説明

幹線内流下状況計測装置および方法

【課題】 流入幹線内の流体の流下状況を知ることが可能な計測装置および方法を提供すること。
【解決手段】 電波もしくは超音波を発信する機能を有し、流入幹線内に投入されて下水、工場廃水等の流体とともに流下する複数の発信器3と、前記発信器から発信される電波もしくは超音波を受信して信号を形成する2つ以上の受信器4と、前記受信器からの信号を処理するプロセスコントローラ5とをそなえ、前記プロセスコントローラは、前記流体が前記受信器間を流下するのに要する時間を計測することを特徴とする幹線内流下状況計測装置および方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水、工場廃水等の流体の流下状況を計測する装置および方法に関り、とくに複数の雨水ポンプにより河川へ排出するポンプ場施設における雨水ポンプの運転や流入ゲートの運用に関する支援情報を運転員に提供する装置、または雨水ポンプの運転や流入ゲートの運用を自動制御する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、幹線内の下水、工場廃水等の流体を計測したり、挙動を分析するために種々の技術が提供されている。すなわち、幹線内の下水、工場廃水等の流体に関する計測を行う装置として、電波もしくは電波もしくは超音波式水位計や、電磁流量計、電波もしくは超音波式流量計等の流量計があり、これらの装置は、その地点の水位や流量を計測することは可能である。また、流入幹線内の流体の挙動をシミュレーションするパッケージソフトがある。
【0003】
さらに、予測技術として、降雨レーダ、幹線水位計・流量計、地上雨量計等を用いて、ポンプ場への雨水流入量の予測、あるいは幹線内の雨水貯留量の予測等を行い、その予測結果から雨水ポンプや流入ゲートの運転支援を行うことも行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記計測装置の計測値から幹線内の流下の状況を知ることは困難である。また、シミュレーションソフトでは、幹線の土木データ、土地の利用状況のデータ等、多くの項目を設定する必要があり、オンラインで幹線内の流下の状況を知ることには用いられていない。
【0005】
さらに、予測技術に関しては、予測の周期や精度等の問題もあり、雨水ポンプ制御や流入ゲート運用への適用はあまり行われていない。
【0006】
(発明の目的)
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、流入幹線内の流体の流下状況を知ることが可能な計測装置、およびこれを用いたポンプ場施設の運転支援・制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的達成のため、本発明では、
電波もしくは超音波を発信する機能を有し、流入幹線内に投入されて下水、工場廃水等の流体とともに流下する複数の発信器と、前記発信器から発信される電波もしくは超音波を受信して信号を形成する2つ以上の受信器と、前記受信器からの信号を処理するプロセスコントローラとをそなえ、前記プロセスコントローラは、前記流体が前記受信器間を流下するのに要する時間を計測することを特徴とする幹線内流下状況計測装置および方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上述のように、幹線内を流体とともに流れる複数の小型の発信器とその信号を受信する受信器により、流体が受信器間の流下に要する時間を計測するため、この計測値を利用して、幹線内の流体の流下状況を知ることができる。そして、本発明の計測装置によれば、流入幹線全体の流体の流下状況を知ることが可能となり、またこの流入幹線内の流下状況の情報を基に、雨水ポンプあるいは流入ゲートの運用に有用なガイダンスの提供や、雨水ポンプ制御や流入ゲート運用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施例を説明する。
【実施例1】
【0010】
(構成と作用)
本発明は、図1に示すように、下水、工場廃水等の流体が流入幹線1を経て、ポンプ場に流入し、この流体を雨水ポンプ10により放流先(河川等)へ排出するプロセスに対して、流体とともに流下する複数の発信器タグ3からの信号を基に、流入幹線内の流下状況を計測する装置、およびこの流入幹線内の情報を運転員に提供する運転支援装置、またその情報に基づいて雨水ポンプ運転、流入ゲート運用を行う制御装置に適用されるものである。
【0011】
流入幹線内の流下状況を計測するために、流体とともに流下する複数の発信器タグ3、およびこれらの発信器タグ3からの信号を受信する複数箇所に設置された受信器アンテナ4を用いる。この複数の発信器タグ3は、流入幹線の上流に設置された発信器タグ3の投入機構7により順次投入される。また、受信器アンテナ4は、流入幹線内の管頂付近に設置される。
