説明

廃水の処理方法および処理装置

【課題】重金属およびアンモニアを含む廃水に対して、凝集剤を添加しなくても低コストで、かつ高度に処理でき、重金属濃度を十分に低減できる廃水の処理方法および処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の廃水の処理方法は、重金属およびアンモニアを含む廃水Wにアルカリ剤を添加し、アンモニアを揮発除去するアンモニア除去工程と、アンモニアを揮発除去した廃水Wを膜分離する膜分離工程とを有する。また、本発明の廃水の処理装置1は、重金属およびアンモニアを含む廃水Wにアルカリ剤を添加し、アンモニアを揮発除去するアンモニア除去手段20と、アンモニアを揮発除去した廃水Wを膜分離する膜分離手段30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含む廃水を処理するための廃水の処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解メッキ工程から排出されるメッキ廃水などには、銅、クロム、亜鉛、ニッケル、錫、鉛、鉄、カドミウムなどの重金属が含まれている。そのため、重金属を含む廃水は、環境面への配慮などから、通常、重金属を除去するなどの処理を行ってから排出される。
【0003】
重金属を含む廃水の処理方法としては、例えば以下に示す方法が提案されている。
特許文献1には、廃水中の鉄、マンガン、シリカ、ふっ素などの複数の微量成分を一挙に除去する方法として、処理槽に貯留した廃水に硫酸アルミニウム(凝集剤)と酸化剤を添加した後、処理槽内に浸漬した分離膜フィルターによって生じた固形物を膜濾過する方法が開示されている。
また、特許文献2には、銅等の低濃度重金属を含む廃水を処理する方法として、硫化剤による不溶化処理の後に、酸化剤による酸化処理を行い、スラッジの凝集性を向上させる方法が開示されている。
【0004】
近年、無電解ニッケルメッキなどの無電解メッキや、酸性亜鉛メッキが広く行われている。
しかし、無電解メッキ工程や酸性亜鉛メッキ工程から排出される廃水を処理する場合、廃水中の重金属濃度を低減するのは困難であった。
これは、無電解メッキ工程や酸性亜鉛メッキ工程においては、安定化剤やpH調整剤としてアンモニアがメッキ浴に添加される場合が多いが、アンモニアが添加されたメッキ浴を使用してメッキ処理する場合、廃水中にアンモニアも含まれることが一因と考えられる。
【0005】
特許文献3には、アンモニアを含む廃水を処理する方法として、酸化剤として空気または酸素を利用した湿式酸化により廃水からアンモニアを除去する方法が開示されている。
また、特許文献4には、アンモニア性窒素と金属塩を含む水の処理方法として、この水に亜硝酸塩を添加して加熱条件下触媒と反応させることでアンモニアを分解する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−36180号公報
【特許文献2】特開2007−69068号公報
【特許文献3】特公昭59−19757号公報
【特許文献4】特許第3644050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、凝集剤を添加するため薬剤費用が増える。さらに、凝集剤を添加するとスラッジが発生するため、スラッジを処分するための費用もかかる。また、廃水中にアンモニアが含まれている場合は、重金属濃度を十分に低減することは困難であった。
特許文献2に記載の方法では、発生したスラッジの凝集性を向上することはできても、廃水中にアンモニアが含まれている場合は、重金属濃度を十分に低減することは困難であった。また、廃水中の重金属濃度を十分に低減するためには、硫化剤や凝集剤を多量に添加する必要があるが、薬剤費用が増えたり、スラッジが多量に発生するためスラッジの処分費用が増えたりする。
【0008】
特許文献3に記載の方法では、アンモニアを分解するために高温高圧の条件にする必要がある。そのため、特許文献3に記載の方法を重金属とアンモニアを含む廃水に適用したとしても、処理を行うためのエネルギー消費量が多くなり、コストがかかる。
特許文献4に記載の方法では、アンモニアは除去されるものの、亜硝酸塩を添加する必要があるため、新たな窒素汚染源を廃水に加えることとなる。また、特許文献4に記載の方法を重金属とアンモニアを含む廃水に適用しても、十分な処理効果を得ることは容易ではなかった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、重金属およびアンモニアを含む廃水に対して、凝集剤を添加しなくても低コストで、かつ高度に処理でき、重金属濃度を十分に低減できる廃水の処理方法および処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、重金属およびアンモニアを含む廃水の処理が困難となるのは、廃水中にアンモニアが含まれていると、重金属がアンモニアとアンミン錯体を形成し、廃水に安定して溶解してしまい、硫化剤や凝集剤を添加しても重金属が不溶化しにくくなることが一因であると考えた。また、特許文献4に記載のように亜硝酸塩を添加した場合も、亜硝酸と重金属とが錯体を形成することがあり、重金属が不溶化しにくくなると考えられる。
そこで、廃水中の重金属を除去する前にアンモニアを除去すれば、重金属は錯体の形態を維持できなくなり、廃水から容易に除去できるとの着想に基づき、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の廃水の処理方法は、重金属およびアンモニアを含む廃水の処理方法であって、廃水にアルカリ剤を添加し、アンモニアを揮発除去するアンモニア除去工程と、アンモニアを揮発除去した廃水を膜分離する膜分離工程とを有することを特徴とする。
また、前記アンモニア除去工程は、廃水を曝気することによりなされることが好ましい。
さらに、前記アンモニア除去工程と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水を酸化処理する酸化処理工程を有することが好ましい。
また、前記アンモニア除去工程と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程を有することが好ましい。
さらに、前記アンモニア除去工程と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水を酸化処理する酸化処理工程と、酸化処理した排水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程とを有することが好ましい。
また、前記アンモニア除去工程と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程と、重金属を沈殿分離した廃水を酸化処理する酸化処理工程とを有することが好ましい。
さらに、前記酸化処理工程が、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化剤の添加によりなされることが好ましい。
【0012】
また、本発明の廃水の処理装置は、重金属およびアンモニアを含む廃水の処理装置であって、廃水にアルカリ剤を添加し、アンモニアを揮発除去するアンモニア除去手段と、アンモニアを揮発除去した廃水を膜分離する膜分離手段とを備えることを特徴とする。
また、前記アンモニア除去手段は、廃水を曝気する散気手段を備えることが好ましい。
さらに、アンモニアを揮発除去した膜分離前の廃水を酸化処理する酸化処理手段を備えることが好ましい。
また、アンモニアを揮発除去した膜分離前の廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離手段を備えることが好ましい。
さらに、アンモニアを揮発除去した膜分離前の廃水を酸化処理する酸化処理手段と、酸化処理後かつ膜分離前の廃水中の重金属、またはアンモニアを揮発除去した酸化処理前の廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離手段とを備えることが好ましい。
