説明

幹細胞のMNTF分化および成長

本発明は、運動ニューロン栄養因子(MNTF)またはそのペプチド類似体を用い、胚性幹細胞の運動ニューロンへの分化を誘導するための方法を提供する。本発明は、幹細胞由来の運動ニューロンの集団および分化した神経細胞を含む細胞の集団を単離するための方法をさらに提供する。さらに、本発明は、長期の細胞培養物中で分化した神経細胞の生存を促進する方法に関する。最後に、本発明は、幹細胞と関連した治療用途におけるMNTFまたはそのペプチド類似体を含有する組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年11月10日に出願され、”MNTF Differentiation and Growth of Stem Cells”と題されるU.S.S.N. 60/735,702;2006年9月1日に出願され、”Motoneuron Tropic factor Differentiates Murine Embryonic Stem Cells Into Motor Neurons Independent of the Sonic Hedgehog Receptor”と題されるU.S.S.N. 60/841,766、およびKo, Dorothy Tiu-Yakにより2006年11月10日に出願され、”Methods of Treating Neuronal Disorders using MNTF peptides and analogues thereof”と題されるU.S. provisional application No. 60/XXX, XXX(出願番号未通知)(それら全体が参照により本明細書中に援用される)から優先権を得るものである。
【背景技術】
【0002】
以下は、本発明の理解にとって有用でありうる情報を含む。本明細書で提供される情報のいずれかがここで記載または主張される発明に対する先行技術または関連技術であること、あるいは具体的または黙示的に参照されるいずれかの出版物または文書が先行技術であることを認めるものではない。
【0003】
最近まで、成人の脳内および脊髄内のニューロンが再生できないということは長い間の神経科学における定説であった。しかし、1990年代半ばには、神経科学者は成人の脳におけるいくつかの部分が実際には新たなニューロンを確実に再生することを知った。これらの新たなニューロンは、胎児および成人の脳内の「神経幹細胞」から生じる。成人の中枢神経系内での再生能力の発見は、筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルーゲーリック病としても知られる)などの神経変性疾患、ならびに脳卒中または外傷に起因する脳および脊髄の損傷からの傷害を最終的には修復可能でありうるという希望を抱かせる。しかし、脳から極めて多数の神経幹細胞を非侵襲的に単離しかつ精製することについては課題として残されている。
【0004】
他方、胚性幹(ES)細胞は、自己再生的でかつヒト生体内で任意の細胞タイプに分化する能力を有する多能性細胞である。それらは、未分化状態で長期間にわたりインビトロで増殖可能であることから、発生研究およびヒト疾患の治療における魅力的な細胞の供給源を表している。
【0005】
ES細胞は、移植時における環境手がかり(environmental cue)に応答し、移植領域に対して適切な細胞運命を取り入れる。にもかかわらず、幹細胞を誘導するための環境手がかりへの依存性は、CNSの非神経性領域内でのニューロンの効率的生成の妨げとなる。
【0006】
最近、幹細胞の分化を生体外で誘導し、理論的にはこれらの細胞をインビボでの手がかりに対して依存性を低減させるかまたは非依存性にすることが可能になっている。例えば、脊髄運動ニューロンを、マウスES細胞をレチノイン酸(RA)およびソニックヘッジホッグに暴露することによって効率的に生成することが可能である。このパラダイムにおいては、RAは多能性ES細胞に対する尾部位置における同一性を神経誘導しかつ確立するのに役立つ。ソニックヘッジホッグまたはヘッジホッグアゴニスト(HhAg1.3)は、腹部位置における同一性をさらに特定し、それに応じて大部分のES細胞が運動ニューロンに特異的な転写パターンを生じさせ、成熟ニューロンの免疫組織化学的特徴を獲得する。ニワトリ胚性脊髄に移植されたES細胞由来の運動ニューロンは、軸索を末梢に伸ばし、神経筋接合部を形成する[非特許文献1]。
【0007】
胚性幹(ES)細胞の治療的可能性は有望であるが、多くの場合、発明者らが特定の細胞タイプ、例えば運動ニューロンへの分化を促進させることができないことから制限を受ける。したがって、多能性幹細胞からのより均質な分化細胞集団を再生するための技術に対する需要が高まっている。
【0008】
ラット筋肉組織からの2種の運動ニューロン栄養(motoneuronotrophic)因子(MNTF1およびMNTF2)の単離および特徴づけ、ならびにそれに続くヒト網膜芽細胞腫cDNAライブラリーに由来する組換えMNTF1−F6遺伝子のクローニングが、特許文献1、特許文献2および特許文献3(ならびに同時係属の特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7)に記載されている。MNTF1に関連したポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、特許文献8に記載のようにヒト染色体16q22内にマッピングされることが見出された。
【0009】
MNTF1−F6遺伝子配列は33個のアミノ酸配列をコードする。天然および組換えMNTF1ポリペプチドは、ラット腰髄外植片から単離された前角運動ニューロンのインビトロでの生存を選択的に促進することが示された。処理された培養物の顕微鏡写真では、有髄神経線維の神経突起伸長および非神経細胞、例えばグリア細胞および線維芽細胞の成長における顕著な低下が示された。同様に、MNTF1の手術で軸索切除された(axotomized)ラット末梢神経へのインビボでの投与の結果、運動ニューロンの生存率が未処理の対照と比べて顕著に高く、これについては抗−MNTF1モノクローナル抗体の同時投与により遮断することができた。
【0010】
MNTF1のさらなる有益な効果が、末梢神経自家移植片により修復されかつ神経移植片の脊髄との接合部に近接してMNTF1を含有するゲル切片が移植された脊髄の片側切片に供されたラットで実証された。MNTF1で処置された動物では、運動ニューロンの生存数の大幅な増加を呈し、運動および感覚機能の回復が改善され、炎症性応答が低減され(浸潤性マクロファージおよびリンパ球の減少)、かつ移植部位でのコラーゲンを含有する瘢痕組織の形成、正常なシュワン細胞の形態および正常な有髄および無髄の神経線維形成が低下した。
【0011】
神経変性疾患の治療におけるMNTFの有効性は、ウォブラー(wobbler)マウス動物モデルにおいても実証された。ウォブラーマウスは、脊髄および脳幹の運動ニューロンにおける進行性変性をもたらす常染色体二重劣性遺伝子の突然変異を有する。僧帽筋とひし形筋との間および脊髄のC7〜T3領域でのMNTF1を含有するゲル切片の移植により、ウォブラーマウスでの徴候の進行が遅延した結果、寿命、健康、呼吸、体重、前肢の力が全般的に改善したとともに、その子宮頚部運動ニューロンの空胞化および染色質融解が対照群と比較して低下した。
【0012】
MNTF1の既知の生物学的活性において十分であると見られるMNTF1−F6分子内の2つの重複ドメインが同定された。特許文献9または特許文献10を参照のこと。本明細書で「WMLSAFS」および「FSRYAR」ドメインと表されるこれらの各ドメインは、MNTF1−F6 33−merと同様の方法で運動ニューロン由来の細胞株の増殖を刺激するのに十分であった。同様に、「FSRYAR」ドメインは、MNTF1−F6 33−merと同様の方法で、インビボでの運動ニューロンによる筋肉標的の選択的再神経支配を誘導するのに十分である。さらに、「FSRYAR」ドメインは、MNTF1−F6 33−merを含む「FSRYAR」配列を有する任意のMNTFペプチドを認識する抗体の産生を惹起するのに十分な抗原エピトープを提供する。
【特許文献1】米国特許第6,309,877号
【特許文献2】米国特許第6,759,389号
【特許文献3】米国特許第6,841,531号
【特許文献4】米国特許出願第10/858,144号
【特許文献5】米国特許出願第10/858,286号
【特許文献6】米国特許出願第10/858,543号
【特許文献7】米国特許出願第10/858,545号
【特許文献8】国際出願第PCT/US2004/038651号
【特許文献9】国際出願第PCT/US04/01468号
【特許文献10】米国特許出願第10/541,343号
【非特許文献1】Wichterle, H., Lieberam, I., Porter, J.A. & Jessel, T.M. Directed differentiation of embryonic stem cells into motor neurons. Cell 110, 385-397 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
明らかに、幹細胞、特にES細胞の増殖および分化を誘導し、運動ニューロンの均質な集団を生成するため、より効率的かつ選択的な方法が必要とされる。これは神経変性疾患の治療における幹細胞の治療的使用において重要でありうるだけでなく、発生の分子機構の研究を大幅に促進することにもなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書中で記載されかつ主張される本発明は、多数の属性および実施態様を有し、それらは、限定はされないが、本要約で示されるか記載されるかまたは参照されるものを含む。本明細書中で記載されかつ主張される本発明は、本要約にて同定される特徴または実施態様に対してまたはそれらによって限定されず、それはあくまでも例示目的に含められ、限定されるものではない。
【0015】
ここで発明者らは、MNTFまたはMNTFペプチド類似体を用い、ES細胞の、成熟運動ニューロンの特徴がある分子マーカーを示す細胞への分化に成功したことについて記載する。本発明は、治療投与および薬剤スクリーニングにおける使用に適する幹細胞由来の運動ニューロンを調製しかつ特徴づけるための組成物、方法、およびシステムを提供する。
【0016】
本発明は、幹細胞の治療的用途または幹細胞由来の運動ニューロンの分化および維持に適する細胞培地としてのMNTFペプチドを含有する組成物も提供する。幹細胞における用途には、運動機能の改善など、神経障害の治療が含まれる。
【0017】
本発明は、神経障害を治療する方法を含む。特定の実施態様では、これらの方法は、運動ニューロン栄養因子(MNTF)ペプチドまたはその類似体を患者に投与し、シグナル伝達経路を調節し、神経障害の進行を改善または阻害する工程を含む。この方法の好ましい実施態様では、MNTFペプチドは、6〜35アミノ酸長、6〜33アミノ酸長、33アミノ酸長(例えば配列番号1)、6アミノ酸長(例えば配列番号2)、7アミノ酸長(例えば配列番号3)、10アミノ酸長(例えば配列番号4)、11アミノ酸長(例えば配列番号5)、または別の長さのMNTF類似体である。別の態様では、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、または本明細書中に記載の別のペプチドに対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%同一であるペプチドを投与する工程を含む方法が提供される。
【0018】
本発明は、神経障害の治療に加え、哺乳類のニューロンの生存、成長、増殖、または維持を促進する方法をさらに含む。別の態様では、MNTFまたはMNTF類似体は神経保護剤として機能する。別の態様では、MNTFまたはMNTF類似体は細胞の特定の分化経路を調節する。別の態様では、MNTFまたはMNTF類似体はタンパク質キナーゼ経路を調節するかあるいはチロシンキナーゼまたは成長因子受容体の発現または活性を調節する。調節されるシグナル伝達またはタンパク質キナーゼ経路は、例えばソニックヘッジホッグ非依存性の経路、ソニックヘッジホッグ依存性経路、またはこれらの組み合わせを含みうる。
【0019】
特定の好ましい実施態様では、MNTFまたはMNTF類似体はソニックヘッジホッグ経路非依存性の経路を調節する。かかる経路は、ソニックヘッジホッグタンパク質のパッチされた(patched)受容体への結合およびそれに伴うヘッジホッグ依存性のシグナル伝達の促進により引き起こされるシグナル伝達事象に一般に非依存性である。他の実施態様では、MNTFまたはMNTF類似体はソニックヘッジホッグ経路に少なくとも部分的に非依存性の経路を調節する。かかる経路は、ソニックヘッジホッグタンパク質のパッチされた受容体への結合およびそれに伴うヘッジホッグ依存性のシグナル伝達の促進により引き起こされるシグナル伝達事象に対して一般には部分的に非依存性である。
【0020】
任意の理論または機序に縛られるつもりはないが、本明細書で提供されるMNTFまたはMNTF類似体が、インスリン受容体、IGF−1受容体、IGF−2受容体、Shh、Akt、Bad(細胞死のbcl−2拮抗物質)、PI(3,4,5)P3依存性キナーゼ1(PDK1)、Bax、p53遺伝子産物、pp60−Src、JAK2、一酸化窒素シンターゼ(NOS)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK)、カスパーゼ、PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ)、およびRasのうちの1種もしくは複数種の発現または活性を調節可能であると考えられている。特定の実施態様では、MNTF類似体のMNTFは、チロシン−リン酸化IRS−タンパク質(例えばIRS−1、IRS−2、IRS−3、およびIRS−4)に結合する1種もしくは複数種のタンパク質の発現または活性を調節する。他の実施態様では、PI3キナーゼ、p85、P110、GRB2、SHP2、Nck、Crk、およびFynのうちの1種もしくは複数種の発現または活性が調節される。
【0021】
ニューロンの分化、維持、または生存を促進する、本明細書で提供される組成物および方法によって治療可能ないくつかの神経障害および関連徴候がある。本明細書で提供されるMNTFペプチドまたはMNTF類似体の投与から利益を得ると考えられる障害および徴候については、例えば、末梢神経の再生、脊髄内での軸索の再生、特定の細胞の分化の促進、標的神経細胞の生存の促進、脳血流の促進、脊髄損傷の治療、神経変性疾患の治療、脳卒中または脳虚血の治療、ハンチントン病の治療、パーキンソン病の治療、多発性硬化症の治療、ALSの治療、アルツハイマー病の治療、糖尿病性ニューロパシーの治療が含まれる。本明細書で提供される組成物および方法における別の有益な特徴は、血液脳関門に浸透する能力である。これらの神経障害の治療は、2006年11月10日にKo, Dorothy Tiu-Yakにより出願され、”Methods of Treating Neuronal Disorders using MNTF peptides and analogues thereof”と題される、同時係属出願のU.S.S.N. (出願番号未通知)においてさらに記載され、それは参照によりその全体が本明細書中に援用される。本発明は、神経障害に付随する症状および障害を治療するための組成物および方法も提供する。
【0022】
さらに、本発明は、脊髄に幹細胞由来の運動ニューロンを再結集させる(repopulating)ための方法および治療を必要とする対象における神経組織変性を治療するための方法を提供する。
【0023】
多能性幹細胞がRAおよびMNTFペプチド類似体などの選択された分化剤(differentiating agents)の存在下で単独でまたは併用して培養される場合、運動ニューロンの特徴を示す表現型を有する細胞を極めて高い割合で有する細胞の集団が得られることが発見されている。場合により、神経細胞の割合は、運動ニューロンに特異的な分子マーカーにより分化した細胞を選別することによって高められうる。多能性幹細胞の特定のタイプ(胚性幹細胞など)が1年以上にわたり培養物中で増殖しうることから、この開示にて記載される本発明は幹細胞由来の運動ニューロンのほとんど際限のない供給をもたらす。
【0024】
本発明は、胚性幹細胞の幹細胞子孫(例えば分化した運動ニューロン)への分化を誘導するための方法を提供する。一実施態様では、第1の工程は、胚性幹細胞の培養物を取得または生成する工程である。次の工程は、胚性幹細胞の培養物を神経前駆細胞を生成するのに有効な量のレチノイン酸および運動ニューロンを生成するのに有効な量のMNTFペプチド類似体と接触させる工程である。別の実施態様では、本発明は、細胞培養物内で成長サプリメントとしてMNTFまたはその類似体を用いて幹細胞由来の運動ニューロンの生存を促進することを目的とする。
【0025】
本発明は、幹細胞由来の運動ニューロンを含む細胞の集団およびその使用についてさらに提供する。
【0026】
本発明は、幹細胞由来の運動ニューロンの集団を単離するための方法をさらに対象とする。
【0027】
分化した神経幹細胞子孫(例えば運動ニューロン)を宿主に移植する材料および方法もまた提供される。一実施態様による方法は、i)少なくとも1つの多能性CNS神経幹細胞を有する哺乳類神経組織に由来する細胞の集団を取得する工程と、ii)適切な培養条件下で多能性神経幹細胞の増殖を誘導する6〜35アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を含有する培地内で神経幹細胞を培養する工程と、iii)前記多能性神経幹細胞の増殖を誘導し、多能性神経幹細胞の子孫細胞を含む神経幹細胞子孫を生成する工程と、iv)前記神経幹細胞子孫を宿主に移植する工程と、を含む。
【0028】
本発明は、以下の添付の図面を参照することにより、当業者によってよりよく理解され、かつその利点が理解されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
定義
一般の様々な限定されない特定の実施態様の観点で本発明をさらに記載する前に、本発明に記載される文脈中で用いられる特定の用語を示す。以下の用語は、他に指示されない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲にて用いられる場合、以下の意味を有する。本明細書中の下記または他の箇所で定義されない用語は、当該技術分野で認められた意味を有するものとする。
【0030】
本明細書で提供される化合物中で用いられるアミノ酸(例えばペプチドおよびタンパク質)は、遺伝的にコードされたアミノ酸、天然の遺伝的にコードされていないアミノ酸、または合成アミノ酸でありうる。上記のうちのいずれかのL−およびD−鏡像異性体の双方が化合物中で用いられうる。以下の略語は、以下の遺伝的にコードされたアミノ酸(およびその残基)、すなわちアラニン(Ala、A);アルギニン(Arg、R);アスパラギン(Asn、N);アスパラギン酸(Asp、D);システイン(Cys、C);グリシン(Gly、G);グルタミン酸(Glu、E);グルタミン(Gln、Q);ヒスチジン(His、H);イソロイシン(Ile、I);ロイシン(Leu、L);リジン(Lys、K);メチオニン(Met、M);フェニルアラニン(Phe、F);プロリン(Pro、P);セリン(Ser、S);トレオニン(Thr、T);トリプトファン(Trp、W);チロシン(Tyr、Y);およびバリン(Val、V)として本明細書中で用いられうる。
【0031】
遺伝的にコードされておらずかつ本発明の化合物中に存在しうる特定の一般に見られるアミノ酸は、限定はされないが、β−アラニン(b−Ala)および3−アミノプロピオン酸(Dap)、2,3−ジアミノプロピオン酸(Dpr,Z)、4−アミノ酪酸などの他のΩ−アミノ酸;α−アミノイソ酪酸(Aib);ε−アミノヘキサン酸(Aha);δ−アミノ吉草酸(Ava);メチルグリシン(MeGly);オルニチン(Orn);シトルリン(Cit);t−ブチルアラニン(t−BuA);t−ブチルグリシン(t−BuG);N−メチルイソロイシン(MeIle);フェニルグリシン(Phg);シクロヘキシルアラニン(Cha);ノルロイシン(Nle、J);2−ナフチルアラニン(2−Nal);4−クロロフェニルアラニン(Phe(4−Cl));2−フルオロフェニルアラニン(Phe(2−F));3−フルオロフェニルアラニン(Phe(3−F));4−フルオロフェニルアラニン(Phe(4−F));ペニシラミン(Pen);1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシル酸(Tic);β−2−チエニルアラニン(Thi);メチオニンスルホキシド(MSO);ホモアルギニン(hArg);N−アセチルリジン(AcLys);2,3−ジアミノ酪酸(Dab);2,3−ジアミノ酪酸(Dbu);p−アミノフェニルアラニン(Phe(pNH));N−メチルバリン(MeVal);ホモシステイン(hCys);3−ベンゾチアゾール−2−yl−アラニン(BztAla、B);およびホモセリン(hSer)を含む。検討されたさらなるアミノ酸類似体は、ホスホセリン、ホスホスレオニン、ホスホチロシン、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、馬尿酸、オクタヒドロインドール−2−カルボキシル酸、スタチン、α−メチル−アラニン、パラ−ベンゾイル−フェニルアラニン、プロパギルグリシン、およびサルコシンを含む。本発明の範囲内に包含されるペプチドは、L−もしくはD−配置をなす上記のアミノ酸のいずれか、あるいはまたは現在であっても将来であっても本明細書中に記載されるか当該技術分野で既知の任意の他のアミノ酸を有しうる。
【0032】
相互に置換可能なアミノ酸については、類似のクラスまたはサブクラス内に一般に存在する。当業者に知られているように、アミノ酸は、主にアミノ酸側鎖の化学的および物理的特性に応じて異なるクラスに配置されうる。例えば、一部のアミノ酸は、一般に親水性または極性アミノ酸であると考えられ、それ以外は疎水性または非極性アミノ酸であると考えられる。極性アミノ酸は、酸性、塩基性または親水性側鎖を有するアミノ酸を含み、非極性アミノ酸は芳香族側鎖または疎水性側鎖を有するアミノ酸を含む。非極性アミノ酸は、特に脂肪族アミノ酸を含むようにさらに細分化されうる。本明細書で用いられるアミノ酸のクラスの定義は以下の通りである。
【0033】
「非極性アミノ酸」は、極性がなくかつ一般に水溶液によってはじかれる、生理的pHで荷電していない側鎖を有するアミノ酸を示す。遺伝的にコードされた疎水性アミノ酸の例として、Ala、Ile、Leu、Met、Trp、TyrおよびValが挙げられる。遺伝的にコードされていない非極性アミノ酸の例として、t−BuA、ChaおよびNleが挙げられる。
【0034】
「芳香族アミノ酸」は、複合したπ電子系を有する少なくとも1つの環を有する側鎖(芳香族基)を有する非極性アミノ酸を示す。芳香族基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、ニトロ基およびアミノ基などの置換基ならびに他の基でさらに置換されうる。遺伝的にコードされた芳香族アミノ酸の例として、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンが挙げられる。一般に見られる遺伝的にコードされていない芳香族アミノ酸として、フェニルグリシン、2−ナフチルアラニン、β−2−チエニルアラニン、3−ベンゾチアゾール−2−yl−アラニン、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシル酸、4−クロロフェニルアラニン、2−フルオロフェニルアラニン、3−フルオロフェニルアラニンおよび4−フルオロフェニルアラニンが挙げられる。
【0035】
「脂肪族アミノ酸」は、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状もしくは環状炭化水素側鎖を有する非極性アミノ酸を示す。遺伝的にコードされた脂肪族アミノ酸の例として、Ala、Leu、ValおよびIleが挙げられる。コードされていない脂肪族アミノ酸の例としてNleが挙げられる。
【0036】
「極性アミノ酸」は、生理的pHで荷電または非荷電状態であり、2個の原子によって一般に共有される電子対が原子の1つによってより近接して保持される側鎖を有する親水性アミノ酸を示す。極性アミノ酸は一般に親水性であり、水溶液によって引き付けられる側鎖を有するアミノ酸を有することを意味する。遺伝的にコードされた極性アミノ酸の例として、アスパラギン、システイン、グルタミン、リジンおよびセリンが挙げられる。遺伝的にコードされていない極性アミノ酸の例として、シトルリン、ホモシステイン、N−アセチルリジンおよびメチオニンスルホキシドが挙げられる。
