説明

広領域沼湖等の浄化処理方法及び浄化処理具並びに浄化処理水の吸水方法

【課題】 等大領域を有する沼湖を所定の領域に区分し、当該区分した領域内のみを、浄化処理若しくは浄化処理しつつ浄化処理後の清浄水を吸水して外部へ供給することにより、効率よく浄化水を得ることができるとともに、長期に亘って処理を継続することにより、大領域を有する沼湖等の全体を順次清浄化できるようにする。
【解決手段】 沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製の側壁部で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の底壁を水面方向へ浮上または引上げさせて沈澱凝集物を浄化処理具のメッシュ部を有する底壁に掬い取り固着させると共に、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより折畳まれ且つ底壁に凝集物を掬い取り固着した浄化処理具を陸上又は船舶へ引上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広大な面積を有する沼湖や池、濠、貯水ダム等における水の水質浄化処理理技術の改良に関するものであり、沼湖等の内部に水の流通を阻止した適宜容積の区画を複数形成し、この区画内の水のみを浄化することにより区画内の浄化水を給水源として用いると共に、前記区画の形成及び区画内の水浄化を繰り返し継続することにより、沼湖全体の水浄化と良質な給水源の確保を可能とした、広領域沼湖等の浄化処理方法及び浄化処理具並びに浄化処理水の吸水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水環境の回復が世界各国に於いて強く求められており、特に、広大な領域面積を占める中国大陸等の比較的水深の浅い沼湖や池、濠、水の滞留した河川等に於いては、水質の悪化防止とその浄化が緊急の課題となって来ており、人口の集中やそれに伴う水需要の増大に対処するためには、近在の沼湖や池、濠、水の滞留した河川等の水の活用が不可避のことになってきている。
【0003】
ところで、沼湖等の水を給水源に利用するためには、先ず、沼湖内の汚染された水を沼湖内に於いてある程度清浄なものにする必要がある。勿論、汚染されたままの沼湖水を直接に配水処理場の浄化設備へ送り、ここで完全に浄化処理することも技術的には可能であるが、水処理費が高騰して経済性の点で問題を生ずることになる。
【0004】
そのため、沼湖等の水の浄化処理方法に付いては、従前からから各種の技術が開発されている。例えば、沼湖等に発生するアオコの発生防止方法としては、バッキ循環装置やしアノバスター、遮光フロート、アオコ摂食生物等の利用が、また、アオコ除去方法としてはアオコ回収船等の利用が行われている。しかし、これ等の方法は、何れもアオコの発生防止性能や設備費用、除去効率、除去処理費用等の点に多くの問題があり、特に広大な領域の沼湖等へは処理費用の点から適用ができない状況にある。
【0005】
また、沼湖等の水内の汚濁物質を除去する浄化処理方法としては、凝集剤を用いた水中の汚濁物質の凝集沈澱処理方法が実用化されている。
しかし、この凝集沈澱法は、汚濁物質を効率よく有効に沈澱させることが困難なうえ、沈澱させた凝集物を回収せずに放置するために凝集物が汚泥化することになり、水質改善の点で別の問題を生ずることになる。
更に、凝集剤の使用は、残留した凝集剤による健康被害を生ずる虞があり、この点からも基本的な汚濁物質の除去対策になり得ないと云う問題がある。
【0006】
そのため、近年、毒性が皆無で自然界に対する環境汚染を生じない生分解性凝集剤、例えばポリグルタミン酸架橋物を主体とする新規な凝集剤(商品名PGα21Ca・日本ポリグル株式会社)を用いた水の水質改善技術が注目を集めてきている。当該ポリグルタミン酸架橋物を主体とする凝集剤は、人畜に無害であり且つ極少量の凝集剤の攪拌混合により、水中の汚濁物質を効率よく凝集沈澱させることが出来るからである。
【0007】
