説明

廃蛍光管の中の廃蛍光粉から水銀を蒸留する水銀蒸留装置および水銀回収方法。

【課題】廃蛍光管の中に含まれる廃蛍光粉から有毒な水銀を低温、かつ短時間で回収する方法及び装置を提供し、水銀回収に要する消費電力を低減する。
【解決手段】廃蛍光粉をミキサーキルン1またはロータリーキルン中、窒素等の不活性ガス雰囲気あるいは水素等の還元ガス雰囲気下で攪拌しながら、200〜330度の温度で0.3〜3時間の加熱を行うか、または550〜650度の温度で0.2〜2時間の加熱を行うことにより、水銀を気化させ、気化した水銀を冷却装置6内で凝縮させることによって回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃蛍光管の中の廃蛍光粉から有毒な水銀を回収する、乾式の水銀回収装置および水銀回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、廃蛍光管ガラスの内側に付着している廃蛍光粉は廃蛍光管ガラス管内を
圧縮空気で引っ張って取り出したり、破砕して、撹拌によって、蛍光管ガラスから分離して取り出すなどの乾式法か、または酸洗いなどの湿式法で取り出されており、この関係の特許も数多く出願されている。
【特許文献1】特開2005−230660
【特許文献2】特開2003−220379
【特許文献3】特開2004−57957
【特許文献4】特開2003−168370
【特許文献5】特開2004−230372
【特許文献6】特開2003−45336
【0003】
取り出した廃蛍光粉から、水銀を回収する方法は真空加熱式水銀蒸留装置と呼ばれ
ており、欧米製のものが一般的に販売されている。この装置は減圧した釜の中で廃蛍
光粉を800度〜850度の高温で、16時間〜24時間ぐらいの長時間をかけて水
銀を気化させ、気化した水銀を冷却することによって凝縮させ、回収するものである。
【0004】
廃蛍光ガラスくずから、水銀を回収する方法は概ね、上記のような真空高温加熱式、
または不活性ガスまたは還元ガス雰囲気中の高温加熱式であり、これらの方式の特許
も数多く出願されている。しかしながら、廃蛍光粉から水銀を回収する方法は日本で
はほとんど特許出願されていない。
【特許文献7】特開2008−178791
【特許文献8】特開平9−49625
【特許文献9】特開2005−349395
【0005】
従来の真空加熱式水銀蒸留装置は消費電力が大きい為、高コストになっている。
【0006】
廃蛍光粉の中にはイットリウムやユーロピウムなどの希少金属類の化合物である蛍
光体が含まれている。従来の真空加熱式水銀蒸留装置は800度〜850度の高温を
かける為、これらの蛍光体の中には化学組成が変わってしまうものもあるため、蛍光
体の再利用が困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
廃蛍光管の中に含まれる廃蛍光粉から有毒な水銀を低温、かつ短時間で回収でき、
消費電力を少なくすることが求められている。
【0008】
廃蛍光管ガラスから、分離して取り出した廃蛍光粉の中には取り出す過程の中で、埃や油分などの有機化合物やプラスチック粉などが混入している。これらの混入物を300度で加熱したとき、油煙となって蒸気化するが、冷却装置の中でタール化しないように、冷却装置に入る前にゼオライトや活性炭などの吸着材に吸着させて、捕集しなければならない。
【0009】
廃蛍光粉に含まれる蛍光体の化学組成が高温(800度)で変化しないように、低温(300度)で水銀だけを蒸留し、蛍光体をリサイクルできるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明では、廃蛍光管から乾式で取り出した廃蛍光粉を、
円筒形をした横型のミキサーキルンの中に入れ、円筒の中心軸に取付けた撹拌板を回転させることによって廃蛍光粉を攪拌する。キルン内部に入れた廃蛍光粉を撹拌する方法は本発明のような横型のミキサーキルンを使う方法が良いが、縦型のミキサーキルンでも良いし、またはロータリーキルンの中に入れ、廃蛍光粉を回転させることによって撹拌しても良い。
