説明

床パンアジャスターボルト用ナット取付構造

【課題】 アジャスターボルト用ナットを取り付ける床パンに備えるボスを、厚みを薄くし且つ上下に均一な厚みを備える単純な形状としたままで、接着剤を注入しても接着剤が非接着部位に流れ落ちず強固に接着できる床パンアジャスターボルト用ナット取付構造を提供する。
【解決手段】 上下方向に長い筒状をしたナット本体部1の上部にボス嵌合部2を有し且つ該ボス嵌合部2の下部に外方に膨出した膨出部3を設けることでアジャスターボルト用ナット4を形成する。ボス嵌合部2aよりも上下方向に長いナット収容空間51を内部に有し且つ前記ボス嵌合部2が嵌合されるボス5を床パンAの裏面に立設し、該ボス5の先端面と膨出部3の上面とを当接し且つ該ボス5にボス嵌合部2を嵌合した状態で接着剤6にて固定する。前記ボス嵌合部2の上部から外方に向かって立設し且つ前記膨出部3とボス5の内周面とボス嵌合部2とで接着剤充填空間7を形成するヒレ部8を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユニットバスルーム等の床パンの裏面に設置して、該床パンを支持するアジャスターボルトのナットの取り付け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、浴室等の床パンを支持するアジャスターボルトを、該床パンの裏面に螺合して設置するためのナットの取付構造が知られている。(例えば、特許文献1参照)
例えば図5(a)(b)に示すような従来の床パンアジャスターボルト用ナット取付構造は、浴室等の床パンAの裏面にボス5aを立設して、該ボス5aの先端面の略中央には、ナットを設置するためのナット開口部52が形成されており、該ナット開口部52にアジャスターボルトに螺合するナット4aを嵌入し、ボス5aとナット4aとを接着剤6によって固定していた。なお、9は床パンの底面の補強のためのリブである。
【0003】
ところで、ボス5aに設置されたナット4aにアジャスターボルトを螺合して床パンAを設置するのであるが、ナット4aのボルト孔が穿設された面を床パンAの裏面に当接して設置すると、アジャスターボルトによる高さ調整ができない(床パンAを下降させることができない)ため、床パンAの裏面と該ナット4aとの間には調整代を設ける必要がある。従って図5に示すように、ボス5a内部に段部53を形成して、該段部53にナット4aのボルト孔が穿設された面を当接することで、ナット4aと床パンAとの間に調整代Sとしての隙間を形成していた。
【0004】
しかしながら、この段部53を内部に備えるボス5aを形成するにあたっては、例えば床パンAをFRP(Fiber Reinforced Plastics)プレス成形等で成形すると、ボス5aの段部53を備える部位は肉厚が厚いため、該ボス5aの段部53を備える部位以外の部分と比べて硬化する時間が長く必要となってしまう。
【0005】
一方、床パンの成形に要する時間を短縮するために、ボスの肉厚を薄くし且つ上下に均一な厚みを備える単純な形状としたままで、ナットと床パンの裏面との間に調整代を形成することができる構成が考えられた(例えば、特許文献2参照)。図6(a)(b)に示すものは、ナット本体の上下方向の略中央にフランジ状の膨出部3aを設けたナット4bを使用し、該膨出部3aをボス5b先端に当接することでナット4bの先端と床パンAとの間に調整代Sを形成するものである。一般的に、床パンAにナット4bを設置するにあたっては、床パンAを表裏逆にして取り付け施工をして、ボス5bの内部に収容されたボス嵌合部2aと該ボス5bの内壁とを接着するために、ボス5bの内壁とボス嵌合部2aとの隙間に接着剤6を注入するのであるが、この場合、接着剤6が硬化する前に接着剤6が下方へ(即ちボス5bの基部の方向へ)流れ落ちてしまう。このため、該ボス5bとアジャスターボルト用ナット4bは十分な接着がなされず強固な接着ができないものとなっていた。
【特許文献1】特開2006−28914号公報
【特許文献2】特開平6−128993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アジャスターボルト用ナットを取り付ける床パンに備えるボスを、厚みを薄くし且つ上下に均一な厚みを備える単純な形状としたままで、接着剤を注入しても接着剤が非接着部位に流れ落ちず強固に接着できる床パンアジャスターボルト用ナット取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1に係る発明にあっては、上下方向に長い筒状をしたナット本体部1の上部にボス嵌合部2を有し且つ該ボス嵌合部2の下部に外方に膨出した膨出部3を設けることでアジャスターボルト用ナット4を形成し、前記ボス嵌合部2aよりも上下方向に長いナット収容空間51を内部に有し且つ前記ボス嵌合部2が嵌合されるボス5を床パンAの裏面に立設し、該ボス5の先端面と膨出部3の上面とを当接し且つ該ボス5にボス嵌合部2を嵌合した状態で接着剤6にて固定してなる床パンアジャスターボルト用ナット取付構造であって、前記ボス嵌合部2の上部から外方に向かって立設し且つ前記膨出部3とボス5の内周面とボス嵌合部2とで接着剤充填空間7を形成するヒレ部8を設けて成ることを特徴とするものである。
