説明

床構造、その施工方法及びその再生方法

【課題】上階床上への積層を最小限に留め、かつ天井と上階床の間の空間が小さくても床衝撃音の解消に効果を発揮し、建物の高さに影響を及ぼすことなく主として軽量床衝撃音を効果的に低減することを可能とする木造建造物の防音床構造を提供する。
【解決手段】床下材10の上面に敷設された下地材4と、下地材4の上面に間隔を置いて略平行に粘着されることにより設けられた帯板材よりなるスペーサー材7と、スペーサー材7の間隔内に形成される空気層5と、スペーサー材7の上面に粘着されることにより設置された床上材6と、を具備し、多層構造とされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の床構造、特に、2階以上の複数階を有する木造住宅の床板として用いて有用な防音床構造、及びその施工方法及びその再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅内で発生する騒音(衝撃音)には、例えば、子供の飛び跳ね走り回り等による重くて柔らかいものの衝撃による重量床衝撃音や、ハイヒールの歩行や家具の移動或いはテーブルんから落下したスプーンの落下音等による比較的軽くて硬いものの衝撃による軽量床衝撃音や、テレビや話し声等の空気中を伝搬する空気伝搬音があり、特に、2階以上の複数階を有する木造住宅においては、上階で生じるこれら床衝撃音が下階に伝達されることによる弊害を回避できるような種々の工夫がなされることが必要である。
【0003】
鉄筋コンクリート造り等の重量建築物では、上下階の間に重量物であるコンクリートによる床を敷設することが容易であり、コンクリートの床を厚くすることや、また、緩衝材を組み込んだ床構造とすることで十分な遮音性能を確保することが可能である。このような、遮音床構造としては、下記特許文献1に記載されるような構造がある。
【0004】
特許文献1に記載される防音床構造は、床材の下面に制振鋼板を取り付け、この制振鋼板の下側にダイナミックダンパを設けた構造である。特許文献1の構造では、高振動数領域での振動に対しては制振鋼板が、低振動数領域の振動に対してはダイナミックダンパがそれぞれ振動低減効果を発揮させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2683447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、例えば木造住宅等の軽量建築物に、重量物、例えばコンクリート板や上記制動鋼板を敷設することは、特殊工程となるために施工コストが嵩む上、床面のみを上記重量物で構成する構造では、梁や柱を伝播する振動音を解消しにくいという欠点がある。
また、上階室の床構造の剛性を高めて衝撃の発生自体を抑える上記従来の構造では、構造上過剰設計となり、コストが増大するという問題がある。
【0007】
したがって、木造住宅では、緩衝材や吸音材を組み合わせた様々な床構造が開発され、振動音を解消することが試みられている。ところが、一般的に、重量床衝撃音は低周波の成分が多いので振動抑制が効果的で、軽量床衝撃音は中高音域の成分が多いので緩衝性のある部材が効果を発揮するため、従来の防音床構造では、軽量床衝撃音を効果的に低減する床構造として有効な手段とは成り得ていない。
【0008】
また、このような床衝撃音を低減する手段として天井空間が効果的な役割を果たしているが、従来この天井と上階床との間には限定寸法に余裕があったため、緩衝材や吸音材を組み合わせた床構造としても、建物全体高さに与える影響は少なかったが、最近では天井高を高く取る傾向にあり、天井と上階床に間の限定寸法に余裕が無くなってきており、上階床の上への積層による組み合わせは困難となってきている。さらに、天井と上階床の間の空間が広いほど床衝撃音には効果があるが、天井高を高く取る傾向から空間は狭まってきており、床衝撃音への効果が薄れてきている。
【0009】
そこで本発明は、以上の課題を解決するものであり、その目的とするところは、上階床上への積層を最小限に留め、かつ天井と上階床の間の空間が小さくても床衝撃音の解消に効果を発揮し、建物の高さに影響を及ぼすことなく主として軽量床衝撃音を効果的に低減することを可能とする木造建造物の防音床構造、特に、2階以上の複数階を有する木造住宅における上下階の間の防音床構造として最適の床構造を提供することにある。
【0010】
さらに、本発明では、上記床構造の施工及びリフォームを有効に行わせることができる施工方法及び再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載される本発明の床構造は、床下材10の上面に敷設された下地材4と、下地材4の上面に間隔を置いて略平行に粘着されることにより設けられた帯板材よりなるスペーサー材7と、スペーサー材7の前記間隔内に形成される空気層5と、スペーサー材7の上面に粘着されることにより設置された床上材6と、を具備し、多層構造とされていることを特徴としている。
