説明

幾何誤差同定装置

【課題】各軸間における傾き誤差を常に精度良く同定することができる幾何誤差同定装置を提供する。
【解決手段】直角度誤差を同定するにあたって直角を形成する2軸平面において直角度誤差の影響が最も大きく現れる±45degのポイント(若しくは許容範囲内にある計測ポイント)での計測を必ず実行するようにした。したがって、直角度誤差の同定精度が極めて高い。また、直角度誤差の同定精度が高いが故に、直角度誤差の影響が大きいC軸やA軸に固有の幾何誤差の同定精度も向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば5軸制御マシニングセンタ等といった多軸工作機械における幾何誤差を同定するための幾何誤差同定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば特許文献1に開示されているように、直交3軸であるX軸、Y軸、及びZ軸に加え、テーブルの回転軸となるC軸及びA軸の合計5軸方向への動作を制御して加工する5軸制御マシニングセンタといった多軸工作機械が知られている。このような多軸工作機械においては、各部材の寸法精度や部材の組み立て精度の向上にも限度があるため、隣り合う軸間での傾きや位置誤差等といった所謂幾何誤差を同定する必要がある。
そして、上記5軸制御マシニングセンタにおける幾何誤差を同定する方法としては、ボールバーと呼ばれる変位センサを用いて行う3軸円弧補間運動測定、すなわち直線軸2軸と回転軸1軸とを同期させて、テーブル上の所定点と主軸の相対間変位を保持したまま円運動させ、得られた円軌跡の中心偏差量から幾何誤差を同定する方法が一般的に知られている。しかしながら、この方法では、ボールバーという特殊な測定器が必要になるとともに、ボールバーの設置方法によって同定精度に与える影響が大きく、幾何誤差の正確な同定に高い技能が必要になるという問題がある。
【0003】
そこで、ボールバーの代わりにタッチプローブ(ボールバーと比べると一般的な測定器である)及び計測ターゲットとなるターゲット球を用いて、上記3軸円弧補間運動測定と同様の幾何誤差同定原理からなる幾何誤差同定方法が考案されている。これは、たとえば上記5軸制御マシニングセンタにおいては、テーブル上にターゲット球を設置し、テーブルをC軸周り及びA軸周りおいて複数の角度で割り出すとともに、テーブル上のターゲット球の位置を主軸に装着したタッチプローブで計測し、この計測されたターゲット球の位置にもとづき複数の割出条件によって描かれた円弧軌跡の中心偏差量から幾何誤差を同定するという方法である。つまり、この方法では、たとえばテーブルをA軸周りについては任意の角度で固定し、C軸周りについて複数回割り出す、或いは逆にテーブルをC軸周りについては任意の角度で固定し、A軸周りについて複数回割り出し、それぞれの割出条件でタッチプローブをターゲット球に複数回接触させ、ターゲット球の中心座標を算出するといった計測を繰り返すことになる。そして、このような計測を繰り返すに際しては、複数回割り出す軸(A軸又はC軸)の動作範囲を設定し、次に計測ポイント数を任意に設定し、動作範囲と計測ポイント数とから等ピッチで割出角度ピッチを算出し、各割出条件でターゲット球の中心座標を計測することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−44802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般的に直交3軸間における傾き誤差(ここでは、直角度誤差となる)は、ボールバーを用いた測定の結果において±45degの楕円成分になることが知られている。これは、上記タッチプローブを用いた方法においても同様であり、直角度誤差は、計測により得られた円軌跡において45degの楕円成分として現れることになる。そのため、直角度誤差を精度良く同定するためには、直角度誤差の影響が大きく現れる±45degのポイントを計測する必要がある。
【0006】
