説明

幹細胞培養のための方法および組成物

本明細書は、胚性幹細胞、成体幹細胞、および胚性生殖細胞などの幹細胞の培養に有用な方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、細胞培養技術に関する。具体的には、本明細書は、高い生存能力を維持しつつ実質的に未分化の状態で幹細胞を長期間培養するために使用することのできる培地および培養条件に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、それをもとに器官を再生し、組織を修復し、生物学的因子を調製または送達し、疾患もしくは障害を治療することができる、可能性のある起源である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヒト多能性幹(hPS)細胞、たとえばヒト胚性幹細胞(hES)および人工多能性幹(iPS)細胞は、シングルセルの状態ではきわめて脆弱であり、それが実用化を妨げている。本明細書は、非筋細胞ミオシンII(NMII)のきわめて強力な阻害剤(たとえば、ブレビスタチン)による処理が、実質的に、クローン密集および浮遊条件下でのhESおよびhiPS細胞の生存率を高めること、ならびに、合成マトリックスと組み合わせることで、自己複製のための完全に限定された環境を支持することを示す。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書は、動物もしくはヒト由来の細胞外マトリックス(ECM)を培養手順から排除することにより、ヒト人工多能性幹(hiPS)細胞およびヒト胚性幹(hES)細胞を増殖させるための、実質的に病原体を含まない培養環境を提供する。本明細書は、ミオシンIIの阻害が、細胞マトリックス間の接着および細胞生存率を増加させ、完全に限定された培地中で、ポリ-D-リジンコートした化学合成培養基材上でのhiPSおよびhES細胞の自己複製を効果的に支持することを示す。ヒト多能性幹細胞の樹立は、細胞維持および増殖のための環境と同じ培養環境を用いるので、この培養法は、細胞に基づく治療的手法に必須の、異種由来物質を全く含まない新規hiPSおよびhES細胞株を樹立するために応用することもできる。
【0005】
現行のhES細胞の無フィーダー培養プロトコールは、hES細胞が接着して増殖するために必要な特別なコーティング、たとえばMatrigel(商標名)、血清成分、およびヒト細胞由来ECMを必要とする。本明細書は、このようなコーティングおよびフィーダー層なしで幹細胞の増殖を促進する培養組成物および条件を提供する。本明細書は、少なくとも以下の理由でhESC培養技術に影響をもたらす:第1に、Matrigel(商標名)またはヒト細胞由来ECMは、ラミニン、フィブロネクチンおよびIV型コラーゲンなどのさまざまな細胞外マトリックスの混合物であって、その組成はバッチごとに変動する可能性があるので、細胞由来物質の使用をやめることによって、現在、コーティング材料の品質および条件に応じて非常に変動しやすいhES細胞の増殖プロセスをさらに標準化することが可能である;第2に、細胞由来生体物質は、ウイルスおよび抗原などの生物学的汚染を完全には免れられないので、細胞由来コーティングの必要がなければ、GMPグレードのhES細胞の開発に実質的な利益がもたらされるであろう;第3に、ヒト組換えECMは、起こりうる汚染の問題を回避するように製造することはできるが、準備時間、労力およびコストの観点からプラスチック組織培養プレートをたやすく使用するほどの優位性はないと思われる:加えて第4に、合成小分子は、構造が比較的単純で安定しているので、臨床現場への移行に有利であると考えられる。実際、たとえばROCK阻害剤Y27632は、臨床研究での使用に成功している。本明細書の方法および組成物に有用な他の化学的阻害剤を本明細書に記載する。
【0006】
本明細書は、基本培地およびミオシンII阻害剤を含んでなる組成物を提供する。ミオシンII阻害剤は、ブレビスタチンまたはその類似体とすることができる。基本培地は完全に限定された培地とすることができる。一部の実施形態において、ROCK阻害剤も組成物中に含まれていてもよい。ある実施形態では、培養すべき細胞型にとって同種の血清もしくは自己血清などの、血清を組成物に含有してもよい。また別の実施形態において、組成物はさらに、非必須アミノ酸などのアミノ酸を含有してもよい。別の実施形態において、組成物中に還元剤を含有することができる(たとえば、β-メルカプトエタノール)。抗菌剤および/または抗真菌剤を組成物中に含有することもできる。
【0007】
本明細書はまた、非必須アミノ酸、抗酸化剤、還元剤、増殖因子、ピルビン酸塩およびミオシンII阻害剤を添加した基本培地を含んでなる組成物を提供する。ミオシンII阻害剤は、ブレビスタチンもしくはその類似体とすることができる。
【0008】
本明細書はまた、ポリ-D-リジン、またはポリ-D-リジンコートした組織培養プレート、フラスコもしくは増殖基材、限定培地、およびミオシンII阻害剤を含んでなるキットを提供する。キットは、本明細書の組成物を使用前に混合することができるように、区分けされていると考えられる。ミオシンII阻害剤はブレビスタチンもしくはその類似体とすることができる。
【0009】
本明細書はまた、(hiPSおよびES細胞などの)幹細胞を培養する方法を提供するが、その方法には、ミオシンII阻害剤を含有する培養液中に幹細胞を懸濁すること;ならびに、ポリ-D-リジンコートした組織培養基材の存在下で幹細胞を培養することが含まれる。ある実施形態において、培養液は限定培地である。別の実施形態では、培養液は動物由来物質を含まない。
【0010】
本明細書はまた、限定培地およびミオシンII阻害剤を含んでなる組成物中に幹細胞を含有する、幹細胞培養物を提供するが、この幹細胞はNeu5Gcを含んでおらず、いかなる動物由来物質とともに培養されたこともない(たとえば、少なくとも1、2、5、10、20、30、40もしくは50回以上の継代の間)。ある実施形態において、幹細胞はポリ-D-リジン存在下で培養される。ある実施形態において、ミオシンII阻害剤はブレビスタチンもしくはその類似体である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1A-Dは、ミオシンIIがES細胞の細胞間接触の制御においてROCKの下流の基準エフェクターであることを示す。
【図2】図2は、ES細胞における、siRNAによる遺伝子サイレンシングを示す。
【図3】図3A-Dは、細胞間コミュニケーションの制御におけるRho-ROCK-ミオシンIIシグナル伝達系がhES細胞に保存されていることを示す。
【図4】図4A-Eは、ミオシンII選択的阻害剤、ブレビスタチンが、限定された条件下でヒト人工多能性幹(iPS)細胞の細胞-マトリックス相互作用、細胞生存、および自己複製を高めることを示す。
【図5】図5は、ES細胞において基本的な細胞間相互作用を制御するRho-ROCK-ミオシンシグナル伝達経路をまとめたモデルを示す。
【図6】図6A-Lは、ブレビスタチンによるNMIIの阻害が、クローン培養および浮遊培養条件下でhPS細胞の生存率を高めることを示す。
【図7】図7A-Hは、NMHCIIA-/A- mES細胞における生存率の増加を示す。
【図8】図8A-Gは、NMIIの阻害がヒトおよびマウス多能性幹細胞において自己複製制御因子の発現を高めることを示す。
【図9−1】図9a-eは、完全に限定された条件下で、ブレビスタチン処理がhPS細胞の自己複製を支持することを示す。
【図9−2】図9f-hは、完全に限定された条件下で、ブレビスタチン処理がhPS細胞の自己複製を支持することを示す。
【図10】図10A-Dは、ブレビスタチン処理が、接着条件下でのhPS細胞の生存率を高めることを示す。
【図11】図11A-Cは、浮遊培養で増殖させたhiPS細胞の生存率のブレビスタチンによる増加を示す。
【図12】図12は、限定条件下で培養されたhES細胞において染色体の完全性が維持されていることを示す。
【0012】
図面の説明
図1A-Dは、ミオシンIIがES細胞の細胞間接触の制御においてROCKの下流の基準エフェクターであることを示す。(A)ミオシンIIAおよびIIBの両方を標的とするsiRNAをトランスフェクションした細胞が細胞間接触の著しい崩壊を示したのに対して、スクランブルsiRNAをトランスフェクションしたmES(CJ7)細胞の形態は細胞間接着への影響を示さない。細胞接触指数は形態観察を支持する。データは平均± SD, **p<0.001, n=5である。(B)免疫蛍光分析はMYPT1タンパク質が未分化ES細胞の細胞間結合部位にあることを示す。差し込み図は同じコロニーの位相差画像を示す。(C)MYPT1の阻害を通してROCKがミオシンIIの機能を制御する分子経路を示す図。点線は、MRLCを直接リン酸化して活性化するもう一つのROCKの作用を示す。(D)siRNAによる保護実験において、mES細胞にMYPT1 siRNAをトランスフェクションし、24時間後に、その細胞をY27632で24時間処理した。細胞はこの阻害剤の強力な細胞接触妨害作用に対抗して、細胞間の完全性を維持することができた。レスキュー実験において、Y27632で24時間処理したmES細胞に、その後、MYPT1を標的とするsiRNAをトランスフェクションした。24時間後、細胞を写真撮影した。細胞の大部分が細胞間接触を回復することができ、プレコロニー様の構造を形成した。形態学的観察に相当するCCIによって、細胞間接触の状態を数値化した。データは平均 ± SD, **p<0.005, n=5である。スケールバーは25μmである。
【0013】
図2は、ES細胞における、siRNAによる遺伝子サイレンシングを示す。mES細胞におけるsiRNAのトランスフェクション効率を測定するために、リポフェクトアミン2000を用いて緑色フルオロフォア(FAM)標識siRNAを40nMで細胞にトランスフェクションし、24時間後に、蛍光倒立顕微鏡で細胞を評価した。事実上ほとんどすべての細胞がフルオロフォア標識siRNAを取り込んでいた。差し込み図は、位相差画像を示す。siRNA処理による内在性遺伝子のノックダウンレベルを評価するために、2つの異なるsiRNAを組み合わせたとき、特定の遺伝子を標的とするそれぞれのsiRNAを40nMまたは25nMとしてmES細胞にトランスフェクションした。24時間後、細胞を集め、ウェスタン解析もしくはQPCR解析に供した。ウェスタン解析のために、ローディングコントロールとしてβアクチンを使用した。ROCK I siRNAの効果はアイソフォームに特異的であると思われたが、ROCK II siRNAは2つのアイソフォームに同様に影響を及ぼした。したがって、ROCK siRNAの細胞間接触への影響は、ROCK IおよびROCK II siRNAの共トランスフェクションによってROCK IおよびROCK IIがいずれも同時に失われたときにのみ評価された。QPCR解析のために、データはβアクチンの発現レベルに標準化された。mES細胞におけるミオシンIICの内在性mRNAレベルは他のミオシンのmRNAより2桁低かった。ミオシンIIC特異的siRNA処理は、発現レベルを対照の40%まで低下させたが、細胞間接触への実質的な影響は見られなかった。スケールバーは25μmである。
【0014】
図3A-Dは、細胞間コミュニケーションの制御におけるRho-ROCK-ミオシンIIシグナル伝達系がhES細胞に保存されていることを示す。(A)固く結びついたコロニーを示す未分化hES細胞(H9)の形態。透過型電子顕微鏡による超微細構造解析は、細胞間接触部位(矢印)に特殊な結合複合体をはっきり示している。(B)C3細胞外酵素(20μg/ml)で24時間処理したhES細胞は、密接な細胞間結合の破壊を示した。超微細構造解析は、C3処理細胞が細胞外周の小領域を介して近隣の細胞と接触することもあることを示している(差し込み図)。(C)mES細胞に対する濃度(10μM)より高濃度(20μM)で、Matrigel上で増殖させたhES細胞の、Y27632によりバラバラにされた細胞間結合。細胞接触指数は、hES細胞への阻害剤の効果を簡略に表している。データは平均± SD, **p<0.001, n=5である。(D)対照条件下で増殖したhES細胞の免疫蛍光分析は、細胞間接触部位にミオシンIIAがもっぱら局在し、その局在はE-カドヘリンの細胞内分布とオーバーラップすることを示す。ミオシンII特異的合成阻害剤、ブレビスタチン(10μM)は、C3もしくはY27632で処理した細胞で見られるのと同様にhES細胞の細胞間結合を破壊した。スケールバーは25μmである。
【0015】
図4A-Eは、ミオシンII選択的阻害剤、ブレビスタチンが、限定された条件下でヒト人工多能性幹(iPS)細胞の細胞-マトリックス相互作用、細胞生存、および自己複製を高めることを示す。(A)PDLコーティング上でさまざまな濃度のブレビスタチンまたはY27632で処理されたhiPS細胞の形態。hiPS細胞は阻害剤が存在しないとPDLコーティングに付着しない(データは示さず)。(B)さまざまな濃度のブレビスタチンまたはY27632で処理された浮遊培養におけるhiPS細胞の胚様体形成。顕微鏡下で5つの異なる視野にある胚様体の数を計数した。データは平均± SD, n=5である。同様の結果が3回の独立した実験で観察された。(C)ブレビスタチンまたはY27632、2.5μMの存在下でMatrigelもしくはPDL上で増殖させたhiPS細胞の細胞増殖。(D)QPCRで測定した、2.5μMのブレビスタチンまたはY27632存在下でMatrigelもしくはPDL上で増殖させたhiPS細胞における、Oct3/4の発現。(E)ブレビスタチン2.5μMを用いてPDLコーティング上で15代継代して増殖させたhiPS細胞の形態(上図)。中央の図は、免疫細胞化学により評価された、同じ条件下で増殖させたhiPS細胞におけるOct3/4の発現を示す。Matrigel上で増殖したhiPS細胞は、未分化コロニーと分化した線維芽細胞との混合を示す(下図)。スケールバーは、(E)下図が100μmである以外は50μmである。
【0016】
図5は、ES細胞において基本的な細胞間相互作用を制御するRho-ROCK-ミオシンシグナル伝達経路をまとめたモデルを示す。この研究で使用された化学物質およびsiRNAを、それぞれ赤色および星印で強調してある。点線は、細胞の完全性および自己複製の経路における、またはそれらの間の、考えられる機構的相互作用を示す。矢印は活性化を表し、バーは阻害を示す。
【0017】