【0037】
「酸性アミノ酸」は、7未満のpK値の側鎖を有する親水性アミノ酸を示す。酸性アミノ酸は、典型的には生理的pHで水素イオンの低下により負に荷電した側鎖を有する。遺伝的にコードされた酸性アミノ酸の例として、アスパラギン酸(アスパラギン酸塩)およびグルタミン酸(グルタミン酸塩)が挙げられる。
【0038】
「塩基性アミノ酸」は、7より大きいpK値の側鎖を有する親水性アミノ酸を示す。塩基性アミノ酸は、典型的には生理的pHでヒドロニウムイオンとの結合により正に荷電した側鎖を有する。遺伝的にコードされた塩基性アミノ酸の例として、アルギニン、リジンおよびヒスチジンが挙げられる。遺伝的にコードされていない塩基性アミノ酸の例として、オルニチン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,4−ジアミノ酪酸およびホモアルギニンが挙げられる。
【0039】
「イオン化可能な(Ionizable)アミノ酸」は、生理的pHで荷電されうるアミノ酸を示す。かかるイオン化可能なアミノ酸は、酸性および塩基性アミノ酸、例えばD−アスパラギン酸、D−グルタミン酸、D−ヒスチジン、D−アルギニン、D−リジン、D−ヒドロキシリジン、D−オルニチン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン、L−アルギニン、L−リジン、L−ヒドロキシリジンまたはL−オルニチンを含む。
【0040】
当業者により理解されるように、上記の分類は絶対的なものではない。数種のアミノ酸は、2つ以上の特徴的特性を示すことから、2つ以上のカテゴリに含まれうる。例えば、チロシンは非極性芳香環と極性水酸基の双方を有する。したがって、チロシンは、場合により非極性、芳香族性および極性として示されうるいくつかの特徴を有する。しかし、非極性環が支配的であることから、チロシンは一般に非極性であると考えられる。同様に、システインは、ジスルフィド結合を形成可能であることに加え、非極性も有する。したがって、疎水性または非極性アミノ酸として厳密に分類されることがない一方、多くの場合、システインを用い、ペプチドに疎水性または非極性を与えることが可能である。
【0041】
一部の実施態様では、本発明によって検討される極性アミノ酸には、例えば、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、ホモシステイン、リジン、ヒドロキシリジン、オルニチン、セリン、トレオニン、および構造的に関連したアミノ酸が含まれる。一実施態様では、極性アミノは、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、ヒドロキシリジン、リジン、またはオルニチンなどのイオン化可能なアミノ酸である。
【0042】
用いられうる極性または非極性アミノ酸残基の例として、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、メチオニン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンなどが挙げられる。
【0043】
本明細書で用いられる「生物活性ペプチド」および「生物活性断片」という用語は、上記の運動ニューロン分化因子(MNDF)または運動ニューロン栄養因子(MNTF)に従うペプチドまたはポリペプチドを示し、ここではMNDFは幹細胞を運動ニューロンに分化させ、MNTFは幹細胞由来の運動ニューロンに対する保護または増殖効果を示す。
【0044】
「細胞」は、所望の用途に適する任意の生細胞を意味する。細胞は真核および原核生物細胞を含む。
【0045】
「相補的」という用語は、一般に、例えば許容される塩および温度条件の下での、塩基対合によるポリヌクレオチドの天然結合を示す。例えば、配列「A−G−T」は相補配列「T−C−A」に結合する。2本の一本鎖分子間の相補性は、核酸の一部のみが結合するように「部分的」でありうるか、または全体的な相補性が一本鎖分子間で存在するように「完全」でありうる。核酸分子間の相補性の程度は、それらの間のハイブリダイゼーションの効率および強度に対して有意な効果を有する。「ハイブリダイズ可能」および「相補的」とは、意図した作用を行うのに十分な結合、好ましくは安定な結合が例えば核酸間で生じるように、相補性が十分な程度であることを示すために用いられる用語である。オリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能であるべきその標的核酸配列に対して100%相補的である必要がないことは理解されている。
【0046】
「組成物」という用語は、1種もしくは複数種の原料を含有する生成物を包含するように意図されている。
【0047】
「分化した」という用語は、「分化した細胞」が比較対象とされている細胞よりも発生経路をさらに下流に進行している細胞である場合の相対語である。本明細書でさらに用いられる「分化した神経細胞」は、一般に中枢神経系(CNS)または末梢神経系(PNS)における部分的に分化した細胞または完全に分化した細胞を示す。前駆細胞は、発生および分化の期間中に、一連の細胞分裂により相異なる細胞系を生じさせる親細胞である。例えば、神経前駆細胞は最終的にCNSまたはPNSの完全に分化した神経細胞に発達することになる細胞系に関与しているが、かかる神経前駆細胞は神経細胞の特定のタイプまたはサブクラスのためだけに供されるわけではない場合がある。神経前駆細胞は、神経細胞の特定のタイプに分化し、その後、完全に分化した神経細胞を生じさせることになる細胞株に関与するようになりうる。したがって、本発明の部分的に分化した神経細胞は、方向または位置の性質を獲得している、あるいは神経細胞の特定のクラスへの発達に関与しているが、完全に分化した神経細胞ではない神経の同一性を有する細胞でありうる。例えば、MNTFペプチドを単独で用いるかまたはRAなどのモルフォゲンと併用したES細胞の処理により、本発明による部分的に分化した神経細胞または神経前駆細胞が生じうる。
【0048】
「障害」は、本発明の分子または組成物による治療から利益を得ると思われる任意の状態であり、それは本明細書中で記載または主張されるものを含む。これは、哺乳動物を問題の障害に罹りやすくする病状を含む、慢性および急性の障害または疾患を含む。
【0049】
「フィーダー細胞」または「フィーダー」は1つのタイプの細胞であって、別のタイプの細胞と共培養されることで一般に第2のタイプの細胞が成長しうる環境をもたらす細胞を含む。例えば、pPS細胞の特定のタイプは、マウス初期胚性線維芽細胞、不死化マウス胚性線維芽細胞、またはhES細胞から分化したヒト線維芽様細胞によって支持されうる。
【0050】
「機能的等価物」は、MLSAFSRYARドメインの生物学的活性に実質的に類似した生物学的活性を有するペプチドを意味し、かかる活性または特性を有する「断片」、「変異体」、「類似体」、「相同体」、または「化学誘導体」を含むように意図されている。次いで、MLSAFSRYARドメインの機能的等価物は同一のアミノ酸配列を共有しない場合があり、従来型または非従来型アミノ酸の保存的または非保存的アミノ酸置換が考えられる。
【0051】
「遺伝子産物」という用語は、遺伝子から転写されたRNA分子、あるいは遺伝子によりコードされているかまたはRNAから翻訳されたポリペプチドを示す。
【0052】
「成長環境」は、目的の細胞が適切な条件下でインビトロで増殖、分化、または成熟しうる環境である。かかる条件は、例えば、細胞が培養される培地、存在しうる任意の成長因子または分化を誘導する因子、および固体表面または支持構造を含みうる。
【0053】
本明細書で用いられる「MLSAFSRYARドメイン」という用語は、幹細胞の運動ニューロンへの分化にとって十分な、本明細書で示されるポリペプチドドメイン、ならびにそれらの構造および/または機能を模倣可能なペプチドおよび/または分子を示す。本発明の好ましいバージョンでは、アミノ酸配列:MLSAFSRYARを含むペプチドおよびその機能的等価物が含まれる。
【0054】
本明細書で用いられる「モジュレータ」および「調節」という用語は、特定の標的の発現または作用または活性の全体または部分における阻害をその様々な形態で包含するように意図されている。
【0055】
本明細書で用いられる「運動ニューロン栄養因子」は、運動ニューロンの栄養または維持に関与する因子を含む。「運動ニューロン栄養因子」、「MNTF」、「MNTFペプチド」、「運動ニューロン栄養因子類似体」、および「MNTF類似体」という用語は、本明細書で定義される機能的特性を有する限り互換的に用いられうる。運動ニューロン栄養因子、特定の神経前駆細胞の発達および分化をさらに促進しうるか、あるいは分化した神経細胞の成長(例えば神経突起伸長)および生存を誘導または促進しうる。本発明の運動ニューロン栄養因子は、典型的にはCNSまたはPNSの完全に分化した神経細胞(例えば運動ニューロン)を生成するのに有効な量で提供される。量に関する手引きが本明細書で提供され、かつ本明細書で開示される既知の手順および方法に基づいて当業者により容易に決定されうる。
【0056】
この開示を目的として、「神経前駆細胞(progenitor cell)」または「神経前駆細胞(precursor cell)」という用語は、神経細胞(例えば神経前駆体または成熟ニューロン)またはグリア細胞(例えばグリア前駆体、成熟星状細胞、または成熟オリゴ樹状細胞(oligodendrocyte))のいずれかである子孫を生成可能な細胞を含む。細胞は、典型的には、神経系列の特徴を示す表現型マーカーの一部を発現し、かつ、インビトロで単独に培養される場合、一般には他の胚葉の子孫を生成しない。
【0057】
「神経前駆細胞(progenitor cell)」または「神経前駆細胞(precursor cell)」は、成熟ニューロンでありかつグリア細胞を生成する能力も有する場合がある子孫を生成しうる細胞を含む。
【0058】
「多能性神経前駆細胞集団」は、神経細胞である子孫、グリア細胞である子孫、および時には細胞の他のタイプのいずれも生成する能力を有する細胞集団を含む。この用語では、多能性神経前駆体である別々の細胞が存在しうるが、集団内の別々の細胞が子孫のいずれのタイプも形成する能力を有することは必要でない。
【0059】
「ペプチドミメティック(peptidomimetic)」および「ミメティック(mimetic)」という用語は、模倣対象のタンパク質領域と実質的に同じ構造的特徴および機能的特徴を有しうる天然および合成化合物を含む。
【0060】
鋳型ペプチドの特性に類似した特性を有するペプチド類似体は非ペプチド薬でありうる。ペプチドに基づく化合物を含む「ペプチドミメティック(peptido mimetic)」または「ペプチドミメティック(peptidomimetic)」は、かかる非ペプチドに基づく化合物も含む(Fauchere, J. Adv. Drug Res. 15: 29 (1986); Veber and Freidinger; TINS; 392 (1985);および、Evans et al., J. Med. Chem. 30: 1229 (1987); Beeley N., Trends Biotechnol. Jun;12(6): 213-6 (1994); Kieber-Emmons T, et al.; Curr Opin Biotechnol. Aug; 8(4): 435-41 (1997))。治療的に有用なペプチドに構造的に類似したペプチドミメティックを用いることで、同等かまたは増強された治療的または予防的効果がもたらされうる。一般に、ペプチドミメティックはパラダイムポリペプチド(すなわち、生物学的または薬理学的な機能または活性を有するポリペプチド)と構造的に同一であるか、または類似しているが、場合により例えば−CHNH−、−CHS−、−CH−CH−、−CH=CH−(シスおよびトランス)、−COCH−、−CH(OH)CH−、および−CHSO−よりなる群から選択される結合によって置換された1種もしくは複数種のペプチド結合も有しうる。ミメティックは、全体的に天然アミノ酸またはアミノ酸の非天然類似体からなりうるか、あるいは部分的に天然のペプチドアミノ酸とアミノ酸の部分的に非天然の類似体とのキメラ分子である。ミメティックは、任意の量の天然アミノ酸の保存的置換も、かかる置換がミメティック活性を実質的に改変しない限り含みうる。
【0061】
「同一性パーセント(%)」という語句は、2つ以上の配列の比較において見出される配列類似性の百分率を示す。同一性パーセントは、例えば任意の適切なソフトウェアを用いて電子的に判定されうる。同様に、2つの配列(またはそれらのいずれかもしくは双方における1つもしくは複数の部分)の間の「類似性」は、第1の配列の第2の配列に対する配列比較により判定される。
【0062】
組成物または製剤の「医薬的に許容できる」化合物および他の原料、例えば担体、希釈剤または賦形剤は、それらのレシピエントへの投与に適するものである。
【0063】
一般に「タンパク質」という用語は、ペプチド結合を介して連結された2つ以上の別々のアミノ酸(天然であっても天然でなくても)の任意のポリマーを示し、これは1個のアミノ酸(またはアミノ酸残基)のα−炭素に結合されたカルボキシル酸基のカルボキシル炭素原子が隣接するアミノ酸のα−炭素に結合されたアミノ基のアミノ窒素原子と共有結合状態になる場合に生じる。これらのペプチド結合の連結、およびそれらを含む原子(すなわち、α−炭素原子、カルボキシル炭素原子(およびそれらの置換基である酸素原子)、およびアミノ窒素原子(およびそれらの置換基である水素原子))により、タンパク質の「ポリペプチド骨格」が形成される。さらに、本明細書で用いられる「タンパク質」という用語は、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語(それらは時として本明細書中で互換的に用いられうる)を含むと理解される。同様に、タンパク質断片、類似体、誘導体、および変異体は本明細書中で「タンパク質」と称される場合があり、他に指定されない限り「タンパク質」と見なされるものとする。タンパク質の「断片」という用語は、全部よりも少ないタンパク質のアミノ酸残基を含むポリペプチドを示す。タンパク質の「ドメイン」は断片でもあり、活性または機能を付与するのに必要とされることが多いタンパク質のアミノ酸残基を含む。
【0064】
「ストリンジェントな条件」という用語は、ポリヌクレオチド間のハイブリダイゼーションを許容する条件を示す。ストリンジェントな条件は、塩濃度、有機溶媒(例えばホルムアミド)の濃度、温度、および当該技術分野で周知の他の条件によって定義されうる。ストリンジェンシーは、塩の濃度の低下、有機溶媒(例えばホルムアミド)の濃度の上昇、またはハイブリダイゼーション温度の上昇によって高まりうる。例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常、約750mM NaClおよび75mM三クエン酸ナトリウムよりも低く、好ましくは約500mM NaClおよび50mM三クエン酸ナトリウムよりも低く、および最も好ましくは約250mM NaClおよび25mM三クエン酸ナトリウムよりも低くことになる。低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションが有機溶媒、例えばホルムアミドの非存在下で得られうる一方、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションが有機溶媒(例えば、少なくとも約35%のホルムアミド、最も好ましくは少なくとも約50%のホルムアミド)の存在下で得られうる。ストリンジェントな温度条件は、通常、少なくとも約30℃、より好ましくは少なくとも約37℃、および最も好ましくは少なくとも約42℃の温度を含むことになる。様々なさらなるパラメータ、例えば、ハイブリダイゼーション時間、洗剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度、および担体DNAを含むか否かについては当業者に周知である。ストリンジェンシーの様々なレベルは、これらの様々な条件を必要に応じて組み合わせることによって得られ、当業者の技術の範囲内である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、標的配列および標的に対する正確もしくはほぼ正確な相補性を有するプローブの融解温度(Tm)を約5℃〜約20℃もしくは25℃の範囲内で下回る条件によっても定義されうる。本明細書で用いられる融解温度は、二本鎖核酸分子の集団が半ば解離状態から一本鎖になる温度である。核酸のTmを計算するための方法は当該技術分野で周知である(例えば、Berger and Kimmel, Methods In Enzymology, Vol. 152: Guide To Molecular Cloning Techniques, San Diego (1987): Academic Press, Inc. and Sambrook et al., Molecular Cloning (1989): A Laboratory Manual, 2nd Ed., Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratoryを参照)。標準の参考文献で指摘されるように、Tm値の単純な推定値は、核酸が1M NaClでの水溶液中に存在する場合での方程式:Tm=81.5+0.41(%G+C)によって計算可能である(例えば、 Anderson and Young, ”Quantitative Filter Hybridization”in Nucleic Acid Hybridization (1985)を参照)。ハイブリッドの融解温度(したがってストリンジェントなハイブリダイゼーションにおける条件)は、プローブの長さや性質(DNA、RNA、塩基組成)および標的の性質(DNA、RNA、塩基組成、溶液中に存在するか、または固定化されて存在するかなど)、ならびに塩および他の成分の濃度(例えば、ホルムアミド、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコールの存在または不在)などの様々な因子による作用を受ける。これらの因子の効果は周知であり、当該技術分野で標準の参考文献にて考察されており、例えば、 Sambrook(上記)、およびAusubel(上記)を参照のこと。典型的には、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、pH7.0〜8.3で約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には約0.01〜1.0Mのナトリウムイオンといった塩濃度、ならびに短いプローブ(例えば10〜50個のヌクレオチド)における少なくとも約30℃および長いプローブ(例えば50個より多いヌクレオチド)における少なくとも約60℃の温度である。指摘のように、ストリンジェントな条件はホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって得られる場合もあり、その場合にはより低い温度が用いられうる。本発明では、ポリヌクレオチドは約50〜約60℃で0.03M塩化ナトリウムおよび0.03Mクエン酸ナトリウムなどの中程度から高いストリンジェンシーの条件下で標的mRNAにハイブリダイズするポリヌクレオチドでありうる。
【0065】
本明細書で用いられる「対象」は、ヒト、家畜および農業用動物、および動物園の動物、スポーツ用動物、またはペット動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシなどを含む哺乳動物として分類される任意の動物を示す。好ましい対象はヒトである。
【0066】
「治療有効量」という用語は、例えば研究者、獣医、医師、または他の臨床医による研究対象の組織、系、動物またはヒトにおける所望の応答、例えば、生物学的または医学的応答を誘発することになる対象化合物の量を意味する。
【0067】
「治療」は、治療上の処置と予防的(prophylactic)または予防的(preventive)手段の双方を示す。治療が必要な患者には、既に障害を有する患者および障害が予防されるべき患者が含まれる。
【0068】
「ベクター」という用語は、核酸を細胞に送達するための、プラスミド、ファージ、ウイルス、または他の系(天然または合成)の形態での核酸分子の増幅、複製、および/または発現の媒体を示し、その場合、プラスミド、ファージ、またはウイルスが細菌、酵母、無脊椎動物、および/または哺乳類宿主細胞で機能的でありうる。ベクターは、宿主細胞のゲノムDNAから独立した状態でありうるかまたはゲノムDNAと全体的または部分的に組み込まれ得る。ベクターは、適合する任意の宿主細胞内で機能的であるように、すべての必要な要素を一般に含むことになるが、必ずしもそうである必要はない。「発現ベクター」は、適切な条件下で外因性ポリヌクレオチド、例えば結合ドメインの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現を指令可能なベクターである。
【0069】
本明細書中に記載の「相同性および相同体」という用語は、目的のポリヌクレオチド(例えばmRNA)内での配列の相同体でありうるポリヌクレオチドを含む。かかるポリヌクレオチドは、典型的には、例えば(相同配列の)少なくとも約15、20、30、40、50、100個以上の隣接したヌクレオチドの領域に及ぶ関連配列と少なくとも約70%の相同性、好ましくは少なくとも約80%、90%、95%、97%もしくは99%の相同性を有する。
【0070】
相同性は、当該技術分野での任意の方法に基づいて計算されうる。例えばUWGCG Packageは、(例えばそのデフォルト設定において用いられる)相同性を計算するのに用いられうるBESTFITプログラムを提供する(Devereux et al., Nucleic Acids Research 12, p387-395 (1984))。例えばAltschul S. F. ; J Mol Evol 36: 290-300 (1993); Altschul, S. F. et al.; J Mol Biol 215: 403-10 (1990)に記載のように、PILEUPおよびBLASTアルゴリズムを用い、(典型的にはそのデフォルト設定において)相同性の計算または配列の整列が可能である。BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/L)を通じて公的に利用可能である。このアルゴリズムは、データベース配列内の同じ長さのワードと整列される場合、ある正の値の閾値スコアTに一致するかまたはそれを満足させるクエリー配列内で長さWの短いワードを同定することによってスコアの高い配列ペアを最初に同定することを含む。Tは隣接ワードスコア閾値と称される(Altsschul st al., 上記)。これらの最初の隣接ワードヒットは、それらを有するHSPを見出すための検索を開始するためのシードとして作用する。ワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加され得る限り、各配列に沿って両方向に延長される。各方向のワードヒットにおける延長は、累積アラインメントスコアがその最大の達成値から数量X分だけ低下する時;1つ以上の負のスコアをもつ残基のアラインメントの蓄積のために累積スコアが0以下になった時;またはいずれかの配列の末端に達した時に停止される。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプログラムでは、デフォルトとして、11のワード長(W)、50のBLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919 (1992)を参照)アラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=4、および両方の鎖の比較が用いられる。
【0071】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性における統計分析を実行する。例えば、 Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5787 (1993)を参照のこと。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の尺度は最小の合計確率(P(N))であり、それは2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間の一致が偶発すると思われる確率の指標を提供する。例えば、第1の配列の比較における最小の合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、および最も好ましくは約0.001未満である場合、配列はもう一方の配列に類似すると考えられる。