また、前記アンモニア除去手段の下流に、酸化処理手段、沈殿分離手段、膜分離手段を順に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の廃水の処理方法および処理装置によれば、重金属およびアンモニアを含む廃水に対して、凝集剤を添加しなくても低コストで、かつ高度に処理でき、重金属濃度を十分に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の廃水の処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の廃水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の廃水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の廃水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の廃水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【図6】本発明の廃水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【図7】本発明の廃水の処理装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[廃水の処理装置]
図1は、本発明の廃水の処理装置の一例を示す概略構成図である。この例の廃水の処理装置1は、上流側から順に、廃水Wを一旦貯留する貯留手段10と、アンモニア除去手段20と、膜分離手段30と、pH調整手段40とを具備して構成されている。
なお、図2〜7において、図1と同じ構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0016】
<廃水>
本発明の処理対象となる廃水Wは、例えばメッキ工場等の金属表面処理工場などから発生した廃液(被処理水)であり、重金属およびアンモニアを含む。重金属は、アンモニアとアンミン錯体を形成しやすく、その結果、廃水に安定して溶解していると考えられる。
重金属としては、クロム、銅、亜鉛、カドミウム、ニッケル、水銀、鉛、鉄などが挙げられる。これら重金属は単独で含まれていてもよいが、通常は複数の重金属が混合された状態で含まれている。
一方、アンモニアには、アンモニウム塩が含まれる。
【0017】
なお、廃水W中には、重金属およびアンモニアの他に、洗浄成分、界面活性剤、ルイス酸や、アンモニア以外の錯体形成化合物(例えば、クエン酸、グルコン酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、シアンおよびこれらの塩等、EDTA,エチレンジアミン、トリエタノールアミンなど)が含まれていてもよい。以下、アンモニア以外の錯体形成化合物を「他の錯体形成化合物」という。
【0018】
<貯留手段>
貯留手段10は、金属表面処理工場などから発生した廃水Wを一旦貯留する手段である。
貯留手段10は貯留槽11を備える。貯留槽11としては、廃水Wを貯留できるものであれば特に制限されない。
【0019】
<アンモニア除去手段>
アンモニア除去手段20は、アルカリ剤を添加し、廃水W中のアンモニアをストリッピング処理や熱処理などの方法により揮発除去する手段である。
ここで、ストリッピング処理とは、不純物を含む処理対象液と、空気や水蒸気等のガスとを気液接触させて(すなわち、処理対象液を曝気させて)、液相から気相に不純物を移動させることで処理対象液から不純物を除去するプロセスのことである。
ところで、廃水中から不純物を揮発除去する場合、電離している分子は除去が困難であるため、pHを調整して遊離した状態に変える必要がある。廃水中からアンモニアをストリッピング処理(アンモニアストリッピング処理)や熱処理などにより揮発除去する場合は、下記式に示すように、廃水にアルカリ剤を添加してアルカリ性とし、廃水中に含まれるアンモニア成分であるアンモニウムイオン(NH)と水酸化物イオン(OH)とを反応させ、生成したアンモニアガス(NH)を大気中に放出させる。
NH(電離状態)+ OH→ NH(遊離状態)+ H
【0020】
図1に示すアンモニア除去手段20は、ストリッピング処理によりアンモニアを揮発除去する手段である。なお、本発明において、ストリッピング処理によりアンモニアを揮発除去する場合のアンモニア除去手段を「ストリッピング手段」という場合もある。
図1に示すアンモニア除去手段(ストリッピング手段)20は、貯留手段10から送られた廃水Wを溜めるストリッピング槽21とストリッピング槽21中の廃水Wにアルカリ剤を添加するアルカリ剤添加手段22と、ストリッピング槽21中の廃水Wの水質を検査する水質計23と、ストリッピング槽21中の廃水Wを曝気する散気手段24とを備える。
【0021】
ストリッピング槽21としては、廃水Wを貯留できるものであれば特に制限されないが、アルカリ剤によって劣化しにくい材質のものが好ましい。
アルカリ剤添加手段22としては、アルカリ剤を添加できるものであれば特に制限されない。
【0022】
水質計23は、ストリッピング槽21中の廃水Wの水質を検査するものである。水質を検査することで、アルカリ剤の添加量の過不足を把握できる。
水質計23としては、アンモニウムイオン濃度計、アルカリ剤濃度計、pH計などが挙げられる。
なお、この例のアンモニア除去手段(ストリッピング手段)20は1つの水質計23を備えているが、水質の検査方法に応じて複数種類の水質計を備えていてもよい。
【0023】
散気手段24は、ストリッピング槽21中の廃水Wを曝気するものである。散気手段24は、ストリッピング槽21の底部に設けられ、ブロワーB1より送気された空気をストリッピング槽21内に散気する。これにより、散気手段24から連続的もしくは断続的に散気された気泡が、廃水Wの液中を通って水面から放出される。このとき、廃水Wと空気とが気液接触し、アンモニアガス(NH)が液相から気相に移動して、大気中へ放出される。
【0024】
アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20により、廃水W中のアンモニアは揮発除去される。その結果、重金属はアンモニアとの錯体の形態を維持できなくなり、イオン化する。さらに、ストリッピング槽21内の廃水Wは、アルカリ剤の添加によりこの時点でアルカリ性であるため、重金属は難溶解性の水酸化物(不溶化物)となり、廃水Wから析出する。
【0025】
<膜分離手段>
膜分離手段30は、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20にてアンモニアを揮発除去した廃水Wを濾過水Wと膜分離濃縮水Wに膜分離する手段である。
この例の膜分離手段30は、加圧ポンプP1によって加圧する方式であり、濾過膜31を備える。
濾過膜31としては、中空糸膜、平膜、チューブラ膜、モノリス型膜などが挙げられるが、容積充填率が高いことから中空糸膜が好ましい。
濾過膜31として中空糸膜を用いる場合、その材質としては、セルロース、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデンフロライド(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)などが挙げられる。
濾過膜31としてモノリス型膜を用いる場合は、セラミック性の膜を用いることができる。
【0026】
濾過膜31に形成される微細孔の平均孔径としては、一般に限外濾過膜と呼ばれる膜で平均孔径0.001〜0.1μm、一般に精密濾過膜と呼ばれる膜で平均孔径0.1〜1μmであり、本発明においてはこれらの膜を用いることが好ましい。
なお、廃水からアンモニアを揮発除去することで生成された重金属の不溶化物の粒子径は、一般的に0.1〜100μmであるため、濾過膜31の微細孔の平均孔径は0.03μm以上であることが好ましい。平均孔径が0.03μm未満であると、膜分離に要する圧力が大きくなるため、運転エネルギーが過大となる。一方、濾過膜31の微細孔の平均孔径は3μm以下が好ましい。平均孔径が3μmを超えると、濾過膜31の二次側(濾過水W中)に漏出する重金属の不溶化物の粒子の割合が増加し、濾過水W中の金属濃度が上昇しやすくなる。
【0027】
膜分離手段30により、廃水Wは不溶化物が除去された濾過水Wと、不溶化物が濃縮された膜分離濃縮水Wとに分離される。