図6A-Lは、ブレビスタチンによるNMIIの阻害が、クローン培養および浮遊培養条件下でhPS細胞の生存率を高めることを示す。(a)ウェスタン解析および免疫細胞化学解析により測定された、hES細胞におけるNMHCIIAおよびIIBの発現。ローディングコントロールとしてβアクチンを使用した。(b)ALPアッセイにより評価されたhiPS細胞のクローン検定。hiPS細胞を、7日間、ブレビスタチン5μMの存在下または非存在下で、96ウェルプレートのウェルあたり単一細胞として播種し、その後ALPアッセイで評価した。(c)クローニング効率は、播種したウェル数に対するALP陽性コロニーを有するウェル数の割合で決定された。データは平均± SD, **p<0.01, n=3である。同様の結果が、hES細胞からも得られた。(d-g)付着条件下でのhiPS細胞の細胞生存率アッセイ。細胞を三連で、PDLコート12ウェルプレート上に1 x 105細胞/ウェルとして播種した。24時間後、細胞を撮影し(d)、生存細胞の数をトリパンブルー色素排除アッセイにより計数した。(e)ブレビスタチンとともに播種した細胞は、対照より実質的に高い生存率を示した。データは平均 ± SD, *p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, n=3であった。同じ実験を細胞株ごとに少なくとも3回繰り返し、代表的なデータを示している。さまざまな濃度のブレビスタチンもしくはY-27632に対して同じパターンの反応が、各個の細胞株について繰り返し観察された。同様の結果がhES細胞からも得られた。(f)hiPS細胞のアポトーシスの評価。(e)において細胞生存率アッセイに使用した細胞をTUNELアッセイに供した。データは平均± SD, *p<0.05, **p<0.01, n=3である。(g)上記(e)に示すのと同じ条件下で播種した細胞を、開裂したカスパーゼ-3に対する抗体を用いて、ウェスタン解析によって評価した。ローディングコントロールとしてβアクチンを使用した。(h-l)ブレビスタチン処理は、浮遊培養においてhPS細胞の生存を増加させる。hiPS(FS)またはhES(BGN01)細胞は、ブレビスタチンもしくはY-27632の存在下または非存在下で2日間、浮遊培養で増殖させた後、写真撮影し(hiPS細胞を示す)(h
)、生細胞計数に供した(i, j)。TUNELアッセイ(k)、および開裂したカスパーゼ-3を検出するウェスタン解析(l)も行った(hiPS細胞から得られたデータを示す)。データは平均± SD, *p<0.05, **p<0.01, n=3である。ローディングコントロールとしてβアクチンを使用した。スケールバーは25μmである。
【0018】
図7A-Hは、NMHCIIA-/A- mES細胞における生存率の増加を示す。(a)親である野生型(RW4)およびNMHCIIA-/A-変異型mES細胞におけるNMHCIIAおよびNMHCIIBの発現をウェスタン解析によって評価した。βアクチンをローディングコントロールとして使用した。(b)ゼラチンコートプレート上で増殖させたRW4およびNMHCIIA-/A-変異型細胞の形態。RW4細胞がしっかりした細胞間接着を示すのに対して、変異型細胞はゆるい細胞間接触を示す。(c-e)NMHCIIA-/A- mES細胞は、RW4より高率で生存する。細胞は、三連で、1X105細胞/ウェルとしてゼラチンコートした12ウェルプレート上に播種した。24時間後、細胞を写真撮影し(c)、生細胞計数(d)ならびにTUNELアッセイ(e)で評価した。グラフは、3回の独立した実験の代表的なデータである。データは平均 ± SD, *p<0.05, n=3である。(f)NMHCIIB-/B- mES細胞の位相差画像。細胞は細胞間接着を維持している。(c,d)NMHCIIB-/B- mES細胞を上記のように播種し、細胞生存率(g)およびTUNEL(h)アッセイを実施した。データは平均± SD, n=3である。スケールバーは25μmである。
【0019】
図8A-Gは、NMIIの阻害がヒトおよびマウス多能性幹細胞において自己複製制御因子の発現を高めることを示す。(a-d)hES細胞は、ブレビスタチンを含まないmTeSR中でMatrigelコート6ウェルプレート上に、1X105細胞/ウェルで播種した。24時間後、培地を、さまざまな濃度のブレビスタチンを含む、または含まない、新鮮mTeSRもしくはhESmに交換した。培地交換の48時間後、RNAまたはタンパク質を抽出するために細胞を集めた。Oct3/4およびNanog発現は、mTeSR(a)もしくはhESm(b)中で増殖させた細胞からQPCRにより測定し、またはhESm(c,d)中で増殖させた細胞からウェスタン解析により測定した。ブレビスタチンを含まないmTeSR中で増殖させた細胞の状態を「対照」として示す。同様の結果がhiPS細胞からも得られた(データは示さない)。QPCRのために、データはβアクチンの発現レベルに対して標準化された。Y軸上の発現レベルは、任意の単位(対照を1.0に設定する)で示される。ウェスタン解析のために、βアクチンがローディングコントロールとして使用された。(e)同一条件下(5μMブレビスタチンを含む、または含まないhESm)で増殖させた細胞を、Oct3/4発現を検出するために免疫細胞化学分析にも供した。画像は、各フィルターの暴露時間を含めて、それぞれの条件ごとに正確に同じパラメーターで記録された。位相差画像は、mTeSR(対照)中で増殖させた細胞が小型でしっかり締まった形態を維持しているのに対して、hESm中で増殖させた細胞は大きく平らな形態を示すことを明らかにした。スケールバーは25μmである。(f)LIFの存在下で増殖させた野生型(RW4)およびNMHCIIA-/A- mES細胞におけるOct3/4およびNanogの発現をQPCRで解析した。データはβアクチンの発現レベルに対して標準化された。対照を1.0に設定する。(g)LIFの存在下または非存在下で2日間増殖させた一連の同じmES細胞株を、ウェスタン解析により評価した。ローディングコントロールとしてβアクチンを使用した。
【0020】
図9A-Hは、完全に限定された条件下で、ブレビスタチン処理がhPS細胞の自己複製を支持することを示す。(a-d)hiPS細胞はブレビスタチン存在下、PDL上で、20回継代して増殖させた。ブレビスタチン/PDL条件(a)または標準の無フィーダー条件(Matrigel(商標名))(b)下のhiPS細胞の形態を示す。共焦点顕微鏡法により免疫蛍光によって評価された、ブレビスタチン/PDL条件下で増殖させた細胞の、高倍率視野のOct3/4発現または位相差画像(c)。(d)標準の無フィーダー(Matrigel)条件、ブレビスタチン/PDL条件、またはY-27632/PDL条件下で増殖させた細胞におけるOct3/4およびNanog発現は、ウェスタン解析により評価した。ローディングコントロールとしてβアクチンを使用した。(e)ブレビスタチン/PDL条件、Y-27632/PDL条件、または標準の無フィーダー(Matrigel)条件下で増殖させたhiPS細胞の細胞増殖曲線は、生細胞数を数えることによって決定された。各データポイントは、平均± SD, n=3を示す。ブレビスタチン/PDL条件、Y-27632/PDL条件下、または標準の無フィーダー条件下で増殖させた細胞の細胞集団倍加時間は、それぞれ、およそ32.1時間、32.2時間、または31.8時間であった。同様の結果がhES細胞からも得られた。(f)ブレビスタチン/PDL条件下で20回継代して増殖させた細胞を集め、約2X106個の細胞をSCID/ベージュマウスの皮下に注入した。4から8週間後、奇形腫を採取し、組織学的評価に供した。いずれの奇形種サンプルにも三胚葉由来組織の存在が確認された。(g)パラフィン包埋奇形種切片を免疫蛍光分析により検査した。ネスチン、αフェトプロテイン、およびα平滑筋アクチンなどの組織特異的マーカーが奇形種由来組織において検出された。(h)限定された条件(ブレビスタチン/PDL)下で20回継代して増殖させたhiPS(FS)細胞を、標準的なGバンド染色法による核型分析に供し、染色体の完全性が維持されていることを確認した。スケールバーは25μmである。
【0021】
図10A-Dは、ブレビスタチン処理が、接着条件下でのhPS細胞の生存率を高めることを示す。(a)hiPS細胞は、Matrigelコートした12ウェルプレート上に1X105細胞/ウェルとして播種した。24時間後、生細胞数をトリパンブルー排除染色法で計数した。データは平均± SD, *p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001, n=3である。(b)hiPS細胞のアポトーシスアッセイ。TUNEL-FITC陽性細胞を蛍光顕微鏡下で判定し、PI陽性細胞数に対するTUNEL陽性細胞数の割合を計算した。データは平均± SD, *p<0.05, **p<0.01, n=3である。(c)PDLコートしたディッシュ上で、さまざまな濃度のブレビスタチンを含有する培地中で24時間増殖させたhiPS細胞の高倍率視野の位相差画像。ブレビスタチン処理した接着細胞の長く伸びた細胞の突起に注目されたい。(d)MLCKの阻害剤、ML-7は、さまざまな濃度で、PDLコートディッシュ上に播種したhiPS細胞を用いた細胞生存アッセイでテストした。細胞生存率の有意な増加は観察されなかった。hES細胞を用いた実験からも同様の結果が得られた。スケールバーは25μmである。
【0022】
図11A-Cは、浮遊培養で増殖させたhiPS細胞の生存率のブレビスタチンによる増加を示す。hiPS(NHDF1)細胞は、ブレビスタチンもしくはY-27632の存在下、または非存在下で、浮遊培養にて2日間増殖させ、生細胞計数(a)およびTUNELアッセイ(b)に供した。データは平均± SD, *p<0.05, **p<0.01, n=3である。(c)浮遊条件下で増殖させたhiPS細胞をさまざまな濃度のML-7で処理した。ML-7で処理した細胞において生存率に相違は見られなかった。
【0023】
図12は、限定条件下で培養されたhES細胞において染色体の完全性が維持されていることを示す。hES(H9)細胞は、限定条件(ブレビスタチン/PDL)下で、20回継代して増殖させ、標準的なGバンド染色法による核型分析によって評価した。異常のない雌性の核型が確認された。
【0024】
当業者には当然のことであるが、添付の図面に示すデータおよび情報は、単に代表的であるだけであって、本明細書のすべての範囲を表現するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
本明細書および添付の請求の範囲で使用される場合、単数形"a", "an"および"the"は、文脈からあきらかにそうでないと指示されない限り、複数の指示対象を含んでいる。したがって、たとえば、"a cell"(細胞(単数)) は複数のそうした細胞を含んでおり、"the agent"(薬剤(単数))と言うときには当業者に知られている1つもしくは複数の薬剤への言及が含まれる。
【0026】
また、"or"(または)の使用は、特に明記しない限り"and/or"(および/または)を意味する。同様に、“comprise,” “comprises,” “comprising” “include,” “includes,”および “including”(含んでなる、含む)は、いずれも置き換え可能であって、限定することを意図しない。
【0027】
さらに当然のことながら、さまざまな実施形態の記述が"comprising"(含んでなる)と言う表現を用いる場合、当業者は、ある特定の例において、”consisting essentially of"(基本的に〜からなる)または"consist of"(からなる)と言う語を代わりに用いて実施形態を記述することができることを理解するであろう。
【0028】
開示された方法および組成物の実施に際して、本明細書に記載されるのと同様または同等の方法および材料を使用することができるが、例示として方法、デバイスおよび材料を本明細書に記載する。
【0029】
特に明示しない限り、本明細書で使用されるすべての科学技術用語は、本明細書が属する技術分野の当業者にとって共通して理解される同じ意味を有する。したがって、本出願を通して使用される以下の用語は下記の意味を有するものとする。
【0030】
多能性幹細胞は、三胚葉由来の組織および生殖細胞系列のすべてを生じさせる能力を維持しつつ自己複製を起こす細胞型である。ヒト胚盤胞に由来する多能性ヒト胚性幹(hES)細胞は、パーキンソン病、心筋梗塞、脊髄損傷、および糖尿病などの疾患および障害を治療するための、細胞療法の有望な起源となるが、その臨床上の可能性は、その免疫原性および倫理的な問題によって阻まれている。
【0031】
本明細書は、Rho-ROCK-ミオシンII(RRM)シグナル伝達系が、細胞間および細胞-マトリックス間の相互作用、ならびにhiPSおよびhES細胞の細胞生存を制御していることを明らかにする。
【0032】
この知見に基づいて、本明細書は、ミオシンIIの化学阻害剤(たとえば、ミオシンIIに選択的な化学阻害剤)を組み合わせた培養系を提供する。さらに、本明細書は、hESおよびhiPS細胞を増殖させるために、成分の明確な合成D-リジンを使用することができることを示す。したがって、単一の合成マトリックス、および完全に限定された培地と組み合わせて、ミオシンII阻害剤(たとえば、ブレビスタチンおよびその類似体)を低濃度でさらに添加することによって、ヒト由来もしくは動物由来培養系に起因する病原体の存在を減らした(または、なくした)培養系が与えられる。
【0033】
本明細書の培地を用いて培養することができる細胞型には、ヒト、サルおよび類人猿を含めたあらゆる哺乳類に由来する幹細胞が含まれるが、さらに、胚性幹細胞、胚性生殖細胞およびNanog iPS細胞が含まれる(たとえば、Nature, 448:313-318, July 2007; およびTakahashi et al., Cell, 131(5):861-872;これらは参考として本明細書に含められる)。たとえば、人工多能性幹細胞(iPSもしくはiPSC)は、(内在性遺伝子の)選択的遺伝子発現により、または異種遺伝子によるトランスフェクションにより、非多能性細胞から得られる、多能性幹細胞の一種である。
【0034】
人工多能性幹細胞は、京都大学の山中伸弥のグループによって報告されている。山中は、胚性幹細胞において特に活性のある遺伝子を同定し、そうした遺伝子から選抜した遺伝子を、レトロウイルスを用いてマウス線維芽細胞にトランスフェクトした。最終的に、多能性幹細胞を作製するために必須の、鍵となる4つの多能性遺伝子;Oct-3/4、SOX2、c-Myc、およびKlf4を単離した。細胞はFbx15+細胞の抗生物質選択によって単離された。同グループは、ハーバード、MITおよびカリフォルニア大学ロサンゼルス校に属する2つの独立した他の研究グループと並んで、マウス線維芽細胞のiPSへのリプログラミングに成功し、生きたキメラの作製にも成功したことを示す研究を公表した。
