幼若白血球分析用試薬及び試薬キット
【課題】骨髄芽球や幼若顆粒球などの幼若白血球や成熟白血球を精度良く分析することができ、且つ試料の処理条件の許容範囲が従来よりも広い幼若白血球分析用試薬及び試薬キットを提供すること。
【解決手段】試料中の赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖と、核酸を染色する色素と、を含有する幼若白血球分析用試薬を提供する。この分析用試薬を用いることで、骨髄芽球や幼若顆粒球などの幼若白血球や成熟白血球を精度良く分析することが可能となり、且つ試料の処理条件の許容範囲が広がる。
【解決手段】試料中の赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖と、核酸を染色する色素と、を含有する幼若白血球分析用試薬を提供する。この分析用試薬を用いることで、骨髄芽球や幼若顆粒球などの幼若白血球や成熟白血球を精度良く分析することが可能となり、且つ試料の処理条件の許容範囲が広がる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体から採取された試料に含まれる白血球を分類し、計数するための試薬及び試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
血球細胞は骨髄で作られ、未熟な細胞から分化・成熟し、末梢血に移動する。健常人の場合、幼若な白血球(幼若白血球)が末梢血中に出現することはないが、白血病、癌の骨髄転移、重症感染症などの患者の末梢血には、幼若白血球が出現することがある。このため、生体試料中の成熟白血球や幼若白血球を測定することは上述の疾患を診断する上で極めて重要である。
【0003】
白血球を測定するための試薬として、特許文献1に開示されている試薬が知られている。この試薬と生体試料とを混合した測定用試料をフローサイトメータに導入し、特定の波長の光を照射して得られる光学的情報に基づいて検体中の成熟白血球と幼若白血球とを分類し、それぞれを計数することができる。また、幼若白血球を骨髄芽球や幼若顆粒球などに細分類してそれぞれ計数することも可能である。しかしながら、この試薬を用いて幼若白血球が含まれている試料を処理すると、処理条件によっては骨髄芽球などの幼若白血球の損傷が進行し、分類精度が低下することがあった。従って、この試薬を用いて試料中の幼若白血球の分類や計数を正確に行うためには、反応温度や反応時間などの処理条件の管理を厳格にする必要があった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−206423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、骨髄芽球や幼若顆粒球などの幼若白血球や成熟白血球を精度良く分析することができ、且つ試料の処理条件の許容範囲が従来よりも広い幼若白血球分析用試薬及び試薬キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試料中の赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖と、核酸を染色する色素と、を含有する幼若白血球分析用試薬を提供する。
【0007】
また、本発明は、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、浸透圧調整剤とを含有し、浸透圧が150〜600mOsm/kgであり、電気伝導度が6mS/cm未満である第一試薬と核酸を染色する色素を含有する第二試薬とを含む幼若白血球分析用試薬キットを提供する。
【0008】
また、本発明は、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖とを含有する第一試薬、及び核酸を染色する色素を含有する第二試薬を含む幼若白血球分析用試薬キットを提供する
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、幼若白血球や成熟白血球を精度良く分析することができ、且つ試料の処理条件の許容範囲が従来よりも広い幼若白血球分析用試薬及び試薬キットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施形態の幼若白血球分析用試薬(以下、単に試薬とも言う)を用いると、試料に含まれる白血球を成熟白血球と幼若白血球とに分類し、それぞれを計数することができる。また、成熟白血球をリンパ球、単球及び顆粒球に細分類し、それぞれを計数することができる。特にこの試薬を用いると幼若白血球を幼若顆粒球と骨髄芽球とに細分類し、それぞれを精度良く計数することができる。
【0011】
本明細書において、幼若白血球とは、健常人においては末梢血には存在せず骨髄に存在する未成熟な白血球のことを指す。例えば、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球等を指す。前骨髄球、骨髄球及び後骨髄球を幼若顆粒球とすることもある。骨髄芽球は、骨髄系幹細胞(CFU−GEMN)、好中球・マクロファージコロニー形成細胞(CFU−GM)、好酸球コロニー形成細胞(CFU−EOS)などの白血球系の造血前駆細胞をも含む。
【0012】
測定に供される生体試料としては、白血球を含む試料であれば特に限定されないが、血液、尿、骨髄穿刺液、アフェレーシスで採取した試料などを例示することができる。
【0013】
本実施形態の試薬は、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤、損傷した血球を収縮させる可溶化剤及び核酸染色色素を含む。生体試料と試薬とを混合すると、界面活性剤の作用により試料に含まれる血球の細胞膜が損傷を受ける。この界面活性剤は、赤血球や成熟白血球の細胞膜に損傷を与えるが、幼若白血球の細胞膜は実質的に損傷しない。赤血球や成熟白血球などの損傷した血球は可溶化剤の作用により収縮する。幼若白血球の細胞膜は殆ど損傷していないため、赤血球や成熟白血球よりも可溶化剤による細胞の収縮が起こりにくい。損傷を受けた血球の核は、色素の作用により染色されるが、幼若白血球は殆ど染色されない。
【0014】
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤を用いることができる。具体的には、以下の構造式を有するものを使用することができる。
【0015】
【化1】
【0016】
特に、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテルなどを用いることが好ましい。
【0017】
試薬に含有させる界面活性剤の好ましい濃度は、界面活性剤の種類によって異なるが、例えばポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルを用いる場合、1000〜50000ppmが好ましく、10000〜35000ppmがより好ましい。界面活性剤は、単独で用いてもよいし、二種類以上の界面活性剤を併用してもよい。
【0018】
可溶化剤としては、例えばサルコシン誘導体又はその塩、コール酸誘導体、メチルグルカンアミドなどを用いることができる。
【0019】
サルコシン誘導体は下記構造式を有する。
【0020】
【化2】
【0021】
コール酸誘導体は下記構造式を有する。
【0022】
【化3】
【0023】
メチルグルカンアミドは下記構造式を有する。
【0024】
【化4】
【0025】
サルコシン誘導体又はその塩を用いる場合、試薬中の濃度は200〜3000ppmであることが好ましい。コール酸誘導体を用いる場合、100〜10000ppmであることが好ましい。メチルグルカンアミドを用いる場合、1000〜8000ppmであることが好ましい。
【0026】
サルコシン誘導体又はその塩の具体的な例としては、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウロイルメチルβ−アラニンナトリウム、ラウロイルサルコシン等が挙げられる。コール酸誘導体又はその塩の具体的な例としては、CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)、CHAPSO([(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)等が挙げられる。メチルグルカンアミドの具体的な例としては、MEGA8(オクタノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA9(ノナイノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA10(デカノイル−N−メチルグルカミド)等が挙げられる。
【0027】
また、これらの他に可溶化剤としてn−オクチルβ−グルコシド、シュークロースモノカプレート、N−ホルミルメチルロイシルアラニンなどを用いることも可能である。これらを用いる場合、試薬中の濃度は10〜50000ppmであることが好ましい。可溶化剤は、単独で用いてもよいし、二種類以上の可溶化剤を併用してもよい。
【0028】
