説明

広葉樹材からアルカリパルプを製造する方法および装置

【課題】
所与のカッパ価において広葉樹パルプ滓が削減される化学セルロースパルプの製造方法を提供する。
【解決手段】
細砕広葉樹材のスラリーから化学セルロースパルプを連続的に製造する方法において、
(a)広葉樹材に含有されるグアイアシル・リグニン(g−リグニン)含有量に比較してシリンジル・リグニン(s−リグニン)含有量を減少させるに十分な条件下に細砕広葉樹材のスラリーを第一蒸解段階で処理し、その後に、
第一蒸解段階の後で、広葉樹材に残存するg−リグニン含有量を減少させるに十分な条件下に細砕広葉樹材のスラリーを第二蒸解段階で処理することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、細砕セルロース繊維材の化学処理の分野に関する。特に好ましい態様では、本発明は、細砕された広葉樹材からアルカリパルプを製造する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広葉樹材の化学蒸解は、一般に、針葉樹材の化学蒸解から得られるパルプに比較して、発生するパルプ滓が多い。この点に関して、本出願人は、広葉樹材の中間ラメラには、グアイアシル・リグニン(g−リグニン)の存在に比較して、中間ラメラの細胞レベルで顕著な量のシリンジル・リグニン(s−リグニン)が存在するということを発見した。具体的にいえば、s−リグニンは、存在するg−リグニンの量に比較して一般に2〜4倍多い量で広葉樹材の中間ラメラ細胞に存在する。他方では、針葉樹中間ラメラ細胞は、一般に、実質的に全部がg−リグニンからなっている。
【0003】
s−リグニンは、主として広葉樹材に見出され、より容易に蒸解プロセス中に溶解するので、広葉樹パルプを得る蒸解条件は、針葉樹パルプを得る蒸解条件に比較して苛酷度が小さい傾向がある。従って、より高いカッパ価まで広葉樹を蒸解するのが望ましいのであるが、そのようなことを実際に行うのは、従来不可能であった。その理由は、パルプ滓量が商業的に実現不可能なポイントまでに増大するからである。比較すると、針葉樹は、約0.5%未満という許容可能なパルプ滓レベルを達成するには、比較的苛酷な条件下に約30カッパ価までに(例えば、中間ラメラに存在するのが実質的にすべてg−リグニンであるから)蒸解し得るが、約30のカッパ価まで蒸解された広葉樹は、約30%以上のパルプ滓レベルとなる。従って、広葉樹パルプに対しては、従来の蒸解条件は、許容可能な少量のパルプ滓レベルを達成するには、約20未満、普通は約18未満のカッパ価を達成するような蒸解条件である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者によって今や発見されたことは、所与のカッパ価で生ずる広葉樹パルプ滓は、蒸解の後段階で広葉樹パルプを特殊な蒸解条件で処理することによって減少させ得るということである。従って、本発明に従えば、特に広葉樹材に有用なアルカリ蒸解方法および装置が提供されるが、該方法および装置は、蒸解後のカッパ価を通常より高くするけれども、通常の滓レベルよりはるかに少ない滓レベルを達成するものである。本発明は、効果的な酸素脱リグニン段階と組み合わせると、カッパ価を通常より小さくすることが可能であるが、それはパルプ中に存在するヘキセンウロン酸(HexA)の量が低いからである。従って、本発明により、総括パルプ化収率と流出物廃棄の双方に関する利点が得られる。
【0005】
本発明者によって発見されたことは、s−リグニンがg−リグニンより速く反応すること、および広葉樹蒸解の後段階では、g−リグニンが蒸解の初段階に存在するg−リグニンに比較して高比率で存在するということである。従って、広葉樹材を蒸解するとき、蒸解の後段階で比較的苛酷な蒸解条件(例えば、より高い蒸解温度)とすると、g−リグニン含有量が減少し、その結果所与のカッパ価でもパルプ滓%が減少するということが発見された。
【0006】
本発明のある種の態様に従えば、広葉樹材に含まれるグアイアシル・リグニン(g−リグニン)含有量に比較してシリンジル・リグニン(s−リグニン)含有量を減少させるに十分な条件下に細砕広葉樹材のスラリーを第一蒸解段階で処理し、その後に第一蒸解段階の後で、広葉樹材に残存するg−リグニン含有量を減少させるに十分な条件下に細砕広葉樹材のスラリーを第二蒸解段階で処理することにより、細砕広葉樹材のスラリーから化学セルロースパルプを連続的に製造する方法および装置が提供される。