【0072】
相同配列は、典型的には関連配列と少なくとも(またはわずか)約1、2、5、10、15、20もしくはそれより多い変異(置換、欠失または挿入でありうる)だけ異なる。これらの変異は、相同性の計算に関し、上記の領域のいずれかの全体にわたり測定されうる。相同配列は、典型的にはバックグラウンドを有意に超えるレベルで元の配列に選択的にハイブリダイズする。選択的ハイブリダイゼーションは、典型的には高いストリンジェンシーの溶媒の条件(例えば、約50℃〜約60℃で0.03Mの塩化ナトリウムおよび0.03Mのクエン酸ナトリウム)を用いて行われる。しかし、かかるハイブリダイゼーションは、当該技術分野で既知の任意の適切な条件下で行われうる(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1989)を参照)。例えば高いストリンジェンシーが必要とされる場合、適切な条件には60℃での0.2×SSCが含まれる。より低いストリンジェンシーが必要とされる場合、適切な条件には60℃での2×SSCが含まれる。
【0073】
「組換え」という用語は、合成されたか、そうでなければインビトロで操作されたポリヌクレオチド(例えば「組換えポリヌクレオチド」)、細胞内または他の生物学的系内で組換えポリヌクレオチドを用いて遺伝子産物を生成するための方法、あるいは組換えポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド(「組換えタンパク質」)を示す。したがって、「組換え」ポリヌクレオチドは、その生成方法またはその構造のいずれかにより定義される。その生成方法に関しては、そのプロセスは、例えばヌクレオチド配列内へのヒトの介入、典型的には選択または生成を含む組換え核酸技術の使用を示す。あるいは、それは天然には互いに隣接しない2つ以上の断片の融合体を含む配列を生成することによって作製されたポリヌクレオチドでありうる。それ故、例えば、任意の合成オリゴヌクレオチドプロセスを用いて得られた配列を含むポリヌクレオチドのように、細胞を任意の非天然ベクターで形質転換することによって作製された産物が包含される。同様に、「組換え」ポリペプチドは組換えポリヌクレオチドから発現されたものである。
【0074】
「組換え宿主細胞」は、ベクター、例えばクローニングベクターまたは発現ベクターを有する細胞、あるいはそうでなければ組換え技術により操作されていることで目的タンパク質を発現する細胞である。
【0075】
I.概要
ラット筋肉組織に由来する2つの運動ニューロン栄養因子(MNTF1およびMNTF2)の単離および特徴づけならびにそれに続くヒト網膜芽細胞腫cDNAライブラリーに由来する組換えMNTF1−F6遺伝子のクローニングについては、米国特許第. 6,309,877号、第6,759,389号および第6,841,531号(ならびに同時係属の米国特許出願第10/858,144, 10/858,286号、第10/858,543号および第10/858,545号)に記載され、それらすべてはそれら全体が本明細書にて参照により援用される。MNTF1−F6遺伝子配列は、それらの中で配列番号4と称される33個のアミノ酸配列をコードする。MNTF1ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、国際出願第PCT/US2004/038651号(その全体が本明細書にて参照により援用される)に記載のようにヒト染色体16q22内にマッピングされることが見出された。
【0076】
MNTF1の既知の生物学的活性に十分であると見られるMNTF1−F6分子内の2つの重複ドメインが同定された。国際出願第. PCT/US04/01468号または米国特許出願第10/541,343号(それら全体が本明細書にて参照により援用される)を参照のこと。本明細書中で「WMLSAFS」および「FSRYAR」ドメインと称されるこれらの各ドメインは、MNTF1−F6 33−merと同様に、運動ニューロン由来の細胞株の増殖を刺激するのに十分であった。同様に「FSRYAR」ドメインは、MNTF1−F6 33−merと同様に、インビボでの運動ニューロンによる筋肉標的の選択的再神経支配を誘発するのに十分である。さらに「FSRYAR」ドメインは、MNTF1−F6 33−merを含む、「FSRYAR」配列を有する任意のMNTFペプチドを認識する抗体を産生するのに十分な抗原エピトープを提供する。
【0077】
運動ニューロン栄養因子(MNTF)は、ヒト妊娠期での9週目期間中の発現にて最高に達する(Di, X. et al., Acta Anatomica Sinica 29:86-89, 1998)。ヒトの発生過程でのMNTFの発現に基づき、MNTFが運動ニューロンの分化および/または生存を促進しうると結論づけた。これを検証するため、MNTFが多能性ES細胞の運動ニューロンへの分化を調節し、ES細胞由来の運動ニューロンの生存を促進するか否かを明らかにした。
【0078】
本明細書で開示のように、発明者らは、ES細胞のRAおよびMNTF類似体への暴露によりこれらの細胞による運動ニューロンの生成が誘導されると判定している。
【0079】
II.使用方法
限定はされないが、本明細書中で運動ニューロン分化因子(MDNF)と称される、MLSAFSRYARドメインを含むMNTFおよび切断されたMNTF分子が、本明細書中で幹細胞または部分的に分化した神経細胞の運動ニューロンへの分化を誘導することが示される。かかる作用物質は、幹細胞培養物からの運動ニューロンの集団の生成および/または単離のための新たな方法を提供する。
【0080】
本発明の方法は、胚性幹細胞をレチノイン酸(RA)および運動ニューロン分化因子(MNDF)と接触させる工程を含む。本発明の好ましい実施態様では、胚性幹細胞は運動ニューロン分化因子と同時にRAと接触される。あるいは、本方法は、部分的に分化した神経細胞を運動ニューロン分化因子と接触させる工程を含む。因子は、分化した神経細胞を生成するのに有効な量で提供される。これらの量は、本明細書中に記載の既知の手順および方法に基づき、当業者により容易に判定されうる。
【0081】
MNTF1および/またはそのペプチド類似体は、インビトロで哺乳類運動ニューロンの生存も促進する。したがって、本発明は、インビトロで幹細胞由来の神経細胞を有効量のMNTFペプチド類似体とともに培養することにより、幹細胞由来の神経細胞株の生存を促進するための方法を含む、神経細胞培養物における成長因子/サプリメントとしてのMNTFペプチド類似体の使用を提供する。
【0082】
発明者らは、神経栄養因子の存在下で培養されたニューロンが生存しかつプロセスを構成することも発見している。したがって、別の実施態様では、本発明の方法は、幹細胞由来の運動ニューロンを少なくとも1つのMNTFペプチド類似体と接触させる工程を含み、それは例えばRAおよび運動ニューロン分化因子、例えば本明細書中に記載のMNTFペプチド類似体、あるいはShhアゴニストを含むソニックヘッジホッグ(Shh)との接触に従うものである。
【0083】
分化した運動ニューロンは、例えばFACS選別により単離または濃縮されうる。例えば、GFPに基づく運動ニューロンの作製方法の使用により、ES細胞由来の運動ニューロンの純粋な集団の特徴づけが可能になる。発明者らは胚様体に由来する混合された細胞の集団から純粋な運動ニューロンの細胞の集団を単離するためのこのプロトコルを用いている。胚様体は、コラゲナーゼおよびディスパーゼを用いて単細胞に分解される。次いで、HB9プロモーターの制御下でGFPを発現する細胞が集団内での真の運動ニューロンであることから、これらの単細胞はGFPのためにFACSで選別される。
【0084】
したがって、本発明の別の態様は、(a)運動ニューロンに特異的なプロモーターの制御下で強化緑色蛍光タンパク質(eGFP)を発現する胚性幹細胞の培養物を取得または生成する工程、(b)胚性幹細胞の培養物をeGFPを発現する分化した神経細胞を生成するのに有効な量のRAおよびMNTFと接触させる工程、(d)分化した神経細胞内でeGFPの発現を検出する工程、ならびに(f)eGFPを発現する分化した神経細胞を単離する工程により、分化した神経細胞の集団の単離および/または精製のための方法を対象とする。
【0085】
発明者らは、MNTFおよび特定のMNTF類似体が、哺乳類のニューロンの生存、成長、増殖、および/または維持を促進するための能力が理由で、神経障害の治療にとって有用であることを発見している。発明者らは、特定の実施態様によると、MNTFペプチドまたはMNTF類似体が、ソニックヘッジホッグ経路非依存性の(例えば実施態様によって部分的または完全に非依存性の)シグナル伝達経路を調節することをさらに発見している。同様に、発明者らは、MNTFペプチドおよびMNTF類似体が、特定のチロシンキナーゼおよび成長因子受容体の発現または活性を含む、特定のタンパク質キナーゼ経路を調節することを発見している。調節されるシグナル伝達またはタンパク質キナーゼ経路は、例えばソニックヘッジホッグ非依存性の経路を含む。
【0086】
ソニックヘッジホッグ(Shh)は、パッチされた(patched)スムーズンド(smoothened)のその膜輸送受容体成分を介して作用する、尾側化(caudalized)ニューロンの腹側化(ventralization)を担う主要成分である。本明細書で示されるデータは、MNTFペプチドが、レチノイン酸の存在下、インビトロでのマウスES細胞の運動ニューロンへの分化において有効にソニックヘッジホッグの代わりになることを示す(実施例5)。MNTFのこれらのES培養物への添加の結果、成熟運動ニューロン転写因子(HB9およびIslet1/2)の発現、成熟運動ニューロンマーカーのコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)の発現、および活動電位を伝導可能なニューロンの生成がもたらされた。データは、MNTFペプチドがスムーズンド受容体のシグナル伝達に対する特異的阻害剤(シクロパミン−KAAD)の存在下で有糸分裂後の成熟運動ニューロンを生成可能であることも示す。発明者らは、任意の特定の理論または機構に縛られることを望まないが、データがMNTFがShhとは異なる経路を介してかまたはスムーズンドの下流でシグナル伝達することを示すと考えている。さらに発明者らは、本明細書に示されるデータに基づき、MNTFペプチドが本明細書に記載のシグナル伝達経路を通って作用し、哺乳類ニューロンの生存、成長、増殖、および/または維持を促進すると判断している。したがって、本発明の別の態様では、MNTF因子またはMNTF類似体が投与されることで、特定のシグナル伝達成分の発現または活性が調節される。発明者らのデータは、ES細胞のMNTF処理の結果、インスリン受容体(IR)のTyr972およびTyr1162/1163の自己リン酸化がもたらされることをさらに示している(実施例5)。これらの残基はIR活性化のマーカーである。さらに、共免疫沈降の研究によると、ES細胞に対するMNTF処理の結果として特定のSH2ドメインのIR(PI3キナーゼにおけるp85サブユニット)との結合について示された。実施例5はまた、IGF−1Rの遮断によりMNTFにおける運動ニューロンの生成能に対して全く効果がなかったが、IRの遮断によりこの能力が失われたことを示している。
【0087】
特定の実施態様では、インスリン受容体の基質タンパク質の発現または活性が運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。インスリン受容体の基質タンパク質(IRS−タンパク質)は、インスリンおよびIGFに引き起こされたシグナル伝達の双方におけるエフェクターである。それらは、それらのN末端近傍のPHおよびPTBドメイン、ならびにそれらのC末端領域内の複数のTyrリン酸化モチーフを共有する。チロシン−リン酸化IRS−タンパク質に結合するタンパク質は、PI3キナーゼp85、GRB2、SHP2、Nck、Crk、およびFynを含む。IRS−1は、主にIGF−シグナル伝達および細胞骨格の成長に関与するように見られる。遺伝的除去がII型糖尿病をもたらすことから、IRS−2はインスリンのシグナル伝達の重要なメディエーターであるように見られる。IRS−3は、主に脂肪細胞内で発現され、通常はPI3キナーゼの強力な活性化因子である。IRS−4では、もう一方のIRS−タンパク質がSHP2に結合する場合のチロシン残基が欠如している。
【0088】
特定の実施態様では、IGF−1、IGF−II、またはいずれかの受容体におけるタンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。IGF−IおよびIGF−IIは、インスリン受容体に対して相同性があるIGF−I受容体を通ってシグナル伝達する。高親和性のIGF−II受容体は、シグナル伝達において直接的役割を果たさないが、遊離IGF−IIの濃度を調節する。IGFは骨格の成長に関与し、アポトーシスの防止に必須である。遊離IGFの血清レベルはIGF結合タンパク質(IGFBP)の作用によって低く保持され、それによりIGFが隔離される。IGFBPの過剰発現はおそらくは遊離IGFの低下によりアポトーシスを誘導する可能性があり、一部の癌ではIGFBPレベルも変わる。IGF−I受容体は、一部の他の成長因子受容体ほど有糸分裂的でないが、インスリン受容体基質(IRS)タンパク質によりPI3キナーゼ経路を活性化するその能力は、細胞の生存を媒介するのに極めて重要である。
【0089】
特定の実施態様では、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼタンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ)は、PI(4,5)P2のイノシトール環の3位のリン酸化を担い、生存のシグナル伝達およびインスリン作用に必要とされる強力な二次メッセンジャーのPI(3,4,5)P3を生成する。PI3キナーゼは、85kDaの調節サブユニットおよび110kDaの触媒サブユニットからなるヘテロダイマー複合体である。成長因子受容体のチロシンリン酸化により、受容体上でのp85の(そのSH2ドメインを通る)結合のためのドックキング部位が生成され、p85がそれとともにp110をもたらす(そこでは膜上のそのホスホ−脂質基質に近接した状態である)。PI3キナーゼは、RasおよびヘテロトリマーG−タンパク質のβ:γサブユニットによっても活性化される。PI3キナーゼは、PI3キナーゼのシグナル伝達経路の研究における有用なツールであるウォートマンニン(wortmannin)により阻害される。
【0090】
特定の実施態様では、Aktキナーゼタンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。AktはPI3キナーゼ経路の主要な既知のエフェクターである。PIP3の生成の結果、Thr308上でAktをリン酸化するPDK1およびSer473上でAktをリン酸化する別のキナーゼ(PDK2であると予想)の活性化がもたらされる。これらのリン酸化によりAkt Ser/Thrキナーゼ活性が付加的に活性化され、かつ、これらの部位のいずれかに特異的な、リン酸化状態に特異的な抗体の使用はAktの活性化を示唆しうる。Aktの活性化は、免疫沈降後の、放射性標識化ATPによる既知の基質のリン酸化により、直接測定されうる。AktはSer136上のBadをリン酸化する結果、アポトーシスからの保護が得られる。Aktの他の基質にはGLUT4、心臓PFK2、およびGSK3が含まれ、それはこのリン酸化により不活性化される。
【0091】
特定の実施態様では、Badキナーゼタンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。Badすなわち「細胞死のBcl−2拮抗物質」はBcl−2ファミリーのメンバーであり、生対死にとって重要な調節物質である。リン酸化されていないBadは、Bcl−2およびBcl−XLと二量体化し、その抗−アポトーシス活性を中和する。PI3−キナーゼ経路の活性化により、ser−136でBadをリン酸化するAktの活性化がもたらされる。MAPキナーゼ経路はser−112でBADをリン酸化し、最近ではPKAがser−155でBADをリン酸化することが示されている。リン酸化されたBadは、14−3−3タンパク質と、おそらくはBadをそのプロアポトーシスの役割から隔離する他の因子とに結合する。これらの部位に特異的な、リン酸化状態に特異的な抗体を用いるアッセイは、細胞生存経路を活性化するための読み出しとして役立つ。
【0092】
特定の実施態様では、PI(3,4,5)P3依存性キナーゼタンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。PI(3,4,5)P3依存性キナーゼ1(PDK1)は、PHドメインを有するSer/Thrキナーゼであり、PIP3により強力に刺激される。PDK1の最もよく特徴づけられた基質はAktであり、それはThr308でPDK1によりリン酸化され、Aktの活性化に寄与する。PDK1の2つのイソ型が同定されている。PDK1は、p70 S6キナーゼの活性化における役割を果たすとも考えられ、T細胞活性化の間におけるT細胞受容体からNFκBへのシグナル伝達にとって重要である。
【0093】
特定の実施態様では、Baxタンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。Bcl−2と高度に保存されたドメインを共有するBaxタンパク質は、ミトコンドリアの脂質二重層内にイオン伝導チャネルを形成可能であり、アポトーシスタンパク質の細胞質内への放出により、多数の細胞のアポトーシス経路において必須の役割を果たす。Baxは、癌または神経変性障害など、アポトーシスに関与する多数の疾患において興味深い治療標的を提示する。
【0094】
特定の実施態様では、p53遺伝子産物の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。p53遺伝子は全ヒト癌の約半分において突然変異される。その遺伝子産物は、細胞毒性ストレスに対する細胞応答に関与し、p19ARFとともにp21Cip1の発現を誘導し、細胞周期停止を引き起こす。さらにp53は、転写および非転写機構の双方によってアポトーシスを誘導可能である。p53のアミノ末端83アミノ酸は、転写促進ドメインならびに転写とは独立した成長の抑制に関与する領域を有する。カルボキシ末端領域は、3つのリン酸化事象により、かつ潜在的にはアセチル化によっても調節されるDNA結合ドメインを有する。
【0095】
特定の実施態様では、一酸化窒素シンターゼタンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。一酸化窒素シンターゼ(NOS)は、一酸化窒素を生成するダイマーのヘムを含有する酵素であり、c末端レダクターゼおよびn末端オキシゲナーゼのドメインを有する。NOSの3つのカテゴリには、主に神経組織内に発現されるnNOS/NOSI/NOS1と、マクロファージおよび特定の他の細胞内で炎症性刺激により誘導可能なiNOS/NOSII/NOS2と、構成的に発現される、構成的に発現されたNOS.nNOSおよびeNOSの上皮形態であるeNOS/NOSIII/NOS3が含まれ、それらは活性においてCa2+を必要とし、Ca2+の流入により調節される。iNOSはCa2+に依存しない。多数の部位での異なるイソ型のリン酸化により、タンパク質の活性に対する効果が変化しており、阻害的なものもあれば活性化するものもある。
【0096】
特定の実施態様では、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3タンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK)は、シグナル伝達経路の作用の非存在下で活性であるという点で大部分のセリン/トレオニンキナーゼと異なる。GSK3αおよびGSK3βという2つのイソ型が存在する。GSK3の機能は、グリコーゲンシンターゼをリン酸化することによりそれを不活性化することである。インスリン作用によりPI3キナーゼ経路が刺激される結果、Aktの活性化がもたらされ、それによりGSK3がリン酸化され、不活性化される。次いで、グリコーゲンシンターゼは迅速に脱リン酸化され、活性化される。他のGSK3基質は(阻害部位上に)JunおよびeIF2Bを含む。GSK3によるTauのリン酸化はアルツハイマー病の発生に関与しうる。GSK3上のAkt部位(Ser21)に対してリン酸化状態に特異的な抗体は、経路の活性化状態に対する代理のアッセイに適する。
【0097】
特定の実施態様では、カスパーゼタンパク質の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。シー・エレガンス(C.elegans)のCED−3デスタンパク質(death protein)に関与するシステインアスパルチルプロテアーゼはカスパーゼファミリーを含む。すべてはタンパク質加水分解により活性化されたプロ酵素として発現される。アポトーシスにおけるその役割に関しては、カスパーゼは、受容体クラスタリング(イニシエーター)またはミトコンドリア透過性転移(エフェクター)により活性化されるか否かに応じ、イニシエーター(カスパーゼ8、9、10)およびエフェクター(カスパーゼ3、6、7)のカスパーゼに細分類されうる。エフェクターカスパーゼ、最も顕著にはカスパーゼ3は、極めて多数の基質を切断することでアポトーシスに関連した形態変化を生じさせる。カスパーゼ3基質の中には、DFFのDNAseサブユニットをほぐしてクロマチン分解を引き起こすDFF45/ICAD、ならびにゲルゾリン、PAK2、D4GDIが含まれ、それらのすべては細胞骨格機構、核ラミナおよびPARPに関与する。PARP切断の重要性は明白ではないが、カスパーゼの活性化およびアポトーシスの進行についての推定における優れたマーカーである。
【0098】
特定の実施態様では、RAS遺伝子産物の発現または活性が、運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体の患者または標的器官、組織、もしくは細胞への投与に応答して調節される。Rasタンパク質は、ヘテロトリマーG−タンパク質と異なり、単一のポリペプチド内部にあらゆるGTPaseおよびエフェクターの機能を有する小さいGTP−結合タンパク質である。RasにはKi−Ras、Ha−Ras、およびN−Rasといった少なくとも3つのイソ型が存在し、そこでは発現パターンは相異なるがシグナル伝達活性は類似する。Rasは、カルボキシ末端でパルミトイル化され、ファルネシル化され、膜内にそれを固定する。Rasは、停止細胞内で、GDPの負荷を受け、受容体の成長因子刺激後に活性化され、膜の表面に対してRasグアニンヌクレオチド交換因子を補充する。Rasタンパク質に対して交換因子が近接していることにより、GDPの放出およびそのGTPとの交換が引き起こされる。そのGTPとの結合形態においては、RasはRaf、RalGDS、およびPI3キナーゼを含む数種のタンパク質に結合する。Rasの不活化がGTPの加水分解により生じ、それは2種の既知のRas GTPase活性化タンパク質のRasGAPまたはNF−1により大幅に加速される。溶解物を、Ras:GTPに選択的に結合する、Raf−1のRas−結合ドメインとともにインキュベートすることでRasの活性化についてアッセイすることは可能である。
【0099】
III.幹細胞培養物
胚性幹(ES)細胞は、無限に複製可能な胚盤胞期の胚の多能性内部細胞塊から得られる培養細胞である。一般に、ES細胞は、他の細胞に分化する可能性を有し(すなわちそれらは多能性であり)、それ故、新しい細胞の連続的ソースとして役立ち得る。本発明にて用いられる胚性幹細胞は、任意の動物から取得可能であるが、好ましくは哺乳動物(例えばヒト、家畜、または商業動物)から取得される。本発明の一実施態様では、胚性幹細胞はマウス胚性幹細胞である。別の好ましい実施態様では、胚性幹細胞はヒトから取得される。
【0100】
