説明

廃水処理方法

【課題】処理によって二次汚染や多量の産業廃棄物を生じさせることなく、廃水中の環境ホルモン物質を生物処理によって処理水中の濃度を1.0μg/L以下に低減でき、しかも生物処理に要する時間も短縮できる廃水処理方法を提供する。
【解決手段】グラフから、滞留時間を延長したとしても、ビスフェノールA分解速度を低下させるだけでビスフェノールA濃度を低下させることができないことが判明した。また、各生物処理槽において、ビスフェノールA濃度が流入時の1/10まで低下した時点で各処理水の導出を行なうようにすれば、常に最適な処理速度で分解することができる。なお、a2 →b2 →c1 の各プロットを通過する操作線よりも、a1 →b1 →c1 の各プロットを通過する操作線で処理すれば、ビスフェノールA濃度を1.0μg/L以下にする時間を最短にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃水処理方法に係り、特に環境ホルモン物質を含有する廃水に対して環境ホルモン物質分解可能な微生物を固定化した状態で接触させて生物処理を行なう廃水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外因性内分泌攪乱物質(以下、環境ホルモン物質と記す)とは、生体内に取り込まれた場合に正常なホルモン作用に影響を与える化学物質を指し、環境水中に存在するいくつかの化学物質が動物の生殖機能を阻害する可能性が指摘されている。しかしながら、これら環境ホルモン物質は、現時点において規制項目として指定されていない。そのため、従来の廃水処理(最初沈殿池、曝気槽、最終沈澱池から構成される活性汚泥による生物処理を行なう下水処理場や、凝集沈澱や固液分離などを行なった後に生物処理を行なう産業廃水処理や浸出水処理など)は、BODやアンモニア性窒素を処理対象としており、元々環境ホルモン物質を対象としていないため、廃水中の環境ホルモン物質に対する処理が充分に行なわれているとは言い難い。
【0003】
上述した環境ホルモン物質の中で、特にビスフェノールAとノニルフェノールは、産業界において頻繁に使用されており、その処理目標値として最終処理水の濃度が1.0μg/ L以下にすることが求められている。
【0004】
従来、環境ホルモン物質の処理として様々な提案がなされており、主に酸化分解や吸着処理などが一般的である。特許文献1では、環境ホルモン物質含有廃水(以下、廃水と記す)を分離濃縮した後に、オゾンや過酸化水素、紫外線、触媒などから発生させた活性酸素によって酸化処理する処理装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、オゾン処理及び紫外線照射を同時に行なう促進酸化処理と凝集処理と生物処理とを組み合わせることにより、余剰汚泥への環境ホルモン物質の移行や濃縮を防止する処理装置が開示されている。
【0006】
その他にも、紫外線や過酸化水素、二酸化チタンなどを組み合わせた光化学的処理、電気化学的処理、超音波処理などが検討されている。
【0007】
一方、特許文献3では、活性炭などの疎水性材料と接触させて吸着処理することにより、環境ホルモン物質濃度を0.1μg/ L以下に低減できる処理方法及び装置が開示されている。
【特許文献1】特開2000−354894号公報
【特許文献2】特開2000−354892号公報
【特許文献3】特開2000−140834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、廃水中に含有される環境ホルモン物質は、極めて低濃度で存在している上、他の夾雑物質と混在した状態である。そのため、特許文献1及び2などの酸化処理や、光化学的処理、電気化学的処理、超音波処理などでは、環境ホルモン物質に対する処理効率が悪いばかりでなく、処理時における副生成物の発生や酸化物質の残留という二次汚染の問題があった。
【0009】
