説明

平版印刷用インキおよびそれを用いて印刷した印刷物

【課題】平版印刷用インキに関するものであり、印刷速度の高速化や印刷用紙の低品質化に対応し、乾燥性、機上安定性、紙剥け適性、光沢などが良好で、さらに環境に配慮した平版印刷用インキを提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物、ロジン変性フェノール樹脂および植物油成分を含むオフセット輪転印刷用インキである平版印刷用インキであり、さらに該平版印刷用インキを基材上に印刷する印刷物。


(式中、R、Rは直鎖状のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット輪転印刷に使用される平版印刷用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平版印刷インキは、顔料、樹脂、石油系溶剤や植物油などで構成されている。また、平版印刷インキを用いる平版印刷は、オフセット輪転印刷に利用されるヒートセット型乾燥、オフセット枚葉印刷や新聞印刷に利用される浸透型乾燥や酸化重合型乾燥といった各種乾燥方式が知られており、なかでもヒートセット型乾燥は、平版印刷インキ中の石油系溶剤を、印刷直後に乾燥機中を通過させて当該溶剤を強制的に蒸発させることにより印刷紙面上に平版印刷インキを固着(セット)させる方法である。ヒートセット型オフセット輪転印刷は、高速で、乾燥機による平版印刷インキのセットが短時間で行われることから現在主流の印刷方式である。平版印刷インキに使用される石油系溶剤は、芳香族成分を1%以下に抑えたAF(アロマフリー)溶剤が主流であり、ヒートセット型オフセット輪転印刷では、適当な蒸発速度、乾燥性が必要であることから、浸透型乾燥方式の枚葉印刷や新聞印刷に使用される溶剤と比較すると、低い沸点範囲のものが使用される。例えば、ヒートセット型オフセット輪転インキには、沸点範囲が259〜282℃のAFソルベント7(新日本石油(株)社製)が多く使われる。枚葉印刷インキには、沸点範囲が296〜317℃のAFソルベント6(新日本石油(株)社製)や沸点範囲が275〜306℃のAFソルベント5(新日本石油(株)社製)が多く使われる。また、AF溶剤といえども、VOC成分は少なくとも含まれている。
【0003】
したがって、ヒートセット型オフセット輪転印刷は、溶剤を蒸発させて平版印刷インキを乾燥させることから、揮発性有機化合物、いわゆるVOC(Volatile Organic Compound)成分の蒸発が起こる。また、枚葉印刷では、平版印刷インキ中の溶剤が浸透し、その後徐々に酸化重合して乾燥固着するが、AF溶剤を使用していても、大気中へのVOC成分の蒸発は起こる。
【0004】
近年の印刷業界では平版印刷インキ中に含まれるVOC成分や芳香族系成分、ナフテン系成分の排出を抑制し環境負荷の低減を図る要望があるため、AF溶剤からVOC成分を含まない植物油成分へ転換を図ることで、VOC成分を除いた平版印刷インキがある。しかし、AF溶剤に比べて植物油成分は粘度が高いため、浸透性が悪く、セット性が遅くなる。また、植物油成分の比率が多くなるため、印刷物中に残留しやすいため、乾燥性に影響してしまう。しかも、蒸発しやすい溶剤を蒸発しにくい植物油成分に転換することから、乾燥機で強制的に溶剤を蒸発させて乾燥するヒートセット型オフセット輪転インキには、完全に植物油成分に転換することはできず、浸透乾燥型のオフセット枚葉印刷に利用される枚葉平版印刷インキでのみ実現されている。
【0005】
現状、ヒートセット型オフセット輪転印刷の印刷現場では、乾燥機からのVOC排出抑制のために排ガス処理装置を設置して環境負荷の低減を図ったり、乾燥にかかるエネルギーの削減のために乾燥機の温度を少しでも下げて印刷する一方で、生産性の向上のために印刷速度の高速化や印刷にかかるコストの削減のために安価で低品質の印刷用紙の利用が進んでいる。このため、乾燥不良による汚れ、紙剥け、ブランパイリング、光沢の低下などにより印刷物の画像品質低下が起こるというジレンマに陥っている。
【0006】
乾燥不良による汚れは、乾燥機の乾燥温度が低かったり、印刷速度が高速であったりする場合、印刷用紙などに印刷された平版印刷インキのセットが十分でなく、乾燥機中で擦れて汚れたり、クーリングローラーへ転写されて徐々に積もり、汚れとなったり、平版印刷インキ皮膜の表面強度が十分でないことなどによりガイドローラー、ターンバー、三角板、折機などで擦れて汚れたりすることである。
【0007】
紙剥けは、安価で低品質の印刷用紙を使用した場合、慨してそれらは紙面強度が弱く、平版印刷インキのタックが高いと起こりやすくなり、さらに印刷速度が高速になると、印刷時の平版印刷インキの見掛けのタックが高くなることにより、起こりやすくなる。
【0008】
