語は、陽極酸化皮膜中のポアを表す一般的に使われる用語であり、ポアのサイズを規定するものではない。
まず、アルミニウム板12および陽極酸化皮膜14について詳述する。
【0020】
<アルミニウム板>
本発明に用いられるアルミニウム板12(アルミニウム支持体)は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属であり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。純アルミニウム板の他、アルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板、またはアルミニウム(合金)がラミネートもしくは蒸着されたプラスチックフィルムもしくは紙の中から選ばれる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウムシートが結合された複合体シートでもかまわない。
【0021】
以下の説明において、上記に挙げたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板をアルミニウム板12と総称する。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがあり、合金中の異元素の含有量は10質量%以下である。本発明では純アルミニウム板が好適であるが、完全に純粋なアルミニウムは製錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。このように本発明に適用されるアルミニウム板12は、その組成が特定されるものではなく、従来より公知公用の素材のもの、例えばJIS A 1050、JIS A 1100、JIS A 3103、JIS A 3005などを適宜利用することが出来る。
【0022】
また、本発明に用いられるアルミニウム板12は通常ウェブ状で連続走行させながら処理され、その幅は400mm〜2000mm程度、厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度である。この幅や厚みは、印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により適宜変更することができる。
なお、アルミニウム板12には適宜後述の基板表面処理(粗面化処理)が施されてもよい。
【0023】
<陽極酸化皮膜>
陽極酸化皮膜14は、陽極酸化処理によってアルミニウム板12の表面に作製される、皮膜表面に垂直であり、個々が均一に分布した極微細なマイクロポア16を有する陽極酸化アルミニウム皮膜を指す。該マイクロポア16は、アルミニウム板12とは反対側の陽極酸化皮膜表面から深さ(厚み)方向(アルミニウム板12側)に沿ってのびる。
【0024】
陽極酸化皮膜14中のマイクロポア16は、陽極酸化皮膜表面からの深さ(深さA)が5〜60nmである大径孔部18と、該大径孔部18の底部と連通し、その連通位置(以後、連通位置Xと称する)からの深さ(深さB)が10nm以上である小径孔部20と、該小径孔部の底部と連通し、その連通位置(連通位置Y)からの深さ方向に延びる中径孔部22とから構成されている。なお、小径孔部の深さBと中径孔部の深さCとの合計が510nm以上である。また、大径孔部18の陽極酸化皮膜表面における平均径(大径孔部径)と、小径孔部20の連通位置Xにおける平均径(小径孔部径)と、中径孔部22の連通位置Yにおける平均径(中径孔部径)とが、後述する所定の関係を満たしている。
以下に、大径孔部18、小径孔部20、中径孔部22について詳述する。
【0025】
(大径孔部)
大径孔部18は、図1に示すように、陽極酸化皮膜表面にある孔部である。
大径孔部18の陽極酸化皮膜表面からの深さ(深さA)は、5〜60nmである。つまり、大径孔部18は、陽極酸化皮膜表面から深さ方向(厚み方向)に5〜60nmのびる孔部である。該範囲であれば、本発明の効果(平版印刷版の耐刷性および放置払い性、平版印刷版原版の機上現像性など)が得られる。なかでも、該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性、放置払い性、および、該支持体を用いて得られる平版印刷版原版の機上現像性がより優れる点で、大径孔部18の深さAは10〜50nmであることが好ましい。
大径孔部18の深さが5nm未満の場合、十分なアンカー効果が得られず、平版印刷版の耐刷性に劣る。深さが60nmを超える場合、平版印刷版の放置払い性と平版印刷版原版の機上現像性が劣る。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜14の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の大径孔部の深さを測定し、平均した値である。
【0026】
大径孔部18の陽極酸化皮膜表面における平均径(平均開口径、平均直径)は、後述する小径孔部20および中径孔部22の平均径と所定の関係を満たしていれば特に制限されない。なかでも、該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性、放置払い性がより優れ、該支持体を用いて得られる平版印刷版原版の機上現像性がより優れる点で、10〜60nmであることが好ましい。
該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性がより優れる点で、平均径は10〜50nmであることが好ましく、15〜50nmであることがより好ましく、20〜50nmであることがさらに好ましい。
平均径が10nm未満の場合、十分なアンカー効果が得られない場合があり、平版印刷版の耐刷性向上の程度が小さい。また、平均径が60nmを超える場合、粗面化した砂目を壊してしまい、耐刷性や放置払い性などの各種性能の向上の程度が小さい場合がある。
【0027】
大径孔部18の平均径は、陽極酸化皮膜14表面を倍率15万倍のFE−SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400×600nm2の範囲に存在するマイクロポア(大径孔部)の径を測定し、平均した値である。
なお、大径孔部18の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの当該円の直径である。
【0028】
大径孔部18の平均径とその底部が位置する深さAとの関係(深さA/平均径)は、0.1〜4.0の関係を満たすことが好ましい。該平版印刷版用支持体を用いて得られる平版印刷版の耐刷性、放置払い性、および、該支持体を用いて得られる平版印刷版原版の機上現像性がより優れる点で、(深さA/平均径)は0.3以上3.0未満であることが好ましく、0.3以上2.5未満であることがより好ましい。
【0029】
大径孔部18の形状は特に限定されず、略直管状(略円柱状)や、深さ方向(厚み方向)に向かって径が小さくなる円錐状などが挙げられ、好ましく略直管状である。また、大径孔部18の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
大径孔部18の内径は特に制限されないが、通常、開口部の径と同程度の大きさか、または開口部の径よりも小さい。なお、大径孔部18の内径は、通常、開口部の径よりも1〜10nm程度の差があってもよい。
【0030】
(小径孔部)
小径孔部20は、図1に示すように、大径孔部18の底部と連通して、連通位置(以後、適宜、連通位置Xと称する)よりさらに深さ方向(厚み方向)に延びる孔部である。ひとつの小径孔部20は、通常ひとつの大径孔部18と連通するが、2つ以上の小径孔部20がひとつの大径孔部18の底部と連通していてもよい。
後述するように、大径孔部18の下部に小径孔部20があることにより、マイクロポア16内部にインクなどが深く浸透してしまうことを防ぐことができる。
小径孔部20の連通位置Xからの深さ(深さB)は、10nm以上である。つまり、小径孔部20は、上記大径孔部18との連通位置(連通位置X)からさらに深さ方向(厚み方向)に10nm以上のびる孔部である。該範囲であれば、本発明の効果(平版印刷版の耐刷性および放置払い性、平版印刷版原版の機上現像性など)が得られる。
放置払い性および機上現像性がより優れる点から、小径孔部20の深さBは、30nm以上であることが好ましく、50〜400nmであることがより好ましく、175〜400nmであることが更に好ましい。
深さBが10nm未満の場合、平版印刷版の放置払い性および機上現像性に劣る。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜14の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の小径孔部の深さを測定し、平均した値である。
【0031】
小径孔部20の連通位置Xにおける平均径は、大径孔部18および後述する中径孔部22の平均径と所定の関係を満たしていれば特に制限されない。なかでも、平版印刷版の放置払い性および機上現像性がより優れる点で、平均径は1〜10nmであることが好ましく、1〜8nmがより好ましく、1〜7nmがさらに好ましい。
小径孔部20の平均径は、陽極酸化皮膜14表面を倍率15万倍のFE−SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400×600nm2の範囲に存在するマイクロポア(小径孔部)の径を測定し、平均した値である。
なお、小径孔部20の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。
【0032】
小径孔部20の連通位置Xにおける平均径と大径孔部18の陽極酸化皮膜表面における平均径との比(小径孔部径/大径孔部径)は、0.8以下である。
小径孔部径/大径孔部径の比が上記範囲内であれば、インキなどがマイクロポア16の内部に深く浸透することを防ぐため、結果として、本発明の効果(平版印刷版の耐刷性および放置払い性、平版印刷版原版の機上現像性など)が得られる。該比の下限としては0超であり、なかでも、耐刷性および放置払い性、機上現像性により優れる点で、0.65以下であることが好ましく、0.1〜0.5であることがより好ましい。
平均径の比が0.8を超えると、放置汚れ性、機上現像性が劣る。
【0033】
小径孔部20の形状は特に限定されず、略直管状(略円柱状)や、深さ方向に向かって径が小さくなる円錐状などが挙げられ、好ましくは略直管状である。また、小径孔部20の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
小径孔部20の内径は特に制限されないが、通常、連通位置における径と同程度の大きさか、または該径よりも小さい。なお、小径孔部20の内径は、通常、連通位置Xにおける径よりも1〜10nm程度の差があってもよい。
【0034】
(中径孔部22)
中径孔部22は、図1に示すように、小径孔部20の底部と連通して、その連通位置(以後、適宜、連通位置Yと称する)よりさらに深さ方向(厚み方向)に延びる孔部である。小径孔部20の下部に中径孔部22が配置されることにより、平版印刷版の放置払い性の向上、および平版印刷版用支持体の耐傷性の向上が期待できる。さらに、生産性の点でも、中径孔部22を製造する際に、小径孔部20を製造するときよりも、より短期間で皮膜を成長させることができるので、高スループットで所望の平版印刷版支持体を得ることができる。
中径孔部22の連通位置Yからの深さ(深さC)は、後述する小径孔部の深さBとの間で所定の関係を満たしていればよいが、500nm以上であることが好ましい。つまり、中径孔部22は、上記小径孔部20との連通位置(連通位置Y)からさらに深さ方向(厚み方向)に500nm以上のびる孔部であることが好ましい。該範囲であれば、本発明の効果(平版印刷版の耐刷性および放置払い性、平版印刷版原版の機上現像性など)が得られる。平版印刷版用支持体の耐傷性および生産性の観点から、中径孔部20の深さCは、700〜1800nm以下であることが好ましく、900〜1500nmであることがより好ましい。
深さCが500nm未満の場合、平版印刷版用支持体の耐傷性に劣る場合がある。また、深さCが1800nm超の場合、中径孔部の効果が飽和する場合があると共に、平版印刷版用支持体の生産性にやや劣る場合がある。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜14の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の中径孔部の深さを測定し、平均した値である。
【0035】
中径孔部22の連通位置Yにおける平均径は、上述した大径孔部18および小径孔部20の平均径と所定の関係を満たしていれば特に制限されない。なかでも、放置払い性、機上現像性の点で、平均径は1nm超20nm以下であることが好ましく、平均径3〜15nmであることが好ましく、5〜12nmがさらに好ましい。