特許文献3における吸着処理では、上述した二次汚染の問題を解消することができるが、吸着処理後の活性炭に対する処理を行なう際に、産業廃棄物が大量に発生するという新たな問題が生じる。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、処理によって二次汚染や多量の産業廃棄物を生じさせることなく、廃水中の環境ホルモン物質を生物処理によって処理水中の濃度を1.0μg/L以下に低減でき、しかも生物処理に要する時間も短縮できる廃水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、廃水中に含有される環境ホルモン物質を分解して処理する廃水処理方法において、前記環境ホルモン物質分解能を有する環境ホルモン分解菌を包括固定化又は付着固定化した状態で前記廃水と接触させる生物処理を、2段処理以上で行なうことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、環境ホルモン物質分解菌を固定化された状態で廃水と接触させる生物処理が行なわれるので、廃水中の環境ホルモン物質が固定化された環境ホルモン物質分解菌によって生物学的に分解処理される。これにより、廃水中の環境ホルモン物質を処理する際に、難分解性の環境ホルモン物質を微生物によって完全に生物分解することができるので、従来法での問題点である副産毒物の生成や酸化物質の残存などによって二次汚染が発生することを確実に防止することができる。
【0013】
しかしながら、上述した生物処理の問題点としては、処理効率を向上させるために廃水の滞留時間を延長しても、時間とともに環境ホルモン物質に対する分解速度が低下する傾向があり、そのため処理に多くの時間を要してしまうという点があった。
【0014】
この問題に対処するために、本発明では、生物処理を2段処理以上に分割して行なうようにした。これにより、各生物処理によって廃水中の環境ホルモン物質を常に高い分解速度で完全に生物分解することができるため、処理に要する時間を大幅に短縮することができるとともに、処理水中の環境ホルモン物質濃度を処理目標値である1.0μg/L以下まで低減することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の2段処理以上の各段における生物処理は、環境ホルモン物質濃度が流入時の1/10まで低下した時点で次の段に移行させることを特徴とする。
【0016】
請求項2によれば、環境ホルモン分解菌における環境ホルモン物質分解速度は、環境ホルモン物質濃度が流入時の1/10まで低減した時点で急激に低下する傾向にある。したがって、各段の生物処理を環境ホルモン物質濃度が1/10まで低減したときに、その生物処理を終了して次段の生物処理に送水したり、又は処理水として排出したりするように各生物処理を設定すれば、各生物処理に要する時間を最低限にまで短縮することができるので、廃水処理全体に要する時間を効果的に低減することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の環境ホルモン分解菌は、優先繁殖させた状態で前記廃水と接触させることを特徴とする。
【0018】
請求項3によれば、生物処理に使用される環境ホルモン物質分解菌は、通常の環境では他の微生物により捕食されたりして発育し難く、その活性度が低い。そこで、環境ホルモン物質が多く存在する環境下で優先繁殖させることにより、生物処理における優性菌として存在させることができるので、環境ホルモン物質の分解能を活性化させるだけでなく、他の微生物による捕食を防止することができる。したがって、効率のよい生物処理を短時間で安定して行なうことができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうち何れか1つに記載の生物処理は、次段処理への移行をピストンフロー式に行なうことを特徴とする。これにより、各生物処理における環境ホルモン物質の濃度勾配を段階的に形成することができるので、より効率のよい生物処理を行なうことができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のうち何れか1つに記載の生物処理において、前記包括固定化又は付着固定化した担体当たりの環境ホルモン物質濃度の負荷は、1段目では300μg/ L−担体/h以上に、2段目では140μg/L−担体/h以上に、3段目以降では1.0μg/L−担体/h以上にすることを特徴とする。
【0021】
