説明

床用伸縮継手装置

【課題】 移動隙間の発生を防いで施工性を向上して施工コストを低減するとともに、軽量化による取り付け時の作業性の向上を図り、幅方向中央部の隆起を防止して、円滑に通行することができる床用伸縮継手装置を提供する。
【解決手段】 各対向部70,71に固定される一対のレール72,73に、複数の回動支持手段76の各長手方向両端部を移動自在に支持し、各回動支持手段76の上部に複数の第1支持部材78を近接および離反する方向に間隔をあけて相互に平行に配置してピン結合し、相互に平行に設ける。各第1支持部材78は第2支持部材79を長手方向に移動自在に支持し、第2支持部材79にカバー体81を固定する。各カバー体81は、隣接する第2支持部材79の上方を超えて前記幅方向一方側に延び、相互に隣接する2つのカバー体81は部分的に重なった状態で各第2支持部材79間の隙間を覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の隣接する2つの躯体間の空隙を塞いだ状態で地震などによる各躯体の相対的変位を許容することができる床用伸縮継手装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、典型的な従来の技術の床用伸縮継手装置1を示す鉛直断面図であり、この従来の技術は特許文献1に示されている。この従来の技術の床用伸縮継手装置1は、空隙である目地部2を介して建てられた左右の建物3a,3bの目地部2側の床躯体4a,4bに取り付けられる一対のレール5a,5bと、この一対のレール5a,5bに両端部がローラ6a,6bによってスライド移動可能に支持される複数の支持バー7と、各支持バー7に所定間隔でスライド移動可能に設けられ、中央部よりも両端部側に配置されるにつれて高さ寸法hが順次小寸法となる複数の目地プレート支持バー8と、各目地プレート支持バー8を所定間隔で伸縮スライド移動させるように各目地プレート支持バー8にピン9によって枢支され、両端部が前記左右の建物3a,3bの目地部2側の床躯体4a,4bにピン10a,10bによって枢支された複数のパンタグラフ状の伸縮リンク機構11と、各目地プレート支持バー8にビス12によって固定される複数の目地プレート13とを有する。
【0003】
このような床用伸縮継手装置1において、前記各目地プレート支持バー8には、高さ方向の中間部に、伸縮リンク機構11が挿通される挿通孔14が形成される。この挿通孔14に伸縮リンク機構11が挿通されることによって、各目地プレート支持バー8は各支持バー7の上面によって直接支持され、各建物3a,3bが地震などによって相互に近接および離反する方向に相対的変位を生じたとき、各支持バー7が各目地プレート支持バー8の上面を摺動して、各目地プレート支持バー8の回動を許容し、かつ伸縮リンク機構11によって各目地プレート支持バー8が長手方向に変位してしまうことを阻止して、各建物3a,3bの近接および離反する方向の相対的変位を許容して、目地部2を塞いだ状態に維持することができるように構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−96926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の従来の技術では、各目地プレート支持バー8には、各伸縮リンク機構11が挿通される挿通孔14が形成されるので、曲げ荷重などに対して充分な強度を確保し、たわみに対しても所定のたわみ量以下にするために、各目地プレート支持バー8は前記挿通孔14が形成される部位で所要の断面が確保されなければならない。そのため、各目地プレート支持バー8は、フラットバーなどのような大きな断面を有する部材を用いなければならず、各目地プレート支持バー8は大きな重量を有する。
【0006】
このように重量の大きい複数の目地プレート支持バー8の挿通孔14に伸縮リンク機構11を挿通する構成では、床用伸縮継手装置1を各床躯体4a,4bに取り付けるにあたって、各目地プレート支持バー8の挿通孔14に各伸縮リンク機構11を挿通し、各目地プレート支持バー8および各伸縮リンク機構11が組み立てられた状態で、各レール5a,5b間にわたって装着された支持バー7上に作業者が手作業によって乗載する必要がある。したがって、作業者は重量の大きい各目地プレート支持バー8および各伸縮リンク機構11を各支持バー7上に移動させて取り付け作業を行なわなければならず、取り付け作業に多くの労力を要するという問題がある。
【0007】