色素としては核酸を特異的に染色するものであれば特に限定されないが、蛍光色素であることが好ましい。このような色素を用いることにより、核を持たない赤血球は殆ど染色されず、核を有する白血球は強く染色される。この染色強度の差異に基づいて、赤血球と白血球とを弁別することができる。また、色素が透過できるほどの損傷を受けた細胞膜を有する成熟白血球はこの色素により強く染色されるが、幼若白血球は殆ど染色されない。この染色強度の差異に基づいて、白血球のうち成熟白血球と幼若白血球とを弁別することができる。色素の種類は、照射する光によって適宜選択される。例えば、ヘリウム−ネオンレーザーや赤色半導体レーザを光源として使用する場合、以下のような構造式を有する色素を用いることが好ましい。
【0029】
【化5】
(式中、R1Iは水素原子または低級アルキル基を示し;R2I及びR3Iは、それぞれ同一または異なって、水素原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基を示し;R4Iは水素原子、アシル基または低級アルキル基を示し;R5Iは水素原子または置換されてもよい低級アルキル基を示し;Zは硫黄原子、酸素原子、または低級アルキル基で置換された炭素原子を示し;nIは1または2を示し;XI-はアニオンを示す。)
【0030】
式中R1Iにおける低級アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、ter-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、これらのうちメチル基及びエチル基が好ましい。
R2I及びR3Iにおける低級アルキル基は上記と同様であり、低級アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシを意味する。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられるが、これらのうちメトキシ基及びエトキシ基が好ましい。なお、R2I及びR3Iは水素原子であることが好ましい。
R4Iにおけるアシル基とは、脂肪族カルボン酸から誘導されたアシル基が好ましい。具体的には、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられ、これらのうちアセチル基が好ましい。また、低級アルキル基は上記と同様である。
R5Iにおける低級アルキル基とは上記と同様であり、置換されていてもよい低級アルキル基とは、1〜3個の水酸基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)等で置換されていてもよい低級アルキル基を意味する。これらのうち、1個の水酸基で置換されたメチル基及びエチル基が好ましい。
Zにおける低級アルキル基とは上記と同様であり、Zとしては硫黄原子であることが好ましい。
X-におけるアニオンは、ハロゲンイオン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素イオン)、ハロゲン化ホウ素イオン(BF4-、BCl4-、BBr4-等)、リン化化合物イオン、ハロゲン酸素酸イオン、フルオロ硫酸イオン、メチル硫酸イオン、芳香環ハロゲンあるいはハロゲンをもつアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオン等が挙げられる。これらのうち臭素イオンまたはBF4-が好ましい。
【0031】
上記(I)の色素の具体的な例としては、以下のような色素が好適である。
色素A
【0032】
【化6】
【0033】
色素B
【0034】
【化7】
【0035】
色素C
【0036】
【化8】
【0037】
上記の色素の他に、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム−アクリジンへテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、TOTO−1、TO−PRO−1、TOTO−3、TO−PRO−3、アイオダイングリーン(Iodine Green)、NK−3975(林原生物学研究所)、NK−1570(林原生物学研究所)、NK−1049(林原生物学研究所)なども好適に使用される。
【0038】
上記の色素の試薬中の濃度は、0.01〜500ppmであることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜200ppmである。色素は、単独で用いてもよいし、二種類以上の色素を併用してもよい。
【0039】
試薬の浸透圧は150〜600mOsm/kgに調整されることが好ましい。試薬の浸透圧を所望の範囲に調整するために試薬には糖が含有される。糖を用いて試薬の浸透圧を調整することにより、反応時間が延びても或いは反応温度が高くなっても骨髄芽球が損傷しにくく、正確に骨髄芽球と成熟白血球との分類及び計数を行うことができる。
【0040】
また、浸透圧を調整する物質(浸透圧浸透圧調整剤)として試薬に塩化ナトリウムを含有させることもできる。しかしながら、試薬に塩化ナトリウムが多量に含まれていると、試薬と試料との混合後、反応時間が経過するほど、或いは反応温度が高いほど骨髄芽球の損傷が促進され、骨髄芽球の核が色素で染色される。骨髄芽球が染色されると、検出される蛍光強度が成熟白血球の蛍光強度と同等となってしまい、成熟白血球と骨髄芽球との分類精度が低下する。以上より、試薬中の塩化ナトリウムの含有濃度は、測定に悪影響を及ぼさないよう、0.01〜3g/Lであることが好ましく、0g/Lである(含まれない)ことがより好ましい。
【0041】
試薬に含有させる糖の種類は特に限定されないが、単糖類、多糖類、糖アルコールなどを用いることができる。単糖類としては、グルコース、フルクトースなどが例示され、多糖類としては、アラビノースなどが例示され、糖アルコールとしては、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、リビトールが例示される。試薬中の糖の濃度は、好ましくは10〜75g/L、より好ましくは20〜50g/Lである。これらの糖のうち一種類を用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0042】
試薬のpHを調整するために試薬に緩衝剤を添加することが好ましい。緩衝剤としては、例えばHEPESなどのグッド緩衝剤、リン酸緩衝剤などと、水酸化ナトリウムなどのpH浸透圧調整剤を用いることができる。試薬のpHは、5.0〜9.0に調整されることが好ましい。
【0043】
上述した各成分は、同一の容器に収容してもよいが、二つ以上の容器に収容して試薬キットとすることが好ましい。この試薬キットは、赤血球及び成熟白血球の細胞膜を損傷する界面活性剤、損傷した血球を収縮させる可溶化剤及び糖を含有する第一試薬と、色素を含有する第二試薬とを含む。この場合、色素の保存安定性を向上させるため、第二試薬の色素は有機溶媒に溶解されていることが好ましい。
【0044】
また、本発明の別の実施形態の試薬キットは、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、浸透圧調整剤とを含有する第一試薬と、核酸染色色素を含む第二試薬とを含む。
【0045】
浸透圧調整剤は、第一試薬の浸透圧及び電気伝導度を所望の値に調整する為に添加される。この浸透圧調整剤を用いることにより、第一試薬の浸透圧は150〜600mOsm/kgに調整される。また、第一試薬の電気伝導度は6mS/cm未満に調整され、好ましくは0.01〜3mS/cm、より好ましくは0.1〜2mS/cmに調整される。
【0046】
浸透圧調整剤としては、糖やアミノ酸などを用いることができる。アミノ酸としては、バリン、プロリン、グリシン、アラニンなどを用いることができるが、グリシン及びアラニンの何れか又は両方を用いることが好ましい。アミノ酸の濃度としては、1〜50g/Lが好ましく、10〜30g/Lがより好ましい。また、浸透圧調整剤としてさらに塩化ナトリウムを試薬に添加する場合は、上述したように、骨髄芽球の測定に影響を与えないよう、試薬中の濃度が0.01〜3g/Lであることが好ましく、0g/Lであることがより好ましい。
【0047】
上述の各成分を含む試薬と、生体試料とを混合して測定用試料を調製し、フローサイトメータを用いて、幼若白血球の分析を行うことができる。
【0048】
生体試料と試薬(試薬キットの場合は全ての試薬の混合試薬)との混合比は、1:10〜1:1000であることが好ましい。生体試料中の血球と試薬との反応は、3〜15秒間、20〜40℃で行うことが好ましい。反応温度が高いときは反応時間を短くし、反応温度が低いときは反応時間を長くすればよい。
【0049】
試料の測定にフローサイトメータを用いた場合、フローセル中を流れる測定用試料中の血球に光を照射して散乱光や蛍光などの光学的情報を取得し、これに基づいて血球の種類が特定される。
【0050】
具体的には、図1に示すようなフローサイトメータを用いることができる。以下、図1に基づき、本実施形態の一例として骨髄芽球測定について詳述する。
【0051】
ノズル6から吐出された測定用試料は、フローセル23のオリフィス部を流れる。このとき、試料中の血球は一列になってオリフィス部を通過する。光源21から射出した光は、コリメートレンズ22を介してフローセル23を流れる血球に照射される。血球に光を照射することによって側方散乱光、側方蛍光及び前方散乱光が生じる。側方散乱光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28とを介して側方散乱光検出器(フォトマルチプライアチューブ)29に入射する。側方蛍光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28とフィルタ29とピンホール板30とを介して側方蛍光検出器(フォトマルチプライアチューブ)31に入射する。前方散乱光は、集光レンズ24とピンホール板25とを介して前方散乱光検出器(フォトダイオード)26に入射する。