【0035】
iPS細胞は、分子レベルおよび機能的レベルではES細胞と実質的に同一であるが、その治療上の可能性を医学的応用につなげるには重大な障害がある。問題の1つは、現在のiPS細胞のリプログラミングおよび増殖のための標準的なプロトコールが、見込まれる臨床目的に適さない動物由来物質を含んでいるため、hiPS細胞を作製し,増殖させることができる完全に規定された方法を開発する必要があるということである。
【0036】
hiPSおよびhES細胞の培養環境は、基本的に、2つの主要な要素、すなわち培地およびECMコーティングに依存するが、後者には無フィーダー培養に広く用いられるマウス腫瘍細胞由来ECMの混合物であるMatrigelが含まれる。近年自己複製メカニズムの理解が進んだことによって、完全な限定培地が製造されるようになったが、ECMの構成成分が複雑であるため、加えて、多能性幹細胞の細胞間もしくは細胞-マトリックス間相互作用に焦点を合わせた基礎研究の蓄積が不十分であるために、厳密な臨床基準に合致するコーティング法の開発は、いまだに大きな課題として残されている。
【0037】
細胞遊走、ミオシン合成、およびECM相互作用は、細胞の発生、細胞分化、ならびにアテローム性動脈硬化、関節炎、および糸球体腎炎などの特定の疾患の発症において重要である。細胞遊走における初期事象は、極性化および遊走する方向への突起の伸長である。Rhoファミリーの低分子量GTPアーゼは、細胞骨格および細胞接着を調節することによって、こうした突起(葉状仮足および糸状仮足)の形成を制御する。RacおよびCdc42はそれぞれ葉状仮足および糸状仮足の形成に関与し、Rhoはストレスファイバーの形成および収縮に関与する。これらのRhoファミリーメンバーによる協調的な調節によって、細胞は遊走することが可能となる。
【0038】
細胞をアゴニストで刺激すると、GDP結合型のRhoファミリー低分子量GTPアーゼはGTP結合型に変換されて、そのエフェクター分子と相互作用する。Rhoは、そのエフェクター分子、たとえばRhoキナーゼ/ROCK/ROK、およびミオシンホスファターゼのミオシン結合サブユニット(MBS)を介してミオシンのリン酸化を制御する(Kimura et al. 1996)。活性化されたRhoはRhoキナーゼおよびMBSと相互作用してRhoキナーゼを活性化する。その後、活性化されたRhoキナーゼは、ミオシン軽鎖(MLC)およびMBSをリン酸化する。MBSのリン酸化はミオシンホスファターゼを不活化する。
【0039】
ES細胞は胚盤胞の内部細胞塊(ICM)に由来する。ES細胞は、あらゆる種類の体細胞および生殖細胞系列を生じる能力を維持しながら(多能性)、無限に増殖することができる(自己複製)。この特別な幹細胞の機能は分子レベルで研究されてきたが、その結果Oct3/4およびNanogなどの主要な転写因子、ならびに白血病抑制因子(LIF)、骨形成タンパク質(BMP)およびWntなどの分泌型シグナル伝達分子の重要な役割が特定された。近年のhES細胞の樹立は、パーキンソン病および糖尿病などの疾患を治療するための細胞移植治療をもたらすものとして、多能性幹細胞の利用に扉を開いた。医学的応用に向けたhES細胞研究に対する要求の急激な増大にともなって、hES細胞を樹立して増殖させる揺るぎない技術を開発するために、分化型の成体細胞を誘導する前に、細胞治療の全戦略の根幹にある多能性を制御する方法を研究することが不可欠である。
【0040】
幹細胞は、特定の特殊な機能を有する細胞(たとえば、組織特異的細胞、実質細胞およびそれらの前駆細胞)を含めて、他の細胞型に分化する能力を有する細胞である。前駆細胞(すなわち”multipotent"(多分化能))は、最終分化の異なる細胞型を生じさせることができる細胞であり、さまざまな前駆細胞を生じさせることができる細胞である。生物の細胞型のうち一部、または多くを生じさせるがすべてを生じさせるわけではない細胞を、"pluripotent"(多能性)幹細胞と称することがあり、この多能性幹細胞は成熟した生物体の任意の細胞型に分化することが可能であるが、リプログラミングなしでは、その元になった細胞に脱分化することはできない。上記から分かるように、"multipotent"(多分化能)幹細胞/前駆細胞(たとえば、神経幹細胞)は、多能性幹細胞より狭い分化能力を有する。多能性幹細胞よりさらにもっと原始的な(すなわち特定の分化運命に関与しない)もう一つの細胞群が、いわゆる"totiptent"(全能性)幹細胞(たとえば、受精卵母細胞、発生の2細胞期および4細胞期の胚細胞)であって、特定の種のあらゆるタイプの細胞に分化する能力を有する。たとえば、1つの全能性幹細胞は、完全な動物体を生じさせることができる上に、特定の種(たとえばヒト)に見いだされる無数の細胞型をいずれも生じさせることができると考えられる。
【0041】
このように、移植に使用される幹細胞の単離および増殖、細胞再生および置換療法、創薬、ヒトの発生を研究するためのモデル系の創出、および遺伝子治療への関心が高まっている。しかしながら、現行の培養条件は、単離された幹細胞を未分化だが増殖性の状態に維持する能力が限られている。たとえば、胚性幹細胞および生殖細胞は、白血病抑制因子(LIF)を添加した無フィーダー培養によって維持することができる。その一方で、ヒト胚性幹細胞を維持するための従来法は、細胞を適当なフィーダー細胞層なしで、または適切なフィーダー細胞株から得られる馴化培地なしで培養すると、LIFの存在下であっても急速な分化を引き起こす。
【0042】
その上、未分化幹細胞を培養する現行法は、フィーダー細胞層(もしくは適当なフィーダー細胞株から得られる馴化培地)に加えて、血清の使用といったことを必要とする。血清、フィーダー細胞、および/または馴化培地などの成分の要求は、幹細胞の培養プロセスを複雑化し、加えて、in vivoでの使用のためには、その培養条件は結果的に異種物質による汚染をもたらす可能性がある。その上、フィーダー細胞および異種培養成分(たとえば、ウシ胎仔血清など)の使用は、幹細胞が望ましくない成分(たとえば、異常細胞、ウイルス、幹細胞集団のレシピエントにおいて免疫応答を引き起こす可能性のある細胞、異種融合細胞など)で汚染されるリスクを高めるので、治療薬としての、または治療薬の製造における、幹細胞の治療的可能性を制限する。
【0043】
本明細書は、動物性製品の非存在下で幹細胞を培養するための組成物、方法およびシステムを提供する。したがって、本明細書は、動物性製品を含まない幹細胞、そうした幹細胞を使用する方法、およびそうした幹細胞を含んでなる組成物を提供する。本明細書はまた、フィーダー細胞および動物由来物質の非存在下で、(たとえば、典型的な幹細胞培養技術と同等以上の)高い生存能力を維持しつつ、しかも細胞を未分化状態に維持ながら、完全に限定された培地中で幹細胞を培養するための方法および組成物を提供する。本明細書は、幹細胞の維持に際して細胞のシグナル伝達を改変する方法および組成物を含んでおり、それによって分化は予防されるが力強い細胞増殖は維持される。たとえば、本発明の培養物は、動物性製品存在下での培養に起因する混入物である、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)および/または乳酸デヒドロゲナーゼ上昇ウイルス(LDEV)を含まない。
【0044】
本明細書は、選択的化学阻害剤であるブレビスタチンによるミオシンII阻害が、hiPSおよびhES細胞の細胞-マトリックス間相互作用および細胞生存を増強することを示し、臨床に関連する培養環境下での、ヒト多能性幹細胞の増殖の成功に向けた重要な要素である。
【0045】
その上、hiPSおよびhES細胞の樹立プロセスのための培養条件は、ヒト多能性幹細胞の通常の維持および増殖のための条件と基本的に同じであるため、本明細書で開発された技術は、動物由来物質を含まない新規hiPSおよびhES細胞株を生み出すために応用することができる。
【0046】
細胞間接触は、さまざまな接着分子、それらと相互に接続した足場タンパク質、ならびに特異的な細胞内シグナル伝達経路により制御されるアクチン細胞骨格の相乗的な協同作用によって達成される。いくつかの細胞外分泌型シグナル伝達分子、たとえば、LIF、BMP、FGF、TGF-β/Nodal、およびWntは多能性の遺伝的プログラムに重要であることが研究から明らかにされているが、多能性ES細胞において細胞間のコミュニケーションおよび完全性を制御する細胞内シグナル伝達分子の機能的意義についてはほとんど知られていない。
【0047】
細胞間接触は、さまざまなタイプの接着分子、および相互に接続した細胞骨格機構、たとえばミオシン、ATP駆動分子モーターにより制御されているが、これらは、細胞の構造および極性細胞機能も決定する。siRNAによる機能喪失実験から、ES細胞の細胞接着のために非筋細胞ミオシンIIが必要であることが示された。ミオシンIIは両方向に頭部を有する通常のミオシンで、3つのアイソフォーム、IIA、IIBおよびIICからなるが、分化した細胞は3つすべてのアイソフォームを発現するのに対して、ES細胞ではそれらのうちIIC以外のすべてが発現されている。ミオシンIIAおよびIIBアイソフォームが同時に欠損した場合、細胞は、RhoもしくはROCKの機能を喪失した細胞で見られる、フェノコピーした細胞間接触の崩壊を示した。ROCKは、MYPT1をリン酸化および不活化して、ミオシンII機能を駆動するMRLCのリン酸化された活性型を保護する。MYPT1は、mES細胞の細胞間接触部位にもっぱら局在することが明らかになった。ROCKがmES細胞においてMYPT1の阻害を通じてミオシン機能を制御しているならば、MYPT1の枯渇はROCK阻害剤の強力な作用から、本来の細胞間コミュニケーションを救うことになるであろう。この仮説と一致して、阻害剤処理の前または後でMYPT1を枯渇させた結果、それぞれ細胞間接触の有意な保護または回復がもたらされた。
【0048】
ES細胞は小さい細胞サイズで高い核/細胞質比を保持しており、未分化状態で増殖させるとしっかりとしたコロニー形成を起こす。しかしながら、ES細胞は分化を始めるともっと大きく平らな形態を示し、細胞間接触が減少して、次にコロニーの外側への遊走が起こることもある。形態学的観察は説明的であるにもかかわらず、幹細胞の具体的な生物学的状態を正確に表しているので、形態は、いまだにES細胞の分化状態を判定するための基本的で信頼性のある情報として日常的に使用される。
【0049】
たとえば、Gタンパク質共役受容体(GPCR)、インテグリンおよび受容体型チロシンキナーゼ(RTK)による細胞骨格へのシグナル伝達は、細胞の形態変化、遊走、増殖および生存率などの、細胞の活動にさまざまな影響をもたらすことができる。インテグリンは、接着斑(FA)複合体の成分とともに、細胞外マトリックスと細胞骨格とを結びつける働きをする。インテグリンを活性化すると、接着斑キナーゼ(FAK)およびSrcキナーゼが活性化され、その結果、パキシリンおよびCrk結合基質p130 CASなどの他のFA成分のリン酸化が起こり、シグナル伝達アダプタータンパク質の動員も起こる。これは、FAダイナミクスおよびFAターンオーバーの変化に加えて、アクチン重合を伴う。
【0050】
同様に、RTKは、本来のチロシンキナーゼ活性を利用して、その細胞内ループおよび/または結合したシグナル伝達成分の部位をリン酸化する。これによって、ホスホイノシチドシグナル伝達、低分子量GTPアーゼ活性化およびMAPキナーゼカスケードの下流のメディエーターを調節する、アダプタータンパク質およびシグナル伝達キナーゼの動員がもたらされる。GPCRは、アクチンの動的挙動に影響を与える同様のシグナル伝達機構と共役するために、ヘテロ三量体Gタンパク質で開始されるセカンドメッセンジャーを利用する。
【0051】
外部刺激に対する細胞応答の細胞内調節は数多くのシグナル伝達カスケードを通して生じるが、これには、Rhoファミリーの低分子量GTPアーゼ(Rho、Rac、およびcdc42)およびそれらの活性化因子、グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)、ならびに下流のプロテインキナーゼエフェクター(Rhoキナーゼ/ROCKおよびP21活性化キナーゼなど)が含まれる。これらのカスケードは、コフィリン、Arp2/3、Ena/VASP、フォルミン(formins)、プロフィリンおよびゲルゾリンなどのアクチンと相互作用する調節タンパク質を含めて、アクチン細胞骨格の挙動を制御するタンパク質に集中している。異なる経路を介したシグナル伝達は、異なるアクチン依存性構造の形成をもたらすことができるが、それらの協調的な重合/脱重合は、方向性のある細胞遊走および他の細胞挙動に重要である。遊走は、ミオシンへのシグナル伝達によっても制御されるが、ミオシンは先端のアクチンダイナミクスに関与し、細胞の後方を縮めることができる。
【0052】
Rhoは、ミエリン由来の増殖抑制シグナルの中心的なインテグレーターであると示唆された低分子量GTP結合タンパク質である(McKerracher and Winton, Neuron, 36:345-348, 2002)。ミエリン結合阻害因子(MAGまたはNogo-A)の非存在下では、神経の成長および再生は、Rho-GDIに起因するRho活性抑制の結果として起こると考えられている。ある非限定的メカニズムにおいて、ミエリン結合阻害因子(MAGまたはNogo-A)はNgRと結合し、これが次にp75と結合してこれを活性化する。活性化されたp75は、RhoからRho-GDIを引き離し、RhoがGDPのGTPへの交換によって活性化されることを可能にする。活性化されたGTP結合Rhoはその後Rhoキナーゼ(ROCK)などのシグナル伝達タンパク質と相互作用して、軸索の成長および再生を抑制する(総説としてKaplan and Miller, Nat. Neurosci., 6:435-436, 2003がある)。
【0053】
Rho GTPアーゼファミリータンパク質には、RhoA、Rac1およびCdc42などがあるが、これらは多岐にわたる細胞プロセス、たとえば細胞形態、運動性、増殖、分化およびアポトーシスを制御している(Hall, 1994; Van Aelst and D'Souza-Schorey, 1997)。
【0054】
