説明

平面基板に流体セルを取り付ける方法および機器

【解決手段】 流体セルを平面基板に取り付ける方法および機器が提供される。前記平面基板上には流体内の成分を検出するセンサーまたは装置を設けることができ、および/または流体内の成分と選択的に結合し若しくはこれに反応するよう基板を処理することもできる。基板には、固体IC集積回路センサーマイクロチップ、スライドガラス、ゲノムアレイ、プロテオームアレイ、および/または前記流体セルに高い適合性で接触できる他の適切な基板を含めることもできる。この流体セルを前記基板の頂部に直接取り付けると、多種多様な実施態様の流体システムを容易に作製することができる。その組み立ての際、前記基板の修正は不要である。すべての流体接続部は、当該機器に内設されている。本装置は、低コストの材料および単純な方法で作製できる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
平面基板に流体を適用する応用技術は、数多く存在する。例えば、基板上には流体内の成分を検出するセンサーまたは装置を設けることが可能であり、および/または流体内の成分と選択的に結合し若しくはこれに反応するよう基板を処理することも可能である。基板には、固体ICセンサーチップ、スライドガラス、ゲノムアレイ、プロテオームアレイ、および/または他の試薬を当該基板に化学的に付着させ若しくは乾燥させて付着させ、含めることもできる。このような応用における課題の1つは、一部のタイプの流体チャンバーまたはフローセルを高い信頼性で容易に取り付けることである。
【0002】
平面基板に流体を適用する方法および機器の応用の1つは、「ラボオンチップ」(lab−on−a−chip:LOC)装置である。LOC装置は、マイクロリットルスケールの容積と、ミリメートル〜マイクロメートルスケールの構成要素とを使い、卓上の化学的手段および生化学的手段に代わるものである。このような装置には、試薬の消費量を削減でき、製品廃棄物の量を削減でき、工程パラメータをより容易に制御でき、反応時間が向上し、化学分析をより迅速に行えるなど、標準的な実験システムに勝るいくつかの利点がある。
【0003】
LOCシステムの特長の1つは、平面上でいくつかの個別試験を並行して行う能力である。例えば、一般的な平面状DNAオリゴヌクレオチドマイクロアレイは、ロボットスポッターによりグリッド(格子)パターンで基板上に配置された直径50〜200マイクロメートルのスポットから成る。そのアレイには、最高数千(例えば、30,000など)の一意のDNAプローブ配列を含めることができ、動作上、少なくとも数千の実験を並行して実行することができる。
【0004】
これらのような生化学的捕捉面を実装したすべてのアッセイでは、標的を含んだ試料を任意の必要な試薬とともに前記捕捉面に送達する方法が重要な構成要素となる。ほとんどの場合、それらの試薬は、マイクロタイターウェルなどの静的な流体環境で送達される。より最近では、平面基板上の動的な流れ(多くの場合、層流)により流体を送達する様々なマイクロシステムが開発されてきている。例としては、以下の文献を参照。)Beckerら「高分子マイクロ流体装置(Polymer microfluidic devices)」、Talanta 56、267−287(2001)。Mastrangeloら「遺伝子診断用に微細加工(微細製作)した装置(Microfabricated devices for genetic diagnostics)」、Proc.IEEE 86、1769−1787(1998)。Bardellら「細胞および化学物質を検出するためのマイクロ流体使い捨て(装置)−モデル結果および流体工学的検証実験(Microfluidic disposables for cellular and chemical detection−CFD model results and fluidic verification experiments)」Proc.SPIE 4265、1−13(2001)。Hofmannら「バイオセンサ表面への効率的な試料送達のための3次元マイクロ流体閉じ込め。平面状光導波路での免疫アッセイへの応用(Three−dimensional microfluidic confinement for efficient sample delivery to biosensor surfaces.Application to immunoassays on planar optical waveguides)」Anal.Chem.74、5243−5250(2002)。Liら「オンチップ生物学:培養細胞の挙動を研究するための微細加工(Biology on a chip:microfabrication for studying the behavior of cultured cells)」Crit.Rev.Biomed.Eng.31、423−488(2003)。Ericksonら「一体型(集積)マイクロ流体装置(Integrated microfluidic devices)」Anal.Chim.Acta 507、11−26(2004)。課題は、流体工学部品と選択した(例えば、電気的、光学的な)検出技術とを、いかに小型基板と一体化するかという点になる。