中径孔部22の平均径は、皮膜上部(大径孔部と小径孔部のある領域)をアルゴンガスによって切削し、表面を倍率15万倍のFE−SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400×600nm2の範囲に存在するマイクロポア(中径孔部)の径を測定し、平均した値である。
なお、中径孔部22の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。
【0036】
中径孔部22の連通位置Yにおける平均径と小径孔部20の陽極酸化皮膜表面における平均径との比(小径孔部径/中径孔部径)は、0.9以下であることが好ましい。該範囲であれば、本発明の効果(平版印刷版の耐刷性および放置払い性、平版印刷版原版の機上現像性など)が得られる。該比の下限としては0超であり、なかでも、放置汚れ性により優れる点で、0.8以下であることが好ましく、0.1〜0.75であることがより好ましい。
平均径の比が0.9を超えると、平版印刷版の放置汚れ性が劣る場合がある。
【0037】
中径孔部22の形状は特に限定されず、略直管状(略円柱状)や、深さ方向に向かって径が小さくなる円錐状などが挙げられ、好ましくは略直管状である。また、中径孔部22の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
中径孔部22の内径は特に制限されないが、通常、連通位置Yにおける径と同程度の大きさか、または該径よりも小さい。なお、中径孔部22の内径は、通常、連通位置Yにおける径よりも1〜10nm程度の差があってもよい。
【0038】
上記大径孔部18の陽極酸化皮膜表面における平均径(大径孔部径)と、小径孔部20の連通位置Xにおける平均径(小径孔部径)と、中径孔部22の連通位置Yにおける平均径(中径孔部径)とは、以下の式(I)の関係を満たす。
式(I) 大径孔部径>中径孔部径>小径孔部径
【0039】
小径孔部の深さBと、中径孔部の深さCとの比(深さB/深さC)は特に制限されないが、生産性および経済性の点から、1.0以下であることが好ましく、0.02〜0.9であることがより好ましく、0.2〜0.8であることが更に好ましい。
【0040】
小径孔部20の深さB、および中径孔部22の深さCの合計は510nm以上である。上記範囲であれば、平版印刷版用支持体の耐傷性および生産性に優れる。なかでも、515nm〜2000nmであることが好ましく、750〜1800nmであることがより好ましく、950〜1800nmであることがさらに好ましい。深さが510nm未満であると、耐傷性に劣る。また、深さが2000nm超であると、処理時間が長期化し、生産性および経済性に劣る場合がある。
【0041】
陽極酸化皮膜14中でのマイクロポア16の密度は特に限定されないが、得られる平版印刷版の耐刷性および放置払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性が優れる点で、50〜4000個/μm2であることが好ましく、100〜3000個/μm2であることがより好ましい。
【0042】
陽極酸化皮膜14の皮膜量は特に限定されないが、平版印刷版用支持体の耐傷性が優れる点で、1.43〜5.50g/m2が好ましく、2.30〜4.00g/m2がより好ましい。
【0043】
なお、上述した平版印刷版用支持体の表面には、後述する画像記録層を設けて、平版印刷用原版として使用することができる。
【0044】
<平版印刷版用支持体の製造方法>
以下に本発明の平版印刷版用支持体の製造方法について説明する。
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法は特に限定されないが、以下の工程を順番に実施する製造方法が好ましい。
(粗面化処理工程)アルミニウム板に粗面化処理を施す工程
(第1陽極酸化処理工程)粗面化処理されたアルミニウム板を陽極酸化する工程
(ポアワイド処理工程)第1陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板を、酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させ、該陽極酸化皮膜中のマイクロポアの径を拡大させる工程
(第2陽極酸化処理工程)ポアワイド処理工程で得られたアルミニウム板を陽極酸化する工程
(第3陽極酸化処理工程)第2陽極酸化処理工程で得られたアルミニウム板を陽極酸化する工程
(親水化処理工程)第3陽極酸化処理工程で得られたアルミニウム板に親水化処理を施す工程
以下に上記各工程について詳述する。なお、粗面化処理工程および親水化処理工程は、発明の効果上、必要がなければ実施しなくてもよい。また、図2において、第1陽極酸化処理工程から第3陽極酸化処理工程までを工程順に示す基板および陽極酸化皮膜の模式的断面図を示す。
【0045】
<粗面化処理工程>
粗面化処理工程は、上述したアルミニウム板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理を施す工程である。該工程は、後述する第1陽極酸化処理工程の前に実施されることが好ましいが、アルミニウム板の表面がすでに好ましい表面形状を有していれば、特に実施しなくてもよい。
【0046】
粗面化処理は、電気化学的粗面化処理のみを施してもよいが、電気化学的粗面化処理と機械的粗面化処理および/または化学的粗面化処理とを組み合わせて施してもよい。
機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせる場合には、機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理を施すのが好ましい。
【0047】
電気化学的粗面化処理は、硝酸や塩酸の水溶液中で施すのが好ましい。
機械的粗面化処理は、一般的には、アルミニウム板の表面を表面粗さRa:0.35〜1.0μmとする目的で施される。
機械的粗面化処理の諸条件は特に限定されないが、例えば、特公昭50−40047号公報に記載されている方法に従って施すことができる。機械的粗面化処理は、パミストン懸濁液を使用したブラシグレイン処理により施したり、転写方式で施したりすることができる。
また、化学的粗面化処理も特に限定されず、公知の方法に従って施すことができる。
【0048】
機械的粗面化処理の後には、以下の化学エッチング処理を施すのが好ましい。
機械的粗面化処理の後に施される化学エッチング処理は、アルミニウム板の表面の凹凸形状のエッジ部分をなだらかにし、印刷時のインキの引っかかりを防止し、平版印刷版の耐汚れ性を向上させるとともに、表面に残った研磨材粒子等の不要物を除去するために行われる。
化学エッチング処理としては、酸によるエッチングやアルカリによるエッチングが知られているが、エッチング効率の点で特に優れている方法として、アルカリ溶液を用いる化学エッチング処理(以下、「アルカリエッチング処理」ともいう。)が挙げられる。
【0049】
アルカリ溶液に用いられるアルカリ剤は、特に限定されないが、例えば、カセイソーダ、カセイカリ、メタケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、グルコン酸ソーダ等が好適に挙げられる。
また、各アルカリ剤は、アルミニウムイオンを含有してもよい。アルカリ溶液の濃度は、0.01質量%以上であるのが好ましく、3質量%以上であるのがより好ましく、また、30質量%以下であるのが好ましく、25質量%以下であるのがより好ましい。
更に、アルカリ溶液の温度は室温以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、80℃以下であるのが好ましく、75℃以下であるのがより好ましい。
【0050】
エッチング量は、0.1g/m2以上であるのが好ましく、1g/m2以上であるのがより好ましく、また、20g/m2以下であるのが好ましく、10g/m2以下であるのがより好ましい。
また、処理時間は、エッチング量に対応して2秒〜5分であるのが好ましく、生産性向上の点から2〜10秒であるのがより好ましい。
【0051】
本発明においては、機械的粗面化処理後にアルカリエッチング処理を施した場合、アルカリエッチング処理により生じる生成物を除去するために、低温の酸性溶液を用いて化学エッチング処理(以下、「デスマット処理」ともいう。)を施すのが好ましい。
酸性溶液に用いられる酸は、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸が挙げられる。酸性溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましい。また、酸性溶液の温度は、20〜80℃であるのが好ましい。酸性溶液の濃度および温度がこの範囲であると、本発明の平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐ポツ状汚れ性がより向上する。
【0052】
本発明においては、上記粗面化処理は、所望により機械的粗面化処理および化学エッチング処理を施した後に、電気化学的粗面化処理を施す処理であるが、機械的粗面化処理を行わずに電気化学的粗面化処理を施す場合にも、電気化学的粗面化処理の前に、カセイソーダ等のアルカリ水溶液を用いて化学エッチング処理を施すことができる。これにより、アルミニウム板の表面近傍に存在する不純物等を除去することができる。
【0053】
電気化学的粗面化処理は、アルミニウム板の表面に微細な凹凸(ピット)を付与することが容易であるため、印刷性の優れた平版印刷版を作るのに適している。
電気化学的粗面化処理は、硝酸または塩酸を主体とする水溶液中で、直流または交流を用いて行われる。
【0054】
また、電気化学的粗面化処理の後には、以下の化学エッチング処理を行うのが好ましい。電気化学的粗面化処理後のアルミニウム板の表面には、スマットや金属間化合物が存在する。電気化学的粗面化処理の後に行われる化学エッチング処理においては、特にスマットを効率よく除去するため、まず、アルカリ溶液を用いて化学エッチング処理(アルカリエッチング処理)をするのが好ましい。アルカリ溶液を用いた化学エッチング処理の諸条件は、処理温度は20〜80℃であるのが好ましく、また、処理時間は1〜60秒であるのが好ましい。また、アルカリ溶液中にアルミニウムイオンを含有するのが好ましい。
【0055】
更に、電気化学的粗面化処理後にアルカリ溶液を用いる化学エッチング処理を行った後、それにより生じる生成物を除去するために、低温の酸性溶液を用いて化学エッチング処理(デスマット処理)を行うのが好ましい。
また、電気化学的粗面化処理後にアルカリエッチング処理を行わない場合においても、スマットを効率よく除去するため、デスマット処理を行うのが好ましい。
【0056】
本発明においては、上述した化学エッチング処理は、いずれも浸せき法、シャワー法、塗布法等により行うことができ、特に限定されない。
【0057】
<第1陽極酸化処理工程>
第1陽極酸化処理工程は、上述した粗面化処理が施されたアルミニウム板に陽極酸化処理を施すことにより、該アルミニウム板表面に深さ方向(厚み方向)にのびるマイクロポアを有するアルミニウムの酸化皮膜を形成する工程である。この第1陽極酸化処理により、図2(A)に示されるように、アルミニウム板12の表面に、マイクロポア16aを有するアルミニウムの陽極酸化皮膜14aが形成される。
【0058】
第1陽極酸化処理は、この分野で従来から行われている方法で行うことができるが、上述したマイクロポア16を最終的に形成できるように適宜製造条件が設定される。
具体的には、第1陽極酸化処理工程において形成されるマイクロポア16aの平均径(平均開口径)は、通常、4〜14nm程度であることが好ましく、より好ましくは5〜10nmである。上記範囲内であれば、上述した所定の形状を有するマイクロポア16が形成しやすく、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の性能もより優れる。
また、マイクロポア16aの深さは、通常、5nm以上100nm未満程度であり、好ましくは20〜60nmである。上記範囲内であれば、上述した所定の形状を有するマイクロポア16が形成しやすく、得られる平版印刷版および平版印刷版原版の性能もより優れる。
【0059】
マイクロポア16aのポア密度は特に限定されないが、ポア密度が50〜4000個/μm2であることが好ましく、100〜3000個/μm2であることがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる平版印刷版の耐刷性および放置払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
【0060】
また、第1陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の膜厚は、35〜120nmが好ましく、より好ましくは40〜90nmである。上記範囲内であれば、該工程を経て得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐刷性および放置払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