【0007】
本発明の他の態様では、細砕広葉樹材のスラリーが、広葉樹材を約130℃〜約170℃の温度で、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約2〜約10%のアルカリ添加量で処理することによって行われ、その結果、第一蒸解段階後のカッパ価が約30〜約100となるようにされる。
【0008】
他の好ましい態様に従えば、第一蒸解ゾーンは、硫化度約20%未満という低硫化度条件の下で実施される。第一蒸解ゾーンのこのような低硫化度条件は、十分な量のアントラキノンおよび/またはポリサルファイドを添加することによって達成するのが最も好ましい。
【0009】
本発明の他の態様に従えば、第二蒸解ゾーンは、細砕広葉樹材のスラリーを、広葉樹材を約100℃〜約180℃の温度で、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約2〜約10%のアルカリ添加量で処理することによって行われ、その結果、第二蒸解段階後のカッパ価が約15〜約30となるようにされる。
【0010】
本発明の他の態様では、第二蒸解段階が、硫化度約20%超の高濃度条件で行われるのが好ましい。
【0011】
細砕広葉樹材は、任意に前処理を行うことも可能である。前処理を採用する場合、第一蒸解段階の以前で行われる前処理は、約80℃〜約120℃の温度で、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約40〜約60%のアルカリ添加量で処理することによって行われる。
【0012】
これらおよび他の態様と利点は、好ましい態様の次の詳細な記載を注意深く考慮すれば、より明快になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明を説明する。
添付の図1は、本発明の好ましい態様の一つを説明するものである。この点に関して、図1は、細砕セルロース繊維材処理装置10を示すが、この装置は、連続蒸解缶供給装置12を備える連続蒸解缶11から実質的に構成される。供給装置12は、アンドリッツ社(Andritz,Inc.)から販売されているローレベル(LO−LEVEL)(登録商標)供給装置またはターボフィーダー(TURBOFEEDR)(登録商標)装置でよいが、細砕セルロース繊維材を導入し、スチーム処理し、スラリー化し得る従来の供給装置でも差し支えない。一基またはそれ以上の基数の別個の浸透槽も使用し得るし、新しい装置、例えば、木材ヤードにある機器および/またはチップビンも、蒸解缶に送るポンプを含めて使用し得る。また、幾つかの状況では、複数基の浸透槽が使用され、蒸解添加物の有無に拘らず浸透が完結したら、スラリーが特定の槽からポンプ移送される(または浸透はポンプ移送の際に完結する)。
【0014】
細砕セルロース繊維材は、供給装置12に、例えば、広葉樹材チップ13という形で導入される。供給装置12は、米国特許第5,763,075号、第6,106,668号、第6,325,890号、第6,551,462号、第6,336,993号、第6,841,042号の各明細書(各特許明細書の全文は参考文献として本明細書の一部を構成する)に記載され、ターボフィーダー(TURBOFEEDR)(登録商標)という商標でアンドリッツ社(Andritz,Inc.)から販売されている供給装置でも、あるいは米国特許第5,476,572号、第5,700,355号、第5,968,314号の各明細書(各特許明細書の全文は参考文献として本明細書の一部を構成する)に記載され、ローレベル(LO−LEVEL)(登録商標)という商標でアンドリッツ社(Andritz,Inc.)から販売されている供給装置でも差し支えない。なお後者の供給装置は、チップをスチーム処理槽14でスチーム処理するために送ることも可能で、槽14は、好ましくは、米国特許第5,500,083号、第5,617,975号、第5,628,873号、第4,958,741号、および第5,700,355号の各明細書(各特許明細書の全文は参考文献として本明細書の一部を構成する)に記載され、ダイアモンドバック(DIAMONDBACK(登録商標))という商標でアンドリッツ社(Andritz,Inc.)から販売されている槽が好ましい。もっとも他のタイプのスチーム処理槽も使用可能である。チップは、槽14から導管に接続された計量装置のような装置を通過する。前記導管は、アンドリッツ社(Andritz,Inc.)から供給されるチップチューブ(Chip Tube)であることが好ましい。チップと液体のスラリーは、昇圧手段経由で(使用しているならば)浸透槽に、または蒸解缶11に供給される。