【0012】
受信器アンテナ4で受けた信号は、プロセスコントローラ5に取り込まれ、発信器タグ3が受信器アンテナ4間を流下するのに要した時間の計測と、その時の水位を演算する。さらに、演算された各値から、各受信器アンテナ4間における流下状況を判定する。これらの各値や流下状況は、伝送路9を介して運転支援装置6へと送られ、支援情報として提供される。
【0013】
また、演算された各値を基にして、プロセスコントローラ5からポンプ場の雨水ポンプ制御信号11、流入ゲート制御信号12が出力される。プロセスコントローラ5では、発信器タグ3が複数の受信器アンテナ4間を流下するのに要した時間の計測と、その時の水位を次のように演算する。
【0014】
まず、各発信器タグ3には、識別番号(ID番号)が割り振られている。プロセスコントローラ5では、各発信器タグ3の投入情報、流下の情報をこの識別番号(ID番号)で管理する。そして、流入幹線の上流に設置された発信器タグ3の投入機構7により、投入された時刻、および各受信器アンテナ4の設置地点を発信器タグ3が通過した時刻を計測し、これらの時刻の差から受信器アンテナ4間を流下するのに要した時間を算出することになる。
【0015】
また、各受信器アンテナ4の設置地点を発信器タグ3が通過した時に合わせて、その信号の受信強度を計測する。そしてプロセスコントローラ5では、各発信器タグ3の発信信号の強度情報を保持している。信号の減衰特性を利用して、各受信器アンテナ4の設置地点を発信器タグ3が通過した時の各受信器アンテナ4と発信器タグ3との距離を算出する。そして、各受信器アンテナ4の設置地点の管頂高、管底高の関係から、各受信器アンテナ4の設置地点における水位を算出することができる。
【0016】
図2は、プロセスコントローラ5内における流下状況の判定方法の一例について示したものである。計測された流下時間、水位のデータおよび水位−流下基準時間データを基に、まず該当区間の流下状況の一次判定を行う。通常幹線内の水位が上昇してくれば、流体の流速が速くなるため、発信器タグ3が受信器アンテナ4間を流下するのにかかる時間は短くなってくる(流下状態)。
【0017】
しかし、例えば、ポンプ場でポンプの排出する量が、ポンプ場に流入する量よりも少ない場合には、流体の流れが阻害され、ポンプ場付近の流入幹線においては、水位が上昇しても、流体の流速が速くならない状態が発生し、発信器タグ3が2つの受信器アンテナ4間を流下するのにかかる時間が短くならなかったり、場合によっては長くなったりする、いわゆる貯留状態となる。
【0018】
水位−流下基準時間データは、水位と流下時間との関係を事前に計測したデータを基にして、各水位において流下状態もしくは貯留状態と判定される基準時間を定めたデータとなっている。流下基準時間より計測された流下時間が短ければ、その該当区間の流下状況の一次判定を流下判定とする。逆に、流下基準時間よりも計測された流下時間が長ければ、その該当区間の流下状況の一次判定を貯留判定とする。
【0019】
貯留判定と一次判定された場合、その状況が一時的なものである可能性があるため、以降の発信器タグ3による計測状況を見る必要がある。したがって、貯留判定がn回続いた時点で、最終的な貯留状態と判定することになる。
【0020】
なお、流下状況の判定は、上記では流下と貯留の2つの状態としたが、例えば、流下と貯留の中間状態等を設けて3つ以上の状態としても良い。
【0021】
図3は、幹線内流下状況計測装置により提供できる支援画面の一例を示すものである。ポンプ場への各流入幹線における受信器の位置、およびその水位、受信器間の流下状況(流下、貯留)を表示する。各流入幹線の断面図において、各流入幹線の受信器アンテナの位置での水位を繋いで、現在の各幹線における全体の水面の状況を知ることができる。これらの計測値を基にした運用ガイダンスを提示することも可能である。
【0022】
図4は、別の支援画面の一例である、順次流下する各発信器タグ3による受信器アンテナ間の流下状況の推移を表示するものである。
【0023】
このような画面により、流入幹線の状況を表示し、雨水ポンプの制御、流入ゲートの運用に関する有効な情報を提供することが可能となる。これらの情報は、プロセスコントローラにWebサーバ機能をもたせることで、Webブラウザでの表示も可能である。また、外部の端末(パソコン、携帯電話、PDA等)への情報提供も可能となる。
【0024】
図5は、幹線内流下状況計測装置を利用した雨水ポンプの制御、および流入ゲートの運用の一例を示す。例えば、流入幹線の下流から貯留状態が発生するということは、雨水ポンプの排出する量が、ポンプ場に流入する量よりも少ないと考えられる。