尚、上記ポリグルタミン酸架橋物を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)は、本願発明者等によって開発されたものであるが、本願発明者等は、当該ポリグルタミン酸架橋物を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)の開発のみならず、これを用いた河川や池、湾内等の水の浄化処理技術に付いても多くの試験研究を重ね、当該試験研究に基づいて開発した各種の水浄化処理技術を公開している(特許第4365190号、特許第4381154号、特許第4490795号等)。
【0008】
即ち、上記特許第4381154号や特許第4490795号等の技術は、何れも船舶や筏に搭載した凝集剤供給装置を用いて、所定量の凝集剤又は凝集剤混合水を被処理区域内の水内へ散布若しくは噴射混合し、船舶のスクリューの回転力や凝集剤混合水の噴射圧を利用して凝集剤と被処理区域内の水とを強制的に撹拌混合させ、汚濁物質を凝集沈澱させるようにしている。
また、水中に漂う汚濁物質の凝集物は、薄板材を格子状に組み合せて形成した回収体を船舶等で牽引することにより、回収体の表面に吸着、回収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−144340号公報
【特許文献2】特許第4381154号公報
【特許文献3】特許第4490795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明は、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする新規な凝集剤(商品名PGα21Ca・日本ポリグル株式会社)を用いて水中に存在する汚濁物質やアオコ等を除去する水の浄化処理に於ける上述の如き問題、即ち(1)広い水域の全面に亘って凝集剤を散布してこれを攪拌混合するためには、大量の凝集剤が必要となり、水処理費の大幅な高騰を招くだけでなく、凝集剤の凝集沈澱効果が相対的に低下すること、(2)広い水域の全面に亘って凝集剤を散布し、これを攪拌混合する沈澱除去方法では、凝集沈澱した凝集物の回収が容易でないうえ、凝集沈殿物が水底に溜って未分解物がヘドロ化し易いこと、(3)アオコ等が存在する場合には、一旦凝集沈澱した凝集物が解離して再浮上し易いこと、(4)残留凝集剤による人畜に対する悪影響が避けられないこと等の問題を解決し、水中の汚濁物質やアオコ等を高額な設備費を必要とせずに経済的に効率よく、確実且つ容易に、しかも人畜に対して悪影響を与えることなく浄化処理することができ、処理水を安全な給水源として活用できると共に時間を掛けて広大な領域を有する沼湖等の大量の水を徐々に浄化できるようにした、広領域沼湖等の浄化処理方法及び浄化処理具並びにこれを用いた浄水供給方法を提供することを発明の主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等は、上記の如き生分解性凝集剤を用いた水の浄化処理の実施を通して、(1)水が滞留状態にあって所謂流れの状態を生じない広領域沼湖等に於いては、沼湖の底部に蓄積された汚泥等は、凝集剤を水中へ散布してこれを攪拌混合した場合でも、汚泥が再度水中へ拡散されることが殆ど無いこと、及び(2)アオコの凝集沈殿物は、分解性凝集剤の攪拌混合により一旦底部へ凝集沈澱した後、日光エネルギーの吸収による所謂光合成作用によって、凝集沈殿物が凝集状態を保持したまま水面上へ再浮上することを見出した。
【0012】
本願発明は、発明者等の上記知見を基にして創案されたものであり、請求項1に係る発明は、沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の底壁を水面方向へ浮上または引上げさせて沈澱凝集物を浄化処理具のメッシュ部を有する底壁に掬い取り固着させると共に、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより折畳まれ且つ底壁に凝集物を掬い取り固着した浄化処理具を陸上又は船舶へ引上げることを発明の基本構成とするものである。
【0013】
又、請求項2の発明は、沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製の側壁部で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の底壁を水面方向へ浮上または引上げして沈澱凝集物を浄化処理具のメッシュ部を有する底壁に掬い取り固着させると共に、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより折畳まれた浄化処理具内に溜まった凝集物と水との混合物をポンプにより外部へ排出することを発明の基本構成とするものである。