Rho結合コイルドコイル形成セリン/スレオニン プロテインキナーゼ(ROCK)ファミリーメンバーは、Ras関連低分子量GTPアーゼRhoのエフェクターである。ROCKファミリーには、p160ROCK (ROCK-1)、ROKα/Rhoキナーゼ/ROCK-II、プロテインキナーゼPKN、ならびにシトロンおよびシトロンキナーゼが含まれる。ROCKは、高血圧、脳血管攣縮、冠動脈攣縮、気管支喘息、勃起障害、緑内障、血管平滑筋細胞増殖、心筋肥大、悪性腫瘍、虚血再灌流傷害、内皮機能不全、クローン病および大腸炎、神経突起伸長、レイノー病、狭心症、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化、ならびに心肥大および血管周囲線維症などのさまざまな疾患および障害に関与している。
【0055】
ROCKの2つのアイソフォームにはROCKI(ROK-βもしくはp160ROCKとも呼ばれる)およびROCKII(ROK-αもしくはRhoキナーゼとも呼ばれる)がある。2つのアイソフォームは、全体として65%の配列相同性を有するが、キナーゼドメインは92%配列同一性を有する。2つのアイソフォームは組織中で普遍的に発現されるが、特定の組織においては強度が異なる。
【0056】
ROCKIは、Ser/Thrプロテインキナーゼ活性を有するRhoA結合タンパク質であって、1358アミノ酸の長さである。そのポリペプチドのN末端には、触媒作用のあるキナーゼドメインがあるが、これは約300アミノ酸の長さで、Ser/Thrキナーゼに特徴的な保存的モチーフを含んでいる;キナーゼドメインはRhoEへの結合にも関与するが、RhoEはROCK活性の負の制御因子である。さらに、ROCKIのC末端には、可動性コイルドコイル領域内Rho結合ドメイン、プレクストリン相同(PH)ドメイン、およびシステインリッチドメインなどのいくつかの機能ドメインがある。ある実施形態において、PHドメインはおそらく、たとえばアラキドン酸などの脂質メッセンジャーとの相互作用による制御に必要である。ROCKの自己阻害活性は、カルボキシ末端とキナーゼドメインとの相互作用の際に示され、キナーゼ活性を減少させる。Rho結合ドメインは、約80アミノ酸の長さであって、活性化されたRhoAと相互作用するために必要とされるが、これは、一部のRho結合タンパク質に存在するドメインに対して相当な配列相同性を有する。
【0057】
ROCK阻害剤の例としてはY-27632およびファスジルあるが、これらはキナーゼドメインに結合してATP競合メカニズムでその酵素活性を阻害する。ROCK活性化の負の制御因子には、低分子量GTP結合タンパク質、たとえばGem、RhoEおよびRadがあり、これらはROCK活性を弱めることができる。H-1152二塩酸塩(H-1152P-2HCl;(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル] ホモピペラジン)も使用することができる。その他のROCK阻害剤として、たとえば、国際出願公開番号;WO 01/56988; WO 02/100833; WO 03/059913; WO 02/076976; WO 04/029045; WO 03/064397; WO 04/039796; WO 05/003101; WO 02/085909; WO 03/082808; WO 03/080610; WO 04/112719; WO 03/062225; およびWO 03/062227に記載の阻害剤が挙げられる。上記の例の一部において、阻害剤のモチーフにはインドールコア;2-アミノピリジン/ピリミジンコア;9-デアザグアニン誘導体;ベンズアミド含有;アミノフラザン含有;および/またはそれらの組み合わせが含まれる。たとえば、WO 03/080610は、ROCK阻害剤などのキナーゼ阻害剤としてのイミダゾピリジン誘導体、ならびにROCK1および/またはROCK2の作用を阻害するための方法に関する。上記出願の明細書は参考として本明細書に含めるものとする。
【0058】
Rhoのもう一つの阻害剤は、S-ファルネシルチオサリチル酸(FTS)ならびにその誘導体および類似体である。また別の阻害剤がイミダゾール含有ベンゾジアゼピンおよび類似体である(たとえば、WO 97/30992を参照されたい)。Rho阻害剤は、Rho阻害をもたらすROCK(Rho活性化キナーゼ)との相互作用により、下流で作用することもある。こうした阻害剤は、米国特許第6,642,263号に記載されている(その明細書は、参考としてその全体を本明細書に含めるものとする)。使用することができる他のRho阻害剤が、米国特許第6,642,263号および第6,451,825号に記載されている。こうした阻害剤は、たとえば米国特許第6,620,591号に記載の従来の細胞スクリーニングアッセイによって同定することができる(上記はいずれも、参考としてその全体を本明細書に含めるものとする)。本明細書の特定の実施形態において、ROCK1はROCK2の代わりに標的とされ、阻害剤は、結果的にROCK1の阻害をもたらすアロステリック部位に結合する。
【0059】
活性型のRho GTPアーゼだけが、特異的なエフェクタータンパク質(Rhoシグナル伝達経路については、Rhoキナーゼ、およびDiaphanousの哺乳類ホモログであるmDia)に結合することによって下流の経路にシグナル伝達することができるので、細胞内高次構造の特定の立体構造の中に、アクチン細胞骨格および分子モーターを時間空間的に組み入れる分子スイッチであると考えられる(図1)。生物学的機能のさまざまな側面に関するRhoファミリータンパク質の重要な役割は、多くのさまざまな細胞型で広く研究されてきたが、幹細胞制御に関するその役割についての研究をここに記載する。
【0060】
Rho GTPアーゼが成人の皮膚幹細胞、造血幹細胞および間充織幹細胞において幹細胞機能の制御に重要な役割を果たすことが示された。本明細書は、ES細胞が、多能性を維持しながら細胞間の完全性を制御するために、Rhoシグナル伝達経路を利用していることを示す。
【0061】
本明細書は、ROCKを阻害することで、結果として幹細胞(たとえば、ヒト胚性幹細胞 - hES細胞および人工幹細胞)が細胞外マトリックスなどのコーティングの必要なしにプラスチックディッシュ上で増殖できるようになることを示す。さらに本明細書は、ミオシンII活性の阻害も、幹細胞(たとえば、hESおよびhiPS)の増殖能力、および多能性を維持する能力を調節していることを示す(たとえば、記載された経路の図式については図5を参照されたい)。
【0062】
ある実施形態において、ミオシンII阻害剤を含有する培地が与えられる。別の実施形態において、ROCK阻害剤、ミオシンII阻害剤、またはそれらを組み合わせて含有する培地が与えられる。こうした培地は、フィーダー層または細胞外マトリックスでコートされた組織培養用具なしで、hES細胞およびhiPS細胞などの幹細胞を培養するのに有用である。別の実施形態では、こうした培地を用いてポリ-D-リジンでコートされた組織培養用具上で幹細胞が培養される。
【0063】
また別の実施形態において、培地は、ROCK阻害剤、ミオシンII阻害剤またはそれらの組み合わせに加えて、他の成分を含有することができる。たとえば、培地は、アミノ酸(たとえば、非必須アミノ酸)、抗生物質、殺真菌剤、増殖因子、LIF、含硫生物活性化合物(たとえば、β-メルカプトエタノール)、ピルビン酸塩(たとえば、ピルビン酸ナトリウム)、血清(たとえば、ヒト血清、ウシ血清)およびそれらの任意の組み合わせを含有することができる。追加の作用物質はいずれも、培養すべき幹細胞と同じ種に由来するものであるか、または化学合成されたものであることが好ましい。さらにもっと好ましい実施形態において、細胞培養培地および培養条件は動物由来製品を含まない。
【0064】
本明細書は、一つには、動物由来製品の非存在下での培養において幹細胞の増殖および丈夫さを増進するために使用することができる、生物学的作用物質の発見に基づくものである。それに加えて、本明細書は、本明細書の生物学的作用物質が、フィーダー層の非存在下でも、幹細胞培養物の増殖、複製、および丈夫さを増進するという発見に基づく。培地は基本的に無血清とすることができ、フィーダー細胞層、もしくはフィーダー細胞の別の培養物から得られる馴化培地の使用を必要としないが、ただし一部の実施形態では、数世代の継代(たとえば1から50代以上の継代)のためにフレッシュな無フィーダー培養に細胞を移す前に、同種フィーダー細胞(もしくはそうした細胞から得られる馴化培地)を含む増殖環境で幹細胞を最初に培養することができる。
【0065】
本明細書に記載の培地は、ミオシンII阻害剤、ROCK阻害剤、またはそれらの組み合わせを含有する。この培地はまた、非必須アミノ酸、酸化防止剤、還元剤、増殖因子およびピルビン酸塩を含有することができるがこれに限定するものではない。基本培地は、たとえば、Dulbecco's Modified Eagle Medium (DMEM)、DMEM/F-12またはKO-DMEMであって、いずれもL-グルタミン(たとえば、ジペプチドL-アラニル-L-グルタミン (Invitrogen)を含める)、非必須アミノ酸、およびβ-メルカプトエタノールが添加されていてもよい。培地は通常、細胞培養に添加する前に(たとえば濾過により)滅菌される。培地には、抗生物質および殺真菌剤も添加することができる。
【0066】
ミオシンII阻害剤の例としては、ブレビスタチン(1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロ-4-ヒドロキシピロロ[2.3-b]-7-メチルキノリン-4-オン;C18H16N2O2)および一般式Iを有する類似体がある:
【化1】

【0067】
式I
式中、R1-4はそれぞれメチルもしくは水素である。
【0068】
ブレビスタチンは、分枝、伸長を阻止する。しかしながら、特異性の低いミオシン阻害剤、たとえばBDMなども使用することができる。文献で報告された、いくつかのブレビスタチンの機能的類似体がある(Lucas-Lopez et al. 2008)。ミオシンIIの機能はミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)により制御されるので、ML-7およびML-9などのMLCK阻害剤もミオシンIIの活性を阻害するために使用することができる。ある実施形態において、ブレビスタチンの濃度は約1.25 - 10μMが有効である。この範囲の中で、この化合物は、通常、ヒトESおよびiPS細胞に対して実質的に高く安定したプレーティング効率および抗アポトーシス効果を示すポリ-D-リジンコーティングと組み合わせて、2.5μMで長期間の細胞培養に使用された。
【0069】
増殖因子は、幹細胞の増殖を促進するのに有効な物質であって、補完物質として培地に加えない限り、基本培地の成分とはならない前記物質を表す。増殖因子には、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、上皮増殖因子 (EGF)、インスリン様増殖因子-I (IGF-I)、インスリン様増殖因子-II (IGF-II)、血小板由来増殖因子-AB (PDGF)および血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)、アクチビン-A、Wntおよび骨形態形成タンパク質 (BMP)、インスリン、サイトカイン、ケモカイン、モルフォゲン、中和抗体、他のタンパク質、ならびに小分子があるが、これに限定されない。
【0070】
内在性増殖因子を本明細書にしたがって培地に添加してもよく、実質的に未分化状態で幹細胞培養を維持するのに役立つ。こうした因子およびその有効な濃度は、本明細書の他の箇所に記載のように、または細胞培養分野の当業者に知られている技術を用いて,特定することができる。本明細書の組成物および方法に有用な増殖因子の代表的な例として、bFGF、インスリン、酸性FGF (aFGF)、上皮増殖因子 (EGF)、インスリン様増殖因子I (IGF-I)、IGF-II、, 血小板由来増殖因子 (PDGF)および血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)、アクチビン-A、骨形態形成タンパク質 (BMP)、ホルスコリン、グルココルチコイド(たとえばデキサメタゾン)、トランスフェリン、ならびにアルブミンが挙げられる。
【0071】
基本培地は、アミノ酸、ビタミン類、塩類、および栄養物からなる溶液であって、培養細胞の増殖を支えるのに有効な前記溶液を表すが、これらの化合物は通常、追加の化合物を添加しない限り細胞増殖をサポートすることはできない。栄養物としては、細胞が代謝することができる炭素源(たとえば、グルコースなどの糖)、ならびに細胞生存に必要な他の化合物が挙げられる。これらは、その化合物(たとえば、必須アミノ酸)を合成するために必要な(1つもしくは複数の)タンパク質をコードする(1つもしくは複数の)遺伝子のうち1つもしくは複数が存在しないために、細胞が自ら合成することができない化合物であるが、細胞が合成できる化合物については、細胞の特定の発生段階が原因で、必要な生合成タンパク質をコードする(1つもしくは複数の)遺伝子が十分なレベルでは発現されていない。哺乳動物細胞培養の分野では多くの基本培地が知られており、たとえば、Dulbecco's Modified Eagle Media (DMEM)、Knockout-DMEM (KO-DMEM)、およびDMEM/F12があるが、bFGF、インスリン、およびアスコルビン酸を追加することができる培地であって、実質的に未分化の状態で幹細胞の増殖を支える培地であれば、いかなる培地も使用することができる。
【0072】
「馴化培地」は、培地中で培養された細胞に由来する可溶性因子がさらに追加された増殖培地を表す。細胞培養から馴化培地を分離する方法は当技術分野でよく知られている。当然のことながら、馴化培地は基本的に細胞を含まないことが好ましい。これに関連して、「基本的に細胞を含まない」とは、馴化培地が分離される前の培養物と比較して、単位容積当たり、約10%未満の細胞数、好ましくは約5%、1%%、0.1%、0.01%、0.001%%、および0.0001%未満の細胞数を含有する馴化培地を意味する。
【0073】
