説明

延伸フィルムの製造方法

【課題】フィルム延伸においてフィルム両端部の厚み増大を極力小さくし、製膜を目的とする高価な樹脂フィルムの両端部の切断除去幅の低減を可能とする延伸フィルムの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを溶融共押出して、熱可塑性樹脂Aから成る主フィルム1aの幅方向の両端部に、熱可塑性樹脂Bからなる両端部フィルム2が並存した複合フィルム1を製造し、該複合フィルムを延伸した後、幅方向の両端部を切断除去してなる、延伸フィルムの製造方法であって、前記両端部フィルム2のフィルム延伸応力値が、同一延伸倍率における主フィルム1aのフィルム延伸応力値よりも大きいことを特徴とする延伸フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の延伸フィルムの製造方法及びその製造方法で製造した延伸フィルムに関する。さらに詳しくは、溶融共押出で製膜したフィルムのフィルム中央部に対する両端部の厚み偏差を小さくする延伸フィルムの製造方法とその製造方法で製造した延伸フィルムである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムは、包装材料、ビデオテープなどの電子材料、写真フィルムなどの光学材料として広く用いられている。これらのプラスチックフィルムは、溶融あるいは溶液状にした樹脂からフィルムに成形される。そして、これらのフィルムは一軸方向あるいは二軸方向に延伸した延伸フィルムとして多用されている。プラスチックは長い分子鎖を持つ高分子物質であり、延伸されることで分子鎖の向きが揃うため、フィルムの耐屈曲性、屈曲回復性、強靱性などが向上する。
【0003】
近年、プラスチックフィルムは液晶表示装置などの光学用途に広く使用されるようになり、物性に対する要求も高くなっている。すなわち要求されるフィルムの高性能化にともない素材となる樹脂は、その分子構造が複雑化され、変性、ブレンドにより高価なものとなっている。さらにフィルムの機能を十二分に発揮するために、フィルム物性のみならずフィルム全面にわたって厚みが均一であることも要求されるようになった。
【0004】
熱可塑性樹脂からなるフィルムとして、押出し機内で加熱溶融した樹脂をTダイのスリットからキャスティングロール面に押出してそのままコイル状に巻き取って使用する無延伸フィルムや、キャスティングロール面に押出した後、長手方向に延伸加工のみによる一軸延伸フィルム、または長手、幅方向に延伸加工してなる二軸延伸フィルムがある。これらのいずれのフィルムにおいても、Tダイから吐出してキャスティングロールに押出したフィルムは、高粘度の溶融樹脂の特性としてその両端部が中心部より不可避的に厚い状態で固化されるので、要求される幅方向の厚み許容に応じてフィルム両端部は切断除去されている。
【0005】
フィルム両端部の厚み偏差の大きい部位の切断除去幅が小さいほど素材樹脂の歩留まりが向上し、フィルム製造においてその除去幅の減少は重要な課題となっている。
たとえば、特許文献1では、少量多品種で生産する熱可塑性樹脂からなる無延伸フィルムを高い歩留まりで製造する方法が開示されている。すなわち、Tダイから吐出してキャスティングロールに押出した無延伸フィルムにおいて、高粘度の溶融樹脂の特性としてその両端部が中心部より不可避的に厚い状態で固化される部分のみを別の樹脂として共押出し、その部分のみを切断除去するというものである。
【0006】
先にも述べたように近時、延伸フィルムにおけるフィルム機能性がますます高度化する中で同時にそのフィルム厚み分布の均一化の要求も厳しくなっている。無延伸フィルムにおいては、押出しTダイの吐出口からキャスティングロールまでの落下過程、及びキャスティングロール面での固化過程という比較的短時間での形成フィルムにおいて両端部厚み偏差の発生が問題となる。また延伸フィルムの場合は、さらに複数の再加熱ロール、延伸ロール間における延伸変形が最終的な両端部厚み偏差に大きく影響するという問題を抱えている。