【0014】
現実には、2基又は3基の浄化処理具を沼湖等の水内へ所定の間隔を於いて並設し、一方の浄化処理具による浄化処理が完了すれば他方の浄化処理具による浄化処理に切替することにより、何れかの浄化処理具を用いて連続的に水の浄化処理を行うようにするのが望ましい。
【0015】
前記水内へ混合する凝集剤の濃度は、50〜300PPMとするのが望ましい。
【0016】
前記折畳み状または巻取り状で積載した浄化処理具は、陸上の運搬車より水中へ繰り出しすると共に、浄化処理具の先端をロープ体を介して船舶で牽引することにより、浄化処理具を水中へ配設するのが望ましい。
【0017】
前記浄化処理具は、その自重により水中へ沈降させると共に、浄化処理具の四周の側壁部上端に固着したホース体に空気を供給することにより、前記四周の側壁部を垂直位置に保持せしめて浄化処理具を容器状に形成し、且つ前記底壁に設けたホース体に空気を供給することにより、浄化処理具の底壁を水面方向へ浮上させるようにするのが望ましい。
【0018】
凝集物を掬い取り固着した浄化処理具は、運搬車又は船舶により牽引することにより、陸上又は船舶上へ回収するようにするのが望ましい。
【0019】
請求項7に係る浄化処理具は、平板部とメッシュ部の組み合わせから成る折畳み及び又は巻取り自在なシート状の底壁と、当該底壁の四周に設けた折り返し並びに伸縮が可能で且つ折畳み及び又は巻取り自在な側壁部とからなることを発明の基本構成とするものである。
【0020】
前記浄化処理具は、底壁の下面に、送気により浮力を付与する為の複数本のホース体を固着するようにしたものが望ましい。
【0021】
浄化処理具の側壁部は、その上端部に、送気により側壁部を起立させる為の引起用ホース体を固着するようにしたものが望ましい。
【0022】
請求項10に係る浄化処理水の吸水方法の発明は、沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の内方に設けたスクリーンを備えた吸水ホースの先端開口からポンプを介して水を吸水して外部へ送水すると共に、浄化処理具の底壁を水面方向へ順次浮上または引上げし、その後、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより沈澱凝集物を底壁のメッシュ部に掬い取り固着させ且つ折畳まれて減容した浄化処理具を陸上又は船舶へ引上げることを発明の基本構成とするものである。
【0023】
請求項11の発明は、沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の内方に設けたスクリーンを備えた吸水ホースの先端開口からポンプを介して水を吸水して外部へ送水すると共に、浄化処理具の底壁を水面方向へ順次浮上または引上げし、その後、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより折畳まれて減容した浄化処理具処理具内に溜った凝集物と水との混合物をポンプにより外部へ排出することを発明の基本構成とするものである。
【0024】
上記請求項11の発明に於いては、浄化処理具内からのポンプによる吸水量と、底壁の水面方向へ浮上または引上げによる浄化処理具内容積の減容量とを同期させるのが望ましい。
【発明の効果】
【0025】
本願方法発明では、広大な領域面積を有する沼湖等であっても、適宜に区画した領域内のみを局部的に清浄化するものであるため、一時に多量の凝集剤等を消耗することなしに必要な浄化水を得ることが出来る。また、浄化処理区画を適宜の間隔を置いて複数基設け、順にこれ等の領域内を浄化処理することにより、連続的に清浄水を得ながら浄化処理を行うことが可能となる。更に、長期に亘って区画した領域内の水の浄化処理を繰り返すことにより、沼湖の水は全体として徐々に浄化されることになり、大領域でしかも比較的水深の浅い沼湖においては優れた効用を発揮することができる。
中国国内のすることが出来る。