また、各目地プレート支持バー8は、各目地プレート13の相互の干渉を避けるために、中央部よりも両端部側に配置されるにつれて高さ寸法hが順次小寸法とされるので、各目地プレート支持バー8に各目地プレート13が取り付けられた状態では、各床躯体4a,4b間にわたる幅方向中央部が前記幅方向両端部よりも上方に隆起し、通行の妨げになるという問題がある。
【0008】
さらに、前記従来の技術の床用伸縮継手装置1において、図8の平面図に示されるように、各床躯体4a,4bの一方が目地部2の延在方向(図7の紙面に垂直方向)に相対変位を生じたとき、伸縮リンク機構11が角変位するため、各目地プレート支持バー8および各目地プレート13も追従して長手方向に移動し、床用伸縮継手装置1の両側には斜めの移動隙間G1,G2が生じる。このため、目地部2の両側に床用伸縮継手装置1の前記長手方向の変位を制限する壁面が存在する場合には、移動隙間G1,G2を塞ぐための構成を設けるか、あるいは壁面に床用伸縮継手装置1の長手方向両端部の移動を許容することができる切欠きを設けなければならなくなり、多大な費用および施工上の手間を要するという問題がある。
【0009】
したがって本発明の目的は、移動隙間の発生を防いで施工性を向上して施工コストを低減するとともに、軽量化による取り付け時の作業性の向上を図り、幅方向中央部の隆起をなくして平坦な通行路面を実現し、円滑に通行することができるようにした床用伸縮継手装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、建物の隣接する2つの躯体の相互に対向する各対向部に固定され、各対向部の延在方向に沿って平行に延びる一対のレールと、
各レールに長手方向両端部が移動自在に支持されるとともに、各対向部の近接および離反する方向の相対的変位に追従して伸縮自在な複数の回動支持手段と、
各回動支持手段の上部に、前記近接および離反する方向に間隔をあけて相互に平行に配置され、各回動支持手段にピン結合される複数の第1支持部材と、
各第1支持部材に、その長手方向に沿って移動自在に支持される複数の第2支持部材と、
各第2支持部材に固定され、前記近接および離反する方向に平行な幅方向一方側に隣接する第2支持部材の上方を超えて前記幅方向一方側に延びるカバー部を有する複数のカバー体とを含むことを特徴とする床用伸縮継手装置である。
【0011】
本発明に従えば、建物の隣接する2つの躯体の相互に対向する各対向部には、各対向部の延在方向に沿って平行に延びる一対のレールが固定される。各レールには、複数の回動支持手段の各長手方向両端部が移動自在に支持される。各回動支持手段は、各躯体の各対向部の近接および離反する方向の相対的変位に追従して伸縮自在に構成される。
【0012】
各回動支持手段の上部には、複数の第1支持部材が前記近接および離反する方向に間隔をあけて相互に平行に配置される。これらの第1支持部材は、各回動支持手段にピン結合される。したがって各第1支持部材は、各回動支持手段に対して各ピンの軸線まわりに回動自在であり、各第1支持部材は、各対向部の前記近接および離反する方向の伸縮変位に伴う各回動支持手段の回動動作にかかわらず、相互に平行に保たれる。
【0013】
各第1支持部材は、複数の第2支持部材を、各第1支持部材の長手方向に沿って移動自在に支持する。各第2支持部材には、複数のカバー体が固定される。各カバー体は、前記近接および離反する方向に沿う幅方向一方側に隣接する第2支持部材の上方を超えて2つの第2支持部材間にわたって延び、相互に隣接する2つのカバー体は部分的に重なった状態で各第2支持部材間の隙間を覆う。
【0014】
このような構成によって、各対向部が相互に近接および離反する方向に変位すると、各回動支持手段は各レールに沿って回動し、各回動支持手段にピン結合される各第1支持部材は相互に平行な状態を維持しながら前記回動に応じて長手方向に変位する。この各第1支持部材の長手方向の変位は、各第2支持部材が各第1支持部材に長手方向に移動自在に支持されることによって許容され、各第2支持部材が各第1支持部材に追従して前記長手方向に移動してしまうことが防がれる。したがって各第2支持部材に固定されるカバー体は、前記長手方向に移動せず、通行者は安全にカバー体上を通行することができる。また、各第2支持部材が長手方向に移動しないことによって、各第2支持部材の長手方向両側に、各第2支持部材の前記長手方向への移動を許容するための切欠きまたは前記従来の技術の移動隙間を塞ぐための構成を設ける必要がなく、施工性の向上および低コスト化が図られる。
【0015】
