説明

平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法

【課題】容易に精度よく縦糸クリンプ率を把握することができる平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法を提供する。
【解決手段】平織構造を維持した所定長さおよび幅の平織帆布の縦糸長手方向両端部を、引張試験機のチャック部4で保持することにより、無負荷の張設状態で固定し、次いで、この平織帆布の縦糸2を1本だけ残して切断し、この残した1本の縦糸2を引張ることで、本来の縦糸クリンプ率Cを変化させない条件下で引張試験を行ない、この引張りにより取得した引張試験データにおいて、引張応力Fが急激に増大する変位点の伸長率E1を縦糸2のクリンプ率Cとして算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法に関し、さらに詳しくは、容易に精度よく縦糸クリンプ率を把握することができる平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンベヤベルトはプーリ間に張架され、稼動中にプーリまわりを通過する度に繰り返しの屈曲を受け、この屈曲時に中立面よりも内周側の範囲には圧縮応力が生じる。芯材として帆布層を使用する場合は、コンベヤベルトに対する要求性能により複数の帆布層を積層して構成することがある。この場合、屈曲時に中立面よりも内周側になる位置に配置された帆布層の縦糸は、繰り返し発生する圧縮応力により座屈して破断に至り、さらには帆布層の破断に発展することがある。特に、縦糸の材質がポリエステルの場合には座屈が発生し易かった。このようなコンベヤベルトの耐座屈性は、仕様の異なるコンベヤベルトを製造する度に、その都度、試験サンプルを作製し、プーリ等に巻付ける屈曲試験等により確認していたので、短時間で評価することができず、また試験サンプルを製造するコストがかかるという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するため、本願発明者らは、芯材となる平織構造の帆布層の縦糸のクリンプ率(上下の湾曲具合)が耐座屈性に大きく影響していることに注目して、横糸の配列ピッチPと、横糸の配列ピッチP間における縦糸の長さLとの比を指数として、この指数に基づいて耐座屈性を評価する方法を提案している(特許文献1参照)。この提案の評価方法は、非常に簡便であるという利点がある。しかしながら、上下に湾曲している縦糸長さを近似して求めるなど、簡便な方法であるために、実際のクリンプ率との誤差がないクリンプ率を得ることは困難であり、精度を向上させるには限界があった。
【0004】
縦糸クリンプ率を精度よく把握するには、実際の平織帆布を拡大撮影して、その撮影画像を分析する方法もあるが、面倒な作業が必要になる。そして、拡大撮影する平織帆布の切断端面では、横糸が自由端になっているため、縦糸に対する拘束が弱く、本来の縦糸のクリンプ状態を正確に把握するには、平織構造を損なわないように細心の注意を払う必要があった。
【0005】
そのため、試験サンプルの屈曲試験を行なうことなく、コンベヤベルトの耐座屈性を精度よく評価するために、縦糸クリンプ率を一段と高精度で把握することができる容易な方法が必要であった。
【特許文献1】特開2008−96301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、容易に精度よく縦糸クリンプ率を把握することができる平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法は、平織構造を維持した所定長さおよび幅の平織帆布の縦糸長手方向両端部を、引張試験機のチャック部で保持することにより、無負荷の張設状態で固定し、次いで、この平織帆布の縦糸を1本だけ残して切断し、この残した1本の縦糸を引張ることにより取得した引張試験データに基づいて、この平織帆布の縦糸クリンプ率を算出することを特徴とするものである。
【0008】
ここで、例えば、前記縦糸の材質がポリエステルである平織帆布を対象とする。この際に、例えば、前記試験データにおいて、0.30cN/dtex時の縦糸の伸長率を縦糸クリンプ率とする。また、本発明では、前記平織帆布が、コンベヤベルトに積層される複数の帆布層のうち、コンベヤベルトの稼動に際し最も小さな屈曲半径の屈曲を受ける帆布層にすることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平織構造を維持した所定長さおよび幅の平織帆布の縦糸長手方向両端部を、引張試験機のチャック部で保持することにより、無負荷の張設状態で固定し、次いで、この平織帆布の縦糸を1本だけ残して切断し、この残した1本の縦糸を引張るので、本来の縦糸クリンプ率を変化させない条件下で引張試験を行なうことができる。したがって、この引張りにより取得した引張試験データを参照することにより、本来の縦糸クリンプ率と誤差の少ない縦糸クリンプ率を容易に算出することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図6に例示するコンベヤベルト6は、ゴム層7を介在させて、芯材として平織構造の同仕様の帆布層8a、8b、8c(以下、帆布層8a〜8cとする)を3層積層して構成されている。帆布層8a〜8cの積層数はコンベヤベルト6に対する要求性能等に基づいて決定されるので、3層に限定されるものではない。