哺乳類幹細胞の培養に適する方法は当該技術分野で既知であり、例えば米国特許出願第10/362,437号、第10/789,266号、第10/789,308号、第10/928,805号および 米国特許第6,833,269号にて示されており、これらすべては、それら全体が本明細書中に援用される。他に明示的に規定されない限り、本発明の態様は、任意の脊椎動物種の幹細胞(例えば、ヒト、ならびに非ヒト霊長類、家畜(domestic animals)、家畜(livestock)、および他の非ヒト哺乳類に由来する幹細胞)を用いて実施されうる。本発明における使用に適する幹細胞の中には、胚盤胞など、妊娠後に形成された組織あるいは妊娠期間中の任意の時間に採取された胎児または胚性組織に由来する霊長類多能性幹(pPS)細胞が含まれる。非限定例として、胚性幹細胞または胚性生殖細胞の一次培養物または樹立された系が挙げられる。
【0101】
特定の実施態様では、代表例として「霊長類の多能性幹細胞」(pPS細胞)が用いられる。pPS細胞は、妊娠後の任意の時間における前胚性、胚性、または胎児組織から得られる多能性細胞を含む。それらは、適切な条件下で、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の派生物である数種の異なる細胞タイプの子孫を生成可能である。pPS細胞は、Thomson et al., Science 282:1145 (1998)により記載されたヒト胚性幹(hES)細胞;他の霊長類に由来する胚性幹細胞、例えば赤毛猿幹細胞(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844, (1995))、マーモセット幹細胞(Thomson et al., Biol. Reprod. 55:254 (1996))およびヒト胚性生殖(hEG)細胞(Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726 (1998))、ならびに当該技術分野で既知の他のタイプの多能性細胞を含む、様々なタイプの胚性細胞を包含する。すべての3つの胚葉の派生物である子孫を生成可能である霊長類由来の任意の細胞が、それらが胚性組織、胎児組織、または他のソースから得られるか否かにかかわらず含まれる。pPS細胞は一般に悪性のソースから得られることがなく、細胞が核型的に正常であることが好ましい。
【0102】
pPS細胞培養物は、幹細胞および集団内でのその派生物の実質的部分が、胚または成人に由来する分化した細胞と比較される場合に容易に理解できる未分化細胞の形態形質を示す場合、「未分化のもの」として記載される。未分化pPS細胞は当業者により容易に理解され、典型的には高い核/細胞質の比および隆起した核小体を伴う細胞のコロニー内で微視的景色を二次元的に見られる。分化された隣接細胞によって囲まれることが多い点は、集団内の未分化細胞のコロニーとして一般的である。
【0103】
IV.分化した神経細胞
前駆体、部分的に分化した神経細胞および完全に分化した神経細胞の培養に適する方法は当該技術分野で既知であり、例えば米国特許出願第10/362,437号、10/789,266号、10/789,308, 10/928,805および米国特許第6,833,269号にて示され、これらのすべてはそれら全体が本明細書中に援用される。
【0104】
さらに、本明細書で用いられる「神経細胞」または「ニューロン」は、典型的には核およびその周囲の細胞質を有する細胞体(核周囲部);いくつかの短い放射状突起(樹状突起);ならびに1つの長い突起(軸索)からなる神経系の伝導性または神経細胞であり、小枝様の分岐(終末分枝)で終結し、かつその進路に沿って突出する分岐(側副)を有しうる。ニューロンの例として運動ニューロンが挙げられる。
【0105】
V.分化した神経細胞の特徴づけ
ES細胞の部分的または完全に分化した神経細胞への分化は、既知の細胞的または分子的方法、ならびに本明細書で開示のアッセイおよび方法により検出されうる。例えば、細胞培養物は、NeuN(神経マーカー)などの神経マーカーおよび/またはHB9またはChATのような特定の運動ニューロンマーカーにおいて調べられうる。
【0106】
本発明の別の実施態様では、分化した神経細胞は、本明細書中に記載のように強化緑色蛍光タンパク質(eGFP)を発現することから遺伝的に標識される。eGFP遺伝子マーカーは、分化した神経細胞の集団を単離しかつ/または精製するための方法あるいは脊髄の再結集(repopulation)を監視するための方法にて特に有用でありうる。
【0107】
VI.レチノイン酸
RAまたはビタミンAは、モルフォゲンであると考えられるアルデヒド分子である。RAは容易に入手でき、例えばシグマケミカル(Sigma Chemical Co.)(St.Louis,Mo.)から入手可能である。約0.0001〜1μMの最終濃度でのRAによる処理の結果、神経前駆体への幹細胞の効率的分化がもたらされる。
【0108】
VII.MNTFおよびMNDFペプチド
当該技術および本発明に精通した当業者が理解するように、MLSAFSRYARの10merおよび33merを含む配列は、インビトロおよびインビボでの幹細胞の運動ニューロンへの選択的分化にて用いられるMNTFペプチド類似体を提供する。本発明の運動ニューロン分化因子は、合成的または組換え的に生成されうるか、または天然細胞から単離されうる。
【0109】
本発明のMDNFおよびMNTFペプチド類似体を含有するタンパク質内またはペプチド内でのアミノ酸残基の配列は、それらの一般に用いられる3文字表記の使用またはそれらの1文字表記の使用のいずれかによって本明細書中で表記される。これらの3文字および1文字表記のリストは、Biochemistry, Second Edition, Lehninger, A., Worth Publishers, New York, N.Y. (1975)などの教科書中に見出されうる。アミノ酸配列が水平に記述される場合、アミノ末端は左端にあるものと意図される一方、カルボキシ末端は右端にあるものと意図される。
【0110】
様々なMDNFおよびMNTFペプチド類似体を有するペプチドの正確な化学構造が多数の因子によって変化することは、当業者によって理解されるであろう。例えば、所定のポリペプチドは、イオン化可能カルボキシル基およびアミノ基が分子内に見出されることから、酸性塩または塩基性塩としてまたは中性形態で得られうる。次いで、本発明の目的として、MNTF1 33merペプチドの生物学的活性を保持する、WMLSAFS、FSRYARまたはMLSAFSRYARドメインを含むペプチドの任意の形態は、本発明の範囲内にあるように意図される。
【0111】
図1は、本発明によるMNDFおよび/またはMNTFペプチドにおける特定の好ましい実施態様を図示する。
【0112】
A.MNTF1−F6 33−mer
米国特許第6,309,877号では、以下のアミノ酸配列:
LGTFWGDTLNCWMLSAFSRYARCLAEGHDGPTQ[配列番号1]
を有するポリペプチド(その中では配列番号4と称される)が提供される。この配列を有する組換えタンパク質は、MNTF−1に対するモノクローナル抗体と反応し、運動ニューロンの生存率を維持し、神経突起伸長を促進し、運動ニューロンの細胞死/アポトーシスを低下させ、運動ニューロンの成長コーンを有する軸索の延長を伴う巨大な活性ニューロンへの成長および「拡張(spreading)」を支持した。
【0113】
MNTF1 33−merは、下記の例にて用いられる固相合成によって合成された。このMNTF−1分子は、以下では「33mer」と称されることになる。線状の33−merは、低濃度のRAと併用される場合、ES細胞の運動ニューロンへの分化を誘導した(図2参照)。さらに、MNTF1に誘導されたES細胞の分化は、ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路の阻害剤によって遮断されなかった。図3に示されるように、MNTF1 33−merによる胚様体の処理はインスリン受容体(IR)および/またはインスリン様成長因子受容体(IGF−R)の自己リン酸化に関連し、それはMNTFがIR/IGF−Rに媒介されるシグナル伝達経路を介して機能することを示唆していた。
【0114】
本発明は、MNTF1における幹細胞を運動ニューロンに分化させかつ/または幹細胞由来の運動ニューロンの生存および維持を促進する能力を保持する、MNTF1のペプチド類似体の使用を含む。本発明によるMNTFペプチド類似体は、典型的には6〜33アミノ酸長であり、2つのアミノ酸配列、すなわち配列番号1のアミノ酸残基12〜18個に対応するWMLSAFSドメイン(配列番号3)、または配列番号1のアミノ酸残基17〜22個に対応するFSRYARドメイン(配列番号2)のうちの少なくとも一方を含む。MNTFペプチド類似体の好ましい実施態様は、MLSAFSRYARドメイン(配列番号4)を有する配列番号1の10〜33個の連続するアミノ酸残基の断片を含む。
【0115】
別の実施態様では、運動ニューロン栄養因子のペプチド類似体のアミノ酸配列は、BLAST分析による判定によると、配列番号1の9〜32個の連続するアミノ酸残基に少なくとも70%同一であり、配列番号1の8〜32個の連続するアミノ酸残基に少なくとも80%同一であり、かつ最も好ましくは、配列番号1の7〜32個の連続するアミノ酸残基に少なくとも90%同一である。
【0116】
ポリペプチド配列を対応する配列番号1の断片と比較するため、ナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジー・インフォメーション(National Center for Biotechnology Information)(ワールドワイドウェブ上のncbi.nlm.nih.gov)により公的に利用可能なBLASTプログラムを用いて配列のグローバルアラインメントを実行可能である。グローバルアラインメントの実行に先立ち、配列番号1はジェンバンク(GenBank)に提出可能である。グローバルアラインメントにおいては、ナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジー・インフォメーション(National Center for Biotechnology Information)により提供されるデフォルトパラメータの利用が可能である。
【0117】
B.10−mer
特に好ましい実施態様では、配列番号1のアミノ酸残基13〜22に対応する以下のアミノ酸配列:
MLSAFSRYAR[配列番号4]
Met Leu Ser Ala Phe Ser Arg Tyr Ala Arg
を有するペプチドが提供される。このMNTF断片はWMLSAFSドメインおよび全FSRYARドメインの大部分を含む。MNTF 10merは、インビトロで0.01μg/ml程度に低い濃度での胚性幹細胞の運動ニューロンへの分化の刺激時に完全長のMNTF33 merとして少なくとも有効であった(図2参照)。さらに、MNTF 10merは、幹細胞由来の運動ニューロンの生存の促進時にMNTF33 merとほぼ同程度に有効であった(図4参照)。MNTF−1分子のこの部分は、以後「10mer」と称されることになる。
【0118】
C.6−mer
別の実施態様では、配列番号1のアミノ酸残基17〜22に対応する以下のアミノ酸配列:
FSRYAR[配列番号2]
Phe−Ser−Arg−Tyr−Ala−Arg
を有するペプチドが提供され、それは幹細胞由来の運動ニューロンの生存を促進するのに十分であることが見出された(図4参照)。MNTF−1分子のこの部分は、以後「6mer」と称されることになる。
【0119】
D.7−mer
別の好ましい実施態様では、配列番号1のアミノ酸残基12〜18に対応する以下のアミノ酸配列:
WMLSAFS[配列番号3]
Trp Met Leu Ser Ala Phe Ser
を有するペプチドが提供される。MNTF1のこの7個のアミノ酸断片はFSRYARドメインのFS残基と重複する。ペプチドはまた、幹細胞由来の運動ニューロンの生存を促進するのに十分であることが見出された(図4参照)。MNTF−1分子のこの部分は、以後「7mer」と称されることになる。
【0120】
E.11−mer
別の好ましい実施態様では、配列番号1のアミノ酸残基17〜27に対応する以下のアミノ酸配列:
FSRYARCLAEG[配列番号5]
Phe−Ser−Arg−Tyr−Ala−Arg−Cys−Leu−Ala−Glu−Gly
を有するペプチドが提供される。MNTF1 11−merは、FSRYARドメインを有し、幹細胞由来の運動ニューロンの生存を促進するのに十分であることも見出された(図4参照)。MNTF−1分子のこの部分は、以後「11mer」と称されることになる。
【0121】
F.21−mer
別の好ましい実施態様では、配列番号1のアミノ酸残基13〜33に対応する以下のアミノ酸配列:
MLSAFSRYARCLAEGHDGPTQ[配列番号6]
Met Leu Ser Ala Phe Ser Arg Tyr Ala Arg Cys,Leu Ala Glu Gly His Asp Gly Pro Thr Gln
を有するペプチドが提供される。このMNTF1 21−merは、「WMLSAFS」ドメインの大部分およびFSRYARドメイン全体を有し、幹細胞由来の運動ニューロンの生存を促進するのに十分であることも見出された(図4参照)。MNTF−1分子のこの部分は、以後「21mer」と称されることになる。
【0122】
VIII.MNTFペプチド類似体
本発明の範囲内に本明細書中で記載されかつ同定されるペプチド類似体が含まれ、その中では1つもしくは複数のアミノ酸が他のアミノ酸と置換されることが理解されるべきである。好ましい選択肢では、運動ニューロン栄養因子ペプチド類似体は、配列番号1の7〜32個の連続するアミノ酸残基の断片に対して1つもしくは複数の保存的アミノ酸置換基を有する。
【0123】
本発明の範囲内のMNTFペプチド類似体は、一般にペプチドの必須の活性が実質的に不変のままであるという当然の条件でMNTF1ペプチドの改変形態でありうる。本明細書で用いられる「改変形態」という用語は、その天然構造を変化させるために処理されているペプチドを示す。改変形態は、例えば、MNTF1ペプチド断片の共有結合修飾、MNTF1ペプチド断片の不溶性の支持マトリックスに対する架橋、またはMNTF1ペプチド断片の担体タンパク質に対する架橋によって調製されうる。
【0124】
本発明の範囲内のMNTF1ペプチド類似体は、MNTF1ペプチド断片に対して抗原的に関連があるペプチド断片でありうる。抗原的に関連した2つのペプチドは、免疫学的交差反応を示す。例えば、第1のペプチドに対する抗体は第2のペプチドも認識する。
【0125】
本発明の範囲内のMNTF1ペプチド類似体は、異種タンパク質に付着されたMNTF1ペプチド断片を含有する融合タンパク質でありうる。異種タンパク質は、MNTF1ペプチド断片に実質的に類似していないアミノ酸配列を有する。異種タンパク質は、MNTF1ペプチド断片のN末端またはC末端に融合されうる。融合タンパク質は、限定はされないが、ポリ−ヒス融合体、MYCで標識された融合体、Ig融合体および酵素融合タンパク質、例えばβ−ガラクトシダーゼ融合体を含む。かかる融合タンパク質、特にポリ−ヒス融合体は、組換えMNTF1ペプチド断片の精製を容易にする。
【0126】
MNTFペプチドのペプチドミメティックもまた本発明で提供され、それは、例えばWMLSAFSおよび/またはFSRYARドメインを含むタンパク質の機能を遮断することにより、神経細胞の生存率および成長を調製するための薬剤として作用しうる。ペプチドミメティックは、一般に製薬業界では模倣ペプチドの特性に類似した特性を有する非ペプチド薬を含むと理解されている。ペプチドミメティック設計の原則および実行は、当該技術分野で既知であり、例えば、Fauchere J., Adv. Drug Res. 15: 29 (1986); および Evans et al., J. Med. Chem. 30: 1229 (1987)で記載されている。
【0127】
治療的に有用なペプチドに対する構造的類似性を担持するペプチドミメティックを用いると、等しい治療的または予防的効果がもたらされうる。典型的には、かかるペプチドミメティックは、場合により、化学的破壊に対する耐性などの所望の特性をインビボで変換可能な結合により置き換えられた1つもしくは複数のペプチド結合を有する。かかる結合は、−CHNH−−、−−CHS−−、−−CH−−CH−−、−−CH=CH−−、−−COCH−−、−−CH(OH)CH−−、および−−CHSO−−を含みうる。ペプチドミメティックは、薬理学的特性(生物学的半減期、吸収速度など)の向上、異なる特異性、安定性の向上、生産経済、抗原性の低下などを示す場合があり、それは特に望ましい治療薬としてのその用途をもたらす。
【0128】
WMLSAFSおよび/またはFSRYARドメインのミメティックまたは結合分子の原型とされた(または実験的に決定された)ペプチド構造に基づく合理的設計は、合理的な薬剤設計における既知の方法を用いて当業者により実施されうる。合理的な薬剤設計の目標は、生物活性ポリペプチドまたは標的化合物の構造的類似体を生成することである。かかる類似体の生成により、天然分子よりも活性があるかまたは安定であり、改変に対して異なる感受性を有するかまたは様々な他の分子の機能に作用しうる薬剤を作成することは可能である。1つのアプローチでは、標的分子またはその断片における三次元構造を生成することになると思われる。X線結晶学、コンピュータモデリングまたは両アプローチの組み合わせを仮定すると、これを実施可能である。
【0129】
IX.作製方法
本発明のMNTFペプチド組成物が、限定はされないが、固相合成による化学合成およびHPLCによる化学反応における他の生成物からの精製、またはインビトロ翻訳系内もしくは生体細胞内での本発明のMNTFペプチドを含有するペプチドもしくはポリペプチドをコードする核酸配列(例えばDNA配列)の発現による生成を含む、当該技術分野で周知の方法により作製されうることは理解されている。好ましくは、組成物のMNTFペプチドは、単離されかつ大規模に透析されて1種もしくは複数種の望ましくない低分子量の分子が除去され、かつ/または所望の媒体へのより容易な調合のために凍結乾燥される。さらに、MNTFペプチド成分中で作製される、さらなるアミノ酸、変異体、化学修飾体などがある場合、好ましくはMNTFとドッキングする配列の受容体認識と実質的に干渉することがないと理解されている。
【0130】
本発明のMNTF1の1つもしくは複数の断片に対応するペプチドまたはポリペプチドは、一般に少なくとも5個もしくは6個のアミノ酸残基長であり、最大で約7個、約8個、約9個、約10個、約11個、約12個、約13個、約15個、約20個もしくは約30個程度までの残基を含みうる。ペプチド配列は、例えばアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)(フォスターシティ(Foster City)、カリフォルニア州)から入手した自動ペプチド合成機械を用いるペプチド合成などを例とする当業者に既知の方法により合成可能である。本発明は、例えば下記の表1に示される(配列番号1)および(配列番号6)から得られる環状ペプチドの合成および使用をさらに提供する。
【0131】
標的化されたアミノ酸残基を選択された側鎖または末端残基と反応可能である有機誘導体化剤(derivatizing agent)と反応させることにより、共有結合修飾がペプチドに導入されうる。有機誘導体化剤を用いるポリペプチドの共有結合修飾は、当業者にとって周知である。例えば、システイニル残基がクロロ酢酸またはクロロアセトアミドなどのα−ハロ酢酸塩(および対応するアミン)と反応することで、カルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体の生成が可能である。ヒスチジル残基が、pH5.5〜7.0でのジエチルピロカーボネートと、または1Mカコジル酸ナトリウム中、pH6でのパラ−ブロモフェナシルブロミドとの反応により誘導体化されうる。リジニルおよびアミノ末端残基が、琥珀酸または他のカルボキシル酸無水物と反応されうる。アルギニル残基が、1種もしくは数種の従来の試薬、特にフェニルグリオキサル、2,3−ブタンジオン、1,2−シクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンとの反応により修飾されうる。スペクトル標識が芳香族ジアゾニアム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によりチロシン残基に導入可能であり、最も一般的には、N−アセチルイミジゾールおよびテトラニトロメタンを用いることで0−アセチルチロシン種および3−ニトロ誘導体がそれぞれ形成される。カルボキシル側基(アスパルチルまたはグルタミル)が、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−(4−エチル)カルボジイミドまたは1−エチル−3(4アゾニア4,4−ジメチルペンチル)カルボジイミドなどのカルボジイミド(R’−N−C−N−R’)との反応により選択的に修飾されうる。さらに、アスパルチルおよびグルタミル残基が、アンモニウムイオンとの反応によりアスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換される。グルタミニルおよびアスパラギニル残基は、対応するグルタミルおよびアスパルチル残基に脱アミド化(deamidated)されうる。他の修飾には、プロリンおよびリジンの水酸化、セリルまたはスレオニル残基の水酸基のリン酸化、リジン、アルギニン、およびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化(T. E. Creighton, 1983, Proteins: Structure and Molecule Properties, W.H. Freeman & Co., San Francisco, pp. 79-86)、N末端アミンのアセチル化、ならびにいくつかの例ではC末端カルボキシル基のアミド化が含まれる。
【0132】
本発明は、アッセイおよびアッセイ用キットでの使用のための、遊離形態であるかまたはタンパク質もしくは固体粒子などの担体分子に連結されたMNTFペプチド類似体、ならびに標識またはトレーサー、例えばビオチンまたはフルオレセインイソチオシアネートに連結された修飾ペプチドをさらに提供する。
【0133】
MNTF1ペプチド断片の水不溶性支持マトリックスに対する架橋が、1,1ビス(ジアゾアセチル)2フェニルエタン、グルタールアルデヒト、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、例えば、3,3’−ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)などのジスクシンイミジルエステル、およびビス−N−マレイミド−1,8−オクタンなどの二機能性マレイミドを含む、4−アジドサリチル酸とのエステル、ホモ二機能性(homobifunctional)イミドエステルを含む、当該技術分野で周知の二機能性剤(bifunctional agent)によって行われうる。メチル−3−[(p−アジドフェニル)ジチオ]プロピオイミデート(propioimidate)などの二機能性剤は、光の存在下で架橋を形成可能で光活性化可能な中間体を生成する。あるいは、シアノゲンブロミドで活性化された炭水化物などの反応性の水不溶性マトリックスが、タンパク質の固定化に用いられうる。
【0134】
MNTF1ペプチド断片の第2のMNTF1ペプチド断片を含む第2のタンパク質に対する架橋が、本明細書中に記載の二機能性試薬を用いて行われうる。別の選択肢では、スペーサー、例えばジチオール基またはジアミノ基または多様なアミノ酸残基、例えばグリシンが挿入される。スペーサーは、ホモまたはヘテロ二機能性架橋剤、例えばヘテロ二機能性架橋剤のN−(4−カルボキシ−シクロヘキシル−メチル)−マレイミドでもありうる。
【0135】
より長いペプチドまたはポリペプチド、例えば融合タンパク質は、標準の組換えDNA技術によって生成されうる。例えば、MNTF1ペプチド断片をコードするDNA断片が異種タンパク質を既に有する市販の発現ベクター内にクローニングされる結果、MNTF1ペプチド断片がインフレームで異種タンパク質に融合されうる。
【0136】
特定の実施態様では、本明細書中に記載のMNTF1ペプチドおよび/または成分をコードする核酸が用いられることで、例えば本発明の様々な組成物および方法におけるペプチドがインビトロまたはインビボで生成されうる。例えば、特定の実施態様では、MNTF1ペプチドをコードする核酸は、例えば組換え細胞内のベクターの成分である。核酸を発現させることで、MNTF1ペプチド配列を含有するペプチドまたはポリペプチドが生成されうる。ペプチドまたはポリペプチドは、細胞から、あるいは細胞の一部としてまたは細胞内部で分泌されうる。
【0137】
X.化合物スクリーニング