【0007】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【特許文献1】特開2005−246607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、特に延伸フィルムにおいては無延伸フィルムにおけるように単に両端の厚み増加部分を想定して、その部分を安価な樹脂を共押出しで並存しておくという技術思想のみでは、期待するフィルム歩留まりを確保することができないのが実状であった。本発明では、フィルム延伸工程で受けるロール予備加熱、延伸ロール間における保温加熱を受けた状態での延伸においても、フィルム両端部の主として幅縮みを伴う延伸変形における厚み増大を極力小さくし、高価な樹脂フィルムの両端部の切断除去幅の低減を可能とする延伸フィルム製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、目的とする熱可塑性樹脂Aから成る延伸された主フィルムを製造するに際して、延伸時におけるフィルム幅および厚み変形を抑えるために、主フィルムの両端に主フィルムよりもフィルム延伸応力値が大きい別の熱可塑性樹脂Bからなる両端部フィルムを予め並存させておき、延伸時において主フィルムの両端を拘束した状態とすれば良いことを見出し、本発明を想到したものである。
【0010】
本発明の延伸フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを溶融共押出して、熱可塑性樹脂Aからなる主フィルムの幅方向の両端部に、熱可塑性樹脂Bからなる両端部フィルムが並存した複合フィルムを製造し、該複合フィルムを延伸した後、幅方向の両端部を切断除去してなる、延伸フィルムの製造方法であって、前記両端部フィルムのフィルム延伸応力値が、同一延伸倍率における主フィルムのフィルム延伸応力値よりも大きいことを特徴とする。
本発明の延伸フィルムの製造方法においては、
1.両端部フィルムの延伸応力値が、同一延伸倍率における主フィルムの延伸応力値に対して、1.5〜6.9倍であること、
2.両端部フィルムの幅が、延伸前においてそれぞれ片側5mm以上であること、
3.延伸が、一軸延伸又は二軸延伸であること、
が好適である。
また本発明によれば、上記延伸フィルムの製造方法により製造された延伸フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0011】
製膜することを目的とする熱可塑性樹脂Aから成る主フィルムの幅方向両端部に、この主フィルムよりもフィルム延伸応力値が大きい別の熱可塑性樹脂Bからなる両端部フィルムを溶融共押出して製膜しているため、次いで行う延伸時において両端部フィルムの張力(延伸ロール間)は主フィルムよりも大きくなっている。したがって、主フィルムの両端はその両端が拘束された状態となり、延伸中における主として幅収縮変形を抑制できる。その結果、主フィルムの幅縮み部の厚みの増加が抑えられ、主フィルム幅方向における厚みの均一な分布領域を拡げることができる。すなわち、主フィルム部分の厚み許容外部分の切断除去幅を小さくでき、幅方向の厚み分布の均一な目的とする熱可塑性樹脂Aの延伸フィルムを経済的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。図1(a)は、本発明に係る延伸フィルムの製造法において、溶融共押出し製膜工程後の複合フィルム1の平面図である。製膜を目的とする熱可塑性樹脂Aからなる主フィルム1aの両端部(斜線部)に、同一延伸倍率において、主フィルム1aよりもフィルム延伸応力値が大きい別の熱可塑性樹脂Bからなる両端部フィルム2が並存されている。図1中の主フィルム1a面の矢印はフィルムの製膜時における押出し吐出方向(長手方向)を示している。
【0013】
この両端部フィルム2は、主フィルム1aと共に溶融共押出して同時製膜されて並存されたものである。
ここでフィルム延伸応力値とは、熱可塑性樹脂を製膜してフィルムにした状態で試片として切り出し、引張り試験機により測定された延伸応力値(Pa)である。そして、同じ延伸倍率においてフィルム延伸応力値が、主フィルム1aよりも大きい両端部フィルム2とは、主フィルム1aと同一延伸倍率において測定された延伸応力値が、主フィルムより大きい両端部フィルムをいう。これらの両フィルムを溶融共押出し後に延伸する前に、予めそれぞれのフィルムの延伸応力値(Pa)を別途試験機により求めておき、主フィルムの両端に並存させる両端部フィルムを選定する。