【0008】
このように構成したことで、従来の床パンAにアジャスターボルト用ナットを設置するにあたって、床パンAを表裏逆(即ちボス5の先端が上方となる状態)にして施工したとしても、ヒレ部8によって接着剤6が流れ落ちるのを防止して、接着剤充填空間7に接着剤6を充填することができるため、ボス5とアジャスターボルト用のナット4とを強固に接着することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、床パンに設置されたボスを、厚みを薄くし且つ上下に均一な厚みを備える単純な形状としつつ、該ボスとアジャスターボルト用ナットとを強固に固着することができるので、床パンの生産効率を低下させずに、アジャスターボルト用ナットの取り付け強度を向上させることができる。即ち、アジャスターボルトを回動させて上下調整した場合であってもナットの固着が外れることが無く、さらに、床パンの支持強度自体も向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態の浴室ユニットの床パンについて添付図面に基づいて説明する。
【0011】
本実施形態は、FRPプレス成形で成形された浴室ユニットの床パンAの底面の裏面にアジャスターボルトが螺合される樹脂性のナット4が固設されており、該ナット4にアジャスターボルトを螺合して複数個所に設置することで、浴室ユニットの床パンAが支持されている。
【0012】
このナット4は図2に示すように、上下方向に長い筒状をしたナット本体部1の上部に平面視六角形状のボス嵌合部2を備え、該ボス嵌合部2の下部には外方に膨出したフランジ状の膨出部3が形成されている。また、ボス嵌合部2の上部縁辺から外方に向かって形成されたヒレ部8を備えている。該ヒレ部8は、平面視六角形状のボス嵌合部2の上端の各辺から矩形状で薄いヒレ片81が各々突設されており、少なくとも後述するボス5の内壁に当接する突出長さで形成される(本実施形態では、ボス5の内壁に当接する長さよりも長く突出している)。各ヒレ片81間には切れ目Bが形成されており、該ヒレ片81はボス嵌合部2との接続部位82(即ちヒレ片81の突出基部)で上下方向に屈曲自在に形成されている。該ヒレ片81はナット本体部1に一体形成されている。さらに、ナット本体部1の前記ボス嵌合部2以外の部分(即ち膨出部3の基部を含めた部位以下の部分)は円筒状に形成されており、該ナット本体部1の平面視略中央に、アジャスターボルトを螺合するための雌ねじ部Cが上下方向の全長に亘って螺刻されている。
【0013】
前記床パンAの底面の裏面に形成されたボス5にこのように形成されたナット4が設置される。該ボス5は、床パンAの底面の裏面に下方に向けて平面視六角形状にて突設している。該ボス5の先端面の略中央からボス5の突出基部に向けて断面六角形状のナット収容空間51が形成されている。このナット収容空間51は前記ボス嵌合部2の上下方向の長さよりも長く形成されている(即ち、少なくともボス5の突出長さもボス嵌合部2の上下方向の長さよりも長く形成されている)。更に、該ナット収容空間51の水平方向の大きさにおいても、ボス嵌合部2よりもやや大きく形成されており、前記ボス嵌合部2が内部に収容されるようになっている。
【0014】
このように形成された床パンAの裏面に突設されるボス5に前記ナット4が設置されるのであるが、ナット4をボス5に設置するにあたっては、床パンAを表裏逆にして(即ち、ボス5の先端が上方に臨むような状態にして)ナット4の取付施工がなされる。以下、ボス5の先端側を上方とし、ボス5の基部側を下方として説明する。
【0015】
ナット4をボス5に設置するにあたっては、床パンAに突設されたボス5の上方から、前記ナット4のボス嵌合部2を下方に位置させた状態で、該ボス嵌合部2をナット収容空間51に嵌入する。このとき、ナット4に備える膨出部3の下面がボス5の先端面に当接する前に、ボス5とボス嵌合部2とを接着させる接着剤6をボス5の内壁とボス嵌合部2の側面との隙間に注入する。注入後に該膨出部3の下面をボス5の先端面に当接した状態になるまで挿入する。このとき、ヒレ片81はボス5の内周面に沿って水平よりも上方に傾斜することになるが、各ヒレ片81間に形成された切れ目Bによって、ヒレ片81同士が干渉することは無く、各ヒレ片81の屈曲は容易になされ、ナット4の挿入はスムーズになされる。
【0016】
