説明

延伸フィルムの製造方法

【課題】生産性に優れた延伸フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の延伸フィルムの製造方法は、幅方向端部10bの結晶化度が幅方向中央部10aの結晶化度よりも高い延伸用フィルム10を横延伸する。好ましくは、樹脂フィルムの幅方向端部を加熱して延伸用フィルム10を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、歩留まりに優れた延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
延伸フィルムの製造において、歩留まりの向上が望まれている。そこで、幅方向中央部と幅方向端部とが異なる樹脂で形成された複合樹脂フィルムを延伸する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、このような複合樹脂フィルムの作製には特殊なダイが必要となる、樹脂をリサイクルする際に異なる樹脂が混ざってしまう等、生産性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−149511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、生産性に優れた延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の延伸フィルムの製造方法は、幅方向端部の結晶化度が幅方向中央部の結晶化度よりも高い延伸用フィルムを横延伸する。
好ましい実施形態においては、樹脂フィルムの幅方向端部を加熱して上記延伸用フィルムを作製する。
好ましい実施形態においては、上記延伸用フィルムが非晶質のポリエチレンテレフタレートで構成される。
好ましい実施形態においては、上記中央部の結晶化度が15%以下である。
好ましい実施形態においては、上記端部の結晶化度と上記中央部の結晶化度との差が5%以上である。
本発明の別の局面によれば、延伸フィルムが提供される。この延伸フィルムは、上記製造方法により製造される。
本発明のさらに別の局面によれば、延伸用フィルムが提供される。この延伸用フィルムは、単一の樹脂で構成され、幅方向端部の結晶化度が幅方向中央部の結晶化度よりも高い。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、幅方向端部の結晶化度が中央部の結晶化度よりも高い延伸用フィルムを用いることにより、高い歩留まりを保持しながら、特殊な装置が必要となる、リサイクルが困難である等の生産性の問題を解消することができる。具体的には、結晶化度を変化させることで、延伸用フィルムを単一の樹脂で構成することが可能となる。その結果、延伸用フィルムを得るために特殊な装置を必要とせず、リサイクルの問題も解消される。また、本発明の製造方法により製造される延伸フィルムは、厚みにも物性的にも均一性に優れ得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の延伸フィルムの製造方法で用いられる延伸用フィルムの好ましい実施形態を示す平面図である。
【図2】実施例1の延伸用フィルムの写真である。
【図3】本発明の実施例1および比較例1で得られた延伸フィルムの厚みの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。本発明に係る延伸フィルムは、延伸用フィルムを横延伸することにより得られる。
【0009】
A.延伸用フィルム
図1は、本発明の延伸フィルムの製造方法で用いられる延伸用フィルムの好ましい実施形態を示す平面図である。延伸用フィルム10は、その幅方向中央部10aの結晶化度と幅方向端部10b,10bの結晶化度とが異なり、端部10bの結晶化度は中央部10aの結晶化度よりも高い。このような関係を有する延伸用フィルムによれば、中央部10aを選択的に横延伸することができる。具体的には、端部10b,10bを把持して横延伸することにより、中央部10aを端部10b近傍まで所望の厚みに延伸することができ、得られる延伸フィルムの有効幅を大きくして歩留まりを高くすることができる(端部10b近傍は延伸後に切断され得る)。さらに、延伸された中央部10aの厚みムラは小さく、均一性に優れた延伸フィルムを製造することができる。また、このような端部10b,10bを形成することで、物性的にも均一性に優れた延伸フィルムを製造することができる。具体的には、このような端部を有しないフィルムでは、横延伸により中心付近と把持部近傍との間で物性差が生じ得る(例えば、クリップ把持部近傍でタルミが生じ得る)が、結晶化度の高い端部10b,10bを形成することで、中央部10aに物性差が生じるのを抑制することができる。
【0010】
延伸用フィルムは、任意の適切な方法により作製することができる。好ましくは、樹脂フィルムの幅方向端部を加熱することにより延伸用フィルムを作製する。加熱することにより、結晶化を促進させることができる。幅方向端部を加熱する方法としては、好ましくは、樹脂フィルムの幅方向端部をプレス機でプレスする方法が挙げられる。このような方法を採用することにより、幅方向端部のみを効率的に結晶化させることができる。
【0011】
加熱条件は、樹脂フィルムの構成材料等に応じて、任意の適切な条件に設定することができる。構成材料の詳細については後述するが、例えば、樹脂フィルムが非晶質のポリエチレンテレフタレートで構成される場合、加熱温度は、好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃〜170℃である。加熱時間は、好ましくは1分以上である。
【0012】
