説明

廃棄物溶融炉の蒸気量制御方法及び廃棄物溶融炉設備の蒸気量制御装置

【課題】廃棄物溶融炉の変動状況から変化が最も速いものを選択して廃棄物溶融炉内の熱分解状況を検知し、羽口への送風空気量を調整することで熱分解後の可燃ガス及びチャーの飛散量をコントロールして蒸気量の変動を抑制する。
【解決手段】廃棄物溶融炉1で発生する可燃ガス及び可燃残渣を燃焼する燃焼室5で発生した排ガスの顕熱を回収するボイラ6で顕熱回収後の排ガスを排ガス処理装置7で処理し、処理後の排ガスを誘引通風機8を介して排出する煙突9から構成する廃棄物溶融炉設備の蒸気量制御において、廃棄物溶融炉内の廃棄物の充填レベル14、ボイラの発生蒸気量15、誘引通風機の運転負荷16および煙突出口の排ガス量17を測定し、これらの測定結果の変動値が最も大きい測定値に基づいて羽口3,4からの酸素源の供給量を調整してボイラ6での発生蒸気量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物溶融炉処理設備において、廃棄物を溶融処理する廃棄物溶融炉から発生する可燃ガス及び可燃残渣(チャー)を燃焼室で燃焼させ、燃焼後の排ガスで蒸気を発生させて熱回収するボイラの蒸気量の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物、産業廃棄物、シュレッダーダスト等の廃棄物を廃棄物溶融炉で溶融処理する際に発生する可燃ガス及びチャーを含有する排ガスは、廃棄物溶融炉の後段に設置されている燃焼室に導入して燃焼させ、排出される燃焼排ガスはボイラで熱回収が行われる(特許文献1、2参照)。
【0003】
廃棄物溶融炉に投入される廃棄物のごみ質は一定でなく変動するため、廃棄物溶融炉から排出される排ガス中の可燃ガスの成分やチャーの量などが変動する。例えば、自動車シュレッダーダスト(ASR)等のプラスチック含有廃棄物のような粒径が小さくかつプラスチック類が多く急速熱分解が起こりやすい廃棄物が廃棄物溶融炉に投入されて処理される場合、熱分解後の可燃ガス及びチャーが飛散して燃焼室に導入されて急激に燃焼室の温度が上昇する。燃焼室の温度が急上昇すると、燃焼室後段のボイラにおける蒸発量が大きく変動する状況が見られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−94035号公報
【特許文献2】特開平8−159436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は廃棄物溶融炉から排出する熱分解後の可燃ガス及びチャーが急増し、ボイラ蒸気量が大幅に上昇した際に、オペレータ操作で対応していたため、変動幅が大きすぎて変動に追従できなかった場合はボイラ蒸気温度上限値を超過し、プラント非常停止に至る状況も見られた。
【0006】
そこで、本発明は、廃棄物溶融炉の変動状況から変化が最も速いものを選択して廃棄物溶融炉内の熱分解状況を速やかに検知し、それに応じて羽口への送風空気量を調整することで熱分解後の可燃ガス及びチャーの飛散量をコントロールして蒸気量の変動を抑制する廃棄物溶融炉設備のボイラの蒸気量制御方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1の発明は、炉上部から廃棄物を投入し、炉下部に配設した複数段の羽口から酸素源を供給して、廃棄物中の灰分及び非燃焼物を溶融し、溶融物を炉底部から排出する廃棄物溶融炉で発生する可燃ガス及び可燃残渣を燃焼する燃焼室と燃焼室で発生した排ガスの顕熱を回収するボイラとボイラで顕熱回収後の排ガスを排ガス処理装置で処理して、処理後の排ガスを誘引通風機を介して排出する煙突より構成する廃棄物溶融炉設備の蒸気量制御方法において、廃棄物溶融炉内の廃棄物の充填レベル、ボイラの発生蒸気量、誘引通風機の運転負荷および煙突出口の排ガス量を測定し、これらの測定結果の変動値が最も大きい測定値に基づいて前記上段羽口からの酸素源供給量を調整してボイラでの発生蒸気量を制御することを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2の発明は、炉上部から廃棄物を投入し、炉下部に配設した複数段の羽口から酸素源を供給して、廃棄物中の灰分及び非燃焼物を溶融し、溶融物を炉底部から排出する廃棄物溶融炉と、廃棄物溶融炉で発生する可燃ガス及び可燃残渣を燃焼する燃焼室と、燃焼室で発生した排