このように各レールに両端部が移動自在に支持される複数の回動支持手段の上部に、複数の第1支持部材をピン結合し、各第1支持部材によって各第2支持部材を移動自在に支持し、各第2支持部材にカバー体を固定して、地震などによる各躯体間の近接および離反する方向の変位を、前記従来の技術のような移動隙間を発生させずに許容することができ、各第1支持部材間の干渉、各第2支持部材間の干渉および各カバー体間の干渉を生じることなしに、各カバー体によって平坦な通行路面を実現することができる。また、各複数の回動支持手段、第1支持部材および第2支持部材は、上下に積重された状態で配置されるので、前記従来の技術のように、他の部材を挿通させるための挿通孔が形成される部材に比べて、有効断面を確保するために部材の高さを大きくする必要がなく、最小限の断面で済み、挿通孔を除いた大きな断面を有する部材を用いる必要がなく、軽量化を図ることができる。
【0016】
しかも、前述のように、各複数の回動支持手段、第1支持部材および第2支持部材は、有効断面を確保するためにむやみに大きな断面の部材を用いる必要がないので、各躯体に固定されたレールに、回動支持手段に各第1支持部材と各第2支持部材とを取り付けて組み立てた状態で装着することが可能であり、現場での取り付け作業の容易化を図り、施工性を向上することができる。
【0017】
また本発明は、前記各第1支持部材と各第2支持部材との間には、第1支持部材および第2支持部材間の滑り摩擦を低減するための手段が介在されることを特徴とする。
【0018】
本発明に従えば、各第1支持部材と各第2支持部材との間に摩擦を低減する手段が介在されるので、地震などによって各躯体が相互に近接および離反する方向に急激に変位しても、各第2支持部材は各第1支持部材に対して長手方向に円滑に移動することができ、各第1支持部材および各第2支持部材間で互いの摩擦に起因して大きな力が作用して、変形および破壊の発生が防がれる。
【0019】
さらに本発明は、前記各回動支持手段は、長手方向両端部が各レールによって案内される中空の部材からなり、各回動支持手段の長手方向中央部にピン結合される前記第1支持部材には、第2支持部材が固定されていることを特徴とする。
【0020】
本発明に従えば、前記各回動支持手段は、長手方向両端部が各レールによって案内される中空の部材からなるので、断面積が小さくても高い断面性能を有し、軽量で大きな強度を得ることができる。また、このような部材によって実現される各回動支持手段の幅方向中央部には、第1支持部材がピン結合され、この第1支持部材には第2支持部材が固定される。これによって、各対向部が近接および離反する方向に変位しても、中央の第1支持部材および中央の第2支持部材を各躯体間の幅方向中央部に位置決めして、各第1および第2支持部材の前記近接および離反する方向の変位を、幅方向中央部に関して左右に分散して均等化し、各第1支持部材間の干渉および各第2支持部材間の干渉を防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、各回動支持手段の上部に各第1支持部材をピン結合し、各第1支持部材に各第2支持部材を長手方向に移動自在に設け、各第2支持部材にカバー体が固定されるので、各回動支持手段、各第1支持部材および各第2支持部材を、前記従来の技術のような挿通孔を有効断面から除外した大きな断面にする必要がなくなり、これによって各回動支持手段を軽量化し、取り付け時の作業性の向上を図ることができる。また、各カバー体は、隣接するカバー体の上に重なって設けられるので、各カバー体によって平坦な通行路面を形成し、前記近接および離反する方向の変位が生じても、各カバー体相互間で干渉することなしに相互の変位を許容し、幅方向中央部を隆起させずに平坦な通行路面を形成して、安全に通行することが可能となる。
【0022】
また本発明によれば、各第1支持部材と各第2支持部材との間の摩擦の低減によって、前記近接および離反する方向へ変位した際に、各第1支持部材および各第2支持部材間で相互に大きな摩擦力が作用して、変形および破壊が発生することが防がれる。
【0023】
さらに本発明によれば、各回動支持手段を中空の部材によって実現することによって、軽量で大きな強度が得られるようにし、幅方向中央部で回動支持手段にピン結合される第1支持部材に第2支持部材を固定することによって、地震などによって前記近接および離反する方向の変位が生じても、中央に配置される第1および第2支持部材を、各躯体間の幅方向中央部に位置決めして配置することができる。これによって、前記中央の第1および第2支持部材に関して幅方向両側に配置される残余の第1および第2支持部材の幅方向の変位量を左右に分散して均等化し、各第1および第2支持部材が各躯体の一方側へ偏って変位してしまうことを防止し、各第1支持部材間および各第2支持部材間の相互の干渉を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の一形態の床用伸縮継手装置20が設けられる建物21の一部の水平断面図である。