濾過水Wは、後述のpH調整手段40に移され、pH調整される。一方、膜分離濃縮水Wは、通常、脱水手段(図示略)により脱水され、脱水ケーキ等の産業廃棄物として処理される。
【0028】
<pH調整手段>
pH調整手段40は、膜分離手段30にて膜分離した濾過水WのpHを、河川等への放流に適したpHに調整する手段であり、pHを調整された濾過水Wは処理水Wとして排出される。
なお、膜分離手段30によって不溶化物を十分に除去しているので、濾過水WのpHを中和しても重金属が再溶解するおそれがない。
【0029】
pH調整手段40は、pH調整槽41と、pH計(図示略)と、酸添加装置およびアルカリ添加装置(いずれも図示略)とを備える。
pH調整槽41としては、濾過水Wを貯留できるものであれば特に制限されない。また、pH計、酸添加装置およびアルカリ添加装置についても、pH調整に用いられるものであれば特に制限されない。
【0030】
<作用効果>
上述したように、重金属を含む廃水中にアンモニアが含まれていると、重金属がアンモニアとアンミン錯体を形成し、廃水に安定して溶解していることが、廃水の処理を困難にさせる原因であると考えられる。
しかし、本発明の廃水の処理装置1によれば、膜分離手段30の上流側にアンモニア除去手段(ストリッピング手段)20を備えているので、廃水Wはアンモニアを揮発除去された後に膜分離される。すなわち、廃水W中のアンモニアは、膜分離の前に廃水Wから揮発除去されるので、重金属は錯体の形態を維持できなくなり、イオン化する。さらに、ストリッピング槽21内の廃水Wはこの時点でアルカリ性であるため、重金属は難溶解性の水酸化物(不溶化物)となり、廃水Wから析出する。このように、本発明の廃水の処理装置1であれば、アンモニアによる重金属の不溶化が阻害されにくく、膜分離手段30によって不溶化した重金属を膜分離できるので、廃水Wを高度に処理でき、処理水W中の重金属濃度を十分に低減できる。
【0031】
また、本発明の廃水の処理装置1であれば、凝集剤を添加することなくアンモニア除去手段(ストリッピング手段)20により廃水W中のアンモニアを揮発除去しつつ、重金属を十分に不溶化できる。また、改めて不溶化剤を添加して重金属を不溶化する必要もないので、薬剤費用も軽減できる。また、エネルギーを過剰に消費することもない。
【0032】
本発明の廃水の処理装置1は、重金属およびアンモニアを含む廃水Wを処理する装置であるが、特に無電解ニッケルメッキなどの無電解メッキ工程や、酸性亜鉛メッキ工程から排出される廃水を処理するのに好適である。
【0033】
<他の実施形態>
本発明の廃水の処理装置は図1に示す廃水の処理装置1に限定されない。例えば図1に示す廃水の処理装置1では、pH調整手段40を備えているが、濾過水WのpHが河川等への放流に適したpHであれば、pH調整手段40を備えていなくてもよい。
【0034】
また、図1に示す廃水の処理装置1では、全量式の膜分離手段30を備えているが、図2に示すように、クロスフロー式の膜分離手段30でもよい。
なお、図2に示す廃水の処理装置2では、膜分離手段30により分離された膜分離濃縮水Wの一部を前段のアンモニア除去手段(ストリッピング手段)20のストリッピング槽21に返送しているが、膜分離濃縮水Wの一部は貯留手段10の貯留槽11に返送してもよい。
【0035】
図1、2に示す廃水の処理装置1、2に備わる膜分離手段30は、いずれも加圧式であるが、膜分離手段30としては、図3に示すように、浸漬式でもよい。
図3に示す廃水の処理装置3の膜分離手段30は、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20から送られた廃水Wを溜める膜分離槽32と、膜分離槽32内に設けられた膜モジュール33と、膜洗浄用の散気手段34とを備える。膜モジュール33には吸引ポンプP2が接続され、散気手段34にはブロワーB2が接続されている。
【0036】
膜モジュール33としては、水処理等の分離操作に用いられる通常の膜モジュールが挙げられる。膜モジュール33では、吸引ポンプP2により膜分離槽32内の廃水Wを膜モジュール33の濾過膜の細孔を介して吸引ろ過することで廃水Wを濾過水Wと膜分離濃縮水Wとに分離する。
一方、散気手段34は膜モジュール33の下方に設けられ、ブロワーB2より送気された空気を膜分離槽32内に散気する。これにより、散気手段34から連続的もしくは断続的に散気された気泡が、廃水Wの液中を通って膜モジュール33に達し、その後、水面から放出される。このとき、濾過膜が洗浄される。
なお、膜分離手段30により分離された膜分離濃縮水Wの一部を、ストリッピング槽21や貯留槽11に返送してもよい。
【0037】
(酸化処理手段)
また、本発明の廃水の処理装置は、例えば図4に示すように、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20と膜分離手段30との間に、アンモニアを揮発除去した廃水Wを酸化処理する酸化処理手段50を備えるのが好ましい。
廃水Wに他の錯体形成化合物が含まれている場合、酸化処理手段50により廃水Wを酸化処理することで、他の錯体形成化合物が分解される。また、前段のアンモニア除去手段(ストリッピング手段)20にてアンモニアを完全に除去しきれなかった場合には、廃水W中に残存するアンモニアも酸化処理手段50により分解される。その結果、廃水W中の重金属はより不溶化しやすくなるので、後段の膜分離手段30にて不溶化物が分離されやすくなり、処理水W中の重金属濃度をさらに低減できる。加えて、廃水Wを酸化処理することで不溶化物が粗大化するので、膜分離手段30の濾過膜31が不溶化物により閉塞しにくく、膜分離手段30を長期間にわたって安定に運転することが可能である。
【0038】
図4に示す廃水の処理装置4の酸化処理手段50は、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20から送られた廃水Wを溜める酸化槽51と、酸化槽51中の廃水Wに酸化剤を添加する酸化剤添加手段52と、酸化槽51中の廃水Wの水質を検査する水質計53とを備える。
【0039】
酸化槽51としては、廃水Wを貯留できるものであれば特に制限されないが、酸化剤によって劣化しにくい材質のものが好ましい。
酸化剤添加手段52としては、酸化剤を添加できるものであれば特に制限されない。
水質計53は、酸化槽51中の廃水Wの水質を検査するものである。水質を検査することで、酸化剤の添加量の過不足を把握でき、特に、酸化剤の過剰添加を抑制するのに有効である。
水質計53としては、酸化還元電位計、酸化剤濃度計などが挙げられる。また、これらの電位計や濃度計に代えて、あるいはこれらと併用して、アンモニアや他の錯体形成化合物の濃度を測定するための濃度計を用いることも可能である。ただし、他の錯体形成化合物の濃度を測定するための濃度計は、濃度測定が可能な他の錯体形成化合物を含む廃水Wを処理する場合に用いる。
なお、この例の酸化処理手段50は1つの水質計53を備えているが、水質の検査方法に応じて複数種類の水質計を備えていてもよい。
【0040】
また、図4に示す廃水の処理装置4は、膜分離手段30として図1に示す廃水の処理装置1と同じものを備えているが、図2、3に示す廃水の処理装置2、3の膜分離手段30と同じものでもよい。
また、酸化処理手段50において、酸化剤添加手段52から塩素系の酸化剤を添加する場合には、塩素ガスまたはアンモニア酸化によるクロラミンなど、臭気成分が発生する場合がある。従って、発生濃度に応じてガス回収手段を適宜設置するのが望ましい。
【0041】
(沈殿分離手段)
また、本発明の廃水の処理装置は、例えば図5に示すように、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20と膜分離手段30との間に、アンモニアを揮発除去した廃水W中の重金属を沈殿分離する沈殿分離手段60を備えるのが好ましい。
図5に示す廃水の処理装置5の沈殿分離手段60は、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20から送られた廃水Wを溜める沈殿槽61を備える。
沈殿槽61の構造については特に制限されず、沈殿槽61内部に傾斜板を設置して有効表面積を増やしてもよい。
