説明

床版上面増厚工法

【課題】道路橋のコンクリート床版を補強するために、その上面を増厚する床版上面増厚工法において、コンクリート床版としての必要な強度を確保した上で、増厚層の最小施工厚を薄くし、かつ凍結防止剤散布地域でも腐食の懸念をなくす。
【解決手段】コンクリート床版14の上面14aに形成されたアスファルト舗装16を撤去して目粗しした後、この目粗しされたコンクリート床版14の上面14aに、該コンクリート床版14を構成しているコンクリートのヤング係数に対して1/3以上の値のヤング係数を有する高弾性の樹脂モルタルで増厚層20を形成する。これにより、増厚層20の最小施工厚を比較的薄く設定した場合においても、所要の強度を確保可能とし、これにより曲げ応力度の低減を図る。また、高弾性の樹脂モルタルの遮塩性により、凍結防止剤散布地域でもコンクリート床版の内部の鉄筋等の腐食の懸念をなくす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、道路橋のコンクリート床版を補強するために、該コンクリート床版の上面を増厚する床版上面増厚工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路橋のコンクリート床版は、重交通や過積載車両の通行等により疲労劣化しやすく、これが原因となって耐力が低下してしまうこととなる。
【0003】
このようにして耐力が低下したコンクリート床版を補強して延命化を図るための方法の1つとして、従来より、コンクリート床版の上面を増厚する床版上面増厚工法が知られている。
【0004】
この床版上面増厚工法としては、コンクリート床版の上面に形成されたアスファルト舗装を撤去して、その上面を目粗しした後、この目粗しされたコンクリート床版の上面に、鋼繊維補強コンクリートを増厚層として打設し、その後、この鋼繊維補強コンクリートの上面にアスファルト舗装を形成する方法が、従来より広く採用されている。
【0005】
その際「特許文献1」には、目粗しされたコンクリート床版の上面に鋼繊維補強コンクリートを打設する代わりに、その上面に補強鉄筋の役割を兼ねた帯状鋼板を固定した状態でコンクリートを打設することにより増厚層の形成を行う床版上面増厚工法が記載されている。
【0006】
また「特許文献2」には、目粗しされたコンクリート床版の上面に鋼繊維補強コンクリートを打設する代わりに、その上面に樹脂モルタル層を、その中間層として繊維補強層を介在させた状態で形成することにより増厚層の形成を行う床版上面増厚工法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−59929号公報
【特許文献2】特開2004−169346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のように、コンクリート床版の上面に鋼繊維補強コンクリートを打設する床版上面増厚工法では、増厚層の最小施工厚が50mm程度となるため、コンクリート床版の自重が著しく増大してしまう、という問題がある。また、この床版上面増厚工法を凍結防止剤散布地域において適用した場合には、鋼繊維の腐食が懸念される、という問題がある。
【0009】
この点、上記「特許文献1」に記載された床版上面増厚工法を採用した場合においても、同様の問題が生じてしまうこととなる。
【0010】
一方、コンクリート床版の上面に樹脂モルタル層を増厚層として形成する床版上面増厚工法を採用した場合には、樹脂モルタルのヤング係数が、通常のコンクリートのヤング係数に対して1/10程度の値であり、かなり小さいことから、増厚層の部分に補強用構造部材としての機能を持たせることができない、という問題がある。
【0011】
これに対し、上記「特許文献2」に記載された床版上面増厚工法を採用すれば、繊維補強層が中間層として介在している分だけ強度を高めることが可能となる。しかしながら、その反面、繊維補強層が中間層として介在している分だけ最小施工厚が厚くなってしまい、かつ施工コストが高くついてしまう、という問題がある。
【0012】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、コンクリート床版としての必要な強度を確保した上で、増厚層の最小施工厚を薄くすることができ、かつ凍結防止剤散布地域でも腐食の懸念をなくすことができる床版上面増厚工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、目粗しされたコンクリート床版の上面に形成される増厚層の構成に工夫を施すことにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0014】