【0005】
複数の試料またはアッセイプロトコルを扱うよう設計された流体装置の例としては、HJ.Rosenbergの米国特許第3,481,659号明細書、Elkinsの米国特許第3,777,283号明細書、G.Bolzらの米国特許第4,338,024号明細書、Goliasの米国特許第4,505,557号明細書、Clatchの米国特許第6,165,739号明細書、およびWildingらの米国特許第6,551,841号明細書といった発明がある。
【0006】
また、市販のスライドに複数の流体区画を組み込んだものや、スライド上に個々のチャンバーを作製する手段などもいくつかある(Fisher Scientific、Grace Bio−Labs)。水晶で作製され若しくはポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane:PDMS)から成形された種々のマイクロリットル容積カスタムフローセル、ならびにマルチウェルのフロースルー(貫流)ハイブリダイゼーションチャンバーで、3つのチップ全体を並行して培養し、磁力弁別アッセイにかけるものが、これまで開示されている。Malitoら「平面基板上の層流用の単純なマルチチャネル(複数流路)流体システム(A Simple Multichannel Fluidic System for Laminar Flow Over Planar Substrates)」NRL/MR/6170−06−8953、MR−8953、(2006)を参照。
【0007】
一般に、これらの装置で採用するアプローチは、各用途に合わせたものとなっている。例えば、複数の試料を一度に(静的な容積で)分析するには、装置の単一の顕微鏡スライド上で、容積を個別に分離することができる。他の装置は、個々の粒子を分析するため、単一の流路を含んでいる。ただし全般的には、これら装置のうち、Clatch、Wilding、Covington、およびMalitoにより開示された装置を除けば、流量を制御して行うアッセイに適したものはない。ClatchおよびWildingによる前記装置は、異なる反応またはアッセイ条件を並行して監視する際使用できるが、この装置は、上記報告にもあるように、複雑な半導体微細加工方法を要し、単一リザーバからの試薬を共有するよう設計されており、あるいは制御されない毛細管現象により前記試薬が分配される。Covingtonの装置には、複数流路を形成するため何層かのステンシル材料が必要であり、当該装置を流体源に接続する手段は明確に示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在使用されている方法および装置は、複雑な設計および製造方法が障害となり、大量生産により廉価に使い捨てできる最終製品としては適さず、また標準的な市販のポンプ部品およびバルブ部品との併用にも適合しない。例としては、Jolleyの米国特許第4,704,255号明細書、Mannsの米国特許第5,047,215号明細書、Shartleの米国特許第5,627,041号明細書、Packardらの米国特許第5,640,995号明細書、およびZanzucchiらの米国特許第5,755,942号明細書を参照。
【0009】
大半のマイクロ流体システムのもう1つの欠陥は構造が複雑なことで、例えば標準的なマイクロピペッタと同程度の容易さで、検査技師が定期的に組み立てて再使用できる単純な用具(ツール)としては扱えない。Brevigらの「マイクロ流体システムで固定した細胞および分子のサブセットに使用する流体力学的誘導(Hydrodynamic guiding for addressing subsets of immobilized cells and molecules in microfluidic systems)」BMC Biotechnology 2003、3:10(2005年9月19日)では、接着剤または結合方策を使わずに、単一のマイクロ流体セルを平坦な基板(スライドガラスなど)で密閉するため機械的な力を提供する単純なドッキングステーションについて開示している。また、このフローセルは、2つの付加的な誘導流を使って、試料流の軌跡を能動的に方向付け、その幅を制御するよう設計されている。ただし、前記誘導流の個々の流量を操作するため、外部流体制御要件の複雑さが増してしまう。もう1つの欠陥は、ドックが単一の流体セル、ひいては単一のアッセイしか操作できないことである。