別の実施態様では、MNTFペプチドの細胞内シグナル伝達経路に関与する、MNTFペプチドまたはタンパク質の発現のレベルを改変する化合物が同定される。特定の実施態様では、これらの化合物は、本明細書中に記載の様々な神経障害を治療するために標的化される。
【0138】
本明細書に記載され、当該技術分野で既知の神経細胞を用いるそれに続く試験により、神経保護のアゴニストおよびアンタゴニストが区別され、かつ化合物の有効性が評価されうる。
【0139】
さらに、2006年11月10日に出願され”Methods of Treating Neuronal Disorders using MNTF peptides and analogues thereof”と題される同時係属出願U.S.S.N. (出願番号未通知)(その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載の場合を含む、当該技術で認められた動物細胞培養物の疾患および障害モデル系における神経障害を治療する化合物の能力に基づき、本明細書中に記載のスクリーニング手順により同定された化合物が区別され、かつ化合物の有効性が評価されうる。
【0140】
化合物および天然抽出物のライブラリーを試験する多数の薬剤スクリーニングアッセイでは、所定の期間中に検討される化合物の数を最大にするため、高スループットアッセイが望ましい。例えば精製または部分精製タンパク質を用いて得られる、無細胞系内で実施されるアッセイが、試験化合物によって媒介される分子標的中での迅速な発生および改変の比較的容易な検出が可能であるようにもたらされる点で「一次」スクリーンとして好ましい場合が多い。さらに、試験化合物の細胞毒性および/またはバイオアベイラビリティの効果は、インビトロ系にて一般に無視され、その代わりアッセイは、受容体タンパク質との結合親和性の改変にて明示されうるものとして主に薬剤の分子標的に対する効果に重点が置かれうる。
【0141】
したがって、別の態様では、運動ニューロンの成長または生存の促進に有用な化合物を同定する方法が提供される。一実施態様では、本方法は、i)候補化合物を含有する試料を調製する工程と、ii)細胞を前記試料に接触させる工程と、iii)シグナル伝達経路に関与する化合物の発現または活性が調節されるか否かを判定する工程と、iv)試料が運動ニューロンの成長または生存を促進可能であるか否かを判定する工程と、を含む。特定の実施態様では、本方法は、候補化合物を含有する試料が、インビトロまたはインビボでのインスリン受容体のTyr972およびTyr1162/1163の自己リン酸化を刺激するか否かを判定する工程をさらに含む。他の実施態様では、本方法は、候補化合物を含有する試料がMNTFシグナル伝達経路を調節するか否かを判定する工程をさらに含む。他の実施態様では、本方法は、候補化合物を含有する試料がインスリン受容体、IGF−1受容体、IGF−2受容体、Shh、Akt、Bad(細胞死のbcl−2アンタゴニスト)、PI(3,4,5)P3依存性キナーゼ1(PDK1)、Bax、p53遺伝子産物、pp60−Src、JAK2、一酸化窒素シンターゼ(NOS)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK)、カスパーゼ、PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ)、およびRasから選択される1種もしくは複数種のタンパク質の発現または活性を調節するか否かを判定する工程をさらに含む。他の実施態様では、本方法は、候補化合物を含有する試料がMNTF類似体によって調節されるかまたはその代わりMNTF類似体を調節する(例えば活性、発現など)かを判定する工程をさらに含む。別の態様では、本発明は、運動ニューロンの成長または生存を促進する方法かまたは本明細書中に記載のスクリーニング手順によって同定された化合物の投与により神経障害を治療するための方法を提供する。
【0142】
典型的なスクリーニングアッセイでは、目的とする化合物は、一般にMNTFペプチドに結合可能な条件下でMNTF結合タンパク質(例えばMNTFペプチド受容体を発現する細胞)およびMNTFペプチドを含有する混合物と接触される。次いで、混合物に対し、試験化合物を含有する組成物が添加される。受容体/MNTFペプチド複合体の検出および定量は、受容体タンパク質とMNTFペプチドとの間での複合体形成の阻害(または増強)時の試験化合物の有効性を判定するための手段を提供する。対照アッセイについても実施することで比較のためのベースラインを提供可能であり、そこでは単離および精製MNTFペプチドが受容体タンパク質に添加され、かつ試験化合物の非存在下で受容体/MNTFペプチド複合体の形成が定量される。
【0143】
種々の技術により、MNTFペプチドとMNTFペプチドとの間の複合体の形成が検出されうる。例えば、複合体の形成の調節については、イムノアッセイまたはクロマトグラフ検出により、例えば放射性標識、蛍光標識、または酵素標識されたMNTFペプチドなどの検出可能に標識されたタンパク質を用いて定量されうる。無細胞アッセイにおいては、MNTFペプチドまたはMNTFペプチド結合タンパク質のいずれかを固定化することでタンパク質のうちの一方の複合化していない形態からの受容体/MNTFペプチド複合体の分離を促進するとともにアッセイの自動化に対応することが、典型的には望ましいことになる。例えば、タンパク質のマトリックスへの結合を可能にするドメインを加えた融合タンパク質が提供されうる。例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/受容体(GST/受容体)融合タンパク質が、グルタチオンセファロースビーズ(シグマケミカル(Sigma Chemical)、セントルイス(St.Louis)、ミズーリ州)またはグルタチオンで誘導体化されたマイクロタイタープレートの上に吸着可能であり、次いでそれらはMNTFペプチド、例えば35Sで標識されたMNTFペプチド、および試験化合物と結合され、複合体形成をもたらす条件下、例えば塩およびpHにおける生理的条件下で(わずかによりストリンジェントな条件が望まれる場合があるが)インキュベートされる。インキュベーション後、ビーズの洗浄により任意の未結合のMNTFペプチドが除去され、マトリックスビーズに結合された放射性標識が直接測定されるか(例えばビーズがきらめくように配置される)または受容体/ヘッジホッグ複合体の解離後に上清中で測定される。あるいは、複合体は、ビーズから解離され、SDS−PAGEゲルにより分離され、ビーズ画分中に見出されるMNTFペプチドのレベルは標準の電気泳動技術を用いてゲルから定量されうる。
【0144】
マトリックス上にタンパク質を固定化するための他の技術についてもアッセイにて使用可能である。例えば、MNTFペプチドタンパク質の可溶性部分が、ビオチンとストレプトアビジンの複合体を用いて固定化されうる。例えば、ビオチン化受容体分子が、当該技術分野で周知の技術(例えば、ビオチン化キット、ピアス・ケミカル(Pierce Chemical)、ロックフォード(Rockford)、イリノイ州)を用いてビオチン−NHS(N−ヒドロキシ−スクシニミド)から調製され、ストレプトアビジンでコーティングされた96ウェルプレート(ピアス・ケミカル(Pierce Chemical))のウェル内で固定化されうる。あるいは、MNTFペプチドと反応性があるがヘッジホッグ結合と干渉しない抗体がプレートのウェルに被覆され、かつ受容体は抗体複合体によりウェル内に捕捉されうる。上記のように、MNTFペプチドおよび試験化合物の調製物がプレートの受容体を提示するウェル内でインキュベートされ、ウェル内に捕捉される受容体/ヘッジホッグ複合体の量が定量されうる。GSTで固定化された複合体についての上記の方法に加え、かかる複合体を検出するための典型的な方法には、MNTFペプチドと反応性があるかまたは受容体タンパク質と反応性があり、MNTFペプチドとの結合に対して競合する抗体を用いる複合体の免疫検出、ならびにMNTFペプチドに関連した酵素活性の検出に依存する酵素結合アッセイが含まれる。後者の例においては、酵素は化学的に複合されうるかまたはMNTFペプチドとの融合タンパク質として提供されうる。例えば、MNTFペプチドは、化学的に架橋されうるかまたはアルカリホスファターゼと遺伝的に融合されうる。複合体内に捕捉されたMNTFペプチドの量は、酵素の色原性基質、例えばパラニトロフェニルホスフェートで評価されうる。同様に、MNTFペプチドおよびグルタチオン−S−トランスフェラーゼを含有する融合タンパク質が提供され、かつ複合体形成が1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンを用いるGST活性の検出により定量されうる(Habig et al., J Biol Chem, 249:7130 (1974))。複合体内に捕捉されたタンパク質のうちの1つを定量するための免疫検出においては、タンパク質に対する抗体、例えば抗−MNTFペプチド抗体が用いられうる。あるいは、複合体内で検出されるべきタンパク質は、MNTFペプチドまたはMNTFペプチド配列に加え、抗体が容易に使用されうる場合(例えば商用ソースからの入手)の第2のポリペプチドを含む融合タンパク質の形態で「エピトープ標識」されうる。例えば、上記のGST融合タンパク質は、GST部分に対する抗体を用いて結合を定量するためにも用いられうる。他の有用なエピトープ標識として、c−mycからの10個の残基配列を含むmyc−エピトープ(例えば、 Ellison et al., J Biol Chem 266:21150-21157 (1991)を参照)、ならびにpFLAG系(インターナショナル・バイオテクノロジーズ(International Biotechnologies,Inc.))またはpEZZ−プロテインA系(ファルマシア(Pharmacia)、ニュージャージー州)が挙げられる。
【0145】
XI.組成物
本発明により用いられる医薬組成物は、好ましくは医薬的に許容できる希釈剤および/または担体とともに本発明のMNTFペプチド類似体の1種もしくは複数種を含有する。適切な担体/希釈剤については、当該技術分野で周知であり、生理食塩水または他の無菌の水性媒体を含み、それは場合により緩衝塩および防腐剤、または糖類、澱粉、塩あるいはそれらの混合物などの追加成分を含む。
【0146】
本発明によるMNTFペプチドを含有する組成物は、投与のプロトコルおよび/または患者の需要に適する任意の適切な形態での使用として提供されうる。例えば、本発明に関しては、有効成分は、移植に先立ちインビトロでまたは移植された幹細胞またはその誘導体の部位またはその近傍で内部的にインビボで適用されうる。
【0147】
本発明は、幹細胞、神経前駆細胞、分化した神経細胞および幹細胞に由来する運動ニューロンの樹立および増殖にとって有用な培地をさらに提供する。培地は、幹細胞の分化および幹細胞由来の運動ニューロンの長期培養に特に適する。
【0148】
本発明の細胞培地は、モルフォゲンおよび/または成長因子が補充されることが望ましく、培養にとって望ましい別々の細胞タイプにより最適化される。かかる補充および最適化は当該技術分野の通常の技術範囲内である。一部の好ましい実施態様では、本発明は、以下の概算レベル(すなわちある有効数字以内)での以下のモルフォゲンおよび/または成長因子、すなわち0.001〜1μMでのRA、0.001〜1μMでのShhまたはShhアゴニスト、および/または0.01〜250μg/mlでの1種もしくは複数種のMNTFペプチド類似体のいずれかまたは全部が補充されうる細胞培地である。
【0149】
本発明の製剤は、任意の原料として、医薬的に許容できる担体、希釈剤、可溶化剤または乳化剤、および当該技術分野で使用可能なタイプの塩を含みうる。かかる物質の例として、生理的に緩衝化した食塩水などの通常の食塩水および水が挙げられる。本発明の製剤において有用な担体および/または希釈剤の特定の非限定例として、水およびpH7.0〜8.0のリン酸塩緩衝化生理食塩水などの生理的に許容できる緩衝化食塩水が挙げられる。適切な医薬担体は、限定はされないが、滅菌水、食塩水(リンガー液など)、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、アミロースもしくは澱粉などの炭水化物、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを含む。医薬製剤は、無菌化され、必要に応じ、活性化合物との反応で害を及ぼさない助剤、例えば、潤滑剤、防腐剤、安定剤、浸潤剤、乳化剤、浸透圧に作用するための塩、緩衝液、着色物質、および/または芳香物質などと混合されうる。それらはまた、必要に応じ、他の活性物質、例えば酵素阻害剤との結合により、代謝分解が低減されうる。
【0150】
本明細書で提供される化合物が医薬組成物中に調合される場合があり、ペプチドに加え、医薬的に許容できる担体、増粘剤、希釈剤、緩衝液、防腐剤、界面活性剤、中性もしくは陽イオン性脂質、脂質複合体、リポソーム、透過促進剤(penetration enhancer)、担体化合物および他の医薬的に許容できる担体または賦形剤などを含みうる。
【0151】
医薬組成物は、一般に治療目的で投与される場合に調合される。医薬組成物は、インターフェロン、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔薬などの1種もしくは複数種の有効成分も含みうる。非経口投与用製剤は、緩衝液、リポソーム、希釈剤および他の適切な添加剤も含有しうる無菌水溶液を含みうる。本明細書で提供されるペプチドを含有する医薬組成物は、ペプチドの栄養送達を促進するため、透過促進剤を含みうる。透過促進剤は、5つの広範なカテゴリ、すなわち脂肪酸、胆汁塩、キレート剤、界面活性剤および非界面活性剤のうちの1つに属するものとして分類されうる(Lee et al., Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 8, 91-192 (1991); Muranishi, Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 7, 1-33 (1990))。1つ以上のこれらの広範なカテゴリからの1種もしくは複数種の透過促進剤が含められうる。
【0152】
透過促進剤として作用する様々な脂肪酸およびそれらの誘導体は、例えば、オレイン酸、ラウリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、レシンレアート(recinleate)、モノオレイン(別称1−モノオレオイル−rac−グリセリン)、ジラウリン、カプリル酸、アラキドン酸、グリセリル1−モノカプレート、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−one、アシルカルニチン、アシルコリン、モノ−およびジ−グリセリドおよびそれらの生理学的に許容できる塩(すなわち、オレアート、ラウレート、カプレート、ミリステート、パルミテート、ステアレート、リノレアートなど)を含む。Lee et al., Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems page 92 (1991); Muranishi, Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 7, 1 (1990); El-Hariri et al., J. Pharm. Pharmacol. 44, 651-654 (1992))。
【0153】
胆汁の生理的役割は、脂質および脂溶性ビタミンの分散および吸収の促進を含む(Brunton, Chapter 38 In: Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, 9th Ed., Hardman et al. McGraw-Hill, New York, N. Y., pages 934-935 (1996))。様々な天然胆汁塩およびそれらの合成誘導体は透過促進剤として作用する。したがって、「胆汁塩」という用語は、胆汁の天然成分のいずれかならびにそれらの合成誘導体のいずれかを含む。
【0154】
1種もしくは複数種の透過促進剤を含有する複合製剤が用いられうる。例えば、胆汁塩を脂肪酸と併用し、複合製剤を作製することが可能である。キレート剤は、限定はされないが、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(disodium ethylenediaminetetraacetate)(EDTA)、クエン酸、サリチレート(例えば、サリチル酸ナトリウム、5−メトキシサリチル酸塩およびホモバニレート(homovanilate))、コラーゲンのN−アシル誘導体、ラウレス−9およびβ−ジケトンのN−アミノアシル誘導体(エナミン) (Lee et al., Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems page 92 (1991); Muranishi, Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 7, 1-33 (1990); Buur et al., J. Control Rel. 14, 43-51 (1990))を含む。キレート剤は、デオキシリボヌクレアーゼ阻害剤としても役立つというさらなる利点を有する。
【0155】
界面活性剤は、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテルおよびポリオキシエチレン−20−セチルエーテルを含む(Lee et al., Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems page 92 (1991)); およびFC-43などのパーフルオロケミカルエマルジョン(Takahashi et al., J. Pharm. Phamacol. 40, 252-257 (1988))。非界面活性剤は、例えば、不飽和環状尿素、1−アルキル−および1−アルケニルアザシクロ−アルカノン誘導体(Lee et al., Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems page 92 (1991));およびジクロフェナクナトリウム、インドメタシンおよびフェニルブタゾンなどの非ステロイド抗炎症剤(Yamashita et al., J. Pharm. Pharmacol.39, 621-626 (1987))を含む。
【0156】
典型的な医薬的に許容できる担体は、限定はされないが、結合剤(例えば、プレゼラチン化(pregelatinized)トウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど);充填剤(例えば、乳糖および他の糖類、微結晶性セルロース、ペクチン、ゼラチン、硫酸カルシウム、エチルセルロース、ポリアクリル酸塩またはリン酸水素カルシウムなど);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸、金属ステアリン酸塩、水素化植物油、トウモロコシ澱粉、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム塩など);分解剤(disintegrates)(例えば、澱粉、カルボキシメチルスターチナトリウム(sodium starch glycolate)など);または浸潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)を含む。
【0157】
本明細書で提供される組成物は、それらの当該技術で確立された使用レベルで従来より医薬組成物中に見出される他の付加成分をさらに含有しうる。したがって、例えば、組成物は、例えばかゆみ止め薬、アストリンゼン、局所麻酔薬または抗炎症剤など、追加の適合性の医薬的に活性のある原料を含有しうるか、あるいは、染料、香料、防腐剤、抗酸化剤、不透明剤、増粘剤および安定剤など、本発明の組成物における物理的に調合された様々な剤形に有用な追加原料を含有しうる。しかし、かかる原料は、添加される場合、本明細書で提供される組成物の成分の生物学的活性と過度に干渉するべきではない。
【0158】
化合物が患者に導入される方法にかかわらず、コロイド分散系が、ペプチドのインビボでの安定性を高め、かつ/またはペプチドを特定の器官、組織または細胞タイプに対して標的化するための送達媒体として用いられうる。コロイド分散系は、限定はされないが、巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフィア、ビーズおよび水中油エマルジョン、ミセル、混合ミセル、リポソームおよび特徴不明の(uncharacterized)構造の脂質:ペプチド複合体を含む脂質に基づく系を含む。好ましいコロイド分散系は複数のリポソームである。リポソームは、二重層の配置で並べられた脂質からなる1つもしくは複数の外層で囲まれた水性コアを有する微細な球体である(一般にはChonn et al., Current Op. Biotech. 6, 698-708 (1995)を参照)。
【0159】
特定の実施態様では、MNTFペプチドおよびMNTF類似体が、1種もしくは複数種のポリマーを含む生体内分布を導く部分に混和されるかまたはそれと併用されることで、MNTFペプチドまたはMNTF類似体または本明細書で提供される他の化合物における所望の標的の近傍に対する生体内分布が誘導されうるかあるいはその持続的放出が可能になりうる。活性剤として、例えば、治療的有効性の増大、生体内分布およびバイオアベイラビリティの最適化、組織損傷の低減、治癒の促進、または患者の快適さの増大に有用な化合物が挙げられ、典型的な活性剤には、血管作用薬、麻酔薬、虚血用治療薬、成長因子およびサイトカインが含まれる。あるいは、マイクロ粒子(microparticulate)またはナノ粒子(nanoparticulate)の高分子ビーズ剤形が本明細書で提供される組成物中で用いられうる。本明細書で提供される化合物は、活性剤と併用され、かつ多数のリガンドまたはそれに付着された抗リガンド分子とともに微粒子剤形でカプセル化されうる。
【0160】
このようにして、MNTFペプチドおよびMNTF類似体および本明細書で提供される他の化合物が単独でまたは他の活性剤と併用してその部位にて長時間放出されることで持続的な治療効果がもたらされる。徐放製剤は、本発明の実施において有用な他の活性剤、例えば成長因子、サイトカインなどに関しても有用である。本発明の微粒子製剤からの活性剤の放出が、拡散と微粒子マトリックスの浸食の双方の結果として生じうる。生分解速度は、活性剤の放出速度に直接影響を与える。
【0161】
特定の実施態様では、MNTFペプチド、MNTF類似体、および本発明の化合物の徐放される非経口製剤が、インプラント、油性注射剤(oily injection)、または微粒子系として作製されうる。微粒子系は、ミクロスフィア、マイクロ粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフィア、およびナノ粒子を含む。マイクロカプセルは、中心コアとして治療タンパク質を含有する。ミクロスフィア内では治療薬は粒子全体に分散される。リポソームについては、徐放ならびに捕捉された薬剤の薬剤ターゲティングにおいて用いられうる。
【0162】
特定の実施態様では、MNTFペプチドおよびMNTF類似体を含む本発明の医薬組成物は、局在、局所、経鼻、経口、胃腸、気管支内、膀胱内、膣内、子宮内、皮下、筋肉内、関節周囲、関節内、脳脊髄液(ICSF)内、脳組織内(例えば頭蓋内投与)、脊髄内、傷内、腹腔内または胸腔内、あるいは全身、例えば直接的に静脈内、動脈内、門脈内または器官内に投与されうる。
【0163】