【0011】
キルン内部の温度を200度〜330度にして、0.3時間〜3時間かけて、水銀を気化させるか、または550度〜650度にして、0.2時間〜2時間かけて水銀を気化させる。
【0012】
330度〜550度の温度帯は有害なダイオキシンが合成されやすい温度帯であり、また酸化水銀が合成され、水銀の気化が抑制される温度帯なので、水銀の蒸留には適さない。
【0013】
釜の中を窒素ガスなどの不活性ガスや水素ガスなどの還元ガス雰囲気にすると共に、減圧する。
【0014】
釜の中から廃蛍光粉が水銀蒸気と共に出てこないように、釜の排気口に廃蛍光粉は遮断し、水銀蒸気や油煙分は透過する、ろ過フィルターを具備する。
【0015】
ろ過フィルターは概ね0.01mm程度の廃蛍光粉は遮断するが、水銀蒸気や有機化合物の油煙分は透過させるものである。
【0016】
釜の中から真空ポンプによって引かれて出てきた排気ガス中の有機化合物などの油煙分はゼオライトなどの多孔質の鉱物を入れた円筒形の箱の中を通過させることによって、ゼオライトなどの多孔質の鉱物に吸着させる。ゼオライトの代わりに、活性炭
を使用してもよいし、また、油煙分を二次燃焼室によって焼却し、灰にして回収して
もよい。
【0017】
水銀蒸気は次に冷却装置によって冷却・凝縮させ、水銀を液体にすることによって、金属水銀として回収する。冷却装置の代りに排気ガス洗浄装置などによって水洗浄・水冷却してもよい。
【0018】
冷却装置を通過してきた排気ガスは、次に活性炭槽を通過させることによって有毒な水銀蒸気などを活性炭で捕捉した上で真空ポンプから大気中に放散する。活性炭槽を通過してきた排気ガスの水銀濃度は0.025mg/m以下(労働安全衛生法基準以下)に下がっている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水銀蒸留装置によって、廃蛍光粉からの水銀回収に多大な電力を消費することがなくなり、廃蛍光粉から低コストで水銀を分離、回収することができるようになる。一般に販売されている欧米製の真空加熱式水銀蒸留装置に比べ、低温かつ短時間で水銀を回収できるので、消費電力を大幅に減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を参照しながら具体的に説明する。図1は本実施例に係る廃蛍光粉を撹拌できる撹拌装置を具備した釜の一例であるミキサーキルン型低温加熱式水銀蒸留装置の模式的説明図である。
【0021】
ミキサーキルン1への廃蛍光粉の投入は、キルン上部にある、ろ過フィルター3の入っている円筒形の筒との接続口2を外して投入し、処理済みの廃蛍光粉の回収はミキサーキルンを180度回転させて、接続口を下に向け、廃蛍光粉を落下させて、回収する。
【0022】
ミキサーキルン1内を真空ポンプ9で0.5気圧〜0.001気圧に減圧する。ミキサーキルン1内を0.01気圧にまで、減圧したときには、水銀の気化温度を200度程度まで下げられる。なお、減圧した方が好ましいが、減圧しなくても実施可能である。
【0023】
ミキサーキルン1内を窒素ガスなどの不活性ガスや水素ガスなどの還元ガス雰囲気にする。廃蛍光粉中の水銀の一部分は酸化水銀になっているものがある。酸化水銀は低温(300度)では容易には気化しないので、不活性ガスや還元ガスによって、酸化水銀を還元すると共に、水銀の酸化を防止する。
【0024】
ミキサーキルン1中の撹拌板4を回転させることによって、廃蛍光粉を攪拌する。廃蛍光粉中の水銀は攪拌すれば、低温かつ短時間で気化させることができる。廃蛍光粉中の水銀は他の金属とアマルガムを形成しているものが多く、水銀の気化温度である357度以上に温度を上げても容易には気化しない。しかしながら、攪拌などの刺
激を与えてやると活発に気化することを発明者は水銀の気化実験によって得た。そこで常時、攪拌する為、ミキサーキルン中で加熱し、水銀を気化させる方法を発明した。
【0025】
本発明の水銀蒸留装置はキルン内を不活性ガスや還元ガス雰囲気にすると共に減圧し、廃蛍光粉を撹拌することによって、低温(200度〜330度)かつ短時間(0.3時間〜3時間)で水銀を気化させることができるので、廃蛍光粉に含まれる希少金属の化合物である蛍光体の化学組成が変わることがなくなる。この為、廃蛍光粉の再利用が可能になる。