【0010】
前記流体装置の異なる層の組み立て、特に流路を収容するカバープレートは、接着剤、高圧下の熱接着(熱融着)、化学結合、熱風溶接、超音波溶接などの機構に依存してきた。この中で、組み立てによく使われる手段は接着剤である。
【0011】
Covingtonらの米国特許第6,848,462号明細書では、接着剤を使用しない、いくつかのマイクロチャネル形式を有したマイクロ流体装置について開示しており、前記マイクロチャネル形式はその発明者らがステンシル層と呼ぶものにより決定され、これにより流路構造を容易に変更して高速プロトタイプ製造が可能である。しかしながら、この装置を構築するには、少なくとも2つの熱可塑性カバー層間で、いくつかのステンシル層を高圧・高温圧縮しなければならない可能性がある。前記装置の他の実施形態では、種々の材料層を適切に配向させる上で、位置合わせピンが必要とされる。
【0012】
Ekstromらの米国特許第5,376,252号明細書およびOhmanの米国特許第5,443,890号明細書では、エラストマー離間層または注入密閉材料を利用して、少なくとも2つのカバープレート間に中程度の圧力下で密閉されたマイクロチャネルを形成している。どちらの開示でも、まず溝および/またはリッジ部を前記カバープレートに作製して、前記エラストマー材料を安定させなければならない。この設計の欠陥は、流路構造を、基板に永久的に画成しなければならない点である。新しい流路構造が必要になった場合は、新しい基板を作製しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示で提供するのは、支持体を有した流体セルであり、前記支持体は中央領域および少なくとも2つの流体ポートを有し、前記支持体と基板の間に配置された圧縮性の層によって前記基板に接合されている。前記圧縮性の層は、前記支持体と前記基板が接合されて前記流体セルを形成すると、前記中央領域の周囲に密閉部をもたらすよう構成されている。前記中央領域は、前記支持体内にフライス加工で作製されたメサ部(台状部)内に位置する。このメサ部は、当該メサ部と前記基板の間に空隙を生じるよう構成された高さを有する。前記圧縮性の層は、前記メサ部内の溝の中に配置しても、前記メサ部を取り囲むようにしてもよい。通常、前記圧縮性の層は、エラストマー材料から成る。前記支持体は、前記基板を受容するよう構成された凹部を伴ったレッジ部(張り出し部)を有することもできる。前記メサ部の高さは、前記基板を横切って前記流体ポート間に層流をもたらすように構成することもできる。前記流体セルは、前記支持体と前記基板の間で間隔を保って前記基板を横切る流れをもたらすように構成されたスタンドオフを前記支持体上に有してもよい。この流体セルの周囲には、前記基板への電気的接続部を収容するように構成された空隙を含めることもできる。前記支持体は、通常、プラスチックなどの透明な材料である。通常、この基板は、センサーチップまたはスライドガラスである。前記基板上には、流体セルのアレイを提供するため、2つ以上の流体セルを配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、流体セルの一実施形態である。
【図2】図2は、流体セルの一実施形態である。
【図3】図3は、流体セルの一実施形態である。
【図4】図4は、流体セルの一実施形態である。
【図5】図5は、並列アッセイ実験用に一体化した複数の流体セルのプラットフォームである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
平面基板に流体セルを取り付ける方法および機器は、compact Bead Array Sensor System(cBASS(商標)(小型ビーズアレイセンサーシステム))と呼ばれる磁気標識ベースのバイオセンサ用アッセイカートリッジを迅速に組み立てる必要性から生まれたものである。このバイオセンサシステムでは、Bead ARray Counter(BARC(商標)(ビーズアレイカウンタ))とその関連技術を使って、核酸および毒素を含むタンパク質、細菌、およびウイルスの多重検出を行う。このバイオセンサは、受容体をパターン化したマイクロチップ上で捕捉された生体分子を、磁性マイクロビーズで標識化するもので、前記マイクロチップには、磁性マイクロセンサアレイを埋め込んでいる。以下を参照。Baseltの米国特許第5,981,297号明細書。