ブランパイリングは、ブランケット上に粘着性の高まったインキが徐々に堆積する現象であるが、平版印刷インキの溶解性が高いと、タックの経時での上昇(タック上昇巾ΔT)が大きくなり(機上安定性が悪い、ともいう)、ブランパイリングが起きる。この現象に起因して紙剥けが起こりやすくなる。
【0009】
印刷速度の高速化に対応するために、平版印刷インキに高分子量の樹脂を使用することが行われるが、概してそのような樹脂は溶解性が低く、溶剤離脱性が早くなることにより、セット性は向上するが、平版印刷インキの流動性や光沢が低下する。
また、乾燥不良による擦れ汚れを抑えるために、平版印刷インキ中にワックスを用いることもあるが、ワックスと平版印刷インキとの相溶性が悪くなり、光沢が低下してしまう。
【0010】
特許文献1には、ワックスを使用することにより、乾燥後の印刷インキ皮膜の表面強度を上げることにより耐摩擦性が優れ、光沢の低下が少ないヒートセット型平版オフセット印刷インキ組成物が開示されているが、耐摩擦性を維持するためには、ワックスの融点以下に乾燥温度を下げることができない。
【0011】
特許文献2には、石油系溶剤の全部または一部を脂肪酸エステルに置換することにより、インキの蒸発乾燥性と機上安定性のバランスに優れたオフセット輪転印刷インキが開示されているが、光沢や紙剥けについての詳細な説明がない。
【0012】
特許文献3には、石油系溶剤の替わりに植物油成分を用い、超高分子量の低溶解型の樹脂を使用することにより、紙剥けの問題を解決する低級紙印刷用浸透乾燥型オフセット印刷インキが開示されているが、光沢が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−221536号公報
【特許文献2】特開2006−176754号公報
【特許文献3】特開2008−156429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1では、ワックスによるインキ皮膜強度の向上により乾燥不良による擦れ汚れを防止することを目的としているが、従来型のインキへの単なる添加であり、樹脂や溶剤について言及されておらず、詳細な説明がない。また、ワックスの融点以下に乾燥温度を下げると、擦れ汚れが起きることが予想される。特許文献2では、石油系溶剤の全部または一部を脂肪酸エステルに置換して、乾燥性と機上安定性のバランスを取ることを目的としているが、脂肪酸エステルの分子量が大きくなれば、沸点も高くなることが容易に予想され、機上安定性は向上するが、乾燥温度は高くしなければならない。また、脂肪酸エステルはインキの溶解性が高くなるため、ワニス粘度が低下し、過剰な流動性や降伏値の低下を引き起こす。特許文献3では、超高分子量の樹脂であるため、樹脂の量を減量し、その分植物油を多量に添加する必要があり、それゆえタックが下がり、紙剥けに効果があるが、蒸発しにくい植物油を多量に使用することから、新聞用紙のようなザラ紙用の浸透乾燥型のインキに限定されてしまう。さらに低溶解性であるため、光沢の低下が起こることを承知しなければならない。
【0015】
従って、本発明は、印刷速度の高速化や印刷用紙の低品質化に対応し、乾燥性、機上安定性、紙剥け適性、光沢などが良好で、さらに環境に配慮した平版印刷用インキを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、かかる従来技術の問題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有する平版印刷用インキにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)一般式(1)で表される化合物、ロジン変性フェノール樹脂および植物油成分を含むことを特徴とする平版印刷用インキ、
【化1】

(式中、R、Rは直鎖状のアルキル基を示す。)
(2)前記一般式(1)で表される化合物において、Rの炭素数が8〜12であり、かつRの炭素数が10〜14である上記(1)に記載の平版印刷用インキ、
(3)前記ロジン変性フェノール樹脂の軟化点が150〜220℃の範囲内で、かつ重量平均分子量が120,000〜300,000の範囲内である上記(1)または(2)のいずれかに記載の平版印刷用インキ、
(4)前記植物油成分が、大豆油または大豆油由来の脂肪酸エステルである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の平版印刷用インキ、
(5)平版印刷用インキが、オフセット輪転印刷用インキである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の平版印刷用インキ、
(6)基材上に上記(1)〜(5)のいずれかに記載の平版印刷用インキを用いて印刷した印刷物、