【0012】
このような多層構造及び中間層に形成される空気層5の存在により、比較的上下厚さの薄い構造により、主として軽量床衝撃音及び空気伝搬音を効率的に低減若しくは遮音させることができる。
【0013】
請求項2の発明では、前記スペーサー材7は、両面に剥離紙7bによって覆われた粘着剤7a層を有する、帯板状の合板又は木質ファイバーボードにより形成されていることを特徴とする。
【0014】
このようなスペーサー材7を用いることにより、後述する、建築施工及び再生施工が容易で能率的となり、且つ、空気層5の形成が容易となる。また、空気層5の形成が隣り合う帯板状スペーサー材7の間隔により形成されるため、床上荷重がスペーサー材7の面により分散して受けられることになり、使用によっても空気層5が潰れるということがなく、その防音効果が持続することになる。
【0015】
請求項3の発明では、前記下地材4とスペーサー材7とは、木質ファイバーボードにより形成されるとともに、下地材はスペーサー材よりも木質繊維の密度が低い低密度のファイバーボードにより形成されていることを特徴としている。
【0016】
請求項4の発明では、前記スペーサー材7はミディアムデンシティファイバーボード(MDF)により形成され、前記下地材はインシュレーションファイバーボードにより形成されていることを特徴としている。
【0017】
ここで、ファイバーボードとは、蒸解した木材繊維を接着剤と混合し熱圧成型した木質ボードである。比重が小さい方からインシュレーションボード(密度:0.35/cm3 未満)、MDF(密度:0.35g/cm3 以上,0.80g/cm3 未満)、ハードボード(密度:0.80g/cm3 以上)となる。
【0018】
請求項5の発明では、前記空気層5は、その上下幅が略3mm〜略5mm望ましくは略4mm、その左右幅が略250mm〜略450mm望ましくは略300mmとされていることを特徴としている。
【0019】
上記請求項3乃至5の構造とするこにより、上記多層の緩衝層と空気層が床構造の中層部に形成されることにより、主として軽量床衝撃音及び空気伝搬音を一層効率的に低減若しくは遮音させることができる。
【0020】
本発明に係る床構造の施工方法は、前記床下材10の上面に前記下地材4を敷設して設け、上下両面に予め形成した粘着剤7a,7a層を上下剥離紙7b,7bで被覆した複数のスペーサー材7を、下剥離紙7bを剥離した状態で下地材4の上面に間隔を置いて粘着させることにより設け、該スペーサー材7の前記間隔内に空気層5を形成し、スペーサー材7の上剥離紙7bを剥離させながら、スペーサー材7及び空気層5の上面に床上材6を粘着して設けるようにしたことを特徴としている。
【0021】
上記の施工方法によれば、下地材4とスペーサー材7と床上材6の粘着施工を、スペーサー材7上下の剥離紙7bを剥離しながら行い、各部材の粘着面に現場で粘着剤を塗布するということがないため、その作業が容易で、粘着剤の養生のための時間も節約でき、能率的である。特に、上剥離紙7bを途中まで剥離して、剥離した粘着面に長板状の床上材6を粘着し、該粘着後に、さらに上剥離紙7bを剥離して、次の長板状とした床上材6を前の床上材6に接合させるようにして粘着させることにより、順次床上材6を粘着して、床仕上面を構成させることにより、床仕上作業中に粘着剤によるベトツキがなく、床仕上面の構成作業が容易となる。また、この施工方法によれば、隣り合うスペーサー材7の間隔内に中間空気層5が形成されるため、空気層5の形成が容易で確実である。
【0022】
本発明に係る床構造の再生方法では、古くなった既存の上記床構造を構成する、前記床上材6と前記スペーサー材7とを、互いに粘着された状態で剥離し、次いで、前記下地材4を前記床下材10から剥離する。剥離された床下材10の上面に、再生床処理を施すようにしたことを特徴とする。再生床処理としては、上記のような新たな多層の防音床構造を施工させ、或いは、床下材10の上面に通常のフローリング加工を施すなど、各種の再生床処理を施すことができる。
【0023】
上記再生方法において、上記請求項3乃至5に示すように、下地材4はスペーサー材7よりも木質繊維の密度が低い低密度のファイバーボードにより形成されていることから、床上材6とスペーサー材7との接着強度が、スペーサー材7と下地材4との接着強度よりも強くなり、リフォーム施工時に、床上材6を剥離する時に、下地材4の表層が多少欠き取られる程度で下地材4を残して、床上材6と一体にスペーサー材7が剥離されるため、その剥離作業が能率的となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の床構造によれば、多層構造及び中間層に形成される空気層の存在により、比較的上下厚さの薄い構造により、主として軽量床衝撃音及び空気伝搬音を効率的に低減若しくは遮音させることができる。