さらに、第1陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の皮膜量は、0.1〜0.3g/m2が好ましく、より好ましくは0.12〜0.25g/m2である。上記範囲内であれば、該工程を経て得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐刷性および放置払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
【0061】
第1陽極酸化処理工程においては、硫酸、リン酸、シュウ酸、等の水溶液を主に電解浴として用いることができる。場合によっては、クロム酸、スルファミン酸、ベンゼンスルフォン酸等またはこれらの二種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液を用いることもできる。上記のような電解浴中でアルミニウム板に直流または交流を流すと、アルミニウム板表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。
なお、電解浴にはアルミニウムイオンが含まれていてもよい。アルミニウムイオンの含有量は特に限定されないが、1〜10g/Lが好ましい。
【0062】
陽極酸化処理の条件は使用される電解液によって適宜設定されるが、一般的には、電解液の濃度(硫酸などの電解質濃度)が1〜80質量%(好ましくは5〜20質量%)、液温5〜70℃(好ましくは10〜60℃)、電流密度0.5〜60A/dm2(好ましくは5〜50A/dm2)、電圧1〜100V(好ましくは5〜50V)、電解時間1〜100秒(好ましくは5〜60秒)の範囲が適当である。
【0063】
これらの陽極酸化処理のうちでも特に、英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸中にて高電流密度で陽極酸化する方法が好ましい。
【0064】
<ポアワイド処理工程>
ポアワイド処理工程は、上述した第1陽極酸化処理工程により形成された陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの径(ポア径)を拡大させる処理(孔径拡大処理)である。このポアワイド処理により、図2(B)に示されるように、マイクロポア16aの径が拡大され、より大きな平均径を有するマイクロポア16bを有する陽極酸化皮膜14bが形成される。
このポアワイド処理により、マイクロポア16bの平均径は、10〜60nm(好ましくは、10〜50nm)の範囲まで拡大されることが好ましい。なお、このマイクロポア16bは、上述した大径孔部18に該当する部分となる。
また、該処理により、マイクロポア16bの表面からの深さは、上述した深さAと同程度となるように調整することが好ましい。
【0065】
ポアワイド処理は、上述した第1陽極酸化処理工程により得られたアルミニウム板を、酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させることにより行う。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。
【0066】
ポアワイド処理工程においてアルカリ水溶液を使用する場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリ水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1〜5質量%であるのが好ましい。
なお、アルカリ水溶液のpH=11〜13に調整した後、10〜70℃(好ましくは20〜50℃)の条件下で、アルミニウム板をアルカリ水溶液に1〜300秒(好ましくは1〜50秒)接触させることが適当である。
この際、アルカリ処理液中に炭酸塩、硼酸塩、燐酸塩等の多価弱酸の金属塩を含んでもよい。
【0067】
ポアワイド処理工程において酸水溶液を使用する場合、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸またはこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は、1〜80質量%が好ましく、より好ましくは5〜50質量%である。
なお、酸水溶液の液温5〜70℃(好ましくは10〜60℃)の条件下で、アルミニウム板を酸水溶液に1〜300秒(好ましくは1〜150秒)接触させることが適当である。
なお、アルカリ水溶液または酸水溶液中にはアルミニウムイオンが含まれていてもよい。アルミニウムイオンの含有量は特に限定されないが、0.5〜10g/Lが好ましい。
【0068】
<第2陽極酸化処理工程>
第2陽極酸化処理工程は、上述したポアワイド処理が施されたアルミニウム板に陽極酸化処理を施すことにより、より深さ方向(厚み方向)にのびたマイクロポアを形成する工程である。この第2陽極酸化処理工程により、図2(C)に示されるように、深さ方向にのびたマイクロポア16cを有する陽極酸化皮膜14cが形成される。
この第2陽極酸化処理工程によって、平均径が拡大されたマイクロポア16bの底部に連通し、平均径がマイクロポア16b(大径孔部18に該当)の平均径より小さく、連通位置から深さ方向にのびる新たな孔部20aが形成される。該孔部20aが、上述した小径孔部20に該当する。
【0069】
第2陽極酸化処理工程においては、新たに形成される孔部20aの平均径および深さが上述した小径孔部20の所定範囲になるように処理が実施される。なお、処理に使用される電解浴は特に制限されず、例えば、上記の第1陽極酸化処理工程で説明した電解浴が挙げられる。
陽極酸化処理の条件は使用される電解液によって適宜設定されるが、一般的には、電解液の濃度が1〜80質量%(好ましくは5〜20質量%)、液温5〜70℃(好ましくは10〜60℃)、電流密度0.5〜60A/dm2(好ましくは1〜30A/dm2)、電圧1〜100V(好ましくは5〜50V)、電解時間1〜100秒(好ましくは5〜60秒)の範囲が適当である。
【0070】
第2陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の膜厚は、通常、10〜500nmであることが好ましく、より好ましくは100〜500nmである。上記範囲内であれば、該工程を経て得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐刷性および放置払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
また、第2陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の皮膜量は、通常、0.03〜1.30g/m2であり、好ましくは0.26〜1.30g/m2である。上記範囲内であれば、該工程を経て得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐刷性および放置払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
【0071】
<第3陽極酸化処理工程>
第3陽極酸化処理工程は、上述した第2陽極酸化処理が施されたアルミニウム板に陽極酸化処理を施すことにより、より深さ方向(厚み方向)にのびたマイクロポアを形成する工程である。この第3陽極酸化処理工程により、図2(D)に示されるように、深さ方向にのびたマイクロポア16dを有する陽極酸化皮膜14dが形成される。
この第3陽極酸化処理工程によって、第2陽極酸化処理で得られた孔部20aの底部に連通し、平均径が孔部20a(小径孔部20に該当)の平均径より大きく、連通位置から深さ方向にのびる新たな孔部22aが形成される。該孔部22aが、上述した中径孔部22に該当する。
【0072】
第3陽極酸化処理工程においては、新たに形成される孔部22aの平均径および深さが上述した中径孔部22の所定範囲になるように処理が実施される。なお、処理に使用される電解浴は特に制限されず、例えば、上記の第1陽極酸化処理工程で説明した電解浴が挙げられる。
陽極酸化処理の条件は使用される電解液によって適宜設定されるが、一般的には、電解液の濃度が1〜80質量%(好ましくは5〜20質量%)、液温5〜70℃(好ましくは10〜60℃)、電流密度0.5〜60A/dm2(好ましくは1〜30A/dm2)、電圧1〜100V(好ましくは5〜50V)、電解時間1〜100秒(好ましくは5〜60秒)の範囲が適当である。
【0073】
第3陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の膜厚は、通常、500〜1985nmであることが好ましく、より好ましくは900〜1500nmである。上記範囲内であれば、該工程を経て得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐刷性および放置払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
また、第3陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の皮膜量は、通常、1.30〜5.16g/m2であり、好ましくは2.34〜3.90g/m2である。上記範囲内であれば、該工程を経て得られる平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版の耐刷性および放置払い性、並びに、平版印刷版原版の機上現像性に優れる。
【0074】
第2陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の厚み(皮膜厚み2)と、第3陽極酸化処理工程により得られる陽極酸化皮膜の厚み(皮膜厚み3)との比(皮膜厚み2/皮膜厚み3)は、0.1〜0.9が好ましく、0.2〜0.8がより好ましい。上記範囲内であれば、生産性に優れ、かつ、平版印刷版用支持体の耐傷性に優れる。
【0075】
<親水化処理工程>
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法は、上述した第3陽極酸化処理工程の後、親水化処理を施す親水化処理工程を有していてもよい。なお、親水化処理としては、特許公開2005−254638の段落[0109]〜[0114]に開示される公知の方法が使用できる。
【0076】
なお、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸漬させる方法、親水性ビニルポリマーまたは親水性化合物を塗布して親水性の下塗層を形成させる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。
【0077】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法および手順に従って行うことができる。
【0078】
<好適態様>
一方、本発明の平版印刷版用支持体としては、上述したアルミニウム板に対して、以下のA態様またはB態様に示す各処理を以下に示す順に施して得られる平版印刷版用支持体が好ましく、耐刷性の点から、特にA態様が好ましい。なお、以下の各処理の間に水洗を行うことが望ましい。ただし、連続して行う2つの工程(処理)が同じ組成の液を使用する場合は水洗を省いてもよい。
【0079】
(A態様)
(2)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第1アルカリエッチング処理)
(3)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1デスマット処理)
(4)硝酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理(第1電気化学的粗面化処理)
(5)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第2アルカリエッチング処理)
(6)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第2デスマット処理)
(7)塩酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理(第2電気化学的粗面化処理)
(8)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第3アルカリエッチング処理)
(9)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第3デスマット処理)
(10)陽極酸化処理およびポアワイド処理
(11)親水化処理
【0080】
(B態様)
(2)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第1アルカリエッチング処理)
