説明

平面状コネクター

【課題】成形後に格子部に割れが生じないという耐クラック性に優れた液晶性ポリマー製平面状コネクターを提供する。
【解決手段】A4−ヒドロキシ安息香酸から導入される構成単位I、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から導入される構成単位II、1,4−フェニレンジカルボン酸から導入される構成単位III、1,3−フェニレンジカルボン酸から導入される構成単位IV、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから導入される構成単位Vのそれぞれ特定量からなり溶融時に光学的異方性を示す全芳香族ポリエステル、B板状の無機充填剤及びCガラス繊維からなり、B成分が組成物全体に対し15〜25重量%、C成分が組成物全体に対し10〜25重量%、且つB成分とC成分の合計が組成物全体に対し30〜40重量%である複合樹脂組成物から形成され、外枠の内部に格子構造を有し、格子部のピッチ間隔が1.5mm以下の構造に特徴がある平面状コネクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CPUソケット等の外枠内部に格子構造を有する平面状コネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリマーは、熱可塑性樹脂の中でも寸法精度、制振性、流動性に優れ、成形時のバリ発生が極めて少ない材料として知られている。従来、このような特徴を活かし、液晶性ポリマーが各種電子部品の材料として多く採用されてきた。
特に、近年のエレクトロニクス機器の高性能化に伴う、コネクターの高耐熱化(実装技術による生産性向上)、高密度化(多芯化)、小型化という時代の要請もあり、上記液晶性ポリマーの特徴を活かし、ガラス繊維で強化された液晶性ポリマー組成物がコネクターとして採用されている(非特許文献1、特許文献1)。CPUソケットに代表される外枠内部に格子構造を有する平面状コネクターにおいては、上記高耐熱化、高密度化、小型化の傾向が顕著であり、ガラス繊維で強化された液晶性ポリマー組成物が多く採用されている。
しかし、ある程度流動性の良いガラス繊維強化液晶性ポリマー組成物であっても、近年要求されている格子部のピッチ間隔が2mm以下、端子を保持する格子部の樹脂部分の幅が0.5mm以下という非常に薄肉の平面状コネクターとして使用するには性能が不十分であった。即ち、このような格子部の非常に幅が薄肉の平面状コネクターにおいては、格子部へ樹脂を充填しようとすると、流動性が十分でないために充填圧が高くなり、結果として得られる平面状コネクターのそり変形量が多くなるという問題がある。
この問題を解決するには、ガラス繊維の添加量を少なくした流動性の良好な液晶性ポリマー組成物の使用が考えられるが、このような組成物では強度不足となり、実装時のリフローにより変形するという問題が生じる。
このように、未だ性能バランスの優れた液晶性ポリマー製平面状コネクターは得られていないのが現状である。
【0003】
そこで、本発明者らは、特許文献2にて、配合する繊維状充填剤の重量平均長さと配合量が一定の関係にある特定の複合樹脂組成物から構成される平面状コネクターを提案した。上記特許文献2によれば、薄肉の平面状コネクターについても、成形性、平面度、そり変形、耐熱性等の性能において優れたものが得られる。しかしながら、最近の平面状コネクターにおける集積率の増加等に伴う形状変化、特にコネクターピン数の増加、格子部の幅の更なる薄肉化等の要因により、上記特許文献2では対処しきれない場合があることが判明した。
そこで更に本発明者らは、特許文献3にて、特定の液晶性ポリマーに対し板状充填剤と繊維状充填剤を併用配合した特定の複合樹脂組成物から構成される平面状コネクターを提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−204951号公報
【特許文献2】特開2005−276758号公報