しかしながら、従来では、上述したように動作範囲と計測ポイント数とから等ピッチで割出角度ピッチを算出し、各割出条件でターゲット球の中心座標を計測するため、±45degとなるポイントが必ずしも計測ポイントになるとは限らない。したがって、±45degとなるポイントで計測を行わないような場合には、直角度誤差の同定精度が低くなるといった問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、各軸間における傾き誤差を常に精度良く同定することができる幾何誤差同定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、工具を装着する主軸と、ワークを保持するテーブルとが、少なくとも1つの回転軸と、前記回転軸に直交する平面内で互いに直交する2方向の並進軸とによって相対移動することにより前記ワークを前記工具で加工する多軸工作機械において、前記主軸又は前記テーブルの一方に取り付けられたターゲットの位置を前記回転軸周りで複数の割出角度に割り出すとともに、前記主軸又は前記テーブルの他方に取り付けられたタッチプローブを用いて、各割出角度での前記ターゲットの位置を計測することにより、前記平面内にある2つの軸間での傾き誤差を同定する制御装置を備えた幾何誤差同定装置であって、前記制御装置は、前記平面において前記2つの軸間を二等分する角度上に前記ターゲットが位置する第1割出角度を求め、少なくとも前記第1割出角度に前記ターゲットを割り出して前記タッチプローブを用いた計測を行い、前記傾き誤差を同定することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記制御装置は、前記回転軸周りでの前記複数の割出角度を算出するにあたり、前記回転軸周りでの動作範囲と任意に設定される計測ポイント数とから等ピッチで前記複数の割出角度を算出する一方、前記第1割出角度が、前記複数の割出角度の中に存在するか否かを判断するとともに、前記第1割出角度が存在しない場合には、前記第1割出角度を計測ポイントとして追加して、前記タッチプローブを用いた計測を行うことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記制御装置は、前記回転軸周りでの前記複数の割出角度を算出するにあたり、前記回転軸周りでの動作範囲と任意に設定される計測ポイント数とから等ピッチで前記複数の割出角度を算出する一方、前記第1割出角度が、前記複数の割出角度の中に存在するか否かを判断するとともに、前記第1割出角度が存在しない場合には、前記複数の割出角度のうち最も前記第1割出角度に近い割出角度を前記第1割出角度に置換して、前記タッチプローブを用いた計測を行うことを特徴とする。
また、上記目的を達成するために、本発明のうち請求項4に記載の発明は、工具を装着する主軸と、ワークを保持するテーブルとが、少なくとも1つの回転軸と、前記回転軸に直交する平面内で互いに直交する2方向の並進軸とによって相対移動することにより前記ワークを前記工具で加工する多軸工作機械において、前記主軸又は前記テーブルの一方に取り付けられたターゲットの位置を前記回転軸周りで複数の割出角度に割り出すとともに、前記主軸又は前記テーブルの他方に取り付けられたタッチプローブを用いて、各割出角度での前記ターゲットの位置を計測することにより、前記平面内にある2つの軸間での傾き誤差を同定する制御装置を備えた幾何誤差同定装置であって、前記制御装置は、前記回転軸周りでの前記複数の割出角度を算出するにあたり、前記回転軸周りでの動作範囲と任意に設定される計測ポイント数とから等ピッチで前記複数の割出角度を算出する一方、前記平面において前記2つの軸間を二等分する角度上に前記ターゲットが位置する第1割出角度を求めるとともに、前記第1割出角度が、前記複数の割出角度に存在するか否かを判断し、前記第1割出角度が存在しない場合には更に前記複数の割出角度のうち最も前記第1割出角度に近い割出角度と前記第1割出角度との角度差が所定の許容範囲内にあるか否かを判断し、前記角度差が前記許容範囲内にない場合には前記第1割出角度を前記複数の割出角度に含め、少なくとも前記第1割出角度に前記ターゲットを割り出して前記タッチプローブを用いた計測を行い、前記傾き誤差を同定する一方、前記角度差が前記許容範囲内にある場合には前記第1割出角度を前記複数の割出角度に含めず、前記第1割出角度に前記ターゲットを割り出すことなく前記タッチプローブを用いた計測を行い、前記傾き誤差を同定することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れかに記載の発明において、前記並進軸が直交3軸であり、前記回転軸が前記並進軸の異なる何れかと平行である多軸工作機械における直交2軸間での傾き誤差を同定する幾何誤差同定装置であって、前記第1割出角度が、±45deg及び/又は±135degであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転若しくは旋回させる軸に直交する平面内にある2つの軸間での傾き誤差を同定するに際して、その平面において2つの軸間を二等分する角度上にターゲット球が位置する第1割出角度を求め、少なくとも第1割出角度にターゲット球を割り出してタッチプローブを用いた計測を行い、2つの軸間での傾き誤差を同定する。したがって、傾き誤差の影響が最も大きく現れる計測ポイント(請求項4では許容範囲内にある計測ポイントを含む)での計測を必ず実行するため、傾き誤差の同定精度が極めて高い。また、傾き誤差の同定精度が高いが故に、傾き誤差の影響が大きいC軸やA軸に固有の幾何誤差の同定精度も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】多軸工作機械を示した斜視説明図である。
