説明

廃食用油の燃焼方法および燃焼装置

【課題】 廃食用油をA重油と同様に圧力噴霧式バーナにより燃焼させることができる、廃食用油の燃焼方法および燃焼装置を提供する。
【解決手段】 廃食用油の燃焼を、廃食用油を噴霧ノズル14bに供給する内管11と、廃食用油の一部を供給側に戻す外管12とを備えてなる圧力噴霧式バーナBによりなすものであって、廃食用油を所定圧力に昇圧するとともに所定温度に昇温し、廃食用油の量を所定量増量して噴霧ノズル14bまで供給し、増量された廃食用油を噴霧ノズル14bから前記バーナBに供給される廃食用油を保温しながら供給側に戻すものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃食用油の燃焼方法および燃焼装置に関する。さらに詳しくは、廃食用油をA重油などと同様に燃焼がなし得る廃食用油の燃焼方法および燃焼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、家庭、料理店、食品製造業者などにおいて各種料理や調理などに食用油が利用され、その利用にともない家庭などから発生する廃食用油は、年間40万トン〜50万トンにも上るともいわれている。この廃食用油のほぼ半分は食品製造業者などの業者からのもので、その内大手業者からのものは回収業者により回収され、その7割程度が飼料用に利用され、その残りは溶剤、工業用原料などに再利用されている。
【0003】
一方、残りの半分を占める家庭、料理店、小規模食品製造業者などからの廃食用油の大半は、何等の処理もなされることなく下水などに排出されている。そのため、この廃食用油による環境汚染が発生している。
【0004】
この対策として、一部の地方自治体においては、廃食用油の回収を促進するとともに例えば廃食用油からバイオディーゼル油を再合成し、廃食用油の持つエネルギーの有効活用を図ろうとする試みがなされている。しかしながら、その設備が大掛かりなものとなり設備費用がかさむため、全国的な規模で普及するまでには至っていない。また、バイオディーゼル油を軽油に混ぜて使用することも考えられるが、そうすると軽油取引税がかかるため、経済的に成立しなくなる。
【0005】
しかるに、廃食用油をA重油等の燃料油と同様に、ボイラや吸収冷凍機において圧力噴霧式バーナにより燃焼させることができれば、廃食用油の回収が促進されてそれによる環境汚染も解消されるものと期待される。
【0006】
しかしながら、廃食用油を、図5に示すような従来の圧力噴霧式バーナ100により燃焼させた場合、未燃物が炉壁等の伝熱面に大量に析出・付着し、熱伝達を阻害すると同時に、そのような未燃物の除去、清掃を頻繁に行う必要が生じるといった問題がある。
【0007】
なお、液体状の主燃料と一定量の廃食用油とを予混合させて燃焼させる技術については、特許文献1に提案されている。
【特許文献1】特開平11−223326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑みなされたものであって、廃食用油をA重油と同様に圧力噴霧式バーナにより燃焼させることができる、廃食用油の燃焼方法および燃焼装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、かかる課題に対し鋭意研究した結果、廃食用油の温度を90℃〜110℃に加熱するとともに、ウインドボックス内における燃焼用空気による廃食用油の冷却を防止することにより、A重油と同様の噴霧粒子径および粒子径分布が得られ、圧力噴霧式バーナによっても良好な燃焼がなし得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の廃食用油の燃焼方法は、圧力噴霧式バーナによる廃食用油の燃焼方法であって、前記バーナに供給される廃食用油を所定圧力に昇圧する手順と、前記バーナに供給される廃食用油を所定温度に昇温する手順と、前記廃食用油の量を所定量増量して噴霧ノズルまで供給する手順と、前記増量された廃食用油を、噴霧ノズルから前記バーナに供給される廃食用油を保温しながら供給側に戻す手順と、を含んでいることを特徴とする。
【0011】
本発明の廃食用油の燃焼方法においては、前記所定温度が、90℃〜110℃とされているのが好ましい。
【0012】
また、本発明の廃食用油の燃焼方法においては、前記所定圧力が、1.8MPa〜2.5MPaとされているのが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の廃食用油の燃焼方法においては、供給側に戻す廃食用油の割合が、噴霧させる廃食用油の3倍以上で、かつ、前記所定温度が確保されるものとされているのが好ましい。
【0014】