【特許文献3】特開2010−3661号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「全調査 エンジニアリングプラスチックス’92−’93」、182〜194頁、1992年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献3によれば、薄肉の平面状コネクターについても、成形性、平面度、そり変形、耐熱性等の性能において優れたものが得られ、更に最近の平面状コネクターにおける集積率の増加等に伴う形状変化、特にコネクターピン数の増加、格子部の幅の更なる薄肉化等に対しても対処し得るものが得られる。しかしながら、特許文献3の技術では、ポリマーの製造バラツキ、成形条件等の微細な製造条件の変化によって、格子部に成形後クラック(割れ)を生じることがあり、耐クラック性において顧客の満足を得るには十分とは言えなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記問題点に鑑み、最近の平面状コネクターの形状で安定的に良好な性能が得られる、特に成形後に格子部に割れが生じないという耐クラック性に優れた液晶性ポリマー製平面状コネクターを提供すべく鋭意探索、検討を行ったところ、(A)特定の構造からなる全芳香族液晶性ポリマーに、(B)板状の無機充填剤及び(C)特定の繊維状充填剤を特定比率で併用配合した複合樹脂組成物を用いることにより、成形性良く、平面度、そり変形、耐熱性、耐クラック性等の性能の全てに優れた平面状コネクターが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、(A)必須の構成成分として下記一般式(I),(II),(III),(IV)および(V)で表される構成単位からなり、全構成単位に対して(I)の構成単位が35〜75モル%、(II)の構成単位が2〜8モル%、(III)の構成単位が4.5〜30.5モル%、(IV)の構成単位が2〜8モル%、(V)の構成単位が12.5〜32.5モル%、(II)+(IV)の構成単位が4〜10モル%であることを特徴とする溶融時に光学的異方性を示す全芳香族ポリエステル、(B)板状の無機充填剤及び(C)ガラス繊維からなり、(B)成分が組成物全体に対し15〜25重量%、(C)成分が組成物全体に対し10〜25重量%、且つ(B)成分と(C)成分の合計が組成物全体に対し30〜40重量%である複合樹脂組成物から形成され、
外枠の内部に格子構造を有し、
格子部のピッチ間隔が1.5mm以下
の構造に特徴がある平面状コネクターである。
【0008】
【化1】

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成形性良く、平面度、そり変形、耐熱性、耐クラック性等の性能の全てに優れた平面状コネクターを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例で成形した平面状コネクターを示す図であり、(a) は平面図、(b) はA部の詳細図である。尚、図中の数値の単位はmmである。
【図2】実施例で成形品の耐クラック性評価に用いた成形品を示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその寸法を示す図である。尚、図中の数値の単位はmmである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明に用いられる(A)全芳香族液晶性ポリマーとは、(I)〜(V)の構成単位からなるものであり、上記(I)〜(V)の構成単位を具現化するには通常のエステル形成能を有する種々の化合物が使用される。以下に本発明を構成する全芳香族ポリエステルを形成するために必要な原料化合物について順を追って詳しく説明する。
【0012】
構成単位(I)は、4−ヒドロキシ安息香酸から導入される。
【0013】
構成単位(II)は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から導入される。
【0014】
構成単位(III)は、1,4−フェニレンジカルボン酸から導入される。
【0015】
構成単位(IV)は、1,3−フェニレンジカルボン酸から導入される。
【0016】
また、構成単位(V)は、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから導入される。
【0017】
本発明では、上記構成単位(I)〜(V)を含み、全構成単位に対して(I)の構成単位が35〜75モル%(好ましくは40〜65モル%)、(II)の構成単位が2〜8モル%(好ましくは3〜7モル%)、(III)の構成単位が4.5〜30.5モル%(好ましくは13〜26モル%)、(IV)の構成単位が2〜8モル%(好ましくは3〜7モル%)、(V)の構成単位が12.5〜32.5モル%(好ましくは15.5〜29モル%)、(II)+(IV)の構成単位が4〜10モル%(好ましくは5〜10モル%)の範囲にあることが必要である。