すなわち、本願発明に係る床版上面増厚工法は、
道路橋のコンクリート床版を補強するために、該コンクリート床版の上面を増厚する床版上面増厚工法において、
上記コンクリート床版の上面を目粗しした後、この目粗しされたコンクリート床版の上面に、該コンクリート床版を構成しているコンクリートのヤング係数に対して1/3以上の値のヤング係数を有する高弾性の樹脂モルタルで増厚層を形成する、ことを特徴とするものである。
【0015】
本願発明に係る床版上面増厚工法による上面増厚施工の適用対象となる「コンクリート床版の上面」の範囲は特に限定されるものではなく、その全領域であってもよいし、その一部領域であってもよい。
【0016】
上記「高弾性の樹脂モルタル」は、樹脂モルタルであって、そのヤング係数が、コンクリート床版を構成しているコンクリートのヤング係数に対して1/3以上の値に設定されたものであれば、その具体的な組成については特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0017】
上記構成に示すように、本願発明に係る床版上面増厚工法においては、目粗しされたコンクリート床版の上面に、該コンクリート床版を構成しているコンクリートのヤング係数に対して1/3以上の値のヤング係数を有する高弾性の樹脂モルタルで増厚層を形成するようになっているので、増厚層の最小施工厚を比較的薄く設定した場合においても、所要の強度を確保することができる。そしてこれにより、増厚層が形成されたコンクリート床版において、その曲げ応力度の低減を図ることができる。しかも、この高弾性の樹脂モルタルで形成された増厚層は、遮塩性に優れているので、凍結防止剤散布地域でもコンクリート床版の内部の鉄筋等の腐食の懸念をなくすことができる。
【0018】
このように本願発明によれば、コンクリート床版としての必要な強度を確保した上で、増厚層の最小施工厚を薄くすることができ、かつ凍結防止剤散布地域でも腐食の懸念をなくすことができる。
【0019】
しかも、高弾性の樹脂モルタルはコンクリートとの付着特性にも優れているので、アンカー等を必要とせずに、増厚層とコンクリート床版との面的な一体性を確保することができる。そしてこれにより、増厚層を形成するための施工コストを低く抑えることができる。また、増厚層が形成されたコンクリート床版において、界面剪断力の局部集中が生じてしまうのを未然に防止することができる。さらに、アンカー等を設置するための掘削によってコンクリート床版の内部の鉄筋が損傷してしまうといったおそれをなくすことができる。
【0020】
また、この高弾性の樹脂モルタルで形成された増厚層は、防水性にも優れているので、コンクリート床版の内部への浸透水の浸入を効果的に遮断することができる。
【0021】
上記構成において、増厚層の厚さは特に限定されるものではなく、必要とする強度に応じて任意の厚さに設定することが可能であるが、その際、この増厚層を5〜35mmの厚さで形成することが好ましい。これは、増厚層の厚さが5mm未満では、上面増厚施工による強度向上を十分に図ることが困難となり、かつ、増厚層の形成する際の作業性が悪くなり、一方、増厚層の厚さが35mmを超えると、増厚層の形成によるコンクリート床版の重量増大が大きくなり、かつ、増厚層を形成するのに重ね塗りが必要となるため作業性およびコスト面で不利になることによるものである。なお、このような観点から、増厚層を10〜30mmの厚さで形成することがより好ましい。
【0022】
上記構成において、増厚層を、コンクリート床版の上面における一部領域にのみ形成するようにすれば、上面増厚施工に伴って必要となる交通規制を最小限に抑えることができる。また、コンクリート床版がプレストレストコンクリートで構成されている場合には,上面増厚施工の適用範囲を小さくすることにより、コンクリート床版に導入されたプレストレスへの影響を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本願発明の一実施形態に係る床版上面増厚工法の適用対象となる道路橋を、その橋軸直交面に沿った断面で示す図
【図2】上記実施形態による上面増厚施工の工程を示す、図1の要部詳細図
【図3】上記実施形態の作用効果を確認するために行った輪荷重走行試験試験に用いた試験体を示す平面図
【図4】上記輪荷重走行試験に用いた試験装置を、図3のIV−IV線断面の位置において示す図
【図5】上記試験体の3箇所に設置された歪み計で計測した結果をグラフで示す図
【図6】上記実施形態の作用効果を確認するために行った接着性試験の様子を示す側断面図
【図7】上記実施形態の変形例を示す、図1と同様の図