【0015】
一般に約5バール〜15バールの圧力に昇圧されたスラリーが、導管21経由で連続蒸解缶11の頂部へスラリーを推進する。スラリーに含まれる過剰液は、蒸解缶11の入口で分離装置22、すなわち、一般に従来のトップセパレーター(Top Separator)によってスラリーから除去され、過剰の液は取り出された後、導管23経由で供給装置12に返送される。槽14内で処理されている間に、広葉樹材のスラリーは、約80℃〜約120℃、好ましくは約100℃〜約110℃の温度にて木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約40〜約60%のアルカリを添加して前処理される。
【0016】
供給装置12は、また、一般に、従来の、ここに図示されていない装置、例えば、インライン排出器、レベルタンク、補給液ポンプを備えている。蒸解液、例えば、クラフト白液(WL)は、一般に、従来のようにレベルタンク(図示せず)に供給される。
【0017】
ライン21経由で供給された前処理済み広葉樹材(浸透槽で処理し得るが、必ずしも処理しなくてもよい)は、蒸解缶11で第一蒸解段階にかけられる。しかし、本発明に従えば、上記の広葉樹材前処理は、必ずしも絶対に必要というわけではなく、広葉樹材は蒸解缶11に直接供給し得る。広葉樹材が前処理されているかどうかに拘わらず、蒸解缶11内の第一段階蒸解は、低硫化度条件(すなわち、硫化度0〜20%)の下で、有用な添加物、例えば、アントラキノン(AQ)および/またはポリサルファイドを使用して行われる。蒸解缶11の第一蒸解段階は、約130℃〜約170℃の温度で、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約2〜約10%のアルカリ添加量で行われる。蒸解された広葉樹材は、約30〜約100(好ましくは約40〜約60)のカッパ価を有し、ライン30経由で蒸解缶11を出る。
【0018】
蒸解缶11での第一蒸解段階後の広葉樹材は、第一蒸解段階初期のg−リグニン/s−リグニン比に比較してg−リグニン/s−リグニン比が高い。周囲の液体のs−リグニン濃度が高いので、広葉樹材に残留するg−リグニンの溶解を妨害する恐れがある。この妨害現象を少なくするため、蒸解缶11での第一蒸解段階後の広葉樹材を洗浄する必要がある。従って、広葉樹材はライン30経由で洗浄槽32に任意に移送され、ライン34経由で導入される洗浄液で洗浄処理にかけられる。使用済み洗浄液はライン36経由で洗浄槽32から取り出される。洗浄槽32内の洗浄段階で周囲の液体に存在するs−リグニンが減少するので、後で使用されるはずの蒸解添加剤は、周囲の液体にすでに溶解しているs−リグニンにより無駄に消費されることはない。
【0019】
任意の洗浄槽32からライン38経由で出る洗浄済みパルプは、蒸解缶40に導入され、ここで第二蒸解段階が行われ、広葉樹材に含まれるg−リグニン含有量がさらに分解され、削減される。g−リグニンの分解は、AQ(アントラキノン)および/またはポリサルファイドを使用して高硫化度の蒸解液(すなわち、約20%超の硫化度、好ましくは、約25〜約40%の硫化度)を用いて達成可能である(例えば、米国特許第6.576,084号明細書参照のこと。その全文は参考文献として本明細書の一部を構成する)。蒸解条件下に有効に働く他の蒸解用薬剤、例えば、亜硫酸塩もまた、単独に、あるいは上記のAQおよび/またはポリサルファイドと連携して使用し得る。
【0020】
蒸解缶40で行われる第二蒸解段階は、約100℃〜約180℃、好ましくは約130℃〜約180℃の温度で、木材(最初の木材装入量)基準で有効アルカリ(EA)約2〜約10%のアルカリ添加量で行われ、第二蒸解段階の初期のカッパ価は、約30〜約100(好ましくは約40〜約60)である。この段階の間、温度を第一蒸解段階の温度以下に下げることが有利なこともあり得る(しかし、必ずしも必要というわけではない)。
【0021】
第二蒸解段階の初期に最初から十分なアルカリが加えられていなかった場合、白液を蒸解缶40に添加する必要があるかも知れない。白液添加が行われた場合、広葉樹材は、少なくとも約130℃の温度で蒸解を継続可能にすることが好ましい。広葉樹セルロース材がライン42経由で蒸解缶40を出るポイントでは、カッパ価は、好ましくは約15〜約30、より好ましくは約20〜約30である。