【0052】
前方散乱光検出器26から出力される前方散乱光信号と、側方散乱光検出器29から出力される側方散乱光信号と、側方蛍光検出器31から出力される側方蛍光信号とは、それぞれアンプ32,アンプ33及びアンプ34により増幅され、解析部35に入力される。
【0053】
解析部35は、受信した前方散乱光信号、側方散乱光信号及び側方蛍光信号から、前方散乱光強度、側方散乱光強度及び蛍光強度を算出する。解析部35は、前方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第一の二次元分布図を作成し、この二次元分布図上で試料中の全白血球が出現する領域(全白血球領域)を特定する。さらに、全白血球領域に出現する細胞について側方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第二の二次元分布図を作成する。この二次元分布図上で、成熟白血球が出現する領域(成熟白血球領域)、リンパ球が出現する領域(リンパ球領域)、単球が出現する領域(単球領域)及び顆粒球が出現する領域(顆粒球領域)を設定する。さらに、骨髄芽球が出現する領域(骨髄芽球領域)及び幼若顆粒球が出現する領域(幼若顆粒球領域)を特定する。骨髄芽球領域に出現する細胞数を試料に含まれる骨髄芽球数として計数し、幼若顆粒球領域に出現する細胞数を試料に含まれる幼若顆粒球数として計数する。なお、骨髄芽球は細胞サイズが小さく、単核であるため、前方散乱光強度が強く、側方散乱光強度が弱い。また、上述したように殆ど染色されないため蛍光強度は弱い。幼若顆粒球は、細胞サイズが大きく、核が分葉しているため、前方散乱光強度及び側方散乱光強度が弱い。また、上述したように殆ど染色されないため、蛍光強度は弱い。
【0054】
(実施例1)
以下の組成の第一試薬A及び第二試薬を調整した。
<第一試薬A>
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル(日光ケミカルズ) 20000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 500ppm
アラビノース 39.6g/L
HEPES 10mM
精製水 1L
上記を混合し、さらにNaOHを添加してpHを7.0に調整した。第一試薬Aの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.59mS/cmであった。
<第二試薬>
色素A 20ppm
エチレングリコール1L
【0055】
第一試薬980μLと、第二試薬20μLと、骨髄芽球を含む血液試料A20μLとを混合し、33℃で7秒間反応させた後、図1に示すフローサイトメータで側方散乱光強度、前方散乱光強度及び蛍光強度を測定した。なお、光源は赤半導体レーザを用いた。
【0056】
得られた側方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第一の二次元分布図を作成し、全白血球領域を特定した。この図を図2に示す。全白血球領域内に出現する細胞数を全白血球数として計数した。
【0057】
第一の二次元分布図中の全白血球領域に出現する細胞について、側方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第二の二次元分布図を作成し、側方散乱光強度が小さく蛍光強度が小さい領域を骨髄芽球領域として特定した。この図を図3に示す。骨髄芽球領域内に出現する細胞数を骨髄芽球数として計数した。
【0058】
本実施例では、全白血球数に対する骨髄芽球の比率(骨髄芽球比率=骨髄芽球数/全白血球数×100)を算出した。骨髄芽球比率は45.8%であった。
【0059】
(実施例2)
試薬と血液試料Aとを35℃で反応させること以外は実施例1と同様にして、骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は42.6%であった。なお、実施例2で作成された第一の二次元分布図は図4に示され、第二の二次元分布図は図5に示される。
【0060】
(比較例1)
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 24.0g/L、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 1.5g/L、DL−メチオニン 20.0g/L、HEPES 12.0g/L、1N−NaOH 0.3g/L、NaCl 4.0g/L及び色素A 3.0mg/Lを含む試薬1mLと血液試料B33μLとを混合して反応させること以外は、実施例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は25.1%であった。なお、比較例1で作成された第一の二次元分布図は図6に示され、第二の二次元分布図は図7に示される。この試薬の浸透圧は350mOsm/kg、電気伝導度は7.4mS/cmであった。
【0061】
(比較例2)
試薬と血液試料Bとを35℃で反応させること以外は比較例1と同様にして、骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は7.2%であった。なお、比較例2で作成された第一の二次元分布図は図8に示され、第二の二次元分布図は図9に示される。
【0062】
比較例1及び2より、同一の血液試料を用いたにもかかわらず、33℃で反応させた場合の骨髄芽球比率(比較例1)に比べ、35℃で反応させた場合の骨髄芽球比率(比較例2)は大変低い値を示した。これは、35℃で反応させた場合は、骨髄芽球領域内に出現するべき骨髄芽球が領域外に出現したことに起因する。即ち、比較例1及び2で調製した試薬を用いると、反応温度が高いほど骨髄芽球が安定的に存在することができず、7秒間の反応の間に骨髄芽球が損傷してしまったと考えられる。
【0063】
しかしながら、実施例1及び2より、33℃で反応させた場合の骨髄芽球比率(実施例1)は、35℃で反応させた場合の骨髄芽球比率(実施例2)と近似した値を示した。これは、実施例で調製された試薬と骨髄芽球とを高い温度で反応させても、骨髄芽球は実質的に損傷せず正確に計数することができたことを示す。即ち、実施例で調製された試薬を用いると温度に対する骨髄芽球の安定性が向上し損傷しにくくなった。以上より、実施例で調整された試薬を用いることにより正確に試料中の骨髄芽球を測定できることが確認された。
【0064】
(実施例3)
第一試薬Bは、アラビノースではなくキシリトールを39.56g/L、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルを20000ppmではなく25000ppm、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウムを500ppmではなく750ppm含有させること以外は第一試薬Aと同様にして調製された。第一試薬Bの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.59mS/cmであった。
【0065】
第一試薬Aではなく第一試薬Bを用いること、及び血液試料Aではなく血液試料Cを用いること以外は実施例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。また、第一試薬Aではなく第一試薬Bを用いること、血液試料Aではなく血液試料Cを用いること、及び7秒間ではなく12秒間試薬と血液試料Cとを反応させること以外は実施例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0066】
(実施例4)
第一試薬Cは、キシリトールではなく、アラビノースを39.52g/L含有させること以外は第一試薬Bと同様にして調製された。第一試薬Cの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.62mS/cmであった。
【0067】
第一試薬Bではなく第一試薬Cを用いること以外は実施例3と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0068】
(実施例5)
第一試薬Dは、キシリトールではなく、アラニンを23.16g/L含有させること以外は第一試薬Bと同様にして調製された。第一試薬Dの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.61mS/cmであった。
【0069】
第一試薬Bではなく第一試薬Dを用いること以外は実施例3と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0070】
(実施例6)
第一試薬Eは、キシリトールではなく、グリシンを19.52g/L含有させること以外は第一試薬Bと同様にして調製された。第一試薬Eの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.63mS/cmであった。