【図8】上記変形例による上面増厚施工の工程を示す、図7の要部詳細図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0025】
図1は、本願発明の一実施形態に係る床版上面増厚工法の適用対象となる道路橋を、その橋軸直交面に沿った断面で示す図である。
【0026】
その際、同図(a)は、本実施形態に係る床版上面増厚工法による上面増厚施工を施す前の道路橋10Aを示しており、同図(b)は、この上面増厚施工を施した後の道路橋10Bを示している。
【0027】
同図(a)に示すように、上面増厚施工前の道路橋10Aは、橋軸直交方向に所定間隔をおいて配置された複数の主桁12の上端面に、これらを跨ぐようにしてコンクリート床版14が配置された構成となっている。
【0028】
この道路橋10Aのコンクリート床版14は、その上面14aが水平面に沿って延びるように形成されており、この上面14aの橋軸直交方向両端部には地覆14bが形成されている。
【0029】
このコンクリート床版14の上面14aは、2車線分の幅員を有している。そして、このコンクリート床版14の上面14aには、アスファルト舗装16が形成されている。
【0030】
本実施形態においては、このような既設の道路橋10Aに対して、将来における交通量の増大に対応するため(例えば、規制緩和により設計輪荷重が増大した場合における耐力向上を図るため)、コンクリート床版14の上面14aの全面補強として、その全領域に対して上面増厚施工を行うようになっている。
【0031】
同図(b)に示すように、上面増厚施工後の道路橋10Bにおいては、コンクリート床版14の上面14aに、その全領域にわたって高弾性の樹脂モルタルからなる増厚層20が形成されている。
【0032】
この増厚層20は、5〜35mmの厚さ(例えば20mm程度の厚さ)で形成されている。この増厚層20を構成する高弾性の樹脂モルタルは、エポキシ樹脂等の合成樹脂に砂等の骨材を混入した材料であって、通常の樹脂モルタルに比して骨材の配合比率を高めることにより、そのヤング係数が、コンクリート床版14を構成しているコンクリートのヤング係数(通常は30kN/mm程度)に対して、1/3以上(例えば1/2程度)の値になるように調製したものである。
【0033】
そして、この上面増厚施工後の道路橋10Bにおいては、増厚層20の上面に、新たなアスファルト舗装26が形成されている。
【0034】
図2は、本実施形態による上面増厚施工の工程を詳細に示す、図1の要部詳細図であって、同図(a)は、図1(a)のIIa部詳細図であり、同図(d)は、図1(b)のIId部詳細図である。
【0035】
この上面増厚施工は、次のような工程で行われるようになっている。
【0036】
まず、同図(a)に示す既設の道路橋10Aにおけるコンクリート床版14の上面14aから、アスファルト舗装16を撤去する。その際、このアスファルト舗装16の撤去は、コンクリート床版14の上面14aの全領域に対して行う。
【0037】
次に、同図(b)に示すように、アスファルト舗装16が撤去されたコンクリート床版14の上面14aを目粗しする。この目粗しは、ウォータージェット等により行う。なお、この目粗しにより、コンクリート床版14は、その厚さが多少(例えば5mm程度)減少することとなる。
【0038】
そして、同図(c)に示すように、この目粗しされたコンクリート床版14の上面14aに、高弾性の樹脂モルタルからなる増厚層20を所定の厚さt(例えばt=20mm程度)で形成する。この増厚層20の形成は、コンクリート床版14の上面14aの全領域に対して行う。また、この増厚層20の形成は、目粗しされたコンクリート床版14の上面14aにプライマーを塗布した後、コテ仕上げまたは転圧等によって高弾性の樹脂モルタルを一定厚で形成することにより行う。
【0039】
その後、同図(d)に示すように、この増厚層20の上面に、防水工を施した後、新たなアスファルト舗装26を形成する。このアスファルト舗装26の形成は、コンクリート床版14の上面14aの全領域に対して行う。
【0040】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0041】
本実施形態に係る床版上面増厚工法においては、目粗しされたコンクリート床版14の上面14aに、該コンクリート床版14を構成しているコンクリートのヤング係数に対して1/3以上の値のヤング係数を有する高弾性の樹脂モルタルで増厚層20を形成するようになっているので、増厚層20の最小施工厚を比較的薄く設定した場合においても、所要の強度を確保することができる。そしてこれにより、曲げ応力度の低減を図ることができる。しかも、この高弾性の樹脂モルタルで形成された増厚層20は、遮塩性に優れているので、凍結防止剤散布地域でもコンクリート床版14の内部の鉄筋等の腐食の懸念をなくすことができる。