上記延伸用フィルム(樹脂フィルム)は、任意の適切な材料で構成される。好ましくは、非晶質の(結晶化度の低い)結晶性樹脂が挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4メチルペンテン1、ポリブテン1等に例示されるポリオレフィン類;ポリ弗化ビニル、ポリ弗化ビニリデン等のポリ弗化オレフィン類;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に例示されるポリエステル類;ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアミド等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、非晶質のポリエチレンテレフタレートである。
【0013】
延伸用フィルムの幅方向中央部10aの結晶化度は、好ましくは15%以下、さらに好ましくは12%以下である。このような結晶化度を有することにより、より均一な延伸を実現することができる。また、延伸用フィルムの中央部10aの結晶化度は、実質的に、上記樹脂フィルムの結晶化度である。このような結晶化度を有する樹脂フィルムを用いることにより、幅方向端部の結晶化を効率的に促進させることができる。延伸用フィルムの幅方向端部10bの結晶化度と中央部10aの結晶化度との差は、好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上である。結晶化度の差がこのような範囲であることにより、中央部10aをより選択的に横延伸して、非常に高い歩留まりを実現することができる。また、より均一な延伸を実現することができる。延伸用フィルム幅方向端部10bの結晶化度は、好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上である。20%を下回ると、端部10bも著しく延伸されてしまうおそれがある。なお、本明細書において「結晶化度」とは、DSC装置にて昇温速度10℃/minで結晶融解熱量を測定し、この結晶融解熱量と測定時の結晶生成熱量との差を、完全結晶の融解熱量(文献値)で除することにより算出した値である。
【0014】
延伸用フィルムの結晶化度を上記のように調整することにより、幅方向中央部10aと端部10bとで、引張り応力に差が生じ得る。幅方向中央部10aの引張り応力は、好ましくは250N/mm以下、さらに好ましくは200N/mm以下である。このような引張り応力を備えることにより、より均一な延伸を実現することができる。幅方向端部10bの引張り応力は、好ましくは300N/mm以上、さらに好ましくは320N/mm以上である。300N/mmを下回ると、端部10bも著しく延伸されてしまうおそれがある。
【0015】
延伸用フィルム10は、代表的には、長尺状とされている。このような延伸用フィルムを長尺方向に搬送する場合、結晶化度の高い端部は、好ましくは、フィルムの搬送方向(流れ方向)に沿って連続的に形成される。このような構成にすることで、例えば、延伸用フィルム端部がクリップにより連続的に把持されているとみなすことができ、搬送方向における均一性にも優れた延伸フィルムを製造することができる。
【0016】
延伸用フィルム10の厚みは、任意の適切な値に設定することができる。代表的には500μm以下、好ましくは10μm〜300μmである。結晶化度の低い幅方向中央部10aの幅は、任意の適切な値に設定することができる。結晶化度の高い幅方向端部10bの幅は、例えば、テンター延伸装置のクリップで当該端部を把持し得る限り、任意の適切な値に設定することができる。好ましくは100mm以下である。端部10bの幅がこのような範囲であっても、中央部10aを選択的に横延伸して、均一性に優れた延伸フィルムが製造することができる。また、さらに高い歩留まりを実現することができる。
【0017】
B.延伸方法
上述のように、延伸用フィルムは横延伸される。延伸方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。代表的には、テンター延伸装置を使用する方法が挙げられる。具体的には、延伸用フィルム10の幅方向端部10b,10bを、テンター延伸装置のクリップで把持して幅方向に延伸する。別の具体例としては、バッチ式二軸延伸装置を使用する方法が挙げられる。具体的には、予め、切り出した延伸用フィルムの4辺を把持した状態で幅方向に延伸する。好ましくは、延伸用フィルムの4辺を把持した状態で、所定の温度まで加熱後、延伸して冷却する。
【0018】
延伸温度は、延伸用フィルムの構成材料等に応じて、任意の適切な温度に設定することができる。好ましくは、延伸用フィルムの幅方向中央部10aのガラス転移温度よりも高く、端部10bのガラス転移温度よりも低い。延伸温度をこのように設定することにより、延伸用フィルムの中央部10aをより選択的に横延伸して、非常に高い歩留まりを実現することができる。また、より均一な延伸を実現することができる。延伸温度は、好ましくは、延伸用フィルムの幅方向中央部10a(樹脂フィルム)のガラス転移温度(Tg)+5℃〜Tg+150℃であり、さらに好ましくはTg+10℃〜Tg+100℃である。例えば、延伸用フィルムが非晶質のポリエチレンテレフタレートで構成される場合、延伸温度は、好ましくは80℃〜170℃である。
【0019】
延伸倍率は、任意の適切な値に設定することができる。延伸倍率は、代表的には1.2倍〜10倍であり、好ましくは1.5倍〜7倍である。
【0020】
上記構成を有する延伸用フィルム10は、幅方向中央部10aが選択的に横延伸され得る。延伸後、例えば、端部10b,10b近傍を切断(スリット)することにより、厚みにも物性的にも均一性に優れた延伸フィルムを得ることができる。延伸フィルムの厚みは、代表的には400μm以下であり、好ましくは250μm以下である。切断片は単一の樹脂で構成されるため、リサイクルを容易に行うことができる。
【0021】
C.用途