請求項5によれば、各生物処理の環境ホルモン物質濃度の負荷を上述した条件になるように、流水量や廃水中の環境ホルモン濃度、環境ホルモン物質分解菌量を調整することにより、環境ホルモン物質に対する生物処理を最適な状態で常に安定して行なうことができるので、環境ホルモン物質濃度を1.0μg/L以下まで処理するのに要する全時間を5.6時間にまで短縮することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のうち何れか1つに記載の環境ホルモン物質分解菌は、前記廃水と活性炭と共存させた状態で接触し、前記活性炭は、前記環境ホルモン物質分解菌を包括固定化又は付着固定化した担体当たりの濃度が0. 6〜4.5%の範囲で共存することを特徴とする。
【0023】
請求項6によれば、環境ホルモン物質分解菌と活性炭とを共存した状態で廃水と接触させると、廃水中の環境ホルモン物質が環境ホルモン物質分解菌によって生物分解されるとともに、共存した活性炭に吸着される。活性炭に吸着された環境ホルモン物質は共存した環境ホルモン物質分解菌によって分解処理されるので、活性炭は吸着力を自然に回復して再び廃水中の環境ホルモン物質を吸着することができる。これにより、積極的に廃水中の環境ホルモン物質を固定化した環境ホルモン物質分解菌に濃縮して分解することができる。また、その他にも共存した活性炭による触媒効果を得ることができる上、活性炭を包括固定化することにより包括固定化担体内にゲルと活性炭との間に空洞を形成することができる。この空洞において、高密度な微生物の増殖を誘発することが可能となるため、廃水中の環境ホルモン物質を迅速かつ効率よく低減することができる。なお、活性炭は、担体中に0.6〜4.5%の範囲の濃度で共存することにより、担体の強度を向上させることができると共に、担体における環境ホルモン物質の除去率を向上させることができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のうち何れか1つに記載の環境ホルモン物質は、ビスフェノールAであることを特徴とする。これにより、様々な産業に多く使用され、廃水中から大量かつ高頻度に検出される環境ホルモン物質であるビスフェノールAに対して、二次汚染や産業廃棄物の大量発生を生じさせることなく効率のよい処理を行なうことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明に係る廃水処理方法によれば、環境ホルモン物質分解菌を包括固定化又は付着固定化した状態で廃水と接触させる生物処理を2段処理以上に分割して行なうようにしているので、環境ホルモン物質を分解処理する際に副産毒物などによる二次汚染や多量の産業廃棄物を発生させることなく、最小限の生物処理時間で環境ホルモン物質濃度を処理目標値である1.0μg/L以下まで処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下添付図面に従って本発明に係る廃水の処理方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0027】
図1は、本発明における第1の実施の形態である廃水処理装置10の構成を示した説明図であり、環境ホルモン物質としてビスフェノールAを対象としたものである。
【0028】
廃水処理装置10は、上流から順に第1の生物処理槽12と、第2の生物処理槽14と、第3の生物処理槽16と、が直列して配置されることにより構成される。
【0029】
第1の生物処理槽12は、導入管18から供給されたビスフェノールAを含有する廃水を所定の時間滞留させて、槽内に充填された多数の担体26,26…と接触させることにより生物処理が行なわれる。こうして生物処理された廃水は、スクリーン28を通過することにより担体26,26…が分離された後、第1の処理水として第1の連結管20から排出される。
【0030】
第2の生物処理槽14は、第1の生物処理槽12で処理された第1の処理水を所定の時間滞留させて、充填された多数の担体26,26…と接触させることにより生物処理が行なわれる。こうして生物処理された第1の処理水は、スクリーン28を通過することにより担体26,26…が分離された後、第2の処理水として第2の連結管22から排出される。
【0031】
第3の生物処理槽16は、第2の生物処理槽14で処理された第2の処理水を所定の時間滞留させて、槽内に充填された多数の担体26,26…と接触させることにより生物処理が行なわれる。こうして生物処理された第2の処理水は、スクリーン28を通過することにより担体26,26…が分離された後、処理水として導出管24から系外へ排出される。