なお、本実施の形態において、図1の紙面に垂直な方向を鉛直方向とし、紙面に平行な方向を水平方向とする。本実施の形態の床用伸縮継手装置20が設けられる建物21は、免震構造の建物であって、地盤上に構築された本体側躯体22と、本体側躯体22に図示しない免震装置を介して支持された建物本体と、建物本体から下方に突出し、本体側躯体22に外囲されるエレベータ側躯体23とを有する。このエレベータ側躯体23と本体側躯体22とは構造的に独立して構築されている。
【0025】
本体側躯体22は、エレベータ側躯体23の図1における左右両側に配置される2つの壁24,25と、エレベータ側躯体23の前方に配置される柱26とを有する。各壁24,25の相互に対向する壁面27,28は、平行である。また、エレベータ側躯体23は、図1の紙面に垂直な鉛直方向に昇降する2基のケージ30,31を収容するエレベータピット32a,32bが形成されるエレベータ室44を有し、このエレベータ室44は、前壁35、背後壁36および側壁37,38によって外囲される。一方の側壁38と本体側躯体22の一方の壁25との間には、もう1つの側壁39が設けられ、この側壁39と前記一方の側壁38との間には、階段33が設けられる階段設置空間34が形成される。前記エレベータ側躯体23は、前壁35、背後壁36、各側壁37,38,39および床構造体54を含む一体構造とされる。
【0026】
前壁35と前記柱26とは、図1の上下方向である前後方向に距離L1をあけて離間し、空隙40が介在する。この空隙40を覆うように、本実施の形態の床用伸縮継手装置20が各壁24,25間にわたって設置される。前記エレベータピット32a,32bは、前壁35、背後壁36および各側壁37,38の内側に形成される。前壁35には、各階でエレベータに利用者が乗り降りするための開口部41,42と、各階で階段33に利用者が出入りするための開口部43とが形成される。エレベータ側の各開口部41,42には、エレベータの各ケージ30,31の扉45,46に連動して開閉する扉47,48が設けられる。また、階段側の開口部43には扉49が設けられる。
【0027】
エレベータ側躯体23の側壁37と本体側躯体22の一方の壁24とは、距離L2をあけて離間し、目地空間52aが介在する。この目地空間52aを塞ぎかつ各一方の壁24および側壁37間の近接および離反する方向(図1では左右方向)の変位を許容するために、第1の壁用伸縮継手装置51が設けられる。また、エレベータ側躯体23の側壁39と本体側躯体22の他方の壁25とは、距離L3をあけて離間し、目地空間52bが介在する。この目地空間52bを塞ぎかつ他方の壁25および側壁39間の近接および離反する方向(図1では左右方向)の変位を許容するために、第2の壁用伸縮継手装置53が設けられる。
【0028】
第1の壁用伸縮継手装置51は、壁24および側壁37にそれぞれ固定される縁材56,57と、一方の縁材56にヒンジ58によって図1の紙面に垂直な鉛直軸線まわりの回動自在に連結されるカバープレート59と、各縁材56,57にヒンジ60,61によって鉛直軸線まわりにそれぞれ回動自在に連結され、パンタグラフ状リンクを構成する伸縮支持体62と、伸縮支持体62よりも図1の下方である内方で取付け金具63,64に両端部が係止され、可撓性および弾発性を有する耐火材料からなる耐火帯65とを含む。
【0029】
前記第2の壁用伸縮継手装置53もまた、前記第1の壁用伸縮継手装置51と同様に構成され、対応する部分には同一の参照符を付し、重複を避けて説明は省略する。
【0030】
前壁35は、左右方向(図1では上下方向)に前記柱26と同様な距離L1をあけて本体側躯体22の床を構成する床構造体50から離間し、前記空隙40が介在される。この空隙40は、前壁35と床構造体50との間で、かつ本体側躯体22のエレベータ側躯体23に関して図1における左右両側に配置される各壁24,25の各壁面27,28間にわたって存在し、前述のように空隙40を塞ぎかつ床構造体50と前壁35との間および柱26と前壁35との間の近接および離反する方向の相対的変位を吸収するために、本実施の形態の床用伸縮継手装置20が設けられる。
【0031】