(3)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1デスマット処理)
(12)塩酸を主体とする水溶液中で電気化学的粗面化処理
(5)アルカリ水溶液中で化学エッチング処理(第2アルカリエッチング処理)
(6)酸性水溶液中で化学エッチング処理(第2デスマット処理)
(10)陽極酸化処理およびポアワイド処理
(11)親水化処理
【0081】
なお、上記A態様およびB態様の(2)の処理の前に、必要に応じて、(1)機械的粗面化処理を実施してもよい。なお、耐刷性などの観点からは、該(1)の処理は各態様に含まれないほうが好ましい。
ここで、上記(1)〜(12)における機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理、化学エッチング処理、陽極酸化処理および親水化処理は、上述した処理方法、条件と同様の方法で行うことができるが、以下に説明する処理方法、条件で施すのが好ましい。
【0082】
機械的粗面化処理は、毛径が0.2〜1.61mmの回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム板表面に供給されるスラリー液で機械的に粗面化処理するのが好ましい。
研磨剤としては公知の物が使用できるが、珪砂、石英、水酸化アルミニウムまたはこれらの混合物が好ましい。
スラリー液の比重は1.05〜1.3が好ましい。勿論、スラリー液を吹き付ける方式、ワイヤーブラシを用いる方式、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状をアルミニウム板に転写する方式などを用いてもよい。
【0083】
アルカリ水溶液中での化学エッチング処理に用いるアルカリ水溶液の濃度は1〜30質量%が好ましく、アルミニウムおよびアルミニウム合金中に含有する合金成分が0〜10質量%含有していてよい。
アルカリ水溶液としては、特に苛性ソーダを主体とする水溶液が好ましい。液温は常温〜95℃で、1〜120秒間処理するのが好ましい。
エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うのが好ましい。
【0084】
第1アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、0.5〜30g/m2であるのが好ましく、1.0〜20g/m2であるのがより好ましく、3.0〜15g/m2であるのが更に好ましい。
第2アルカリエッチング処理においては、アルミニウム板の溶解量は、0.001〜30g/m2であるのが好ましく、0.1〜4g/m2であるのがより好ましく、0.2〜1.5g/m2であるのが更に好ましい。
第3アルカリエッチング処理においては、アルミニウム板の溶解量は、0.001〜30g/m2であるのが好ましく、0.01〜0.8g/m2であるのがより好ましく、0.02〜0.3g/m2であるのが更に好ましい。
【0085】
酸性水溶液中で化学エッチング処理(第1〜第3デスマット処理)では、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、またはこれらの2以上の酸を含む混酸が好適に用いられる。
酸性水溶液の濃度は0.5〜60質量%が好ましい。
また、酸性水溶液中にはアルミニウムおよびアルミニウム合金中に含有する合金成分が0〜5質量%溶解していてもよい。
また、液温は常温から95℃で実施され、処理時間は1〜120秒が好ましい。デスマット処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないためにニップローラーによる液切りとスプレーによる水洗を行うのが好ましい。
【0086】
電気化学的粗面化処理に用いられる水溶液について説明する。
第1電気化学的粗面化処理で用いる硝酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/Lの硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどの塩酸イオン;等を有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/L〜飽和まで添加して使用することができる。
また、硝酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、硝酸0.5〜2質量%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/Lとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いるのが好ましい。
また、温度は10〜90℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。
【0087】
一方、第2電気化学的粗面化処理で用いる塩酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/Lの塩酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどの塩酸イオン;等を有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/L〜飽和まで添加して使用することができる。
また、塩酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、塩酸0.5〜2質量%水溶液中にアルミニウムイオンが3〜50g/Lとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムを添加した液を用いるのが好ましい。
また、温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。なお、次亜塩素酸を添加してもよい。
一方、B態様における塩酸水溶液中での電気化学的粗面化処理で用いる塩酸を主体とする水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜100g/Lの塩酸水溶液に、硫酸を0〜30g/L添加して使用することができる。また、この溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウムなどの塩酸イオン;等を有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/L〜飽和まで添加して使用することができる。
また、塩酸を主体とする水溶液中には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。
具体的には、硝酸0.5〜2質量%水溶液中に、アルミニウムイオンが3〜50g/Lとなるように塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等を添加した液を用いるのが好ましい。
また、温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。なお、次亜塩素酸を添加してもよい。
【0088】
電気化学的粗面化処理の交流電源波形は、サイン波、矩形波、台形波、三角波などを用いることができる。周波数は0.1〜250Hzが好ましい。
【0089】
図3は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
図3において、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流が0からピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流である。台形波において、電流が0からピークに達するまでの時間tpは1〜10msecが好ましい。電源回路のインピーダンスの影響のため、tpが1未満であると電流波形の立ち上がり時に大きな電源電圧が必要となり、電源の設備コストが高くなる。10msecより大きくなると、電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり均一な粗面化が行われにくくなる。電気化学的な粗面化に用いる交流の1サイクルの条件が、アルミニウム板のアノード反応時間taとカソード反応時間tcの比tc/taが1〜20、アルミニウム板がアノード時の電気量Qcとアノード時の電気量Qaの比Qc/Qaが0.3〜20、アノード反応時間taが5〜1000msec、の範囲にあるのが好ましい。tc/taは2.5〜15であるのがより好ましい。Qc/Qaは2.5〜15であるのがより好ましい。電流密度は台形波のピーク値で電流のアノードサイクル側Ia、カソードサイクル側Icともに10〜200A/dm2が好ましい。Ic/Iaは0.3〜20の範囲にあるのが好ましい。電気化学的な粗面化が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和は25〜1000C/dm2が好ましい。
【0090】
本発明においては、交流を用いた電気化学的な粗面化に用いる電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型など公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。
【0091】
交流を用いた電気化学的な粗面化には図4に示した装置を用いることができる。
図4は、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
図4において、50は主電解槽、51は交流電源、52はラジアルドラムローラ、53a,53bは主極、54は電解液供給口、55は電解液、56はスリット、57は電解液通路、58は補助陽極、60は補助陽極槽、Wはアルミニウム板である。電解槽を2つ以上用いるときには、電解条件は同じでもよいし、異なっていてもよい。
アルミニウム板Wは主電解槽50中に浸漬して配置されたラジアルドラムローラ52に巻装され、搬送過程で交流電源51に接続する主極53a、53bにより電解処理される。電解液55は電解液供給口54からスリット56を通じてラジアルドラムローラ52と主極53a、53bとの間の電解液通路57に供給される。主電解槽50で処理されたアルミニウム板Wは次いで補助陽極槽60で電解処理される。この補助陽極槽60には補助陽極58がアルミニウム板Wと対向配置されており、電解液55が補助陽極58とアルミニウム板Wとの間の空間を流れるように供給される。
【0092】
一方、電気化学的粗面化処理(第1および第2電気化学的粗面化処理)では、アルミニウム板とこれに対向する電極間に直流電流を加え、電気化学的に粗面化する方法であってもよい。
【0093】
<乾燥工程>
上述した工程により得られた平版印刷版用支持体を得た後、後述する画像記録層を設ける前に、平版印刷版用支持体の表面を乾燥させる処理(乾燥工程)を施すのが好ましい。
乾燥は、表面処理の最後の処理の後、水洗処理およびニップローラーで液切りしてから行うのが好ましい。具体的な条件としては特に制限されないが、熱風(50〜200℃)、または、冷風自然乾燥法等で乾燥することが好ましい。
【0094】
<平版印刷版原版>
本発明の平版印刷版用支持体には、以下に例示する感光層、感熱層等の画像記録層を設けて本発明の平版印刷版原版とすることができる。画像記録層は、特に限定されないが、例えば、特開2003−1956号公報の段落[0042]〜[0198]に記載される、コンベンショナルポジタイプ、コンベンショナルネガタイプ、フォトポリマータイプ、サーマルポジタイプ、サーマルネガタイプ、機上現像可能な無処理タイプが好適に挙げられる。
以下、好適な画像記録層について、詳細に説明する。
【0095】
<画像記録層>
本発明の平版印刷版原版に用いることができる好ましい画像記録層としては、印刷インキおよび/または湿し水により除去可能なものであり、具体的には、赤外線吸収剤と、重合開始剤と、重合性化合物を有し、赤外線の照射により記録可能な画像記録層であるのが好ましい。
本発明の平版印刷版原版においては、赤外線の照射により画像記録層の露光部が硬化して疎水性(親油性)領域を形成し、かつ、印刷開始時に未露光部が湿し水、インキまたは湿し水とインキとの乳化物によって支持体上から速やかに除去される。
以下、画像記録層の各構成成分について説明する。
【0096】
(赤外線吸収剤)
本発明の平版印刷版原版を、760〜1200nmの赤外線を発するレーザーを光源として画像形成する場合には、通常、赤外線吸収剤を用いる。
赤外線吸収剤は、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して後述する重合開始剤(ラジカル発生剤)に電子移動/エネルギー移動する機能を有する。
本発明において使用することができる赤外線吸収剤は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料または顔料である。
【0097】
染料としては、市販の染料や、例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。