【0014】
図1(b)は、複合フィルム1の幅・厚み方向の模式断面図である。一般に、溶融加熱した熱可塑性樹脂の押出し製膜においては不可避的に生じるネックイン現象(幅縮)よりフィルムの両端部に近づくにつれて厚みがなだらかに大きくなる。この両端部の厚み偏差は、次いで行う延伸操作で小さくなる傾向にはあるものの、依然として延伸後のフィルムにも残る。フィルム製品の用途に応じて許容される厚み偏差を確保するため、この両端部フィルム2、および主フィルム1aの一部はキャスティング固化工程後、あるいは延伸工程後に切断除去される。
【0015】
図2は、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bを溶融共押出して、熱可塑性樹脂Aからなる主フィルム1aの両端部に、同一延伸倍率における延伸応力値が主フィルムよりも大きい、熱可塑性樹脂Bからなる両端部フィルム2が並存してなる複合フィルム1を製膜する装置の概略図である。
主フィルム用の素材である熱可塑性樹脂Aは、押出し機14aで加熱溶融されてフィードブロック11へ供給管11aにより供給される。熱可塑性樹脂Aの両端部に共押出しさせる別の熱可塑性樹脂Bは押出し機14bで加熱溶融され、押出し機14bに連接され途中で分岐する供給管11bにより、フィードブロック11の両脇へ供給される。次いで、フィードブロック11内で熱可塑性樹脂Aの両端部に熱可塑性樹脂Bが並存した状態で、最下部に連接されたTダイ12に向けて共押出しされる。
【0016】
Tダイ12内では、内部に設けられたマニホールド15で溶融樹脂が拡幅され、ダイリップ13から下方に配設されたキャスティングロール16の上部周面に吐出される。このキャスティングロール面上で固化が進み、熱可塑性樹脂Aによる主フィルム1aと、熱可塑性樹脂Bによる両端部フィルム2の2つで構成された長手方向に連続した複合フィルム1となる。
【0017】
次に、図3により本発明に係る延伸フィルムの製造方法におけるフィルムの一軸延伸工程について説明する。図2に例示する製膜装置により形成した主フィルム1aおよび両端部フィルム2からなる複合フィルム1は、図3に示すように予備加熱ロール群3、延伸ロール群4、冷却ロール群5および保熱用ヒーター6からなる延伸工程でフィルム長手方向に1.5〜5倍程度に延伸される。冷却後の複合フィルム1は一軸延伸フィルムとして製品化する場合は、後続する切断工程(図示せず)で、複合フィルム1の両端部における厚みの許容外部分を切断除去する。
【0018】
図3において、予備加熱ロール群3により両端部フィルムのガラス転移温度付近まで加熱した後、このガラス転移温度よりもさらに10〜20℃高い温度に加熱した一組の延伸ロール間に導き、これらのロールの回転速度差によりフィルム延伸を行う。このとき延伸ロール間に、図3に示すように保熱用ヒーター6(赤外線ヒーター)を設置して保熱することにより、幅方向のフィルム厚みをより均一化することができると共により高い延伸倍率で延伸を行うことができる。各ロール温度を必要以上に加熱するとフィルムとロールの粘着が生じる。また温度が低すぎるとシワ、ひずみ、フィルム切断などの問題が生じやすい。
【0019】
複合フィルム1の長手方向の一軸(縦)延伸工程を説明したが、さらにフィルム幅方向の横延伸を付加して二軸延伸フィルムとする工程を説明する。
図4は本発明に係る延伸フィルム製造法における横延伸工程の概略図である。図3で説明した一軸延伸複合フィルム1は、その両端部を複数のクリップ10で咥えられた状態で予熱ゾーン7、横延伸ゾーン8、熱固定ゾーン9を経て、後続する両端部フィルム切断除去工程(図示せず)に導かれる。クリップ10で咥えられた両端部フィルムは、クリップによる変形が著しくなり、この部分はフィルム厚み増大部とともに切断除去され、目的とする延伸フィルムを得ることが可能となる。
本発明に係る延伸フィルムの製造法においては、先に説明した複合フィルム製膜工程(図2)、一軸(縦)延伸工程(図3)、前記横延伸工程(図4)、及び端部切断工程(図示せず)を一連の装置として構成配置することもできる。