図2は、図1の切断面線II−IIから見た床用伸縮継手装置20の拡大断面図である。前述の床用伸縮継手装置20は、建物の隣接する2つの躯体である前壁35および床構造体50の相互に対向する各対向部70,71に固定され、前壁35および床構造体50の延在方向(図2の紙面に垂直な方向)に沿って平行に延びる一対のレール72,73と、各レール72,73に長手方向両端部74,75が移動自在に支持されるとともに、前壁35および床構造体50の各対向部70,71の近接および離反する方向の相対的変位に追従して伸縮自在な複数の回動支持手段76と、各回動支持手段76の上部に、前記近接および離反する方向に間隔をあけて相互に平行に配置され、各回動支持手段76にピン77によってピン結合される複数の第1支持部材78と、各第1支持部材78に、その長手方向に沿って移動自在に支持される複数の第2支持部材79と、各第2支持部材79に固定され、前記近接および離反する方向に平行な幅方向一方側に隣接する第2支持部材79の上方を超えて前記幅方向一方側に延びるカバー部80を有する複数のカバー体81と、前記各第1支持部材78と各第2支持部材79との間に介在され、第1支持部材78および第2支持部材79間の滑り摩擦を低減するための手段である案内ローラ82とを含む。
【0032】
図3は、前壁35の対向部70に固定される一方のレール72付近の拡大断面図である。前記前壁35の対向部70に固定される一方のレール72は、断面が略L字状の鋼材からなり、対向部70の空隙40に臨む鉛直な壁面88に複数のアンカー体83によって固定される基部84と、基部84の下端部に直角に屈曲して連なる底部85と、底部85の最も本体側躯体22の床構造体86寄りに突出した部分から上方に向かって直角に屈曲して立ち上がる立ち上がり部87とを有する。このようなレール72は、図3の紙面に垂直な水平方向に対向部70の壁面88に沿って延在する。
【0033】
前記回動支持手段76は、中空部材である角型パイプからなる回動部材89によって実現される。この回動部材89の長手方向一端部の下面には、摺動部材93がピンボルト90、座金91,94およびナット92によって、ピンボルト90の軸線まわりに回動自在に連結される。摺動部材93は、断面が略C字状であって、レール72の底部85によって支持される下フランジ95と、下方の座金94およびナット92によって挟着される上フランジ96と、上フランジ96および下フランジ95に直角に連なり、レール72の立ち上がり部87によって案内されるウエブ98とを有する。
【0034】
前記一方のレール72において、基部84の上部には、前記回動部材89の長手方向一端部に第1支持部材78を直接取り付けることができないため、補助支持部材100が溶接によって固定される。補助支持部材100は、断面が略L字状でありかつ図3の紙面に垂直な水平方向に長尺な鋼材からなり、一方のレール72の基部84に平行に配置され、基部84に溶接して固定されるウエブ101と、ウエブ101の下端部から直角に屈曲して連なる下フランジ102と、ウエブ101の上端部から前壁95側に直角に屈曲して連なる上フランジ103とを有する。
【0035】
下フランジ102には、断面が略U字状でありかつ図3の紙面に垂直な水平方向に長尺な鋼材からなるローラガイド104がビス103によって固定され、案内ローラ82を案内する。
【0036】
前記案内ローラ82は、球状の第1転動体105と、第1転動体105の回転中心を通る鉛直軸線を有する直円筒状の第2転動体106と、第1転動体105および第2転動体106を回転自在に支持する軸受ホルダ107とを有する。この軸受ホルダ107は、第2支持部材79の下部に固定される。
【0037】
第2支持部材79は、断面が略C字状でありかつ図3の紙面に垂直な水平方向に長尺の鋼材からなり、上フランジ110と、下フランジ111と、上フランジ110および下フランジ111を一側部で連結するウエブ112とを有する。上フランジ110には、ビス113によってカバー体81が固定される。
【0038】
カバー体81は、断面が略L字状に形成され、近接および離反する方向に平行な幅方向一方側に隣接する第2支持部材79の上方を超えて前記幅方向一方側に延び、相互に隣接する2つのカバー体81は部分的に重なった状態で各第2支持部材79間の隙間を覆う。
【0039】
前記各回動支持手段76には、図2に示されるように、幅方向中央部に配置されるピン77に連結される前記第1支持部材78と第2支持部材79とはボルト113およびナット114によって相互に固定されている。
【0040】
図4は、本体側の床構造体86の対向部71に固定される他方のレール73付近の拡大断面図である。前記本体側の床構造体50の対向部71に固定される他方のレール73は、断面が略L字状の鋼材からなり、対向部71の空隙40に臨む鉛直な壁面130に複数のアンカー体131によって固定される基部132と、基部132の下端部に直角に屈曲して連なる底部133と、底部133の最も前壁35の対向部70寄りに突出した部分から上方に向かって直角に屈曲して立ち上がる立ち上がり部134とを有する。このような他方のレール73は、図3の紙面に垂直な水平方向に対向部71の壁面130に沿って前記一方のレール72と平行に延在する。