【0071】
第一試薬Bではなく第一試薬Eを用いること以外は実施例3と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0072】
(比較例3)
血液試料Aではなく血液試料Cを用いること以外は比較例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。また、血液試料Aではなく血液試料Dをもちいること、及び7秒間ではなく12秒間試薬と血液試料Cとを反応させること以外は比較例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0073】
実施例3〜6及び比較例3の結果を図10に示す。図10は、試料と試薬とを12秒間反応させたときの骨髄芽球比率が、7秒間反応させたときの骨髄芽球比率に比べてどのくらい低下しているかを示したグラフである。
【0074】
図10より、比較例3の試薬を用いると、試薬と試料とを12秒間反応させた場合、7秒間反応させた場合に比べて骨髄芽球の比率が20%以上低下した。これは、反応時間が長くなるほど試薬の影響で骨髄芽球が損傷してしまったためであると考えられる。
【0075】
実施例3〜6の何れかで調製した試薬を用いると、比較例3の試薬を用いた場合に比べて骨髄芽球比率の低下が10%程度に抑えられた。即ち、実施例3〜6の試薬を用いることにより骨髄芽球の安定性が向上し、測定用試料中で骨髄芽球が損傷しにくくなった。以上のように、実施例3〜6の試薬を用いると骨髄芽球が損傷しにくく、正確に骨髄芽球を測定できることが確認された。
【0076】
(実施例7)
以下の組成を含む第一試薬Fを調整した。
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 25000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 750ppm
キシリトール 37.0g/L
HEPES 10mM
精製水 1L
上記を混合し、さらにNaOHを添加してpHを7.0に調整した。第一試薬Fの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.64mS/cmであった。
また、第二試薬は実施例1で調整したものと同様のものを用いた。
【0077】
第一試薬Aではなく第一試薬Fを用いること、及び血液試料Aではなく血液試料Dを用いること以外は実施例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は45%であった。なお、実施例7で作成された第一の二次元分布図は図11に示され、第二の二次元分布図は図12に示される。また、図12の第二の二次元分布図には、成熟白血球が出現する領域(成熟白血球領域)も設定した。
【0078】
また、血液試料Dの骨髄芽球比率を顕微鏡により算出すると、58.5%であった。実施例7で測定した骨髄芽球比率と顕微鏡により算出した骨髄芽球比率とが近似した値を示したことより、実施例7の試薬を用いると血液試料中の成熟白血球と骨髄芽球とを正確に弁別し、骨髄芽球を正確に計数できることが確認された。
【0079】
(実施例8)
血液試料Dではなく血液試料Gを用いること以外は実施例5と同様にして骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は5.5%であった。なお、実施例8で作成された第一の二次元分布図は図13に示され、第二の二次元分布図は図14に示される。
【0080】
また、血液試料Eの骨髄芽球比率を顕微鏡により算出すると、骨髄芽球比率は6.3%であった。実施例8で測定した骨髄芽球比率と顕微鏡により算出した骨髄芽球比率とが近似した値を示したことより、実施例8の試薬を用いると血液試料中の成熟白血球と骨髄芽球とを正確に弁別し、骨髄芽球を正確に計数できることが確認された。
【0081】
さらに、図13に示される第一の二次元分布図に幼若顆粒球が出現する領域(幼若顆粒球領域)を設定し、この領域内に出現する細胞を幼若顆粒球数として計数した。この値に基づき、全白血球数に対する幼若顆粒球の比率(幼若顆粒球比率)を算出した。幼若顆粒球比率は10%であった。
【0082】
また、血液試料Eの幼若顆粒球比率を顕微鏡により算出すると、幼若顆粒球比率は13%であった。実施例8で測定した幼若顆粒球比率と顕微鏡により算出した幼若顆粒球比率とが近似した値を示したことより、実施例8の試薬を用いると血液試料中の成熟白血球と骨髄芽球と幼若顆粒球とを正確に弁別し、骨髄芽球だけでなく幼若顆粒球をも正確に計数できることが確認された。
【0083】
(実施例9)
血液試料Dではなく血液試料Fを用いること以外は実施例5と同様にして幼若顆粒球比率を算出した。幼若顆粒球比率は12.4%であった。なお、実施例9で作成された第一の二次元分布図は図15に示され、第二の二次元分布図は図16に示される。
【0084】
また、血液試料Eの骨髄芽球比率及び幼若顆粒球比率を顕微鏡により算出すると、幼若顆粒球比率は10.8%であった。実施例9で測定した幼若顆粒球比率と顕微鏡により算出した幼若顆粒球比率とが近似した値を示したことより、実施例9の試薬を用いると血液試料中の成熟白血球と幼若顆粒球とを正確に弁別し、幼若顆粒球を正確に計数できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】フローサイトメータである。
【図2】実施例1における第一の二次元分布図である。
【図3】実施例1における第二の二次元分布図である。
【図4】実施例2における第一の二次元分布図である。
【図5】実施例2における第二の二次元分布図である。
【図6】比較例1における第一の二次元分布図である。
【図7】比較例1における第二の二次元分布図である。
【図8】比較例2における第一の二次元分布図である。
【図9】比較例2における第二の二次元分布図である。
【図10】実施例3〜6及び比較例3の結果を示すグラフである。
【図11】実施例7における第一の二次元分布図である。
【図12】実施例7における第二の二次元分布図である。
【図13】実施例8における第一の二次元分布図である。
【図14】実施例8における第二の二次元分布図である。
【図15】実施例9における第一の二次元分布図である。
【図16】実施例9における第二の二次元分布図である。
【符号の説明】
【0086】
6:ノズル 21:光源 22:コリメートレンズ 23:フローセル 24:集光レンズ 25:ピンホール板 26:前方散乱光検出器 27:集光レンズ 28:ダイクロイックミラー 29:側方散乱光検出器 30:ピンホール板 31:側方蛍光検出器 32:アンプ 33:アンプ 34:アンプ 35:解析部
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体から採取された試料に含まれる白血球を分類し、計数するための試薬及び試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
血球細胞は骨髄で作られ、未熟な細胞から分化・成熟し、末梢血に移動する。健常人の場合、幼若な白血球(幼若白血球)が末梢血中に出現することはないが、白血病、癌の骨髄転移、重症感染症などの患者の末梢血には、幼若白血球が出現することがある。このため、生体試料中の成熟白血球や幼若白血球を測定することは上述の疾患を診断する上で極めて重要である。
【0003】
白血球を測定するための試薬として、特許文献1に開示されている試薬が知られている。この試薬と生体試料とを混合した測定用試料をフローサイトメータに導入し、特定の波長の光を照射して得られる光学的情報に基づいて検体中の成熟白血球と幼若白血球とを分類し、それぞれを計数することができる。また、幼若白血球を骨髄芽球や幼若顆粒球などに細分類してそれぞれ計数することも可能である。しかしながら、この試薬を用いて幼若白血球が含まれている試料を処理すると、処理条件によっては骨髄芽球などの幼若白血球の損傷が進行し、分類精度が低下することがあった。従って、この試薬を用いて試料中の幼若白血球の分類や計数を正確に行うためには、反応温度や反応時間などの処理条件の管理を厳格にする必要があった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−206423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、骨髄芽球や幼若顆粒球などの幼若白血球や成熟白血球を精度良く分析することができ、且つ試料の処理条件の許容範囲が従来よりも広い幼若白血球分析用試薬及び試薬キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試料中の赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖と、核酸を染色する色素と、を含有する幼若白血球分析用試薬を提供する。
【0007】
また、本発明は、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、浸透圧調整剤とを含有し、浸透圧が150〜600mOsm/kgであり、電気伝導度が6mS/cm未満である第一試薬と核酸を染色する色素を含有する第二試薬とを含む幼若白血球分析用試薬キットを提供する。
【0008】