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の平版印刷用インキによれば、乾燥性、機上安定性、紙剥けの低下などの印刷適性を向上させることができ、その平版印刷用インキを使用することにより高光沢の画像品質の高い印刷物を提供することができる。さらに、該平版印刷用インキの揮発性成分を除去できる環境に優しい平版印刷用インキ及び印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0020】
本発明による平版印刷用インキは、下記一般式(1)で表される化合物、ロジン変性フェノール樹脂および植物油成分を含むことを特徴とする。必要に応じて、その他の樹脂、添加剤、溶剤などを使用することができる。
【0021】
【化1】

(式中、R、Rは直鎖状のアルキル基を示す。)
【0022】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、α−オレフィンの二量化反応によって得られる(以降、本明細書中では、「ビニリデンオレフィン」という)。
【0023】
前記α−オレフィンとしては、炭素数が10〜14のものが好ましい。例えば、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセンなどが挙げられる。なかでも、特に好ましいのは炭素数が10の1−デセンである。
【0024】
前記ビニリデンオレフィンとしては、一般式(1)において、Rの炭素数が8〜12であり、かつRの炭素数が10〜14のものが好ましい。例えば、2−オクチル−1−ドデセン、2−デシル−1−テトラデセン、2−ドデシル−1−ヘキサデセンなどが挙げられる。なかでも、特に好ましいのは一般式(1)において、Rの炭素数が8であり、かつRの炭素数が10の2−オクチル−1−ドデセンである。これらは、高沸点で、低温流動性を有する低粘度の液状であり、浸透性が高く、セット性が向上する。
【0025】
炭素数20のビニリデンオレフィンである2−オクチル−1−ドデセンと同程度の炭素数を有するα−オレフィンは、高沸点ではあるが、常温で高粘度あるいはワックス状であるため、低温での使用には適さず、また浸透性が悪いため、セット性が劣るという欠点がある。
【0026】
一般式(1)において、Rの炭素数が8未満であり、かつRの炭素数が10未満であると、引火点が低下してしまい、適切ではない。α−オレフィンの四量化物(例えば、13−メチル−11,13−ジオクチル−10−トリコセン)、あるいはそれ以上の炭素数のものは、分子量が増加し、それに伴い溶剤粘度が上昇するため、製造適性やインキ適性が劣るため適切ではない。
【0027】
さらにビニリデンオレフィンは、VOC成分や芳香族系成分、ナフテン系成分を含まないものである。VOC成分を含まないことにより、AF溶剤をビニリデンオレフィンに置換し、オフセット輪転印刷用インキとすることで、印刷時に乾燥機を通過させても、VOC成分の大気中への排出、飛散がない。また、そのなかでも2−オクチル−1−ドデセンは沸点が330℃と高く、印刷機上での溶剤離脱が少ないので、機上安定性が向上し、タック上昇巾ΔTも小さいため、紙剥けしにくい。さらに、枚葉印刷用インキに使用することが多い、AFソルベント6の代替としても、好ましく使用できる。AFソルベント6は同程度の沸点を有しているが、印刷機上での溶剤離脱が早いことから、機上安定性が劣り、タック上昇巾ΔTが大きくなるため、紙剥けが発生しやすくなる。
【0028】
VOCの定義は、財団法人日本環境協会のエコマーク事業による印刷インキの認定基準によれば、世界保健機構(WHO)の化学物質の分類を引用し、「高揮発性有機化合物」および「揮発性有機化合物」に分類される揮発性有機化合物としており、「高揮発性有機化合物」は、沸点範囲が<0℃〜50−100℃において測定されるものを指し、「揮発性有機化合物」は、沸点範囲が50−100℃〜240−260℃において測定されるものを指している。
また、大気汚染防止法によれば、大気中に排出され又は飛散したときに気体である有機化合物とされている。
社団法人日本印刷産業連合会のグリーンプリンティング認定制度によれば、VOC含有量1%未満をノンVOCインキ(但し輪転インキは除く)としており、枚葉インキのみの認定基準である。
【0029】
本発明のビニリデンオレフィンは、沸点が高く、VOC成分を含まないため、オフセット輪転印刷用インキに利用することで、印刷時に乾燥機を通過させても、VOC成分の大気中への排出、飛散がないため、上記のエコマーク認定基準および大気汚染防止法のVOCの定義にはあたらない。また、グリーンプリンティング認定制度においては、枚葉印刷用インキのみの認定であるが、本発明のビニリデンオレフィンを使用することで輪転インキでも実現できるものである。
【0030】