【0026】
又、生分解性凝集剤の攪拌混合により凝集沈澱した凝集性を保持した状態にある凝集物をその下方からシート状の浄化処理具により掬い取り、この浄化処理処理具に掬い取り固着させた凝集物を浄化処理具と共に陸上側又は船舶上へ引き上げするか、或いは、底壁の引き上げにより減容した浄化処理具内に溜った凝集物と水との混合物をポンプにより排出する構成としている。その結果、凝集物は略完全に沼湖の水中から除去されると共に、生分解性凝集剤を使用するため人畜に悪影響を与えることが全くない。
【0027】
本願発明に係る浄化処理具は、平板部とメッシュ部の組み合わせから成る折畳み及び又は巻取り自在なシート状網体から形成されている為、軽量で且つ格納や運搬も容易であり、取り扱い性に優れている。その結果、山間部等の沼湖であっても極めて容易に水の浄化処理を効率よく安価に実施することができる。
【0028】
また、シート状網体及びシート状網体の四周に設けた折り返し自在な側壁部を固着し、これ等に取り付けしたホース体に送気を行うことによりシート状の浄化処理具を浮上させたり、或いは、折り返し可能な側壁部を起立させたりする構成としている。その結果、シート状の浄化処理具を極めて容易に水面近傍位置まで上昇させることができるうえ、浄化処理具を陸上側又は船舶上へ引き上げする際に、凝集物が浄化処理具から逸脱するのを略完全に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るシート状の浄化処理具の配置状態を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る沼湖水等の浄化処理作業の工程説明図である。
【図3】図1のイ-イ視断面概要図である。
【図4】本発明の実施形態に係るシート状の浄化処理具の一部平面図である。
【図5】沼湖内でシート状の浄化処理具を水面上へ浮上させ、凝集物を掬い取り固着した状態を示す断面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の浄化水の吸水を行う場合の実施形態に係るシート状の浄化処理具の配置状態を示す平面図であり、図2は、本発明の浄化水の吸水を行う場合の実施形態に係る汚濁物質の凝集物の除去方法の作業工程説明図である。又、図3は、図1のイ-イ視断面概要図である。図4本発明の実施形態に係る凝集物の除去方法で使用するシート状の浄化処理具の一部を示す平面図である。
【0031】
図1乃至図4に於いて、Nは沼湖、Rは沼湖に接する道路、Wは沼湖の水、Woは水中の汚濁物質、Qは生分解性凝集剤、Sはふろーと、1は浄化処理具、2は凝集剤散布装置、2aは凝集剤タンク、2bは凝集剤供給ポンプ、3は凝集剤散布用ホース、3aはノズル穴、4は吸水ホース、5は吸水ポンプ、6は吸水管、7は作業用船舶、8は運搬作業車、9はストレーナ、10は側壁部、11は底壁部、11aはメッシュ部、Aは浄化処理具の配設工程、Bは生分解性凝集剤の攪拌混合工程、Cは凝集沈澱工程、Dは浄化処理水の吸水工程、Eはシート状の浄化処理具の底壁の引上工程、Fはシート状の浄化処理具の陸上又は船舶上への引上及び凝集物除去工程、F‘は浄化処理具内の凝集物と水の混合物の排水工程、GはNo2浄化処理具に於ける凝集剤の攪拌混合工程である。
【0032】
図1を参照して、浄化処理具1は長さ200から300メータ、横幅150から200メータ、深さ10から20メータ程度の内容積を有しており、一般には沼湖N内に2ないし5基設置される。勿論、浄化処理具1の設置には、作業用船舶7や陸上側の運搬車8等が用いられる。又、浄化処理具1にの内部には、図3に示す如く、凝集剤散布装置2、凝集剤散布用ホース3、吸水ホース4、ストレーナ9等が設けられている。更に、道路側の陸上側には吸水ポンプ5や吸水管6が設けられ、必要か所へ浄化処理済水が供給されて行く。尚、図3からも明らかなように、吸水ホース4の先端開口部にはストレーナ9が、又、浄化処理具1や凝集剤散布用ホース3、吸水ホース4等には適宜のフロートSが,更に、浄化処理具1の側壁部10は折畳み可能なように折り目が設けられている。
【0033】