【0032】
担体26,26…は、ビスフェノールA分解能を有する微生物である環境ホルモン物質分解菌が活性炭と混合されると同時に優先繁殖した状態で包括固定化又は付着固定化されて形成される。環境ホルモン物質分解菌を固定化した担体26,26…としては、例えばビスフェノールAを高濃度に含有される下水を処理する下水処理場において、環境ホルモン物質分解菌の菌体濃度が106 〜109 cells/mLの範囲で存在する活性汚泥を採取して、ビスフェノールA含有廃水中で15〜30°C、7日間以上馴養して優先繁殖させたものを使用することが好ましい。なお、環境ホルモン物質分解菌の優先繁殖は、活性汚泥の固定化前又は後のどちらか、又は両方で行なってもよい。
【0033】
包括固定化担体26,26…とは、モノマ材料やプレポリマ材料と環境ホルモン物質分解菌及び活性炭とを混合し、この混合液を重合して包括固定化して得られた担体を言う。モノマ材料としては、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、トリアクリルフォルマールなどを好適に使用することができる。プレポリマ材料としては、ポリエチレングリコールジアクリレートやポリエチレングリコールメタアクリレートがよく、その誘導体を使用することができる。この包括固定化担体26,26・・・ の形状は立方体状(キュービック状)、球状、筒状の他、ひも状、不織布状などを好適に使用でき、特に担体26,26…表面に凹凸が多いものは接触効率がよいので一層好ましい。
【0034】
また、付着固定化した担体26,26…とは、廃水中で流動可能な粒上の付着担体や、廃水中に固定床として充填される付着充填材を好適に用いて、高濃度の環境ホルモン物質分解菌、例えばビスフェノールAを高濃度に含有する下水を処理する下水処理場の活性汚泥と接触させることにより、付着担体や付着充填材の表面上に付着させて形成させたものである。付着担体や付着充填材の形状や材質は、例えばプラスチックの担体、波板、網状シート、ハニカム状のものなどを好適に使用できる。付着担体としては、球状、円筒状、マカロニ状などがよく、表面に凹凸を形成させることにより環境ホルモン物質分解菌を付着させ易くすることができる。なお、これら付着担体や付着充填材として活性炭を使用すれば、環境ホルモン物質分解菌の付着及び共存を簡易化することができるとともに、環境ホルモン物質分解菌と活性炭との接触効率を向上させた担体26,26…を形成することができる。なお、このときの活性炭量は、固定化された担体26当たり0.6〜4.5%の範囲、好ましくは1〜4%の範囲の濃度で共存させることが好ましい。
【0035】
この廃水処理装置10において、第1の生物処理槽12では、1担体当たりのビスフェノールA濃度が300μg/L−担体/h以上、好ましくは800μg/L−担体/h以上になるように、充填される担体26,26…の量や、廃水の供給量及び滞留時間が調整される。また、第2の生物処理槽14では1担体当たりのビスフェノールA濃度が140μg/L−担体/h以上、好ましくは400μg/L−担体/h以上になるように、充填される担体26,26…の量や、第1の処理水の供給量及び滞留時間が調整される。さらに、第3の生物処理槽16では、1.0μg/L−担体/h以上、好ましくは10μg/L−担体/h以上になるように、充填される担体26,26…の量や、第2の処理水の供給量及び滞留時間が調整される。
【0036】
各生物処理槽12,14,16は、各底部へ分岐した曝気管30が設置されており、一端に配置されたブロア32の駆動によって底部からエアが曝気される。これにより、各生物処理槽12,14,16における好気性雰囲気が保持されるとともに、担体26,26…の接触率を向上させることができる。
【0037】
図2は、本発明における第2の実施の形態である廃水処理装置50の構成を示した説明図である。なお、第1の実施の形態と同様の装置及び部材については同符号を付すとともに、その説明は省略する。
【0038】
廃水処理装置50の装置構成は、第1の実施の形態である廃水処理装置10とほぼ同様であるが、底部に曝気管30が配置されている1槽の水槽34に2枚の隔壁36,36を設置して仕切ることにより、第1〜3の生物処理槽12,14,16が形成される。
【0039】