本発明の平版印刷用インキ全量中にビニリデンオレフィンの含有量は、5〜40重量%の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは10〜35重量%の範囲内である。5重量%未満では平版印刷用インキのタックが下がらず、紙剥けしやすくなり、機上安定性が低下する。40重量%を超えると光沢、着肉性が低下し、画像品質の劣る印刷物となる。
【0031】
本発明のロジン変性フェノール樹脂は、軟化点が150〜220℃の範囲内で、重量平均分子量が120,000〜300,000の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは軟化点が180〜200℃の範囲内で、重量平均分子量が140,000〜180,000の範囲内である。特に、軟化点が150℃未満では印刷時の乾燥機中での平版印刷用インキ皮膜が軟調になりやすく表面強度が弱くなり、擦れ汚れが起こりやすくなる。重量平均分子量が300,000を超えると溶解性が低下するため、溶剤離脱性が早くなることにより、機上安定性が劣り、紙剥けが発生しやすくなる。また高い弾性を有するため、顔料分散性の低下、紙面への着肉低下や、レベリング性、流動性低下による光沢低下が起こりやすくなる。軟化点が高いほど、皮膜強度を付与することができるが、高くなればなるほど、高分子量となるため、220℃以下が好ましい。本明細書において、重量平均分子量は、GPC法(ポリスチレン換算)による測定値である。
【0032】
また、本発明のロジン変性フェノール樹脂の酸価は、0〜30mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは16mgKOH/g以下である。樹脂によっては酸価を測定できないものもあるが、本明細書において、このような樹脂は、酸価が0mgKOH/gであるとみなすものとする。30mgKOH/gを超えると乾燥性が低下し、擦れ汚れの原因となったり、乳化しやすくなる。
【0033】
平版印刷用インキ全量中に本発明のロジン変性フェノール樹脂の含有量は、20〜35重量%の範囲内であることが好ましい。20重量%未満では固形分が少ないため、低粘度となり、所望の平版印刷インキを得ることが困難となる。35重量%を超えると光沢が低下しやすくなる。
【0034】
上記本発明のロジン変性フェノール樹脂の他に、粘度や粘弾性の調整、凝集力の付与、経時変化の低減などの平版印刷用インキの製造適性、物性および印刷適性を向上させる目的で、別のロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、アルキド樹脂、ギルソナイトなどを適宜選択して用いることができるが、特に、溶解性の高い樹脂を選択すると、セット性が劣るため好ましくない。
【0035】
本発明の平版印刷用インキに用いられる植物油成分としては、大豆油または大豆油由来の脂肪酸エステルであることが好ましい。その他の植物油としては、例えばアマニ油、菜種油、ヤシ油、オリーブ油、桐油などおよびこれらを再生処理したものが挙げられる。また、その他の植物油由来の脂肪酸エステルとしては、例えば綿実油、アマニ油、サフラワー油、向日葵油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、菜種油、胡麻油などの乾性油または半乾性油を由来とした脂肪酸モノアルキルエステルが例示できる。脂肪酸モノアルキルエステルを構成するアルコール由来のアルキル基の炭素数は5〜12のものが好ましく、具体例としてペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、3−メチル−1−ブチル、2,4−ジメチル−3−ペンチル、2−エチル−1−ヘキシル、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル、4−デシル、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシル、2−ブチル−1−オクチルなどである。なかでも特に好ましいのは2−エチル−1−ヘキシル、オクチルなどである。上記植物油成分は、樹脂に対する溶解性が上がり、印刷物の光沢向上に優れた効果がある。
【0036】
本発明の平版印刷用インキ全量中に植物油成分は、7〜30重量%の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは10〜25重量%の範囲内である。7重量%未満では光沢が低下する。30重量%を超える量を添加しても光沢の向上効果は得られず、溶解性が高くなり、タックの経時での上昇が大きくなるため、ブランケット上に堆積したインキの粘着性が高まり、アフタータックが残り、紙剥けしやすくなる。
【0037】