「限定」培地は、もっぱら生化学的に限定された構成成分からなる、生化学的に限定された調合品を表す。限定培地は、もっぱら、既知の化学組成を有する構成成分を含有することができる。限定培地は、既知の起源から得られる成分を含んでいてもよい。たとえば、限定培地は、既知の組織もしくは細胞から分泌される因子および他の組成物を含有することもできる;しかしながら、限定培地は、そうした細胞の培養物から得られる馴化培地を含有することはない。したがって、「限定培地」は、必要であれば、分画されていない馴化培地サンプル中で検出可能な、少なくとも1つの成分を除去するために分画された、馴化培地の一部を含む部分まで、添加される特定の化合物を、培地を形成するために含有することができる。ここで、馴化培地の1つもしくは複数の検出可能な成分を「実質的に除去する」とは、霊長類幹細胞の長期にわたる実質的に未分化の培養をサポートする能力が、分画されていない馴化培地とは異なる、分画された馴化培地を結果として生じるように、少なくとも検出可能な(1つもしくは複数の)既知成分を馴化培地から除去することを意味する。馴化培地の分画は、検出可能な成分の除去に適した任意の方法(または複数の方法の組み合わせ)、たとえば、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、免疫沈降法などによって行うことができる。同様に、「限定培地」は、ヒト血清成分を含めて、動物由来の血清成分を含んでいてもよい。これに関連して、「既知の」とは、化学的組成もしくは成分に関して当業者が知っていることを意味する。
【0074】
細胞培養は、それが外部から添加された、フィーダー細胞培養物由来の馴化培地を含有せず、外部から添加された培養フィーダー細胞も含有しないならば、「基本的に無フィーダー」であるが、この場合「外部から添加されたフィーダー細胞がない」とは、フィーダー細胞層を発生させる細胞がそのために意図的に導入されなかったことを意味する。当然、培養される細胞がフィーダー細胞を含有するシード培養から得られる場合、たまたま同時に単離されて、その後、望ましい細胞(たとえば未分化幹細胞)とともにフィーダー細胞のほんの一部が別の培養に導入されることは、フィーダー細胞の意図的な導入と見なされるべきでない。同様に、培養液中にシードされた幹細胞から生じるフィーダー細胞もしくはフィーダー様細胞は、意図的に培養物中に導入されたと見なされるべきではない。
【0075】
「非必須アミノ酸」は、所定の細胞型のために培地中に添加する必要のないアミノ酸の種類を表すが、それは、典型的には、細胞がそうした特定のアミノ酸種を合成するためであり、もしくは合成する能力を有するからである。種ごとに異なるが、非必須アミノ酸には、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、グリシン、L-プロリン、およびL-セリンがあることが知られている。
【0076】
細胞培養は、外部から添加された血清を含有しないならば、「基本的に血清を含まない」。培養中の細胞が血清成分の一部もしくはすべてを産生する場合、または培養すべき細胞が血清を含有する培地中で増殖させたシード培養に由来する場合、たまたま同時に単離されて、その後、ごく少量の血清(たとえば、約1%未満)が別の培養に導入されることは、意図的な血清の導入と見なされるべきでない。
【0077】
有用な還元剤として、β-メルカプトエタノールがある。モノチオグリセロールもしくはジチオスレイトール(DTT)などの他の還元剤は、単独で、または組み合わせて、同様の効果で使用することができる。さらに他の同等の物質が細胞培養技術分野の当業者によく知られている。
【0078】
ピルビン酸塩も本明細書の培地中に含まれていてもよい。ピルビン酸塩としては、ピルビン酸ナトリウム、または実質的に未分化の状態で幹細胞の増殖を維持および/または強化するのに効果のある別のピルビン酸塩、たとえばピルビン酸カリウムが挙げられる。
【0079】
本明細書の培地に追加するのに適した、その他の化合物としては、ヌクレオシド(たとえば、アデノシン、シチジン、グアノシン、ウリジンおよびチミジン)ならびにヌクレオチドがある。さまざまな濃度のヌクレオシドおよび/またはヌクレオチドを含有することができる。
【0080】
当然のことながら、使用済みの培地を新鮮培地に、連続的に、または定期的な間隔を置いて(典型的には1から3日ごとに)、置き換えることが望ましい。新鮮培地を使用する利点の1つは、細胞が従来技術のフィーダー細胞上、または馴化培地中で培養される場合より均一かつ迅速に増殖するように条件を調整できることである。
【0081】
前の出発細胞集団と比べて4、10、20、50、100、または1000倍以上増殖した幹細胞集団を得ることができる。適切な条件下では、増殖した集団内の細胞は、培養を開始するために使用した幹細胞と比べて、50%、70%、またはそれ以上が未分化状態であると思われる。継代ごとの増殖の程度は、培養終了時に収集された細胞の概数を、最初に培養にシードされた細胞の概数で割ることにより計算することができる。増殖環境の形状が制限されている場合、または他の理由により、細胞は、さらに増殖させるために同様の増殖環境に継代してもよい。全増殖は、それぞれの継代での増殖をすべて集めた結果である。もちろん、継代ごとに増殖した細胞すべてを保持する必要はない。たとえば、細胞がそれぞれの培養で2倍に増殖するが、細胞の約50%しか継代ごとに保持されないならば、結果として、およそ同数の細胞が繰り越されることになる。しかし、4回培養後、細胞は16倍の増殖を経たとされる。細胞は、当技術分野で知られている低温凍結技術により保存することができる。
【0082】
胚性幹細胞は、Doetschman et al. (1985) J. Embryol. Exp. Mol. Biol. 87:27-45に記載のように、当業者に周知の方法を用いて作製および維持される。任意のES細胞株を使用することができる。ES細胞の作製に通常使用されるマウスの細胞株の1つが129J株である。もう1つのES細胞株がマウス細胞株D3(American Type Culture Collection, カタログ番号CKL 1934)である。さらに別のES細胞株がWW6細胞株である(Ioffe et al. (1995) PNAS 92:7357-7361)。ヒト胚性幹細胞(hESC)は、たとえば、胚胞期まで増殖させたヒトin vivo着床前胚、in vitro受精胚、または1細胞期ヒト胚から得られる、ヒト胚盤胞から単離することができる(Bongso, et al. (1989), Hum. Reprod., vol. 4: 706)。ヒト胚は、G1.2およびG2.2培地中で胚胞期まで培養することができる(Gardner, et al. (1998), Fertil. Steril., vol. 69:84)。透明帯は、プロナーゼ(Sigma)への短時間の暴露により胚盤胞から除去される。内部細胞塊は、免疫手術によって、または機械的な分離法によって取り出すことができ、これをマウス胚フィーダー層の上に、または本明細書に記載の限定された培養系に播種する。9から15日後、内部細胞塊由来の増殖物を、1 mM EDTAを含有する、カルシウムおよびマグネシウムを含まないリン酸緩衝食塩水(PBS)に暴露すること、ディスパーゼ、コラゲナーゼもしくはトリプシンに暴露すること、またはマイクロピペットを用いて機械的に分離することのいずれかによって、凝集塊(clump)に分離する。次に分離された細胞を、新鮮培地中に前と同じように再び播種して、コロニー形成を観察する。未分化の形態を示すコロニーをマイクロピペットにより個別に選抜し、機械的に凝集塊に分離し、再播種する。胚性幹細胞様形態は、見かけ上高い、細胞質に対する核の比率、および顕著な核小体を有する小型のコロニーとして特徴付けられる。その結果得られた胚性幹細胞はその後、通常、1-2週間ごとに定期的に、短時間のトリプシン処理、Dulbecco’s PBS(カルシウムもしくはマグネシウムを含まず2mM EDTAを含む)への暴露、IV型コラゲナーゼ(約200 U/ml)への暴露、または個別のコロニーの、たとえば、マイクロピペットを用いた機械的分離による選択によって、バラバラに分けられる。
【0083】
単離された幹細胞は、任意の適当な細胞培養技術を用いて、幹細胞の実質的に未分化の増殖を支える、本明細書の培地で培養することができる。たとえば、標準的な方法を用いて、霊長類フィーダー細胞(好ましくは同種フィーダー細胞)の溶解前に沈着したマトリックス、または合成もしくは精製マトリックスを調製することができる。次に、培養すべき幹細胞を、培地とともにマトリックスの上に添加する。他の実施形態において、単離された未分化幹細胞は、ラミニンを含有する細胞外マトリックス、または増殖が止まったヒトフィーダー細胞層(たとえば、ヒト包皮繊維芽細胞層)に直接添加し、本発明の培養法にしたがって血清を含まない増殖環境で維持することができる。さらに別の実施形態において、幹細胞は、細胞外マトリックス物質の非存在下で生体適合性細胞培養プレートに直接添加することができる(たとえば、ポリスチレン、ガラスなどの上にじかに)。従来技術で培養された既存の胚性幹細胞株とは異なり、本発明の方法にしたがって調製および培養された胚性幹細胞およびその樹立株は、フィーダー層に存在する可能性のある異種抗原への暴露を回避し、または減少させた。これは一つには、フィーダー層の非存在下で、またはじかに細胞培養基材上で、増殖を促進する培地組成によるものである。このことは、ヒト細胞をたとえば非ヒト動物細胞で汚染するリスク、非ヒト動物細胞からヒト細胞へ病原体を感染させるリスク、およびヒト細胞を有毒な異種因子に暴露するリスクを回避する。
【0084】
本明細書の細胞培養培地、および本明細書にしたがって幹細胞を培養する方法は、幹細胞株が有効に用いられるあらゆる技術に応用可能であると考えられる。たとえば、本明細書の培地および方法に基づいて培養された細胞は、幹細胞を未分化状態で培養するのに有用な増殖因子を同定するためのスクリーニングに使用することができるのに加えて、そうした細胞を特定の細胞もしくは組織系統に向かって分化させる化合物を同定するためのスクリーニングにも使用することができる。本明細書は、新たな幹細胞株を創出するだけでなく、遺伝子改変された幹細胞を開発することも可能にする。
【0085】
本明細書は、ミオシンII阻害剤およびさまざまな基本培地組成物を含んでなるキットも提供する。ある実施形態において、キットはさらに、1つもしくは複数のROCK阻害剤、細胞培養基材を含んでいてもよい。ある実施形態において、キットは、実質的に精製されたポリ-D-リジンを、基材をコートするために含んでいることがあるが、細胞培養基材はポリ-D-リジンであらかじめコートされていてもよい。キットは、生物学的作用物質を基本培地に添加することができる使用時まで、そうした物質を離れた状態に維持するように、区画に分けられていてもよい。
【0086】
本明細書の培養条件は、本明細書の培地、ならびに一般的に幹細胞の未分化増殖を支える生体適合性基材を含む細胞培養容器からなる。ある実施形態において、生体適合性基材は、細胞が付着することができるプラスチック、セラミック、金属もしくは他の生体適合性材料などの固体である。ある実施形態において、生体適合性基材はポリリジン(たとえば、ポリ-D-リジン)を含む。生体適合性基材は、あらゆる細胞外マトリックス組成物を排除することができる。しかしながら、一部の態様では、最小量のマトリックス材料を与えることは有用であるかもしれない。典型的には、マトリックス材料は、細胞型と同じ種に由来する。たとえば、細胞が付着することができる組成物(たとえば、マトリックス)を使用することができる。ある実施形態において、マトリックスは、ナイロン(ポリアミド)、ダクロン(ポリエステル)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリビニル化合物(たとえばポリ塩化ビニル)、ポリカーボネート(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE; TEFLON(登録商標))、Thermanox (TPX)、ニトロセルロース、綿、ポリグリコール酸(PGA)、腸線縫合糸、セルロース、ゼラチン、デキストラン、コラーゲン、フィブロネクチンおよびこれらのさまざまな組み合わせとすることができるが、これに限定されない。培養容器上のマトリックス材料またはコーティングが、生きた生物中に見いだされる生体材料を含んでいる場合、マトリックス材料は、培養環境を汚染する可能性のある、動物性製品もしくは細胞培養材料の存在を回避するために、化学合成であることが好ましい。
【0087】
培養容器は、マルチウェル組織培養プレートのウェルを含めて任意の形および大きさとすることができ、攪拌槽型反応器ほどの大きさとすることもできる。大規模な応用のために、培地中に懸濁させることができるマイクロビーズもしくは他の基材(たとえば、プラスチックビーズまたはポリマー)を使用することにより、細胞付着のための表面積を増やすことができるが、これらはコートされていてもいなくても使用することができる。
【0088】
こうした方法を用いて、幹細胞、たとえばヒト胚性幹細胞またはhiPS細胞集団を、得られた細胞培養物から単離することができるが、それについて本明細書のもう一つの実施形態を示す。こうした集団は任意の適当な方法によって単離することができる。その方法には、アフィニティクロマトグラフィー、パニング、および蛍光標識セルソーティングがある。こうした方法はいずれも、未分化状態を指示する、細胞に基づくマーカーに特異的な、1つもしくは複数の分離試薬(たとえば、抗体および抗体フラグメント、レポーター遺伝子/タンパク質などであるがこれに限定されない)を使用する。実質的に未分化のヒト胚性幹細胞に関して、このようなマーカーには、たとえば、転写因子Oct-4およびNanog、ならびに細胞表面マーカーSSEA-4、Tra-1-60、およびTra-1-81があるがそれらに限定されない。他のマーカーとしては、テロメラーゼ、Myc、p300およびTip60ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、アセチル化ヒストン、ならびにアルカリホスファターゼが挙げられる。ネガティブ選択も使用することができ、それによって,実質的未分化状態以外の状態を示す1つもしくは複数のマーカーを発現する細胞、あるいはまた、特定のマーカーを発現できない細胞を、望ましい細胞集団から除去することができる。こうした集団を用いて、ヒト胚性幹細胞などの幹細胞の細胞株を含めた、安定した幹細胞株を作製することができる。必要ならば、こうした細胞を遺伝的に改変して、たとえば、1つもしくは複数の内在性遺伝子の発現を変化(すなわち増加もしくは減少)させること、および/または細胞に導入された1つもしくは複数の遺伝子を発現させることができる。こうした遺伝的改変は、異常な細胞株を作り出すだけでなく、特定の幹細胞株で見いだされる遺伝的欠陥を正すのにも役立つ可能性がある(異常な細胞株は、特定の病的状態と関連づけられる遺伝的状況を模倣または再現したモデル系として役立つ可能性がある)。本明細書のこのような幹細胞の単離された集団は、動物性物質を含まない幹細胞であると規定することができる(すなわち、動物由来物質とともに培養されたことがない)。