図2を参照して、先ず、浄化処理具の配設工程Aに於いて、所定数の浄化処理具1等が設置され、各機器装置等の設置が完了し且つ浄化処理具1の四周の側壁部10が垂直状に引上げられて容器状の形態に成ると、次に、生分解性凝集剤の攪拌混合工程Bに於いて、必要量の生分解性凝集剤11を浄化処理具1内の沼湖水へ投入し、これを攪拌混合する。
【0034】
投入使用する生分解性凝集剤は、ポリグルタミン酸架橋物を主体とする粉体状の凝集剤であり、本実施形態に於いては、下記の成分量(wt%)を有する凝集剤7a(日本ポリグル株式会社製・製品名PGα21Ca)が用いられている。
【0035】
即ち、その成分構成(wt%)は、
PGα21Ca=14%、C=0.5%、O=45%、Na=8%、Al=0.5%、Si=12%、Cl=0.4、Ca=15%、K=0.1%、Fe=15%である。
【0036】
尚、前記PGα21Caは、生分解性を有するγ=ポリグルタミン酸を主体とする新規な自然分解性の物質であり、下記の構造式であらわされるものである。
【化1】

【0037】
また、凝集剤7a内のO、Ca、Fe、Si等は通常2CaSO・HO、NaCO・HO、NaSO、MgSO・6HO、Al(SO)・18HO等の化学構造式で表される物質の型で当該凝集剤7a内に含まれている。
【0038】
前記生分解性凝集剤の投入量は、凝集剤濃度が50〜300PPM、望ましくは100PPMとなるように選定する。試験の結果によれば、汚濁物質の種類や含有量、アオコ等の発生の存否等にもよるが、混合濃度が50PPM以下になれば汚濁物質の凝集性が低下し、また、300PPM以上の濃度になれば、凝集性が飽和し且つ凝集剤コストが高騰するからである。
本実施形態に於いては、都市部近傍の沼湖を処理対象としており、処理領域の総計水量(浄化処理具1の内容積)900,000M3(300M×200M×平均水深15M)に規定濃度(50PPM)の生分解性凝集剤Qを投入することとし、水900,000トン×濃度50ppm=45,000kgの生分解性凝集剤(PGα21Ca)を投入した。
【0039】
前記生分解性凝集剤Qの水中への攪拌混合は如何なる方法であってもよく、例えば、空気圧等による粉体噴射装置を用いる方法、生分解性凝集剤を溶解した処理水をホース3のノズル穴3aやノズル3bを用いて加圧噴射する方法、生分解性凝集剤を水面上へ散布した小型船舶に搭載した攪拌装置により走行攪拌する方法等の使用が可能であるが、可能な限り処理対象領域の水面上へ早期に且つ均等に分散混合させるのが望ましい。尚、本実施形態に於いては、図1及び図3に示すように、凝集剤供給ポンプ2bである加圧ポンプにより、ベンチュリ装置(図示省略)を介して所定量の粉状生分解性凝集剤Qを溶解した処理液を凝集剤散布用ホース3のノズル穴3aから処理対象域の水内へ噴射し、噴射時の噴射圧でもって水内へ生分解性凝集剤Qを拡散混合するようにしており、必要な場合には、小型船舶を走行させることにより、これに搭載した攪拌装置により水を攪拌混合する方法が併用される(分解性凝集剤の攪拌混合工程B)尚、凝集剤散布用ホース3は水面Wlより1乃至5メートル下方に配置されている。
【0040】
生分解性凝集剤11の攪拌混合により、約2乃至8時間経過すると、水内の汚濁物質が順次凝集され、比較的大きな塊状の凝集物となって順次沈降していく。
尚、万一、水内に藍藻類(アオコ類)や赤シオ類が存在している場合でも、これ等アオコ類は水の表層部(水面から約2〜3メータの範囲)に分散して存在するのが一般的であり、生分解性凝集剤Qの攪拌混合により、約2〜4時間経過すると水底へ順次沈澱する(汚濁性物資の凝集沈澱工程C)。
【0041】
前記汚濁性物質の凝集沈澱が完了すると、吸水ポンプ5が駆動され、吸水ホース4を通して、浄化処理具1の内部上方の浄化処理済みの清浄水が給水管6内へ供給されて行く(浄化処理水の吸水工程D)。
【0042】
又、上記浄化処理済の清浄水の吸水と同期して、浄化処理具1の底壁11が順次上方へ引き上げられ、これと共に浄化処理具1の四周壁であるシート製の側壁部10が折畳まれてその長さが短縮されていく。即ち、給水量に応じて浄化処理具1の内容積が減少され、給水を継続することにより、最終的には、折畳まれてその内容積が大幅に減少した浄化処理具1内に、汚濁物質の凝集沈澱物を主体とする水と凝集物との混合物が残存することになる(浄化処理具の底壁の引上げ工程E)。