【0020】
以上、本発明の延伸フィルムの製造法の実施における熱可塑性樹脂の溶融共押出し装置、および延伸工程について説明したが、次に主フィルムおよびその両端部に並存させる両端部フィルム用の熱可塑性樹脂について説明する。
本発明の延伸フィルムの製造方法に適用できる主フィルム、両端部フィルムの種類としては、次の述べる樹脂が挙げられる。
(1)炭素数が2〜8個の1−アルケンの重合体又は共重合体である、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体(ABS樹脂)、およびこれらを含む共重合体などの1種または2種以上からなるポリオレフィン樹脂。
(2)6−ナイロン、6,6−ナイロン、6−10ナイロンなどのポリアミド樹脂。
【0021】
(3)酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の2塩基性芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多塩基酸の1種または2種以上のいずれかからなる酸と、アルコール成分としてエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のジオール類や、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールの1種または2種以上いずれかからなるアルコールとからなるポリエステル樹脂。
【0022】
(4)1、1−ビス(4−オキシフェニル)イソブタン、2,2−ビス(4−オキシフェニル)プロパン等の二環二価フェノール類とホスゲン類等から誘導されるポリカーボネート樹脂。
(5)1、1−ビス(4−オキシフェニル)イソブタン等の二環二価フェノール類とテレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とから誘導されるポリアリレート樹脂。
などを用いることができる。
【0023】
本発明においては、主フィルムの両端部に並存させるフィルムとして延伸応力値の高いフィルムを選定する。熱可塑性樹脂をはじめとする樹脂フィルムは高温になるに従い軟化するので、一般的にはガラス転移温度の高いフィルムほど高温でも延伸応力値がより高く維持される。したがって、両端部フィルムとしては主フィルムよりもガラス転移温度の高い樹脂となることが多い。また、分子鎖が枝分かれした分岐構造を持つ樹脂、および分子量が高い樹脂は、分子鎖が絡み易く、これらの樹脂からなるフィルムの延伸応力値が高くなる。このためこれらの樹脂も両端部フィルム用として好ましい。
【0024】
主フィルムの両端に両端部フィルムを並存させてフィルムを延伸するにあたり、両端部フィルムの延伸応力値を主フィルムの延伸応力値に対して1.5〜6.9倍とする。より好ましくは2〜5倍である。両端部フィルムの延伸応力値が主フィルムのそれに対して、1.5未満では主フィルムの幅方向における両端部の厚み偏差の減少効果は小さい。一方、6.9倍を超えると主フィルムと両端部フィルムとの延伸ロール間における張力の差が過大となり、シワ発生、境界線部のずれによる線状破断、蛇行(延伸フィルムが搬送ロールの中心部を直線状に走行しない現象)などが発生し易い。一般的に熱可塑性樹脂フィルムの延伸応力値は温度の上昇と共に低下する。延伸時において両端部フィルムのみを局部的に昇温させて両端部フィルムの延伸応力値を制御しても良い。
【0025】
主フィルムの両端部に並存させる延伸応力値の大きい両端部フィルムは、延伸前においてそのフィルムの幅をそれぞれ片側5mm以上とする。主フィルムの両端にそれぞれ並存させるフィルム幅が5mm未満の場合は、主フィルム両端部の中央部に対する厚み偏差を減少させる効果は小さい。すなわち、主フィルム領域における幅方向の厚みの均一部を拡げる効果は小さい。両端部フィルムの幅をそれぞれ片側5mm以上とすれば、主フィルムの厚みをより均一化させることが出来る。しかしながら、両端部フィルムの幅を必要以上に広げることは、延伸可能幅に上限のある延伸フィルム装置においては主フィルム幅を狭めることにつながり、さらには後工程で切落とす余剰フィルム部分が過大となり製造コストが増大する。したがって、両端部フィルム幅を5mm以上において所望とする主フィルムの偏差許容値に対して、両端部フィルムのコスト増大を考慮して適宜設定すれば良い。概ね両端フィルム幅は両端それぞれ50mm以下が実用的である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。主フィルム用の熱可塑性樹脂、すなわち主フィルムとする熱可塑性樹脂Aとして3種、および両端部フィルム用樹脂Bとして6種を準備した。