ガスの顕熱を回収するボイラと、ボイラで顕熱回収後の排ガスの排ガス処理装置と処理後の排ガスを誘引通風機を介して排出する煙突より構成する廃棄物溶融炉設備の蒸気量制御設備において、前記廃棄物溶融炉に設置した廃棄物溶融炉内の廃棄物の充填レベルを測定する充填レベル測定装置と、前記ボイラに設置したボイラの発生蒸気量を測定する発生蒸気量測定装置と、前記誘引通風機の運転負荷を測定する誘引通風機運転負荷測定装置と、前記煙突の出口の排ガス量を測定する排ガス量測定装置と、前記各測定装置からの測定結果が入力され、これらの測定結果の変動値が最も大きい測定値に基づいて前記羽口への送風量を演算し、前記羽口へ送風する送風量を調整する流量調節弁へ弁の開度を調整する制御信号を出力する空気供給制御装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、熱分解が急速に進むと、ごみレベルの急低下、ボイラ蒸気量の急増、誘引通風機の運転負荷の急増、排ガス流量の急増があるため、廃棄物溶融炉内の廃棄物の充填レベル、ボイラの発生蒸気量、誘引通風機の負荷および煙突出口の排ガス量を測定し、いずれかの検出端データのうち、変動値が最も大きい測定値に基づいて溶融炉内の熱分解状況を早期に検知して送風空気量を自動的に調整することで、ボイラ蒸気量の変動が大きくなる前の時点での調整が可能となり、ボイラ蒸気量を適正範囲内に維持管理することが可能となる。また、廃棄物溶融炉の安定溶融状況を維持できる送風量バランスを保ちながら送風流量調節して確実にボイラ蒸気量の変動の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の蒸気量制御方法を適用する廃棄物溶融炉設備の概略全体図である。
【図2】本発明による溶融炉の上段羽口の配置を示し、(a)はA−Aの上段羽口、(b)はB−Bの中段羽口の配置図である。
【図3】上段羽口及び中段羽口の空気量とボイラ蒸気量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0012】
図1において、シャフト炉式廃棄物溶融炉1の炉上部より、廃棄物、副原料の石灰石とともにコークスが装入される。炉底部の下段羽口2から酸素含有ガス又は酸素富化ガス、その上方の中段羽口3、上段羽口4からなる上部羽口から空気が吹き込まれる。コークスや熱分解によって生じた炭素質を高温炉床において高温度で燃焼させ、炉内の乾燥帯、熱分解帯及び燃焼溶融帯を順次降下させて溶融スラグ化する。
【0013】
溶融炉1から排出される可燃ガス及びチャーを含有する排ガスは、燃焼室5で燃焼され、高温の燃焼排ガスはボイラ6で熱回収が行われ、ボイラ6の排ガスは排ガス処理設備7の冷却塔で冷却され、消石灰等の中和剤で中和され、集じん機で固気分離され、誘引通風機8を経て煙突9から排出される。廃棄物溶融炉1、燃焼室5、ボイラ6、排ガス処理設備7、誘引通風機8は、それぞれダクト10〜13により順次接続されている。
【0014】
溶融炉1にはごみレベルを、ボイラにはボイラ蒸気量を、誘引通風機には運転負荷(電流値)、煙突の出口には排ガス流量をそれぞれ測定する測定装置14〜17が設置されている。
【0015】
溶融炉1の上部羽口は、図2(a)に示す上段羽口4と図2(b)に示す中段羽口3が上下方向において重ならないように溶融炉1の円周方向にずらして配置することにより、吹き込む空気量が炉内で偏らないで均一に流れるようにしている。
【0016】
上段羽口4、中段羽口3及び下段羽口2には、送風機18の酸素源供給配管19から分岐した上段羽口用ヘッダ20、中段羽口用ヘッダ21及び下段羽口用ヘッダ22にそれぞれ接続されている上段羽口空気供給管23、中段羽口空気供給管24及び下段羽口空気供給管25から空気が供給される。各空気供給管23,24,25には、それぞれ流量調整弁26,27,28が設けられている。
【0017】
各計測装置14〜17で計測された計測信号は、空気供給制御装置29に入力されて、各流量調整弁26,27へ流量調節制御信号が出力される。空気供給制御装置29には、上段羽口4、中段羽口3のそれぞれについてごみレベル、ボイラ蒸気量、誘引通風機負荷あるいは煙突の排ガス流量の変動量に対して個別の流量調節弁の調節量が設定されており、計測されたごみレベル、ボイラ蒸気量、誘引通風機負荷あるいは煙突の排ガス流量に対して流量調節弁の調節量の設定値を流量調節弁へ制御信号として出力する。