【0025】
請求項3乃至5の構造とするこにより、多層の緩衝層と空気層が床構造の中層部に形成されることにより、主として軽量床衝撃音及び空気伝搬音を一層効率的に低減若しくは遮音させることができる。
【0026】
本発明の施工方法によれば、その作業が容易で、粘着剤の養生のための時間も節約でき、粘着剤によるベトツキもなく、能率的である。また、隣り合うスペーサー材の間隔内に中間空気層が形成されるため、空気層の形成が容易で確実である。
【0027】
また、本発明の再生方法によれば、本発明の床構造のリフォーム作業が容易で効率的であり、廃材の処理も一度にできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る床構造の構成を示す断面図である。
【図2】図1のIIーII線断面図である。
【図3】本発明に係る床構造の分解斜視図である。
【図4】本発明のに係る床構造の施工工程を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、図の実施例を参照して、本発明に係る床構造の実施の形態を説明する。
実施の形態の床構造は、床下材10の上面に敷設された下地材4と、下地材4の上面に間隔を置いて略平行に粘着されることにより設けられた帯板材よりなるスペーサー材7と、スペーサー材7の前記間隔内に形成される空気層5と、スペーサー材7の上面に粘着されることにより設置された床上材6と、を具備する多層構造とされている。
実施の形態に係る床構造は、例えば、2階以上の複数階を有する木造住宅の上階の多層の防音床板を構成し、住宅の床梁の上部に固定される。
【0030】
床下材10は、下層から、構造用合板1と、石膏ボード2と、硬質石膏ボード3とが、順次積層された構造になる。床下材10は、一層の構造用板材により構成されていても良い。
【0031】
床下材10上面の上記下地材4とスペーサー材7とは、上述したように、木質ファイバーボードにより形成されるとともに、下地材はスペーサー材よりも木質繊維の密度が低い低密度のファイバーボードにより形成されている。具体的に、スペーサー材7はミディアムデンシティファイバーボード(MDF)により形成され、下地材はインシュレーションファイバーボードにより形成されている。
【0032】
下地材4は、緩衝層を構成し、上記インシュレーションボードの他、遮音マット等を用いることができる。
【0033】
上記スペーサー材7は、両面に剥離紙7bによって覆われた粘着剤7a層を有する、フレキシブルな構造の帯板状合板又は上記の木質ファイバーボードにより形成されている。
【0034】
上記スペーサー材7は、その上下幅が略3mm〜略5mm望ましくは略4mm、その左右幅が略50mm〜略150mm望ましくは略100mmとされている。また、上記空気層5は、その上下幅が略3mm〜略5mm望ましくは略4mm、その左右幅が略250mm〜略450mm望ましくは略300mmとされている。スペーサー材7及び空気層5の上下幅を、略4mmとすることにより、十分な防音効果があり、且つ、長年使用によっても、空気層3が潰れにくく、防音効果が持続されることが実験により確認されている。
【0035】
上記床上材6は、床仕上材であり、通常のフローリング加工を施すことができる。場所と使用箇所によっては、合成樹脂材による床仕上材を施すことも可能である。
【0036】
次に、上記床構造の施工方法を説明する。
2階以上の複数階を有する木造住宅の上階の床梁の上部に、上記床下材10を載置固定する。この床下材10の上面に上記下地材4を敷設して設ける。次いで、図4に示すように、下地材4の上面に、上下両面に予め形成した粘着剤7a,7a層を上下剥離紙7b,7bで被覆した複数のスペーサー材7を、下剥離紙7bを剥離した状態で間隔を置いて平行に粘着させることにより設け、該スペーサー材7の前記間隔内に空気層5を形成する。このようにして粘着されたスペーサー材7の上剥離紙7bを、先端から所定幅剥離させ、該剥離面に表れた粘着剤7a上に、先頭の床上材6の板を粘着させる。先頭の床上材6の板が粘着された後に、さらに、上剥離紙7bを、後方に所定幅剥離させ、該剥離面に表れた粘着剤7a上に、次の床上材6の板を、先頭の床上材6の板に接合させて粘着させる。このようにして、下地材4の上面に、床上材6の板を順次粘着させて、床仕上げ面を形成する。
【0037】
