説明

廃プラスチックの処理方法

【課題】助燃剤の供給量を適正量とすることで、廃プラスチックから除去した脱塩素ガスを効率良く処理できる廃プラスチックの処理方法を提供する。
【解決手段】廃プラスチックを溶融炉1に供給し、溶融を行う溶融工程と、溶融された廃プラスチックが熱分解炉2に送り込まれ、塩素除去を行い、固形燃料を生成する熱分解工程と、除去された脱塩素ガスが燃焼炉3に送り込まれ、燃焼処理後に塩酸を生成する脱塩素ガス処理工程を備えた廃プラスチックの処理方法であって、脱塩素ガス処理工程で、燃焼炉3内に供給する助燃剤の供給量Yを、廃プラスチックの供給量Xに基づき、Y=αX+βという式から算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素系ポリマーを含有する廃プラスチックを溶融炉に供給し、その廃プラスチックを溶融する溶融工程と、溶融炉で溶融された廃プラスチックが熱分解炉に送り込まれ、その廃プラスチックから塩素除去を行い、固形燃料を生成する熱分解工程と、熱分解炉で除去された脱塩素ガスが燃焼炉に送り込まれ、燃焼炉内でその脱塩素ガスを燃焼処理し、その後に塩酸を生成する脱塩素ガス処理工程を備えた廃プラスチックの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製品寿命を終えた多くの廃プラスチックは、産業廃棄物として埋め立てや焼却により処分されていたが、最終処分場確保の問題、地中へ有害物質が浸透することがあるという問題、燃焼時にダイオキシン等の有毒ガスが発生することがあるという問題等、多々の問題を抱えており、また、資源の有効利用という観点もあって、近年は、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクル、或いはサーマルリサイクルへの適用が注目されつつあり、実際にその適用が年々増加している。
【0003】
その中で、代表的な廃プラスチックの再利用法としては、廃プラスチックを固形燃料として再利用するという再利用法がある。しかしながら、廃プラスチック中に、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの塩素系ポリ−マーが含まれていると、固形燃料を製造する際の燃焼時に塩化水素ガスが発生するため、その塩化水素ガスを起因とする燃焼炉の腐食や、熱・電気エネルギーの回収率低下などといった問題が発生することがある。
【0004】
このように、廃プラスチックから固形燃料を製造する際等には、燃焼時に廃プラスチックから塩化水素ガスが発生するという問題があるため、廃プラスチックを処理する際に、廃プラスチックから塩素を除去しようという提案がなされており、その提案は、例えば、特許文献1や特許文献2として開示されている。
【0005】
これら特許文献1や特許文献2に記載の塩素の除去方法は、廃プラスチックを溶融炉で溶融後、熱分解炉で脱塩素処理を行い、更に、脱塩素処理後の溶融プラスチックを冷却後に粉砕しようという提案である。
【0006】
これらの提案を実施することにより、廃プラスチック中に含まれている塩素や水分を事前に除去することは可能であるとは考えられるが、除去後の脱塩素ガスの処理については、特許文献1や特許文献2には、塩化水素処理装置や排ガス処理装置で処理するとは記載されているものの、具体的に脱塩素ガスを燃焼処理する際に、助燃剤等をどのように加えて処理するかについては言及されておらず、また、特にその詳細検討はされていない。
【0007】
脱塩素ガスは、廃プラスチック中から気化した塩素ガスのほか、有機系ガスを含有するガスであるため、適切な燃焼処理を行う必要がある。しかしながら、実際の現場では、脱塩素ガスに、適宜容量の助燃剤や空気を加えて混合した後に、燃焼炉内で燃焼させて処理しているのが現状である。
【0008】