また、本発明は、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖とを含有する第一試薬、及び核酸を染色する色素を含有する第二試薬を含む幼若白血球分析用試薬キットを提供する
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、幼若白血球や成熟白血球を精度良く分析することができ、且つ試料の処理条件の許容範囲が従来よりも広い幼若白血球分析用試薬及び試薬キットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施形態の幼若白血球分析用試薬(以下、単に試薬とも言う)を用いると、試料に含まれる白血球を成熟白血球と幼若白血球とに分類し、それぞれを計数することができる。また、成熟白血球をリンパ球、単球及び顆粒球に細分類し、それぞれを計数することができる。特にこの試薬を用いると幼若白血球を幼若顆粒球と骨髄芽球とに細分類し、それぞれを精度良く計数することができる。
【0011】
本明細書において、幼若白血球とは、健常人においては末梢血には存在せず骨髄に存在する未成熟な白血球のことを指す。例えば、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球等を指す。前骨髄球、骨髄球及び後骨髄球を幼若顆粒球とすることもある。骨髄芽球は、骨髄系幹細胞(CFU−GEMN)、好中球・マクロファージコロニー形成細胞(CFU−GM)、好酸球コロニー形成細胞(CFU−EOS)などの白血球系の造血前駆細胞をも含む。
【0012】
測定に供される生体試料としては、白血球を含む試料であれば特に限定されないが、血液、尿、骨髄穿刺液、アフェレーシスで採取した試料などを例示することができる。
【0013】
本実施形態の試薬は、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤、損傷した血球を収縮させる可溶化剤及び核酸染色色素を含む。生体試料と試薬とを混合すると、界面活性剤の作用により試料に含まれる血球の細胞膜が損傷を受ける。この界面活性剤は、赤血球や成熟白血球の細胞膜に損傷を与えるが、幼若白血球の細胞膜は実質的に損傷しない。赤血球や成熟白血球などの損傷した血球は可溶化剤の作用により収縮する。幼若白血球の細胞膜は殆ど損傷していないため、赤血球や成熟白血球よりも可溶化剤による細胞の収縮が起こりにくい。損傷を受けた血球の核は、色素の作用により染色されるが、幼若白血球は殆ど染色されない。
【0014】
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤を用いることができる。具体的には、以下の構造式を有するものを使用することができる。
【0015】
【化1】
【0016】
特に、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(15)オレイルエーテルなどを用いることが好ましい。
【0017】
試薬に含有させる界面活性剤の好ましい濃度は、界面活性剤の種類によって異なるが、例えばポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルを用いる場合、1000〜50000ppmが好ましく、10000〜35000ppmがより好ましい。界面活性剤は、単独で用いてもよいし、二種類以上の界面活性剤を併用してもよい。
【0018】
可溶化剤としては、例えばサルコシン誘導体又はその塩、コール酸誘導体、メチルグルカンアミドなどを用いることができる。
【0019】
サルコシン誘導体は下記構造式を有する。
【0020】
【化2】
【0021】
コール酸誘導体は下記構造式を有する。
【0022】
【化3】
【0023】
メチルグルカンアミドは下記構造式を有する。
【0024】
【化4】
【0025】
サルコシン誘導体又はその塩を用いる場合、試薬中の濃度は200〜3000ppmであることが好ましい。コール酸誘導体を用いる場合、100〜10000ppmであることが好ましい。メチルグルカンアミドを用いる場合、1000〜8000ppmであることが好ましい。
【0026】
サルコシン誘導体又はその塩の具体的な例としては、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウロイルメチルβ−アラニンナトリウム、ラウロイルサルコシン等が挙げられる。コール酸誘導体又はその塩の具体的な例としては、CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)、CHAPSO([(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホネート)等が挙げられる。メチルグルカンアミドの具体的な例としては、MEGA8(オクタノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA9(ノナイノイル−N−メチルグルカミド)、MEGA10(デカノイル−N−メチルグルカミド)等が挙げられる。
【0027】
また、これらの他に可溶化剤としてn−オクチルβ−グルコシド、シュークロースモノカプレート、N−ホルミルメチルロイシルアラニンなどを用いることも可能である。これらを用いる場合、試薬中の濃度は10〜50000ppmであることが好ましい。可溶化剤は、単独で用いてもよいし、二種類以上の可溶化剤を併用してもよい。
【0028】
色素としては核酸を特異的に染色するものであれば特に限定されないが、蛍光色素であることが好ましい。このような色素を用いることにより、核を持たない赤血球は殆ど染色されず、核を有する白血球は強く染色される。この染色強度の差異に基づいて、赤血球と白血球とを弁別することができる。また、色素が透過できるほどの損傷を受けた細胞膜を有する成熟白血球はこの色素により強く染色されるが、幼若白血球は殆ど染色されない。この染色強度の差異に基づいて、白血球のうち成熟白血球と幼若白血球とを弁別することができる。色素の種類は、照射する光によって適宜選択される。例えば、ヘリウム−ネオンレーザーや赤色半導体レーザを光源として使用する場合、以下のような構造式を有する色素を用いることが好ましい。
【0029】
【化5】
(式中、R1Iは水素原子または低級アルキル基を示し;R2I及びR3Iは、それぞれ同一または異なって、水素原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基を示し;R4Iは水素原子、アシル基または低級アルキル基を示し;R5Iは水素原子または置換されてもよい低級アルキル基を示し;Zは硫黄原子、酸素原子、または低級アルキル基で置換された炭素原子を示し;nIは1または2を示し;XI-はアニオンを示す。)
【0030】
式中R1Iにおける低級アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、ter-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられ、これらのうちメチル基及びエチル基が好ましい。
R2I及びR3Iにおける低級アルキル基は上記と同様であり、低級アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシを意味する。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられるが、これらのうちメトキシ基及びエトキシ基が好ましい。なお、R2I及びR3Iは水素原子であることが好ましい。
R4Iにおけるアシル基とは、脂肪族カルボン酸から誘導されたアシル基が好ましい。具体的には、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられ、これらのうちアセチル基が好ましい。また、低級アルキル基は上記と同様である。
R5Iにおける低級アルキル基とは上記と同様であり、置換されていてもよい低級アルキル基とは、1〜3個の水酸基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)等で置換されていてもよい低級アルキル基を意味する。これらのうち、1個の水酸基で置換されたメチル基及びエチル基が好ましい。
Zにおける低級アルキル基とは上記と同様であり、Zとしては硫黄原子であることが好ましい。
X-におけるアニオンは、ハロゲンイオン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素イオン)、ハロゲン化ホウ素イオン(BF4-、BCl4-、BBr4-等)、リン化化合物イオン、ハロゲン酸素酸イオン、フルオロ硫酸イオン、メチル硫酸イオン、芳香環ハロゲンあるいはハロゲンをもつアルキル基を置換基として有するテトラフェニルホウ素化合物イオン等が挙げられる。これらのうち臭素イオンまたはBF4-が好ましい。
【0031】
上記(I)の色素の具体的な例としては、以下のような色素が好適である。
色素A
【0032】
【化6】
【0033】
色素B
【0034】
【化7】
【0035】
色素C
【0036】
【化8】
【0037】