【0042】
このように本実施形態によれば、コンクリート床版14としての必要な強度を確保した上で、増厚層20の最小施工厚を薄くすることができ、かつ凍結防止剤散布地域でも腐食の懸念をなくすことができる。
【0043】
しかも、高弾性の樹脂モルタルはコンクリートとの付着特性にも優れているので、アンカー等を必要とせずに、増厚層20とコンクリート床版14との面的な一体性を確保することができる。そしてこれにより、増厚層20を形成するための施工コストを低く抑えることができる。また、増厚層20が形成されたコンクリート床版14において、界面剪断力の局部集中が生じてしまうのを未然に防止することができる。さらに、アンカー等を設置するための掘削によってコンクリート床版14の内部の鉄筋が損傷してしまうといったおそれをなくすことができる。
【0044】
また、この高弾性の樹脂モルタルで形成された増厚層20は、防水性にも優れているので、コンクリート床版14の内部への浸透水の浸入を効果的に遮断することができる。
【0045】
その際、本実施形態においては、増厚層20を5〜35mmの厚さで形成するようになっているので、増厚層20の形成によるコンクリート床版14の重量増大を十分小さく抑えた上で、増厚層20を形成する際の作業性を低下させることなく、所要の強度を確保することができる。
【0046】
なお、上面増厚施工後の道路橋10Bにおいて、そのアスファルト舗装26を上面増厚施工前の道路橋10Aにおけるアスファルト舗装16と同程度の厚さで形成したとすると、このアスファルト舗装26の上面の位置は、目粗し後の増厚層20の厚さ増大分だけ、上面増厚施工前の道路橋10Aにおけるアスファルト舗装16の上面の位置よりも上方側に変位することとなるが、増厚層20の厚さは5〜35mmと薄いので、地覆14b等についてはそのままの高さで支障なく使用することができる。
【0047】
次に、本実施形態の作用効果を確認するために行った試験の内容について説明する。
【0048】
(1)輪荷重走行試験
この輪荷重走行試験は、コンクリート床版14の上面14aに増厚層20を形成した場合において、この増厚層20を構成する補強材の輪荷重疲労による剥離抵抗性を検証することを目的として実施したものである。
【0049】
この輪荷重走行試験には、表1に示すような特性を有する3種類の補強材A、B、Cを用いた。
【0050】
【表1】

【0051】
同表に示すように、これら3種類の補強材A、B、Cとしては、コンクリート床版14を構成しているコンクリートのヤング係数(通常は30kN/mm程度)に対して1/3以上の値のヤング係数を有する高弾性の樹脂モルタルを用いた。具体的には、これら各補強材A、B、Cを構成する高弾性の樹脂モルタルとして、10kN/mm以上のヤング係数を有するものを用いた。
【0052】
すなわち、補強材Aは、2液混合型エポキシ樹脂に骨材として珪砂およびコランダムを混入した材料であって、その樹脂骨材比を1:6に設定した。この補強材Aの圧縮強度は57kN/mmであり、そのヤング係数は13kN/mmである。
【0053】
補強材Bは、2液混合型エポキシ樹脂に骨材として珪砂ブレンドを混入した材料であって、その樹脂骨材比を1:3.5に設定した。この補強材Bの圧縮強度は90kN/mmであり、そのヤング係数は17kN/mmである。
【0054】
補強材Cは、2液混合型エポキシ樹脂に骨材としてセラミック粉体を混入した材料であって、その樹脂骨材比を1:5に設定した。この補強材Cの圧縮強度は110kN/mmであり、そのヤング係数は19kN/mmである。
【0055】
図3は、この輪荷重走行試験に用いた試験体50を示す平面図である。
【0056】
この試験体50は、橋軸方向に延びるコンクリート床版54の上面54aを、その複数箇所において目粗しした後、これら各箇所に3種類の補強材A、B、Cを増厚層として形成した構成となっている。
【0057】
その際、これら各補強材A、B、Cは、それぞれ10mmと30mmの2種類の厚さで、元の上面54aの位置と面一となるように形成した。同図においては、これらを、A(10)、A(30)、B(10)、B(30)、C(10)、C(30)で示す。
【0058】
これら6種類の補強材A(10)、A(30)、B(10)、B(30)、C(10)、C(30)は、橋軸直交方向に細長く延びる矩形状に形成されており、橋軸方向に所定間隔をおいて、この順番で直列に配置した。その際,補強材B(30)と補強材C(10)間に、コンクリート床版54の上面54aに補強材が形成されていない領域として健全床版Dを設定した。