また、沈殿槽61の容積については、処理対象液の固形分濃度や処理対象粒子(重金属の不溶化物)の大きさによって、適宜設定すればよい。
【0042】
沈殿分離手段60により、廃水Wは上澄み液Wと沈殿濃縮水Wとに分離される。
上澄み液Wは、後段の膜分離手段30に移され、濾過水Wと膜分離濃縮水Wとにさらに膜分離される。上澄み液Wには沈殿分離手段60によって完全に沈殿除去されなかった微細な重金属の不溶化物が存在するが、膜分離手段30によって微細な不溶化物は除去される。
一方、沈殿濃縮水Wは、通常、脱水手段(図示略)により脱水され、脱水ケーキ等の産業廃棄物として処理される。
【0043】
図5に示す廃水の処理装置5のように、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20と膜分離手段30との間に沈殿分離手段60を備えれば、膜分離手段30にて膜分離する前に、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20において不溶化した廃水W中の重金属の大部分を廃水Wから除去できる。従って、膜分離手段30にて除去する粒子量が削減されるので、膜分離手段30の負担が軽減され、より安定した濾過運転を継続できる。
なお、図5に示す廃水の処理装置5は、膜分離手段30として図1に示す処理装置1と同じものを備えているが、図2、3に示す廃水の処理装置2、3の膜分離手段30と同じものでもよい。
【0044】
また、本発明の廃水の処理装置は、アンモニア除去手段と膜分離手段との間に、酸化処理手段と沈殿分離手段の両方を並列して備えていてもよい。酸化処理手段と沈殿分離手段の両方を備える場合、これらの設置順序は特に制限されず、酸化処理手段の下流に酸化処理後の廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離手段が設置されてもよいし、酸化処理手段の上流にアンモニアを揮発除去した酸化処理前の廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離手段が設置されていてもよい。
ところで、アンモニア除去手段において生成する重金属の不溶化物の粒子は微細となる傾向にあり、沈殿分離手段を備える場合、沈殿速度が遅くなることがある。沈殿速度が遅い場合には、沈殿槽を大型化するなどの対処が必要となることがある。
しかし、アンモニア除去手段の下流に、酸化処理手段、沈殿分離手段と、膜分離手段とを順に備えれば、酸化処理手段によって粗大化した重金属の不溶化物を沈殿分離手段にて沈殿分離できる。よって、沈殿速度を高めることができ、沈殿分離手段において短時間で重金属を沈殿させることができる。また、沈殿槽を大型化する必要もない。
【0045】
また、図1〜5に示す廃水の処理装置1〜5は、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20と膜分離手段とが独立しているが、例えば図6に示すように、膜分離手段30の膜分離槽32をストリッピング槽としても用いてもよい。
すなわち、図6に示す廃水の処理装置6では、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20のアルカリ剤添加手段22と、水質計23と、散気手段24とが、膜分離手段30の膜分離槽32に設けられている。また、図6に示す廃水の処理装置6の膜分離槽32は、酸化処理手段50の酸化槽も兼ねており、酸化処理手段50の酸化剤添加手段52と、水質計53も膜分離槽32に設けられている。さらに、膜分離槽32は、沈殿分離手段の沈殿槽を兼ねていてもよい。
なお、この例の膜分離手段30は、膜分離槽32の他に、図3に示す膜分離手段30と同様の膜モジュール33と、散気手段34とを備える。
【0046】
図6に示す廃水の処理装置6の場合、膜分離槽32がストリッピング槽、酸化槽、および必要に応じて沈殿槽の役割も兼ねているため、装置構成が簡易となる。
また、例えば図7に示す廃水の処理装置7のように、膜分離手段30の散気手段34を、アンモニア除去手段(ストリッピング手段)20の散気手段としても用いてもよく、装置構成がさらに簡易となる。
【0047】
以上説明した図1〜7に示す廃水の処理装置1〜7のアンモニア除去手段20は、ストリップング処理によりアンモニアを揮発除去する手段(ストリッピング手段)であるが、アンモニア除去手段としては、例えば熱処理によりアンモニアを揮発除去する手段(熱処理手段)であってもよい。熱処理は、通常、室温(23℃)以上で行われるため、アンモニア除去手段20として熱処理手段を用いる場合には、ストリッピング手段20に備わる散気手段24の代わりに、廃水を加温する加温手段、あるいは廃水を加熱する加熱手段を備えることが好ましい。
【0048】
このように、本発明の廃水の処理装置であれば、廃水に凝集剤を添加して不溶化物を凝集させる凝集手段を備えなくても廃水を低コストで、かつ高度に処理でき、重金属濃度を十分に低減できるが、必要であれば凝集手段を備えてもよい。ただし、凝集手段にて廃水に添加する凝集剤の添加量が少ないほど、薬剤費用を削減できるとともに、発生するスラッジ量を軽減できるので、スラッジの処分費用をも削減できる。また、膜濾過手段の膜が閉塞するのを抑制できる。従って、凝集手段を備えなくても目標の処理水質を達成できる場合には、凝集手段は備えない方が好ましい。
なお、凝集手段を備える場合、その設置場所はアンモニア除去手段と膜分離手段との間であり、酸化処理手段を備える場合には酸化処理手段と膜分離手段の間であり、沈殿分離手段を備える場合にはアンモニア除去手段と沈殿分離手段との間であり、酸化処理手段の下流に沈殿分離手段を備える場合には酸化処理手段と沈殿分離手段との間である。
【0049】
また、本発明の廃水の処理装置であれば、廃水に不溶化剤を添加して重金属を不溶化させる不溶化手段を備えなくても、アンモニア除去手段にてアルカリ剤を添加することで廃水がアルカリ性となるため、廃水中の重金属が不溶化し、廃水を高度に処理できるが、必要であれば不溶化手段を備えてもよい。ただし、不溶化手段にて廃水に添加する不溶化剤の添加量が少ないほど、薬剤費用を削減できる。従って、不溶化手段を備えなくても目標の処理水質を達成できる場合には、不溶化手段を備えない方が好ましい。
なお、不溶化手段を備える場合、その設置場所はアンモニア除去手段と膜分離手段との間であり、酸化処理手段を備える場合には酸化処理手段と膜分離手段の間であり、沈殿分離手段を備える場合にはアンモニア除去手段と沈殿分離手段との間であり、酸化処理手段の下流に沈殿分離手段を備える場合には酸化処理手段と沈殿分離手段との間である。
【0050】
[廃水の処理方法]
本発明の廃水の処理方法は、廃水にアルカリ剤を添加し、アンモニアをストリッピング処理や熱処理などの方法により揮発除去するアンモニア除去工程と、アンモニアを揮発除去した廃水を膜分離する膜分離工程とを有する。
以下、図1に示す廃水の処理装置1を用いて、本発明の廃水の処理方法の一例について具体的に説明する。
なお、本発明において、ストリッピング処理によりアンモニアを揮発除去する場合のアンモニア除去工程を「ストリッピング工程」という場合もある。
【0051】
<アンモニア除去工程(ストリッピング工程)>
まず、廃水Wを貯留手段10の貯留槽11に一旦貯留する。
ついで、貯留槽11に貯留された廃水Wをアンモニア除去手段(ストリッピング手段)20のストリッピング槽21に移し、アルカリ剤添加手段22からアルカリ剤を添加して、廃水W中のアンモニアをストリップング処理により揮発除去する。
アンモニア除去工程(ストリッピング工程)で用いるアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが用いられる。これらの中でも、スラッジ発生量を削減できる点で、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0052】
アルカリ剤の添加量は、廃水Wのアンモニア濃度および除去対象となる重金属の種類によって適宜設定すればよいが、アンモニアは塩基性であるため、pHが高くなるとアンモニア揮発除去効率も高くなる傾向にある。従って、廃水WのpHが10〜11となるように、アルカリ剤の添加量を調整するのが好ましい。
アルカリ剤は、水質計23を用いて、アンモニウムイオン濃度、アルカリ剤濃度、廃水WのpHなどをモニタリングしながら添加すればよい。