大豆油と大豆油由来の脂肪酸エステルの比率は、重量比で100/0〜30/70の範囲内であることが好ましい。なかでも、特に好ましいのは90/10〜50/50の範囲内である。大豆油と大豆油由来の脂肪酸エステルの比率において、大豆油由来の脂肪酸エステルが、重量比で70重量%を超えるとタックが高くなり、紙剥けしやすくなる。
【0038】
本発明の平版印刷用インキには、ビニリデンオレフィン、ロジン変性フェノール樹脂および植物油成分の他に、従来、公知の平版印刷用インキに用いられる顔料、添加剤、溶剤などを使用することができる。
【0039】
前記顔料としては、有機顔料または無機顔料であり、例えばジスアゾイエロー、カーミン6B、フタロシアニンブルーなどに代表される有機顔料、およびカーボンブラック、炭酸カルシウムなどに代表される無機顔料などであり、特に限定されない。
【0040】
前記添加剤としては、平版印刷用インキの印刷適性、物性および印刷適性を向上させる目的で、アルミキレート剤、顔料分散剤、乳化剤、乾燥防止剤、乾燥促進剤、整面剤、滑剤などであり、特に限定されない。
【0041】
前記溶剤としては、流動性付与などの目的で、AF溶剤、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、マシン油、シリンダー油などに代表される石油系溶剤が適宜選択して用いることができるが、VOC成分などを除去することを目的とするならば、使用しないことが好ましい。
【0042】
本発明の平版印刷用インキに使用する添加剤などに、VOC成分が含まれないものを選択すれば、実質的にVOC成分を含まない平版印刷用インキを得ることができる。
【0043】
本発明の平版印刷用インキは、オフセット輪転印刷用インキ、枚葉オフセット印刷用インキ、水なしオフセット輪転印刷用インキ、水なし枚葉オフセット印刷用インキなど、適切な物性および印刷適性を有する平版印刷用インキとなるように調製され、各種の用途に応じた平版印刷用インキを得ることができる。なかでも、オフセット輪転印刷用インキや水なしオフセット輪転印刷用インキとして調製することが好ましい。
【0044】
本発明の平版印刷用インキの印刷に用いる基材としては、平版印刷に供される形状のものであればよく、特に限定されない。例えば平版印刷に適性を有する各種用紙、プラスチックフィルム、プラスチックシート、織布、不織布、木片シート及びそれらの材質からなる面を有するものなどを挙げることができ、平版印刷に適する更紙(非塗工紙)、微塗工紙、コート紙、アート紙などであることが好ましい。適切な用紙は、用紙の密度、表面状態、乾燥機の乾燥温度、印刷速度などに応じて適宜選択して用いられる。特に本発明の平版印刷用インキは、紙剥け適性、光沢に優れているため、低品質の用紙、例えば更紙(非塗工紙)、微塗工紙、軽量コート紙などに適用しても画像品質の高い印刷物を得ることができる。
【0045】
前記乾燥性は、ヒートセット型オフセット輪転印刷を行うときの乾燥温度に依存する。乾燥温度が高温であるほど乾燥性は向上するが、光沢の低下や基材が紙である場合、水分量の低下により印刷物の背割れやブリスターといった現象が発生しやすくなる。また、皮膜の軟調化により表面強度が弱くなり、擦れ汚れが起こりやすくなる。乾燥温度とは、乾燥機の熱風温度を指し、おおむね150〜220℃であり、乾燥機出口付近の紙面温度は、おおむね85〜130℃である。
【0046】
本発明の平版印刷用インキは、ビニリデンオレフィンが、低粘度であることから、浸透性が高く、セット性が向上し、ロジン変性フェノール樹脂の軟化点が比較的高いため、印刷インキ皮膜が軟調になりにくく、また溶解性が高いため、機上安定性が高いことから、乾燥温度を低下させても、乾燥不良による問題が起きにくい。例えば、熱風温度を150℃以下に下げ、紙面温度を75℃以下とすることができる。
【0047】
本発明の平版印刷用インキは、従来公知の方法により製造できる。例えば、本発明のロジン変性フェノール樹脂および/または他のロジン変性フェノール樹脂など、植物油成分、ビニリデンオレフィン、アルミキレート剤などから任意に選ばれる材料とともに混合過熱溶解してワニスを得る。このワニスに顔料を3本ロール、ビーズミルなどで分散させた混合物に、植物油成分、ビニリデンオレフィン、添加剤、溶剤などで調製する。
【0048】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、以下の実施例などのみに限定されるものではない。また、実施例などにおいて「部」および「%」は特に断りのない限り、「重量部」および「重量%」を表わす。
【実施例】
【0049】
[ワニスの調製]
(製造例1)