上記の色素の他に、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム−アクリジンへテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー−1、エチジウムホモダイマー−2、エチジウムモノアジド、TOTO−1、TO−PRO−1、TOTO−3、TO−PRO−3、アイオダイングリーン(Iodine Green)、NK−3975(林原生物学研究所)、NK−1570(林原生物学研究所)、NK−1049(林原生物学研究所)なども好適に使用される。
【0038】
上記の色素の試薬中の濃度は、0.01〜500ppmであることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜200ppmである。色素は、単独で用いてもよいし、二種類以上の色素を併用してもよい。
【0039】
試薬の浸透圧は150〜600mOsm/kgに調整されることが好ましい。試薬の浸透圧を所望の範囲に調整するために試薬には糖が含有される。糖を用いて試薬の浸透圧を調整することにより、反応時間が延びても或いは反応温度が高くなっても骨髄芽球が損傷しにくく、正確に骨髄芽球と成熟白血球との分類及び計数を行うことができる。
【0040】
また、浸透圧を調整する物質(浸透圧浸透圧調整剤)として試薬に塩化ナトリウムを含有させることもできる。しかしながら、試薬に塩化ナトリウムが多量に含まれていると、試薬と試料との混合後、反応時間が経過するほど、或いは反応温度が高いほど骨髄芽球の損傷が促進され、骨髄芽球の核が色素で染色される。骨髄芽球が染色されると、検出される蛍光強度が成熟白血球の蛍光強度と同等となってしまい、成熟白血球と骨髄芽球との分類精度が低下する。以上より、試薬中の塩化ナトリウムの含有濃度は、測定に悪影響を及ぼさないよう、0.01〜3g/Lであることが好ましく、0g/Lである(含まれない)ことがより好ましい。
【0041】
試薬に含有させる糖の種類は特に限定されないが、単糖類、多糖類、糖アルコールなどを用いることができる。単糖類としては、グルコース、フルクトースなどが例示され、多糖類としては、アラビノースなどが例示され、糖アルコールとしては、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、リビトールが例示される。試薬中の糖の濃度は、好ましくは10〜75g/L、より好ましくは20〜50g/Lである。これらの糖のうち一種類を用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0042】
試薬のpHを調整するために試薬に緩衝剤を添加することが好ましい。緩衝剤としては、例えばHEPESなどのグッド緩衝剤、リン酸緩衝剤などと、水酸化ナトリウムなどのpH浸透圧調整剤を用いることができる。試薬のpHは、5.0〜9.0に調整されることが好ましい。
【0043】
上述した各成分は、同一の容器に収容してもよいが、二つ以上の容器に収容して試薬キットとすることが好ましい。この試薬キットは、赤血球及び成熟白血球の細胞膜を損傷する界面活性剤、損傷した血球を収縮させる可溶化剤及び糖を含有する第一試薬と、色素を含有する第二試薬とを含む。この場合、色素の保存安定性を向上させるため、第二試薬の色素は有機溶媒に溶解されていることが好ましい。
【0044】
また、本発明の別の実施形態の試薬キットは、赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、浸透圧調整剤とを含有する第一試薬と、核酸染色色素を含む第二試薬とを含む。
【0045】
浸透圧調整剤は、第一試薬の浸透圧及び電気伝導度を所望の値に調整する為に添加される。この浸透圧調整剤を用いることにより、第一試薬の浸透圧は150〜600mOsm/kgに調整される。また、第一試薬の電気伝導度は6mS/cm未満に調整され、好ましくは0.01〜3mS/cm、より好ましくは0.1〜2mS/cmに調整される。
【0046】
浸透圧調整剤としては、糖やアミノ酸などを用いることができる。アミノ酸としては、バリン、プロリン、グリシン、アラニンなどを用いることができるが、グリシン及びアラニンの何れか又は両方を用いることが好ましい。アミノ酸の濃度としては、1〜50g/Lが好ましく、10〜30g/Lがより好ましい。また、浸透圧調整剤としてさらに塩化ナトリウムを試薬に添加する場合は、上述したように、骨髄芽球の測定に影響を与えないよう、試薬中の濃度が0.01〜3g/Lであることが好ましく、0g/Lであることがより好ましい。
【0047】
上述の各成分を含む試薬と、生体試料とを混合して測定用試料を調製し、フローサイトメータを用いて、幼若白血球の分析を行うことができる。
【0048】
生体試料と試薬(試薬キットの場合は全ての試薬の混合試薬)との混合比は、1:10〜1:1000であることが好ましい。生体試料中の血球と試薬との反応は、3〜15秒間、20〜40℃で行うことが好ましい。反応温度が高いときは反応時間を短くし、反応温度が低いときは反応時間を長くすればよい。
【0049】
試料の測定にフローサイトメータを用いた場合、フローセル中を流れる測定用試料中の血球に光を照射して散乱光や蛍光などの光学的情報を取得し、これに基づいて血球の種類が特定される。
【0050】
具体的には、図1に示すようなフローサイトメータを用いることができる。以下、図1に基づき、本実施形態の一例として骨髄芽球測定について詳述する。
【0051】
ノズル6から吐出された測定用試料は、フローセル23のオリフィス部を流れる。このとき、試料中の血球は一列になってオリフィス部を通過する。光源21から射出した光は、コリメートレンズ22を介してフローセル23を流れる血球に照射される。血球に光を照射することによって側方散乱光、側方蛍光及び前方散乱光が生じる。側方散乱光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28とを介して側方散乱光検出器(フォトマルチプライアチューブ)29に入射する。側方蛍光は、集光レンズ27とダイクロイックミラー28とフィルタ29とピンホール板30とを介して側方蛍光検出器(フォトマルチプライアチューブ)31に入射する。前方散乱光は、集光レンズ24とピンホール板25とを介して前方散乱光検出器(フォトダイオード)26に入射する。
【0052】
前方散乱光検出器26から出力される前方散乱光信号と、側方散乱光検出器29から出力される側方散乱光信号と、側方蛍光検出器31から出力される側方蛍光信号とは、それぞれアンプ32,アンプ33及びアンプ34により増幅され、解析部35に入力される。
【0053】
解析部35は、受信した前方散乱光信号、側方散乱光信号及び側方蛍光信号から、前方散乱光強度、側方散乱光強度及び蛍光強度を算出する。解析部35は、前方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第一の二次元分布図を作成し、この二次元分布図上で試料中の全白血球が出現する領域(全白血球領域)を特定する。さらに、全白血球領域に出現する細胞について側方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第二の二次元分布図を作成する。この二次元分布図上で、成熟白血球が出現する領域(成熟白血球領域)、リンパ球が出現する領域(リンパ球領域)、単球が出現する領域(単球領域)及び顆粒球が出現する領域(顆粒球領域)を設定する。さらに、骨髄芽球が出現する領域(骨髄芽球領域)及び幼若顆粒球が出現する領域(幼若顆粒球領域)を特定する。骨髄芽球領域に出現する細胞数を試料に含まれる骨髄芽球数として計数し、幼若顆粒球領域に出現する細胞数を試料に含まれる幼若顆粒球数として計数する。なお、骨髄芽球は細胞サイズが小さく、単核であるため、前方散乱光強度が強く、側方散乱光強度が弱い。また、上述したように殆ど染色されないため蛍光強度は弱い。幼若顆粒球は、細胞サイズが大きく、核が分葉しているため、前方散乱光強度及び側方散乱光強度が弱い。また、上述したように殆ど染色されないため、蛍光強度は弱い。
【0054】
(実施例1)
以下の組成の第一試薬A及び第二試薬を調整した。
<第一試薬A>
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル(日光ケミカルズ) 20000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 500ppm
アラビノース 39.6g/L
HEPES 10mM
精製水 1L
上記を混合し、さらにNaOHを添加してpHを7.0に調整した。第一試薬Aの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.59mS/cmであった。
<第二試薬>
色素A 20ppm
エチレングリコール1L
【0055】
第一試薬980μLと、第二試薬20μLと、骨髄芽球を含む血液試料A20μLとを混合し、33℃で7秒間反応させた後、図1に示すフローサイトメータで側方散乱光強度、前方散乱光強度及び蛍光強度を測定した。なお、光源は赤半導体レーザを用いた。
【0056】
得られた側方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第一の二次元分布図を作成し、全白血球領域を特定した。この図を図2に示す。全白血球領域内に出現する細胞数を全白血球数として計数した。
【0057】
第一の二次元分布図中の全白血球領域に出現する細胞について、側方散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第二の二次元分布図を作成し、側方散乱光強度が小さく蛍光強度が小さい領域を骨髄芽球領域として特定した。この図を図3に示す。骨髄芽球領域内に出現する細胞数を骨髄芽球数として計数した。