隔壁36は、上流側の槽から下流側の槽へ逆流させることなく流水させるピストンフロー式の構造を有している。したがって、導入管18から第1の生物処理槽12へ流入した廃水は、1担体当たりのビスフェノールA濃度が300μg/L−担体/h以上、好ましくは800μg/L−担体/h以上の条件で担体26,26…と接触して生物処理され、処理された廃水は第1の処理水として隔壁36を介して第2の生物処理槽14へ自然流入する。第2の生物処理槽14へ流入した第1の処理水は、1担体当たりのビスフェノールA濃度が140μg/L−担体/h以上、好ましくは400μg/L−担体/h以上の条件で担体26,26…と接触して生物処理され、処理された第1の処理水は第2の処理水として下流側に位置する隔壁36を介して第3の生物処理槽16へ自然流入する。第3の生物処理槽16へ流入した第2の処理水は、1担体当たりのビスフェノールA濃度が1.0μg/L−担体/h以上、好ましくは10μg/L−担体/h以上の条件で担体26,26…と接触することにより生物処理され、処理された第2の処理水は処理水として導出管24から系外へ排出される。
【0040】
次に、上記の如く構成された本発明における第1及び第2の実施の形態である廃水処理装置10,50の作用について説明する。
【0041】
難分解性を有する環境ホルモン物質の一種であるビスフェノールAを含有する廃水の処理を行なう場合に、従来ではオゾン処理に代表される活性酸素の強酸化力で酸化分解する処理方法が短時間で確実に分解処理できる方法として多く採用されるが、トリハロメタンなど副産毒物の産生や酸化剤の残存など処理によって二次汚染が発生する可能性がある上、処理量を増大させるためには莫大な処理コストを要するという問題があった。
【0042】
一方、廃水を活性炭などの吸着剤と接触させて吸着処理する方法は、副産毒物を生じない処理法としてあらゆる方面で多く用いられているが、吸着後の吸着剤を処理処理する際に多くのコストを要する上、処理後に大量の産業廃棄物が発生するという欠点がある。
【0043】
そこで、本発明では、ビスフェノールAなどの環境ホルモン物質分解能を有する微生物である環境ホルモン物質分解菌が固定化された担体26,26…を廃水と接触させるようにした。このとき、廃水中に含有される環境ホルモン物質は、担体内の環境ホルモン物質分解菌によって生物学的に完全に分解されるので、従来、環境ホルモン物質の処理で生じていた副産物による二次汚染や、多量の産業廃棄物をなくすことができる。
【0044】
表1は、従来及び本発明におけるビスフェノールA(BPA)処理能力と急性毒性を示した表である。なお、本発明法としては、図1又は2の廃水処理装置10,50を用いて全体の滞留時間を5.6時間に設定して処理を行なうとともに、各方法における急性毒性を50%有効量(EC50)に算出して表記した。また、本発明法と比較するため、従来法としてO3 2mg/Lで5分間又は15分間のオゾン処理を行なった。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、本発明法は、処理に要する時間は従来法よりも多く要するものの、従来法と同等又はそれ以上のビスフェノールAに対する処理能力を備える一方、急性毒性を従来法に比べ大幅に低減できることが判明した。このように、本発明を採用することにより、処理水中の毒性を殆ど抑制することができ、かつ処理水中のビスフェノールA濃度を処理目標値である1.0μg/L以下にまで低減することができる。
【0047】
また、本発明で使用される担体26,26…は、ビスフェノールAが多く存在する下水処理場の活性汚泥を固定化しているため、ビスフェノールAに対する高い分解能を有するを高濃度に含有している。その上、透水性を有するポリマ又はプレポリマで包括固定化されているため、内部の環境ホルモン物質分解菌との接触率を向上させることができる。これにより、廃水中に含有されるビスフェノールAに対する分解をさらに促進することができる。
【0048】