当該技術分野で既知のように、種々のカテーテルおよび送達経路を用い、冠動脈内送達を行うことが可能である。例えば、本発明での使用に適する種々の多目的カテーテルおよび改良されたカテーテルは、アドバンスド・カルジオバスキュラー・システムズ(Advanced Cardiovascular Systems)(ACS)、ターゲット・セラピューティクス(Target Therapeutics)およびコルディス(Cordis)などの供給業者から入手可能である。また、心筋への送達が冠動脈への直接的注射(それは現在では最も好ましい)により行われる場合、多数のアプローチを用い、当該技術分野で既知のようにカテーテルを冠動脈に導入することが可能である。例として、カテーテルを大腿動脈に簡易に導入し、腸骨動脈および腹大動脈を通って冠動脈に逆向性(retrograde)に通すことができる。あるいは、カテーテルをまず上腕または頚動脈に導入し、冠動脈に逆行性に通すことができる。これらおよび他の技術の詳細な説明は当該技術分野で見出されうる(例えば、 Topol, E J (ed.), The Textbook of Interventional Cardiology, 2nd Ed. (W.B. Saunders Co. 1994); Rutherford, R B, Vascular Surgery, 3rd Ed. (W.B. Saunders Co. 1989); Wyngaarden J B et al. (eds.), The Cecil Textbook of Medicine, 19th Ed. (W. B. Saunders, 1992);and Sabiston, D, The Textbook of Surgery, 14th Ed. (W. B. Saunders, 1991)を参照)。
【0164】
本明細書で提供される化合物は非経口投与されうる。特定の化合物が医薬的に許容できる担体または希釈剤と結合されることで医薬組成物が生成されることは時として好ましい。適切な担体および希釈剤は、等張性食塩水、例えばリン酸塩緩衝化生理食塩水を含む。組成物は、非経口、筋肉内、脳内、静脈内、皮下、または経皮投与のために調合されうる。投与される製剤はかかる作用物質を含有しうる。これら作用物質の例として、カチオン剤(例えばリン酸カルシウムおよびDEAE−デキストラン)およびリポフェクタント(lipofectant)(例えばlipofectam(商標)およびtransfectam(商標))が挙げられる。
【0165】
局所投与用製剤は、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ジェル、ドロップ、坐剤、スプレー、液体およびパウダーを含みうる。従来の医薬担体、水性、粉末または油性基材、増粘剤などが必要であるかまたは望ましい場合がある。コーティングされたグローブ、コンドームなども有用でありうる。経口投与用組成物は、パウダーまたは顆粒、水中もしくは非水性媒体中の懸濁液または溶液、カプセル、サシェあるいはタブレットを含む。増粘剤、香料、希釈剤、乳化剤、分散剤または結合剤が望ましい場合がある。非経口投与用組成物は、緩衝液、希釈剤および他の適切な添加剤も含有しうる無菌水溶液を含みうる。いくつかの場合、治療計画の有効性を高めるため、他の従来の治療方針とともにペプチドで患者を治療することはより有効でありうる。本明細書で用いられる「治療計画」という用語は、治療方針、苦痛緩和方針および予防方針を包含することを意味する。
【0166】
投与については、数日から数か月続く治療の経過とともに、あるいは治療が有効になるかまたは病状の低減が得られるまで、治療されるべき病状の重症度および応答性を含む多数の因子に依存しうる。本明細書で提供される化合物の毒性および治療有効性は、細胞培養物または実験動物における標準の薬学的手順により判定されうる。例えば、LD50(集団の50%に対する致死用量)およびED50(集団の50%における治療的有効用量)の判定が目的である。毒性効果と治療効果の間の用量比は治療指数であり、それはLD50/ED50比として表されうる。大きい治療指数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物が用いられうる一方、非感染細胞を損傷する可能性を最小にすることで副作用を低減するため、かかる化合物を罹患組織の部位に標的化する送達系を設計することに配慮すべきである。
【0167】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにて用いられる用量の範囲の策定において用いられうる。かかる化合物の用量は、好ましくは毒性がほとんどないED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、用いられる剤形および用いられる投与の経路に応じてこの範囲内で変化しうる。本発明の方法にて用いられる任意の化合物においては、治療有効量は細胞培養アッセイから最初に評価されうる。用量を動物モデルにて調合することで、細胞培養にて測定されるIC50(すなわち徴候の最大半量の阻害を行う試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲が得られうる。かかる情報を用い、ヒトにて有用な用量をより正確に判定することが可能である。血漿におけるレベルは、例えば高性能液体クロマトグラフィーにより測定可能である。投与スケジュールは、患者の体内での薬剤の蓄積の測定値から計算可能である。用量はMNTFペプチドおよびMNTF類似体を含む別々の化合物の相対効力に応じて変化する場合があり、かつ一般にインビトロおよびインビボでの動物モデルで有効であることが見出されたEC50に基づいて評価されうる。一当業者は、好ましい用量がMNTFペプチドが投与される方法および場所(例えばインビトロ、インビボ、局所、全身など)に応じて変化することになると理解するであろう。
【0168】
例えば、一態様では、MNTFペプチドおよびMNTF類似体を投与することで、約0.01マイクログラム/ml(μg/mL)〜約1mg/ml、約0.1μg/mL〜約50μg/mL、約0.1μg/mL〜約150μg/mL、約1μg/mL〜約200μg/mL、および約0.1μg/mL〜約500μg/mLが得られる場合があり、ここには標的部位(例えばES幹細胞の細胞培養物内)でのこれらの範囲、最終濃度内の任意の範囲が含まれる。
【0169】
他の適切な用量は、投与の経路に応じ、例えば約0.1ugから最大で約1gの総用量で変化しうる。特定の用量および送達の方法に関する手引きが文献で提供されており、それは一般に当業者による使用が可能である。当業者は、タンパク質よりはヌクレオチドにおける異なる製剤またはそれらの阻害剤を使用することになる。同様に、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、および本明細書で提供される化合物の送達は、特定の細胞、条件、および位置に特異的となる。一般に、用量は一般に0.01mg/kg〜1000mg/kg体重、およびより典型的には例えば0.1mg/kg〜300mg/kg体重の範囲であり、かつ日、週、月もしくは年当たり1回もしくは複数回投与されるか、それどころか2〜20年の期間中に1回もしくは複数回投与されうる。特定の実施態様では、該用量は手術直後から24時間の間に投与されうる。別の実施態様では、該用量は2時間〜最大で24時間の間に投与される。長時間作用型の組成物は、特定の製剤の半減期およびクリアランス速度に応じて3〜4日毎、週毎、または隔週毎に投与されうる。当業者は、体液中または組織内での測定された薬剤の滞留時間および濃度に基づいて投与における反復頻度を容易に見積もることができる。治療の奏功後、患者に病状の再発を予防するための維持療法を受けさせることが望ましい場合があり、その場合、選択された化合物は1日に1回もしくは複数回から20年毎に1回に0.01mg/kg〜100mg/kg体重の範囲の維持用量で投与される。特定の症状の治療または予防では、適切な用量レベルは一般に1日当たり約0.001〜100mg/kg患者体重となり、それは単回または複数回の用量で投与されうる。適切な用量レベルは1日当たり約1〜約40mg/kgでありうる。特定の実施態様では、MNTFペプチドおよびMNTFペプチド類似体を含む本明細書で提供される化合物は、損傷部位全体で、約1マイクロモル〜約1ミリモル、約10マイクロモル〜約500マイクロモル、または約30マイクロモル〜約300マイクロモルの濃度、および約25マイクロモル〜約300マイクロモルの最終濃度をインビボで得るための量で投与され、かつそれは、損傷部位全体で、約25マイクロモル、または約160マイクロモル、または約300マイクロモルの最終濃度、およびさらにより典型的には約1マイクロモル〜約100マイクロモルを含む。
【0170】
本明細書中に記載の化合物は、診断、治療、予防にて、かつ研究試薬としてもキット中でも用いられうる。目的とする化合物(例えばMNTFペプチドおよびMNTF類似体)を検出するための手段の提供は日常的に行われうる。かかる提供には、酵素複合体、放射性標識または任意の他の適切な検出系が含まれうる。目的とする化合物の有無を検出するためのキットについても構築可能である。
【0171】
本発明の化合物は研究目的でも用いられうる。したがって、ペプチドによって示される特異的なハイブリダイゼーションは、アッセイ、精製、細胞産物の調製にて、かつ当業者によって認められうる他の方法にて用いられうる。
【0172】
本明細書で用いられる科学技術用語は、他に定義されない限り、本発明が関係する当業者によって一般に理解されている意味を有する。当業者に既知の様々な方法については本明細書中で参照される。参照対象のかかる既知の方法を示す出版物および他の材料は、あたかも完全に示されるものとしてその全体が参照により本明細書中に援用される。組換えDNA技術の一般的原理を示す標準の参考資料は、Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Planview, N.Y. (1989) および Molecular Cloning: A Laboratory Manual, third edition (Sambrook and Russel, 2001)(本明細書中で併せてかつ個別に「Sambrook」と称される);McPherson, M. J., Ed., Directed Mutagenesis: A Practical Approach, IRL Press, Oxford (1991); Jones, J., Amino Acid and Peptide Synthesis, Oxford Science Publications, Oxford(1992); Austen, B. M. and Westwood, O. M. R., Protein Targeting and Secretion, IRL Press, Oxford (1991); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait, ed., 1984); Animal Cell Culture (R. I. Freshney, ed., 1987); Handbook of Experimental Immunology (D. M. Weir & C. C. Blackwell, eds.); Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. M. Miller & M. P. Calos, eds., 1987); Current Protocols in Molecular Biology (F. M. Ausubel et al., eds., 1987(2001年までの追補含む)); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994); Current Protocols in Immunology (J. E. Coligan et al., eds., 1991); The Immunoassay Handbook (D. Wild, ed., Stockton Press NY, 1994); Bioconjugate Techniques (Greg T. Hermanson, ed., Academic Press, 1996); Methods of Immunological Analysis (R. Masseyeff, W. H. Albert, and N. A. Staines, eds., Weinheim: VCH Verlags gesellschaft mbH, 1993), Harlow and Lane (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, New York, and Harlow and Lane (1999) Using Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (一緒にかつ個別に本明細書でHarlow およびLaneと称される), Beaucage et al. eds., Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry John Wiley & Sons, Inc., New York, 2000); および Agrawal, ed., Protocols for Oligonucleotides and Analogs, Synthesis and Properties Humana Press Inc., New Jersey, 1993); Teratocarcinomas and embryonic stem cells: A practical approach (E. J. Robertson, ed., IRL Press Ltd. (1987); Guide to Techniques in Mouse Development (P. M. Wasserman et al. eds., Academic Press (1993); Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro (M. V. Wiles, Meth. Enzymol. 225:900 (1993); Properties and uses of Embryonic Stem Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy (P. D. Rathjen et al., Reprod. Fertil. Dev., 10:31 (1998)); CNS Regeneration: Basic Science and Clinical Advances, M. H. Tuszynski & J. H. Kordower, eds., Academic Press, (1999)を含む。本発明の実施において有用でありうる特定の技術は、様々な特許および特許出願にて記載されており、脳組織から得られる多能性神経幹細胞を報告する米国特許第5,851,832号、新生の脳半球からの神経芽細胞の生成について報告する米国特許第5,766,948号、哺乳類の神経堤幹細胞の使用について報告する米国特許第5,654,183号および第5,849,553号、哺乳類の多能性CNS幹細胞の培養物からの分化したニューロンのインビトロでの生成を報告する米国特許第6,040,180号、神経上皮幹細胞、オリゴ樹状細胞−星状細胞前駆体、および系統に制限された神経前駆体の生成および単離を報告する国際公開第98/50526号および国際公開第99/01159号、ならびに胚性前脳(embryonic forebrain)から得られ、かつグルコース、トランスフェリン、インスリン、セレニウム、プロゲステロン、および数種の他の成長因子を含有する培地とともに培養される神経幹細胞を報告する米国特許第5,968,829号を含む。
【0173】
当業者に既知の任意の適切な材料および/または方法が本発明の実施にて用いられうるが、非限定の好ましい材料および/または方法が本明細書中で記載される。
【0174】
本発明は、例として提供されるものであって限定目的ではない以下の実施例に関する特定の態様において理解されうる。以下の実施例において参照される材料、試薬などは、他に断らない限り、商用的供給源から入手可能である。
【実施例】
【0175】
実施例1
ES細胞の運動ニューロンへの分化
A.材料および方法
1.胚性幹(ES)細胞培養物
ES細胞は、運動ニューロン表現型の選択時にはHB9−GFP−トランスジェニックマウスおよび緑色蛍光に由来するものであった[Wichterle, H. et al. (2000) Cell 110, 385-397、参照により本明細書中に援用される]。マウスES細胞を、マウスLIF(ケミコン(Chemicon))の存在下で増殖および未分化状態で維持した。ES細胞をマイトマイシンで処理したマウス初期胚性線維芽細胞のフィーダー層上で培養した。
【0176】
2.材料
レチノイン酸(RA)をシグマ(Sigma)(R−2625)から入手した。ソニックヘッジホッグ(Shh)アゴニストHh−Ag1.3をクリス(Curis,Inc.)(ケンブリッジ(Cambridge)、マサチューセッツ州)から入手した。MNTF 6−mer、7−mer、10−mer、11−mer、21−merおよび33−merペプチドを、ジェナボン・バイオファーマシューティカルズ・エルエルシー(Genervon Biopharmaceuticals LLC)(モンテベロ(Montebello)、カリフォルニア州)によって提供されたアミノ酸配列情報に従って固相合成によりペプチドを生成するシーエスバイオ(CS Bio Company)(メンロパーク(Menlo Park)、カリフォルニア州)から入手した。
【0177】
3.分化プロトコル
マウスES細胞を線維芽細胞のフィーダー層から分離した。これを、細胞混合物をトリプシン化して、0.1%ゼラチンでコーティングした細胞培養フラスコ上に蒔くことにより行った。線維芽細胞をゼラチン上に特異的に付着させることで、浮遊ES細胞の純粋な集団が残存した。浮遊ES細胞を回収し、分化培地内に再懸濁した。この期を「d−1」と称した。ES細胞は胚様体(EB)を形成し、24時間後(「d0」)にRA(1μM)+MNTFまたはRA(1μM)+Shhアゴニスト(1μM)に暴露した。MNTFペプチド(全部で6つの形態)を0.1μg/ml〜150μg/mlの最終濃度範囲で試験した。
【0178】
分化アッセイを「d−1」期から6日間実施した。
【0179】
B.結果
図2中の光学顕微鏡写真は、HB9プロモーターの制御下でのeGFPの発現を示す。HB9の発現は、完全に分化した運動ニューロンに対するマーカーである。図2に示されるように、RAおよびMNTFの10−merまたは33−merのいずれかで処理したEBは、eGFPおよび緑色蛍光を、RAおよびShhアゴニストで処理したEBと同程度にまたはそれより多量に発現した。発明者らのデータは、本明細書中に提供されるMNTFの10−merおよび33−merペプチドが分化プロセスにて奏功したことを示す。蛍光の促進が0.1μg/ml程度に低い濃度のMNTFの10−merまたは33−merで検出可能であり、それはこの実験では約10μg/mlで最適であるように見られた。
【0180】
C.結論
MNTFの10−merおよび33−merは、低濃度のRAの存在下で分化した運動ニューロンへのES細胞の分化を誘導可能である。これらの知見は、インビトロまたはインビボでのES、神経前駆体または部分的に分化した神経細胞のMNTFの10−merまたは33−merによる処理により、幹細胞または幹細胞由来の移植物の運動ニューロン表現型への分化の誘導が可能であることを示唆している。
【0181】
実施例2
SHH阻害剤の存在下でのMNTFに誘導される分化
以下の例は、MNTFに誘導される分化のShh経路からの非依存性を示す。
【0182】
A.材料および方法
1.材料
スムーズンド受容体でShh経路を阻害するシクロパミン−KAAD[3−ケト−N−(アミノエチル−アミノカプロイル−ジヒドロシナモイル)シクロパミン]をカルビオケム(Calbiochem)から入手した。
【0183】
2.実験プロトコル
ES細胞を上記のように分化させ、0日目にRA+Shhアゴニスト;RA+Shhアゴニスト+シクロパミン−KAAD(5μM);RA+MNTF(10μg/ulで33mer);およびRA+シクロパミン−KAAD(5μM)+MNTF(10μg/ulで33mer)で処理した。阻害剤を他の成分の添加の1時間前に前処理した。
【0184】
3.アッセイ
分化の5日目、胚様体におけるGFP蛍光を確認したところ、それはES細胞の運動ニューロン表現型への分化を示していた。
【0185】
B.結果
シクロパミン−KAAD(5μM)は、ShhアゴニストのマウスES細胞に対するGFP蛍光効果を遮断したが、ES細胞のMNTFに誘導される分化を遮断しなかった。
【0186】
C.結論
これらの結果は、MNTF1が、ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路に非依存性の経路を介してES細胞の運動ニューロンへの分化を誘導することを示す。
【0187】
実施例3
MNTFに応答した、インスリン/IGF受容体の自己リン酸化
A.材料および方法
1.材料
インスリン受容体(IR)の非特異的な阻害剤であるHNMPA−(AM)3(ヒドロキシ−2−ナフタレニルメチルホスホン酸(naphthalenylmethylphosphonic acid)トリサセトキシメチル(trisacetoxymethyl)エステル)をアレキス・バイオケミカルズ(Alexis Biochemicals)から入手した。ウサギ(ポリクローナル)抗インスリン/インスリン成長因子−1受容体(IR/IGF1R)[pYpY1162/1163]リン酸化特異的抗体をバイオソース・インターナショナル(Biosource International)(カマリロ(Camarillo)、カリフォルニア州)から入手した。
【0188】
2.実験プロトコル
胚様体(EB)をRA(1μM)+MNTF 33mer(10μg/ml)またはRA(1μM)+MNTF 33mer(10μg/ml)+/−HNMPA−(AM)3(50nM)に暴露した。細胞を0、15分、30分、1時間、2時間および4時間の時点で回収した。
【0189】
3.ウエスタンブロット
細胞を上記のように回収した[Barber, A.J. et al., (2001) J. Biol. Chem. 276, 32814-32821]。タンパク質濃度をピアス(Pierce)BCA試薬で測定し、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動前に全試料が等しいタンパク質量になるように調節した。
【0190】
製造業者の指示または標準技術に従い、細胞溶解液をIR/IGFR1のホスホチロシン1162−1163に対するポリクローナル抗体で免疫ブロットした。タンパク質バンドを化学蛍光の促進により検出した。化学蛍光免疫ブロットの促進におけるデンシトメトリー分析をImageQuant(モレキュラー・ダイナミックス(Molecular Dynamics)、サニーベール(Sunnyvale)カリフォルニア州)を用いて行った。
【0191】
B.結果
図3は、MNTF 33merで処理した細胞内でのIR/IGF−Rの自己リン酸化およびIR阻害剤での処理の15分以内における自己リン酸化の低下を示す。
【0192】
C.結論
MNTF1処理は、IR/IGF−R媒介性シグナル伝達経路の活性化を開始する。
【0193】
実施例4
MNTF類似体は幹細胞由来の運動ニューロンの生存を促進する
ES由来の運動ニューロンの生存が、NT3、BDNF、CNTFおよびGDNFなどの神経栄養因子に依存することが他者により示されている。例えば、参照により本明細書中に援用される、米国特許出願第10/196,882号を参照のこと。以下の例は、MNTFペプチドを用いて幹細胞由来の運動ニューロンの生存がどのように促進され得るかについて開示する。
【0194】
A.材料および方法
1.材料
レチノイン酸(RA)をシグマ(Sigma)から入手した(R−2625)。ソニックヘッジホッグ(Shh)アゴニストHh−Ag1.3をクリス(Curis,Inc.)(ケンブリッジ(Cambridge)、マサチューセッツ州)から入手した。MNTF 6−mer、7−mer、10−mer、11−mer、21−mer、および33−merペプチドを、ジェナボン・バイオファーマシューティカルズ・エルエルシー(Genervon Biopharmaceuticals LLC)(モンテベロ(Montebello)、カリフォルニア州)によって提供されたアミノ酸配列情報に従って固相合成法によりペプチドを生成するシーエスバイオ(CS Bio Company)(メンロパーク(Menlo Park)、カリフォルニア州)から入手した。GDNFおよびNT3はアールアンドディー・システムズ(R&D Systems)(ミネアポリス(Minneapolis)、ミネソタ州)から入手可能であり、dbcAMPはロシェ・モレキュラー・バイオケミカルズ(Roche Molecular Biochemicals)(インディアナポリス(Indianapolis)、インディアナ州)から入手可能である。
【0195】
GDNF、dbcAMP、NT3
2.実験プロトコル