ロジン変性フェノール樹脂A(重量平均分子量140,000、軟化点187℃、酸価16mgKOH/g)20重量%、ロジン変性フェノール樹脂B(重量平均分子量170,000、軟化点185℃、酸価19mgKOH/g)20重量%、2−オクチル−1−ドデセン29.7重量%、大豆油15重量%、大豆油脂肪酸2−エチル−1−ヘキシルエステル15重量%、アルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル(株)社製)0.3重量%を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV1を得た。
【0050】
(製造例2)
ロジン変性フェノール樹脂A10重量%、ロジン変性フェノール樹脂B30重量%、2−オクチル−1−ドデセン29.7重量%、大豆油15重量%、大豆油脂肪酸2−エチル−1−ヘキシルエステル15重量%、アルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル(株)社製)0.3重量%を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV2を得た。
【0051】
(製造例3)
ロジン変性フェノール樹脂A20重量%、ロジン変性フェノール樹脂B20重量%、2−オクチル−1−ドデセン29.7重量%、大豆油30重量%、アルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル(株)社製)0.3重量%を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV3を得た。
【0052】
(製造例4)
2−オクチル−1−ドデセンを2−ドデシル−1−ヘキサデセンに置換した以外は、製造例1と同様にしてワニスV4を得た。
【0053】
(製造例5)
ロジン変性フェノール樹脂A20重量%、ロジン変性フェノール樹脂B20重量%、2−オクチル−1−ドデセン41.7重量%、大豆油13重量%、大豆油脂肪酸2−エチル−1−ヘキシルエステル5重量%、アルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル(株)社製)0.3重量%を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら185℃に昇温し、60分撹拌混合して、ワニスV5を得た。
【0054】
(参考製造例1)
2−オクチル−1−ドデセンをα−オレフィンの1−ヘキサデセンと1−オクタデセンの混合物(ダイヤレン168、三菱化学(株)社製)に置換した以外は、製造例1と同様にしてワニスU1を得た。
【0055】
(参考製造例2)
ロジン変性フェノール樹脂A25重量%、ロジン変性フェノール樹脂C(重量平均分子量20,000、軟化点170℃、酸価25mgKOH/g)5重量%、ロジン変性フェノール樹脂D(重量平均分子量70,000、軟化点160℃、酸価23mgKOH/g)10重量%、AFソルベント7(新日本石油(株)社製)28重量%、大豆油10重量%を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら190℃に昇温し、30分撹拌溶解した後、AFソルベント7(新日本石油(株)社製)21.40重量%添加し、アルミキレート剤(ALCH、川研ファインケミカル(株)社製)0.6重量%を仕込み、170℃にて45分撹拌して、ワニスU2を得た。
【0056】
[平版印刷用インキの調製]
実施例1〜5、比較例1〜2
実施例、比較例におけるインキ成分組成を表1に示す。
表1の配合でワニス、フタロシアニンブルー(Fastgen Blue GBK−19SD、DIC(株)社製)を配合し、3本ロールミルで練肉して、インキベースを得、さらにワニス、2−オクチル−1−ドデセン、2−ドデシル−1−ヘキサデセン、1−ヘキサデセンと1−オクタデセンの混合物(ダイヤレン168、三菱化学(株)社製)、またはAFソルベント7(新日本石油(株)社製)を添加、混合し粘度20〜25Pa・sの実施例1〜5、比較例1〜2の平版印刷用インキを得た。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜5、比較例1〜2で得た平版印刷用インキについて、下記の評価を行った。その結果を、表2に示す。
【0059】
[乾燥性]
各実施例および比較例で得た平版印刷用インキをプリューフバウ印刷適性試験機(MZ−II、プリューフバウ(株)社製)を用い、印圧400N、印刷速度10m/秒の条件で、平版印刷用インキ0.2ccをコート紙に展色し、紙面乾燥温度を75℃になるように調節して、試料片を乾燥させた。乾燥させた試料片をすぐに取り出し、指触にて試料片のべた付き具合を評価した。べた付きがないほど、乾燥性が優れる。べた付きの程度について、○:べた付きがないもの、△:べた付きがややあるもの(実用上問題ない程度)、×:べた付きがあり、実用できない、の3段階で評価した。なお、プリューフバウ印刷適性試験機はドイツのFOGRA印刷製版研究所で開発された試験機で平版印刷インキの評価に広く用いられている。