さらに、担体26,26…は、上述した微生物と活性炭とを混在した状態で固定化されている。ビスフェノールAなどの環境ホルモン物質は疎水性を有しており、活性炭はこれら疎水性を有する物質に対する吸着・濃縮に優れているので、廃水中のビスフェノールAを積極的に吸着することができる。これにより、微生物によって捕捉できなかったビスフェノールAを廃水から除去することができる。こうして担体26,26…内の活性炭に吸着されたビスフェノールAは、活性炭による触媒効果によって分解される上、担体26,26…中に共存する環境ホルモン物質分解菌によって生物分解されるので、担体26,26…に固定化された活性炭の吸着力を自然に回復することができる。このため、常に吸着力を有する状態に保持することができるので、廃水中のビスフェノールAに対する処理効率を大幅に向上させることができる。
【0049】
その上、活性炭を包括固定化することにより、包括固定化した担体内でゲルと活性炭との間に空洞が形成される。この空洞において、固定化された環境ホルモン物質分解菌を高密度の増殖を誘発することが可能となるので、担体26,26…のビスフェノールA分解能を向上させることができる。これにより、廃水中の環境ホルモン物質を迅速かつ効率よく低減することができる。
【0050】
図3は、本発明で使用される担体26,26…に共存する活性炭濃度に対するビスフェノールA除去率及び担体圧縮強度を示したグラフである。
【0051】
図3のグラフによると、担体26,26…に共存する活性炭濃度を増加させると、ビスフェノールA除去率が高くなる傾向にあるが、担体圧縮強度が低下する傾向にある。一方、活性炭濃度を減少させると、担体圧縮強度は高くなる傾向にあるが、ビスフェノールA除去率が低下する傾向にある。このことから、本願発明者は、ビスフェノールA除去率と担体圧縮強度との面で最適である担体中の活性炭濃度は、0.6〜4.5%の範囲、好ましくは1〜4%の範囲であることを導き出した。これにより、ビスフェノールA除去率を大幅に向上させた強度の高い担体26,26…を提供することができる。
【0052】
ところで、本発明では、廃水の滞留時間を延長して上述した生物処理を行なうのではなく、2段以上に分割して生物処理を行なうことにより、環境ホルモン物質を分解処理することを特徴としている。
【0053】
図4は、従来の1段の生物処理を回分式に行なった際の反応時間に対する廃水中のビスフェノールA濃度の変化を示したグラフである。
【0054】
図4のグラフに示すように、ビスフェノールA濃度が255μg/Lの廃水を12時間まで回分式に生物処理を行なうと、最初の1時間で100μg/L程度まで低減できたが、それ以降はビスフェノールA濃度の分解速度が著しく低下してしまい、最終的にビスフェノールA濃度を69μg/Lまでしか低減することができなかった。この生物処理における1担体当たりのビスフェノールA分解速度の平均は、78μg−BPA/L−担体/Lであった。したがって、回分式にして廃水の滞留時間を延長して生物処理を行なったとしても、ビスフェノールAに対する処理目標値とされる1.0μg/L以下を達成することができないことが判明した。
【0055】
図5は、本発明の廃水処理装置10,50における廃水中のビスフェノールA濃度とビスフェノールA分解速度との関係を示したグラフである。なお、●のプロットは第1の生物処理槽12における値を示し、■のプロットは第2の生物処理槽14における値を示し、▲のプロットは第3の生物処理槽16における値を示している。また、グラフ中の操作線は、以下に示した数1の式から算出される。数1において、dS/dtはビスフェノールA分解速度、Fl は原水流入量(L/h)、Vは生物処理槽容積(L)、S0 は流入水中のビスフェノールA濃度(μg/L)、S1 は流出水中のビスフェノールA濃度(μg/L)を示している。
【0056】
dS/dt=Fl /V(S0 −S1 )……(数1)
図5のグラフに示すように、第1〜3の生物処理槽12,14,16において、ビスフェノールA分解速度が1オーダーの範囲で変動しても、ビスフェノールA処理濃度に変化は殆ど見られなかった。即ち、各生物処理槽12,14,16の滞留時間を延長したとしても、ビスフェノールAに対する分解速度を低下させるだけで、ビスフェノールA濃度を殆ど低下させることができないことが判明した。
【0057】
このことから、ビスフェノールAを生物処理で効率よく分解させるには、一槽で廃水を長時間滞留させて処理を行なうよりも、2段以上に分割して生物処理を各々短時間に行なうようにする方が効率よく低濃度まで分解することができるので、生物処理全体に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0058】