一方、本発明の廃食用油の燃焼装置は、圧力噴霧式バーナを備えた廃食用油の燃焼装置であって、前記バーナが、廃食用油を噴霧ノズルに供給する内管と、前記廃食用油の一部を供給側に戻す外管とを備えてなることを特徴とする。
【0015】
本発明の廃食用油の燃焼装置においては、廃食用油を所定温度に昇温する加熱器を備えてなるのが好ましい。
【0016】
また、本発明の廃食用油の燃焼装置においては前記所定温度が、90℃〜110℃とされているのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、廃食用油を完全燃焼させることができ、燃焼室等の熱交換面に不完全燃焼物の付着や堆積がない清浄面が維持されるという優れた効果が得られる。また、それにより、廃食用油がA重油と同様の燃料として利用される道が開かれ、その回収および再利用が促進されて廃食用油による環境汚染が防止されるという優れた効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施形態に基づいて説明するが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではない。
【0019】
本発明の一実施形態に係る燃焼方法に適用されるリターン形圧力噴霧式バーナを有する燃焼装置の要部を図1に断面図で示し、同燃焼装置を備えた吸収冷凍機の燃焼装置周りの燃料系統等を図2に示す。
【0020】
リターン形圧力噴霧式バーナBは、図1および図2に示すように、廃食用油を供給する廃食用油供給部10と、廃食用油の燃焼用空気を供給する空気供給部20とを主要部として備えてなる。
【0021】
廃食用油供給部10は、廃食用油を供給する内管(供給管、例えば内径5mmφ)11および供給された廃食用油の一部を供給側に戻す外管(戻し管、例えば内径10mmφ)12とからなる二重管10Aとされ、この二重管10Aの基端部には給排ブロック13が配設され、その先端部には噴霧ブロック14が配設されている。噴霧ブロック14は公知のリターン形圧力噴霧式バーナに用いられている、防滴弁14aと噴霧ノズル14bとを組み合わせた噴霧ノズルと同様とされているので、その構成の詳細な説明は省略する。
【0022】
ここで、供給側に戻される廃食用油の割合は、噴霧される廃食用油を燃焼用空気による冷却を防止しながら所定温度に維持する観点から、供給される廃食用油の3割以上とされる。つまり、噴霧させる廃食用油の3倍以上で、かつ、前記所定温度を確保するものとされる。
【0023】
内管11先端は、外管12より所定長さ突出させられて噴霧ブロック14に嵌合されている。この嵌合された内管11は、噴霧ブロック14内に形成された流路(図示省略)に連通させられるとともに、内管11の外管12から突出する箇所つまり外管12先端部には、図示はされていないが、適宜シール部材、例えば蓋が設けられて、その箇所のシールが図られている。また、内管11の外管12先端部に位置する箇所には、図示はされていないが、廃食用油の一部を外管12に戻すための戻し穴が所要数設けられている。廃食用油供給部10が、かかる構成とされていることにより、供給管11の廃食用油の温度が所定温度に維持されている。つまり、戻し管12を流れる戻り油により、供給管11内部の廃食用油の燃焼用空気による冷却が防止されその保温が図られている。
【0024】
給排ブロック13は、図1および図3に示すように、二重管10A基端側から廃食用油を戻す戻し部15と、廃食用油を供給する供給部16とがこの順で一体的に接合形成された直方体状のブロック体とされている。
【0025】
戻し部15には、二重管10Aと面する面15aに外管12が嵌合される嵌合部15bが形成され、一側面に戻し口15cが開口形成され、供給部16と接合される面15dに内管挿通路15eが貫通形成されている。この戻し口15cは、戻し部15内部に形成される連通路15fを介して嵌合部15bに嵌合される外管12と連通されている。この嵌合部15bに嵌合される外管12の基端部12aは、図3に示すように、先細テーパー状に形成されている。これにより、基端部12aの嵌合が容易になされる。
【0026】
供給部16には、戻し部15との接合面16aに内管11が嵌合される嵌合部16bが形成され、一側面に供給口16cが開口形成されている。この供給口16cが形成される面は、前記戻し口15cが形成される面と異なる面とされるのが、供給配管FPおよび戻し配管RPの施工の煩雑さを避ける点から好ましい。この供給口16cは、供給部16内部に形成される連通路16dを介して嵌合部16bに嵌合される内管11と連通されている。この嵌合部16bおよび内管挿通路15eに嵌合される内管11の基端部11aは、図3に示すように、外径が小さくされて薄肉に形成されている。なお、基端部11aは必ずしも薄肉に形成される必要はない。