本実施例において、主フィルムに対して各種の延伸応力値を有する両端部フィルムを組み合わせるために、主フィルムと両端部フィルムの素材である熱可塑性樹脂をそれぞれ単独で加熱溶融してTダイ押出しで目的とするフィルム厚み100μmに製膜し、そのフィルムを所定のサイズの矩形試片(幅:80mm、長さ:90mm)に切り出し、目的とする延伸倍率、および延伸温度における延伸応力値を測定した。
延伸応力値の測定は、引張試験機(オリエンテック社製RTA-500)を用いて、上記矩形試片を掴み具間距離が50mmとなるようにセットし、所定温度のオーブン内で引張速度500mm/分で引張試験を行い、試験片の伸び(ひずみ)に対する荷重(応力)の変化(応力−ひずみ曲線)を求めた。
こうして得られた応力−ひずみ曲線から所定の延伸倍率のときの応力を求め、延伸応力値とした。主フィルム、両端部フィルムをそれぞれ単独で測定した各フィルムの延伸応力値を表1、表2に掲げた。尚、表2における固有粘度IV値はJIS K 7367−1(プラスチック−毛細管形粘度計を用いたポリマー希釈溶液の粘度の求め方)により測定した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
図5は、主フィルムA(アクリル樹脂)、および両端部フィルムB(PC樹脂)の150℃における延伸倍率−延伸応力線図である。延伸倍率2倍(フィルム厚み50μm)において両者を比較すると、アクリル樹脂フィルムの延伸応力値1.7MPaに対して、ポリカーボネート樹脂は9.0MPaである。すなわち、主フィルムの延伸応力値(T)と両端部フィルムの延伸応力値(t)の比は5.3(t/T)となっている。
【0030】
表1に示す主フィルム用の熱可塑性樹脂及び表2に示す両端部フィルム用の熱可塑性樹脂を、先に説明した図2に示すように加熱溶融して共押出し、図3に示すフィルム延伸装置によりフィルム長手方向に2倍(一部は3倍)に延伸し、それぞれの延伸後におけるフィルム中央部の厚みが50μm(一部の試料では厚み200μmのフィルムを2倍延伸して厚み100μm)であるフィルムを得た。その後、両端フィルム部を切断除去して主フィルムのみを残した。
【0031】
【表3】

【0032】
表3は、主フィルムと両端部フィルムを組み合わせて、2倍又は3倍に延伸し主フィルムの端部から30mm位置における厚み偏差%の測定評価結果を示したものである。表中の厚み偏差%は、主フィルムの中央部位置と端部から30mmの位置との厚み偏差の中央部の厚みに対する百分比である。この厚み偏差%が小さいほど主フィルムにおいて幅方向における厚み分布が均一であり、特に光学用のフィルムとしての性能向上、および製造歩留まりの向上を図ることができる。
評価欄における判定は、主フィルムの端部から30mmの位置において、中央部との厚み偏差%が7%以下を合格とした(5%を超えて7%以下の範囲を記号○、特に5%以下を記号◎と記載)。そして、厚み偏差が7%超、又はフィルム破断したものを記号×と記載した。
【0033】
図6は、表3における試料記号A−0(主フィルムをアクリル樹脂とし、両端部フィルムを並存させずにフィルム延伸したもの)、AP−6(主フィルムをアクリル樹脂とし、両端部フィルム幅が5mmのPC樹脂)、AP−8(主フィルムをアクリル樹脂とし、両端部フィルム幅が25mmのPC樹脂)の幅方向の厚みプロフィールを示したものである。主フィルムの両端部に両端部フィルムを並存させない試料記号A−0では、最端部近傍の厚み偏差が28%と大きく、端部から中央に近づくにつれて小さくなるものの端部から30mmの位置における厚み偏差は15%となっている。ところが、主フィルムに両端部フィルムを5mmおよび25mm並存させた試料記号AP−6、AP−8では、端部から30mmの位置での厚み偏差が7%以下に改善される。これは延伸応力値の大きい両端部フィルムが、延伸応力値の小さい主フィルムの両端部を拘束して延伸時における幅収縮変形(幅が収縮しそれに応じて厚肉となる)を抑制しているからと考えられる。