【0059】
なお、補強材Aは、骨材成分が多いため、これを増厚層として形成する際、コテ仕上げは困難で、転圧機による仕上げが必要であった。補強材Bは、粘性はあるものの、コテ仕上げによる施工が可能であった。補強材Cは、粘性が高く、これを増厚層として形成する際のコテ仕上げには電気コテが必要であった。
【0060】
この試験体50においては、そのコンクリート床版54として、鉄筋コンクリートに対して複数のPC鋼棒52によるプレストレスが導入されたPC床版を用いた。その際、複数のPC鋼棒52は、橋軸方向に所定間隔をおいて橋軸直交方向に延びるように配置した。
【0061】
図4は、この輪荷重走行試験に用いた試験装置60を、図3のIV−IV線断面の位置において示す図である。
【0062】
同図に示すように、この試験装置60においては、橋軸直交方向に所定間隔をおいて配置された橋軸方向に延びる1対の鋼材62が、橋軸方向に所定間隔をおいて配置された橋軸直交方向に延びる複数の鋼材64に載置されている。また、これら1対の鋼材62に架け渡されるようにして、試験体50が水平に配置されている。そして、この試験体50の上面における橋軸直交方向中央領域(図3において1対の2点鎖線で示す領域)を、輪荷重走行試験機70が橋軸方向に往復走行するようになっている。その際、この輪荷重走行試験機70は、試験体50の上方に配置された上部レール66に吊下げ支持された状態で走行するようになっている。
【0063】
この試験装置60においては、その輪荷重走行試験機70として、現実の支圧条件を再現できるゴムタイヤ自走方式のものを用いた。図1(b)に示す実際の道路橋10Bにおいては、コンクリート床版14の上面14aに敷設されたアスファルト舗装26の影響により、支圧が緩和されることとなるが、この影響を排除したより厳しい条件下での試験とするため、アスファルト舗装を敷設しないで、試験体50の上面50aに直接輪荷重走行試験機70のゴムタイヤ72を載せて走行させた。
【0064】
この輪荷重走行試験の具体的な内容およびその試験結果は、以下のとおりである。
【0065】
すなわち、この輪荷重走行試験においては、輪荷重100kNで10万回走行させたが、打音検査、歪み計測等の結果から、剥離やひび割れ等の異常は検知されなかった。このため、輪荷重を120kNに上昇させて1万回の走行を追加実施し、さらに輪荷重を140kNに上昇させて4万回の走行を追加実施し、計15万回の走行による疲労試験を実施した。
【0066】
この輪荷重走行試験の途中で輪荷重走行を数回停止し、静的に載荷試験を実施した。その際、コンクリート床版54の上面54aと、その内部に配置された鉄筋の上側および下側との、計3箇所に設置した歪み計で、歪みを計測した。
【0067】
図5は、これら3箇所に設置された歪み計で計測した結果をグラフで示す図である。その際、同図(a)は、走行前の歪みを計測した結果を示すグラフであり、同図(b)は、15万回走行後の歪みを計測した結果を示すグラフである。
【0068】
同図からも明らかなように、15万回走行後も、歪み分布には、走行前とほとんど変化が生じていない。この結果から、疲労によって増厚層形成後の構造性能が損なわれないことを確認することができた。
【0069】
また、この輪荷重走行試験が終了した後、各補強材A、B、Cに切り込みを入れ、この状態で、付着試験(建研式40×40mm)を実施した。
【0070】
この付着試験の結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
同表からも明らかなように、3種類の補強材A、B、Cのいずれにおいても、輪荷重走行試験前はもちろんのこと輪荷重走行試験後においても剥離が全く生じないことを確認することができた。
【0073】
(2)防水工との接着性試験
この接着性試験は、コンクリート床版14の上面14aに形成された増厚層20と、この増厚層20とアスファルト舗装26との間に施される防水工との接着性について検証することを目的として実施したものである。
【0074】
図6は、この接着性試験の様子を示す側断面図である。
【0075】
同図に示すように、この接着性試験は、上記輪荷重走行試験が終了した試験体50に対して、防水工58およびアスファルト舗装56を施した後、所定幅で切り出した試験体片50Aを用意し、この試験体片50Aに対して、そのコンクリート床版54の上面54aに形成された補強材A、B、Cとアスファルト舗装56との間に剪断力を作用させて、剪断強度を測定した。
【0076】
この接着性試験の結果を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