具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。例えば、特開2009-255434号公報の段落[0096]〜[0107]に開示される染料を好適に使用することができる。
一方、顔料としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0108]〜[0112]に記載される顔料が利用できる。
【0098】
(重合開始剤)
上記重合開始剤は、光、熱あるいはその両方のエネルギーによりラジカルを発生し、重合性の不飽和基を有する化合物の重合を開始、促進する化合物であり、本発明においては、熱によりラジカルを発生する化合物(熱ラジカル発生剤)を使用するのが好ましい。
上記重合開始剤としては、公知の熱重合開始剤や結合解離エネルギーの小さな結合を有する化合物、光重合開始剤などを使用することができる。
重合開始剤としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0115]〜[0141]に記載される重合開始剤などが利用できる。
【0099】
なお、重合開始剤としてオニウム塩などが使用でき、反応性、安定性の面から上記オキシムエステル化合物あるいはジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩が好適なものとして挙げられる。
【0100】
これらの重合開始剤は、画像記録層を構成する全固形分に対し0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、特に好ましくは1〜20質量%の割合で添加することができる。この範囲で、良好な感度と印刷時の非画像部の良好な汚れ難さが得られる。
【0101】
(重合性化合物)
重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選択される。本発明においては、このような化合物は本発明の技術分野において広く知られるものを特に限定無く用いることができる。
重合性化合物としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0142]〜[0163]に例示される重合性化合物などが使用できる。
【0102】
また、イソシアネートとヒドロキシル基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適である。その具体例としては、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(I)で示されるヒドロキシル基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0103】
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (A)
(ただし、R4およびR5は、HまたはCH3を示す。)
【0104】
重合性化合物は、画像記録層中の不揮発性成分に対して、好ましくは5〜80質量%、さらに好ましくは25〜75質量%の範囲で使用される。また、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0105】
(バインダーポリマー)
本発明においては、画像記録層には、画像記録層の皮膜形成性を向上させるためバインダーポリマーを用いることができる。
バインダーポリマーは従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。このようなバインダーポリマーとしては、具体的には、例えば、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノボラック型フェノール系樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。
バインダーポリマーは、画像部の皮膜強度を向上するために、架橋性を有していてもよい。バインダーポリマーに架橋性を持たせるためには、エチレン性不飽和結合等の架橋性官能基を高分子の主鎖中または側鎖中に導入すればよい。架橋性官能基は、共重合により導入してもよい。
バインダーポリマーとしては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0165]〜[0172]に開示されるバインダーポリマーを使用することもできる。
【0106】
バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、5〜90質量%であり、5〜80質量%であるのが好ましく、10〜70質量%であるのがより好ましい。この範囲で、良好な画像部の強度と画像形成性が得られる。
また、重合性化合物とバインダーポリマーは、質量比で0.5/1〜4/1となる量で用いるのが好ましい。
【0107】
(界面活性剤)
画像記録層には、印刷開始時の機上現像性を促進させるため、および、塗布面状を向上させるために界面活性剤を用いるのが好ましい。
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0175]〜[0179]に開示される界面活性剤などを使用できる。
【0108】
界面活性剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
界面活性剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して、0.001〜10質量%であるのが好ましく、0.01〜5質量%であるのがより好ましい。
【0109】
画像記録層には、さらに必要に応じてこれら以外に種々の化合物を添加してもよい。例えば、特開2009-255434号公報の段落[0181]〜[0190]に開示される着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、低分子親水性化合物などが挙げられる。
【0110】
<画像記録層の形成>
画像記録層は、必要な上記各成分を溶剤に分散または溶かして塗布液を調製した後、該塗布液を支持体上に塗布することにより形成される。ここで、使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、水等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
これらの溶剤は、単独または混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0111】
また、塗布、乾燥後に得られる平版印刷版用支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/m2が好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
塗布する方法としては、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0112】
<下塗り層>
本発明の平版印刷版原版においては、上述した画像記録層と平版印刷版用支持体との間に下塗り層を設けることが望ましい。
【0113】
下塗り層は、基板吸着性基、重合性基および親水性基を有するポリマーを含有することが好ましい。
基板吸着性基、重合性基および親水性基を有するポリマーとしては、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー、および、重合性反応基(架橋性基)を有するモノマーを共重合した下塗り用高分子樹脂を挙げることができる。
下塗り用高分子樹脂に使用できるモノマーとしては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0197]〜[0210]などに記載されるモノマーが挙げられる。
【0114】
下塗り層塗布液を支持体に塗布する方法としては、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜50mg/m2であるのがより好ましい。
【0115】
<保護層>
本発明の平版印刷版原版においては、画像記録層における傷等の発生防止、酸素遮断、高照度レーザー露光時のアブレーション防止のため、必要に応じて、画像記録層の上に保護層を設けることができる。
保護層については、以前より種々検討がなされており、例えば、米国特許第3、458、311号明細書および特公昭55−49729号公報に詳細に記載されている。
また、保護層に用いられる材料としては、例えば、特開2009-255434号公報の段落[0213]〜[02227]などに記載される材料(水溶性高分子化合物、無機質の層状化合物など)を用いることができる。
【0116】
調製された保護層塗布液を、支持体上に備えられた画像記録層の上に塗布し、乾燥して保護層を形成する。塗布溶剤はバインダーとの関連において適宜選択することができるが、水溶性ポリマーを用いる場合には、蒸留水、精製水を用いることが好ましい。保護層の塗布方法は、特に制限されるものではなく、例えば、ブレード塗布法、エアナイフ塗布法、グラビア塗布法、ロールコーティング塗布法、スプレー塗布法、ディップ塗布法、バー塗布法等が挙げられる。
【0117】
保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/m2の範囲であることが好ましく、0.02〜3g/m2の範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/m2の範囲である。
【0118】
上記のような画像記録層を有する本発明の平版印刷版原版は、平版印刷版としたときに優れた放置払い性、耐刷性を示しつつ、機上現像型の場合は機上現像性が向上した平版印刷版原版となる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0120】
<平版印刷版用支持体の製造>
厚さ0.3mmの材質1Sのアルミニウム合金板に対し、下記(A)から(F)のうち下記第1表に示す処理を施し、平版印刷版用支持体を製造した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施し、水洗処理の後にはニップローラーで液切りを行った。
【0121】
<処理A>
(A−a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
図5に示したような装置を使って、パミスの懸濁液(比重1.1g/cm3)を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転する束植ブラシにより機械的粗面化処理を行った。図5において、1はアルミニウム板、2および4はローラ状ブラシ(本実施例において、束植ブラシ)、3は研磨スラリー液、5、6、7および8は支持ローラである。
機械的粗面化処理は、研磨材のメジアン径(μm)を30μm、ブラシ本数を4本、ブラシの回転数(rpm)を250rpmとした。束植ブラシの材質は6・10ナイロンで、ブラシ毛の直径0.3mm、毛長50mmであった。ブラシは、φ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。束植ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。束植ブラシはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、束植ブラシをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して10kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。
【0122】
(A−b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、10g/m2であった。
【0123】
(A−c)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硝酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硝酸水溶液は、次工程の電気化学的な粗面化に用いた硝酸の廃液を用いた。その液温は35℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0124】
(A−d)電気化学的粗面化処理
硝酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、温度35℃、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図3に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図4に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で185C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0125】