また、各生物処理槽12,14,16において、ビスフェノールA濃度が流入時の1/10まで低下した時点で各処理水の導出を行なうようにすれば、各生物処理槽12,14,16において常に最適な処理速度で分解することができるので、最適な処理能力を維持したまま廃水処理全体の時間短縮を更に促進することができる。
【0059】
なお、図5のグラフにおいて、a2 →b2 →c1 の各プロットを通過する操作線よりも、a1 →b1 →c1 の各プロットを通過する操作線をたどるように、各生物処理槽12,14,16の運転条件を設定することが好ましい。これにより、ビスフェノールA分解速度を常に最適な状態で分解が行なわれるので、ビスフェノールA濃度を1.0μg/L以下まで最短時間で処理することができる。
【0060】
次に、本願発明者は、上述した廃水処理装置10,50を用いて、第1〜3の生物処理槽12,14,16の各処理条件による処理時間の推移を調査した。その結果を図6に示す。図6は、本発明の廃水処理装置10,50における環境ホルモン負荷と滞留時間との関係を示した表である。なお、表に示された各値は、以下に示した数2及び3の式から算出される。数2及び数3において、RTは滞留時間(h)、Lvは担体負荷(μg−BPA/L−担体/h)を示している。
【0061】
l /V=RT=(S0 −S1 )/dS/dt……(数2)
Lv=S0 ×5RT=S0 ×5/(S0 −S1 )/dS/dt……(数3)
図6の表において、右斜線でハッチングされた数値は、全滞留時間が8.5時間以内である各処理条件を示している。なお、全滞留時間が8.5時間とは、一般的な生物処理に要する時間を示している。ハッチングした数値から、1担体当たりにかかるビスフェノールAの負荷は、第1の生物処理槽12では300μg/L−担体/h以上、好ましくは800μg/L−担体/h以上になるように、第2の生物処理槽14では140μg/L−担体/h以上、好ましくは400μg/L−担体/h以上になるように、第3の生物処理槽16では1.0μg/L−担体/h以上、好ましくは10μg/L−担体/h以上になるように、廃水処理装置10,50における運転条件、即ち担体の充填量や、廃水流水量、廃水中のビスフェノールA濃度を調整すれば、系外へ排出される処理水中のビスフェノール濃度を処理目標値である1.0μg/L以下まで安定して低減できる時間を短縮することができることが判明した。そして、図6の表から、本発明の廃水処理装置10,50において、処理全体に要する最短時間は、◎で示した5.6時間であることを本願発明者は導き出した。したがって、本発明の廃水処理方法を採用することにより、ビスフェノールA濃度を処理目標値である1.0μg/L以下まで低減するのに、5.6時間という生物処理では極めて短時間で安定して分解処理を行なうことができると同時に、全て生物処理で行なうので副産毒物の生成や薬剤の残存など処理による二次汚染を完全に防止した廃水中のビスフェノールAに対する処理を行なうことができる。
【0062】
なお、上述した廃水処理装置10,50において、使用される各装置及び部材の個数、形状、材質などは特に限定するものではない。
【0063】
上述した廃水処理装置10,50では、ビスフェノールAを処理対象としたが、特に限定するものではない。処理対象となる環境ホルモン物質の分解能を有する微生物を固定化して各生物処理槽に充填し、上述した条件で多段式に生物処理を行なえば、様々な環境ホルモン物質に対して短時間で効率よく安定して処理することができる。
【0064】
また、廃水処理装置10,50では、下水処理場の活性汚泥を包括固定化又は付着固定化した担体26,26…を使用した例で説明したが、特に限定するものではない。環境ホルモン物質に対する分解能を有する微生物を効率よく接触させて分解可能であれば、固定床や生物膜の状態で各生物処理槽12,14,16に設けてもよい。
【実施例】
【0065】
実施例として、図1の廃水処理装置10を用いて、本発明の廃水処理方法におけるビスフェノールA含有廃水の処理試験を行なった。なお、供試される廃水としては、ビスフェノールAを255μg/Lで含有する水を使用した。
【0066】
その結果を表2に示す。表2は、各生物処理槽12,14,16のビスフェノールAに対する分解速度及び処理能力を示した表である。
【0067】
【表2】

【0068】