【0089】
本明細書のさらに他の実施形態は、本明細書にしたがって培養または単離された実質的に未分化の幹細胞を含めた、幹細胞を使用する方法に関する。たとえば、こうした細胞を用いて、細胞の分化、あるいはまた、実質的に未分化な状態での持続的維持、またはより原始的な状態への脱分化(たとえば、多分化能幹細胞から多能性もしくは全能性幹細胞へ進むこと)を促す因子を同定することができる。簡単に述べると、実質的に未分化な状態の分化もしくは維持との関連において、上記方法はたとえば、ミオシンII阻害剤、ROCK阻害剤もしくはこれらを組み合わせたものを、本明細書の培地で培養されている実質的に未分化の幹細胞に暴露することに関する。テスト化合物への暴露後、細胞が実質的未分化状態によりよく維持されたかどうか、または生物学的作用物質により分化誘導されたかどうかを判断するために、細胞を評価する。細胞が実質的未分化状態によりよく維持されたならば、その生物学的作用物質は、幹細胞の未分化状態または自己複製を推進する物質として同定することができる。細胞を分化させたならば、テスト化合物は、実質的に未分化の幹細胞の分化を促す物質として同定することができる。分化した細胞の発生的運命を確認するために、言い換えれば、分化の結果としてどのような細胞系譜となるかを確認するために、その細胞を追跡することができる。脱分化との関連において、より分化した状態の細胞(たとえば造血幹細胞)を、1つもしくは複数の化合物に暴露した後、その暴露が結果として、テスト化合物に最初に暴露された細胞より原始的なタイプの細胞(たとえば幹細胞)を生じるかどうかを確認するために評価する。そうであれば、効果をもたらす化合物は、細胞の脱分化もしくはリプログラミングを促す化合物であると同定される。典型的には、上記および他の本明細書に記載のスクリーニング法は、多数の化合物が同時にスクリーニングできるように、ハイスループットな方法で実施される。
【0090】
本明細書のもう一つの実施形態には、本明細書に記載の、非動物性の限定された増殖環境において、幹細胞株、特に未分化のヒト胚性幹細胞株を単離、樹立および培養することが含まれる。たとえば、本明細書にしたがって培養された幹細胞、特に、異種性のない増殖環境で培養および維持された多能性未分化のヒト胚性幹細胞(hESC)またはhiPS細胞、およびそれらに由来する細胞(たとえば、hESC由来の多分化能を有する神経幹細胞、造血前駆細胞、心筋細胞、およびインスリン産生細胞など)は、治療に使用することができる。代表的な治療用途としては、心臓病、糖尿病、肝臓病、神経変性疾患、癌、腫瘍、脳卒中、脊髄の損傷もしくは疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および単一遺伝子欠損に起因する疾患などの疾患を治療するための、細胞に基づく治療が挙げられる。こうした方法において、上記の治療を必要とする患者は、実質的に未分化のヒト胚性幹細胞、または実質的に未分化のヒト胚性幹細胞に由来する分化した細胞の投与を受ける。こうして投与される細胞は遺伝的改変を受けていてもよいが、これは必須ではない。
【0091】
本明細書のもう一つの実施形態は、個別の組織もしくは細胞系譜に向かう分化に関して、幹細胞の運命を方向づける方法に関する。そうした方法の例において、実質的に未分化の幹細胞(たとえば、ヒト胚性幹細胞)は、たとえば、分化を促す1つもしくは複数の因子を投与することによって,特定の細胞型もしくは系譜へと分化誘導される。反対に、本明細書はまた、発生への関与が進んだ細胞を、より原始的または未成熟な状態となるようにリプログラミングするための方法に関する。たとえば、ヒト造血幹細胞は、造血系の細胞型だけでなく、他の非造血細胞型も生じさせることができる細胞へと脱分化させられる。ある実施形態において、細胞を、ミオシンII阻害剤、ROCK阻害剤またはその両方を含有する培地中で、ポリ-D-リジン基材の上で培養し、未分化の多能性細胞型を増殖および維持する。その後、培地を分化培地に置き換え、または培地に因子を添加することにより、未分化細胞を分化させる。
【0092】
下記の例は、本明細書の特定の態様を説明するため、ならびに当業者が本発明を実施するのを助けるために与えられる。これらの例は、いかなる形であっても、決して、本発明の範囲を限定すると見なされるべきでない。
【実施例】
【0093】
化学物質
ブレビスタチン(InSolutionTMBlebbistatin)、Y-27632(InSolutionTM Y-27632)、およびML-7はEMDから購入した。PDLはMilliporeから入手した。
【0094】
細胞培養
2つの独立したhES細胞株H9 (WiCell)およびBGN01 (BresaGen)を検討した。この研究で使用されるhiPS細胞は、iPS(Foreskin) Clone 1 (WiCell)、ならびに正常なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)から別個に樹立された2つのhiPS細胞であるが、これらは一連の分子アッセイおよび機能分析により特徴が明らかにされている。定期的な無フィーダー培養のために、hESおよびhiPS細胞を、限定培地mTeSR (StemCell Technologies)中で、Matrigel (BD Biosciences)コートしたプレートの上で増殖させた。細胞は、ディスパーゼ(Invitrogen)もしくはトリプシン-EDTA(Lonza)を用いて標準的な方法で定期的に継代した。一般的な幹細胞培養法は、Freshney et al., Culture of Human Stem Cells (Culture of Specialized Cells), John Wiley & Sons, 1992に記載されている(その記載はあらゆる目的のために参考として本明細書に含められる)。本実験で使用されるmES細胞は、CJ7、E14、RW4(NMHCIIA-/A- mES細胞の親株)、NMHCIIA-/A- 、およびNMHCIIB-/B- mES細胞である。細胞は、有糸分裂を不活化したマウス胎児由来線維芽細胞またはゼラチン(Sigma)でコートしたディッシュ上で、1400 U/mlの白血病抑制因子(LIF)(Millipore)の存在下で標準培地を用いて維持された。顕微分析もしくは免疫蛍光分析のために、細胞は約5000-10000細胞/cm2を播種した。限定培地での培養のために、細胞は、10000細胞/cm2を、新たにPDLでコートしたプレート、またはPDLプレコートプレート(BD Bioscience)上で、2.5〜5μMブレビスタチンもしくはY-27632を添加したmTeSR中に播種した。培地は、培養密度に応じて毎日または1日おきに交換した。細胞は、トリプシン−EDTAを用いて3, 4日ごとに継代した。
【0095】
細胞増殖アッセイのために、hiPSおよびhES細胞は、PDLまたはMatrigelでコートしたプレート上で、5μMブレビスタチンもしくは5μM Y-27632存在下(PDL)、または化合物非存在下(Matrigel)、mTeSR中に、2.5X104 細胞/cm2を播種した。細胞は指示された時点で収集し、トリパンブルーで染色し、血球計算盤で計数した。
【0096】
クローンアッセイ
ブレビスタチン添加または無添加のmTeSR中のhESまたはhiPS細胞を、ウェル当たり単一細胞として、Matrigelコート96ウェルプレートに播種した。播種の7日後に、アルカリホスファターゼ検出キット(Alkaline Phosphatase Detection Kit)(Millipore)を用いて、メーカーの使用説明書にしたがって、細胞をアルカリホスファターゼアッセイに供した。
【0097】
細胞生存率アッセイ
hESまたはhiPS細胞は、三重反復で、さまざまな濃度のブレビスタチンもしくはY-27632の存在下、または非存在下のmTeSR中で、PDLもしくはMatrigelでコートした12ウェルプレート上に、1X105 細胞/ウェルを播種した。対照条件にはDMSO(ブレビスタチン用の溶媒)も加えたが、生存能力に影響を与えないことが判明した。mES細胞については、ゼラチンコートおよびmES培地を使用する以外は同一の条件下で細胞を播種した。24時間後、細胞を収集し、トリプシン処理してシングルセルとし、血球計算盤で計数した。細胞数の計測は、矛盾のないことを確認するために2人の研究者が独立して行った。細胞数計測用サンプルのごく一部を採取した後、ただちに、同じサンプルをTUNELアッセイに使用した。
【0098】
浮遊培養下での細胞生存率を評価するために、hESまたはhiPS細胞は、三連で、さまざまな濃度のブレビスタチンもしくはY-27632を含有する非馴化標準hESmを入れた、組織培養処理されていない6ウェルプレートに、5X105を播種した。2日後、細胞をトリプシン処理、およびピペット操作で大きく上下させてバラバラにすることによって集め、生細胞数を、血球計算盤およびトリパンブルー染色を使用することにより、手作業で計数した。細胞生存率(%)は、播種した細胞数に対する生細胞数の割合を表す。細胞生存率アッセイから得られたデータと対照比較するために、同じサンプルをTUNELアッセイに供した。
【0099】
免疫染色
免疫細胞化学分析のために、培養容器で増殖させた細胞を、4%パラホルムアルデヒド(USB Corporation)中で固定した。PBS/BSAで洗浄後、サンプルを、標的タンパク質を認識する一次抗体とともに4℃にて一晩インキュベートした。本研究に使用した一次抗体には、Oct3 (BD Biosciences)、ミオシンIIA (Covance)、およびミオシンIIB (Covance)が含まれる。サンプルを3回洗浄し、Alexa Fluorophore (Invitrogen)とコンジュゲートした適当な二次抗体とともに、室温にて30分間インキュベートした。3回洗浄後、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI, Invitrogen)を用いてサンプルを対比染色し、CFI Fluor 40X 対物レンズを装備したNikon TE-2000-U蛍光倒立顕微鏡(Nikon Instruments)、またはApochromate水浸レンズ(Carl Zeiss)を装備したZeiss LSM 510共焦点顕微鏡で検査した。
【0100】
免疫組織化学分析のために、奇形腫サンプルのパラフィン切片をキシレンおよび一連の濃度勾配のエタノールに浸漬した後、ネスチン、αフェトプロテイン、またはα平滑筋アクチンに対する一次抗体(いずれもChemicon製)とともに4℃にて一晩インキュベートした。二次抗体とのインキュベーションを含む残りの手順は、前記と同様である。
【0101】
TUNELアッセイ
細胞生存率アッセイに使用した三重反復でのサンプルを、ただちに、APO-DIRECTキット(BD Pharmingen)を用いてメーカーの指示書にしたがって、TUNELアッセイによりテストした。TUNEL(FITC)もしくはヨウ化プロピジウム(PI)陽性細胞の数を蛍光顕微鏡下20X対物レンズを用いて血球計算盤により計数した。必要であれば、40X対物レンズを用いて、FITC標識細胞を確認し、非特異的シグナルを除外した。それぞれのサンプルごとに少なくとも300個の細胞を評価し、計数を2回繰り返した。PI陽性細胞数に対するTUNEL陽性細胞数の割合を計算した。少なくとも3回繰り返して行った実験から得られた代表的な結果を図に示した。フローサイトメトリー分析を最初に試みたが、長くトリプシン処理およびピペッティング粉砕した後でも、浮遊培養実験から得られた細胞凝集物が残っているため、細胞生存率アッセイから得られたデータとよく相関する、手作業の細胞計数に切り替えることにした。
【0102】
QPCR
QiashredderおよびRNAeasyミニキット(Qiagen)を用いて細胞から全RNAを単離した。抽出されたRNAサンプルは、UV分光光度計で定量し、RNA Nano LabChip(Agilent Technologies)により解析した。全RNA 2μgを、SuperScript III RT-PCRシステム(Invitrogen)を用いて,メーカーの説明書にしたがって逆転写した。それぞれのcDNAサンプルは、三重反復で、特異的なPCRプライマーおよびFullVelocity SYBR Green QPCRマスターミックス(Stratagene)を用いて、MyiQリアルタイムPCR検出システム(BioRad)によってPCR増幅した。各サイクルの閾値(CT値)は、iQ5光学系ソフトウェア(BioRad)によって決定し、βアクチン発現レベルによって標準化した。プライマー配列はPrimer Express ソフトウェア(Applied Biosystems)によってデザインされ、他の配列と交差反応する可能性は、In Silico PCR (University of California, Santa Cruz)によって事前にスクリーニングした。プライマーとして使用したすべての配列を下記の表に示す。
【0103】
奇形腫形成
動物に関わるすべてのプロトコールは、動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)により承認された。限定された条件下で複数回継代して増殖させ、場合によっては凍結融解した細胞(約2X106個)を、重症複合免疫不全(SCID)/ベージュマウス(Charles River Laboratories)に皮下注射した。4〜8週間後、成長した奇形腫を切除し、4%パラホルムアルデヒドまたは10%ホルマリン中で固定し、組織切片の調製に供した。
【0104】
ウェスタン分析
全タンパク質をRIPA バッファー(20mM Tris-HCl, pH 7.5、150mM NaCl、1mM Na2EDTA、1mM EGTA、1% NP-40、1% デオキシコール酸ナトリウム、2.5mM ピロリン酸ナトリウム、1mM β-グリセロリン酸塩、1mM Na3VO4、およびプロテアーゼ阻害剤)で抽出した。タンパク質濃度は、BCA Protein Assay kit (Pierce)により測定した。等量(20μg)のタンパク質を各レーンに加え、10% SDS/PAGEにより分離して、PVDFメンブレン(BioRad)上に転写した。メンブレンをOdysseyブロッキングバッファー(LI-COR Biotechnology)中でブロックし、その後、Oct3に対する一次抗体(Santa Cruz Biotechnology)、Nanogに対する一次抗体(Millipore)、ミオシンIIAに対する一次抗体(Covance)、ミオシンIIBに対する一次抗体(Covance)、開裂したカスパーゼ-3に対する一次抗体(Cell Signaling)、またはβアクチンに対する一次抗体(Sigma)とともに4℃にて一晩インキュベートした後、ペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgGまたはヤギ抗ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch, Inc.)とともにインキュベートして、ECL試薬(GE Healthcar)で発光させた。