(A−e)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.5g/m2であった。
【0126】
(A−f)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硫酸水溶液は、硫酸濃度170g/L、アルミニウムイオン濃度5g/Lの液を用いた。その液温は、30℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0127】
(A−g)電気化学的粗面化処理
塩酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。電解液は、液温35℃、塩酸6.2g/Lの水溶液に塩化アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図3に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図4に示すものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2であり、塩酸電解における電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で63C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0128】
(A−h)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.1g/m2であった。
【0129】
(A−i)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。具体的には、陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5g/Lを溶解)を用い、液温35℃で4秒間デスマット処理を行った。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0130】
(A−j)第1段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0131】
(A−k)ポアワイド処理
上記陽極酸化処理したアルミニウム板を、温度35℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に表1に示す条件にて浸漬し、ポアワイド処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0132】
(A−l)第2段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0133】
(A−m)第3段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第3段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0134】
(A−n)シリケート処理
非画像部の親水性を確保するため、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて50℃で7秒間ディップしてシリケート処理を施した。Siの付着量は10mg/m2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0135】
<処理(B)>
(B−a)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。後に電気化学的粗面化処理を施す面のアルミニウム溶解量は、1.0g/m2であった。
【0136】
(B−b)酸性水溶液中でのデスマット処理(第1デスマット処理)
次に、酸性水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる酸性水溶液は、硫酸150g/Lの水溶液を用いた。その液温は30℃であった。デスマット液はスプレーにより吹き付けて、3秒間デスマット処理した。その後、水洗処理を行った。
【0137】
(B−c)塩酸水溶液中での電気化学的粗面化処理
次に、塩酸濃度14g/L、アルミニウムイオン濃度13g/L、硫酸濃度3g/Lの電解液を用い、交流電流を用いて電解粗面化処理を行った。電解液の液温は30℃であった。アルミニウムイオン濃度は塩化アルミニウムを添加して調整した。
交流電流の波形は正と負の波形が対称な正弦波であり、周波数は50Hz、交流電流1周期におけるアノード反応時間とカソード反応時間は1:1、電流密度は交流電流波形のピーク電流値で75A/dm2であった。また、電気量はアルミニウム板がアノード反応に預かる電気量の総和で450C/dm2であり、電解処理は125C/dm2ずつ4秒間の通電間隔を開けて4回に分けて行った。アルミニウム板の対極にはカーボン電極を用いた。その後、水洗処理を行った。
【0138】
(B−d)アルカリエッチング処理
電気化学的粗面化処理後のアルミニウム板を、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度35℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。電気化学的粗面化処理が施された面のアルミニウムの溶解量は0.1g/m2であった。その後、水洗処理を行った。
【0139】
(B−e)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、酸性水溶液中でのデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる酸性水溶液は、陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5.0g/L溶解)を用いた。液温は30℃であった。デスマット液はスプレーに吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0140】
(B−f)第1段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0141】
(B−g)ポアワイド処理
上記陽極酸化処理したアルミニウム板を、温度35℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に表1に示す条件にて浸漬し、ポアワイド処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0142】
(B−h)第2段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0143】
(B−i)第3段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第3段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0144】
(B−j)シリケート処理
非画像部の親水性を確保するため、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて50℃で7秒間ディップしてシリケート処理を施した。Siの付着量は10mg/m2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0145】
<処理(C)>
(C−a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
図5に示したような装置を使って、パミスの懸濁液(比重1.1g/cm3)を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転する束植ブラシにより機械的粗面化処理を行った。
機械的粗面化処理は、研磨材のメジアン径(μm)を30μm、ブラシ本数を4本、ブラシの回転数(rpm)を250rpmとした。束植ブラシの材質は6・10ナイロンで、ブラシ毛の直径0.3mm、毛長50mmであった。ブラシは、φ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。束植ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。束植ブラシはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、束植ブラシをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して10kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。
【0146】
(C−b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、10g/m2であった。
【0147】
(C−c)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、酸性水溶液中でのデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる酸性水溶液は、陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5.0g/L溶解)を用いた。液温は30℃であった。デスマット液はスプレーに吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0148】
(C−d)第1段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0149】
(C−e)ポアワイド処理
上記陽極酸化処理したアルミニウム板を、温度35℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に表1に示す条件にて浸漬し、ポアワイド処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0150】
(C−f)第2段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0151】
(C−g)第3段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第3段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0152】
(C−h)シリケート処理
非画像部の親水性を確保するため、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて50℃で7秒間ディップしてシリケート処理を施した。Siの付着量は10mg/m2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0153】
<処理(D)>
(D−a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
図5に示したような装置を使って、パミスの懸濁液(比重1.1g/cm3)を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転する束植ブラシにより機械的粗面化処理を行った。
機械的粗面化処理は、研磨材のメジアン径(μm)を30μm、ブラシ本数を4本、ブラシの回転数(rpm)を250rpmとした。束植ブラシの材質は6・10ナイロンで、ブラシ毛の直径0.3mm、毛長50mmであった。ブラシは、φ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。束植ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。束植ブラシはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、束植ブラシをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して10kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。
【0154】
(D−b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、10g/m2であった。
【0155】
(D−c)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硝酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硝酸水溶液は、次工程の電気化学的な粗面化に用いた硝酸の廃液を用いた。その液温は35℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0156】
(D−d)電気化学的粗面化処理