次に、上記の床構造が古くなった場合に行う、リフォーム再生方法について説明する。 上記床構造の再生方法では、古くなった既存の上記床構造を構成する、上記床上材6と上記スペーサー材7とを、互いに粘着された状態で剥離し、次いで、前記下地材4を上記床下材10から剥離する。剥離された床下材10の上面に、再生床処理を施す。再生床処理としては、上記のような新たな多層の防音床構造を施工させ、或いは、床下材10の上面に通常のフローリング加工を施すなど、各種の再生床処理を施すことができる。
【0038】
上記再生方法において、床上材6の下部にスペーサー材7が比較的強く粘着されており、下地材4はスペーサー材7よりも木質繊維の密度が低い低密度のファイバーボードにより形成されていることにより、床上材6を剥離する時に、床上材6と一体にスペーサー材7が剥離され、下地材4の表層が多少欠き取られる程度で容易に剥がれるため、その剥離作業が能率的となる。その後、下地材4を剥離させるようにする。
【産業上の利用可能性】
【0039】
上記の実施の形態では、本発明の床構造を、2階以上の複数階を有する木造住宅の上階の防音床構造とした構成例につき説明した。しかしながら、本発明の床構造は、1階の床面の防音床構造にも適応される。本発明の床構造は、上述した防音機能の他、クッション機能もあり、幼稚園など幼児用の施設の床構造としても有効に用いられる。また、音響室などの、遮音外壁の構造としても用いられる。
【符号の説明】
【0040】
10 床下材
1 構造用合板
2 石膏ボード
3 硬質石膏ボード
4 下地材
5 空気層
6 床上材
7 スペーサー材
7a 粘着剤
7b 剥離紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床下材の上面に敷設された下地材と、下地材の上面に間隔を置いて略平行に粘着されることにより設けられた帯板材よりなるスペーサー材と、スペーサー材の前記間隔内に形成される空気層と、スペーサー材の上面に粘着されることにより設置された床上材と、を具備し、多層構造とされていることを特徴とする床構造。
【請求項2】
前記スペーサー材は、帯板状の合板又は木質ファイバーボードにより形成され、両面に剥離紙によって覆われた粘着剤層を有することを特徴とする請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記下地材とスペーサー材とは、木質ファイバーボードにより形成されるとともに、下地材はスペーサー材よりも木質繊維の密度が低い低密度のファイバーボードにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の床構造。
【請求項4】
前記スペーサー材はミディアムデンシティファイバーボード(MDF)により形成され、前記下地材はインシュレーションファイバーボードにより形成されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の床構造。
【請求項5】
前記空気層は、その上下幅が略3mm〜略5mm望ましくは略4mm、その左右幅が略250mm〜略450mm望ましくは略300mmとされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の床構造。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の床構造の施工方法において、前記床下材の上面に前記下地材を敷設して設け、上下両面に予め形成した粘着剤層を上下剥離紙で被覆した複数のスペーサー材を、下剥離紙を剥離した状態で下地材の上面に間隔を置いて粘着させることにより設け、該スペーサー材の前記間隔内に空気層を形成し、スペーサー材の上剥離紙を剥離させながら、スペーサー材及び空気層の上面に床上材を粘着して設けるようにしたことを特徴とする床構造の施工方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の床構造の再生方法において、多層の前記床構造を構成する、前記床上材と前記スペーサー材とを互いに粘着された状態で剥離し、次に、記下地材を前記床下材から剥離し、剥離された床下材の上面に、再生床処理を施すようにしたことを特徴とする床構造の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−248862(P2010−248862A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102136(P2009−102136)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(595118892)株式会社ポラス暮し科学研究所 (32)
【Fターム(参考)】