【0041】
前記回動部材89の長手方向他端部の下面には、摺動部材136がピンボルト137、座金138,139およびナット140によって、ピンボルト137の軸線まわりに回動自在に連結される。摺動部材136は、断面が略C字状であって、レール73の底部133によって支持される下フランジ141と、下方の座金139およびナット140によって挟着される上フランジ142と、上フランジ142および下フランジ141に直角に連なり、レール73の立ち上がり部134によって案内されるウエブ143とを有する。
【0042】
前記他方のレール73において、基部132の上部には、前記回動部材89の長手方向他端部に第1支持部材78を直接取り付けることができないため、補助支持部材145が溶接によって固定される。補助支持部材145は、断面が略L字状でありかつ図4の紙面に垂直な水平方向に長尺な鋼材からなり、他方のレール73の基部132に平行に配置され、基部132に溶接して固定される一方のフレーム146と、一方のフレーム146から前壁35側の対向部70寄りに間隔をあけて平行に配置され、断面が略L字状でありかつ図4の紙面に垂直な水平方向に長尺な鋼材からなる他方のフレーム147と、各フレームに図4の紙面に垂直な長手方向に間隔をあけて溶接して固定され、各フレーム146,147を連結する複数のリブ148とを有する。
【0043】
このような補助支持部材145には、断面が大略的に逆U字状の化粧カバー149が上方から装着される。化粧カバー149は、ビス150,151によって各フレーム146,147にそれぞれ固定される。この化粧カバー149上には、カバー体81のカバー部80が変位可能に支持される。
【0044】
図5は、図1の切断面線V−Vから見た拡大断面図である。一方の壁24の壁面27には、アンカー体160によってブラケット161が固定され、このブラケット161にはボルト162およびナット163によって側部案内レール164が固定される。この側部案内レール164には、第2支持部材79の長手方向一端部が案内ローラ165によって移動自在に支持される。案内ローラ165は、前述の案内ローラ82と同様な構成を有する。第2支持部材79の長手方向他端部もまた、同様な構成によって他方の壁25の壁面28に移動自在に支持されている。このように、第2支持部材79の長手方向両端部を側部案内レール164によって支持することによって、各第2支持部材79が各第1支持部材78の長手方向に変位に追従して移動してしまうことを阻止し、各対向部70,71の近接および離反する方向に変位を許容することができる。
【0045】
本実施の形態によれば、各レール72,73間にわたって設けられる複数の回動支持手段76の上部に複数の第1支持部材78をピン結合し、各第1支持部材78に案内ローラ82によって各第2支持部材79を移動自在に支持し、各第2支持部材79にカバー体81を固定して、地震などによる各対向部70,71間の近接および離反する方向の変位を許容することができ、各第1支持部材78間の干渉、各第2支持部材79間の干渉および各カバー体81間の干渉を生じることなしに、各カバー体81によって平坦な通行路面を実現することができる。しかも、前記従来の技術に関連して述べたように、各対向部70,71が近接および離反する方向に相対的変位を生じたとき、床用伸縮継手装置20の長手方向の両側に移動隙間を発生しないので、この移動隙間を塞ぐための構成あるいは床用伸縮継手装置20の長手方向両端部の移動を許容するための切欠きなどを壁面に設ける必要がなく、施工が容易であり、低コストで、各壁面27,28および各床構造体50,54によって4周が囲まれ、かつ構造的に分離された領域に床用伸縮継手装置20を設けることができる。
【0046】
また、各複数の回動支持手段76、第1支持部材78および第2支持部材79は、上下に積重された状態で配置されるので、前記従来の技術のように、他の部材を挿通させるための挿通孔が形成される部材に比べて、有効断面を確保するために部材の高さを大きくする必要がなく、最小限の断面で済み、挿通孔を除いた大きな断面を有する部材を用いる必要がなく、軽量化を図ることができる。
【0047】