上記の結果から、第1の生物処理槽12では、1時間の滞留時間で槽内のビスフェノール濃度を255μg/Lから90μg/Lまで低減することができた。次に、第2の生物処理槽14では、1時間の滞留時間で槽内のビスフェノールA濃度を90μg/Lから10μg/Lまで低減することができた。次に、第3の生物処理槽16では、流入したビスフェノール濃度が10μg/Lと低濃度であったため、滞留時間を3.6時間要したものの、処理目標値である1μg/Lを満たすことができた。しかも、各生物処理槽12,14,16において上述した担体充填量及び滞留時間で処理を行なうことにより、ビスフェノールAの処理濃度が1/10に達した時点で、次の段へ移行させるための最適な処理条件を満たすことができた。
【0069】
このように、本発明の廃水処理方法を採用することにより、各生物処理における処理速度の低下を効果的に防止することができるので、処理全体に要する時間を5.6時間まで低減することができることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明における第1の実施の形態である廃水処理装置の構成を示した説明図
【図2】本発明における第2の実施の形態である廃水処理装置の構成を示した説明図
【図3】本発明で使用される担体に共存する活性炭濃度に対するビスフェノールA除去率及び担体圧縮強度を示したグラフ
【図4】従来の1槽で回分式に処理を行なった際の反応時間に対する廃水中のビスフェノールA濃度の変化を示したグラフ
【図5】本発明の廃水処理における廃水中のビスフェノールA濃度とビスフェノールA分解速度との関係を示したグラフ
【図6】本発明の廃水処理における環境ホルモン負荷と滞留時間との関係を示した表
【符号の説明】
【0071】
10,50…廃水処理装置、12…第1の生物処理槽、14…第2の生物処理槽、16…第3の生物処理槽、18…導入管、20…第1の連結管、22…第2の連結管、24…導出管、26…担体、28…スクリーン、30…曝気管、32…ブロア、34…水槽、36…隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水中に含有される環境ホルモン物質を分解して処理する廃水処理方法において、
前記環境ホルモン物質分解能を有する環境ホルモン分解菌を包括固定化又は付着固定化した状態で前記廃水と接触させる生物処理を、2段処理以上で行なうことを特徴とする廃水処理方法。
【請求項2】
前記2段処理以上の各段における生物処理は、環境ホルモン物質濃度が流入時の1/10まで低下した時点で次の段に移行させることを特徴とする請求項1に記載の廃水処理方法。
【請求項3】
前記環境ホルモン分解菌は、優先繁殖させた状態で前記廃水と接触させることを特徴とする請求項1又は2に記載の廃水処理方法。
【請求項4】
前記生物処理は、次段処理への移行をピストンフロー式に行なうことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の廃水処理方法。
【請求項5】
前記生物処理において、前記包括固定化又は付着固定化した担体当たりの環境ホルモン物質濃度の負荷は、1段目では300μg/ L−担体/h以上に、2段目では140μg/L−担体/h以上に、3段目以降では1.0μg/L−担体/h以上にすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の廃水処理方法。
【請求項6】
前記環境ホルモン物質分解菌は、前記廃水と活性炭と共存させた状態で接触し、
前記活性炭は、前記環境ホルモン物質分解菌を包括固定化又は付着固定化した担体当たりの濃度が0. 6〜4.5%の範囲で共存することを特徴とする請求項1〜5の何れか1つに記載の廃水処理方法。
【請求項7】
前記環境ホルモン物質は、ビスフェノールAであることを特徴とする請求項1〜6の1つに記載の廃水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−75769(P2006−75769A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264153(P2004−264153)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000005452)日立プラント建設株式会社 (1,767)
【Fターム(参考)】