【0105】
胚様体(EB)形成
ディスパーゼまたはトリプシン-EDTAを用いて細胞を収集し、化合物の存在しない非組織培養処理ディッシュに播種し(約106細胞/ウェル/6ウェルプレート)、非馴化hES培地中で14日間増殖させた。タンパク質抽出のために細胞を収集し、ウェスタン分析に供した。
【0106】
核型分析
約10〜20回の継代ごとに、それぞれの細胞株について、標準的なGバンドによる核型分析を行った。
【0107】
統計分析
生物学的な実験を繰り返し(条件ごとに3〜5回反復)、分散分析(ANOVA)または対応のあるt検定によって、統計学的に分析した。統計学的有意性は、**p < 0.01などの確率値として示された。データ点は、平均±標準偏差(SD)として示す。
【0108】
ミオシンIIは、ROCKの下流で細胞間接着を制御する。
RhoおよびRho結合キナーゼ(ROCK)は、多能性幹細胞の細胞間相互作用の制御に関与している。細胞間接着の根底にある核心となるメカニズムをさらに探求するために、ROCKの下流の主な制御因子を調べた。事前の機能的クリーニングに基づいて、非筋細胞ミオシンIIを、siRNAによる機能喪失解析により、エフェクターとして同定した。非筋細胞ミオシンII(ミオシンII)は、両方向に頭部を有する通常のミオシンであって、非筋細胞ミオシンII重鎖(NMHC)二量体および2セットのミオシン軽鎖(MLC)からなる。3つの異なるNMHC、NMHC IIA、NMHC IIB、およびNMHC IICがあり、それぞれMyh9、Myh10、およびMyh14遺伝子にコードされているが、これらはそれぞれ哺乳類において明確に異なる機能を示す。多能性幹細胞では、それらの中でIIC以外のすべての遺伝子が発現されるのに対して、分化した細胞は、3つのアイソフォームすべてを発現する。ミオシンIIAおよびIIBアイソフォームが同時に欠損した場合、細胞は、RhoもしくはROCKの機能喪失をフェノコピーした、細胞間接触の顕著な崩壊を示した(図1A)。それぞれのsiRNAによる標的遺伝子のノックダウンの特異性およびレベルは、定量的RT-PCR(QPCR)で確認した(図2)。ミオシンホスファターゼ標的サブユニット1(MYPT1)は、ミオシン制御軽鎖(MRLC)のリン酸化を介してミオシンの機能をマイナスに制御するROCKの主要な下流標的であるが、これを検討した。MYPT1はmES細胞の細胞間接触部位にもっぱら局在していた(図1B)。ROCKがMYPT1の阻害を介してミオシン機能を制御しているならば、MYPT1を欠損させれば細胞間相互作用はY-27632の強力な作用から守られるであろう(図1C)。この仮説を裏付けて、MYPT1の欠損は、この阻害剤処理の前または後で、細胞間接触の有意な保護または回復をそれぞれもたらした(図1D)。このsiRNA処理に対して反応しない細胞がわずかに存在することは、ROCKが関与するMRLCの直接的な活性化による、ミオシンIIの別の制御を示唆する。以上をまとめると、これらのデータは、ES細胞における細胞間接触がRho-ROCK-ミオシンII(RRM)シグナル伝達系によって制御されることを示唆する。
【0109】


【0110】

【0111】
ROCKおよびミオシンIIはhES細胞において細胞間相互作用を制御している。mES細胞の細胞間接触において観察されたRRMシグナル伝達の機能が、hES細胞において保存されているかどうかを検討するために、Matrigel(商標名)および馴化培地(CM)を用いて無フィーダー条件下で増殖させたH1細胞(図3A)を、C3外酵素で処理した。C3で処理された細胞は、mES細胞で見られる明らかな細胞間統合の崩壊を示したが、このことは、ヒトにおいてもRhoシグナル伝達の役割が保存されていることを示唆した(図3B)。ROCK阻害剤処理も、mES細胞の10μMよりは高濃度(20μM)を必要とするが、細胞接着の欠損をもたらした(図3C)。ミオシンIIAおよびIIBは、hES細胞において細胞間の境界に同時に局在していたが、そのことは、これらが細胞間接着に役割を担っている可能性を示す(図3D)。これを裏付けて、ミオシンIIに対して選択性の高い合成阻害剤である、ブレビスタチンによる処理は、RhoまたはROCKの阻害の表現型を反映して、顕著な細胞間統合の崩壊をもたらした(図3D)。これらのデータは、ヒトES細胞およびマウスES細胞がいずれも、細胞間相互作用の中心的な制御因子としてRRMシグナル伝達系を利用していることを示す。
【0112】
ミオシンIIは、hiPSおよびhiES細胞において、細胞マトリックス間の接触、および脱離に誘導されるアポトーシスを制御する。ミオシンIIがROCKの下流で細胞マトリックス間接触の主要な制御因子としても機能しているかどうかを調べるために、hiPS細胞をさまざまな濃度のブレビスタチンで処理した。hiPSおよびhES細胞は通常、ヒト多能性幹細胞用の完全な限定培地であるmTeSR中で増殖させたとき、化学合成マトリックスであるポリ-D-リジン(PDL)には付着しない。しかしながら、ブレビスタチンは、最低濃度の2μMで、hiPS細胞のPDL上への付着をサポートし、この濃度では細胞間接着の欠損の徴候は見られなかった(図4A)。高濃度では、ブレビスタチン処理hiPS細胞はY-27632処理細胞と同等レベルの細胞間接触の崩壊を示した(図4A)。hES細胞を用いた実験から同様の結果が観察された。こうしたデータは、RRMシグナル伝達がヒト多能性幹細胞において細胞マトリックス間相互作用も制御していることを示す。
【0113】
hiPSおよびhES細胞は、非組織培養処理プレートのような非付着性培養表面上に高密度で播種されると、細胞凝集塊を形成し、その後、胚様体として増殖することができるのに対して、細胞に凝集塊を形成させない低密度で播種した場合、前記細胞は大部分がアポトーシスを起こす。これは、ヒト多能性幹細胞が、培養表面から切り離されると細胞死シグナルを活性化するようにプログラムされた上皮細胞であるためである(アノイキス)。最近の報告によれば、根本的なメカニズムには取り組まれないままであるが、hES細胞におけるY-27632によるROCK阻害は、Matrigel上、クローン密度で、および浮遊培養下、低密度で、細胞生存率を実質的に増加させることを示した。本明細書よれば、ミオシンIIが細胞相互作用におけるROCKの下流の主要なエフェクターとして機能し、さらにミオシンIIはリンパ球のような非付着性細胞のアポトーシスに直接関与していたことが明らかなので、ミオシンIIはiPS細胞のアノイキスを制御する役割も果たしているという仮説が立てられた。驚くべきことにブレビスタチンで処理されたhiPS細胞およびhES細胞は、低濃度浮遊培養においてY-27632の場合と同レベルもしくはもっと強いレベルで、細胞生存率が顕著に増加した(図4B)。このことは、ミオシンII機能の阻害が、それだけで、ROCK抑制による抗アポトーシス効果を置き換えるのに十分であることを示す。
【0114】
ブレビスタチンおよびポリ-D-リジン(PDL)コーティングという、限定された明確な因子の組み合わせが、ヒト多能性幹細胞の自己複製を効果的に支持する。これらのデータとまとめると、選択的ミオシンII阻害剤、ブレビスタチンが、hESおよびiPS細胞の細胞マトリックス間相互作用、および脱離により誘導されるアポトーシスを著しく強めることが示されたので、追加の実験を行ってhiPS細胞が、ブレビスタチン、PDLコーティング、およびmTeSRの組み合わせに基づく完全に限定された培養条件下で、継続して自己複製できるかどうかを評価した。この培養法において、ブレビスタチンは2.5μMで使用したが、これは細胞マトリックス間相互作用をサポートするのに十分であるがhiPS細胞の細胞間接着には影響を与えない最小値である。高濃度(50〜100μM)のブレビスタチンによるミオシンIIの完全な阻害は、Y-27632によるROCKの完全な阻害の場合と同様に細胞質分裂に影響を及ぼすことが知られていたので、必要最小限の濃度を用いることで有害な影響を避けることが重要である。ブレビスタチンを使用する限定された条件下で15回を超える継代を経て、hiPS細胞は、多核細胞のように細胞質分裂の欠損した兆候を示すことなく、Y-27632で処理した細胞と同等の、一定した増殖速度で自己複製することができた(図4C)。多能性マーカー、Oct3/4、NanogおよびSox2の維持は、免疫細胞化学およびQPCRにより確認された(図4Dおよび4E)。同様の結果がhES細胞株を用いた実験からも得られた。興味深いことに、本研究で使用されたhiPS細胞株は、Matrigel(商標名)を用いた標準的な無フィーダー条件下で増殖させると、分化を生じる傾向があった(図4E下図)が、ブレビスタチンを用いた新規方法で増殖させた細胞は大部分が、Oct3/4の強い発現とともに未分化のコロニー形態を維持したので、従来の無フィーダー法に対する新規方法の有意性が明らかになった(図4E、上および中の図)。
【0115】
ブレビスタチンによるNMIIの阻害はhPS細胞のクローニング効率を高める。
NMIIの重鎖(NMHCII)は、3つのアイソフォームがあり、そのうちNMHCIIAおよびNMHCIIBは、ウェスタン分析によって、個別のhESおよびiPS細胞株において、容易に検出することができるが、NMHCIICはできない(図6a)。免疫細胞化学分析から、未分化hPS細胞において2つのアイソフォームはいずれも大部分が細胞膜に局在することが明らかになったが、これは細胞間接着におけるこのアイソフォームの役割と一致する(図6a)。hPS細胞の細胞死におけるNMIIの役割を評価するために、NMIIのATPアーゼ活性を効果的かつ可逆的にブロックし、それによってモーター機能を抑制する合成化学物質である、ブレビスタチンを使用した。個別のクローン株を樹立する最初の重大な関門である、クローン密度でMatrigelコートプレート上に播種された、hESおよびhiPS細胞の生存率を測定した。単一のhiPS細胞を、Matrigelコート96ウェルプレートの各ウェルに播種し、播種の7日後にアルカリホスファターゼ染色によって、未分化コロニーの形成を評価した。播種の7日後に、対照条件下では、コロニーは全く、またはごくわずかしか形成されなかったのに対して、細胞をブレビスタチンで処理したときには、ウェルの約30%が単一コロニーを有していた(0.47 ± 0.25% に対して、29 ± 1.8%, p<0.01)(図6b、c)。同様の結果が、hES細胞からも得られた。このクローニング効率は、Y-27632を用いて報告された効率に匹敵した。コロニーの一部を選択し、さらに増殖させて、多能性マーカーの検出ならびにin vitroおよびin vivo分化アッセイなどの一連の分子解析および機能分析によって、多能性であることを確定した。
【0116】
ブレビスタチン処理による付着条件下でのhPS細胞の生存率の増加
ブレビスタチンの細胞保護効果は、播種後短時間のうちに検出することができた。細胞(1 X 105 細胞/ウェル、12ウェルプレート)は、さまざまな濃度のブレビスタチンで、またはブレビスタチンなしで、処理し、播種の24時間後に細胞数の直接測定により生存率を評価した。ブレビスタチンで処理したhiPS細胞は、ポリ-D-リジン(PDL)およびMatrigelコーティングといった異なる基材上で、対照よりも有意に多数の細胞が生存した(最大効果は5〜10μMで観察された)(PDL上、10μMで7.9 ± 0.6 X104 細胞であるのに対して対照は0.5 ± 0.26 X104 細胞、n=3、p<0.001)(Matrigel上、10μMで8.6 ± 0.6 X104 細胞であるのに対して対照は1.8 ± 0.25 X104 細胞、n=3、p<0.01)(図6d、e、および図10a-d)。Y-27632も同じ条件下で並行して検討したが、ブレビスタチンの生存効果は、Y-27632と同等であった(PDL上、10μMで7.2 ± 1.1 X104 細胞、n=3、p<0.05)(図6d、e、および図10a-d)。この結果は、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)法により検出されるアポトーシスのレベルと逆相関した。対照条件では70%を超える細胞がTUNEL染色に対し陽性であったのに対して、ブレビスタチンで処理した細胞は、有意に少ないTUNEL陽性細胞数を示した(73 ± 2.5%に対して11 ± 3.8%、n=3、p<0.01)(図6f)。アポトーシスの別の指標、開裂したカスパーゼ-3によって、この結果をさらに確認したが、この指標は、ウェスタン分析に基づいて、ブレビスタチン処理細胞で低下しており、ブレビスタチン処理後に健全なレベルのアポトーシス細胞の減少を示した(図6g)。同様の結果がhES細胞を用いた実験から得られた。
【0117】
ブレビスタチンは浮遊条件下でhiPS細胞の細胞死を予防する。
ブレビスタチンが、細胞マトリックス間相互作用のない細胞にも有効であるかどうかを検討するために、標準的な分化手順において胚様体を生じさせるための一般的な初期段階である浮遊培養で、細胞を増殖させた。特筆すべきことに、ブレビスタチン処理は、浮遊条件下で、対照より有意に高いレベルに、hiPS細胞の生存率を高めた(10μMで1.6 ± 0.12 X105 細胞であるのに対して対照は0.05 ± 0.02 X105 細胞、n=3、p<0.01)(図6h、i)。hES細胞および他の独立したhiPS細胞株は、同等のブレビスタチンによる生存効果を示した(図6jおよび図11a)。この結果は、ブレビスタチン処理条件において有意に低いアポトーシスレベルを示す、TUNELおよび開裂カスパーゼ-3アッセイによって支持された(図6k、lおよび図11b)。しかしながら、ブレビスタチン処理は、低濃度では、一貫してY-27632より高い生存率を生じるのに対して、10μMでは、ブレビスタチンまたはY-27632の生存効果は、個別の細胞株に応じてさまざまであったことに注目すべきである(図6i、j および図11a)。このように、ブレビスタチンは、それぞれの細胞株に対する用量および有効性に基づいてhPS細胞を保護するための別の戦略を提供する。興味深いことに、他の細胞型においてミオシンを介した収縮性およびアポトーシスの制御に関与する、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)の阻害剤ML-7は、生存に関して有意な効果を示さなかった(図10dおよび11c)。このことは、多能性幹細胞の細胞死の制御におけるNMIIの機能が、主として、MLCKではなくミオシン軽鎖ホスファターゼを介してROCKにより制御される可能性があることを示唆するが、こうした可能性を確定するためにはさらなる研究が必要である。