【0012】
コンベヤベルト6は、駆動プーリと遊動プーリとの間に張架され、駆動プーリにより稼動してプーリ9まわりを通過する度に繰り返し屈曲される。そして、プーリ9まわりを回転移動するコンベヤベルト6には、その厚さ方向の二点鎖線で示す中立面Nを境にして、中立面Nの外周側に引張応力が発生し、内周側に圧縮応力が発生する。
【0013】
図6では内周側に積層された2層の帆布層8a、8bが中立面よりも内周側に位置するので、圧縮応力が繰り返し発生し、最も内周側となる帆布層8aに最大の圧縮応力が発生する。したがって、コンベヤベルト6の耐座屈性を評価するには、コンベヤベルト6の稼動に際して、最も小さな曲率半径の屈曲を受ける帆布層8aを評価対象とするのが好ましい。
【0014】
帆布層8aは、図1に例示するような平織帆布1であり、縦糸2と横糸3とが1本ごとに浮き沈みして交錯する構造になっている。横糸3の配列ピッチP間で縦糸2が上下に湾曲して長さLを有し、横糸3も縦糸2の配列ピッチ間で上下に湾曲している。縦糸2は、コンベヤベルト6の長手方向に延設され、横糸3はコンベヤベルト6の幅方向に延設されているので、コンベヤベルト6がプーリ9のまわりを繰り返し屈曲して通過する際には、主に縦糸2だけに圧縮応力が発生する。図1では、帆布層8aのゲージ厚を符号H、縦糸2のゲージ厚を符号h、横糸2のゲージ厚を符号h1で示している。
【0015】
縦糸2が横糸3との交錯において上下変化が小さい直線的な織構造、即ち、縦糸クリンプ率C(=(L−P)/Pの百分率)が小さい構造であると、プーリ9を周回する際に、容易に変形することができず、ある点に圧縮応力が集中して折れ曲がり、いわゆる座屈が発生する。一方、縦糸2が横糸3との交錯において上下に大きく変化している織構造、即ち、縦糸クリンプ率Cが大きい構造であると、プーリ9を周回する際に、広範囲にわたり容易に変形することができるので、圧縮応力が分散して座屈する危険性が小さくなる。このように、縦糸クリンプ率Cが、コンベヤベルト6の繰り返し屈曲による座屈の発生に大きく影響する。
【0016】
即ち、帆布層8a〜8c、特に最内周側の帆布層8aの縦糸クリンプ率Cがコンベヤベルト6の耐座屈性に大きく影響する。
【0017】
そこで、本発明は以下の手順で、コンベヤベルト6の芯材として用いる平織帆布1(帆布層8a)の縦糸クリンプ率Cを測定する。特に、縦糸2の材質がポリエステルの場合には座屈が発生し易いので、縦糸2がポリエステル製である平織帆布1については、縦糸クリンプ率Cを把握することは有益である。
【0018】
まず、帆布層8aとして用いる平織帆布1を所定長さおよび所定幅に切断してサンプルを作製する。所定長さは、例えば、20cm〜30cm程度、所定幅は、例えば、1cm〜5cm程度であり、縦糸2および横糸3が互いを十分に拘束している平織構造を維持できるサイズにする。
【0019】
次いで、図2に例示するように、この平織帆布1の縦糸長手方向両端部を、引張試験機のチャック部4で保持することにより、無負荷の張設状態で固定する。即ち、自然な状態で弛みなく張った状態で固定する。
【0020】
次いで、図3に例示するように、チャック部4の間で固定した平織帆布1の縦糸2をカッター等の切断具5を用いて切断して、1本の縦糸2だけを残すようにする。この際に、平織帆布1の幅方向中央部の縦糸2は、横糸3の切断端(自由端)から離れているので、本来の縦糸2のクリンプ状態を最もそのまま維持して、チャック部4の間に固定されている。そのため、縦糸クリンプ率Cをより正確に把握するには、できるだけ幅方向中央部の縦糸2を残すようにするとよい。
【0021】
次いで、図4に例示するように、引張試験機を稼働させ、チャック部4を互いに離反するように移動させて、切断せずに残した1本の縦糸2を引張る。この引張試験によって1本の縦糸2の引張試験データを取得する。このように、本来の縦糸クリンプ率Cを変化させない条件下で引張試験を行なうことができる。
【0022】
取得した引張試験データは、図5に例示するように、ある程度の伸長率E1(=伸長量/当初の長さ)までは、引張応力Fはほとんど増大することがなく、伸長率E1時に引張応力F1となる。そして、伸長率E1を超えると、引張応力Fが急激に増大する傾向を示す。これは、伸長率E1までは、クリンプしていた縦糸2が真直ぐな状態になるだけなので、引張応力Fがほとんど増大することがなく、クリンプしていた部分が真直ぐな状態になった後は、縦糸2の本来の引張り強さが反映されるためである。
【0023】