【0022】
本発明に重要なことは、広葉樹材の処理が、二つの分離された蒸解段階に分けて行われることである。第二蒸解段階の終点で達成されるH−ファクターは、蒸解段階全体で達成される全H−ファクターの少なくとも50%である。換言すれば、第一蒸解段階を通して達成されるH−ファクターは、蒸解段階全体(すなわち、第二蒸解段階の終点)で達成されるH−ファクターの50%未満である。
【0023】
また、複数の蒸解段階と、もし使用するならば、洗浄段階とは、単一の蒸解缶で行うことも可能である。単一の槽が使用される場合、各段階には上記と同一の操作パラメータを使用することになるので、段階の終点でもセルロース材を複数の槽に中間的に移送する必要はなくなる。
【0024】
蒸解缶11と蒸解缶40とにおいて、それぞれ、あるいは単一の槽において行われる第一の蒸解段階と第二の蒸解段階は、米国特許第5,489,363号、第5,536,366号、第5,547,012号、第5,575,890号、第5,620,562号、および第5,662,775号の各明細書(各特許明細書の全文は参考文献として本明細書の一部を構成する)に、より詳細に記載されているプロセスの一つまたはそれ以上のプロセスに基づいて行われるのが好ましい。これらの特許に開示のプロセスと装置は、ニューヨーク州グレンズフォール(Glens Falls)のアンドリッツ社(Andritz Inc.)によってローソリッド(LO−SOLIDS(登録商標))パルプ化という商標で販売されている。
【0025】
本発明の方法と装置を用いると、第二蒸解段階での新しい処理および/または蒸解における相対的に高い温度、低アルカリ条件の結果として、HexA含有量が低いパルプが製造される。この低HexAパルプは、酸素脱リグニン条件に好適であり、この条件では後続の漂白プロセスに低いカッパ価のパルプを提供することになる。この点は米国特許第6,776,876号と第6,475,338号の各明細書(各特許明細書の全文は参考文献として本明細書の一部を構成する)を参照されたい。従って、低いカッパ価のパルプは、より少量の化学薬剤を使用して漂白できるから、結果として排出物負荷が少なくなる。換言すれば、パルプにはHexA化合物が少ないので、蒸解プロセスから出るカッパ価が高くても、その後の漂白ではカッパ価が低くなり、その結果として総括薬剤使用量も低くなる。
【実施例】
【0026】
以下の非限定的実施例は、さらに本発明を説明するものである。
使用全EA(NaOHとしての有効アルカリ)添加量は、17.5%で、浸透と第一(または上部)蒸解と第二(または下部)の蒸解シーケンス間においてアルカリを導入して広葉樹材蒸解サイクルを行った。以下の条件を、蒸解シーケンスのそれぞれにおいて使用した。
【0027】

浸透
・全EAの50%、またはEA添加量8.75%
・浸透温度110℃
・浸透温度に至る時間=15分
・浸透温度での時間=30分

第一段階(上部)蒸解:
・蒸解の始めに全EAの30%、またはEA添加量5.25%
・蒸解温度=155℃
・蒸解温度に至る加熱時間=15分
・蒸解温度での時間=60分

第二段階(下部)蒸解:
・蒸解の始めに全EAの20%、またはEA添加量3.5%
・蒸解温度=156℃
・蒸解温度での時間=120分

浸透が完結した後、セルロース材(木材チップ)のサンプルを採取し、リン(Lin)ら著の“Methods of Lignin Chemistry”,Springer−Verlag,Berlin(1992)(全内容は参考文献として本明細書の一部を構成する)に記載の方法を用いてs−リグニンとg−リグニンについて試験を行った。さらに、セルロース材(木材チップ)のサンプルを、蒸解の中点(例えば、浸透の始めからの約90分の箇所と、第一段階(上部)蒸解の終点(例えば、浸透の始めからの約120分の箇所))で採取した。各サンプルを同様にs−リグニンとg−リグニン含有量について分析した。最後に、サンプルを、第二段階(下部)蒸解の中点(例えば、浸透の始めからの約180分の箇所)で採取した。生産された最終製品のパルプに含有されているs−リグニンとg−リグニンについては分析を行わなかった。ここでのリグニン含有量は、一般に低く、s−リグニンとg−リグニン両種を正確に分析することが困難であったからである。
【0028】