【0027】
空気供給部20は、具体的には、二重管10Aが装着されたウインドボックスとされる。
【0028】
次に、図2を参照しながら、かかる構成とされているリターン形圧力噴霧式バーナBを有する燃焼装置Aへの燃料系統および燃焼用空気系統を説明する。なお、図2は燃焼装置Aを備えた吸収冷凍機の燃焼装置周りの系統図である。
【0029】
燃料系統Fは、廃食用油系統LFから構成されている。
【0030】
廃食用油系統LFは、燃焼装置Aに廃食用油を供給する廃食用油供給配管FPと、燃焼装置Aに供給された廃食用油の一部を前記供給配管FPに戻す廃食用油戻し配管RPとを含む。
【0031】
廃食用油供給配管FPには、図2に示すように、廃食用油が供給される上流側から入口止弁41、ストレーナ42、空気分離器43、噴霧ポンプ(昇圧送給手段)44、加熱器45、第1電磁弁46および第2電磁弁47がこの順で介装され、その先端部が燃焼装置Aの給排ブロック13の供給口16cに嵌合されている。この供給配管FPの加熱器45の出口から給排ブロック13までの部分は、テープ状加熱部材で被覆されてその部分の加熱および保温が図られている。なお、給排ブロック13も同様に保温がなれている。
【0032】
噴霧ポンプ44は例えばギァポンプとされ、廃食用油の圧力をA重油と同等の噴霧粒径が得られる噴出エネルギーを与えるに十分な圧力、例えば1.8MPa〜2.5MPaまで昇圧する能力を有するものとされる。
【0033】
加熱器45は制御性および小型化の観点から電気式加熱器とされ、廃食用油の粘度をA重油と同等の噴霧粒径が得られる温度、例えば85℃〜110℃まで、好ましくは90℃〜110℃まで昇温する能力を有するものとされる。ただし、加熱器45は電気式加熱器に限定されるものではなく、電気式加熱器と同等の制御性および小型化が図られるのであれば、蒸気式加熱器とされてもよい。
【0034】
また、燃焼装置Aの給排ブロック13からの戻し配管RPは、ストレーナ42と空気分離器43との間に戻されている。つまり、戻し配管RPの先端は、ストレーナ42と空気分離器43との間の供給配管FPに接合されている。戻し配管RPをこの位置に戻すのは、戻し配管RP内の圧力変化などにより戻し配管RP内に発生した気泡を空気分離器43により分離させるとともに、新たに供給される廃食用油を加熱するためである。
【0035】
この戻し配管RPには、図2に示すように、上流側(給排ブロック13側)から流量制御電動弁51、電磁弁(以下、戻油電磁弁という)52および逆止弁53が介装され、この流量制御電動弁51の上流側には温度スイッチ54が設けられている。この逆止弁53と戻油電磁弁52とにより吸収冷凍機などの停止中における、戻し配管RPによる廃食用油の逆流が防止されている。
【0036】
また、この戻し配管RPには、流量制御電動弁51および戻油電磁弁52をバイパスするバイパス配管55が設けられている。バイパス配管55には、図2に示すように、オリフィス56と油電磁弁57が介装されて、起動時に油供給部10に供給される廃食用油の保温がなし得る廃食用油が戻るようにされている。
【0037】
燃焼用空気系統FAは、送風機71とダンパ(空気流量制御弁)72とを含む。
【0038】
燃料点火系統IGは、点火プラグ81を含む。
【0039】
しかして、かかる構成とされているリターン形圧力噴霧式バーナBを有する燃焼装置Aを備えた吸収冷凍機などにおいては、図2に示すように、燃焼用空気系統FAの送風機71からの燃焼用空気がダンパ72により流量制御されてウインドボックスに供給され、ディフューザ21を介して燃焼用空気として燃焼部に供給され、廃食用油の燃焼に供される。
【0040】
そして、リターン形圧力噴霧式バーナBの廃食用油供給部10から噴霧された廃食用油は、燃焼用空気と混合された後、燃料点火系統IGの点火プラグ81により着火されて燃焼が開始される。
【0041】
廃食用油の着火は、具体的には、次のようにしてなされる。すなわち、廃食用油が加熱されて所定温度に達すると、つまり廃食用油の噴霧粒径を燃焼可能な粒径とすることができる温度に到達すると、温度スイッチ54が作動して燃焼装置Aの燃焼制御器(図示省略)が燃焼動作を開始する。
【0042】
まず、噴霧ポンプ44により廃食用油が所定時間昇圧され、廃食用油の圧力が防滴弁14aの通過圧力以上となって噴霧ノズル14bから廃食用油が噴霧される。ついで、この噴霧された廃食用油は、点火プラグ81の電気火花により直接着火される。
【0043】
この着火の後、負荷に応じて流量制御電動弁51およびダンパ72が制御される。
【0044】