【0025】
したがって、この貯留状態の判定を利用して、必要に応じて雨水ポンプの運転台数を増やしたり、減らしたりといった制御が可能となる。これをプロセスコントローラ内で自動的に演算、判断することにより、雨水ポンプの自動制御を行うことも可能となる。流入ゲートの運用についても同様である。また、雨水ポンプや流入ゲートの自動制御に結び付けないとしても、ガイダンス等の支援情報として提供することも可能である。
【0026】
発信器の投入については、例えば、降雨継続中の間のみ発信器を投入する、あるいは降雨継続中は投入間隔を短くするといった投入機構からの投入タイミングを制御することが可能である。これらの投入タイミングは、プロセスコントローラから出力することが可能である。降雨が継続しているかどうかの判定については、地上雨量計からの降雨量信号、降雨レーダからの降雨量信号、外部から配信される気象データ等を利用する。流入幹線内を流下する発信器の数が多くなれば、刻々と変化する流入幹線内の流下状況の変化がより詳細に分ることになる。なお、流入幹線を流下してポンプ場施設に到達した発信器は、ポンプ場施設の除塵設備により除去される。
【0027】
従来の幹線内の計測機器である流量計との比較という点では、例えば、電波もしくは超音波式流量計の一つである水位・流速演算方式流量計においては、流速センサを管底部に敷設する必要があり、また水位センサについても計測の不感帯を考慮しなければならない。上記実施例では、受信器アンテナを管頂付近に取付ければ良く、管内のセンサ取付けの問題が不要である。また、水位の計測を水面に電波・電波もしくは超音波を反射させて計測する方法ではないため、不感帯の問題も不要となる。また、従来の流量計の設置地点については、ある程度の直管長が必要といった制約があったが、上記実施例では、流量計に比べて設置地点を比較的自由に選ぶことが可能である。また、流量計や水位計を用いても幹線全体の流下状況を計測することはできないが、上記実施例を利用することにより流下状況の直接的な計測が可能となる。
【0028】
また、本発明により、これまであまり知ることのできなかった流入幹線内の流体の流下状況を知ることができ、水理学的に非常に有効なデータを得ることが可能となる。
【0029】
(機 能)
上記実施例は上述のように構成したため、次のような機能を有する。
(a) 各発信器からの信号により、流体が受信器間の流下にかかる時間を計測する機能。
(b) 計測したデータを基に、幹線内の流体の流下状況を判定する機能。
(c) 発信器を随時投入する機能。
(d) 計測結果を基に、雨水ポンプあるいは流入ゲートの運用に有用なガイダンスを表示する機能。
(e) 計測結果を基に、雨水ポンプあるいは流入ゲートを制御する機能。
【0030】
(効 果)
上記実施例により実現される効果として、下記の点が挙げられる。
【0031】
流入幹線内の流体の流下状況を計測できることにより、これを利用した雨水ポンプあるいは流入ゲートの運用に有用なガイダンスの提供や、雨水ポンプ制御あるいは流入ゲート運用への適用が可能である。
【0032】
従来の流量計の設置地点については、ある程度の直管長が必要といった制約があったが、この幹線内計測装置では流量計に比べて設置地点を比較的自由に選ぶことが可能である。
【0033】
流入幹線内の流体の流下状況を知ることができ、水理学的に非常に有効なデータを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例を示す説明図。
【図2】図1の実施例に用いるプロセスコントローラにおける流下・貯留状態を判定するロジックの一例を示す説明図。
【図3】図1の実施例において提供することのできる画面情報の一例を示す説明図。
【図4】図1の実施例において提供することのできる画面情報の一例を示す説明図。
【図5】本装置のプロセスコントローラにおける流下・貯留状態の判定により、雨水ポンプおよび流入ゲートの制御指令の一例を示すものである。
【符号の説明】
【0035】
1 流入幹線、2 流入支線、3 発信器タグ、4 受信器アンテナ、
5 プロセスコントローラ、6 監視装置、7 発信器投入機構、9 伝送路、
10 ポンプ場の雨水ポンプ、11 ポンプ場の流入ゲート、12 雨量計、
21 発信器からの信号、22 受信器からの送信信号、23 降雨パルス信号、
24 雨水ポンプ制御信号、25 流入ゲート制御信号、26 投入タイミング制御信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波もしくは電波もしくは超音波を発信する機能を有し、流入幹線内に投入されて下水、工場廃水等の流体とともに流下する複数の発信器と、
前記発信器から発信される電波もしくは超音波を受信して信号を形成する2つ以上の受信器と、