添付の図2は、セルロースの中間ラメラから減少して各サンプル点に残存するリグニンの%をプロットしたものである。浸透の始めには、セルロースのリグニンの100%が存在するが、第二段階(下部)蒸解ゾーンの終点ではリグニンの僅か約3%が残存する。一般ルールとして処理前の木材チップは、リグニンを約24%含有するので、これは、図2のデータから見ると、リグニンの量が木材チップの僅か約0.72%であることを意味し、従って、s−リグニンとg−リグニン含有量をどのように分析しても正確ではないことが分かる。
【0029】
図3は、蒸解が上記のように進行するとき、g−リグニンに対するs−リグニンの比の変化を提供するデータを示す。1番目の比の2.74は、液体の添加前または処理前の初期の比である。2番目の比の2.87は浸透の箇所の比である。3番目と4番目の比の2.64と2.54は、それぞれ、第一蒸解段階の中間箇所と第一蒸解段階の終点箇所の比である。5番目にある最後の比の2.47は、第二蒸解段階の中間箇所の比である。
【0030】
従って、図3のデータが示すのは、s−リグニンは、g−リグニンに較べて、より速い速度で分解または溶解されているということである。その結果として、g−リグニン含有量は、細胞レベルに存在して残存しており、これを引き離し、破壊、または溶解させるには相異なる条件セットが必要である。従って、g−リグニンを破壊するには、蒸解缶の操作条件を、蒸解の後方の段階で変えなければならないということである。具体的には、本発明に基づけば、蒸解の後段階が、前段階に比較して、より高い温度を必要とし、そうすれば、確実にg−リグニンが破壊され、収率が向上し(従って、パルプ滓が減少し)、パルプの物理的特性が改善されるということである。
【0031】
本発明は、現在最も実用的であり、好ましい態様であると考えられるものに関連して記載されたが、理解すべきことは、本発明は、開示された態様に限定されるものではなく、反対に、前記特許請求の範囲の精神と範囲の中に含まれる多岐にわたる部分的修正と等価の配置を網羅するものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に基づく方法を実施する装置の例の概略図である。
【図2】広葉樹蒸解サイクルの間に始めのセルロースの中間ラメラから減少して各サンプル点に残存するリグニン%のグラフである。
【図3】広葉樹蒸解サイクルの様々な段階におけるs−リグニン/g−リグニンの比を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
10…細砕セルロース繊維材処理装置、11,40…蒸解缶、12…蒸解缶供給装置、13…木材チップ、14…スチーム処理槽、21,23,30、34,36,38,42…導管(ライン)、22…分離装置、32…洗浄槽。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細砕広葉樹材のスラリーから化学セルロースパルプを連続的に製造する方法において、
(a)広葉樹材に含有されるグアイアシル・リグニン(g−リグニン)含有量に比較してシリンジル・リグニン(s−リグニン)含有量を減少させるに十分な条件下に細砕広葉樹材のスラリーを第一蒸解段階で処理し、その後に、
第一蒸解段階の後で、広葉樹材に残存するg−リグニン含有量を減少させるに十分な条件下に細砕広葉樹材のスラリーを第二蒸解段階で処理することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、ステップ(a)が、広葉樹材のスラリーを約130℃〜約170℃の温度で、木材基準で有効アルカリ(EA)NaOH約2〜約10%のアルカリ添加量で処理することからなることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2の方法において、ステップ(a)が、第一蒸解段階を出る蒸解された広葉樹材のカッパ価が、約30〜約100であるように行われることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1の方法において、ステップ(a)が、約20%未満の硫化度という低硫化度条件の下で行われることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4の方法において、第一蒸解ゾーンの低硫化度条件が、十分な量のアントラキノンおよび/またはポリサルファイドを添加することによって達成されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの方法において、ステップ(b)