【0058】
本実施例では、全白血球数に対する骨髄芽球の比率(骨髄芽球比率=骨髄芽球数/全白血球数×100)を算出した。骨髄芽球比率は45.8%であった。
【0059】
(実施例2)
試薬と血液試料Aとを35℃で反応させること以外は実施例1と同様にして、骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は42.6%であった。なお、実施例2で作成された第一の二次元分布図は図4に示され、第二の二次元分布図は図5に示される。
【0060】
(比較例1)
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 24.0g/L、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 1.5g/L、DL−メチオニン 20.0g/L、HEPES 12.0g/L、1N−NaOH 0.3g/L、NaCl 4.0g/L及び色素A 3.0mg/Lを含む試薬1mLと血液試料B33μLとを混合して反応させること以外は、実施例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は25.1%であった。なお、比較例1で作成された第一の二次元分布図は図6に示され、第二の二次元分布図は図7に示される。この試薬の浸透圧は350mOsm/kg、電気伝導度は7.4mS/cmであった。
【0061】
(比較例2)
試薬と血液試料Bとを35℃で反応させること以外は比較例1と同様にして、骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は7.2%であった。なお、比較例2で作成された第一の二次元分布図は図8に示され、第二の二次元分布図は図9に示される。
【0062】
比較例1及び2より、同一の血液試料を用いたにもかかわらず、33℃で反応させた場合の骨髄芽球比率(比較例1)に比べ、35℃で反応させた場合の骨髄芽球比率(比較例2)は大変低い値を示した。これは、35℃で反応させた場合は、骨髄芽球領域内に出現するべき骨髄芽球が領域外に出現したことに起因する。即ち、比較例1及び2で調製した試薬を用いると、反応温度が高いほど骨髄芽球が安定的に存在することができず、7秒間の反応の間に骨髄芽球が損傷してしまったと考えられる。
【0063】
しかしながら、実施例1及び2より、33℃で反応させた場合の骨髄芽球比率(実施例1)は、35℃で反応させた場合の骨髄芽球比率(実施例2)と近似した値を示した。これは、実施例で調製された試薬と骨髄芽球とを高い温度で反応させても、骨髄芽球は実質的に損傷せず正確に計数することができたことを示す。即ち、実施例で調製された試薬を用いると温度に対する骨髄芽球の安定性が向上し損傷しにくくなった。以上より、実施例で調整された試薬を用いることにより正確に試料中の骨髄芽球を測定できることが確認された。
【0064】
(実施例3)
第一試薬Bは、アラビノースではなくキシリトールを39.56g/L、ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテルを20000ppmではなく25000ppm、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウムを500ppmではなく750ppm含有させること以外は第一試薬Aと同様にして調製された。第一試薬Bの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.59mS/cmであった。
【0065】
第一試薬Aではなく第一試薬Bを用いること、及び血液試料Aではなく血液試料Cを用いること以外は実施例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。また、第一試薬Aではなく第一試薬Bを用いること、血液試料Aではなく血液試料Cを用いること、及び7秒間ではなく12秒間試薬と血液試料Cとを反応させること以外は実施例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0066】
(実施例4)
第一試薬Cは、キシリトールではなく、アラビノースを39.52g/L含有させること以外は第一試薬Bと同様にして調製された。第一試薬Cの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.62mS/cmであった。
【0067】
第一試薬Bではなく第一試薬Cを用いること以外は実施例3と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0068】
(実施例5)
第一試薬Dは、キシリトールではなく、アラニンを23.16g/L含有させること以外は第一試薬Bと同様にして調製された。第一試薬Dの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.61mS/cmであった。
【0069】
第一試薬Bではなく第一試薬Dを用いること以外は実施例3と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0070】
(実施例6)
第一試薬Eは、キシリトールではなく、グリシンを19.52g/L含有させること以外は第一試薬Bと同様にして調製された。第一試薬Eの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.63mS/cmであった。
【0071】
第一試薬Bではなく第一試薬Eを用いること以外は実施例3と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0072】
(比較例3)
血液試料Aではなく血液試料Cを用いること以外は比較例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。また、血液試料Aではなく血液試料Dをもちいること、及び7秒間ではなく12秒間試薬と血液試料Cとを反応させること以外は比較例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。
【0073】
実施例3〜6及び比較例3の結果を図10に示す。図10は、試料と試薬とを12秒間反応させたときの骨髄芽球比率が、7秒間反応させたときの骨髄芽球比率に比べてどのくらい低下しているかを示したグラフである。
【0074】
図10より、比較例3の試薬を用いると、試薬と試料とを12秒間反応させた場合、7秒間反応させた場合に比べて骨髄芽球の比率が20%以上低下した。これは、反応時間が長くなるほど試薬の影響で骨髄芽球が損傷してしまったためであると考えられる。
【0075】
実施例3〜6の何れかで調製した試薬を用いると、比較例3の試薬を用いた場合に比べて骨髄芽球比率の低下が10%程度に抑えられた。即ち、実施例3〜6の試薬を用いることにより骨髄芽球の安定性が向上し、測定用試料中で骨髄芽球が損傷しにくくなった。以上のように、実施例3〜6の試薬を用いると骨髄芽球が損傷しにくく、正確に骨髄芽球を測定できることが確認された。
【0076】
(実施例7)
以下の組成を含む第一試薬Fを調整した。
ポリオキシエチレン(16)オレイルエーテル 25000ppm
N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 750ppm
キシリトール 37.0g/L
HEPES 10mM
精製水 1L
上記を混合し、さらにNaOHを添加してpHを7.0に調整した。第一試薬Fの浸透圧は280mOsm/kg、電気伝導度は0.64mS/cmであった。
また、第二試薬は実施例1で調整したものと同様のものを用いた。
【0077】
第一試薬Aではなく第一試薬Fを用いること、及び血液試料Aではなく血液試料Dを用いること以外は実施例1と同様にして骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は45%であった。なお、実施例7で作成された第一の二次元分布図は図11に示され、第二の二次元分布図は図12に示される。また、図12の第二の二次元分布図には、成熟白血球が出現する領域(成熟白血球領域)も設定した。
【0078】
また、血液試料Dの骨髄芽球比率を顕微鏡により算出すると、58.5%であった。実施例7で測定した骨髄芽球比率と顕微鏡により算出した骨髄芽球比率とが近似した値を示したことより、実施例7の試薬を用いると血液試料中の成熟白血球と骨髄芽球とを正確に弁別し、骨髄芽球を正確に計数できることが確認された。
【0079】
(実施例8)
血液試料Dではなく血液試料Gを用いること以外は実施例5と同様にして骨髄芽球比率を算出した。骨髄芽球比率は5.5%であった。なお、実施例8で作成された第一の二次元分布図は図13に示され、第二の二次元分布図は図14に示される。
【0080】
また、血液試料Eの骨髄芽球比率を顕微鏡により算出すると、骨髄芽球比率は6.3%であった。実施例8で測定した骨髄芽球比率と顕微鏡により算出した骨髄芽球比率とが近似した値を示したことより、実施例8の試薬を用いると血液試料中の成熟白血球と骨髄芽球とを正確に弁別し、骨髄芽球を正確に計数できることが確認された。
【0081】