助燃剤として使用されるのは、COG(コークスオーブンガス)や天然ガス等の気体燃料や、液体燃料であるが、これら助燃剤と空気を、脱塩素ガスに混合する際の定量的な制御はなされていない。例えば、燃焼炉内の温度が、例えば900℃〜1000℃になるように、それまでの運転実績や担当者の経験をもとに手動によって、助燃剤等の供給量を設定、調整しているのが現状であり、誤って過剰な量の助燃剤を供給してしまう場合や、逆に助燃剤の供給量が不足して燃焼炉内での燃焼が不十分になる場合がしばしばあり、非効率な運転を行っているというのが実際の現場での実情である。
【0009】
【特許文献1】特開平11−50072号公報
【特許文献2】特開2006−63346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の実情を鑑みてなされたもので、助燃剤の供給量を適正量とすることで、廃プラスチックから除去した脱塩素ガスを効率良く処理できる廃プラスチックの処理方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、塩素系ポリマーを含有する廃プラスチックを溶融炉に供給し、前記廃プラスチックを溶融する溶融工程と、前記溶融炉で溶融された廃プラスチックが熱分解炉に送り込まれ、前記廃プラスチックから塩素除去を行い、固形燃料を生成する熱分解工程と、前記熱分解炉で除去された脱塩素ガスが燃焼炉に送り込まれ、その脱塩素ガスを燃焼処理し、その後に塩酸を生成する脱塩素ガス処理工程を備えた廃プラスチックの処理方法であって、前記脱塩素ガス処理工程で、前記脱塩素ガスと共に前記燃焼炉内に供給する助燃剤の供給量Yを、前記溶融炉に供給する前記廃プラスチックの供給量Xに基づき、下記式から算出することを特徴とする廃プラスチックの処理方法である。
Y=αX+β
上式でαとβは定数である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の廃プラスチックの処理方法によると、廃プラスチックの供給量に基づき、助燃剤の供給量を適正量とすることで、廃プラスチックから除去した脱塩素ガスを、燃料の過不足を極力なくして効率良く処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0014】
図1に本発明の廃プラスチックの処理方法の一実施形態を示す。図1において、1は、水分および塩素系ポリマーを含有する廃プラスチックが、廃プラスチック供給部4から供給され、その内部に供給した廃プラスチックを150℃〜190℃に加熱することで、廃プラスチックが溶融されると共に水分が水蒸気として除去される溶融炉であり、溶融工程で用いられる。2は、溶融炉1で溶融された廃プラスチックが送り込まれ、その廃プラスチックを更に250℃〜390℃に加熱することで、廃プラスチックから塩素除去が行われる熱分解炉であり、熱分解工程で用いられる。3は、熱分解炉2で除去された脱塩素ガスを燃焼処理する燃焼炉であり、脱塩素ガス処理工程で用いられる。
【0015】
本発明では、水分および塩素系ポリマーを含有する廃プラスチックは、まず、溶融工程の溶融炉1で、加熱されて溶融される。溶融炉1は、廃プラスチック供給部4から最初に廃プラスチックが供給される炉である。溶融炉1の中には螺旋状になった混錬機1aが設けられており、外部に設けられたモーター1bが駆動することで、溶融炉1の中に装入された廃プラスチックが、溶融炉1の中を上流側から下流側(図1の左側から右側)に向かい移動する。溶融炉1に供給された廃プラスチックは、混錬機1aにより混錬されて移動すると同時に加熱溶融されて溶融炉1の出口側、すなわち下流側部に達した時点で150℃〜190℃に加熱される。
【0016】
このように、廃プラスチックは溶融炉1内で150℃〜190℃に加熱されるので、廃プラスチック中に、沸点がこの加熱温度より低いか或いは揮発性が高いケイ素化合物等の物質が含有されている場合は、溶融炉1内で気化したケイ素化合物等がガス放出ライン5から除去される。前記したように、溶融炉1の下流側部に達した溶融した廃プラスチックの温度は、150℃〜190℃である。その温度が150℃未満であれば、廃プラスチックの溶融が不十分となる。一方、その温度が190℃を超えると、溶融炉1中で大量の塩素ガスが発生する状況となってしまう。