Baseltら「磁気抵抗技術に基づいたバイオセンサ(A biosensor based on magnetoresistance technology)」Biosens.and Bioelectron.、13、731−739(1998)。Edelsteinら「生物兵器としての生物剤検出に対するBARCバイオセンサ応用(The BARC biosensor applied to the detection of biological warfare agents)」Biosens.Bioelectron.、14、805(2000)。Millerら「磁性マイクロビーズおよび磁気電子検出を利用したDNAアレイセンサー(A DNA array sensor utilizing magnetic microbeads and magnetoelectronic detection)」J.Mag.Mag.Mat.、225、138(2001)。Tamanahaら「アレイ式固体装置での磁気的なDNA検出方法(Magnetic method for DNA detection on an arrayed solid state device)」Micro Total Analysis Systems 2001(Kluwer Academic Publishers、Boston、pp.444−446)(2001)。Whitmanら「BARCバイオセンサ(The BARC biosensor)」2001 NRL Review、p.99。Rifeら「バイオセンサ内の磁性マイクロビーズ検出のためのGMRセンサーの設計および性能(Design and performance of GMR sensors for the detection of magnetic microbeads in biosensors)」Sensors and Actuators A 107、209−218(2003)。
【0016】
前記BARC(商標)マイクロチップ内のセンサーは、ミクロンスケールのワイヤー状構造であり、巨大磁気抵抗(giant magnetoresistive:GMR)材料で作製されている。GMRセンサーの上方に磁性ビーズが存在すると、検出可能な量だけ抵抗が低下し、ビーズが増えるほど抵抗の低下も増す。このBARC(商標)チップでのアッセイは、それに一体化された流体セルおよび層流条件を必要とする。層流は、試料に含まれる任意標的の捕捉および標識化を改善するほか、チップ面上のマイクロビーズにかかる流体力を制御するよう調整して、捕捉された標的分子を特異的に標識化しないマイクロビーズを選択的に除去することができる(Sheehanら「ナノスケールバイオセンサの検出限界(Detection limits for nanoscale biosensors)」Nano Lett.5、803−807(2005)およびRifeら米国特許出願公開第20040253744号を参照)。このユニークなアッセイ工程は、流体力による弁別(fluidic force discrimination:FFD)と呼ばれ、望ましくない背景信号を大幅に削減することにより、試料をほとんど、またはまったく処理せずに、捕捉された生体分子を高い感度および特異度で高速に識別できるようにする。これまで、増幅工程または予備濃縮工程なしでも、血液や食品など種々の複雑な試料マトリックスを使って、非常に高感度な多重DNAアッセイ(<10fM)および免疫アッセイ(<10pg/mL)を20分間未満で行えることが実証されている。
【0017】
磁気標識およびチップベースの磁気電子検出を使うと、cBASS(商標)の利点が数多く得られるが、アッセイ性能は、ビーズをカウント(計数)する磁気エレクトロニクス(磁気電子工学)と無関係であり、磁気エレクトロニクスとは別個に最適化できる。現在、システム性能は、アッセイにより決定され、最終的には検出に利用できるビーズの数から決定される一方、ビーズ標識密度は光学顕微鏡法および粒子計数を使って決定される。そのため、BARC(商標)センサーチップまたはそれと同様な化学的性質を伴った単純な基板と併用可能な平面アッセイ基板に流体セルを取り付ける方法および機器を使ったアッセイを開発することが望ましい。このようにして、アッセイは、BARC(商標)試作品(プロトタイプ)マイクロチップを消費する必要なく開発できる。また、単一基板上の異なるフローセルで並行して多重アッセイを行う能力があれば、アッセイプロトコルを最適化する能力が強化される。
【0018】