【0026】
廃蛍光粉が後工程のゼオライト槽5や熱交換間接冷却装置6内に移動しないように、排気口に廃蛍光粉は遮断するが、水銀蒸気や有機化合物の油煙分は透過するろ過フィルター3を設置する。なお、図中の矢印はこの油煙分の進む方向を示している。
【0027】
ミキサーキルン1から真空ポンプ9によって引かれて、排出される排気ガスはゼオライトなどの多孔質の鉱物を入れた円筒形の箱5の中を通過させることによって、有機化学物質の油煙分を多孔質の鉱物に吸着させる。
【0028】
多孔質の鉱物を入れた円筒形の箱5の中を通過してきた、水銀を含んだ排気ガスは、次に熱交換間接冷却装置6によって、冷却し、水銀を凝縮し、液体にすることによって、金属水銀として抽出する。熱交換間接冷却装置6は高温の排気ガスを冷却水で間接的に冷却する機構であるが、熱っせられた冷却水は冷却水冷却器7によって、再び常温近くまで冷却される。
【0029】
熱交換冷却装置を通過してきた排気ガスは、次に活性炭槽8を通過させることによ
って、有毒な水銀蒸気を活性炭で捕捉した上で真空ポンプ9から大気中に放散させる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】水銀蒸留装置の模式的説明図
【符号の説明】
【0031】
1 ミキサーキルン
2 接続口
3 ろ過フィルター
4 撹拌板
5 ゼオライトなどの多孔質の鉱物を入れた円筒形の箱
6 熱交換間接冷却装置
7 冷却水冷却器
8 活性炭槽
9 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃蛍光管から収集した廃蛍光粉から、有毒な水銀を回収する水銀蒸留装置であって、該水銀蒸留装置では廃蛍光粉を加熱する釜が廃蛍光粉を撹拌できる撹拌装置を具備した釜か、またはロータリーキルン式の回転する釜であり、この釜の中を窒素ガスなどの不活性ガスや水素ガスなどの還元ガス雰囲気にし、この釜の中に入れた廃蛍光粉を攪拌することによって低温、短時間で効率良く、水銀を気化させ、更に冷却装置で凝縮させることによって、水銀を回収する水銀蒸留装置。
【請求項2】
廃蛍光管から収集した廃蛍光粉から、有害な水銀を回収する水銀蒸留装置であって、該水銀蒸留装置では廃蛍光粉を加熱する釜が廃蛍光粉を撹拌できる撹拌装置を具備した釜か、またはロータリーキルン式の回転する釜であり、この釜の中を窒素ガスなどの不活性ガスや水素ガスなどの還元ガス雰囲気にすると共に減圧し、この釜の中に入れた廃蛍光粉を撹拌する際に、加熱温度を200度〜330度にして、0.3時間から3時間かけて水銀を気化させるか、または加熱温度を550度から650度にして、0.2時間から2時間かけて水銀を気化させ、気化した水銀を冷却装置内で凝縮させることによって、水銀を回収する水銀蒸留装置。
【請求項3】
廃蛍光管から収集した廃蛍光粉から、有毒な水銀を回収する方法であって、廃蛍光粉を加熱する釜が廃蛍光粉を撹拌できる撹拌装置を具備した釜か、またはロータリーキルン式の回転する釜であり、この釜の中を窒素ガスなどの不活性ガスや水素ガスなどの還元ガス雰囲気にすると共に減圧し、この釜の中に入れた廃蛍光粉を撹拌しながら水銀を気化させるときに、加熱温度を200度から330度にして、
0.3時間から3時間かけて水銀を気化させるか、または加熱温度を550度から650度にして0.2時間から2時間かけて水銀を気化させ、気化した水銀を冷却装置内で凝縮させることによって、水銀を回収する方法。





【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−58099(P2010−58099A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229451(P2008−229451)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(506160237)株式会社セフティランド (6)
【Fターム(参考)】