【0053】
また、ストリッピング処理する際は、ブロワーB1より送気された空気を散気手段24によりストリッピング槽21内に散気させ、廃水Wを曝気し、アンモニアガス(NH)を大気中へ放出させる。
散気量については、一般的には、単位廃水体積あたりの散気量(曝気体積)が3,000(m−空気)/(m−廃水)以上となる量が必要とされているが、アンモニア濃度、目標処理水質、散気手段24の性能によって異なるため、適切な量を設定すればよい。
【0054】
また、アンモニアは揮発性なので、ストリッピング処理によるアンモニア除去効率は水温の影響を受けやすく、水温が高いほどアンモニア除去効率が高くなる傾向にある。そのため、ストリッピング槽中の廃水Wの温度は高い方が好ましい。
【0055】
アンモニア除去工程(ストリッピング工程)により、廃水W中のアンモニアは揮発除去される。その結果、重金属はアンモニアとの錯体の形態を維持できなくなり、イオン化する。さらに、ストリッピング槽21内の廃水Wは、この時点でアルカリ剤の添加によりアルカリ性であるため、重金属は難溶解性の水酸化物(不溶化物)となり、廃水Wから析出する。
【0056】
<膜分離工程>
膜分離工程では、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)にてアンモニアを揮発除去した廃水Wを膜分離手段30に移し、濾過膜31により不溶化物が除去された濾過水Wと、不溶化物が濃縮された膜分離濃縮水Wとに膜分離する。
濾過水Wは、必要に応じて後述のpH調整工程によりpH調整される。一方、膜分離濃縮水Wは、通常、脱水され、脱水ケーキ等の産業廃棄物として処理される。
【0057】
<pH調整工程>
pH調整工程では、濾過水WをpH調整手段40のpH調整槽41に移し、濾過水WのpHを河川等への放流に適したpHに調整する。アンモニア除去工程(ストリッピング工程)においてアルカリ剤を添加しているので、濾過水Wもアルカリ性となっている場合が多く、中和するのがよい。pHを調整された濾過水Wは処理水Wとして排出される。
pH調整工程では、中和用のpH調整剤として、塩酸、硫酸、炭酸ガス等の酸などが用いられる。pH調整工程において酸を過剰に添加した場合には、pH調整剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリを添加して、中性領域になるようにpHを再調整する。
なお、膜分離工程によって不溶化物を十分に除去しているので、濾過水WのpHを中和しても重金属が再溶解するおそれがない。
【0058】
<作用効果>
上述したように、重金属を含む廃水中にアンモニアが含まれていると、重金属がアンモニアとアンミン錯体を形成し、廃水に安定して溶解していることが、廃水の処理を困難にさせる原因であると考えられる。
しかし、本発明の廃水の処理方法によれば、膜分離工程の前にアンモニア除去工程(ストリッピング工程)を行うので、廃水Wはアンモニアを揮発除去された後に膜分離される。すなわち、廃水W中のアンモニアは、膜分離の前に廃水Wから揮発除去されるので、重金属は錯体の形態を維持できなくなり、イオン化する。さらに、アンモニアが揮発除去された廃水Wはこの時点でアルカリ性であるため、重金属は難溶解性の水酸化物(不溶化物)となり、廃水Wから析出する。このように、本発明の廃水の処理方法であれば、アンモニアによる重金属の不溶化が阻害されにくく、膜分離工程によって不溶化した重金属を膜分離できるので、廃水Wを高度に処理でき、処理水W中の重金属濃度を十分に低減できる。
【0059】
また、本発明の廃水の処理方法であれば、凝集剤を添加することなくアンモニア除去工程(ストリッピング工程)により廃水W中のアンモニアを揮発除去しつつ、重金属を十分に不溶化できる。また、改めて不溶化剤を添加して重金属を不溶化する必要もないので、薬剤費用も軽減できる。また、エネルギーを過剰に消費することもない。
【0060】
本発明の廃水の処理方法は、重金属およびアンモニアを含む廃水Wを処理する方法であるが、特に無電解ニッケルメッキなどの無電解メッキ工程や、酸性亜鉛メッキ工程から排出される廃水を処理するのに好適である。
【0061】
<他の実施形態>
本発明の廃水の処理方法は、上述した方法に限定されない。例えば上述した方法では、膜分離工程の後にpH調整工程を行うが、濾過水WのpHが河川等への放流に適したpHであれば、pH調整工程は行わなくてもよい。
【0062】
また、上述した方法では、膜分離工程での膜分離方法として図1に示すような全量式の膜分離手段30を用いた方法を例示したが、例えば図2に示すようなクロスフロー式の膜分離手段30や、図3に示すような浸漬式の膜分離手段30を用いてもよい。
図1に示す全量式の膜分離手段30や、図2に示すクロスフロー式の膜分離手段30は加圧式を採用しており、濾過膜31を容器に封入した状態で膜の一次側を高い圧力で加圧できる。そのため、高い透過流束で膜分離でき、必要膜面積を低減できる。ただし、処理対象液の不溶化物濃度(濁質濃度)が高い場合には濾過膜31が閉塞しやすい傾向にあるため、処理対象液の不溶化物濃度が低い場合に実施するのが好ましい。
一方、図3に示す浸漬式の膜分離手段30は、膜モジュール33を処理対象液中に浸漬し、膜の二次側を負圧にすることによって濾過を行う。そのため、加圧式と比較して透過流束が低くなるが、不溶化物濃度が高くても、濾過膜が閉塞することなく膜分離できる。
【0063】
(酸化処理工程)
また、本発明の廃水の処理方法は、例えば図4に示す処理装置4を用い、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水を酸化処理する酸化処理工程を有することが好ましい。酸化処理工程では、アンモニアを揮発除去した廃水Wを酸化処理手段50の酸化槽51に移し、酸化剤添加手段52から酸化剤を添加して廃水Wを酸化処理する。
廃水Wに他の錯体形成化合物が含まれている場合、酸化処理工程により廃水Wを酸化処理することで、他の錯体形成化合物が分解される。また、前段のアンモニア除去工程(ストリッピング工程)にてアンモニアを完全に除去しきれなかった場合には、廃水W中に残存するアンモニアも酸化処理工程により分解される。その結果、廃水W中の重金属はより不溶化しやすくなるので、後段の膜分離工程にて不溶化物が分離されやすくなり、処理水W中の重金属濃度をさらに低減できる。加えて、廃水Wを酸化処理することで重金属の不溶化物が粗大化するので、膜分離工程において濾過膜31が不溶化物により閉塞しにくく、膜分離工程を長期間にわたって安定に行うことが可能である。
【0064】
酸化処理工程で用いる酸化剤としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸もしくはこれらの塩、過酸化水素などが挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸もしくはこれらの塩、またはこれらの混合溶液が好ましく、取り扱い性、入手容易性の観点から次亜塩素酸ナトリウム溶液が特に好ましい。
次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸もしくはこれらの塩、またはこれらの混合溶液を酸化剤として用いれば、酸化反応が速やかに進行しやすくなり、全体の処理速度を速めることができる。また、これらは、EDTA、酒石酸などのキレート作用を有する他の錯体形成化合物の分解効率が高いことから、他の錯体形成化合物による不溶化物の凝集阻害を防ぐことができ、重金属の不溶化をより効率的に行うことができるとともに、不溶化物をより粗大化できる。
【0065】
また、特に次亜塩素酸ナトリウムまたはその溶液を酸化剤として用いると、重金属の不溶化物の粒子径が大きくなる傾向にある。不溶化物の粒子径が大きい方が、膜分離工程において濾過膜の細孔が閉塞されるのを抑制でき、膜の流束を高く維持できる。
さらに、廃水Wが無電解ニッケルメッキ廃水など、重金属としてニッケルを含む廃水の場合、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤の添加によって、溶解しているニッケルイオンがオキシ水酸化ニッケル(NiO(OH))に酸化される。オキシ水酸化ニッケルは、一般的に水酸化ニッケル(Ni(OH))と比較して溶解度が低くなるため、高度な排水処理を行う場合には、次亜塩素酸ナトリウムまたはその溶液が酸化剤として特に好ましい。