さらに、前述のように、各複数の回動支持手段76、第1支持部材78および第2支持部材79は、有効断面を確保するためにむやみに大きな断面の部材を用いる必要がなく、薄い鋼板などの曲げ加工材などによって実現することができるので、各対向部70,71に固定されたレール72,73に、回動支持手段76に各第1支持部材78と各第2支持部材79とを取り付けて組み立てた状態で装着することが可能であり、現場での取り付け作業の容易化を図ることができる。
【0048】
さらに、各第1支持部材78と各第2支持部材79との間に摩擦を低減する手段である案内ローラ82が介在されるので、地震などによって各躯体が相互に近接および離反する方向に急激に変位しても、各第2支持部材79は各第1支持部材78に対して長手方向に円滑に移動することができ、各第1支持部材78および各第2支持部材79間で互いの滑り摩擦に起因して大きな力が作用することがなくなり、各第1支持部材78および各第2支持部材79の変形および破壊が防がれる。
【0049】
さらに、前記各回動支持手段76は、中空の部材からなり、幅方向中央部に配置されるピン77に連結される前記第1支持部材78と第2支持部材79とが固定されることによって、各対向部70,71が近接および離反する方向に変位しても、中央の第1支持部材78および中央の第2支持部材79を各対向部70,71間の幅方向中央部に位置決めして、各第1支持部材78および各第2支持部材79の前記近接および離反する方向の変位を、幅方向中央部に関して左右に均等化し、各第1支持部材78間および各第2支持部材79間の衝突などの局部的な干渉の発生を防止することができる。
【0050】
図6は、本発明の実施の他の形態の床用伸縮継手装置220を示す鉛直断面図である。なお、前述の実施の形態と対応する部分には同一の参照符を付し、重複を避けて説明は省略する。本実施の形態の床用伸縮継手装置220は、前述の実施の形態の床用伸縮継手装置20の案内ローラ82に代えて、各第1支持部材78と各第2支持部材79との間に摩擦を低減する手段として、合成樹脂からなる滑りシート体221が介在される。この合成樹脂は、滑り性および耐磨耗性の高い、たとえばポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))によって実現される。
【0051】
また、本実施の形態の床用伸縮装置220では、各回動支持手段76の曲げ合成を高くするために、各回動部材89の一側部に溶接によって補強部材223が固定され、回動部材89と補強部材223とによって、各回動支持手段76を構成する。補強部材223は、断面が略L字状の鋼材からなり、回動部材89から下方に離してL字状屈曲部が配置され、回動部材89と一体化され、大きな断面2次モーメントまた断面係数を有し、簡単な構成で高い断面性能を実現している。
【0052】
このように補強部材223を回動部材89に固定することによって、回動部材89に前記従来の技術のような挿通孔を形成せずに、したがって回動部材89の有効断面を減少させずに、高い曲げ強度を有する回動支持手段76を実現することができる。このような補強部材223は、前述の実施の形態の床用伸縮継手装置20の回動部材89に同様に設けられてもよい。この場合も同様に、簡単な構成で、より大きな曲げ強度を有する回動支持手段76を実現することができる。
【0053】
このような本実施の形態においても、前述の実施の形態と同様に、各レール72,73間にわたって設けられる複数の回動支持手段76の上部に複数の第1支持部材78をピン結合し、各第1支持部材78に滑りシート体171によって各第2支持部材79を移動自在に支持し、各第2支持部材79にカバー体81を固定して、地震などによる各対向部70,71間の近接および離反する方向の変位を許容することができ、各第1支持部材78間の干渉、各第2支持部材79間の干渉および各カバー体81間の干渉を生じることなしに、各カバー体81によって平坦な通行路面を実現することができる。
【0054】
また、各複数の回動支持手段76、第1支持部材78および第2支持部材79は、上下に積重された状態で配置されるので、前記従来の技術のように、他の部材を挿通させるための挿通孔が形成される部材に比べて、有効断面を確保するために部材の高さを大きくする必要がなく、最小限の断面で済み、挿通孔を除いた大きな断面を有する部材を用いる必要がなく、軽量化を図ることができる。
【0055】
さらに、前述のように、各複数の回動支持手段76、第1支持部材78および第2支持部材79は、有効断面を確保するためにむやみに大きな断面の部材、たとえば中実断面の部材を用いる必要がなく、薄い鋼板などの曲げ加工材などによって実現することができる回動部材89および補強部材223によって格段に高い曲げ合成を達成することができるので、各対向部70,71に固定されたレール72,73に、回動支持手段76に各第1支持部材78と各第2支持部材79とを取り付けて組み立てた状態で装着することが可能であり、現場での取り付け作業の容易化を図ることができる。