(I)の構成単位が35モル%未満および75モル%より多くなると、融点が著しく高くなり、場合によっては製造時にポリマーがリアクター内で固化し、所望の分子量のポリマーを製造することができなくなるため好ましくない。
(II)の構成単位が2モル%未満では、充填剤の種類、配合量を考慮しても平面状コネクターを成形した際に格子部に割れが発生するため好ましくない。また、8モル%より多くなるとポリマーの耐熱性が低くなるため好ましくない。
(III)の構成単位が4.5モル%未満および30.5モル%より多くなると、融点が著しく高くなり、場合によっては製造時にポリマーがリアクター内で固化し、所望の分子量のポリマーを製造することができなくなるため好ましくない。
(IV)の構成単位が2モル%未満では、充填剤の種類、配合量を考慮しても平面状コネクターを成形した際に格子部に割れが発生するため好ましくない。また、8モル%より多くなるとポリマーの耐熱性が低くなるため好ましくない。
また、(V)の構成単位が12.5モル%未満および32.5モル%より多くなると、融点が著しく高くなり、場合によっては製造時にポリマーがリアクター内で固化し、所望の分子量のポリマーを製造することができなくなるため好ましくない。
また、(II)+(IV)の構成単位が4モル%未満では、ポリマーの結晶化状態を示す示差熱量測定により求められるポリマーの結晶化熱量が2.5J/g以上となり、充填剤の種類、配合量を考慮しても平面状コネクターを成形した際に格子部に割れが発生するため好ましくない。結晶化熱量の好ましい値は、2.3J/g以下であり、より好ましくは2.0J/g以下である。また、10モル%より多くなるとポリマーの耐熱性が低くなるため好ましくない。
なお、結晶化熱量とは示差熱量測定において、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+40℃の温度で2分間保持した後、20℃/分の降温条件で測定した際に観測される発熱ピーク温度のピークより求められる発熱ピークの熱量を指す。
【0018】
尚、本発明の全芳香族液晶性ポリマーには、本発明の目的を阻害しない範囲で少量の公知の、上記(I)〜(V)以外の他の構成単位を導入することもできる。
【0019】
前述の通り、特開昭59−43021号公報(特許文献1)や特開平2−16120号公報(特許文献3)では、耐熱性および易加工性を兼ね備えた液晶ポリマーが提案されており、特開平2−16120号公報(特許文献3)の実施例には、構成単位(I)を64モル%、(II)を1モル%、(III)を15.5モル%、(IV)を2モル%、(V)を17.5モル%からなる液晶性ポリマーが提案されているが、この液晶性ポリマーは本願発明と同じ充填剤の種類、配合量の組成物としても平面状コネクターを成形した際に格子部に割れが発生するという問題点がある。
【0020】
これに対し、本発明では、構成単位(I)〜(V)の量、並びに構成単位(II)+(IV)の量を上記範囲に規制することにより、成形性良く、平面度、そり変形、耐熱性、耐クラック性等の性能の全てに優れた平面状コネクターを得ることができたものである。
【0021】
本発明の全芳香族液晶性ポリマーは、直接重合法やエステル交換法を用いて重合され、重合に際しては、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等が用いられる。
本発明では、重合に際し、重合モノマーに対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを使用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物等が挙げられる。
これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものはジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタンけい酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF3 の如きルイス酸塩等が挙げられる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全重量に基いて約0.001乃至1重量%、特に約0.003乃至0.2重量%が好ましい。
【0022】
また、溶液重合又はスラリー重合を行う場合、溶媒としては流動パラフィン、高耐熱性合成油、不活性鉱物油等が用いられる。
【0023】