【0060】
[セット性]
各実施例および比較例で得た平版印刷用インキをRIテスター((株)明製作所製)でコート紙および微塗工紙に展色し、すぐに自動インキセット試験機((株)東洋精機製作所製)を用いて、展色面に重ねた上質紙への平版印刷用インキの付着度を目視により確認し、付着が認められなくなるまでに要した時間を測定した。この時間が短いほど、セット性が優れる。
【0061】
[紙剥け適性]
各実施例および比較例で得た平版印刷用インキをローラー温度32℃、ローラー回転数800rpmにおけるデジタルインコメーター((株)東洋精機製作所製)を用い、タック値を測定した。この測定値が小さいほど、紙剥け適性が優れる。タック値について、○:5.5以下のもの、△:5.5より大きく、6.0以下のもの(実用上問題ない)、×:6.0より大きいもの、の3段階で評価した。
【0062】
[光沢]
各実施例および比較例で得た平版印刷用インキをRIテスター((株)明製作所製)でコート紙に展色し、120℃に保温した乾燥機に10秒間放置し、取り出し、印刷片を得た。各印刷片を光沢計(PG−1、日本電色工業(株)社製)で測定した。この測定値が大きいほど、光沢が優れる。光沢値について、○:55以上のもの、△:55より小さく、50以上のもの(実用上問題ない)、×:50より小さいもの、の3段階で評価した。
【0063】
[機上安定性]
各実施例および比較例で得た平版印刷用インキをローラー表面温度42℃、ローラー回転数1200rpmにおけるデジタルインコメーター((株)東洋精機製作所製)を用い、タック値の経時変化を測定した。時間とともに平版印刷インキ中の溶剤が離脱し、タックが上昇するが、離脱する溶剤がなくなると粘着性が失われ、タックが下がり始める。測定開始時のタック値と下がり始める時のタック値(タック上昇巾ΔT)とを結んだ直線の傾きが小さいほど、機上安定性が優れる。タック上昇巾ΔTについて、○:ΔT≦1.0、△:1.0<ΔT≦1.5(実用上問題ない)、×:1.5<ΔT、の3段階で評価した。
【0064】
【表2】

【0065】
表2に示す通り実施例1〜5の平版印刷用インキは、セット性に優れ、紙剥け適性を有し、機上安定性も十分であるため、印刷速度を低下することなく、低温でオフセット輪転印刷ができ、光沢の低下もないことから、画像品質の高い印刷物を提供できる。比較例1のα−オレフィンを使用した平版印刷用インキは、紙剥け適性が劣る。比較例2の従来型の平版印刷用インキは、紙剥け適性、機上安定性が劣り、光沢も低い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の平版印刷用インキは、低品質の用紙でも画像品質の高い印刷物を提供することができ、乾燥にかかるエネルギーを削減でき、VOC成分を除去できる環境に配慮した印刷物の提供に適用できる。さらに、水なし用平版印刷用インキ、または枚葉平版印刷用インキとしても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物、ロジン変性フェノール樹脂および植物油成分を含むことを特徴とする平版印刷用インキ。
【化1】

(式中、R、Rは直鎖状のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物において、Rの炭素数が8〜12であり、かつRの炭素数が10〜14であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷用インキ。
【請求項3】
前記ロジン変性フェノール樹脂の軟化点が150〜220℃の範囲内で、かつ重量平均分子量が120,000〜300,000の範囲内であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の平版印刷用インキ。
【請求項4】
前記植物油成分が、大豆油または大豆油由来の脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷用インキ。
【請求項5】
平版印刷用インキがオフセット輪転印刷用インキであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の平版印刷用インキ。
【請求項6】
基材上に請求項1〜5のいずれかに記載の平版印刷用インキを用いて印刷した印刷物。

【公開番号】特開2010−241866(P2010−241866A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89308(P2009−89308)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】