【0118】
NMHCIIAを欠損したmES細胞の生存率の増加
遺伝子レベルで細胞生存におけるNMIIの役割を直接確かめるために、変異型マウス胚性幹(mES)細胞を使用したが、この細胞のNMHCIIA遺伝子の2つのアレルはいずれも破壊されている(NMHCIIA-/A-)(図7a)。変異型細胞の細胞間接触は大幅に損なわれた(図7b)。NMHCIIA-/A- mES細胞は、播種の24時間後に、親株(RW4)より有意に高い生存率を示し(1.3 ± 0.3 X105 細胞に対して0.4 ± 0.1 X105 細胞、n=3、p<0.05)(図7c、d)、hPS細胞に対してブレビスタチンを用いたデータと一致した。アポトーシスのレベルもTUNELアッセイによって測定したが、野生型mES細胞と比較してかなり少数のTUNEL陽性の変異型細胞が示された(図7e)。
【0119】
NMIIの二つのアイソフォーム、NMIIAおよびNMIIBは、細胞接着、遊走および収縮性において異なる機能を有することが示唆されている。NMIIBも細胞生存率の制御に関与しているかどうかを評価するために、NMHCIIBを遺伝的に欠損した変異型mES細胞(NMHCIIB-/B-)(図7f)を調べた。NMHCIIA-/A- mES細胞の生存率が顕著に増加したのとは対照的に、NMHCIIB変異体は、野生型mES細胞と同様の生存率を示した(0.54 ± 0.1 X105 細胞に対して0.55 ± 0.14 X105 細胞、n=3)(図7g、h)。これらの結果は、多能性幹細胞の細胞死の制御において、細胞接着および遊走の場合と同様に、異なる制御機構がNMIIの各アイソフォームを調節している可能性があることを示す。
【0120】
NMIIと自己複製制御因子との間の機構的関連
アレイデータベースを検索すると、NMHCIIA転写物は、hES細胞の分化状態において有意に多く含まれることが認識されたので、自己複製/分化プログラムとNMIIの間に分子的関連の可能性が示唆された。Oct3/4およびNanogなどの自己複製制御因子、ならびにNMIIを検討したが、これらはhPS細胞ではメカニズム的に関連している。hiPSまたはhES細胞は、未分化状態をサポートするmTeSR、または活発でない分化を誘導する非馴化ヒトES培地(hESm)のいずれかの培地中で、さまざまな濃度のブレビスタチン存在下もしくは非存在下で48時間増殖させた。ブレビスタチンで処理したhES細胞は、定量的RT-PCR(QPCR)、ウェスタン分析および免疫細胞化学で測定すると、二つのどちらの培地条件下でも、二つの転写因子のレベルがいずれも用量依存的に上昇することが明らかになった(図8a-e)。同様の結果がhiPS細胞からも得られた。この関連性がマウスでも保存されているかどうかを究明するために、白血病抑制因子(LIF)の存在下または非存在下で2日間増殖させたmES細胞を調べた。hES細胞から得られたデータと一致して、自己複製制御因子Oct3/4およびNanogはいずれも、NMHCIIA-/A- mES細胞において、それぞれの条件下で親細胞と比較して、実質的にそれより高いタンパク質レベルで発現された(図8f、g)。これらのデータをまとめると、NMIIは、ヒトおよびマウス多能性幹細胞の両方で、自己複製に関する負の制御において、間接的ではなく原因因子として機能する可能性のあることが示唆されている。この関連性は、ES細胞の分化に関与するとされているERKシグナル伝達などの複数の経路を順に活性化する、接着斑におけるNMIIとβ1インテグリンとの相互作用によるものと考えられる。あるいはまた、NMIIは、TGF-β、PI3キナーゼ、およびWntシグナル伝達などの他の自己複製経路とクロストークする可能性がある。NMIIの阻害による自己複製制御因子のアップレギュレーションは、自己複製した多能性幹細胞の生存率の増加に寄与する可能性がある。
【0121】
【表1】

【表2】

【0122】
ブレビスタチンを使用するhPS細胞のための完全に限定された培養条件の確立
本明細書は、Y-27632処理によって、通常はhES細胞が増殖しないPDLコーティング上で、hES細胞の自己複製が可能になることを示す。PDLは、マウス由来抽出物であるMatrigelとは異なり化学合成された基材であるため、本明細書は、限定培地を使用するhES細胞の自己複製のために完全に限定された条件を提供する。ブレビスタチンは、hESおよびiPS細胞の双方に対するY-27632の効果をすべて正確に再現するので、限定培養条件においてブレビスタチンが完全にY-27632の代わりとなることができるかどうかを究明するために、ブレビスタチンを単独でテストした。ブレビスタチンは2.5から5μMまでの濃度で使用されたが、これは自己複製を維持するには十分であるが細胞間接触には影響を与えない、最低限の濃度である。必要とされるブレビスタチンの最低濃度は、個別のhESまたはhiPS細胞株に応じてさまざまであるが、そうした細胞株の大半は5μMのブレビスタチンで自己複製する。高濃度のブレビスタチン(50〜100μM)によるNMIIの強力な阻害は、細胞質分裂に影響を及ぼすので(高濃度のY-27632でも見られる)、ブレビスタチンは最低濃度で使用することが重要である。典型的な未分化形態の維持および多能性マーカーの発現は、こうした限定条件下で20回継代後に各細胞株で確認した(図9a-d)。hiPSまたはhES細胞はPDL上で、Y-27632処理した細胞、またはMatrigelを用いた通常の無フィーダー条件下で増殖させた細胞と同程度の、一定の増殖速度で自己複製することができる(図9e)。in vivoで完全な分化機能を評価するために、継代した細胞を重症複合免疫不全(SCID)/ベージュマウスに皮下注射することによって、前記細胞を奇形腫アッセイに供した。奇形腫サンプルは組織切片を用いて観察し、メラニン細胞(外胚葉)、神経組織(外胚葉)、骨(中胚葉)、骨格筋(中胚葉)、杯細胞を有する消化管様粘膜上皮(内胚葉)、および糸球体(内胚葉)などの、三胚葉に由来する分化した組織をすべて含有することを確定した(図9f)。特化した細胞特異的マーカータンパク質を検出する免疫組織化学検査により、これが正しいことをさらに確認した(図9g)。これらの結果から、ブレビスタチンを有する限定条件下で増殖させたhESまたはhiPS細胞は、多分化能を損なうことなく長期間、自己複製することができることが確認され、ブレビスタチンの効果が完全に可逆的であることが実証された。細胞は、核型分析で評価され、ゲノムの完全性を維持していると確定された(hiPS細胞が図9h、およびhES細胞は図12)。ブレビスタチンの使用は、ROCKの下流の多数のエフェクター分子に影響を及ぼす可能性の高いY-27632の使用よりも、NMII機能を正確に狙うという点で有利であると考えられる。さらに、ブレビスタチンは日常的に使用するにはY-27632より費用対効果が優れている。完全にリプログラミングされたhiPS細胞は、無フィーダー条件において、従来のフィーダー依存性の培養条件よりも効率よく作製することができることが示唆された。したがって、この新規培養法は、完全に限定された条件下で新規hiPS細胞株を効率よく樹立して増殖させる、主要技術を開発するための基礎を提供することができる。
【0123】
ブレビスタチンで処理されたhiPS細胞はY-27632で処理された細胞よりも高い増殖および細胞生存率を示したことにも注目すべきである。ROCKはミオシンII以外の非常に多くの下流エフェクターを有するという事実と併せて、基本制御因子、ミオシンIIのブレビスタチンによるピンポイント阻害は、ミオシンII以外の多数の下流分子の阻害による不要な成果を排除するという点で、Y-27632の使用より非常に有利である。
【0124】
多数の実施形態および特徴が上に記載されているが、当業者には当然のことながら、添付の請求範囲で限定される本明細書の教示または本明細書の範囲から逸脱することなく、上記の実施形態および特徴の修正ならびに変更を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本培地およびミオシンII阻害剤を含んでなる組成物。
【請求項2】
Rhoのキナーゼドメインに結合してこれを阻害するROCK阻害剤を追加して含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ミオシンII阻害剤がブレビスタチンもしくはその類似体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
血清を追加して含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
血清が培養すべき細胞と同種由来である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
血清が培養すべき細胞にとって自己由来である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
アミノ酸を追加して含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
アミノ酸が非必須アミノ酸である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
還元剤を追加して含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
還元剤がβメルカプトエタノールである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
抗生物質および/または抗真菌剤を追加して含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
ピルビン酸塩を追加して含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
ピルビン酸塩がピルビン酸ナトリウムまたはピルビン酸カリウムである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
LIFを追加して含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
L-グルタミンを追加して含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
非必須アミノ酸、酸化防止剤、還元剤、増殖因子、ピルビン酸塩およびミオシンII阻害剤を添加した基本培地を含んでなる組成物。
【請求項17】
基本培地がDMEMである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
ポリ-D-リジン、限定培地、およびミオシンII阻害剤を含んでなるキット。
【請求項19】
組織培養基材を追加して含んでなる、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
増殖因子を含有する補助剤を追加して含んでなる、請求項18に記載のキット。
【請求項21】
限定培地が無血清であって組換えbFGF、組換えTGFβを含有し、約330-350 mOsmのモル浸透圧濃度および7.25から7.45までのpHを示す、請求項18に記載のキット。
【請求項22】
ミオシンII阻害剤がブレビスタチンもしくはその類似体である、請求項18に記載のキット。
【請求項23】
ミオシンII阻害剤を含有する培地中に幹細胞を懸濁すること;および
ポリ-D-リジンコートした組織培養基材の存在下で該幹細胞を培養すること;
を含んでなる、幹細胞を培養する方法。
【請求項24】
培地が限定培地である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
限定培地が無血清である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
組換えbFGF、組換えTGFβを追加して含んでなり、約330-350 mOsmのモル浸透圧濃度、および7.25から7.45までのpHを示す、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項1に記載の組成物中に幹細胞を含んでなる、幹細胞培養物。
【請求項28】
幹細胞がポリ-D-リジン存在下で培養される、請求項27に記載の幹細胞培養物。
【請求項29】
ミオシンII阻害剤がブレビスタチンもしくはその類似体である、請求項27に記載の幹細胞培養物。
【請求項30】
請求項1または16に記載の組成物を含んでなるキット。
【請求項31】
基本培地または限定培地に添加することができるように区分けしてミオシンII阻害剤を含んでなる、キット。
【請求項32】
請求項1または16に記載の組成物と、幹細胞とを、フィーダー層の非存在下で接触させることを含んでなる幹細胞の培養方法であって、該幹細胞が成長および増殖する前記方法。
【請求項33】
組換えbFGF、組換えTGFβを含有する限定培地を含んでなる組成物であって、その組成物が無血清でありミオシンII阻害剤を含有する、前記組成物。
【請求項34】
限定培地が約330-350 mOsmのモル浸透圧濃度、および7.25から7.45までのpHを示す、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
ポリ-D-リジン基材ならびに幹細胞の増殖および成長を促進する培地を含んでなる、動物性物質を含まない培地中で幹細胞を培養する方法であって、その培地が、動物性物質を含まない成分、およびミオシンII阻害剤、ROCK阻害剤またはそれらの組み合わせを含んでなる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−523240(P2012−523240A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504932(P2012−504932)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/030899
【国際公開番号】WO2010/120785
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【Fターム(参考)】