説明

延伸フィルムの製造方法

【課題】
延伸フィルムの製造方法において、加熱されたフィルムの幅方向の延伸を意図的にコントロールすることにより、厚薄精度の高い延伸フィルムを得ることができる方法を提供する。
【解決手段】
フィルムを幅方向に延伸する際のフィルムの特定位置の温度を他の位置の温度より高くすることにより、フィルムのネック延伸をその特定位置から開始させることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。延伸原反の目的とする位置のみを更に加熱して、ネック延伸のきっかけ(トリガー)を設けて、その位置から強制的にネック延伸を開始させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン等の延伸フィルムの製造方法に関するものであり、延伸されたフィルムの厚さのばらつき、強度のばらつき、配向のばらつきなどが少ないフィルムを得ることができる延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリプロピレン等の二軸延伸フィルムは、押し出したシートを予熱して長手方向に延伸した後、さらに幅方向に延伸して成形されている。その際、長手方向の延伸は2つのロール間の回転速度を変えることにより行われ、幅方向の延伸はテンター内でフィルムの両端をニップで保持して順次幅方向に引き延ばして行われている。
幅方向の延伸において、テンター内ではフィルムが加熱され幅方向に引き延ばされるが、幅方向で延伸力の小さい位置、即ち局所的に温度の高い位置や厚さの薄い位置から延伸が開始する。このようなネック延伸では、その部分だけフィルムの厚さが薄くなり、その後の延伸伝搬により、最終的には全体が薄くなり延伸されたフィルムが得られる。
【0003】
このようにテンター内での延伸の際に、ネック延伸が開始する位置はコントロールされておらず、見かけ上はネック延伸が伝搬し最終的に全体が延伸されたフィルムが製造されている。
近年、延伸フィルムについて要求される性能が高くなり、フィルムの厚さのばらつき、強度のばらつき、配向のばらつきなどが少ない延伸フィルムが求められている。
一方、テンター内で加熱されたフィルムの温度や厚さは幅方向、長手方向で必ずしも高い精度で均一とはいえない。そのため、テンター内の温度コントロールによりネック延伸を開始する位置を常に同じ位置に維持することには限界がある。
特にポリプロピレン、ポリエチレン等の結晶性高分子の縦延伸シートを更に横延伸する際には、延伸原反の強度のばらつきや幅方向の厚薄のために、ネック延伸が開始する位置を常に同じ位置に維持することが難しい場合もあり、そのため得られる延伸フィルムの性能、厚薄精度が影響を受けたり、延伸時のフィルム切断の原因になる等の安定生産にも影響を与えることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は延伸フィルムの製造方法において、加熱されたフィルムの幅方向の延伸を意図的にコントロールすることにより、厚薄精度の高い延伸フィルムを確実に得ることができる方法を提供すものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明はフィルムを幅方向に延伸する際のフィルムの特定位置の温度を他の位置の温度より高くすることにより、フィルムのネック延伸をその特定位置から開始させることを特徴とする延伸フィルムの製造方法に関する。
一般に延伸される延伸原反は延伸される際に、延伸温度に加熱されるが、本発明では延伸原反の目的とする任意の位置のみを更にそれ以上に高い温度とすることにより、ネック延伸のきっかけ(トリガー)を設けて、その位置から強制的にネック延伸を開始させるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、幅方向の延伸のネック延伸が開始する位置をコントロールすることができ、高い厚薄精度の延伸フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明が適用される延伸フィルムはポリオレフィン等の熱可塑性樹脂の延伸フィルムである。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体等のプロピレン系ポリマー、ポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体等のエチレン系ポリマー、ポリ−4−メチル−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンと他のα−オレフィンとの共重合体などの4−メチル−ペンテン系ポリマー、ポリブテン等のブテン系ポリマー、ポリシクロオレフィン等がある。これらのポリマーには必要に応じて各種の添加剤、安定剤が配合される。添加剤には顔料、色素、無機、有機の充填剤、発泡剤等があり、安定剤には酸化防止剤、紫外線吸収剤などがある。また、本発明は単層フィルム、多層フィルムいずれの製造にも適用可能でその厚さは通常約1ミクロンから約200ミクロン程度である。
【0008】
本発明はいわゆる逐次二軸延伸法に利用することに適しているが、その他その目的に応じて他の延伸フィルムの製造方法にも適用することができる。
本発明は、延伸原反となるフィルムが幅方向に延伸する際のフィルムの特定位置の温度を他の位置の温度より高くすることにより、フィルムのネック延伸をその特定位置から強制的に開始させることを特徴とするものである。
本発明を逐次二軸延伸法に適用する場合は、延伸原反のシートを予め長手方向に延伸した後に、幅方向に延伸する際に、フィルムの幅方向において、その一カ所または複数の特定位置の温度を他の位置の温度より高くすることにより行われる。
これにより、フィルムの特定位置でネック延伸を開始させることができ、ネック延伸の位置をコントロールすることができる。
【0009】
特定位置は、延伸原反の厚さやポリマーの種類等に応じて、得られる延伸フィルムの厚さの均一性の向上に適した位置(一か所または複数箇所)が決められる。
例えば、得られる延伸フィルムの幅方向の厚さのばらつきを測定しながら、ネック延伸の開始位置を微少変化させ、測定されるフィルムの厚さのばらつきのデータから、その均一性が向上する位置への移動を順次繰り返し、ネック延伸の開始する最適の位置を決めることができる。