【図2】傾き誤差に起因した楕円軌跡を示した説明図である。
【図3】テーブル上にターゲット球を設置した状態を示した説明図である。
【図4】A軸周りでターゲット球を旋回割出するに際して、テーブルのC軸周りでの回転角度を90degオフセットさせてから計測する様子を示した説明図である。
【図5】割出角度ピッチが等ピッチとなる割出条件リストを示した説明図である。
【図6】A軸周りでターゲット球を旋回割出する様子を示した説明図である。
【図7】割出条件リストの修正例を示した説明図である。
【図8】割出条件リストの他の修正例を示した説明図である。
【図9】傾き誤差の同定に係る制御を示したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態となる幾何誤差同定装置について、図面にもとづき詳細に説明する。尚、本実施形態では、多軸工作機械の一例である5軸制御マシニングセンタにおける幾何誤差(特に、並進軸間の傾き誤差)の同定について説明する。
【0012】
まず、多軸工作機械1について、図1をもとに説明する。図1は、多軸工作機械1を示した斜視説明図である。尚、図1中のX軸、Y軸、及びZ軸は直交3軸(多軸工作機械1が有する並進軸)であって、Y軸方向を多軸工作機械1における前後方向、X軸方向を左右方向、Z軸方向を上下方向とする。
多軸工作機械1のベッド2の上面には、Y軸案内3、3が形成されており、該Y軸案内3、3には、トラニオン構造のAC軸ユニット4がY軸方向へ移動可能に設置されている。AC軸ユニット4は、前面視で左右方向に幅広なU字状に形成されたクレードル5を備えてなるもので、該クレードル5は、左右に内蔵されたA軸駆動機構(図示せず)により、X軸方向と平行なA軸(回転軸)周りに旋回傾斜可能となっている。また、AC軸ユニット4は、クレードル5の上面に加工対象となるワークを載置するためのテーブル6を備えており、該テーブル6は、クレードル5に内蔵されたC軸駆動機構(図示せず)により、Z軸と平行なC軸(回転軸)周りに360度回転可能となっている。
【0013】
一方、ベッド2には、Y軸案内3、3を跨ぐように門形構造のクロスレール7が固定されており、クロスレール7の前面には、X軸案内面8が形成されている。そして、X軸案内面8に、ラムサドル9がX軸方向へ移動可能に設置されている。また、ラムサドル9には、Z軸案内面10が形成されており、該Z軸案内面10には、下端に主軸11を備えた主軸頭12がZ軸方向へ移動可能に設置されている。尚、ラムサドル9、AC軸ユニット4、及び主軸頭12は、各案内面と平行に設置されたボールネジと、該ボールネジに連結されたサーボモータ(図示せず)とにより移動可能となっている。また、多軸工作機械1には、幾何誤差同定装置を含んだ図示しないNC装置(制御装置)が設けられており、NC装置によって、AC軸ユニット4や主軸頭12等の各部材の各軸方向での駆動が制御されている。
そして、上記多軸工作機械1は、テーブル6上に固定されるワークをA軸周り及びC軸周りで旋回・回転させるとともにY軸方向へと移動させる一方、工具を取り付けた主軸11をX軸及びZ軸へと移動させることにより、ワークに対して多面加工を施すようになっている。
【0014】
ここで、本発明の要部となる多軸工作機械1におけるXY軸間での直角度誤差γ、及び
YZ軸間での直角度誤差αの同定について説明する。
上述したような多軸工作機械1のXY平面においてXY軸間に直角度誤差γ[rad]が存在した場合、図2に示すような半径Rの円軌跡を描くと、XY平面における円軌跡の極座標をθ[deg]とすると、半径誤差ΔRは下記(式1)で表され、±45degの傾きをもった楕円となることが一般的に知られている。
【0015】
【数1】

【0016】
そして、タッチプローブ及びターゲット球21を用いて直角度誤差γを同定しようとすると、まず図3に示すようにテーブル6の回転中心からRだけ離れた位置へターゲット球21を固定する。そして、A軸旋回中心22がC軸中心線上にあるとすると、C軸中心線とA軸旋回中心22との交点を座標原点とした場合におけるターゲット球21の中心座標[X]を下記(式2)と設定する。
【0017】