したがって、使い捨てアッセイカートリッジから実験用マルチチャネル(複数流路)アッセイプラットフォームに至るまで、一連の装置に一体化する上で十分柔軟な「押し合わせて一体化(プレスフィット)する」(press−together)設計の、単純で再使用可能な流体セルが望まれている。最適な物質移動条件を得るための流路ヘッドスペース制御、また所与のセンサーレイアウトに基づく流体制御のための流路構造は、アッセイを行う基板に影響を及ぼさず容易に高速プロトタイピングできるはずである。また、一体化した流体セルは、埋め込まれたセンサーへの電子接続を確立するため使用されるワイヤーボンドなど、基板に取り付けられた他の構成要素に影響を及ぼすことなく機能できるはずである。その設計は、層流および光学検査を使って、固体基板上の不均一アッセイに対応できるはずである。
【0019】
基本的な「押し合わせて一体化(プレスフィット)する」アセンブリは、次の3つの標準構成要素から成る。1)支持体。通常はプラスチックで、その内部には一体型の流体セル用メサ部(台状部)が機械加工で設けられる。2)一体型の流体セルの側壁として機能し、前記支持体および平面基板に対して水密な密閉部を確立するエラストマーガスケット。3)センサーチップやスライドガラスなどであってよい平面基板。本発明の重要な特徴は、この流体セル設計が前記支持体とは無関係である点にある。このセル設計を制限するのは、前記流体セルが接触している平面基板上での、アッセイ反応の表面積および位置だけである。ICマイクロチップの場合は、メサ部の設計場所として避けなければならないワイヤーボンドがチップ縁部にあるかどうかなどを他に考慮する。したがって、基本的な設計および製造工程は、カートリッジ用であっても、顕微鏡観察のための複数流路プラットフォーム用であっても同一になる。もう1つの特徴は、シリコン(または同様なエラストマー)層の圧縮を利用して水密な密閉部を形成する実施形態は、分解後、完全に再使用可能であるという点である。
【0020】
一般的な工程は、AutoDesk Inventor(登録商標)などのCADプログラムを使ってセル構造を設計することから始まる。CNCフライス盤をプログラミングするためのコードが生成され、これにより自立構造のメサ部が自動的にフライス加工されて、前記一体型の流体セルの基礎を形成するプラスチックの前記支持体となる。図1aは、前記流体セルの側面図である。図1bは、この流体セルの上面図である。図1では、基板70を受容する受容面12を有した支持体10を示している。この支持体10は、陥凹領域15内にメサ部(台状部)20を有する。この基本的な一体型の流体セル構造は、シリコン(または同様なエラストマー)でできた圧縮性の層(ガスケット)30を前記メサ部20の周囲に有する。上記のプラスチックの支持体10および平面基板70が一体的に固定された状態で、前記陥凹領域15の深さから陥凹領域の底を基点とした前記メサ部の高さを差し引いたものが、当該流体セルの容積の高さ60になる。この高さは、目的の生化学アッセイ用途について、流体流量および物質移動の関係の条件を最適化する適切な流体セルの高さを実現するよう注意深く測定されたものである。流体の注入ポートおよび吐出ポート80は、外部チューブの取り付け用、または当該支持体10にフライス加工した拡張流路へのマージ用に、前記メサ部20にドリリングされる。任意選択で、当該支持体10上で前記平面基板70が着座する場所に、適切な深さの凹部を伴ったレッジ部(張り出し部)のフレーム(図示せず)を機械加工して設け、前記平面基板70の位置合わせに役立てることができる。一般に、シリコンガスケットは、金型を作製し、これにより一体型セルの形状に成形できる。ガスケットの金型は、アルミニウムブロックで作製した。ガスケット(シリコンエラストマーなど)は、その金型で成形した。成形したシリコンガスケット30は、前記メサ部20の周囲に配置した。このアセンブリを完成させるには、当該支持体10に平面基板70を圧入し、またはネジで永久的に固定する。すると、前記基板70が前記シリコンガスケット30に接触し、十分な圧力がかかって前記メサ部20の周囲に水密な密閉部が形成される。通常、前記フローセルの高さは、約10マイクロメートル〜約1000マイクロメートルの範囲である。このフローセルの高さは、約100マイクロメートルであることがより好ましい。上記の圧縮性材料は、前記流体セルを密閉するよう作用し、当該流体セルの側壁としても作用する。前記基板および前記支持体のプレスフィットにより構造的な完全性を提供し、確実に水密な密閉部をもたらすため、前記自立構造のガスケット30は、前記平面基板の表面に当接して画成された厚い壁を有する。前記メサ部20の周囲に密に嵌着するよう成形される。
【0021】