反応条件としては、反応温度200〜380℃、最終到達圧力0.1〜760Torr(即ち、13〜101,080Pa)である。特に溶融反応では、反応温度260〜380℃、好ましくは300〜360℃、最終到達圧力1〜100Torr(即ち、133〜13,300Pa)、好ましくは1〜50Torr(即ち、133〜6,670Pa)である。
【0024】
反応は、全原料モノマー、アシル化剤及び触媒を同一反応容器に仕込んで反応を開始させる(一段方式)こともできるし、原料モノマー(I)、(II)及び(V)のヒドロキシル基をアシル化剤によりアシル化させた後、(III)及び(IV)のカルボキシル基と反応させる(二段方式)こともできる。
【0025】
溶融重合は、反応系内が所定温度に達した後、減圧を開始して所定の減圧度にして行う。撹拌機のトルクが所定値に達した後、不活性ガスを導入し、減圧状態から常圧を経て、所定の加圧状態にして反応系からポリマーを排出する。
【0026】
上記重合方法により製造されたポリマーは更に常圧又は減圧、不活性ガス中で加熱する固相重合により分子量の増加を図ることができる。固相重合反応の好ましい条件は、反応温度230〜350℃、好ましくは260〜330℃、最終到達圧力10〜760Torr(即ち、1,330〜101,080Pa)である。
【0027】
溶融時に光学的異方性を示す液晶性ポリマーであることは、本発明において熱安定性と易加工性を併せ持つ上で不可欠な要素である。上記構成単位(I)〜(V)からなる全芳香族ポリエステルは、構成成分およびポリマー中のシーケンス分布によっては、異方性溶融相を形成しないものも存在するが、本発明に係わるポリマーは溶融時に光学的異方性を示す全芳香族ポリエステルに限られる。
【0028】
溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。より具体的には溶融異方性の確認はオリンパス社製偏光顕微鏡を使用しリンカム社製ホットステージにのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより実施できる。上記ポリマーは光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光は透過する。
【0029】
本発明の加工性の指標としては液晶性及び融点(液晶性発現温度)が考えられる。液晶性を示すか否かは溶融時の流動性に深く係わり、本願のポリマーは溶融状態で液晶性を示すことが不可欠である。
【0030】
ネマチックな液晶性ポリマーは融点以上で著しく粘性低下を生じるので、一般的に融点またはそれ以上の温度で液晶性を示すことが加工性の指標となる。融点(液晶性発現温度)は、出来得る限り高い方が耐熱性の観点からは好ましいが、ポリマーの溶融加工時の熱劣化や成形機の加熱能力等を考慮すると、390℃以下であることが望好ましい目安となる。なお、より好ましくは、380℃以下である。
【0031】
更に、融点より10〜40℃高い温度で、剪断速度1000sec-1における溶融粘度が1×105 Pa・s以下であることが格子部の流動性を確保する上で好ましい。更に好ましくは5Pa・s以上で1×102 Pa・s以下である。これらの溶融粘度は液晶性を具備することで概ね実現される。
【0032】
本発明に使用する複合樹脂組成物は、上記(A)全芳香族液晶性ポリマー、(B)板状の無機充填剤及び(C)ガラス繊維からなるものである。
本発明に使用する(B)板状充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられるが、タルク、マイカより選ばれる1種以上であることが好ましい。また、(B)板状充填剤の平均粒径については特に限定されないが、薄肉部の流動性を考慮すると小さい方が望ましいが、そり変形を小さくするためには一定の大きさを維持している必要がある。具体的には、1〜100μm、望ましくは5〜50μmが好ましい。
【0033】
本発明に使用する(C)ガラス繊維は、重量平均繊維長が250〜800μmであることが好ましい。重量平均繊維長が800μmを超えると、流動性が悪化し成形不可能か、たとえ成形できても優れた平面度のコネクターとはならなかったり、重量平均繊維長が250μm未満の場合は、耐クラック性が劣り成形品の格子部に割れが生じ好ましくない場合がある。
また、(C)ガラス繊維の繊維径は特に制限されないが、一般的に5〜15μm程度のものが使用される。
【0034】
また、本発明に使用する複合樹脂組成物は、(B)成分が組成物全体に対し15〜25重量%、(C)成分が組成物全体に対し10〜25重量%、且つ(B)成分と(C)成分の合計が組成物全体に対し30〜40重量%(好ましくは30〜35重量%)であることが必要である。