同表からも明らかなように、3種類の補強材A、B、Cのいずれにおいても、その剪断強度が規格値を満足していることを確認することができた。
【0079】
(3)耐火性能試験
この耐火性能試験は、コンクリート床版14の上面14aにおいて増厚層20が形成された部分の直上で万一火災が起こった場合、増厚層20を構成する高弾性の樹脂モルタルが有機成分を含んでいることから、その樹脂成分の溶け出しや引火による燃焼消失が懸念されるため、これらについて検証することを目的として実施したものである。
【0080】
この耐火性能試験は、ガスバーナにより試験体50のアスファルト舗装56の表面を30分間、600〜800℃で燃焼させた。その結果、補強材A、B、Cのいずれにおいても、その温度上昇は90℃にとどまり、樹脂の溶け出しや材料分離は生じなかった。
【0081】
この耐火性能試験を再現する温度解析シミュレーションを実施した結果、さらに燃焼を行って3時間経過した後も、補強材A、B、Cのいずれにおいても、その表面温度は300℃にとどまり、これら各補強材A、B、Cが燃焼する400〜500℃には到達しないことを確認することができた。
【0082】
以上(1)〜(3)の試験結果から、ヤング係数がコンクリート床版14を構成しているコンクリートのヤング係数に対して1/3以上の値に設定された高弾性の樹脂モルタル(例えば補強材A、B、Cのいずれか)で増厚層20を形成した上で、この増厚層20を10〜30mmの範囲内の厚さで形成した場合には、少なくとも本実施形態の作用効果が確実に得られることを確認することができた。上記試験結果からは、さらに、増厚層20を5〜35mmの範囲内の厚さで形成した場合においても、本実施形態の作用効果が得られることが容易に推認可能である。
【0083】
なお、上記実施形態においては、増厚層20の上面に防水工を施した後、新たなアスファルト舗装26を形成するものとして説明したが、増厚層20は防水性に優れた高弾性の樹脂モルタルで形成されているので、上記防水工を省略することも可能であり、あるいは、上記防水工を目地部にのみ施すようにすることも可能である。
【0084】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0085】
図7は、本変形例に係る床版上面増厚工法の適用対象となる道路橋を、その橋軸直交面に沿った断面で示す図である。
【0086】
その際、同図(a)は、本変形例に係る床版上面増厚工法による上面増厚施工を施す前の道路橋110Aを示しており、同図(b)は、この上面増厚施工を施した後の道路橋110Bを示している。
【0087】
同図(a)に示すように、上面増厚施工前の道路橋110Aは、架設作業が完了する直前の道路橋であって、そのコンクリート床版14の上面14aの複数箇所(2箇所)に局部的な窪み14a1が生じた状態となっている。これらの窪み14a1は、コンクリート床版14の構築中に、施工の不具合等の理由によって生じ得るものである。このような窪み14a1が生じると、コンクリート床版14の厚さが部分的に不足するため、所定の床版厚が確保されなくなってしまうこととなる。
【0088】
そこで、本変形例においては、この道路橋110Aのコンクリート床版14に対して、その上面14aに生じた窪み14a1に対応する複数箇所において、部分補強として上面増厚施工を行い、その耐力向上を図るようになっている。
【0089】
なお、この道路橋110Aを構成するコンクリート床版14および主桁12の基本的な構成は、上記実施形態の場合と同様である。
【0090】
同図(b)に示すように、上面増厚施工後の道路橋110Bにおいては、コンクリート床版14の上面14aおける複数箇所に、高弾性の樹脂モルタルからなる増厚層120が部分的に形成されている。
【0091】
これら各箇所の増厚層120は、上記実施形態の増厚層20と同様、5〜35mmの厚さ(例えば20mm程度の厚さ)で形成されている。その際、この増厚層120を構成する高弾性の樹脂モルタルの組成は、上記実施形態の増厚層20の場合と同様である。
【0092】
図8は、本変形例による上面増厚施工の工程を詳細に示す、図7の要部詳細図であって、同図(a)は、図7(a)のVIIIa部詳細図であり、同図(c)は、図7(b)のVIIIc部詳細図である。
【0093】
この上面増厚施工は、次のような工程で行われるようになっている。
【0094】