マウス胚性幹(ES)細胞をRAおよびHgアゴニスト(クリス(Curis,Inc.))の存在下で分化させた。4日目、分化した胚様体を0.05%トリプシンまたはコラゲナーゼおよびディスパーゼ(PBS中1mg/ml)で部分的に解離させ、PLL−ラミニンおよびマトリゲルでコーティングされたカバースリップ上に蒔いた。
【0196】
次いで5日目に、解離された培養物を、GDNF(10ng/ml)、異なる用量(0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/mlおよび50μg/ml)でのMNTF(全部で7つの形態)、ならびにdbcAMP(1μM)、NT3(10pg/ml)で処理した。
【0197】
3.アッセイ
ニューロンおよびその軸索を、HB9プロモーターから発現されたGFPにより発せられる蛍光の利用により同定した。神経突起伸長は、6日目、8日目および10日目に上記のように定量可能である[Harper, J.M. et al. (2004) PNAS 101, 7123-7128、参照により本明細書中に援用される]。10日目に、生存可能性の百分率を既存の軸索を有する細胞の総数を計数することにより計算した。
【0198】
B.結果
MNTFの10merおよび33merは、解離された培養物を培養液中で最大で10日間維持するのに有効であった。図4中に見られるように、MNTF1ペプチドは、GDNFのような強力な運動ニューロン栄養因子と比較可能であり、かつ、生存の促進時にNT3およびdbcAMPと比較される場合により優れている可能性がある。
【0199】
C.結論
MNTFペプチド類似体は、ES細胞由来の運動ニューロン細胞培養物に対してさらなる成長サプリメントを提供し、インビボで移植されたES細胞の生存を促進しうる。
【0200】
実施例5
幹細胞の調製および維持
A.ヒト胚性幹細胞の調製
肺性幹細胞は、霊長動物種のメンバーの胚盤胞から単離されうる(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844(1995)参照)。ヒト胚性幹(hES)細胞は、Thomsonら(米国特許第5,843,780号; Science 282:1145 (1998); Curr. Top. Dev. Biol. 38:133 ff. (1998) および Reubinoff et al, Nature Biotech. 18:399 (2000)を参照)により記載された技術を用いてヒト胚盤胞細胞から調製されうる。例えば、ヒト胚盤胞は、インビボでのヒト着床前期胚(preimplantation embryo)から取得されうる。あるいは、インビトロでの受精(IVF)胚が用いられうるか、または1個の細胞のヒト胚が胚盤胞期まで発達されうる(Bongso et al., Hum Reprod 4: 706 (1989))。1つの適切なアプローチでは、胚はG1.2およびG2.2培地内で胚盤胞期まで培養される(Gardner et al., Fertil. Steril. 69:84 (1998))。透明帯は、プロナーゼ(シグマ(Sigma))への短時間の暴露により発達した胚盤胞から除去される。内部細胞塊は免疫手術により単離され、そこでは胚盤胞はウサギ抗−ヒト脾臓細胞の抗血清の1:50希釈物に30分間暴露され、次いでDMEM中で3回、5分間洗浄され、モルモット補体(ギブコ(Gibco))の1:5希釈物に3分間暴露される(Solter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72:5099 (1975))。細胞は、DMEM中での2回の追加洗浄後に慎重にピペットすることにより無傷の内部細胞塊(ICM)から除去され、外細胞層(trophectoderm)が分解され、ICMはmEFフィーダー層上に蒔かれる。
【0201】
内部細胞塊由来の伸長物は約9〜15日後に解離されて塊にされる。これは、1mM EDTAを有するカルシウムおよびマグネシウム−遊離リン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS)への暴露、またはディスパーゼまたはトリプシンへの暴露、またはマイクロピペットを用いた機械的解離のいずれかにより予備形成され、次いで新鮮な培地内のmEF上に再び蒔かれる。未分化形態を示す成長するコロニーがマイクロピペットにより別々に選択され、機械的に解離されて塊にされ、再び蒔かれる。ES様の形態は、細胞質に対する核の比が明らかに高くかつ核小体が隆起した小型のコロニーとして特徴づけられる。次いで、得られたES細胞は、通常、1〜2週毎に短時間のトリプシン処理後、(2mM EDTAを含有する)ダルベッコ(Dulbecco’s)PBSへの暴露、タイプIVコラゲナーゼ(約200U/mL;ギブコ(Gibco))への暴露、またはマイクロピペットによる別々のコロニーの選択により分離される。約50〜100個の細胞からなる塊の大きさが最適である。
【0202】
B.ヒト胚性生殖細胞の調製
ヒト胚性生殖(hEG)細胞は、直近の月経期から約8〜11週後に採取されたヒト胎児材料中に存在する始原生殖細胞から調製されうる。適切な調製方法は、Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726 (1998)および米国特許第6,090,622号に記載されている。
【0203】
生殖隆起を等張性緩衝液ですすぎ、次いで0.05%トリプシン/0.53mMナトリウムEDTA溶液(BRL)0.1mL中に入れ、<1mmの塊に切断する。次いで、組織を100μLのチップによってピペットし、さらに細胞を分解する。それを37℃で約5分間インキュベートし、次いで約3.5mLのEG成長培地を添加する。EG成長培地は、DMEM、4500mg/L D−グルコース、2200mg/L mM NaHCO;15%ESで条件づけられたウシ胎仔血清(BRL);2mMグルタミン(BRL);1mMピルビン酸ナトリウム(BRL);1000〜2000U/mLのヒト組換え白血病阻害因子(LIF、ゲンザイム(Genzyme));1〜2ng/mlのヒト組換えbFGF(ゲンザイム(Genzyme));および10μMフォルスコリン(forskolin)(10%DMSO中)を含有しうる。
【0204】
あるいは、EG細胞をヒアルロニダーゼ/コラゲナーゼ/DNAseを用いて単離する。腸間膜を有する生殖腺原基(Gonadal anlagen)または生殖隆起を胎児材料から切除し、生殖隆起をPBS中ですすぎ、次いで、HCD消化溶液(0.01%ヒアルロニダーゼタイプV、0.002% DNAse I、0.1%コラゲナーゼタイプIV、すべてはシグマ(Sigma)から得られ、EG成長培地内で調製される。)0.1ml中に入れる。組織を細かく切り刻み、37℃で1時間もしくは一晩インキュベートし、EG成長培地1〜3mL中に再懸濁し、フィーダー層上に蒔く。
【0205】
次いで、96ウェルの組織培養プレートを、典型的には、5000radのγ照射により不活性化された、LIF、bFGFもしくはフォルスコリンを含まない修飾されたEG成長培地内で3日間培養されたフィーダー細胞(例えば、STO細胞、ATCC番号CRL1503)のサブコンフルエントな層を用いて調製する。約0.2mLの初期生殖細胞(PGC)懸濁液を各ウェルに添加する。1回目の継代をEG成長培地内で7〜10日後に行い、各ウェルを、放射線照射されたSTOマウス線維芽細胞で予め調製された24ウェルの培養皿の1つのウェルに移す。細胞を、典型的には7〜30日後または1〜4回の継代後にEG細胞と一致した細胞形態が観察されるまで、培地を毎日交換しながら培養する。
【0206】
C.未分化状態でのpPS細胞の増殖
pPS細胞を、分化の促進を伴わずに増殖を促進する条件下で、培養物中で継続的に増殖してもよい。典型的な血清を含有するES培地は、80%DMEM(例えばノックアウト(Knock−Out)DMEM、ギブコ(Gibco))、規定されたウシ胎仔血清(FBS、ハイクローン(Hyclone))または血清交換(国際公開第98/30679号)のいずれかの20%、1%非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mM β−メルカプトエタノールを有する。使用の直前にヒトbFGFを4ng/mLまで添加する(国際公開第99/20741号、ジェロン(Geron Corp.))。
【0207】
従来よりES細胞は、フィーダー細胞(例えば胚性もしくは胎児組織に由来する線維芽細胞)の層上で培養される。胚を、妊娠の13日後、CF1マウスから回収し、トリプシン/EDTA2mLに移し、細かく切り刻み、37℃で5分間インキュベートする。10%FBSを添加し、残渣を沈殿させておき、細胞を90%DMEM、10%FBS、および2mMグルタミンの中で増殖させる。フィーダー細胞層を調製するために細胞に放射線を照射して増殖を阻害するが、ES細胞を支持する因子の合成は可能になる(約4000radsのγ照射)。培養プレートを0.5%ゼラチンで一晩コーティングし、それに1ウェル当たり375,000個の放射線照射されたmEFを蒔き、蒔いてから5時間〜4日後にそれを用いる。培地を、pPS細胞の播種の直前に新鮮なhES培地と交換する。
【0208】
フィーダーを含まない培養物を、栄養培地内で支持し、典型的には、放射線照射されたマウス初期胚性線維芽細胞、テロメア化したマウス線維芽細胞、またはpPS細胞由来の線維芽様細胞を培養して馴化させる。培地を、20%血清の置換物および4ng/mL bFGFが補充されたKO DMEMなどの血清を含まない培地内にフィーダーを10cmの約5〜6倍の密度で蒔くことにより馴化させてもよい。1〜2日間馴化した培地にさらなるbFGFを補充し、それをpPS細胞培養物を1〜2日間支持するのに用いる。
【0209】
ES細胞は、高い核/細胞質の比、隆起した核小体、および識別できにくい細胞間結合を伴う小型のコロニー形成とともに見られる。霊長類のES細胞は、ステージ特異的な胚性抗原(SSEA3およびSSEA4)、およびTra−1−60およびTra−1−81と称される抗体を用いて検出可能なマーカーを発現する(Thomson et al., Science 282:1145, 1998)。マウスES細胞は、SSEA−1に対する陽性対照およびSSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81に対する陰性対照として用いられうる。SSEA−4はヒト胎生期癌(hEC)細胞上に常在する。インビトロでのpPS細胞の分化の結果、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81の発現が低下しかつSSEA−1の発現が増大する。SSEA−1はhEG細胞上でも見出される。
【0210】
D.神経前駆体および終末分化した細胞の調製
本明細書で提供される特定の神経前駆細胞は、所望の表現型を有する細胞について富化された特定の培養環境下での幹細胞の培養、分化、またはプログラミングにより取得される。これらの方法は、本明細書中に記載の霊長類の多能性幹(pPS)細胞を含む、多数のタイプの幹細胞に適用可能である。神経細胞の分化は一般に適切な基質を含む培養環境下で生じ、分化剤を含有する栄養培地が添加される。適切な基質は、ポリ−L−リジンおよびポリオルニチンを例とする塩基性アミノ酸など、正電荷でコーティングされた固体表面を含む。基質は、フィブロネクチンを例とする細胞外マトリックス成分でコーティングされうる。他の許容可能な細胞外マトリックスは、Matrigel.RTM(エンゲルブレス−ホルム−スワーム(Engelbreth−Holm−Swarm)腫瘍細胞由来の細胞外マトリックス)、ラミニン、およびフィブロネクチン、ラミニン、およびそれら双方と結合されたポリ−L−リジンなどの結合基質(combination substrates)を含む。
【0211】
分化した細胞は、表現型の特徴に基づいて選別することで特定の集団について濃縮することが可能である。細胞選別は、集団内の細胞を神経細胞の特徴を示すマーカーに結合する抗体またはリガンドと接触させた後、集団内の他の細胞から特異的に認識された細胞を分離することにより行われうる。1つの方法としてイムノパニング(immunopanning)が挙げられ、そこでは特異抗体が固体表面にカップリングされる。細胞は表面と接触させ、マーカーを発現しない細胞を洗い流す。次いで、結合細胞をより勢いのある溶出により回収する。このバリエーションとして親和性クロマトグラフィーおよび抗体媒介性の磁気細胞選別が挙げられる。典型的な選別手順では、細胞を特異的な一次抗体と接触させ、次いで磁場の影響下に置かれうる磁気ビーズに結合された抗免疫グロブリン二次試薬で捕捉し、接着細胞を回収する。
【0212】
別の適切な分離方法として蛍光で活性化された細胞選別が挙げられ、その場合、マーカーを発現する細胞が(例えば蛍光標識された二次抗免疫グロブリンを介して)特異抗体で標識され、適切な選別機器を用いて結合標識量により分離される。これらの方法のいずれかは、目的のマーカーを有する陽性選択された細胞の集団、および陽性選択されるのに十分な密度またはアクセシビリティで特定のマーカーを有しない陰性選択された細胞の集団における単離および回収を可能にするのに適する。陰性選択は、細胞を特異抗体とともにうまくインキュベートし、抗体が補体調製物の存在下で結合している場合に溶解することになる細胞集団を生成することによっても行われうる。分化した細胞集団の選別は常に実施可能であるが、好ましくは分化プロセスの開始直後に短時間実施可能である。
【0213】
細胞を多数の表現型の基準により特徴づけることが可能である。基準は、限定はされないが、形態学的特徴の顕微鏡観察、発現された細胞マーカー、酵素活性、または神経伝達物質およびそれらの受容体の検出または定量、ならびに電気生理学的機能を含む。
【0214】
本発明で具現化された特定の細胞は、神経細胞またはグリア細胞の特徴を示す形態学的特徴を有する。該特徴は、かかる細胞の存在の評価において当業者により容易に理解される。例えばニューロンは、小さい細胞体や、軸索および樹状突起を連想させる複数の突起を特徴とする。本発明の細胞は、それらが様々な種類の神経細胞の特徴を示す表現型マーカーを発現するか否かによっても特徴づけられうる。
【0215】
適切なマーカーは、限定はされないが、ニューロンの特徴を示すβ−チューブリンIII、微小管関連タンパク質2(MAP−2)または神経フィラメント;星状細胞内に存在するグリア繊維性酸性タンパク質(GFAP);オリゴ樹状細胞の特徴を示すガラクトセレブロシド(GaIC)またはミエリン塩基性タンパク質(MBP);未分化hES細胞の特徴を示すOct−4;神経前駆体および他の細胞の特徴を示すネスチン(Nestin);およびA2B5とポリシアリル化(polysialylated)NCAMの双方(これらのマーカーは時として肝臓または筋肉細胞などの他の細胞タイプ上に提示されうる)を含む。β−チューブリンIllは以前は神経細胞に特異的であると考えられたが、hES細胞のサブポピュレーションがβ−チューブリンIII陽性でもあることが発見されている。MAP−2は、様々なタイプの完全に分化したニューロンに対するよりストリンジェントなマーカーである。
【0216】
本明細書中に記載されるかまたは当該技術分野で既知の組織特異的なマーカーは、例えば、細胞表面マーカーにおけるフローイムノサイトケミストリー(flow immunocytochemistry)、細胞内または細胞表面マーカーにおける(例えば固定された細胞または組織切片の)免疫組織化学、細胞抽出物のウエスタンブロット分析、および培地内に分泌される細胞抽出物または生成物における酵素結合イムノアッセイ(例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA))を含む既知の免疫学的技術を用いて検出可能である。細胞による抗原の発現は、標準の免疫細胞化学またはフローサイトメトリーアッセイにて、細胞の固定後を含み、かつ場合により標識を増幅するための標識された二次抗体または他の複合体(ビオチン−アビジン複合体など)を用い、有意に検出可能な量の抗体が抗原に結合することになる場合、「抗体で検出可能」といわれる。
【0217】
組織特異的な遺伝子産物の発現はまた、例えばノーザンブロット分析、ドットブロットハイブリダイゼーション分析、または逆転写酵素で開始されるポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により、mRNAレベルで検出されうる(米国特許第5,843,780号を参照)。(例えば運動ニューロン栄養因子(MNTF)またはMNTF類似体を用いる)本発明の特定の神経前駆細胞集団の分化により、少なくとも20%、30%、40%の、もしくは50%を超えてMAP−2陽性である細胞集団が生成されうる。NCAMまたはMAP−2陽性細胞の実質的割合、例えば5%、10%、25%、もしくはより多くが、アセチルコリン、グリシン、グルタミン酸塩、ノルエピネフリン、セロトニン、またはGABAなどの神経伝達物質を合成可能ということになる。細胞の特定の集団が、免疫細胞化学またはmRNAの発現による測定で、(細胞計数をベースとして)0.1%、かつ場合により1%、3%、もしくは5%またはそれより多くチロシンヒドロキシラーゼ(TH)において陽性であるNCAMまたはMAP−2陽性の細胞を含有する。これは一般に当該技術分野でドーパミンを合成する細胞におけるマーカーであると考えられている。
【0218】
実施例6
MNTFによるマウス胚性幹細胞の運動ニューロンへの分化
この実施例では、合成された33mer MNTFペプチド(配列番号1)および10mer MNTFペプチド(配列番号4)が、レチノイン酸の存在下、インビトロでのマウスES細胞の運動ニューロンへの分化において効果的にソニックヘッジホッグの代わりになることをここで示す。
【0219】
受容体キナーゼの研究を用い、MNTFのインスリン受容体(IR)に対する親和性を測定した。結果は、MNTFがインスリン受容体(IR)およびインスリン様成長因子受容体(IGF−1R)に対する親和性を有することを示した。次いで、これらの経路のいずれかを通るシグナルが運動ニューロンの生成において生じうるか否かを試験した。図5は、スムーズンド受容体のシグナル伝達に特異的な阻害剤であるシクロパミン−KAAD(5uM)がShhのマウスES細胞に対する効果を遮断するがES細胞上でのMNTFに誘導された分化の活性を遮断しなかったことを示す。したがって、MNTFはやはり有糸分裂後の成熟運動ニューロンを生成可能である。
【0220】
図5は、対照(A)、RA(B);RA/Shh(C);シクロパミン−KAAD、RA/Shh(D);RAおよびMNTF33mer(E);シクロパミン−KAAD、RAおよびMNTF33mer(F)に応答し、分化の5日目における運動ニューロンに特異的なHB9プロモーターの制御下でのGFP蛍光の発現の比較を図示する。このデータは、i)Shhとは完全に異なる経路を通るMNTFシグナル、またはii)2つの経路がスムーズンドの下流で合流することを示す。
【0221】
図6は、インスリン受容体に特異的なチロシンキナーゼ阻害剤HNMPA(AM)3がMNTFのマウスES細胞に対する効果を遮断するが、ES細胞上でのShhに誘導される分化の活性を遮断しなかったことを示す。RA/Shh(A);RA/MNTF33(B);RA/MNTF10(C);HNMPA(AM)3(15μM)/Shh(D);HNMPA(AM)3/MNTF33(E);HNMPA(AM)3/MNTF10(F);PPP(1μM)、RA/Shh(G);PPP(1μM)、RA/MNTF33(H);PPP(1μM)、RA/MNTF10(I)に応答した5日目の胚様体におけるGFP蛍光の発現によって示されるように、IGF1−R阻害剤ピクロドフィリン(picrodophyllin)はMNTFに誘導される分化の活性を有効に遮断しない。ES細胞のMNTF処理の結果、IR活性化のマーカーであるTyr972およびTyr1162/1163の自己リン酸化がもたらされた。
【0222】
免疫沈降
共免疫沈降の研究も行った。インスリン刺激性、IGF−I刺激性、またはMNTF−33mer(10ug/ml)0日目のES細胞からのポストヌクレア(Postnuclear)上清をタンパク質の総量(8mg)について規準化した。溶解物を5μgの抗−IRS−1抗体とともに4℃で4時間インキュベートし、免疫複合体を50%タンパク質−Aアガローススラリー30μlにより捕捉した。冷却した溶解緩衝液で4回洗浄後、ペレットをSDS−PAGE試料緩衝液中に再懸濁し、5分間沸騰させた。タンパク質をSDS−PAGE(10%)により分離し、PVDF膜上へのエレクトロブロッティングにより移動させた。膜をブロッキング溶液(TBST、3%ドライミルク)中、室温で1時間インキュベートした後、以下の抗体、すなわち抗−PI−3キナーゼのp85サブユニットのうちの1つとともにインキュベートした((TBST中1μg/ml、3%ミルク、4℃で一晩)。タンパク質を20%メタノールトランスファー緩衝液中のImmobilon−Pトランスファー膜(ミリポア(Millipore)、ベッドフォード(Bedford)、マサチューセッツ州)に移動させた。ウエスタンブロットをSuperSignal West Femto Maximum Sensitivity Substrate(ピアス(Pierce)、ロックフォード(Rockford)、イリノイ州)で展開させ、Fuji Luminescent Image Analyzer(LAS−1000plusカメラ;富士フィルム(Fuji)、東京(Tokyo)、日本)で可視化した。各バンドの強度をImage Gaugeソフトウェア(バージョン3.4)により判定した。
【0223】
共免疫沈降研究では、特異的なSH2ドメインのIR(PI3キナーゼにおけるp85サブユニット)との結合がES細胞に対するMNTF処理の結果生じることが示された。
【0224】
本明細書で示されるデータは、IGF−1Rの遮断がMNTFにおける運動ニューロンを生成する能力に対して全く効果を有しなかったが、IRの遮断によりこの能力が失われたことをさらに示す。これらの結果は、MNTFが運動ニューロンのShhに非依存性でIRに依存性の経路を介する生成および支持が可能な新規の因子であるという考えを支持する。
【0225】
MNTFのシグナル伝達−生化学的アプローチ
この実験の目的は、MNTFのインスリン受容体を介するシグナル伝達を確認することであった。図7は、ES細胞がIGF−1(10nM)(レーン1)、インスリン(100nM)(レーン2)、MNTF6(レーン3)、MNTF10(レーン4)、およびMNTF33(レーン5)で5分間処理された場合の実験の結果を示す。次いで、溶解物をプロテインAビーズおよび抗−IRS−1抗体とともにインキュベートした。免疫複合体をSDS−PAGE(10%)により分画し、膜に移し、PI3−キナーゼのp85サブユニットに対する抗体を用いるウエスタンブロットにより分析した。次いで、溶解物をプロテインAビーズおよび抗−IRS−1抗体とともにインキュベートした。免疫複合体をSDS−PAGE(10%)により分画し、膜に移し、PI3−キナーゼのp85サブユニットに対する抗体を用いるウエスタンブロットにより分析した。
【0226】
IRS−1に対して補充されたSH2を含有するタンパク質の補体に関しては、IRおよびIGF−IR受容体の間に差異がある。特に、IGF−IRはIRS−1をGrb2に対して優先的に共役させるように見えるのに対し、IRはIRS−1をホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−キナーゼ)のp85サブユニットおよびNckに対して優先的に共役させるように見える。2つの受容体IRS−1をチロシンホスファターゼSHP2に対して等しく共役させる。IRS−1上に3つの重要なチロシンのリン酸化部位(pY608、pY895およびpY1172)が存在する。pY608の場合、Amoui et al.は2つの受容体によるIRS−1のディファレンシャル(differential)リン酸化、すなわちY608はIGF1−Rで刺激された細胞内でよりリン酸化されることに対する証拠を示した。Amoui et al., J. Endocrinology., 171(1):153-62 (2001)。
【0227】
これらの結果は、IRおよびIGF−IRの細胞質ドメインがそれらに固有のシグナル電位(signaling potentials)での差異を有するという考えを支持する。この点を考慮し、ES細胞は血清を含まない環境下でMNTFにより誘導され、溶解物は、抗−IRS−1およびその対応するSH2ドメイン、例えば、各々PI3Kのp85サブユニットおよびGrb2とともに共免疫沈降される。
【0228】
A.ShhおよびMNTF経路の一般的な収束