即ち、この急激に引張応力Fが増大する変位点の伸長率E1が、縦糸2のクリンプ率Cを表すことになる。このように、本発明では、取得した縦糸2の引張試験データを参照することにより、本来の縦糸クリンプ率Cと誤差の少ない縦糸クリンプ率Cを容易に算出することが可能になる。
【0024】
コンベヤベルト6の芯材として用いる平織帆布1の縦糸2(ポリエステル製)では、上記引張試験を行なった際に、凡そ、引張荷重0.30cN/dtex時に、クリンプしていた縦糸2が真直ぐな状態になる。したがって、引張試験データにおいて、引張荷重0.30cN/dtex時の縦糸2の伸長率Eを縦糸クリンプ率Cとみなすこともできる。
【0025】
そして、算出した縦糸クリンプ率Cに基づいて、この平織帆布1を芯材として用いるコンベヤベルト6の耐座屈性を、試験サンプルの屈曲試験を行なうことなく高い精度で評価することが可能になる。算出した縦糸クリンプ率Cが大きい程、縦糸2の織構造の湾曲具合が大きく座屈しにくいので、コンベヤベルト6の耐座屈性に優れたコンベヤベルト6であると評価することができる。
【実施例】
【0026】
縦糸をポリエステル製、横糸をナイロン製としたことを共通条件とし、表1に示すように縦糸、横糸の仕様を異ならせた8種類(A〜H)の平織帆布を、平織構造を維持した長さ25cm、幅3cmのサンプルにした。表1の帆布仕様のHはサンプルのゲージ厚、hは縦糸のゲージ厚、h1は横糸のケージ厚、Pは横糸の配列ピッチを示している。実施例は、このサンプルの縦糸長手方向両端部を、引張試験機のチャック部で保持することにより、無負荷の張設状態で固定し、次いで、このサンプルの縦糸を1本だけ残して切断し、この残した1本の縦糸に対して引張試験を行なった。そして、取得した引張試験データにおいて図5に示したように急激に引張応力Fが増大する変位点の伸長率E1を縦糸クリンプ率とした。
【0027】
表1の比較例の簡易算出とは、横糸の配列ピッチPと、横糸の配列ピッチP間における縦糸の長さLとの比((L−P)/P)の百分率を示すもので、縦糸の長さLをL=((H−h)2+P21/2として近似したものである。
【0028】
表1の比較例の拡大写真とは、それぞれのサンプルを拡大撮影して、その撮影画像を分析して算出した縦糸クリンプ率を示すものである。拡大撮影の際には、平織構造を損なわないようにしており、本来の縦糸クリンプ率に近いと考えられるデータである。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果より、本発明の実施例によれば、簡易算出を用いた場合に比べて、拡大写真を用いて算出した値に近い縦糸クリンプ率が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】平織帆布の構造を例示する拡大断面図である。
【図2】平織帆布を引張試験機のチャック部で保持した状態を例示する説明図である。
【図3】図2の平織帆布の縦糸を切断する状態を例示する説明図である。
【図4】図3の平織帆布の縦糸を1本残した状態にして引張試験を行なっている状態を例示する説明図である。
【図5】図4の引張試験により得られた試験データを例示するグラフ図である。
【図6】コンベヤベルトの内部構造を例示する断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 平織帆布
2 縦糸
3 横糸
4 チャック部
5 切断具
6 コンベヤベルト
7 ゴム層
8a、8b、8c 帆布層
9 プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平織構造を維持した所定長さおよび幅の平織帆布の縦糸長手方向両端部を、引張試験機のチャック部で保持することにより、無負荷の張設状態で固定し、次いで、この平織帆布の縦糸を1本だけ残して切断し、この残した1本の縦糸を引張ることにより取得した引張試験データに基づいて、この平織帆布の縦糸クリンプ率を算出する平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法。
【請求項2】
前記縦糸の材質がポリエステルである請求項1に記載の平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法。
【請求項3】
前記試験データにおいて、0.30cN/dtex時の縦糸の伸長率を縦糸クリンプ率とする請求項2に記載の平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法。
【請求項4】
前記平織帆布が、コンベヤベルトに積層される複数の帆布層のうち、コンベヤベルトの稼動に際し最も小さな屈曲半径の屈曲を受ける帆布層である請求項1〜3のいずれかに記載の平織帆布の縦糸クリンプ率の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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