【0066】
なお、廃水Wへの酸化剤の添加は、廃水W中に含まれる他の錯体形成化合物や、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)において除去しきれなかったアンモニアを酸化処理することが目的であり、過剰に酸化剤を添加することは、薬品の過剰消費となる。また、酸化剤を過剰に添加すると、残存した酸化剤により膜分離工程で用いる濾過膜を酸化させるおそれがある。加えて、酸化剤を過剰に添加すると、最終的に発生するスラッジ量が増加する傾向にある。
以上のことより、酸化処理工程では廃水W中に含まれる他の錯体形成化合物やアンモニアを全て酸化した時点で、廃水W中への酸化剤の添加を停止することが望ましく、過剰添加を制御するのがよい。
酸化剤の添加終了点を検知する方法としては、水質計53を用いた酸化還元電位のモニタリング、酸化剤濃度のモニタリング、他の錯体形成化合物やアンモニアの濃度のモニタリング、といった方法が挙げられる。
【0067】
酸化還元電位のモニタリング;
廃水W中に他の錯体形成化合物やアンモニアが残存している状態であれば、添加した酸化剤は他の錯体形成化合物やアンモニアとの酸化還元反応により消費される。酸化剤が他の錯体形成化合物やアンモニアの酸化により消費されている間は廃水Wの酸化還元電位は低く、酸化分解可能な他の錯体形成化合物やアンモニアが全て酸化されて酸化剤が残存すると廃水Wの酸化還元電位は高くなる。
よって、水質計(酸化還元電位計)53により酸化槽51中の廃水Wの酸化還元電位をモニタリングすれば、酸化還元電位が上昇した時点で、廃水W中の酸化分解可能な他の錯体形成化合物やアンモニアは全て酸化されたものと容易に判断でき、この時点で酸化剤の添加を停止すればよい。
【0068】
酸化剤濃度のモニタリング;
廃水W中に他の錯体形成化合物やアンモニアが残存している状態であれば、添加した酸化剤は消費される。すなわち、酸化剤を連続的に添加している過程において、酸化処理すべき他の錯体形成化合物やアンモニアが残存している間は、酸化剤濃度は低濃度かつ、ほぼ一定で推移する。
よって、水質計(酸化剤濃度計)53により酸化槽51中の酸化剤の濃度をモニタリングすれば、酸化剤濃度が上昇した時点で、廃水W中の酸化分解可能な他の錯体形成化合物やアンモニアは全て酸化されたものと容易に判断でき、この時点で酸化剤の添加を停止すればよい。
なお、酸化剤として次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸もしくはこれらの塩等を用いる場合、酸化剤濃度は、残留塩素濃度を測定することでも求められる。
【0069】
他の錯体形成化合物やアンモニアの濃度のモニタリング;
廃水W中の他の錯体形成化合物やアンモニアを連続的にモニタリングし、これらの濃度が十分に低下した時点で酸化剤の添加を停止すればよい。なお、他の錯体形成化合物の濃度をモニタリングする方法は、他の錯体形成化合物が水質計でモニタリング可能な物質である場合に適用できる。
【0070】
上述した酸化剤の添加終了点の検知方法の中でも、水質計53として用いる酸化還元電位計は、その使用が簡便である点で、酸化還元電位のモニタリングが好ましい。また、酸化還元電位のモニタリングは連続式(連続測定)に対応できるのに対し、酸化剤濃度、および他の錯体形成化合物やアンモニアの濃度のモニタリングはバッチ式(一定間隔でサンプルを採取して測定)に対応しているため、酸化還元電位のモニタリングの方が、他の方法よりも酸化剤の添加終了点をより瞬時に検知できる。
【0071】
酸化還元電位のモニタリングにより酸化剤の添加終了点を検知する場合は、以下のようにするのが好ましい。
すなわち、酸化剤濃度が上昇する(酸化剤の添加が過剰となる)タイミングにおける酸化還元電位を予め測定しておくのが好ましい。これにより、事前に測定した酸化還元電位の値を判断基準とできるので、より容易に酸化剤の添加停止のタイミングを見極めることができる。
【0072】
ただし、酸化還元電位のモニタリングや酸化剤濃度のモニタリングでは、酸化剤の添加量が不足しているかどうかを判断するのは困難である。このような場合は、廃水W中の他の錯体形成化合物やアンモニアの濃度などから、全ての他の錯体形成化合物やアンモニアを酸化処理するのに必要な酸化剤量を予測し、その予測量よりも多い量の酸化剤を添加する。そして、酸化還元電位のモニタリングや酸化剤濃度のモニタリングにより、酸化剤が過剰と判断されれば酸化剤の添加を停止したり、添加量を減らしたりすればよい。
【0073】
なお、上述した方法では、酸化処理工程での酸化処理方法として酸化剤添加法を例示したが、例えばオゾン酸化法、光触媒法、生物酸化法などでもよい。ただし、制御の簡便性や反応速度の観点から、酸化処理方法としては酸化剤添加法が好ましい。
また、酸化処理方法として、塩素系の酸化剤を用いた酸化剤添加法を採用する場合には、塩素ガスまたはアンモニア酸化によるクロラミンなど、臭気成分が発生するため、発生濃度に応じてガス回収を行うのが望ましい。
【0074】
(沈殿分離工程)
さらに、本発明の廃水の処理方法は、例えば図5に示す廃水の処理装置5を用い、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水W中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程を有することが好ましい。
沈殿分離工程では、アンモニアを揮発除去した廃水Wを沈殿分離手段60の沈殿槽61に移し、重金属の不溶化物を沈殿させ、上澄み液Wと沈殿濃縮水Wとに分離する。
上澄み液Wは、膜分離工程に移され、濾過水Wと膜分離濃縮水Wとにさらに膜分離される。上澄み液Wには沈殿分離工程によって完全に沈殿除去されなかった微細な重金属の不溶化物が存在するが、膜分離工程によって微細な不溶化物は除去される。
一方、沈殿濃縮水Wは、通常、脱水され、脱水ケーキ等の産業廃棄物として処理される。
【0075】
アンモニア除去工程(ストリッピング工程)と膜分離工程との間に、沈殿分離工程を行えば、膜分離工程にて膜分離する前に、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)において不溶化した廃水中の重金属の大部分を廃水から除去できる。従って、膜分離工程にて除去する粒子量が削減されるので、濾過膜の負担が軽減され、より安定した濾過運転を継続できる。
【0076】
また、本発明の廃水の処理方法は、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)と膜分離工程との間に、酸化処理工程と沈殿分離工程の両方を有していてもよい。酸化処理工程と沈殿分離工程の両方を有する場合、これらの実施順序は特に制限されず、酸化処理工程の後で酸化処理した廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程を行ってもよいし、沈殿分離工程の後で重金属を沈殿分離した廃水を酸化処理する酸化処理工程を行ってもよい。
ところで、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)において生成する重金属の不溶化物の粒子は微細となる傾向にあり、沈殿分離工程を行う場合、沈殿速度が遅くなることがある。沈殿速度が遅い場合には、沈殿槽を大型化するなどの対処が必要となることがある。
しかし、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)と膜分離工程との間に、酸化処理工程と、酸化処理した廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程とを行えば、酸化処理工程によって粗大化した重金属の不溶化物を沈殿分離工程にて沈殿分離できる。よって、沈殿速度を高めることができ、沈殿分離工程において短時間で重金属を沈殿させることができるので、沈殿槽を大型化する必要がない。
【0077】
以上説明した廃水の処理方法では、図1〜5に示すように、廃水Wを各手段に連続的に流して各工程を行っているが、例えば図6に示す廃水の処理装置6を用い、以下のようにして各工程を行ってもよい。