【0018】
図3(b)のグラフに示すように、空気供給制御装置29に入力される、ごみレベル、ボイラ蒸気量、誘引通風機負荷あるいは煙突の排ガス流量の計測信号のうち、溶融炉内の熱分解が急速に進んで、最も速く選択された計測信号がボイラ蒸気量30であった場合、温度制御装置29では上段羽口送風空気量31、中段羽口送風空気量32のそれぞれの設定に応じて各流量調整弁4、3の調整量の制御信号が出力されて減調整されることで、ボイラ蒸気量30の上昇が抑制される。
【0019】
(1)ごみレベルの急低下、(2)ボイラ蒸気量の急増、(3)誘引通風機の運転負荷の急増、あるいは(4)排ガス流量の急増のいずれかの時には、溶融炉内の熱分解が急速に進んでいるため、いずれかの検出信号が空気供給制御装置に入力されると、上段羽口あるいは中段羽口の流量調整弁を調整して送風空気量を減らして熱分解を速やかに抑える。この抑制により、ボイラ蒸気量の変動幅が大きくなることはなく、確実にボイラ蒸気量の変動を抑制できるようになった。
【符号の説明】
【0020】
1:溶融炉
2:下段羽口
3:中段羽口
4:上段羽口
5:燃焼室
6:ボイラ
7:排ガス処理設備
8:誘引通風機
9:煙突10〜13:ダクト
14:計測装置(ごみレベル)
15:計測装置(ボイラ蒸気量)
16:計測装置(誘引通風機負荷)
17:計測装置(排ガス流量)
18:送風機
19:酸素源供給配管
20:上段羽口用ヘッダ
21:中段羽口用ヘッダ
22:下段羽口用ヘッダ
23:上段羽口空気供給管
24:中段羽口空気供給管
25:下段羽口空気供給管
26:流量調整弁
27:流量調整弁
28:流量調整弁
29:空気供給制御装置
30:ボイラ蒸気量
31:上段羽口送風空気量
32:中段羽口送風空気量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉上部から廃棄物を投入し、炉下部に配設した複数段の羽口から酸素源を供給して、廃棄物中の灰分及び非燃焼物を溶融し、溶融物を炉底部から排出する廃棄物溶融炉で発生する可燃ガス及び可燃残渣を燃焼する燃焼室と燃焼室で発生した排ガスの顕熱を回収するボイラとボイラで顕熱回収後の排ガスを排ガス処理装置で処理して、処理後の排ガスを誘引通風機を介して排出する煙突より構成する廃棄物溶融炉設備の蒸気量制御方法において、
廃棄物溶融炉内の廃棄物の充填レベル、ボイラの発生蒸気量、誘引通風機の運転負荷および煙突出口の排ガス量を測定し、
これらの測定結果の変動値が最も大きい測定値に基づいて前記上段羽口からの酸素源供給量を調整してボイラでの発生蒸気量を制御することを特徴とする廃棄物溶融炉設備の蒸気量制御方法。
【請求項2】
炉上部から廃棄物を投入し、炉下部に配設した複数段の羽口から酸素源を供給して、廃棄物中の灰分及び非燃焼物を溶融し、溶融物を炉底部から排出する廃棄物溶融炉と、廃棄物溶融炉で発生する可燃ガス及び可燃残渣を燃焼する燃焼室と、燃焼室で発生した排ガスの顕熱を回収するボイラと、ボイラで顕熱回収後の排ガスの排ガス処理装置と処理後の排ガスを誘引通風機を介して排出する煙突より構成する廃棄物溶融炉設備の蒸気量制御設備において、
前記廃棄物溶融炉に設置した廃棄物溶融炉内の廃棄物の充填レベルを測定する充填レベル測定装置と、
前記ボイラに設置したボイラの発生蒸気量を測定する発生蒸気量測定装置と、
前記誘引通風機の運転負荷を測定する誘引通風機運転負荷測定装置と、
前記煙突の出口の排ガス量を測定する排ガス量測定装置と、
前記各測定装置からの測定結果が入力され、これらの測定結果の変動値が最も大きい測定値に基づいて前記羽口への送風量を演算し、前記羽口へ送風する送風量を調整する流量調節弁へ弁の開度を調整する制御信号を出力する空気供給制御装置とを備えたことを特徴とする廃棄物溶融炉設備の蒸気量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−21834(P2011−21834A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167993(P2009−167993)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(506000128)日鉄環境プラントソリューションズ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】