このように、本実施形態においては、廃食用油を90℃〜110℃に加熱して廃食用油供給部10に供給して圧力噴霧させているので、A重油と同様に燃焼させることができる。そのため、廃食用油を有効な燃料源とすることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。
【0046】
参考例
本実施形態のリターン形圧力噴霧式バーナBによりA重油の温度を25℃(常温)として適正な噴霧圧力(1.8MPa)により噴霧を行い、その噴霧粒子径および粒子径分布を測定し、その結果を図4に参考例として示す。
【0047】
実施例
リターン形圧力噴霧式バーナBへの供給を廃食用油に変更するとともに、その温度を110℃とした他は参考例と同様にして噴霧を行い、その噴霧粒子径および粒子径分布を測定し、その結果を図4に実施例として併せて示す。
【0048】
比較例
廃食用油の温度を80℃とした他は実施例と同様にして噴霧を行い、その噴霧粒子径および粒子径分布を測定し、その結果を図4に比較例として併せて示す。
【0049】
図4より、実施例においては参考例と同様の噴霧特性が得られているのがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、圧力噴霧式バーナを用いた廃食用油の燃焼に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る廃食用油の燃焼方法に適用されるリターン形圧力噴霧式バーナの概略図である。
【図2】同燃焼方法に適用される燃焼装置周り系統図である。
【図3】同バーナの給排ブロックの断面図である。
【図4】実施例、比較例および参考例の噴霧特性を示すグラフである。
【図5】従来のリターン形圧力噴霧式バーナの概略図である。
【符号の説明】
【0052】
10 廃食用油供給部
10A 二重管
11 内管、供給管
12 外管、戻し管
13 給排ブロック
14 噴霧ブロック
14a 防滴弁
14b 噴霧ノズル
20 空気供給部
43 空気分離器
44 加熱器
45 噴霧ポンプ(昇圧送給手段)
54 温度スイッチ
71 送風機
72 ダンパ(空気流量制御弁)
A 燃焼装置
B リターン形圧力噴霧式バーナ
F 燃料系統
FA 燃焼用空気系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力噴霧式バーナによる廃食用油の燃焼方法であって、
前記バーナに供給される廃食用油を所定圧力に昇圧する手順と、
前記バーナに供給される廃食用油を所定温度に昇温する手順と、
前記廃食用油の量を所定量増量して噴霧ノズルまで供給する手順と、
前記増量された廃食用油を、噴霧ノズルから前記バーナに供給される廃食用油を保温しながら供給側に戻す手順
とを含んでいることを特徴とする廃食用油の燃焼方法。
【請求項2】
前記所定温度が、90℃〜110℃とされていることを特徴とする請求項1記載の廃食用油の燃焼方法。
【請求項3】
前記所定圧力が、1.8MPa〜2.5MPaとされていることを特徴とする請求項1記載の廃食用油の燃焼方法。
【請求項4】
供給側に戻す廃食用油の割合が、噴霧させる廃食用油の3倍以上で、かつ、前記所定温度が確保されるものとされていることを特徴とする請求項1記載の廃食用油の燃焼方法。
【請求項5】
圧力噴霧式バーナを備えた廃食用油の燃焼装置であって、
前記バーナが、廃食用油を噴霧ノズルに供給する内管と、前記廃食用油の一部を供給側に戻す外管とを備えてなることを特徴とする廃食用油の燃焼装置。
【請求項6】
廃食用油を所定温度に昇温する加熱器を備えてなることを特徴とする請求項5記載の廃食用油の燃焼装置。
【請求項7】
前記所定温度が、90℃〜110℃とされていることを特徴とする請求項6記載の廃食用油の燃焼装置。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の燃焼方法に適用される圧力噴霧式バーナであって、廃食用油を噴霧ノズルに供給する内管と、前記廃食用油の一部を供給側に戻す外管とを備えてなることを特徴とする圧力噴霧式バーナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−329463(P2006−329463A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150317(P2005−150317)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000199887)川重冷熱工業株式会社 (59)
【出願人】(597167748)財団法人新産業創造研究機構 (20)
【出願人】(000106597)サンレー冷熱株式会社 (8)
【Fターム(参考)】