説明

座標入力パネルの製造方法

【目的】 座標入力パネルの製造方法において、熱処理によって耐磨耗性膜表面に発生する結晶性物質を除去し、低下した透明性の回復や失われた滑らかさを再生させることを目的とする。
【構成】 ガラス基材上に面抵抗体膜が形成されていて前記面抵抗体膜上に耐磨耗性膜が形成されている座標入力パネルであって、前記耐磨耗性膜表面を脂肪酸エステルによって処理されていることを特徴とする座標入力パネルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指または座標指示器によりタッチ位置を検出する座標入力パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は座標入力装置の一般的な例であり、指または導電物と座標入力パネルの導電膜が電気的に接触する構造となっている。
【0003】
図1の座標入力装置の製法は、まずガラス基材1の表面の塵や埃、手脂などを水や有機溶剤などで洗浄したあと、ガラスのアルカリ性分が流出しないようにシリカゾル液を用いてディップコート法でシリカを塗布し焼成してシリカ膜2を成膜する。次にシリカ膜2の上に導電性を設けるため化学気相蒸着法(chemical vapor deposition法:CVD法)で酸化錫やITO(酸化錫+インジウム酸化物)などを用いて面抵抗体膜3を成膜する。そして面抵抗体膜3の上に銀・カーボンペーストなどの導体ペーストを用いてシルク印刷法で抵抗性周囲電極4を印刷する。そしてさらにガラスを粉末状にしたペースト(ガラスペースト)をシルク印刷法で面抵抗体膜3と抵抗性周囲電極4の上に印刷する。
【0004】
ガラスペーストを印刷後、熱処理して粉末ガラスを溶融させる。すなわち面抵抗体膜3と抵抗性周囲電極4の表面で粉末ガラスを焼結させてガラス質の耐摩耗性膜5を成膜させ座標入力パネルを作る。
図2はこの製法で得られた座標入力パネルを横から見た断面図である。
図1、図2に開示していないが必要に応じて蛍光灯や日光などでガラス基材1の反射を防ぐために妨眩処理層などをガラス基材1から耐摩耗性膜5の途中に設けている場合もある。
【0005】
得られた座標入力パネルは、図1に示すように抵抗性周囲電極4から引き出し線6が引き出され、信号処理部7に接続されて座標を検出することが出来る。座標検出する手段として、ペン8などの座標指示器から信号を発信し、静電容量結合を介して面抵抗体3がペン8から発信された信号を受信する方法、または信号伝達が逆で面抵抗体3から信号を発信し、ペン8で受信する方法、あるいは面抵抗体膜3全体を電圧振動させて、指や伝導性物質などの座標指示器が接近または接触した点の位置を検出する方法がある。
【特許文献1】特願2006−182898
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
座標入力パネルの表面を形成しているガラス質の耐摩耗性膜は、ガラスが主成分であるがその中にはガラス溶融温度を低下させて低い温度で加工しやすいように微量の鉛酸化物を入れている。この鉛酸化物は熱によってガラス質の耐摩耗性膜上に出現して結晶化し、座標入力パネル表面を覆ってしまう。このため熱処理前と比べると透明性が低下して表示が見づらくなったりパネル表面の滑らかさが失われて指またはペンなどで擦ったときに引っかかってしまうという問題があった。図3は耐摩耗性膜表面上に付着した鉛酸化物を含む結晶性物質を撮影した電子顕微鏡写真であり、耐摩耗性膜表面に鉛酸化物を含む結晶が析出しているのがわかる。
【0007】
本発明における課題は、熱処理によって低下した座標入力パネルの透明性を回復させて表面の滑らかさを再生させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は座標入力パネルの耐摩耗性膜が脂肪酸もしくは脂肪酸エステルで処理されている座標入力パネルの製造方法を提案するものである。
【0009】
本出願人は熱処理によって透明性が低下し、表面の滑らかさが失われてしまった座標入力パネルに脂肪酸もしくは脂肪酸エステルを直接塗布させ放置後、脂肪酸もしくは脂肪酸エステルを取り除くと透明性が回復し、表面の滑らかさが再生するものである。
【作用】
【0010】
脂肪酸を用いる理由として脂肪酸の性質である酸によって耐摩耗性膜表面の鉛酸化物を溶かすことができるためである。塩酸や硫酸などの無機酸を用いると酸性が強く耐摩耗性膜の下にある面抵抗体膜や周囲電極まで溶かしてしまうため無機酸より弱酸の有機酸である脂肪酸を使用する。
また脂肪酸エステルを用いるのは、製造時の未反応の脂肪酸や脂肪酸エステルの一部に遊離している脂肪酸が脂肪酸エステル中に存在しており、この脂肪酸が耐摩耗性膜表面の鉛酸化物を溶かすためである。
【0011】
脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸など、脂肪酸エステルとしては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸セリル、ステアリン酸オクチル、などが上げられる。
【0012】