が、約100℃〜約180℃の温度で、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約2〜約10%のアルカリ添加量にて広葉樹材のスラリーを処理することからなることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6の方法において、ステップ(b)が、第二蒸解段階を出る蒸解された広葉樹材のカッパ価が、約15〜約30であるように行われることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1の方法において、ステップ(b)が、約20%超の硫化度という高硫化度条件の下で行われることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1の方法において、ステップ(a)の前に、細砕広葉樹材のスラリーを、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約40〜約60%のアルカリ添加量にて約80℃〜約120℃の温度で前処理するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
細砕広葉樹材のスラリーから化学セルロースパルプを連続的に製造する装置において、
(a)広葉樹材に含有されるグアイアシル・リグニン(g−リグニン)含有量に比較してシリンジル・リグニン(s−リグニン)含有量を減少させるに十分な条件下に細砕広葉樹材のスラリーを第一蒸解段階で処理する第一蒸解缶と、
第一蒸解段階の後で、広葉樹材に残存するg−リグニン含有量を減少させるに十分な条件下に細砕広葉樹材のスラリーを第二蒸解段階で処理する第二蒸解缶と、
を含むことを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項10の装置において、第一蒸解缶が、広葉樹材のスラリーを約130℃〜約170℃の温度で、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約2〜約10%のアルカリ添加量にて処理するものであることを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項11の装置において、第一蒸解段階を出る蒸解された広葉樹材のカッパ価が、約30〜約100であることを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項10の装置において、第一蒸解缶が、約20%未満の硫化度という低硫化度条件の下で操作されることを特徴とする装置。
【請求項14】
請求項13の装置において、第一蒸解ゾーンの低硫化度条件が、十分な量のアントラキノンおよび/またはポリサルファイドを添加することによって達成されることを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項10〜14のいずれか一つの装置において、第二蒸解缶が、約100℃〜約180℃の温度で、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約2〜約10%のアルカリ添加量にて広葉樹材のスラリーを処理するものであることを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項15の装置において、第二蒸解段階を出る蒸解された広葉樹材のカッパ価が、約15〜約30であることを特徴とする装置。
【請求項17】
請求項10の装置において、第二蒸解缶が、約20%超の硫化度の高硫化度条件の下で行われることを特徴とする装置。
【請求項18】
請求項10の装置が、第一蒸解缶の前に、細砕広葉樹材のスラリーを、木基準で有効アルカリ(EA)NaOH約40〜約60%のアルカリ添加量にて約80℃〜約120℃の温度で前処理する前処理槽をさらに含むことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−284860(P2007−284860A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96441(P2007−96441)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(502075342)アンドリッツ インコーポレーテッド (27)
【Fターム(参考)】