まず、同図(a)に示すように、上面14aの複数箇所に窪み14a1が生じたコンクリート床版14に対して、同図(b)に示すように、その上面14aを、窪み14a1が生じている複数箇所の各々において、窪み14a1の外周縁よりもやや広い範囲にわたって、窪み14a1の深さと略同じ深さまで水平に削った後、その底面14a2を目粗しする。この目粗しは、ウォータージェット等により行う。その際、コンクリート床版14の構築中にその上面14aに生じ得る窪み14a1は、さほど深いものとはならないので、コンクリート床版14の上面14aの削り量は、その削り量が最大となる底面14a2の外周縁においても、深さ5〜35mm程度に設定することが可能である。
【0095】
その後、同図(c)に示すように、複数箇所において水平に削られて目粗しされたコンクリート床版14の底面14a2に、高弾性の樹脂モルタルからなる増厚層120をそれぞれ形成する。その際、この増厚層120の形成は、周囲のコンクリート床版14の上面14aと面一となる厚さ(すなわち5〜35mm程度)となるように行う。また、この増厚層120の形成は、目粗しされたコンクリート床版14の底面14a2にプライマーを塗布した後、コテ仕上げまたは転圧等によって高弾性の樹脂モルタルを一定厚で形成することにより行う。
【0096】
本変形例に係る床版上面増厚工法を採用した場合においても、上記実施形態の場合と同様、コンクリート床版14としての必要な強度を確保した上で、増厚層120の最小施工厚を薄くすることができ、かつ凍結防止剤散布地域でも腐食の懸念をなくすことができる。
【0097】
しかも本変形例のように、コンクリート床版14の上面14aにおける一部領域にのみ増厚層120を形成して、上面増厚施工の適用範囲を小さくすることにより、コンクリート床版14がプレストレストコンクリートで構成されている場合においては,このコンクリート床版14に導入されたプレストレスへの影響を最小限に抑えることができる。
【0098】
なお、上記変形例においては、上面増厚施工の対象が架設作業完了直前の道路橋110Aである場合について説明したが、既設の道路橋に対して、そのコンクリート床版の上面における一部領域にのみ増厚層を形成することも可能である。そして、このようにした場合には、上面増厚施工に伴って必要となる交通規制を最小限に抑えることができる。
【0099】
上記実施形態および変形例においては、コンクリート床版14の上面14aが、2車線分の幅員を有している場合について説明したが、これ以外の場合においても、上記実施形態あるいは変形例と同様の上面増厚施工を行うことにより、これらと同様の作用効果を得ることができる。
【0100】
また、上記実施形態および変形例においては、上面増厚施工の対象となる道路橋10A、110Aが、複数の主桁12の上端面にコンクリート床版14が配置された上部構造を有しているものとして説明したが、これ以外の上部構造を有している場合にも適用可能である。
【0101】
なお、上記実施形態および変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0102】
10A、10B、110A、110B 道路橋
12 主桁
14、54 コンクリート床版
14a、54a 上面
14a1 窪み
14a2 底面
14b 地覆
16、26、56 アスファルト舗装
20、120 増厚層
50 試験体
50A 試験体片
52 PC鋼棒
58 防水工
60 試験装置
62、64 鋼材
66 上部レール
70 輪荷重走行試験機
72 ゴムタイヤ
A、A(10)、A(30)、B、B(10)、B(30)、C、C(10)、C(30) 補強材
D 健全床版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路橋のコンクリート床版を補強するために、該コンクリート床版の上面を増厚する床版上面増厚工法において、
上記コンクリート床版の上面を目粗しした後、この目粗しされたコンクリート床版の上面に、該コンクリート床版を構成しているコンクリートのヤング係数に対して1/3以上の値のヤング係数を有する高弾性の樹脂モルタルで増厚層を形成する、ことを特徴とする床版上面増厚工法。
【請求項2】
上記増厚層を、5〜35mmの厚さで形成する、ことを特徴とする請求項1記載の床版上面増厚工法。
【請求項3】
上記増厚層を、上記コンクリート床版の上面における一部領域にのみ形成する、ことを特徴とする請求項1または2記載の床版上面増厚工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−149244(P2011−149244A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12897(P2010−12897)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【Fターム(参考)】