塗布後の脂肪酸あるいは脂肪酸エステルを取り除く方法としては、耐摩耗性膜表面が結晶性物質で耐摩耗性能以上に擦られて傷つかないよう柔らかい布や紙なで拭き取る。さらに脂肪酸や脂肪酸エステルはどちらもアルコールやアセトンなどの有機溶剤に溶けるので広い面など拭き取りが困難な場合は、布や紙に染み込ませて拭き取ることも可能である。また前記有機溶剤に座標入力パネルを直接浸して洗浄するなどして脂肪酸エステルを取り除いてもよい。
【効果】
【0013】
熱処理によって、ガラス基材上の耐摩耗性膜に析出した鉛酸化物を含む結晶性付着物を、脂肪酸あるいは脂肪酸エステルを塗布することによる化学反応により、鉛酸化物を容易に取り除くことが出来、熱処理前と同じ透明性のよい座標入力パネルを作ることができる。
さらに、脂肪酸と脂肪酸エステルはどちらも酸性が弱いので、酸化スズ膜や周囲電極を傷めることがない。
【実施例1】
【0014】
以下、実施例を図4を参照に説明する。
表面を洗浄した厚さ3ミリのガラス基材9上にディップコート法でシリカを塗布し、焼成してシリカ膜10を成膜させた後、その上に酸化錫を用いて面抵抗体膜11を成膜させた。そして面抵抗体膜11の上に銀ペーストを用いて抵抗性周囲電極12を印刷した。さらにガラスペーストを面抵抗体膜11と抵抗性周囲電極12の上に印刷した。ガラスペーストを印刷後、熱処理して粉末ガラスを溶融し、焼結させて耐摩耗性膜13を成膜させて座標入力パネルを得た。得られた座標入力パネルの耐摩耗性膜13表面にパルミチン酸を塗布し30分放置した後やわらかい布で拭き取った。
【0015】
透明性を確認する装置として、日本電色工業(株)製の濁度計(ヘーズメーター:型式NDH−300A)を用いてヘーズ値(濁度)を測定した。ガラス基材9にシリカ膜10と面抵抗体膜11と抵抗性周囲電極12を形成後、ガラスペーストを印刷して熱処理する前の座標入力パネルのヘーズ値は0.88、熱処理した直後のヘーズ値は5.13、前記熱処理した後パルミチン酸を塗布して拭き取った後の座標入力パネルのヘーズ値は0.95であった。この結果から熱処理によって透明性が低下した座標入力パネルは脂肪酸で処理させることによって熱処理前とほぼ同じ透明性に戻ることが確認できた。
【0016】
また得られた座標入力パネルのガラス質の耐摩耗性膜表面13を指で擦った感触は脂肪酸で処理していない座標入力パネルと比べると明らかに滑らかであった。図5は前記脂肪酸エステル処理した座標入力パネルの耐摩耗性膜13表面を撮影した電子顕微鏡写真であり、耐磨耗性膜13表面の結晶が取り除かれているのがわかる。
【実施例2】
【0017】
実施例1において、パルミチン酸を使用した代わりに、ステアリン酸メチルを使用したこと以外は実施例1と同様に行った結果、熱処理する前の座標入力パネルのヘーズ値は0.89、熱処理した直後のヘーズ値は5.15、前記熱処理した後ステアリン酸メチルを塗布して拭き取った後の座標入力パネルのヘーズ値は0.98であった。
耐摩耗性膜表面を指で擦った感触は脂肪酸エステルで処理していない座標入力パネルと比べると滑らかで実施例1と同じ結果であった。
【実施例3】
【0018】
実施例1において、パルミチン酸を塗布し30分放置した後やわらかい布で拭き取る代わりに、アルコールで洗浄してパルミチン酸を取り除いたこと以外は実施例1と同様に行った結果、熱処理する前の座標入力パネルのヘーズ値は0.89、熱処理した直後のヘーズ値は5.15、前記熱処理した後パルミチン酸を塗布して拭き取った後の座標入力パネルのヘーズ値は0.92であった。耐摩耗性膜表面を指で擦った感触は脂肪酸エステルで処理していない座標入力パネルと比べると滑らかで実施例1と同じ結果であった。
【実施例4】
【0019】
実施例2において、ステアリン酸メチルの除去方法として、やわらかい布で拭き取る代わりに、アルコールで洗浄してステアリン酸メチルを取り除いたこと以外は実施例1と同様に行った結果、熱処理する前の座標入力パネルのヘーズ値は0.89、熱処理した直後のヘーズ値は5.15、前記熱処理した後ステアリン酸メチルを塗布して拭き取った後の座標入力パネルのヘーズ値は0.94であった。耐摩耗性膜表面を指で擦った感触は脂肪酸エステルで処理していない座標入力パネルと比べると滑らかで実施例1と同じ結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一例の座標入力装置説明図
【図2】一例の座標入力パネル断面図
【図3】脂肪酸エステル塗布前の面抵抗体表面電子顕微鏡写真
【図4】脂肪酸エステル塗布後の面抵抗体表面電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0021】
1 ガラス基材
2 シリカ膜
3 面抵抗体膜
4 抵抗性周囲電極
5 耐磨耗性膜
6 引き出し線
7 信号処理部
8 座標指示器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に耐摩耗性膜が形成されているガラス基材からなる座標入力パネルの製造方法において、前記耐摩耗性膜表面を脂肪酸もしくは脂肪酸エステルによって処理することを特徴とする座標入力パネルの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−214113(P2008−214113A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50854(P2007−50854)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】