この場合、吸水量と折畳による浄化処理具1の減容量とを同期させるのが最も望ましいが、底壁11のメッシュ部を通して水の流入が若干あるため、仮に前記両者の同期が厳密に取れなくても、外部水圧等によって浄化処理具1に破損を生ずる恐れはまったく無い。
【0043】
なお、清浄水の吸水を行わずに、単に水の凝集沈澱による浄化処理のみを行う場合には、前記浄化処理具の底壁の引上げ工程Eに於いて、底壁部11を吸水量と同期的に引上げる必要は全く無く、所定の凝縮沈澱時間が経過すれば、浄化処理具1の底壁部11を所定の速度で持って引上げすればよい。この時、浄化処理具1の内部の清浄水は、底壁部11のメッシュ部11aを通して、沼湖水内へ戻されることになり、沼湖水が部分的に清浄化されることになる。
【0044】
前記浄化処理具1の水面近傍への引き上げにより、図5に示すように、折畳まれた状態となってその内部に多量の凝集物を収納した状態の浄化処理具(現実には、浄化処理具1の底壁部11に多量の凝集物が固着若しくは付着した状態となっている)1は、運搬作業車8又は作業用船舶7を用いて、陸上又は船舶上へ引上げられ、付着若しくは固着した凝集物が除去されると共に、シート状の浄化処理具1が折畳み又は巻取りもしくは両者を併用した形態で収納されていく(浄化処理具の引上げ及び凝集物の除去工程F)。
尚、浄化処理具1を陸上又は船舶上へ引き上げすることをせず、底壁部11の引き上げにより減容した浄化処理具内に溜った凝集物と水の混合物をポンプにより外部へ排出するようにしても良い(浄化処理儀内の凝集物と水の混合物の排出工程F‘)。
【0045】
上記浄化処理具の引上げ及び凝集物の除去工程Fが完了すると、隣接する他の浄化処理具1へ処理操作が移動され、新たな浄化処理具1内の沼湖水の処理が引き続き行われていく。
【0046】
図4は本実施形態で使用するシート状の浄化処理具1の一部分の平面図あり、図4に於いて1はシート状の浄化処理具、10は四周のシート状の側壁部、11は底壁部であり、又、10aはシート状の側壁部の折り目、11aはメッシュ部、11bは平板部、12は浮上用ホース体、13起立用ホース体、14は連結用ヒンジ、15は折り畳みライン、16は牽引用ロープである。
【0047】
即ち、当該シート状の浄化処理具1は、極薄の金属板(例えばステンレス鋼)から成る平板部11bと、合成樹脂製のシート材からなる側壁部10と、合成樹脂材製の平板状のメッシュ部11aとを相互に折畳み可能に連結することにより構成されており、シート状の浄化処理具1の横幅は100〜200M程度の寸法を有している。また、その縦幅は通常200〜400Mに選定されている。
【0048】
上記底壁部11を構成する平板部11bとメッシュ部11aとシート状の側壁部10は、連結用ヒンジ14を介して折畳み又は巻取り可能に連結されており、折り曲げライン15に沿って折畳み可能となっている。
尚、図4の実施形態では、メッシュ部11aを1.0〜1.5mm角の四角状メッシュを有する網体としているが、メッシュの形状やその孔径は適宜に選定可能である。
また、図4の実施形態では、メッシュ部11aを合成樹脂材製の平板状の網体としているが、メッシュ部11aを平板部11bと同材質の金属薄板製の網体としても良いことは勿論である。
【0049】
前記底壁部11を構成する平板部11bの下面側には浮上用ホース体12が、また、折側壁部10の上端部には起立用ホース体13夫々固定されており、更に、シート状の浄化処理具1の繰り出し方向の先端部には、引き出し牽引用のロープ体16か締結されている。
【0050】
前記シート状の浄化処理具1の沼湖水内への配置は、運搬作業車11や作業用船舶7により搬入した折畳み及び又は巻取りした状態のシート状の浄化処理具1を平板状に展開すると共に、その先端のロープ体16を順次牽引することにより、図1及び図3に示すように沼湖水内へ配置する。勿論、浄化処理具1には必要な錘(図示省略)や錘代わりの金属製平板部11b、フロートS、浮上用ホース体12、起立用ホース体13が夫々設けられており、フロートSやホース体内へ空気を送り込むここにより、底壁部11に与える浮力や、側壁部10の引上力(起立力)が調整される。
尚、シート状の浄化処理具1はその平板部11が金属製であるため、自重によって水中へ沈んでその先端をロープ体16により牽引することにより、円滑に沼湖水内へ沈めることができ、且つ、フロートSや両ホース体12,13による浮力を調整することにより、沼湖Nの底面から適宜の距離だけ間隔を置い位置に保持される(即ち、沼湖Nの底面に堆積された汚泥をかき混ぜすることなしに、その上方位置に配置されることになら)。