【0010】
なお、温度を高くする特定位置は、長手方向に延伸されたフィルムが幅方向に延伸される直前の位置であることが望ましい。幅方向の延伸が開始した後は、既に幅方向の張力によりフィルムの何れかの位置でネック延伸が開始してしまうので、そのような状況で新たに強制的なネック延伸を開始させても、既に発生しているネック延伸の影響を受け、得られる延伸フィルムの厚さの制御が難しくなり、フィルムの切断が起こりやすくなる。また、幅方向に延伸が開始される位置よりも長手方向にはるか上流の延伸原反のフィルムの温度を高くしても、幅方向に延伸される直前に至った時点でその温度が低下していては、強制的なネック延伸は開始しない。
このような特定位置は延伸原反のフィルムの幅方向に一カ所でもよく、例えば2から10箇程度の複数箇所でもよい。さらに、特定位置が複数の場合はフィルムの長手方向の同じ位置であることが望ましいが、適宜長手方向にずらした位置となっていてもよい。
【0011】
温度を高くする特定位置の割合(特定位置が複数の場合は個々の特定位置)は、延伸直前の延伸原反のフィルムの幅全体の約0.1から約5パーセント程度の幅とすることが通常であるが、延伸原反のフィルムの種類、延伸速度等により適宜変更することができる。
特定位置の温度を高くするためには、フィルムが幅方向に延伸を開始する直前のフィルムを局所的に加熱することが一般的である。また、幅方向に延伸を開始する直前でなくても、フィルムが幅方向の延伸の開始直前のフィルムが局所的に目的とする範囲の温度になるように、早い時期にそれより上流の延伸原反のフィルムを局所的に加熱してもよい。
特定位置の温度は、幅方向の延伸時において、他の位置の延伸原反のフィルムの温度よりも更に3℃から15℃程度高く、中でも5℃から10℃程度高く、かつその延伸原反のフィルムの融点より低くすることが一般的である。なお、温度を高くする範囲は延伸原反のフィルムの融点、ポリマーの種類等に応じて変更することができる。
【0012】
特定位置の温度を局所的に高くする手段は、従来公知の加熱手段を用いることができる。例えば、ニクロム線等を用いる抵抗加熱、赤外、遠赤外線を用いる加熱、マイクロを用いる加熱、誘電加熱、レーザビームを用いる加熱等がある。
例えば、幅方向の延伸をテンター内で行う場合、テンター内の幅方向に延伸する直前の部分に赤外線ヒータを設け、延伸原反のフィルムが通過する位置のテンターの壁全面に格子状に多数の開閉可能な窓を設け、意図的に温度を高くする特定位置(一か所または複数箇所)に対応する位置の窓のみを開き、その位置の延伸原反のフィルムに、赤外線ヒータの光線を照射すれば、その特定位置の温度を高くすることができる。
【0013】
また、局所的に加熱する手段を延伸の直前で延伸原反の幅方向に複数個配列したり、移動可能に設置して、延伸原反のフィルムの必要な位置(一か所または複数箇所)のみを意図的に加熱することもできる。これにより、目的とする任意の位置(特定位置)を局所的に加熱することができる。
複数の特定位置の温度を高くするために加熱する場合は、個々の特定位置ごとに加熱部分の温度を制御して、加熱される特定位置の延伸原反のフィルムの温度をコントロールして、得られる延伸フィルムの厚薄精度を向上させることも行われる。
さらに、複数の特定位置の温度は、必ずしも同一とする必要はない。積極的に幅方向の特定位置の間で温度差を設けることも行われる。例えば、中央部の特定位置の温度を周辺部の特定位置より低くしたり、また逆に高くすることにより、ネック延伸の開始を中央部より周辺部が先行するようにしたり、また逆に周辺部より中央部が先行するようにコントロールすることができる。
【0014】
本発明によれば、例えばポリプロピレンの延伸フィルムを逐次二軸延伸法により成形する場合、ロール縦延伸の後、さらに幅方向に延伸する際に、フィルムの幅方向の一カ所または複数の特定位置の温度を他の位置の温度より高くして、その特定位置のフィルムをネック延伸させることができる。
この場合、幅方向の延伸されるフィルムの温度は通常120〜150℃程度である。本発明では、幅方向の張力が加えられる直前のフィルムの特定位置を加熱して、その部分の温度を延伸温度より更に2℃から15℃程度高く、好適には3℃から10℃程度高くする。これにより、延伸原反のフィルムはテンター内でその特定位置からネック延伸が開始され、テンターからフィルムが出る段階では、フィルムの幅方向の全体での延伸が完了している。
テンターを出た延伸フィルムは必要に応じてヒートセットされ、延伸フィルムの製品となる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の延伸フィルムの製造方法によれば、幅方向の延伸のネック延伸の開始位置をコントロールして、高い厚薄精度の延伸フィルムを得ることができる。従って、包装用、産業用の種々の単層フィルム、積層フィルムの成形に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを幅方向に延伸する際のフィルムの特定位置の温度を他の位置の温度より高くすることにより、フィルムのネック延伸をその特定位置から開始させることを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
延伸フィルムの製造方法において、予め長手方向に延伸した後に、幅方向に延伸する際に、その一カ所または複数の特定位置の温度を他の位置の温度より高くすることにより、フィルムのネック延伸をその特定位置から開始させることを特徴とする請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
フィルムがポリオレフィンからなるフィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の延伸フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−51161(P2009−51161A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222266(P2007−222266)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】