(B)成分が15重量%より少ないとそり変形量が大きくなり好ましくなく、25重量%より多いと耐クラック性が劣り成形品の格子部に割れが生じ好ましくない。(C)成分が10重量%より少なかったり、25重量%より多いと耐クラック性が劣り成形品の格子部に割れが生じ好ましくない。また、(B)成分と(C)成分の合計が組成物全体に対し30重量部より少ないと耐熱性が低下し好ましくなく、40重量部より多いと耐クラック性が劣り成形品の格子部に割れが生じ好ましくない。
【0035】
本発明の複合樹脂組成物を成形することにより、各種平面状コネクターを得ることができるが、従来、工業的に実用性のあるものが提供されていなかった、格子部のピッチ間隔が1.5mm以下、端子を保持する格子部の樹脂部分の幅が0.5mm以下、製品全体の高さが5.0mm以下という非常に薄肉の平面状コネクターに特に有効である。
このような平面状コネクターをより詳細に説明するならば、実施例で成形した図1に示すようなコネクターであり、厚みが4.0mm以下の外枠部と厚みが4.0mm以下の格子部からなり、格子部に40mm×40mm×1mm程度の製品中に数百のピン孔数を有するものである。図1に示すように、格子部のピッチ間隔が1.5mm以下、端子を保持する樹脂部分の幅が0.5mm以下という、射出成形が非常に困難な形状となっている。なお、本発明で言う平面状コネクターは、格子部の中に適当な大きさの開口部を有しているものも含まれる。
【0036】
本発明の複合樹脂組成物を用いることにより、図1に示すように、格子部のピッチ間隔が1.5mm以下(1.2mm)、端子を保持する格子部の樹脂部分の幅が0.5mm以下(0.18mm)という、格子部の樹脂部分の幅が非常に薄肉の平面状コネクターを成形性良く成形することが可能であり、その平面度も優れている。
この平面度を数値的に規定するならば、ピーク温度230〜280℃で表面実装のためのIRリフロー工程を経る前の平面度が0.05mm以下であり、なおかつリフロー前後の平面度の差が0.10mm以下であるものは、実用上優れた平面度を有するものと言える。
【0037】
このような優れた平面度を有するコネクターを得る成形方法としては、特に制限はないが、経済的な射出成形方法が好ましく用いられる。射出成形でこのような優れた平面度を有するコネクターを得るためには、前記の液晶性ポリマー組成物を用いることが重要であるが、残留内部応力のない成形条件を選ぶことが好ましい。充填圧を低くし、得られるコネクターの残留内部応力を低下させるために、成形機のシリンダー温度は、液晶性ポリマーの融点T℃以上の温度が好ましく、またシリンダー温度が高すぎると樹脂の分解等に伴うシリンダーノズルからの鼻タレ等の問題が発生するため、シリンダー温度はT℃〜(T+30)℃、好ましくはT℃〜(T+15)℃である。また、金型温度は70〜100℃が好ましい。金型温度が低いと充填樹脂組成物が流動不良を起こし好ましくなく、金型温度が高すぎると、バリ発生等の問題が生じ好ましくない。射出速度については、150mm/sec以上で成形することが好ましい。射出速度が低いと、未充填成形品しか得られない場合や、たとえ完全に充填した成形品が得られたとしても充填圧が高く残留内部応力の大きい成形品となり、平面度の悪いコネクターしか得られない場合がある。
【0038】
なお、複合樹脂組成物に対し、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤および難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物も本発明で言う複合樹脂組成物の範囲に含まれる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例中の物性の測定および試験は次の方法で行った。
(1) 見掛け溶融粘度
L=20mm、d=1mmの(株)東洋精機製キャピログラフ1B型を使用し、融点よりも10〜20℃高い温度で、剪断速度1000/sでISO11443に準拠して、見掛け溶融粘度を測定した。
(2) コネクター平面度の測定
樹脂組成物ペレットから、下記成形条件で、図1に示すような、全体の大きさ39.82mm×41.82mm×1mmt、格子部ピッチ間隔1.2mmの平面状コネクター(ピン孔数750ピン)を射出成形した。
尚、ゲートは長さの長い辺(41.82mmの辺)からのフィルムゲートを用い、ゲート厚みは0.3mmとした。
得られたコネクターを水平な机の上に静置し、コネクターの高さをミツトヨ製クイックビジョン404PROCNC画像測定機により測定した。その際、コネクター端面より、0.5mmの位置を10mm間隔で測定し、最大高さと最小高さの差を平面度とした。