【0017】
尚、塩素系ポリマーとは、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどのことを示す。また、ケイ素化合物とは、シリコーンオイル、シロキサン類などのことを示す。
【0018】
ガス放出ライン5は、溶融炉1の下流側部の上面から分岐しており、このガス放出ライン5からは、溶融した廃プラスチックから発生した水蒸気等のガスが放出除去されるが、このガス放出ライン5の分岐部には、図2に示すように、スリット状や細孔状の通気孔が形成された仕切り蓋7が設けられていることが望ましい。分岐部に通気孔が形成された仕切り蓋7を設けることで、気体である気化した水蒸気等はガス放出ライン5側に流れ込むが、溶融した廃プラスチックは加圧状態で流動しているといえどもガス放出ライン5側に流れ込むことを阻止される。
【0019】
尚、溶融炉1内で、廃プラスチックを溶融させる際に気化したケイ素化合物等からなるガスを、水蒸気とは別に外部に放出するために、ガス放出ライン5とは別に溶融炉1から第2ガス放出ライン(図示しない)を分岐することもできるが、その場合、この第2ガス放出ラインは、ガス放出ライン5よりも下流側から分岐させ、水蒸気より高温で気化したケイ素化合物等を除去することが望ましい。
【0020】
溶融炉1と次の熱分解工程の熱分解炉2は、管状の連通部6で連通されており、溶融した廃プラスチックは、溶融炉1からこの連通部6を通って熱分解炉2に送り込まれる。
【0021】
熱分解工程の熱分解炉2は、先の溶融工程で溶融された廃プラスチックが送り込まれ、更に高温に加熱することで、廃プラスチックから塩素除去を行う炉であり、脱塩素機ということもできる。溶融炉1と同様、熱分解炉2の中には螺旋状になった混錬機2aが設けられており、外部に設けられたモーター2bにより駆動する。熱分解炉2に送り込まれた廃プラスチックは、混錬機2aにより混錬されて、熱分解炉2の中を上流側から下流側に移動すると同時に更に加熱され、熱分解炉2の出口側、すなわち下流側部に達した時点で250℃〜390℃となる。
【0022】
前記したように、熱分解炉2の下流側部に達した溶融した廃プラスチックの温度は、250℃〜390℃である。その温度が250℃未満であれば、塩素系ポリマーを発生源とする脱塩素ガスの気化が不十分となる。一方、390℃超であれば、溶融した廃プラスチック4の熱分解が開始すると共に、塩素の離脱速度を超えて加熱することによるエネルギーのロスを招く。
【0023】
熱分解炉2の下流側部の上面からは、気化した脱塩素ガスを燃焼炉3へ送るための通気管8が分岐している。通気管8を介して燃焼炉3へ達した脱塩素ガスは、ガス燃焼工程の燃焼炉3内で燃焼処理される。その際、燃焼炉3内には、脱塩素ガスのほか、助燃剤として、COG(コークスオーブンガス)や天然ガス等の気体燃料や、液体燃料が供給され、更に別の経路から供給された空気と共に混合されて燃焼炉3内で燃焼処理される。
【0024】
燃焼炉3内に供給される助燃剤と空気のうち、燃焼炉3内での空気の消費量は、供給される助燃剤の量によって決まる。本発明では、この燃焼炉3内へ供給する助燃剤の供給量Yを、溶融炉1に供給する廃プラスチックの供給量Xに基づいて制御する。その助燃剤の供給量Yは、廃プラスチックの供給量Xに基づき、Y=αX+β(αとβは定数である。)という式から算出することができる。尚、助燃剤がCOG(コークスオーブンガス)の場合、αは40〜70、βは4000〜6000である。その理由は実施例で詳しく説明する。
【0025】
尚、助燃剤の供給量Yが、Y=αX+βという式から求められる量より少ない場合は、供給量不足となり燃焼炉3内での燃焼が不十分になる。逆に助燃剤の供給量Yが、Y=αX+βという式から求められる量より多い場合は、資源の無駄となる。
【0026】
燃焼炉3内では、混合された可燃ガスは燃焼処理され、含有する塩素が燃焼分解された後、回収管9を通り、必要に応じて冷却部(図示しない)で冷却後、水と接触させ、続いて吸収塔10に送られた後、塩酸として回収される。
【0027】