【0034】
表3において、主フィルムの両端にポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを並存させた試料記号AP−1およびAP−2では、両者の延伸応力比がそれぞれ1.06および1.1であり、厚み偏差が12%および10%である。試料記号AP−3は、主フィルムの両端にポリアリレートAフィルムを並存させ延伸応力比を1.5に高めたものであるが、厚み偏差が6%となり良好となった。従って、厚み偏差の改善のための延伸応力比の下限値を1.5とした。
【0035】
延伸応力比を高めた試料記号AP―11(延伸応力比が5.3)および試料記号PP−11(延伸応力比が6.9)では許容される程度の軽度のシワが発生する傾向がみられたが、厚さ偏差は3%まで改善される。しかしながら、さらに延伸応力比を高めた試料記号AP−12(延伸応力比10.6)では、主フィルムと両端部フィルムの境界付近でずれによる破断が発生する。
このように延伸応力比を高めてゆくとシワが発生する傾向にあり、過度に高めると破断に至る。そこで本発明では許容される軽度のシワ発生する延伸応力比である6.9を上限値とした。表3に示すように主フィルムであるアクリル樹脂、PMMA樹脂又はPET樹脂に対して、両端部フィルム樹脂としてポリアリレートA、PC樹脂とABS樹脂のブレンド樹脂(PC+ABS)、PC樹脂又はABS樹脂などを並存させた場合においても、両者の延伸応力比を1.5〜6.9の範囲に設定することにより厚み偏差は大幅に改善される。
【0036】
試料記号PA−1は、主フィルムの両端部に並存させる両端部のフィルム幅(片側として)を4mmとしたものである。延伸応力比は3.9であり本発明の限定範囲内であるが、厚み偏差は13%となっており目標とする7%を大幅に外れている。しかしながら、試料記号AP−4が示すように延伸応力比を3.2とし両端部フィルム幅を5mmとすることにより、厚み偏差は7%に向上する。このように両端フィルム幅を5mmとすることにより厚み偏差が大幅に向上することから、並存させる両端部フィルム幅の下限を5mmとした。
また、試料記号AP−10は両端部フィルム幅を50mmと大きくしたものであるが、主フィルムの端部から30mmの位置における厚み偏差は2%にまで改善されている。このように両端部フィルム幅を大きくすることにより、厚み偏差は向上する傾向にあるが、並存させた後に切断除去する両端部フィルム分が広くなりコストが増大する。
【0037】
試料記号AP−6〜AP−10は、主フィルムの延伸温度150℃に対して両端部フィルムのみを局部加熱して160℃の状態でフィルム延伸したものである。試料記号AP−11に示すようにPC樹脂フィルムは延伸温度150℃では2倍延伸における延伸応力値は9.0MPaである。しかし、表1に示したように局部加熱された温度160℃の条件では両端部フィルムであるPC樹脂フィルムはやや低下して8.0MPaとなっているから計算により求める延伸応力比は4.7となる。このように延伸時に両端部のみの温度を上げて延伸応力値を変化させても、主フィルムに対する延伸応力比を本発明の限定範囲に維持することにより厚み偏差を小さくすることが出来る。
【0038】
試料記号AP−9は、主フィルムおよび両端部フィルムを溶融共押出しによりフィルム厚み200μmに製膜し、さらに2倍延伸により厚み100μmとしたものである。主フィルムに対する厚み偏差は4%であり、延伸後の厚みが50μmである試料記号AP−8と同じレベルにある。
【0039】
以上、表3では一軸延伸フィルムの結果について説明したが、本発明の製造方法によれば二軸延伸後も、主フィルムの端部における厚み偏差は、一軸延伸の改善効果が維持され良好である。ここで、フィルムの二軸延伸法として長手方向に延伸した後に幅方向に延伸する逐次延伸法、