硝酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、温度35℃、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図3に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図4に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で185C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0157】
(D−e)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.5g/m2であった。
【0158】
(D−f)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硫酸水溶液は、硫酸濃度170g/L、アルミニウムイオン濃度5g/Lの液を用いた。その液温は、30℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0159】
(D−g)第1段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0160】
(D−h)ポアワイド処理
上記陽極酸化処理したアルミニウム板を、温度35℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に表1に示す条件にて浸漬し、ポアワイド処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0161】
(D−i)第2段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0162】
(D−j)第3段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第3段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0163】
(D−k)シリケート処理
非画像部の親水性を確保するため、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて50℃で7秒間ディップしてシリケート処理を施した。Siの付着量は10mg/m2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0164】
<処理(E)>
(E−a)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。後に電気化学的粗面化処理を施す面のアルミニウム溶解量は、5g/m2であった。
【0165】
(E−b)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硝酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硝酸水溶液は、次工程の電気化学的な粗面化に用いた硝酸の廃液を用いた。その液温は35℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0166】
(E−c)電気化学的粗面化処理
硝酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、温度35℃、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図3に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図4に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で250C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0167】
(E−d)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.2g/m2であった。
【0168】
(E−e)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5g/Lを溶解)を用い、液温35℃で4秒間デスマット処理を行った。硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0169】
(E−f)第1段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0170】
(E−g)ポアワイド処理
上記陽極酸化処理したアルミニウム板を、温度35℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に表1に示す条件にて浸漬し、ポアワイド処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0171】
(E−h)第2段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0172】
(E−i)第3段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第3段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0173】
(E−j)シリケート処理
非画像部の親水性を確保するため、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて50℃で7秒間ディップしてシリケート処理を施した。Siの付着量は10mg/m2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0174】
<処理(F)>
(F−a)アルカリエッチング処理
アルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。後に電気化学的粗面化処理を施す面のアルミニウム溶解量は、5g/m2であった。
【0175】
(F−b)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硝酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硝酸水溶液は、次工程の電気化学的な粗面化に用いた硝酸の廃液を用いた。その液温は35℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0176】
(F−c)電気化学的粗面化処理
硝酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、温度35℃、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図3に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図4に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で250C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0177】
(F−d)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.2g/m2であった。
【0178】
(F−g)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硫酸水溶液は、硫酸濃度170g/L、アルミニウムイオン濃度5g/Lの液を用いた。その液温は、30℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0179】
(F−h)電気化学的粗面化処理
塩酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。電解液は、液温35℃、塩酸6.2g/Lの水溶液に塩化アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は図3に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は図4に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で25A/dm2であり、塩酸電解における電気量(C/dm2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で63C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0180】
(F−i)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.1g/m2であった。
【0181】
(F−j)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。具合的には、陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5g/Lを溶解)を用い、液温35℃で4秒間デスマット処理を行った。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0182】
(F−k)第1段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0183】
(F−l)ポアワイド処理
上記陽極酸化処理したアルミニウム板を、温度35℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に表1に示す条件にて浸漬し、ポアワイド処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0184】
(F−m)第2段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0185】
(F−n)第3段階の陽極酸化処理
図6に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第3段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0186】
(F−o)シリケート処理
非画像部の親水性を確保するため、2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて50℃で7秒間ディップしてシリケート処理を施した。Siの付着量は10mg/m2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0187】
上記第3陽極酸化処理工程後のマイクロポアを有する陽極酸化皮膜中の大径孔部、小径孔部、および中径孔部の平均径および深さを、表2にまとめて示す。
なお、マイクロポアの平均径のうち、大径孔部および小径孔部の平均径は、支持体表面(陽極酸化皮膜表面)を倍率15万倍のFE−SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400×600nm2の範囲に存在するマイクロポア(大径孔部、小径孔部および中径孔部の平均径)の径を測定し、平均した値である。中径孔部22の平均径は、皮膜上部(大径孔部と小径孔部のある領域)をアルゴンガスによって切削し、表面を倍率15万倍のFE−SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400×600nm2の範囲に存在するマイクロポア(中径孔部)の径を測定し、平均した値である。
なお、上記大径孔部の平均径は皮膜表面における平均径であり、小径孔部の平均径は連通位置Xでの平均径であり、中径孔部の平均径は連通位置Yでの平均径である。
さらに、マイクロポアの深さ(大径孔部、小径孔部および中径孔部の深さ)は、支持体(陽極酸化皮膜)の断面をFE−TEMで観察し、得られた画像において、任意のマイクロポア25個の深さを測定し、平均した値である。
【0188】
なお、上記(A)から(F)のうち、第1陽極酸化処理、ポアワイド処理、第2陽極酸化処理、または第3陽極酸化処理の条件を変更して、比較例1〜16を実施した。条件は、第1表に示す。表中「−」は、未実施を意味する。
【0189】
【表1】

【0190】
【表2】

【0191】
【表3】

【0192】
【表4】

【0193】
【表5】

【0194】
<平版印刷版原版の製造>
上記で製造した各平版印刷版用支持体に対し、下記下塗り液を乾燥塗布量が28mg/m2になるよう塗布して、下塗り層を設けた。
【0195】
<下塗り層用塗布液>
・下記構造の下塗り層用化合物(1) 0.18g
・ヒドロキシエチルイミノ二酢酸 0.10g
・メタノール 55.24g
・水 6.15g
【0196】
【化1】

【0197】