本発明の延伸フィルムの製造方法により製造される延伸フィルムは、例えば、画像表示装置等に用いられる光学フィルムとして好適に使用される。光学フィルム以外にも、例えば、窓やカーポート屋根材等の建築用採光部材、窓等の車輌用採光部材、温室等の農業用採光部材、照明部材、前面フィルター等のディスプレイ部材、家電の筐体、車輌内装部材、内装用建築材料、壁紙、化粧板、玄関ドア、窓枠、巾木等に積層して使用され得る。
【実施例】
【0022】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、結晶化度、延伸応力(引張り応力)および厚みは下記の方法により測定した。
1.結晶化度
DSC装置(セイコーインスツル社製、EXSTAR DSC6000)を用いて、昇温速度10℃/minで結晶融解熱量を測定し、この結晶融解熱量と測定時の結晶生成熱量との差を、完全結晶の融解熱量(PET:118J/g)で除することにより算出した。
2.延伸応力
オートグラフ(島津製作所社製、製品名「AG−1」)を用いて測定した。幅10mmの試験片を、試験長20mmとなるように設置し、90℃の恒温槽中で200mm/minの速度で延伸した際の、最大試験力を測定し、得られた測定値を試験片の断面積で除することにより算出した。
3.厚み
YAMABUN社製、連続厚み測定装置 TOF−5Rを用いて測定した。
【0023】
[実施例1]
(樹脂フィルム)
樹脂フィルムとして、非晶質ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製、商品名「ノバクリア SG007」、厚み:200μm、Tg:80℃)を、縦200mm×横120mmに切断して用いた。
(結晶化処理)
切断した樹脂フィルムの左右それぞれの長辺から幅10mmの端部を、150℃に加熱したプレス機で1分間プレスした。このようにして、延伸用フィルムを作製した。
(延伸用フィルム)
得られた延伸用フィルムの端部の結晶化度は29%であり、中央部の結晶化度は8%であった。また、端部の延伸応力は327N/mmであり、中央部の延伸応力は198N/mmあった。なお、図2は、得られた延伸用フィルムの写真である。結晶化処理を施した両端部が白くなっている。
【0024】
(延伸)
上記で得られた延伸用フィルムの結晶化処理を施した両端部をそれぞれクリップにて把持し、テンター延伸装置にて90℃で300%(4倍)延伸して延伸フィルムを作製した。
得られた延伸フィルムの中央部の厚みは50μm±2μmで、有効幅は320mmであった。有効幅において、その中央部および端部の結晶化度はともに8%であり、延伸応力は中央部が173N/mm、端部が186N/mmであった。
【0025】
[比較例1]
結晶化処理を施さず、上記樹脂フィルムをそのまま延伸用フィルムとして用い、実施例1と同様にして延伸フィルムを作製した。
得られた延伸フィルムの中央部の厚みは54μm±2μmで、有効幅は290mmであった。有効幅において、結晶化度は中央部が7%、端部が8%であり、延伸応力は中央部が161N/mm、端部が169N/mmであった。
【0026】
図3は、実施例1および比較例1で得られた延伸フィルムの厚みの測定結果である。図3に示すとおり、実施例1で得られた延伸フィルムは結晶化処理が施された端部近傍を境にほぼ均一な厚みを有しており、所望の厚み範囲に入る有効幅は320mmであった。一方、比較例1で得られた延伸フィルムは、クリップの把持部だけでなく、把持部周辺(両端50mm程度)においても中心に比べて厚みは厚く、有効幅は290mmであった。以上より、端部に結晶化処理を施すことで有効幅が大きくなった。また、実施例1で得られた延伸フィルムは、結晶化度および延伸応力ともに、均一性に優れていた。
【0027】
両端の厚肉部をスリットした実施例1の延伸フィルムは、そのスリット端部においてタルミは確認されなかった。一方、両端の厚肉部をスリットした比較例1の延伸フィルムは、そのスリット端部でタルミが確認された。端部に結晶化処理を施すことで、タルミの発生が抑制され、均一性に優れた延伸フィルムが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により得られる延伸フィルムは、例えば、光学フィルムとして好適に使用される。
【符号の説明】
【0029】
10 延伸用フィルム
10a 幅方向中央部
10b 幅方向端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向端部の結晶化度が幅方向中央部の結晶化度よりも高い延伸用フィルムを横延伸する、延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
樹脂フィルムの幅方向端部を加熱して前記延伸用フィルムを作製する、請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記延伸用フィルムが非晶質のポリエチレンテレフタレートで構成される、請求項1または2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記中央部の結晶化度が15%以下である、請求項1から3のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記端部の結晶化度と前記中央部の結晶化度との差が5%以上である、請求項1から4のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製造方法により製造された、延伸フィルム。
【請求項7】
単一の樹脂で構成され、幅方向端部の結晶化度が幅方向中央部の結晶化度よりも高い、延伸用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−51336(P2012−51336A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197669(P2010−197669)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】