または長手方向と幅方向とを同時に延伸する同時延伸方法が適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂の延伸フィルムの製造方法によれば、主フィルムの幅方向両端部に、同一延伸倍率で測定したフィルム延伸応力値が主フィルムよりも大きい別の両端部フィルムを溶融共押出して製膜した後に延伸する。これにより、主フィルムの両端が拘束された状態となり、主フィルムの幅・厚み方向の変形が抑えられ主フィルム幅方向の厚みの均一な分布領域を拡げることができる。本発明の製造方法を適用することにより広い幅のフィルムの製造が可能となる。近時、機能性フィルムの製造コストが高くなる中で幅方向に厚み偏差の少ないフィルムを歩留まり良く製造できるため液晶表示装置などに用いる光学用フィルム製造のコスト削減に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態を示すもので、(a)は主フィルムと両端部フィルムから成る複合フィルムの平面図であり、(b)は主フィルムと両端部フィルムからなる複合フィルムの断面図である。
【図2】本発明の実施の形態を示すもので、溶融共押出しによる製膜工程の概略説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に適用する複合フィルムの一軸(縦)延伸工程の概略説明図である。
【図4】本発明の実施の形態に適用する複合フィルムの横延伸工程の概略説明図である。
【図5】本発明の実施の形態における主フィルムと両端部フィルムの延伸倍率―延伸応力線を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態における主フィルムの幅方向の厚み偏差(%)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 ・・・ 複合フィルム(主フィルム+両端部フィルム)
1a ・・・ 主フィルム
2 ・・・ 両端部フィルム
3 ・・・ 予備加熱ロール群
4 ・・・ 延伸ロール群
5 ・・・ 冷却ロール群
6 ・・・ 保熱用ヒーター(赤外線ヒーター)
A ・・・ 熱可塑性樹脂A(主フィルム用)
B ・・・ 熱可塑性樹脂B(両端部フィルム用)
7 ・・・ 予熱ゾーン
8 ・・・ 横延伸ゾーン
9 ・・・ 熱固定ゾーン
10 ・・・ クリップ
11 ・・・ フィードブロック
11a,11b・ 供給管
12 ・・・ Tダイ
13 ・・・ ダイリップ
14a,14b・ 押出し機
15 ・・・ マニホールド
16 ・・・ キャスティングロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを溶融共押出して、熱可塑性樹脂Aからなる主フィルムの幅方向の両端部に、熱可塑性樹脂Bからなる両端部フィルムが並存した複合フィルムを製造し、該複合フィルムを延伸した後、幅方向の両端部を切断除去してなる、延伸フィルムの製造方法であって、
前記両端部フィルムのフィルム延伸応力値が、同一延伸倍率における主フィルムのフィルム延伸応力値よりも大きいことを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記両端部フィルムの延伸応力値が、同一延伸倍率における主フィルムのフィルム延伸応力値に対して、1.5〜6.9倍であることを特徴とする請求項1に記載の延伸フィルム製造方法。
【請求項3】
前記両端部フィルムの幅が、延伸前においてそれぞれ片側5mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記延伸が、一軸延伸又は二軸延伸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法により製造された延伸フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−149511(P2008−149511A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338029(P2006−338029)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】