【0056】
さらに、各第1支持部材78と各第2支持部材79との間に摩擦を低減する手段である案内ローラ82が介在されるので、地震などによって各躯体が相互に近接および離反する方向に急激に変位しても、各第2支持部材79は各第1支持部材78に対して長手方向に円滑に移動することができ、各第1支持部材78および各第2支持部材79間で互いの滑り摩擦に起因して大きな力が作用することがなくなり、各第1支持部材78および各第2支持部材79の変形および破壊が防がれる。
【0057】
さらに、前記各回動支持手段76は、中空の部材からなり、幅方向中央部に配置されるピン77に連結される前記第1支持部材78と第2支持部材79とが固定されることによって、各対向部70,71が近接および離反する方向に変位しても、中央の第1支持部材78および中央の第2支持部材79を各対向部70,71間の幅方向中央部に位置決めして、各第1支持部材78および各第2支持部材79の前記近接および離反する方向の変位を、幅方向中央部に関して左右に均等化し、各第1支持部材78間および各第2支持部材79間の衝突などの局部的な干渉の発生を防止することができる。 前述の実施の各形態では、1つの建物の本体側躯体とエレベータ側躯体との相互に対向する各対向部70,71間に設けられる床用伸縮継手装置20,220について述べたが、本発明に実施のさらに他の形態では、その他の躯体、隣接する2つの建物間に張架される渡り廊下の床構造体と各建物の床構造体との間に実施されてもよく、隣接する2つの建物の各床構造体間に実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の一形態の床用伸縮継手装置20が設けられる建物21の一部の水平断面図である。
【図2】図1の切断面線II−IIから見た床用伸縮継手装置20の拡大断面図である。
【図3】前壁35の対向部70に固定される一方のレール72付近の拡大断面図である。
【図4】本体側床構造体86の対向部71に固定される他方のレール73付近の拡大断面図である。
【図5】図1の切断面線V−Vから見た拡大断面図である。
【図6】本発明の実施の他の形態の床用伸縮継手装置220を示す鉛直断面図である。
【図7】典型的な従来の技術の床用伸縮継手装置1を示す鉛直断面図である。
【図8】従来の技術の床用伸縮継手装置1が長手方向に変位した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0059】
20,220 床用伸縮継手装置
27,28 壁面
35 前壁
50,54 床構造体
70,71 対向部
72,73 レール
76 回動支持手段
77 ピン
78 第1支持部材
79 第2支持部材
80 カバー部
81 カバー体
82 案内ローラ
223 補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の隣接する2つの躯体の相互に対向する各対向部に固定され、各対向部の延在方向に沿って平行に延びる一対のレールと、
各レールに長手方向両端部が移動自在に支持されるとともに、各対向部の近接および離反する方向の相対的変位に追従して伸縮自在な複数の回動支持手段と、
各回動支持手段の上部に、前記近接および離反する方向に間隔をあけて相互に平行に配置され、各回動支持手段にピン結合される複数の第1支持部材と、
各第1支持部材に、その長手方向に沿って移動自在に支持される複数の第2支持部材と、
各第2支持部材に固定され、前記近接および離反する方向に平行な幅方向一方側に隣接する第2支持部材の上方を超えて前記幅方向一方側に延びるカバー部を有する複数のカバー体とを含むことを特徴とする床用伸縮継手装置。
【請求項2】
前記各第1支持部材と各第2支持部材との間には、第1支持部材および第2支持部材間の滑り摩擦を低減するための手段が介在されることを特徴とする請求項1記載の床用伸縮継手装置。
【請求項3】
前記各回動支持手段は、長手方向両端部が各レールによって案内される中空の部材からなり、各回動支持手段の長手方向中央部にピン結合される前記第1支持部材には、第2支持部材が固定されていることを特徴とする請求項1または2記載の床用伸縮継手装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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