【数2】

【0018】
次に、計測範囲を0[deg]〜360[deg]と設定するとともに、計測ポイント数を8個とする。すると、割出角度ピッチは45degとなるため、AC軸ユニット4において、A軸周りについては任意の角度(ここではテーブル6が水平となる角度)で固定したまま、テーブル6を45degピッチでC軸周りに割り出していき、各計測ポイントにおいて主軸に装着したタッチプローブでターゲット球21の座標を計測する。そして、得られた計測座標を用い、最小二乗法等により円の軌跡に関する関係式である下記(式3)におけるA〜Eの各係数を求める。すると、このようにして求めた係数のうち係数Dと上記(式1)とに相関があるため、XY軸間の直角度誤差γを同定することができる。尚、この場合、極座標を示すθはC軸周りでのテーブル6の割出角度と一致する。
【0019】
【数3】

【0020】
同様に、C軸周りについては固定したまま、A軸周りでクレードル5を割り出していけば、YZ軸間の直角度誤差αを同定することができる。以下、この同定に関して、図9のフローチャートにしたがって説明する。
AC軸ユニット4におけるクレードル5のA軸周りでの旋回動作は、テーブル6をC軸周りで回転させる場合と異なって動作範囲に制限がある上、A軸周りでの旋回動作中にクレードル5がラムサドル9と干渉するおそれ等もある。そこで、干渉等の問題を出来る限り回避すべく、図4に示すように、テーブル6のC軸周りでの回転角度を90degオフセットさせてから計測する方法を採用する。この場合、上記(式2)の状態からA軸周りでの旋回角度をA、C軸周りでの回転角度をCに夫々割り出した際におけるターゲット球21の中心座標[X]は下記(式4)で推定される。
【0021】
【数4】

【0022】
その上で、まずYZ軸間の直角度誤差αを同定するための割出条件リストを作成する(S1)。たとえば、テーブル6をC軸周りで−90degに割り出した状態において、クレードル5のA軸周りでの動作範囲を−15deg〜+105deg、計測ポイント数を9点として夫々設定すると、割出角度ピッチは15degとなり、図5に示すような割出条件リストが作成される。尚、図5における割出条件A’軸及びC’軸の旋回若しくは回転角度は、機械指令座標である。
【0023】
以上のようにC’軸を割り出した場合にはY及びHが存在するため、図6で示すようにYZ平面においてA軸旋回中心を座標原点とすると、A軸周りでの旋回に伴いターゲット球21の中心が描く軌跡は、半径RRで角度Aのオフセットが生じることになる。そこで、固定割出角度情報(すなわち、C軸周りでの回転角度)とターゲット球21の位置とからオフセット角度Aを算出する(S2)。つまり、上記(式4)からA軸周りでの旋回角度0deg、C軸周りでの回転角度CにおけるY軸方向での位置Yi0は下記(式5)となる。また、半径RRは下記(式6)となり、オフセット角度Aは下記(式7)となる。
【0024】
【数5】

また、A軸周りで旋回角度Aに割り出した際におけるYZ平面で見た実際の割出角度A’は下記(式8)となる。
【数6】

【0025】
それから、直角度誤差αを最も同定しやすい割出角度、すなわちYZ平面で見た実際の割出角度A’が±45degとなるA軸周りでの旋回割出角度Aを算出する(S3)。つまり、上記(式8)においてA’=±45degであるため、S3で算出される旋回割出角度A=±45−A[deg]となる。したがって、例えばR=200mm、H=50mm、C=90degとすると、YZ平面での半径RR=206.155mm、オフセット角度A=13.633degとなるため、YZ平面で見た実際の割出角度A’が±45degとなるA軸周りでの旋回割出角度Aは、上記動作範囲において、−58.633degということになる。
【0026】
そこで、上記旋回割出角度AがS1で作成した割出条件リストに存在するか否かを判断する(S4)。そして、旋回割出角度Aが割出条件リストに存在する場合には、割出条件リストを修正することなく計測動作、すなわちクレードル5を割出条件リストにしたがってA軸周りで順に割り出していき、各計測ポイントにおいて主軸に装着したタッチプローブでターゲット球21の座標を計測する動作を開始し(S7)、その計測結果に基づいてYZ軸間の直角度誤差αを同定する(S8)。
【0027】