図2aは、前記流体セルの第2の実施形態の側面図である。図2bは、この流体セルの上面図である。図2aおよび図2bは図1のフローセルを示したものであるが、当該支持体10は、ガスケット30の周囲に隆起したレッジ部(張り出し部)17をさらに有することにより、前記ガスケット30を受容する溝をこの支持体10に効果的に形成している。当該支持体10上で前記平面基板70が着座する場所に、適切な深さの凹部を伴ったレッジ部のフレーム75を機械加工して設け、前記平面基板70の位置合わせに役立てることができる。前記ガスケット30は、圧縮下で拡張し、この隆起したレッジ部17内で安定することにより、前記メサ部20の周囲でしっかり着座することができる。この実施形態では、前記隆起したレッジ部が構造的完全性の維持に役立って確実に水密な密閉部が形成されるため、より厚い壁は不要である。図2は、さらに、前記基板70上のチップ90も示している。
【0022】
図3a(側面図)および図3b(上面図)で示したように、第3の実施形態では、密閉を行うため、シリコンエラストマーのガスケットの代わりに、接着層35(アクリルの両面テープなど)を使用している。この方法は、一体型フローセルの永久的に組み立てるためのものであり、当該基板70は再使用できず、使い捨て装置の一部となる。この流体セル実施形態は、基板70に面した受容面17を有した支持体10と、その支持体内に位置した深さを有する陥凹領域15と、その陥凹領域15内に配置された少なくとも2つの流体ポート80とを有する。接着層35は、前記受容面17上に位置する。この接着層35は、既知の厚さを有する。基板70は、この接着層35に接合している。この接着層35は、前記支持体10および前記基板70が接合されると、前記陥凹領域15の周囲に密閉部をもたらす。また前記陥凹領域の深さと、前記接着層の厚さとが、この流体セルの高さを画成する。
【0023】
図4a(側面図)および図4b(上面図)に示したように、第4の実施形態は、上述した他の実施形態と異なり、ガスケット30だけで流体セルを画成している。支持体10は、基板70用に受容面15を有する。深さのある陥凹領域15は、前記受容面15内に位置する。少なくとも2つの流体ポート80は、前記陥凹領域15内に位置する。この陥凹領域15の深さを超える高さを有した圧縮性シート37(通常、エラストマー材料)は、当該陥凹領域内に位置する。この圧縮性シート37は、当該支持体10の前記陥凹領域15の流体ポートに位置合わせされた少なくとも2つの流体ポート82を有する。この圧縮性シート37は、前記流体ポート82間に開流路39を有する。この開流路39は、当該圧縮性シート37の前記基板70側の面にあり、深さがある。前記基板70を当該支持体10の受容面15に接合すると、この圧縮性シート37が圧縮される。この圧縮性シート37圧縮後、前記開流路39の深さは、当該流体セルの高さとなる。この実施形態の利点の1つは、異なるフローセルの高さおよび構造を有した異なる圧縮性シートを前記支持体の前記陥凹領域に配置すると、例えば蛇行した流路が生じるよう設計できることである。当該技術分野に精通した者であれば、単に陥凹領域の圧縮性シート挿入部材を交換するだけで、フローセル設計を迅速に切り換えられる汎用性が理解できるであろう。
【0024】
図5で示した第5の実施形態は、顕微鏡下で行う並列アッセイ実験用に一体化した複数の流体セルのプラットフォームである。この図に示すように、これは単に、複数の流体セルを機械加工で単一のプラスチック支持体に一体化したものである。本装置のこれら一体型の流体セルは、それぞれ、上記実施形態のいずれを使って作製してもよい。これらセルへの流体接続は、マイクロチャネル延出部を支持体にフライス加工することにより提供できる。前記マイクロチャネル延出部の上から、アクリル両面接着テープでプラスチックのカバープレートを固定すると、前記流路を密閉できる。
【0025】
前記支持体にリッジ部が存在する場合は、その深さをガスケット厚の約半分にすると、そのガスケットを着座状態で十分支持することができる。一般に、前記支持体に含めるリッジ部は、前記ガスケットを着座させる上で十分な深さにすべきである。前記リッジ部と前記メサ部の間の流路は、前記ガスケット幅よりわずかに大きくし、圧縮された前記ガスケットが拡張できるようにする空間を設けるよう、最適な幅を有するべきである。当業者であれば、当該フローセル構造は、試料基板にわたり均一な層流を促進するよう設計されていることが理解されるであろう。
【0026】
水密な密閉部を形成する前記エラストマーシリコンガスケットは、通常、金型で作製される流路と同じ形状である。このガスケットは、流体セルの側壁を形成する。このガスケットは、前記自立構造のメサ部と前記基板の間で適合性の高い接触が生じるよう、十分な高さにすべきである。前記ガスケットは、わずかに圧縮された状態で、前記支持体と前記基板の間に防水密閉部を形成できるよう、十分な高さにすべきである。このガスケット圧縮は、試料基板およびカートリッジが押し合わされることにより生じる。