すなわち、貯留槽11から廃水Wを膜分離槽32に移した後、廃水Wの供給を止めてから、膜分離槽32中の廃水Wにアルカリ剤添加手段22からアルカリ剤を添加し、散気手段24を用いて廃水Wを曝気しながら、廃水W中のアンモニアを揮発除去する(アンモニア除去工程(ストリッピング工程))。
水質計23にて廃水W中のアンモニア濃度や廃水WのpHなどをモニタリングし、アンモニアが廃水Wから十分に除去されたのを確認した後、酸化剤添加手段52から酸化剤を添加し、廃水Wを酸化処理する(酸化処理工程)。
ついで、水質計53にて酸化剤の添加終了点を検知した後、吸引ポンプP2を稼働させて膜分離槽32内の廃水Wを膜モジュール33の濾過膜の細孔を介して吸引ろ過することで廃水Wを濾過水Wと膜分離濃縮水Wとに分離する(膜分離工程)。このとき、ブロワーB2より送気された空気を散気手段34から膜分離槽32内に散気させて、濾過膜を洗浄する。
ついで、濾過水WをpH調整手段40のpH調整槽41に移し、濾過水WのpHを河川等への放流に適したpHに調整し、処理水Wとして排出する(pH調整工程)。
一連の工程が終了した後、再び貯留槽11から廃水Wを膜分離槽32に移して、同様の工程を繰り返す。
【0078】
なお、膜分離手段30により分離された膜分離濃縮水Wの一部を、膜分離槽32や貯留槽11に返送してもよい。
また、酸化処理工程では、散気手段24を用いて廃水Wを曝気しながら酸化剤を添加して酸化処理を行ってもよい。廃水Wを曝気しながら酸化処理すれば、酸化剤が均一に廃水Wに拡散しやすくなり、より効率よく酸化処理できる。
【0079】
さらに、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)後、かつ酸化処理工程前に、散気手段24からの散気を停止して廃水Wの曝気をやめ、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)にて生成した重金属の不溶化物を膜分離槽32に沈殿させてもよいし、酸化処理工程後、かつ膜分離工程前に、散気手段24からの散気を停止して廃水Wの曝気をやめ、酸化処理した廃水中の重金属の不溶化物を膜分離槽32で沈殿させてもよい(沈殿分離工程)。特に、酸化処理工程後に沈殿分離工程を行うのが好ましい。
なお、沈殿分離工程を行った場合は、膜分離工程において散気手段34からの散気を停止して膜分離するのが好ましい。この場合、膜分離工程により膜分離槽32内の全ての廃水Wを濾過水Wと膜分離濃縮水Wとに分離した後で、膜分離槽32に沈殿した不溶化物を除去し、さらに膜分離槽32に水などの洗浄液を投入し、ブロワーB2を稼働させて濾過膜を洗浄すればよい。
【0080】
また、例えば図7に示す廃水の処理装置7を用い、膜分離手段30の散気手段34を、アンモニア除去工程(ストリッピング工程)において用いてもよい。
【0081】
以上説明した廃水の処理方法のアンモニア除去工程は、ストリッピング処理によりアンモニアを揮発除去する工程(ストリッピング工程)であるが、アンモニア除去工程としては、例えば熱処理によりアンモニアを揮発除去する工程(熱処理工程)であってもよい。
熱処理工程における熱処理温度は、概ね外気温(室温)以上に加温するものであって、その温度は25〜50℃がより好ましい。熱処理工程では、アルカリ剤を廃水に添加して遊離アンモニアを生成させた後、廃水を所定の熱処理温度に加温あるいは加熱する。
【0082】
このように、本発明の廃水の処理方法であれば、廃水に凝集剤を添加しなくても廃水を高度に処理でき、重金属濃度を十分に低減できるが、必要であれば凝集剤を添加してもよい。ただし、凝集剤の添加量が少ないほど、薬剤費用を削減できるとともに、発生するスラッジ量を軽減できるので、スラッジの処分費用をも削減できる。また、膜濾過手段の膜が閉塞するのを抑制できる。従って、凝集剤を添加しなくても目標の処理水質を達成できる場合には、凝集剤は添加しない方が好ましい。
凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム等の無機凝集剤や、ポリアクリルアミド系凝集剤等の高分子凝集剤などが挙げられる。
なお、凝集剤を添加する場合、凝集剤の添加のタイミングはアンモニア除去工程と膜分離工程との間であり、酸化処理工程を行う場合には酸化処理工程と膜分離工程の間であり、沈殿分離工程を行う場合にはアンモニア除去工程と沈殿分離工程との間であり、酸化処理工程の後に沈殿分離工程を行う場合には酸化処理工程と沈殿分離工程との間である。
【0083】
また、本発明の廃水の処理方法であれば、廃水に不溶化剤を添加しなくても、アンモニア除去工程にてアルカリ剤を添加することで廃水がアルカリ性となるため、廃水中の重金属が不溶化し、廃水を高度に処理できるが、必要であれば不溶化剤を添加して、不溶化処理を行ってもよい。ただし、不溶化剤の添加量が少ないほど、薬剤費用を削減できる。従って、不溶化手段を備えなくても目標の処理水質を達成できる場合には、不溶化剤は添加しない方が好ましい。
不溶化処理の方法としては、水酸化剤(アルカリ剤)を用いた水酸化物法と、硫化剤を用いた硫化物法がある。なお、硫化物法の場合は硫化水素発生のおそれがあるため、不溶化処理としては水酸化物法が好ましい。
【0084】
水酸化物法は、水酸化剤(水酸化物イオン)と対象金属とを反応させ、溶解度の低い金属水酸化物として析出させる方法である。
水酸化剤としては、アンモニア除去工程の説明において例示したアルカリ剤が挙げられる。
【0085】
一方、硫化物法は、硫化剤(硫化物イオン)と対象金属を反応させ、溶解度の低い金属硫化物として析出させる方法である。
硫化剤としては、硫化ナトリウム、硫化水素などが用いられる。
【0086】
なお、水酸化物法によって不溶化処理を行う場合、重金属は各金属種によって溶解度が最も低くなるpH領域が異なる。そのため、本発明においても除去対象となる重金属の種類によって、廃水のpHを適宜調整すればよい。
ただし、アンモニア除去工程における廃水のpHは10〜11が好ましいため、不溶化に適したpHがこの範囲から外れている場合には、一旦、アンモニア除去工程において廃水のpHを10〜11に調整してアンモニアを除去した後で、不溶化に適したpHに調整し直し、改めて重金属の不溶化を促進することが望ましい。
【0087】
なお、不溶化剤を添加する場合、凝集剤の添加のタイミングはアンモニア除去工程と膜分離工程との間であり、酸化処理工程を行う場合には酸化処理工程と膜分離工程の間であり、沈殿分離工程を行う場合にはアンモニア除去工程と沈殿分離工程との間であり、酸化処理工程の後に沈殿分離工程を行う場合には酸化処理工程と沈殿分離工程との間である。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
[実施例1]
廃水として、無電解ニッケルメッキ工程より排出されたニッケル含有廃水を用いた。廃水中のニッケル濃度は1900mg/L、アンモニア濃度は、アンモニア態窒素(NH−N)濃度として880mg/Lであった。また、廃水のpHは4.6であった。
上記ニッケル含有廃水500mLに、アルカリ剤として10mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を添加して、廃水のpHを10に調整した。
この廃水を5分間攪拌した後、25℃で曝気を5時間行い、アンモニアストリッピング処理を行い、アンモニアを揮発除去するとともに、ニッケルの不溶化物を生成した(アンモニア除去工程(ストリッピング工程))。
ついで、アンモニアを揮発除去した廃水を、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜(三菱レイヨン株式会社製、「ステラポアーSADF」、公称孔径0.4μm)を用いて、濾過水と膜分離濃縮水に膜分離し(膜分離工程)、廃水の処理を行った。
得られた濾過水中のニッケル(Ni)およびアンモニア態窒素(NH−N)の濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例2]
曝気をせず、25℃で5時間放置した以外は、実施例1と同様にして廃水の処理を行い、濾過水中のニッケルおよびアンモニア態窒素の濃度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0091】
[比較例1]