一方、熱分解炉2内で、脱塩素ガスとして塩素成分を除去した脱塩素廃プラスッチックは、混錬機2aにより混錬されることにより熱分解炉2内の下流側に送られ、熱分解炉2を出た後に冷却された後、破砕部11で破砕され、固形燃料として回収される。尚、図1に示す12は制御装置である。
【実施例】
【0028】
廃プラスチックから発生する脱塩素ガスの熱量を測定する必要があるが、実際の設備で、廃プラスチックから発生する脱塩素ガスの熱量を測定することは困難であるため、廃プラスチックから発生する脱塩素ガスを処理するために必要な助燃剤の量を調べることとした。実施例では、助燃剤としてCOG(コークスオーブンガス)を用い、実際の運転データから、COGの流量(供給量)と廃プラスチックの処理量(供給量)の関係を求めた。
【0029】
その結果を図3にプロットして示す。図3によると、廃プラスチックの処理に伴いCOGの流量が減少していることが分かる。すなわち、COGの必要流量(供給量)Yは、廃プラスチックの処理量(供給量)Xに対し、Y=αX+βという式(一次関数)で表すことができる。この式に基づき、助燃剤の流量(供給量)を制御することで、効率的に廃プラスチックの処理を行うことができることが分かった。
【0030】
助燃剤としてCOGを用いる場合は、図3に示す点をつないだ傾斜からαを求めることができ、y軸の切片からβを求めることができる。図3に示す点のバラツキを考慮すると、αは40〜70、βは4000〜6000である。
【0031】
尚、αとβは、用いる助燃剤の種類により異なることから、本発明を実施する際には、用いる助燃剤により、予めαとβを測定等によって決定した後に、助燃剤の供給量を制御する必要がある。
【0032】
本発明で用いることのできる助燃剤としては、COG(コークスオーブンガス)のほかに、BFG(高炉ガス)、LDG(転炉ガス)、天然ガス、LPG等を挙げることができるが、特に好ましいのは、熱量やコストの理由からCOGである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の廃プラスチックの処理方法の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】ガス放出ラインの分岐部に仕切り蓋を設けた実施形態の一例を示す要部概略断面図である。
【図3】COGの流量と廃プラスチックの処理量の関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0034】
1…溶融炉
1a…混錬機
1b…モーター
2…熱分解炉
2a…混錬機
2b…モーター
3…燃焼炉
4…廃プラスチック供給部
5…ガス放出ライン
6…連通部
7…仕切り蓋
8…通気管
9…回収管
10…吸収塔
11…破砕部
12…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素系ポリマーを含有する廃プラスチックを溶融炉に供給し、前記廃プラスチックを溶融する溶融工程と、
前記溶融炉で溶融された廃プラスチックが熱分解炉に送り込まれ、前記廃プラスチックから塩素除去を行い、固形燃料を生成する熱分解工程と、
前記熱分解炉で除去された脱塩素ガスが燃焼炉に送り込まれ、その脱塩素ガスを燃焼処理し、その後に塩酸を生成する脱塩素ガス処理工程を備えた廃プラスチックの処理方法であって、
前記脱塩素ガス処理工程で、前記脱塩素ガスと共に前記燃焼炉内に供給する助燃剤の供給量Yを、前記溶融炉に供給する前記廃プラスチックの供給量Xに基づき、下記式から算出することを特徴とする廃プラスチックの処理方法。
Y=αX+β
上式でαとβは定数である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126590(P2010−126590A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301200(P2008−301200)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】