また、S4における判断の結果、旋回割出角度Aが割出条件リストに存在しない場合、旋回割出角度AとS1で作成した割出条件リストの内の最も近い旋回割出角度との差が所定の許容範囲内にあるかを判断する(S5)。たとえば、許容範囲を±1degと設定していたとすると、旋回割出角度AとS1で作成した割出条件リスト(図5のもの)の内の最も近い旋回割出角度は−60degであるため、両角度の差が許容範囲を超えることになり、S5でNOと判断することになる。このようにして許容範囲外であると判断すると、S1で作成した割出条件リストを修正する(S6)。たとえば、図7に示すように動作経路の途中(−45degと−60degとの間)に旋回割出角度Aを計測ポイントとして追加したり、図8に示すように旋回割出角度Aに最も近い旋回割出角度−60degを旋回割出角度Aに置換する。そして、その修正された割出条件リストにしたがって計測動作を開始し(S7)、その計測結果に基づいてYZ軸間の直角度誤差αを同定する(S8)。尚、S5における判断の結果、許容範囲内であると、割出条件リストを修正することなくS7で計測動作を開始することになる。
【0028】
以上のような構成を有する幾何誤差同定装置によれば、直角度誤差を同定するにあたって上述したような方法で割出条件リストを修正し、直角を形成する2軸平面において直角度誤差の影響が最も大きく現れる±45degのポイント(若しくは許容範囲内にある計測ポイント)での計測を必ず実行するため、直角度誤差の同定精度が極めて高い。また、直角度誤差の同定精度が高いが故に、直角度誤差の影響が大きいC軸やA軸に固有の幾何誤差の同定精度も向上することができる。
【0029】
なお、本発明に係る幾何誤差同定装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、割出条件リストの作成や修正の制御に係る構成等を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0030】
たとえば、上記実施形態では、算出した旋回割出角度Aが割出条件リストに存在しない場合に割出条件リストを修正する必要のない許容範囲内にあるかを判断するように構成しているが、そのような判断を行うことなく、存在しなかった場合には必ず割出条件リストを修正するように構成することも可能である。
また、上記実施形態では、割出条件リストを修正する際に、旋回割出角度Aを新たに割出条件リストに加えるにあたって動作経路の途中に加えるとしているが、加える位置は適宜変更可能であって、たとえば割出条件リストの最後に加えてもよい。
【0031】
さらに、上記実施形態では、直交3軸を並進軸として有する多軸工作機械1において各直交軸間の傾き誤差(直角度誤差)を同定する方法について説明しており、それ故、±45degの計測ポイントを必ず計測するように構成しているが、たとえばX軸方向への案内面が垂直面から前後方向に所定角度傾斜しており、X軸とZ軸とに加え、X軸とY軸とを合成してなるYs軸(Ys軸が前後方向となる)を並進軸として有するような多軸工作機械において、XYs軸間での角度誤差を精度良く同定するためには±45degではなく、XYs軸間を二等分する角度で計測した方が良い。つまり、傾き誤差の精度を向上するために計測しなければならない計測ポイントは、±45degのポイントに何ら限定されるわけではなく、傾き誤差を同定する対象となる多軸工作機械に応じて変更される。
【0032】
さらにまた、上記実施形態では、クレードルの動作範囲が−15deg〜+105degであるために、S3においてYZ平面で見た実際の割出角度A’が±45degとなるA軸周りでの旋回割出角度Aのみを算出しているが、クレードルの動作範囲に応じて、±45degではなく±135degを用いて旋回割出角度Aを算出したり、両方を用いて旋回割出角度Aを算出したりしても何ら問題はない。
またさらに、許容範囲をどのように設定するかや、計測ポイント数を何個に設定するか等については、言うまでもなく上記実施形態のものに限定されない。
【0033】
加えて、本発明に係る幾何誤差同定装置が対象とする多軸工作機械は、上記実施形態の多軸工作機械に何ら限定されることはなく、たとえば主軸側に回転軸を2軸以上設けてなるものや、主軸側とテーブル側との夫々に回転軸を1軸ずつ設けてなるものであってもよいし、主軸側又はテーブル側の何れか一方にのみ回転軸を1軸しか備えていないものであってもよい。すなわち、5軸加工機と称されるマシニングセンタベースの工作機械のみならず、旋盤をベースとする複合加工機なども対象となる。そして、そのような場合には、並進軸は2軸でも良いし、それらの並進軸は制御上構成可能であれば、実際の案内面が直交ではなく傾斜した関係であってもよい。
また、回転軸の1つであるA軸はクレードルの旋回軸に限定されず、360度回転可能な回転軸であってもよいし、ターゲットとタッチプローブの配置を入れ替えても幾何誤差の同定は可能である。
【符号の説明】
【0034】