水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして廃水の処理を行い、濾過水中のニッケルおよびアンモニア態窒素の濃度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、実施例1、2の場合、濾過水中のニッケルおよびアンモニア態窒素の濃度はいずれも低い値であり、ニッケルを十分に除去することができた。特に、ストリッピング処理によりアンモニアを揮発除去した実施例1では、熱処理によりアンモニアを揮発除去した実施例2に比べて、濾過水中のニッケル濃度が著しく低下し、より効果的にニッケルを除去することができた。
一方、水酸化ナトリウムを添加せずに曝気した比較例1の場合、濾過水中のニッケル濃度が実施例1、2に比べて高く、ニッケルを十分に除去できなかった。また、濾過水中のアンモニア態窒素の濃度が高いことから、アンモニアが十分に除去されていないことが示された。
【0094】
[実施例3]
廃水として、無電解ニッケルメッキ工程より排出されたニッケル含有廃水を用いた。廃水中のニッケル濃度は1720mg/L、アンモニア濃度は、アンモニア態窒素(NH−N)濃度として880mg/Lであった。また、廃水のpHは4.6であった。
上記ニッケル含有廃水1000mLに、アルカリ剤として10mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を添加して、廃水のpHを11に調整した。
この廃水を5分間攪拌した後、25℃で曝気を2時間行い、アンモニアストリッピング処理を行い、アンモニアを揮発除去するとともに、ニッケルの不溶化物を生成した(アンモニア除去工程(ストリッピング工程))。
水酸化ナトリウム溶液を添加する前、および曝気開始から1時間経過毎にサンプリングを行い、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜(三菱レイヨン株式会社製、「ステラポアーSADF」、公称孔径0.4μm)を用いて、濾過水と膜分離濃縮水に膜分離し、濾過水中のニッケル(Ni)およびアンモニア態窒素(NH−N)の濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0095】
また、曝気開始から2時間経過した後の廃水に、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)溶液(有効塩素濃度12質量%)を30mL添加し、5分間攪拌して酸化処理した。
次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加する前の廃水、および次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加し、5分間攪拌した後の廃水に含まれるニッケルの不溶化物について、粒子分布を測定した。測定は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、「LA−920」)を用い、粒子径は体積を基準として、頻度分布を計測した。モード径(出現比率がもっとも大きい粒子径)を表3に示す。
また、次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加した後の廃水を、ポリフッ化ビニリデン製の中空糸膜(三菱レイヨン株式会社製、「ステラポアーSADF」、公称孔径0.4μm)を用いて、濾過水と膜分離濃縮水に膜分離し、濾過水中のアンモニア態窒素(NH−N)の濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
表2から明らかなように、廃水に水酸化ナトリウムを添加することで、濾過水中のニッケルおよびアンモニア態窒素の濃度が低減されることが示された。
また、表3から明らかなように、水酸化ナトリウムを添加し、ストリッピング処理を行った後の廃水に、次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加することで、ニッケルの不溶化物が粗大化することが示された。また、濾過水中のアンモニア態窒素の濃度が、次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加する前に比べて低減されていることから、次亜塩素酸ナトリウム溶液によってアンモニアが分解されたことが示された。
【符号の説明】
【0099】
1、2、3、4、5、6、7 廃水の処理装置
10 貯留手段
20 アンモニア除去手段(ストリッピング手段)
24 散気手段
30 膜分離手段
40 pH調整手段
50 酸化処理手段
60 沈殿分離手段
廃水
濾過水
膜分離濃縮水
処理水
上澄み液
沈殿濃縮水



【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属およびアンモニアを含む廃水の処理方法であって、
廃水にアルカリ剤を添加し、アンモニアを揮発除去するアンモニア除去工程と、アンモニアを揮発除去した廃水を膜分離する膜分離工程とを有する、廃水の処理方法。
【請求項2】
前記アンモニア除去工程は、廃水を曝気することによりなされる、請求項1に記載の廃水の処理方法。
【請求項3】
前記アンモニア除去工程と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水を酸化処理する酸化処理工程を有する、請求項1または2に記載の廃水の処理方法。
【請求項4】
前記アンモニア除去工程と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程を有する、請求項1または2に記載の廃水の処理方法。
【請求項5】
前記アンモニア除去工程と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水を酸化処理する酸化処理工程と、酸化処理した排水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程とを有する、請求項1または2に記載の廃水の処理方法。
【請求項6】
前記アンモニア除去工程と膜分離工程との間に、アンモニアを揮発除去した廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離工程と、重金属を沈殿分離した廃水を酸化処理する酸化処理工程とを有する、請求項1または2に記載の廃水の処理方法。
【請求項7】
前記酸化処理工程が、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化剤の添加によりなされる、請求項3、5、6のいずれか一項に記載の廃水の処理方法。
【請求項8】
重金属およびアンモニアを含む廃水の処理装置であって、
廃水にアルカリ剤を添加し、アンモニアを揮発除去するアンモニア除去手段と、アンモニアを揮発除去した廃水を膜分離する膜分離手段とを備える、廃水の処理装置。
【請求項9】
前記アンモニア除去手段は、廃水を曝気する散気手段を備える、請求項8に記載の廃水の処理装置。
【請求項10】
アンモニアを揮発除去した膜分離前の廃水を酸化処理する酸化処理手段を備える、請求項8または9に記載の廃水の処理装置。
【請求項11】
アンモニアを揮発除去した膜分離前の廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離手段を備える、請求項8または9に記載の廃水の処理装置。
【請求項12】
アンモニアを揮発除去した膜分離前の廃水を酸化処理する酸化処理手段と、酸化処理後かつ膜分離前の廃水中の重金属、またはアンモニアを揮発除去した酸化処理前の廃水中の重金属を沈殿分離する沈殿分離手段とを備える、請求項8または9に記載の廃水の処理装置。
【請求項13】
前記アンモニア除去手段の下流に、酸化処理手段、沈殿分離手段、膜分離手段を順に備える、請求項12に記載の廃水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−10073(P2013−10073A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144109(P2011−144109)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】