次いで、上記のようにして形成された下塗り層上に、画像記録層塗布液をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/m2の画像記録層を形成した。
全ての画像記録層塗布液は、各感光液およびミクロゲル液を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0198】
<感光液>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕 0.24g
・赤外線吸収剤(1)〔下記構造〕 0.030g
・ラジカル重合開始剤(1)〔下記構造〕 0.162g
・重合性化合物 トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(NKエステルA−9300、新中村化学社製) 0.192g
・低分子親水性化合物トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート
0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.052g
・感脂化剤
ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・ベタイン誘導体(C−1)〔下記構造〕 0.010g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・メチルエチルケトン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0199】
<ミクロゲル液>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0200】
上記のバインダーポリマー(1)、赤外線吸収剤(1)、ラジカル重合開始剤(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物(1)およびフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0201】
【化2】

【0202】
【化3】

【0203】
上記に記載のミクロゲル(1)は、以下のようにして合成されたものである。
【0204】
<ミクロゲル(1)の合成>
油相成分として、トリメチロールプロパンとキシレンジイソシアナート付加体(タケネートD−110N、三井武田ケミカル社製)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(SR444、日本化薬社製)3.15g、およびパイオニンA−41C(竹本油脂社製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてPVA−205の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分および水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを上記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0205】
次いで、上記のようにして形成された画像記録層上に、さらに下記組成の保護層塗布液をバー塗布した後、120℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/m2の保護層を形成し、平版印刷版原版を得た。
【0206】
<保護層用塗布液>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(CKS50、スルホン酸変性、けん化度99モル%以上、重合度300、日本合成化学工業社製)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール(PVA−405、けん化度81.5モル%重合度500、クラレ社製)6質量%水溶液 0.03g
・界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン社製)1質量%水溶液
8.60g
・イオン交換水 6.0g
【0207】
上記に記載の無機質層状化合物分散液(1)は、以下のようにして調製されたものである。
【0208】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0209】
<平版印刷版原板の評価>
(機上現像性)
得られた平版印刷版原版を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像にはベタ画像および20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とValues−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を100枚行った。
50%網点チャートの未露光部の印刷機上での機上現像が完了し、網点非画像部にインキが転写しない状態になるまでに要した印刷用紙の枚数を機上現像性として計測した。機上現像性のよい方から順に、◎(損紙15枚以下)、○(16〜20枚)、△(21〜30枚)×(31枚以上)で表した。結果を表3に示す。なお、実用上、「×」でないことが好ましい。
【0210】
(放置払い枚数)
上記機上現像終了後、良好な印刷物が得られるようになった後に、印刷を一旦停止し、25℃、湿度50%の部屋において、印刷機上で1時間放置して、印刷を再開した時に、汚れのない良好な印刷物が得られるまでに要した印刷用紙の損紙枚数を評価した。放置払い性のよい方から順に、◎(損紙50枚以下)、○(51〜75枚)、△(76〜300枚)、×(301枚以上)で表した。結果を表3に示す。なお、実用上、「×」でないことが好ましい。
【0211】
(耐刷性)
上記同様の印刷機及び手法で機上現像したのち、さらに印刷を続けた。ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、耐刷性を評価した。印刷枚数が1万枚未満のものを×××、1万枚以上1万5千枚未満のものを××、1万5千枚以上2万枚未満のものを×、2万枚以上2万5千枚未満のものを○、2万5千枚以上3万枚未満のものを◎、3万枚以上のものを◎◎とした。結果を表3に示す。実用上、「×××」「××」「×」でないことが好ましい。
【0212】
(耐傷性)
平版印刷版用支持体の耐傷性は、得られた平版印刷版用支持体表面の引っ掻き試験により評価した。結果を表3に示す。
引っ掻き試験は、連続加重式引っ掻き強度試験器(SB−53、新東科学社製)を用いて、サファイヤ針0.4mmφ、針の移動速度10cm/秒の条件下、加重50gおよび100gで行った。
その結果、50g、100g条件とも針によるキズがアルミニウム合金板(素地)の表面に達していないものを耐傷性に優れるものとして「○」と評価し、50g条件のみ針によるキズがアルミニウム合金板(素地)の表面に達していないものを「△」、50g、100g条件とも達しているものを「×」と評価した。なお、耐傷性に優れる平版印刷版用支持体は、平版印刷版原版にしたときの巻き取り時および積層中における画像記録層へのキズの転写を抑制でき、非画像部の汚れを抑制することができる。
なお、実用上、「×」でないことが好ましい。
【0213】
【表6】

【0214】
上記表3に示すように、所定の範囲の平均径および深さを示すマイクロポアが形成されたアルミニウムの陽極酸化皮膜を備える平版印刷用支持体を用いた平版印刷版(実施例1〜23)においては、優れた耐刷性、放置払い性、機上現像性および耐傷性を示すことが確認された。なお、実施例1〜23において得られたマイクロポアを構成する大径孔部、小径孔部、および中径孔部の形状は共に略直管状であった。
また、実施例4および5を比較すると、小径孔部の深さが30nm以上である実施例5において、より優れた効果を示すことが確認された。
実施例6〜9を比較すると、所定の大径孔部の平均径を有する実施例7および8において、より優れた効果を示すことが確認された。
実施例10〜14を比較すると、小径孔部の平均径がより小さい実施例10および11において、より優れた効果を示すことが確認された。
【0215】
一方、本発明の平均径および深さの関係を満たさない比較例1〜16においては、実施例1〜23と比較して効果の劣る結果のみが得られた。
特に、特開平11−291657号公報において具体的に開示されている実施例1〜5を再現した比較例6〜10においては、放置払い性および機上現像性に劣る結果が得られた。
【0216】
また、実施例1において、所望の陽極酸化皮膜形状を得るために費やした全処理時間は、35秒程度であり、短時間で所望の支持体を得ることができた。
【符号の説明】
【0217】
1、12 アルミニウム板
2、4 ローラ状ブラシ
3 研磨スラリー液
5、6、7、8 支持ローラ
ta アノード反応時間
tc カソード反応時間
tp 電流が0からピークに達するまでの時間
Ia アノードサイクル側のピーク時の電流
Ic カソードサイクル側のピーク時の電流
10 平版印刷版用支持体
14、14a、14b、14c、14d アルミニウム陽極酸化皮膜
16、16a、16b、16c、16d マイクロポア
18 大径孔部
20 小径孔部
20a 孔部
22 中径孔部
22a 孔部
50 主電解槽
51 交流電源
52 ラジアルドラムローラ
53a,53b 主極
54 電解液供給口
55 電解液
56 補助陽極
60 補助陽極槽
W アルミニウム板
610 陽極酸化処理装置
612 給電槽
614 電解処理槽
616 アルミニウム板
618、626 電解液
620 給電電極
622、628 ローラ
624 ニップローラー
630 電解電極
632 槽壁
634 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と、その上にアルミニウムの陽極酸化皮膜とを備え、該陽極酸化皮膜中に該アルミニウム板とは反対側の表面から深さ方向にのびるマイクロポアを有する平版印刷版用支持体であって、
該マイクロポアが、陽極酸化皮膜表面からの深さ(深さA)が5〜60nmである大径孔部と、前記大径孔部の底部と連通して、その連通位置(連通位置X)からの深さ(深さB)が10nm以上である小径孔部と、前記小径孔部の底部と連通して、その連通位置(連通位置Y)からの深さ方向にのびる中径孔部とから構成され、
前記深さBと前記中径孔部の深さCとの合計が510nm以上であり、
前記大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(大径孔部径)と、前記小径孔部の連通位置Xにおける平均径(小径孔部径)と、前記中径孔部の連通位置Yにおける平均径(中径孔部径)とが、以下の式(I)の関係を満たし、
式(I) 大径孔部径>中径孔部径>小径孔部径
前記大径孔部径と前記小径孔部径との比(小径孔部径/大径孔部径)が0.8以下であることを特徴とする平版印刷版用支持体。
【請求項2】
前記大径孔部径が、10〜60nmである、請求項1に記載の平版印刷版用支持体。
【請求項3】
前記小径孔部径が、1〜10nmである、請求項1または2に記載の平版印刷版用支持体。
【請求項4】
前記中径孔部径が、1nm超20nm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷版用支持体。
【請求項5】
前記小径孔部の深さ(深さA)と、前記中径孔部の深さ(深さB)との比(深さA/深さB)が、1.0以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の平版印刷版用支持体。
【請求項6】
アルミニウム板を陽極酸化する第1陽極酸化処理工程と、
前記第1陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板を、酸水溶液またはアルカリ水溶液に接触させ、前記陽極酸化皮膜中のマイクロポアの径を拡大させるポアワイド処理工程と、
前記ポアワイド処理工程で得られたアルミニウム板を陽極酸化する第2陽極酸化処理工程と、
前記第2陽極酸化処理工程で得られたアルミニウム板を陽極酸化する第3陽極酸化処理工程とを備え、請求項1〜5のいずれかに記載の平版印刷版用支持体を製造する、平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の平版印刷版用支持体上に、画像記録層を有することを特徴とする平版印刷版原版。
【請求項8】
前記画像記録層が、露光により画像を形成し、非露光部が印刷インキおよび/または湿し水により除去可能となる画像記録層である請求項7に記載の平版印刷版原版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−71435(P2012−71435A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216436(P2010−216436)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】