1・・多軸工作機械、4・・AC軸ユニット、5・・クレードル、6・・テーブル、21・・ターゲット球。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を装着する主軸と、ワークを保持するテーブルとが、少なくとも1つの回転軸と、前記回転軸に直交する平面内で互いに直交する2方向の並進軸とによって相対移動することにより前記ワークを前記工具で加工する多軸工作機械において、前記主軸又は前記テーブルの一方に取り付けられたターゲットの位置を前記回転軸周りで複数の割出角度に割り出すとともに、前記主軸又は前記テーブルの他方に取り付けられたタッチプローブを用いて、各割出角度での前記ターゲットの位置を計測することにより、前記平面内にある2つの軸間での傾き誤差を同定する制御装置を備えた幾何誤差同定装置であって、
前記制御装置は、前記平面において前記2つの軸間を二等分する角度上に前記ターゲットが位置する第1割出角度を求め、少なくとも前記第1割出角度に前記ターゲットを割り出して前記タッチプローブを用いた計測を行い、前記傾き誤差を同定することを特徴とする幾何誤差同定装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記回転軸周りでの前記複数の割出角度を算出するにあたり、前記回転軸周りでの動作範囲と任意に設定される計測ポイント数とから等ピッチで前記複数の割出角度を算出する一方、
前記第1割出角度が、前記複数の割出角度の中に存在するか否かを判断するとともに、前記第1割出角度が存在しない場合には、前記第1割出角度を計測ポイントとして追加して、前記タッチプローブを用いた計測を行うことを特徴とする請求項1に記載の幾何誤差同定装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記回転軸周りでの前記複数の割出角度を算出するにあたり、前記回転軸周りでの動作範囲と任意に設定される計測ポイント数とから等ピッチで前記複数の割出角度を算出する一方、
前記第1割出角度が、前記複数の割出角度の中に存在するか否かを判断するとともに、前記第1割出角度が存在しない場合には、前記複数の割出角度のうち最も前記第1割出角度に近い割出角度を前記第1割出角度に置換して、前記タッチプローブを用いた計測を行うことを特徴とする請求項1に記載の幾何誤差同定装置。
【請求項4】
工具を装着する主軸と、ワークを保持するテーブルとが、少なくとも1つの回転軸と、前記回転軸に直交する平面内で互いに直交する2方向の並進軸とによって相対移動することにより前記ワークを前記工具で加工する多軸工作機械において、前記主軸又は前記テーブルの一方に取り付けられたターゲットの位置を前記回転軸周りで複数の割出角度に割り出すとともに、前記主軸又は前記テーブルの他方に取り付けられたタッチプローブを用いて、各割出角度での前記ターゲットの位置を計測することにより、前記平面内にある2つの軸間での傾き誤差を同定する制御装置を備えた幾何誤差同定装置であって、
前記制御装置は、前記回転軸周りでの前記複数の割出角度を算出するにあたり、前記回転軸周りでの動作範囲と任意に設定される計測ポイント数とから等ピッチで前記複数の割出角度を算出する一方、
前記平面において前記2つの軸間を二等分する角度上に前記ターゲットが位置する第1割出角度を求めるとともに、前記第1割出角度が、前記複数の割出角度に存在するか否かを判断し、前記第1割出角度が存在しない場合には更に前記複数の割出角度のうち最も前記第1割出角度に近い割出角度と前記第1割出角度との角度差が所定の許容範囲内にあるか否かを判断し、前記角度差が前記許容範囲内にない場合には前記第1割出角度を前記複数の割出角度に含め、少なくとも前記第1割出角度に前記ターゲットを割り出して前記タッチプローブを用いた計測を行い、前記傾き誤差を同定する一方、前記角度差が前記許容範囲内にある場合には前記第1割出角度を前記複数の割出角度に含めず、前記第1割出角度に前記ターゲットを割り出すことなく前記タッチプローブを用いた計測を行い、前記傾き誤差を同定することを特徴とする幾何誤差同定装置。
【請求項5】
前記並進軸が直交3軸であり、前記回転軸が前記並進軸の異なる何れかと平行である多軸工作機械における直交2軸間での傾き誤差を同定する幾何誤差同定装置であって、
前記第1割出角度が、±45deg及び/又は±135degであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の幾何誤差同定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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