【0027】
本発明は、CNCフライス盤を使って作製できる。この一体型流体セル独特の単純な設計は、シリコンのマイクロマシニング加工、熱可塑性物質のエンボス加工、プラスチックの射出成形、レーザーアブレーションなど、他の複雑で高価な製造技術を不要にする。ガラスまたはシリコンのマイクロマシニングは高価で組み立てが難しく、レーザーアブレーションは低速すぎて比較的小さい形状に限られてしまい、熱可塑性物質のエンボス加工および射出成形の双方は、ただ1つの設計にしか使えない高価なマスターを必要とする。
【0028】
本発明の特徴は、そのセル設計が前記支持体とは無関係である点にある。このセル設計を制限するのは、前記流体セルを取り付ける平面基板上での、アッセイ反応の表面積および位置だけである。ICチップの場合は、メサ部の設計場所として避けなければならないワイヤーボンドがチップ縁部にあるかどうかなどを他に考慮する。したがって、基本的な設計および製造工程は、カートリッジ用であっても、顕微鏡観察のための複数セルプラットフォーム用であっても同一になる。
【0029】
上記の支持体、平面基板、およびエラストマーシリコンガスケットは、シリコン層を圧縮して水密な密閉部を形成する実施形態において、再使用可能である。前記プラスチック支持体は、この部分の耐用期間中、無期限に再利用できる。前記エラストマーシリコンガスケットは、数週間使用できる。前記エラストマーシリコンガスケットは、圧縮時、防水密閉部を形成し、かつ前記一体型流体セルの内壁境界を画成するよう作用する。その組み立てに接着剤は不要である。ポリ(ジメチルシロキサン)すなわちPDMSなどのシリコンは、ラピッドプロトタイピング金型ですばやく(数分間で)成形できる。Duffyらの「ポリ(ジメチルシロキサン)による、マイクロ流体システムのラピッドプロトタイピング(Rapid prototyping of microfluidic systems in poly(dimethylsiloxane))」Anal.Chem.70、4974−4984を参照。
【0030】
前記エラストマーシリコンガスケットで画成された境界内の前記メサ部の中央面には、表面への機械加工により、特徴的な放物線状層流プロファイルを、例えば、より平坦な前縁を伴ったものに修正するよう、特徴を追加することができる。Tamanahaらの「アレイ式固体装置での磁気的なDNA検出方法(Magnetic method for DNA detection on an arrayed solid state device)」Micro Total Analysis Systems 2001(Kluwer Academic Publishers、Boston、pp.444−446)(2001)を参照。このような能力により、例えば生化学分析における物質移動条件、またはマイクロ流路における混合の受動的な機序を実験的に強化することができる。
【0031】
当該システム全体は、種々の平面基板に対応できるため、非常に用途が広い。前記平面基板として顕微鏡スライドを使用する場合は、適切なベースプレートにより(下から照らす場合はアクリル製、同軸照明を使う場合はアルミニウム製)、前記顕微鏡スライドを定位置に保つことができる。カートリッジ形式のセンサーICチップを使う場合は、ネジでの圧縮または前記カートリッジへの圧入により、PCBキャリアボードに適切に取り付けたチップを一体的に保つことができる。
【0032】
このシステムは、蛍光、発光、白色光などを使った、すべての光学観測機構に適合している。前記一体型フローセルへの流体接続は、前記支持体に通じる管(チューブ)、またはフライス加工で作製したマイクロチャネル延出部に適合させやすい(図7を参照)。この方法は、再利用可能な装置および使い捨て装置の双方の製造に適している。
【0033】
当該技術は、小型の生化学分析、バイオリアクター、化学的センサー、電気化学的センサー、薬理学的センサー、および生物学的センサーを含むいくつかの分野へ、完全に拡張可能である。
【0034】
当業者であれば容易に理解されるように、本発明の動機付けは、一般的な実験室設備の能力で到達できる範囲の製造方法を確立することであったが、このような方法は、プラスチック以外の材料(シリコンやアルミニウムなど)でサブミリメートル寸法のシステムを製造するためのLIGAやそれに関連したMEMS製造技術など、より高度な手順(工程)で置き換えられない理由はない。また、CNCフライス加工を使った製造方法についても上記で説明した上記の代わりにカートリッジやマルチセル(複数セル)プラットフォームを大量生産することを希望する場合は、熱可塑性物質を使って前記装置を射出成形することができる。最後に、上記では、前記一体型のセルを流体に通過させる単一の注入口/吐出口ペアを説明した。付加的な流体注入ポート/吐出ポートを追加して、当該セル内で試料の流れを流体力学的に誘導することも考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体セルであって、