このような構成によれば、注入された該接着剤6はヒレ部8によって下方に流れ落ちるのを阻止されて、前記膨出部3とボス5の内周面とボス嵌合部2とヒレ部8とで形成された接着剤充填空間7に充填されることで、接着剤6が該接着剤充填空間7に保持されたままで硬化する。さらに、ヒレ部8がボス5の内壁に沿って上方に傾斜を有しているので、接着剤6が硬化する前に、表裏逆となった床パンAを更に逆に向けて使用する状態(元の状態)に戻したとしても、ヒレ部8がボス5の内壁に引っかかり、カエリの作用を及ぼすため、ナット4が抜け落ちることがなく、接着剤6が硬化するまでボス5の先端面と膨出部3の下面(即ち、元の状態における膨出部3の上面)との当接状態が維持できる。
【0017】
さらに、ボス5の内部に形成されたナット収容空間51が、ボス嵌合部2よりも上下方向に長く形成されているから、ボス5の先端面にナット4に備える膨出部3を当接した状態であってもボス嵌合部2の先端と床パンAの裏面との間に調整代Sとしての隙間が形成される。すなわち、アジャスターボルトを該ナット4に螺合して設置した場合であっても、アジャスターボルトを回動させて、上下方向の床パンAの設置高さの調整をすることができる。
【0018】
次に、他の実施形態について図3及び図4に基づいて説明する。なお、本実施形態は図1及び図2に示す実施形態と大部分において同じであるため、同じ部分においては同符号を付して説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0019】
本実施形態のナット4は、ナット本体部1の上部を平面視六角形状のボス嵌合部2とし、ナット本体部1のボス嵌合部2以外の部位を外方に向けて膨出する膨出部3とするものである。また、ボス嵌合部2の上部には、外方に向けてヒレ部8が突設されて、これらは一体に形成されている。さらに、上記の実施形態のものと同様に、各ヒレ片81の間には切れ目Bが形成されており、該ヒレ片81はボス嵌合部2との接続部位82(即ちヒレ片81の突出基部)で上下方向に屈曲自在に形成されている。
【0020】
このようなナット4であっても、前記の実施形態と同様の作用を奏するため、ナット4と床パンAに備えられたボス5とを強固に固着することができる。
【0021】
以上、床パンの一例として、浴室ユニットの床パンAに基づいて本発明を説明したが、本発明の床パンは、浴室ユニットの床パンでなくとも、浴槽用の床パンや洗い場用の床パン等といった、アジャスターボルトによって支持する構造を有するものであれば、本発明を同様に適用できる。また、床パンの材質やナット4の材質は特に限定されず、更にボス5やナット4の断面形状も特に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態の床パンを上下逆にした時の要部側断面図である。
【図2】同上のアジャスターボルト用ナットの下方から見た斜視図である。
【図3】他の実施形態の床パンを上下逆にした時の要部側断面図である。
【図4】同上のアジャスターボルト用ナットの下方から見た斜視図である。
【図5】従来例を説明する図であり(a)は要部側断面図であり、(b)は分解斜視図である。
【図6】他の従来例を説明する図であり(a)は要部側断面図であり、(b)はアジャスターボルト用ナットの上方からの斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ナット本体部
2 ボス嵌合部
3 膨出部
4 ナット
5 ボス
51 ナット収容空間
6 接着剤
7 接着剤充填空間
8 ヒレ部
81 ヒレ片
82 接続部位
A 床パン
C 雌ねじ部
S 調整代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に長い筒状をしたナット本体部の上部にボス嵌合部を有し且つ該ボス嵌合部の下部に外方に膨出した膨出部を設けることでアジャスターボルト用ナットを形成し、前記ボス嵌合部よりも上下方向に長いナット収容空間を内部に有し且つ前記ボス嵌合部が嵌合されるボスを床パンの裏面に立設し、該ボスの先端面と膨出部の上面とを当接し且つ該ボスにボス嵌合部を嵌合した状態で接着剤にて固定してなる床パンアジャスターボルト用ナット取付構造であって、前記ボス嵌合部の上部から外方に向かって立設し且つ前記膨出部とボスの内周面とボス嵌合部とで接着剤充填空間を形成するヒレ部を設けて成ることを特徴とする床パンアジャスターボルト用ナット取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−263990(P2009−263990A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114626(P2008−114626)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(505154956)パナソニック電工バス&ライフ株式会社 (306)
【Fターム(参考)】