【0051】
上述したように、シート状の浄化処理具1の配設が完了すれば、前記頭2に示した工程により水の浄化処理を行なう。そして、清浄水の吸水を平行して行う場合には、浮上用ホース体12及び起立用ホース体13内へコンプレッサー等から空気を送り込み、その送り込み量を調整しつつ図5に示すように、浄化処理具1の内容積を順次減少させていく。そして、最後に、凝集物17を内側面に掬い取り固着させたるたシート状の浄化処理具1を、陸上側又は作業船舶上へ引き上げするか、又は、減容した浄化処理具内の凝集物と水の混合物をポンプにより外部へ排出する。
この時、前記回収された凝集物は、凝集固化された状態を保持しているため、メッシュ部11aを通して沼湖水内へ漏出することがなく、略完全に浄化処理具1により捕集されることとなる。
また、シート上の側壁部10は、その先端が引き起し用ホース体13により略垂直状に引き上げられることにより、シート状の浄化処理具1に内方の凝集物がその外部へ漏出するのが、略完全に防止される。
【0052】
なお、シート状の浄化処理具1の引き上げに際して、これに掬い取り固着されて引上げられてきた凝集固化物が、スクレーパ等を用いてシート状の浄化処理具1から剥離される事は勿論である。同様に、ポンプにより排出された凝集物と水の混合物は、最終的には凝集物が回収処理され、適宜に破棄処理される。
【0053】
本実施形態に於いては、前記凝集剤供給ポンプ2bにより,所定量の凝集剤(45,000kg)を混合した浄化処理液を、凝集剤散布用ホース3を介して水面下約3メートルの位置へ、約20分掛けて拡散混合した。そして、小型船舶に搭載した攪拌装置により補助的に約10分間、散布された浄化処理液を攪拌混合した。浄化処理液内の生分解性凝集剤は十分に反応し、約3時間で生分解性凝集剤の攪拌混合工程及び沈澱凝縮工程Bが完了し、その後、約8時間掛けて浄化処理した後の清浄水を吸水し、外部へ送水した。
【0054】
下記の表は、本実施形態に於ける処理領域内の沼湖水の浄化処理結果を示すものである。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、流れの無い大領域の沼湖のみならず、貯水池ダムや池や濠、河川等の水の浄化処理にも適用出来るものである。
【符号の説明】
【0057】
1はシート状の浄化処理具
2は凝集剤散布装置
2aは凝集剤タンク
2bは凝集剤供給ポンプ
3は凝集剤散布用ホース
3aはノズル穴
3bはノズル
4は吸水ホース
5は吸水ポンプ
6は給水管
7は作業用船舶
8は運搬作業車
9はストレーナ
10はシート状の側壁部
10aは折り目
11は底壁部
11aはメッシュ部
11bは平板部
12は浮上用ホース体
13は起立用ホース体
14連結用ヒンジ
15は折畳みライン
16は牽引用ロープ
17は凝集固化物(凝集物)
Qは生分解性凝集剤
Nは沼湖
Rは道路
Wは沼湖水
Woは汚濁物質
Sはフロート
Aは浄化処理具の配設工程
Bは生分解性凝集剤の攪拌混合工程
Cは凝縮沈澱工程
Dは浄化処理水の吸水工程
Eは浄化処理具底壁の引上工程
Fは浄化処理具の引上及び凝集物回収除去工程
F‘は混合水の排出工程
Gは次領域の凝集剤攪拌混合工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製の側壁部で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の底壁を水面方向へ浮上または引上げして沈澱凝集物を浄化処理具のメッシュ部を有する底壁に掬い取り固着させると共に、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより折畳まれ且つ底壁に凝集物を掬い取り固着した浄化処理具を陸上又は船舶へ引上げることを特徴とする広領域沼湖等の浄化処理方法。
【請求項2】
沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製の側壁部で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の底壁を水面方向へ浮上または引上げして沈澱凝集物を浄化処理具のメッシュ部を有する底壁に掬い取り固着させると共に、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより折畳まれた浄化処理具内に溜まった凝集物と水との混合物をポンプにより外部へ排出することを特徴とする広領域沼湖等の浄化処理方法。
【請求項3】
2基又は3基の浄化処理具を沼湖等の水内へ所定の間隔を於いて並設し、一方の浄化処理具による浄化処理が完了すれば他方の浄化処理具による浄化処理に切替することにより、何れかの浄化処理具を用いて連続的に水の浄化処理を行うようにした請求項1又は請求項2に記載の広領域沼湖等の浄化処理方法。
【請求項4】
混合する凝集剤の濃度を50〜300PPMとするようにした請求項1または請求項2に記載の広領域沼湖等の浄化処理方法。
【請求項5】
折畳み状または巻取り状で積載した浄化処理具を陸上の運搬車より水中へ繰り出しすると共に、浄化処理具の先端をロープ体を介して船舶で牽引することにより、浄化処理具を水中へ配設するようにした請求項1または請求項2に記載の広領域沼湖等の浄化処理方法。
【請求項6】
浄化処理具をその自重により水中へ沈降させると共に、浄化処理具の四周の側壁部上端に固着したホース体に空気を供給することにより、前記四周の側壁部を垂直位置に保持せしめて浄化処理具を容器状に形成し、且つ前記底壁に設けたホース体に空気を供給することにより、浄化処理具の底壁を水面方向へ浮上させるようにした請求項1または請求項2に記載の広領域沼湖等の浄化処理方法。
【請求項7】
平板部とメッシュ部の組み合わせから成る折畳み及び又は巻取り自在なシート状の底壁と、当該底壁の四周に設けた折り返し並びに伸縮が可能で且つ折畳み及び又は巻取り自在な側壁部とからなる浄化処理具。
【請求項8】
底壁の下面に、送気により浮力を付与する為の複数本のホース体を固着するようにした請求項7に記載の浄化処理具。
【請求項9】
側壁部の上端部に、送気により側壁部を起立させる為の引起用ホース体を固着するようにした請求項7に記載の浄化処理具。
【請求項10】
沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の内方に設けたスクリーンを備えた吸水ホースの先端開口からポンプを介して水を吸水して外部へ送水すると共に、浄化処理具の底壁を水面方向へ順次浮上または引上げし、その後、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより沈澱凝集物を底壁のメッシュ部に掬い取り固着させ且つ折畳まれて減容した浄化処理具を陸上又は船舶へ引上げることを特徴とする広領域沼湖等の浄化処理水の吸水方法。
【請求項11】
沼湖等の水内へ少なくとも1基の四周壁がシート製で且つ底壁にメッシュ部を有する浄化処理具を配設し、次に前記浄化処理具の内部水中へポリグルタミン酸を主体とする生分解性凝集剤(商品名 PGα21Ca)を攪拌混合して当該凝集剤の攪拌混合により水中の汚濁物質を凝集沈澱させたあと、前記浄化処理具の内方に設けたスクリーンを備えた吸水ホースの先端開口からポンプを介して水を吸水して外部へ送水すると共に、浄化処理具の底壁を水面方向へ順次浮上または引上げし、その後、底壁を水面方向へ浮上または引上げることにより折畳まれて減容した浄化処理具処理具内に溜った凝集物と水との混合物をポンプにより外部へ排出することを特徴とする広領域沼湖等の浄化処理水の吸水方法。
【請求項12】
浄化処理具内からのポンプによる吸水量と、底壁の水面方向へ浮上または引上げによる浄化処理具内容積の減容量とを同期させるようにした請求項10又は請求項12に記載の広領域沼湖等の浄化処理水の吸水方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−143735(P2012−143735A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6189(P2011−6189)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(511013717)
【出願人】(511014068)
【Fターム(参考)】