この実験の目的は、ShhおよびMNTFのシグナル伝達における共通の下流のエフェクターを判定することであった。最近、ニワトリ神経移植片内での神経細胞の運命、10T1_2細胞の軟骨分化、およびNIH 3T3細胞内でのGliの活性化の詳細におけるソニックヘッジホッグ(Shh)シグナル伝達においては、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3−キナーゼ)依存性Aktの活性化が必須であることが注目された。Riobo NA, et al., P.N.A.S. U S A. 103(12):4505-10 (2006)。インスリン様成長因子IによるPI3−キナーゼ_Aktの刺激により、低レベルのShhによって誘導されたGliの活性化が増強されるが、単独のインスリン様成長因子IはGli依存性の転写を誘導するのに不十分である。タンパク質キナーゼA(PKA)およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3_は、突然変異誘発によって同定された複数の部位でGli2を連続的にリン酸化することから、結果としてその転写活性が低下する。主なPKAおよびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3_のリン酸化部位がアラニンに変異されたGli2変異タンパク質には完全な転写活性が残存するが、PKA−突然変異体Gli2はAktシグナル伝達に非依存的に機能し、それはAktがPKA媒介性のGliの不活化を制御することによりShhシグナル伝達をポジティブに制御することを示している。図8は、ES細胞のMNTFに誘導された分化における可能な経路を図示する。
【0229】
すべての特許、出版物、科学論文、ウェブサイト、および本明細書で参照または言及される他の文書および材料は本発明に関係する当業者のレベルを示し、かかる参照される文書および材料の各々は、別々にその全体が参照により援用されるかまたはその全体が本明細書中に示されたかのように同程度に本明細書にて参照により援用される。出願人は、任意のかかる特許、出版物、科学論文、ウェブサイト、電子的に利用可能な情報、および他の参照される材料または文書からのありとあらゆる材料および情報を本明細書中に物理的に援用するための権利を確保している。
【0230】
本明細書で記載される特定の方法および組成物は、好ましい実施態様を代表するものであり、典型的であり、本発明の範囲に対して限定するものとして意図されていない。他の対象、態様、および実施態様は、当業者が本明細書の考察時に想起することになり、かつ、特許請求の範囲の範囲によって定義される本発明の趣旨の範囲内に包含される。本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく本明細書で開示される本発明に対して様々な置換および修飾がなされうることは当業者に容易に理解されるであろう。本明細書中に具体的に記載される本発明は任意の要素または制限の非存在下で適切に実施される場合があり、それは本明細書中に不可欠なものとして詳細に開示されることはない。それ故、例えば本明細書中の各例や本発明の実施態様または実施例では、「含む(comprising)」、「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」、および「からなる(consisting of)」という用語のいずれも、本明細書中の他方の2つの用語のいずれかと置換されうる。また「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、制限なく拡大解釈されるべきである。本明細書中で具体的に記載される方法およびプロセスは、工程の異なる順序で適切に実施される場合がある上、必ずしも本明細書または特許請求の範囲で示される工程の順序に限定されることはない。本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で他に明確に指示されない限り、複数の参照を含む。本特許は、いかなる場合でも本明細書中で詳細に開示される特定の実施例または実施態様または方法に限定されるように解釈されることはない。本特許は、いかなる場合でも、特許商標庁の任意の審査官または任意の他の職員または従業員によってなされる任意の申し立てにより、かかる申し立てが詳細でない限りまた出願人による応答書面内で明示的に用いられる制限がない場合、限定されるように解釈されることはない。
【0231】
用いられている用語および表現は説明の用語として限定なく用いられ、かかる用語および表現の使用においては、示され、記載される特徴における任意の等価物またはその一部を除外するという意図は全くないが、様々な改良が特許請求される本発明の範囲内で可能であることは理解される。したがって、本発明が開示される本明細書中の好ましい実施態様および任意の特徴によって具体的に開示されているが、概念の改良および変形が当業者により実施されうる上、かかる改良および変形は添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内であると見なされることは理解されるであろう。
【0232】
本発明は、本明細書で広範かつ一般的に記載されている。包括的開示内に該当するより狭い種および亜属の分類の各々は本発明の一部をも形成する。これは条件付きでの本発明の包括的記述または属からの任意の材料を除外する負の制限を含み、ここでは除外された材料が本明細書中で詳述されるか否かは無関係である。
【0233】
他の実施態様は、以下の特許請求の範囲内にある。さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュグループの観点で記載される場合、当業者は、それにより本発明もマーカッシュグループの任意の各メンバーまたはメンバーのサブグループの観点で記載されることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】図1は、試験したMNTFペプチドのアミノ酸配列を示す。
【図2】図2は、0.1μg/ml〜50μg/ml(MNTF10/0.1〜50)でのレチノイン酸(RA)、レチノイン酸およびソニックヘッジホッグ(RA/Shh)、レチノイン酸およびMNTF 10−mer(配列番号4)ならびに0.1μg/ml〜50μg/ml(MNTF33/0.1〜50)でのMNTF 33−mer(配列番号1)に応答した、運動ニューロンに特異的なHB9プロモーターの制御下でのGFP蛍光の発現を比較する。
【図3】図3は、相対バンド強度(3A)としてプロットされるpTyr1162/1163(3B)での、IRまたはインスリン成長因子−1受容体(IGF−1R)の自己リン酸化を検出する抗体を用い、MNTF 33mer(MNTF33、(配列番号1))またはMNTF33merおよびインスリン受容体(IR)HNMPA(AM)3の非特異的阻害剤で処理された胚様体に対する免疫ブロットの結果を比較する。
【図4】図4は、GDNF、NT3、dbcAMPまたはMNTFペプチド類似体で処理されたES細胞由来の運動ニューロンにおける促進された生存について比較し、ここで生存率は、10日目に既存の軸索を有する細胞の総数の計数により計算される。
【図5】図5は、対照(A)、RA(B);RA/Shh(C);シクロパミン−KAAD、RA/Shh(D);RAおよびMNTF33mer(配列番号1)(E);シクロパミン−KAAD、RAおよびMNTF33mer(配列番号1)(F)に応答した、分化の5日目、運動ニューロンに特異的なHB9プロモーターの制御下でのGFP蛍光の発現を比較したものを図示する。
【図6】図6は、RA/Shh(A);RA/MNTF33(B);RA/MNTF10(C);HNMPA(AM)3(15μM)/Shh(D);HNMPA(AM)3/MNTF33(E);HNMPA(AM)3/MNTF10(F);PPP(1μM)、RA/Shh(G);PPP(1μM)、RA/MNTF33(H);PPP(1μM)、RA/MNTF10(I)に応答した、5日目の胚様体におけるGFP蛍光の発現によって示されるとおり、IGF1−R阻害剤ピクロドフィリンがMNTFに誘導された分化の活性を有効に遮断しないことを示す。
【図7】図7は、IGF−1(10nM)(レーン1)、インスリン(100nM)(レーン2)、MNTF6(レーン3)、MNTF10(レーン4)、およびMNTF33(レーン5)で5分間処理された細胞からのES細胞溶解液に由来するPI3−キナーゼのp85サブユニットに対する抗体を用いるウエスタンブロットを図示する。次いで、溶解物をプロテインAビーズおよび抗−IRS−1抗体とともにインキュベートした。免疫複合体は、SDS−PAGE(10%)により分画され、膜に移され、PI3−キナーゼのp85サブユニットに対する抗体を用いてウエスタンブロットにより分析した。
【図8】図8は、ES細胞のMNTFに誘導された分化について考えられる経路を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を神経障害の治療に十分な量で投与することにより、ソニックヘッジホッグ経路非依存性のシグナル伝達経路を調節する工程を含む、神経障害を治療する方法。
【請求項2】
前記MNTF類似体が6〜35アミノ酸長である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MNTF類似体が6〜33アミノ酸長である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記MNTF類似体が33アミノ酸長である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記MNTF類似体が配列番号1の配列を有する請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記MNTF類似体が10アミノ酸長である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記MNTF類似体が配列番号4の配列を有する請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記MNTF類似体が6アミノ酸長である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記MNTF類似体が配列番号2の配列を有する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
哺乳類のニューロンの生存、成長、増殖、または維持を促進する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記MNTF類似体の投与が神経保護剤として作用する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記MNTF類似体の投与により神経障害の進行が改善または阻害される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
細胞の特定の分化経路を調節する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質キナーゼ経路がソニックヘッジホッグ非依存性の経路により調節され、前記神経障害の進行が改善または阻害される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記MNTF類似体がインビトロでインスリン受容体のTyr972およびTyr1162/1163の自己リン酸化を刺激可能である請求項1に記載の方法。
【請求項16】
分化経路が調節され、ここで前記経路はパッチされた受容体に対するソニックヘッジホッグタンパク質の結合およびそれに伴うヘッジホッグ依存性のシグナル伝達の促進により引き起こされるシグナル伝達事象に非依存性である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
分化経路が調節され、ここで前記経路はパッチされた受容体に対するソニックヘッジホッグタンパク質の結合およびそれに伴うヘッジホッグ依存性のシグナル伝達の促進により引き起こされるシグナル伝達事象に対して部分的に非依存性である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ヘッジホッグ経路が主要な分化経路に加えて調節される請求項1に記載の方法。
【請求項19】
ソニックヘッジホッグ非依存性の経路によってニューロンの分化、維持、または生存を促進する請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ソニックヘッジホッグ非依存性の経路によって運動ニューロンの分化、維持、または生存を促進する請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記MNTF類似体がチロシンキナーゼまたは成長因子受容体の発現または活性を調節する請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記MNTF類似体が、インスリン受容体、IGF−1受容体、IGF−2受容体、Shh、Akt、Bad(細胞死のbcl−2アンタゴニスト)、PI(3,4,5)P3依存性キナーゼ1(PDK1)、Bax、p53遺伝子産物、pp60−Src、JAK2、一酸化窒素シンターゼ(NOS)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK)、カスパーゼ、PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ)、およびRasから選択される1種もしくは複数種のタンパク質の発現または活性を調節する請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体がチロシン−リン酸化IRS−タンパク質に結合する1種もしくは複数種のタンパク質の発現または活性を調節する請求項1に記載の方法。
【請求項24】
IRS−1、IRS−2、IRS−3、およびIRS−4のタンパク質のうちの1種もしくは複数種の発現または活性が調節される請求項23に記載の方法。
【請求項25】
PI3キナーゼ、p85、P110、GRB2、SHP2、Nck、Crk、およびFynのタンパク質のうちの1種もしくは複数種の発現または活性が調節される請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記インスリン受容体の発現または活性が調節される請求項23に記載の方法。
【請求項27】
IGF−1受容体の発現または活性が調節される請求項23に記載の方法。
【請求項28】
IGF−2受容体の発現または活性が調節される請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記MNTF類似体がPI3キナーゼの発現または活性を調節する請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記MNTF類似体の投与により末梢神経が再生する請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記MNTF類似体の投与により脊髄内の軸索が再生する請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記MNTF類似体の投与が血液脳関門に浸透する請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記MNTF類似体の投与により細胞の分化が促進される請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記MNTF類似体の投与により標的神経細胞の生存が促進される請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記MNTF類似体の投与により脳血流が促進される請求項1に記載の方法。
【請求項36】
脊髄損傷が治療される請求項1に記載の方法。
【請求項37】
神経変性疾患が治療される請求項1に記載の方法。
【請求項38】
脳卒中または脳虚血が治療される請求項1に記載の方法。
【請求項39】
ハンチントン病が治療される請求項1に記載の方法。
【請求項40】
パーキンソン病が治療される請求項1に記載の方法。
【請求項41】
多発性硬化症が治療される請求項1に記載の方法。
【請求項42】
ALSが治療される請求項1に記載の方法。
【請求項43】
アルツハイマー病が治療される請求項1に記載の方法。
【請求項44】
糖尿病性ニューロパシーが治療される請求項1に記載の方法。
【請求項45】
ニューロンの成長、維持、または分化を促進するための医薬組成物であって、インビトロまたはインビボで前記インスリン受容体のTyr972およびTyr1162/1163の自己リン酸化を刺激する、6〜35アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を含有する、医薬組成物。
【請求項46】
少なくとも1種の成長因子をさらに含有する請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
前記成長因子が、インスリン受容体、IGF−1受容体、IGF−2受容体、Shh、Akt、Bad(細胞死のbcl−2アンタゴニスト)、PI(3,4,5)P3依存性キナーゼ1(PDK1)、Bax、p53遺伝子産物、pp60−Src、JAK2、一酸化窒素シンターゼ(NOS)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK)、カスパーゼ、PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ)、およびRasから選択される請求項45に記載の組成物。
【請求項48】
ニューロンの成長、維持、または分化を促進するための医薬組成物であって、運動ニューロン栄養因子類似体を抗うつ化合物と組み合わせて含有する、医薬組成物。
【請求項49】
幹細胞の集団から星状細胞を誘導する方法であって、6〜35アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を幹細胞の前記集団に投与する工程を含む、方法。
【請求項50】
神経障害を治療する方法であって、6〜32アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を患者にソニックヘッジホッグ非依存性の経路を調節するのに有効な量で投与し、前記神経障害の進行を改善または阻害する工程を含む、方法。
【請求項51】
神経幹細胞子孫を分化させて宿主に移植する方法であって、i)少なくとも1つの多能性CNS神経幹細胞を含有する哺乳類神経組織に由来する細胞の集団を取得する工程と、ii)前記神経幹細胞を、適切な培養条件下で多能性神経幹細胞の増殖を誘導する6〜35アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を含有する培地内で培養する工程と、iii)前記多能性神経幹細胞の増殖を誘導し、多能性神経幹細胞子孫細胞を含む神経幹細胞子孫を生成する工程と、iv)前記神経幹細胞子孫を前記宿主に移植する工程と、を含む、方法。
【請求項52】
6〜35アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を前記細胞の神経細胞表現型への分化を誘導するのに十分な量で提供することによって培養物中の幹細胞を誘導するための方法。
【請求項53】
神経障害を治療する方法であって、6〜35アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を患者に投与する工程を含み、ここで前記MNTF類似体が前記インスリン受容体(IP)をインビトロで活性化することによって前記神経障害の進行が阻害される、方法。
【請求項54】
神経障害を治療する方法であって、6〜35アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を患者に投与する工程を含み、ここでES細胞のインビトロでの前記MNTF類似体による処理の結果、前記インスリン受容体(IP)の自己リン酸化によって前記神経障害の進行が阻害される、方法。
【請求項55】
ヒト胚性幹細胞(hES)から神経幹細胞集団を生成するための方法であって、hES細胞を6〜35アミノ酸長の運動ニューロン栄養因子(MNTF)類似体を含有する培地内で培養することで、前記細胞の少なくとも50%が神経細胞マーカーを発現するといった集団を生成する工程を含む、方法。
【請求項56】
神経細胞マーカーを発現する前記集団内の前記細胞が前記細胞の少なくとも55%を含む請求項55に記載の方法。
【請求項57】
神経細胞マーカーを発現する前記集団内の前記細胞が前記細胞の少なくとも60%を含む請求項55に記載の方法。
【請求項58】
神経細胞マーカーを発現する前記集団内の前記細胞が前記細胞の少なくとも65%を含む請求項55に記載の方法。
【請求項59】
神経細胞マーカーを発現する前記集団内の前記細胞が前記細胞の少なくとも70%を含む請求項55に記載の方法。
【請求項60】
神経細胞マーカーを発現する前記集団内の前記細胞が前記細胞の少なくとも80%を含む請求項55に記載の方法。
【請求項61】
神経細胞マーカーを発現する前記集団内の前記細胞が前記細胞の少なくとも90%を含む請求項55に記載の方法。
【請求項62】
前記神経細胞マーカーまたは対照マーカーが、NCam、NeuN、HB9、ChAT、β−チューブリンIII、微小管関連タンパク質2(MAP−2)、神経フィラメント、グリア繊維性酸性タンパク質(GFAP)、ガラクトセレブロシド(GaIC)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、Oct−4(これらは未分化hES細胞の特徴を示す)、ネスチン(Nestin)、A2B5、およびポリシアリル化NCAMから選択される請求項55〜62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
運動ニューロンの成長または生存の促進に有用な化合物を同定する方法であって、
i)候補化合物を含有する試料を調製する工程と、ii)細胞を前記試料と接触させる工程と、iii)シグナル伝達経路に関与する化合物の発現または活性が調節されるか否かを判定する工程と、iv)前記試料が運動ニューロンの成長または生存を促進可能であるか否かを判定する工程と、を含む、方法。
【請求項64】
工程iii)が、前記試料がインビトロまたはインビボで前記インスリン受容体のTyr972およびTyr1162/1163の自己リン酸化を刺激するか否かを判定する工程を含む請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記試料がMNTFシグナル伝達経路を調節するか否かを判定する工程をさらに含む請求項63に記載の方法。
【請求項66】
前記試料が、インスリン受容体、IGF−1受容体、IGF−2受容体、Shh、Akt、Bad(細胞死のbcl−2アンタゴニスト)、PI(3,4,5)P3依存性キナーゼ1(PDK1)、Bax、p53遺伝子産物、pp60−Src、JAK2、一酸化窒素シンターゼ(NOS)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK)、カスパーゼ、PI3キナーゼ(ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ)、およびRasから選択される1種もしくは複数種のタンパク質の発現または活性を調節するか否かを判定する工程をさらに含む請求項63に記載の方法。
【請求項67】
前記候補化合物がMNTF類似体によって調節されるか否かを判定する工程をさらに含む請求項63に記載の方法。
【請求項68】
運動ニューロンの成長または生存を促進する方法であって、請求項63に記載の方法によって同定された化合物を投与する工程を含む、方法。
【請求項69】
神経障害を治療する方法であって、請求項63に記載の方法によって同定された化合物を投与する工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−515891(P2009−515891A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540231(P2008−540231)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/043874
【国際公開番号】WO2007/058982
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(302062403)ジェナボン バイオファーマシューティカルズ エルエルシー (6)
【Fターム(参考)】