更に、下記条件のIRリフローを行い、上述の方法で平面度を測定し、リフロー前後の平面度の差を求めた。
[IRリフロー条件]
測定機;日本パルス技術研究所製大型卓上リフローハンダ付け装置RF-300(遠赤外線ヒーター使用)
試料送り速度;140mm/sec
リフロー炉通過時間;5min
温度条件 プレヒートゾーン;150℃、リフローゾーン;225℃、ピーク温度;287℃
[成形条件]
成形機;住友重機械工業SE30DUZ
シリンダー温度;
(ノズル)360℃−365℃−340℃−330℃(実施例1〜6、比較例8)
370℃−370℃−370℃−380℃(比較例1〜2)
350℃−350℃−340℃−330℃(比較例3〜7)
金型温度;80℃
射出速度;300mm/sec
保圧力;50MPa
保圧時間;2sec
冷却時間;10sec
スクリュー回転数;120rpm
スクリュー背圧;1.2MPa
【0040】
(3) 液晶性ポリマーの融点
Perkin Elmer社製DSCにて、ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度、20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークの温度を測定した。
(4) 最小充填圧
図1の平面状コネクターを射出成形する際に良好な成形品を得られる最小の射出充填圧を最小充填圧とした。
【0041】
(5) 荷重たわみ温度
下記成形条件で、板状充填剤及びガラス繊維を含む液晶性ポリマー組成物をそれぞれ射出成形し、ISO75-1,2に準拠して測定した。
[成形条件]
成形機;住友重機械工業SE100DU
シリンダー温度;
(ノズル)360℃−370℃−370℃−360℃−340℃−330℃(実施例1〜6、比較例8)
370℃−370℃−370℃−370℃−370℃−380℃(比較例1〜2)
350℃−350℃−350℃−350℃−340℃−330℃(比較例3〜7)
金型温度;80℃
射出速度;2m/min
保圧力;50MPa
保圧時間;2sec
冷却時間;10sec
スクリュー回転数;120rpm
スクリュー背圧;1.2MPa
【0042】
(6)耐クラック性
板状充填剤及びガラス繊維を含む液晶性ポリマー組成物をそれぞれ射出成形機を用いて図2に示す成形品を下記の成形条件で射出成形した。図2に示す評価用射出成形品は、外周が直径:23.6mmで内部に31個のφ3.2mmの孔が開いており、孔間距離の最小肉厚が0.16mmである。ゲートは図2の矢印部の3点ゲートを採用した。
射出成形後の成形品を観察し、射出速度が50mm/sec及び150mm/secで成形品に割れが生じないものを◎、射出速度が150mm/secの場合に成形品に割れが生じないものを○、いずれも場合も成形品に割れが生じる場合は×とした。
[成形条件]
成形機;住友重機械工業SE30DUZ
シリンダー温度;
(ノズル)370℃−375℃−360℃−350℃(実施例1〜6、比較例8)
360℃−360℃−360℃−370℃(比較例1〜2)
350℃−350℃−340℃−330℃(比較例3〜7)
金型温度;140℃
射出速度;50mm/sec又は150mm/sec
保圧力;100MPa
保圧時間;2sec
冷却時間;10sec
スクリュー回転数;120rpm
スクリュー背圧;1.2MPa
【0043】
実施例1〜6および比較例1〜8
下記条件にて、板状充填剤及びガラス繊維を含む液晶性ポリマー組成物の上記試験片を作製し、評価したところ、表1に示す結果を得た。
【0044】
(使用成分)
液晶性ポリマー1
[製造条件]
攪拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。
(I)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸166 g(48モル%)(HNA)
(II)テレフタル酸76g(25モル%)(TA)
(III) 4,4'−ジヒドロキシビフェニル86g(25モル%)(BP)
(IV)4−ヒドロキシ安息香酸5g(2モル%)(HBA)
酢酸カリウム触媒22.5mg
無水酢酸191 g
原料を仕込んだ後、反応系の温度を140 ℃に上げ、140 ℃で1時間反応させた。その後、更に360 ℃まで5.5 時間かけて昇温し、そこから30分かけて5Torr(即ち667 Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。