基板に面した受容面と、前記受容面内に位置した深さを有する陥凹領域と、前記陥凹領域内に設置されたメサ部(台状部)であって、前記陥凹領域の深さ未満の高さを有するように構成された前記メサ部と、少なくとも2つの流体ポートとを有する支持体と、
前記受容面に接合された基板と、
前記支持体と前記基板の間に設置された圧縮性の層であって、当該圧縮性の層は前記メサ部の周囲に設置され、前記流体セルの側壁を画成するように、且つ、前記支持体と前記基板が接合されると前記メサ部の周囲に密閉部を提供するように構成されており、前記陥凹領域の深さと前記メサ部の高さとの差が前記流体セルの高さになるものである、前記圧縮性の層と
を有することを特徴とする流体セル。
【請求項2】
請求項1記載の流体セルにおいて、前記支持体は、前記圧縮性の層の周囲に、隆起したレッジ部(張り出し部)をさらに有するものである。
【請求項3】
請求項1記載の流体セルにおいて、前記圧縮性の層は、エラストマー材料から成るものである。
【請求項4】
請求項1記載の流体セルにおいて、前記支持体は、前記基板を位置合わせするよう構成されている隆起したレッジ部をさらに有するものである。
【請求項5】
請求項1記載の流体セルにおいて、この流体セルは、さらに、
前記基板への電気的接続部を有するものである。
【請求項6】
請求項1記載の流体セルにおいて、前記支持体は透明な材料から成るものである。
【請求項7】
請求項1記載の流体セルにおいて、前記基板はセンサーチップを有したキャリアボードであって、このキャリアボードは前記支持体に接合されているものである。
【請求項8】
請求項1記載の流体セルにおいて、前記流体ポートは、流体注入ポートと、流体吐出ポートとを有するものである。
【請求項9】
流体セルのアレイであって、請求項1記載の流体セルを少なくとも2つ、同じ支持体上に有する流体セルのアレイ。
【請求項10】
流体セルであって、
基板に面した受容面と、前記受容面内に位置した深さを有する陥凹領域と、前記陥凹領域内に少なくとも2つの流体ポートとを有する支持体と、
前記受容面上に位置し、厚さを有した接着層と、
前記接着層に接合された基板であって、前記接着層は、前記支持体および前記基板が接合されると、前記陥凹領域の周囲に密閉部をもたらすように構成されており、前記陥凹領域の深さに前記接着層の厚さを加えたものが前記流体セルの高さを画成するものである、前記基板と
を有することを特徴とする流体セル。
【請求項11】
請求項10記載の流体セルにおいて、前記支持体は、前記基板を位置合わせするよう構成されている隆起したレッジ部をさらに有するものである。
【請求項12】
流体セルであって、
基板に面した受容面と、前記受容面内に位置した深さを有する陥凹領域と、第1の少なくとも2つの流体ポートとを有する支持体と、
前記陥凹領域の深さを超える高さと、第2の少なくとも2つの流体ポートとを有する圧縮性シートであって、当該圧縮性シートは前記第2の少なくとも2つの流体ポート間に開流路を有し、当該開流路は深さを有するよう構成されており、当該圧縮性シートは前記支持体の前記陥凹領域内に位置し、前記第1の少なくとも2つの流体ポートおよび前記第2の少なくとも2つの流体ポートは位置合わせされているものである、前記圧縮性シートと、
前記受容面に接合された基板であって、当該基板が前記受容面に接合されると、前記圧縮性シートが圧縮され、前記圧縮性シートの圧縮後、前記開流路の深さは前記流体セルの高さになるものである、前記基板と
を有することを特徴とする流体セル。
【請求項13】
請求項12記載の流体セルにおいて、前記支持体は、前記基板を位置合わせするように構成されている隆起したレッジ部をさらに有するものである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−501076(P2010−501076A)
【公表日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524683(P2009−524683)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/018174
【国際公開番号】WO2008/127269
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(500238790)アメリカ合衆国 (13)
【Fターム(参考)】