前記受信器からの信号を処理するプロセスコントローラとをそなえ、
前記プロセスコントローラは、前記流体が前記受信器間を流下するのに要する時間を計測する
ことを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の幹線内流下状況計測装置において、
前記計測時間を基に、前記流体の流下状況を判定することを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項3】
請求項1ないし2記載の幹線内流下状況計測装置において、
前記発信器および前記受信器により、前記受信器の各設置地点における水位を計測することを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項4】
請求項1ないし3記載の幹線内流下状況計測装置において、
前記流入幹線の上流に設置され、前記発信器を投入する投入機構をそなえたことを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項5】
請求項4記載の幹線内流下状況計測装置において、
前記投入機構は、前記プロセスコントローラから前記発信器の投入タイミングを制御できることを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項6】
請求項5記載の幹線内流下状況計測装置において、
地上雨量計からの降雨量信号を基に、降雨継続中の間のみ前記発信器を投入することを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項7】
請求項5記載の幹線内流下状況計測装置において、
降雨レーダからの降雨量信号もしくは外部から配信される気象データを基に、降雨継続中の間のみ前記発信器を投入することを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項8】
請求項1ないし7記載の幹線内流下状況計測装置において、
計測される幹線内の各種計測情報を表示する運転支援装置をそなえたことを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項9】
請求項8記載の幹線内流下状況計測装置において、
前記プロセスコントローラは、計測される幹線内の各種計測情報もしくは計測される幹線内の各種計測情報と雨水ポンプの運転状況および流入ゲートの運用状況とを比較して、適切なガイダンスを前記運転支援装置に出力するガイダンス出力判定機能を有し、これによりガイダンスを前記運転支援装置に出力することを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項10】
請求項8および9記載の幹線内流下状況計測装置において、
前記プロセスコントローラがWebサーバ機能を有し、伝送路を介して接続された監視装置にWebブラウザにより表示することを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項11】
請求項10記載の幹線内流下状況計測装置において、
計測される幹線内の各種計測情報およびガイダンス情報を前記監視装置以外の外部端末に表示することを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項12】
請求項1ないし11記載の幹線内計測装置において、
前記プロセスコントローラ内に、計測される幹線内の各種計測情報もしくは計測される幹線内の各種計測情報と雨水ポンプの運転状況および流入ゲートの運用状況とを比較して、適切な雨水ポンプの運転・停止指令、あるいは流入ゲートの運用指令を雨水ポンプあるいは流入ゲートに出力する制御出力判定機能を有し、これにより雨水ポンプの運転・停止指令を雨水ポンプに、あるいは流入ゲートの運用指令を流入ゲートにそれぞれ出力することを特徴とする幹線内流下状況計測装置。
【請求項13】
電波もしくは超音波を発信する機能を有する複数の発信器を、流入幹線内に投入して下水、工場廃水等の流体とともに流下させ、
2つ以上の受信器により前記発信器から発信される電波もしくは超音波を受信して信号を形成し、
前記受信器からの信号をプロセスコントローラに与えて処理することにより前記流体が前記受信器間を流下するのに要する時間を計測する
ことを特徴とする幹線内流下状況計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−47035(P2006−47035A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226529(P2004−226529)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】