得られたペレットについて、窒素気流下、300 ℃で8時間の熱処理を行った。ペレットの融点は349 ℃、結晶化熱量は5.6J/g、溶融粘度は23Pa・s であった。
【0045】
液晶ポリマー2
[製造条件]
攪拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。
(I)4−ヒドロキシ安息香酸:188.4 g(60モル%)(HBA)
(II)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸:21.4g(5モル%)(HNA)
(III)テレフタル酸:66.8g(17.7モル%)(TA)
(IV) 4,4’−ジヒドロキシビフェニル:52.2g(12.3モル%)(BP)
(V)4−アセトキシアミノフェノール17.2g(5モル%)(APAP)
酢酸カリウム触媒15mg
無水酢酸226.2 g
原料を仕込んだ後、反応系の温度を140 ℃に上げ、140 ℃で1時間反応させた。その後、更に340 ℃まで4.5 時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち667 Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。
液晶ポリマー2の融点は334℃、結晶化熱量は2.7J/g、溶融粘度は18Pa・sであった。
【0046】
液晶ポリマー3
[製造条件]
攪拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。
(I)4−ヒドロキシ安息香酸1041g(48モル%)(HBA)
(II)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸89g(3モル%)(HNA)
(III)テレフタル酸565g(21.7モル%)(TA)
(IV)イソフタル酸78g(3モル%)(IA)
(V)4,4’−ジヒドロキシビフェニル711g(24.3モル%)(BP)
酢酸カリウム触媒110mg
無水酢酸1645g
原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に360℃まで5.5時間かけて昇温し、そこから20分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。
得られたポリマーの融点は358℃、結晶化熱量は1.6J/g、溶融粘度は9Pa・sであった。
【0047】
(B)板状充填剤
・マイカ;(株)山口雲母工業製AB-25S、平均粒径25μm
・タルク;松村産業(株)製クラウンタルクPP、平均粒径10μm
(C)ガラス繊維
・ガラス繊維;日本電気硝子(株)製ECS03T-786H、繊維径10μm、長さ3mmのチョプドストランド
・ミルドファイバー;日東紡(株)製PF70E001(繊維径10μm、繊維長70μm)
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)必須の構成成分として下記一般式(I),(II),(III),(IV)および(V)で表される構成単位からなり、全構成単位に対して(I)の構成単位が35〜75モル%、(II)の構成単位が2〜8モル%、(III)の構成単位が4.5〜30.5モル%、(IV)の構成単位が2〜8モル%、(V)の構成単位が12.5〜32.5モル%、(II)+(IV)の構成単位が4〜10モル%であることを特徴とする溶融時に光学的異方性を示す全芳香族ポリエステル、(B)板状の無機充填剤及び(C)ガラス繊維からなり、(B)成分が組成物全体に対し15〜25重量%、(C)成分が組成物全体に対し10〜25重量%、且つ(B)成分と(C)成分の合計が組成物全体に対し30〜40重量%である複合樹脂組成物から形成され、
外枠の内部に格子構造を有し、
格子部のピッチ間隔が1.5mm以下
の構造に特徴がある平面状コネクター。
【化1】

【請求項2】
(B)板状の無機充填剤が、タルク、マイカより選ばれる1種以上である請求項1記載の平面状コネクター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−214652(P2012−214652A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81763(P2011−81763)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】