さらに、図13に示される第一の二次元分布図に幼若顆粒球が出現する領域(幼若顆粒球領域)を設定し、この領域内に出現する細胞を幼若顆粒球数として計数した。この値に基づき、全白血球数に対する幼若顆粒球の比率(幼若顆粒球比率)を算出した。幼若顆粒球比率は10%であった。
【0082】
また、血液試料Eの幼若顆粒球比率を顕微鏡により算出すると、幼若顆粒球比率は13%であった。実施例8で測定した幼若顆粒球比率と顕微鏡により算出した幼若顆粒球比率とが近似した値を示したことより、実施例8の試薬を用いると血液試料中の成熟白血球と骨髄芽球と幼若顆粒球とを正確に弁別し、骨髄芽球だけでなく幼若顆粒球をも正確に計数できることが確認された。
【0083】
(実施例9)
血液試料Dではなく血液試料Fを用いること以外は実施例5と同様にして幼若顆粒球比率を算出した。幼若顆粒球比率は12.4%であった。なお、実施例9で作成された第一の二次元分布図は図15に示され、第二の二次元分布図は図16に示される。
【0084】
また、血液試料Eの骨髄芽球比率及び幼若顆粒球比率を顕微鏡により算出すると、幼若顆粒球比率は10.8%であった。実施例9で測定した幼若顆粒球比率と顕微鏡により算出した幼若顆粒球比率とが近似した値を示したことより、実施例9の試薬を用いると血液試料中の成熟白血球と幼若顆粒球とを正確に弁別し、幼若顆粒球を正確に計数できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】フローサイトメータである。
【図2】実施例1における第一の二次元分布図である。
【図3】実施例1における第二の二次元分布図である。
【図4】実施例2における第一の二次元分布図である。
【図5】実施例2における第二の二次元分布図である。
【図6】比較例1における第一の二次元分布図である。
【図7】比較例1における第二の二次元分布図である。
【図8】比較例2における第一の二次元分布図である。
【図9】比較例2における第二の二次元分布図である。
【図10】実施例3〜6及び比較例3の結果を示すグラフである。
【図11】実施例7における第一の二次元分布図である。
【図12】実施例7における第二の二次元分布図である。
【図13】実施例8における第一の二次元分布図である。
【図14】実施例8における第二の二次元分布図である。
【図15】実施例9における第一の二次元分布図である。
【図16】実施例9における第二の二次元分布図である。
【符号の説明】
【0086】
6:ノズル 21:光源 22:コリメートレンズ 23:フローセル 24:集光レンズ 25:ピンホール板 26:前方散乱光検出器 27:集光レンズ 28:ダイクロイックミラー 29:側方散乱光検出器 30:ピンホール板 31:側方蛍光検出器 32:アンプ 33:アンプ 34:アンプ 35:解析部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる幼若白血球を分析するための試薬であって、
赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖と、核酸を染色する色素と、を含有する幼若白血球分析用試薬。
【請求項2】
前記界面活性剤が、以下の構造式
【化1】
を有するポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤である、請求項1記載の試薬。
【請求項3】
前記可溶化剤が、サルコシン誘導体、サルコシン誘導体の塩、コール酸誘導体、及びメチルグルカンアミドからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1又は2記載の試薬。
【請求項4】
前記糖が、キシリトール、アラビノース、グルコース、マンニトール、ソルビトール、リビトールからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜3の何れかに記載の試薬。
【請求項5】
前記糖を10〜75g/L含有する請求項1〜4の何れかに記載の試薬。
【請求項6】
塩化ナトリウムを実質的に含有しない、請求項1〜5の何れかに記載の試薬。
【請求項7】
pHが5.0〜9.0である、請求項1〜6の何れかに記載の試薬。
【請求項8】
浸透圧が150〜600mOsm/kgである、請求項1〜7の何れかに記載の試薬。
【請求項9】
試料に含まれる幼若白血球を分析するための試薬キットであって、
赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、
損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、
浸透圧調整剤とを含有し、
浸透圧が150〜600mOsm/kgであり、電気伝導度が6mS/cm未満である第一試薬、及び
核酸を染色する色素を含有する第二試薬を含む幼若白血球分析用試薬キット。
【請求項10】
前記第一試薬の浸透圧が3mS/cm以下である請求項9記載の試薬キット。
【請求項11】
前記浸透圧調整剤が、糖及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つのである請求項9又は10記載の試薬キット。
【請求項12】
前記アミノ酸がグリシン及びアラニンからなる群より選択される少なくとも1つである請求項11記載の試薬キット。
【請求項13】
前記アミノ酸を1〜50g/L含有する請求項11又は12記載の試薬。
【請求項14】
前記第一試薬の塩化ナトリウムの濃度が3g/L未満である請求項9〜13の何れかに記載の試薬。
【請求項15】
試料に含まれる幼若白血球を分析するための試薬キットであって、
赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖と、を含有する第一試薬、及び
核酸を染色する色素を含有する第二試薬を含む幼若白血球分析用試薬キット。
【請求項1】
試料に含まれる幼若白血球を分析するための試薬であって、
赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖と、核酸を染色する色素と、を含有する幼若白血球分析用試薬。
【請求項2】
前記界面活性剤が、以下の構造式
【化1】
を有するポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤である、請求項1記載の試薬。
【請求項3】
前記可溶化剤が、サルコシン誘導体、サルコシン誘導体の塩、コール酸誘導体、及びメチルグルカンアミドからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1又は2記載の試薬。
【請求項4】
前記糖が、キシリトール、アラビノース、グルコース、マンニトール、ソルビトール、リビトールからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜3の何れかに記載の試薬。
【請求項5】
前記糖を10〜75g/L含有する請求項1〜4の何れかに記載の試薬。
【請求項6】
塩化ナトリウムを実質的に含有しない、請求項1〜5の何れかに記載の試薬。
【請求項7】
pHが5.0〜9.0である、請求項1〜6の何れかに記載の試薬。
【請求項8】
浸透圧が150〜600mOsm/kgである、請求項1〜7の何れかに記載の試薬。
【請求項9】
試料に含まれる幼若白血球を分析するための試薬キットであって、
赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、
損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、
浸透圧調整剤とを含有し、
浸透圧が150〜600mOsm/kgであり、電気伝導度が6mS/cm未満である第一試薬、及び
核酸を染色する色素を含有する第二試薬を含む幼若白血球分析用試薬キット。
【請求項10】
前記第一試薬の浸透圧が3mS/cm以下である請求項9記載の試薬キット。
【請求項11】
前記浸透圧調整剤が、糖及びアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つのである請求項9又は10記載の試薬キット。
【請求項12】
前記アミノ酸がグリシン及びアラニンからなる群より選択される少なくとも1つである請求項11記載の試薬キット。
【請求項13】
前記アミノ酸を1〜50g/L含有する請求項11又は12記載の試薬。
【請求項14】
前記第一試薬の塩化ナトリウムの濃度が3g/L未満である請求項9〜13の何れかに記載の試薬。
【請求項15】
試料に含まれる幼若白血球を分析するための試薬キットであって、
赤血球及び成熟白血球の細胞膜に損傷を与える界面活性剤と、損傷した血球を収縮させる可溶化剤と、糖と、を含有する第一試薬、及び
核酸を染色する色素を含有する第二試薬を含む幼若白血球分析用試薬キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−225595(P2007−225595A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345066(P2006−345066)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】
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