説明

延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法

【課題】 本発明は、ポリエステル系樹脂シートを引抜成形した後、一軸延伸して、引張強度、引張弾性率及び耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを製造する方法を提供する。
【解決手段】 非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、一対の引抜ロール間を引抜いて、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを製造した後、連続して引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法において、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに傾斜ロールを押圧して引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのたるみを除去した後、一軸延伸することを特徴とする延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法に関し、より詳細には、引張強度、引張弾性率及び耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、引抜成形により、平滑な表面を持つ、透明で、強度と弾性率の高い結晶性高分子シートを製造する方法が検討されており、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール樹脂、ナイロン等の結晶性高分子原反シートを、そのシートに10MPaの荷重をかけて1℃/分の昇温速度で昇温した時の変形開始温度以上で示差走査熱量測定融解曲線の立ち上がり温度を超えない温度に加熱した一対のローラーを通じて、少なくとも延伸比2.5倍以上に引き抜くことを特徴とする結晶性高分子シートの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭60−15120号公報
【0003】
しかしながら、上記結晶性高分子シートの製造方法でポリエステル系樹脂を延伸するには、ポリエステル系樹脂は低温では硬すぎて延伸に必要な柔軟性が不足し、高温では配向の緩和が支配的になるので、強度及び弾性率の優れた延伸シートを得るには、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜ガラス転移温度+20℃の温度範囲で引抜成形する必要があるが、引抜成形された延伸ポリエステル系樹脂シートはガラス転移温度以上に加熱されると弾性率が急激に低下するという欠点があった。
【0004】
又、ポリエステル系樹脂シートを引抜成形した場合、引抜成形された延伸ポリエステル系樹脂シートは、ポリエステル系樹脂シートの幅方向に延伸倍率がばらつき、蛇行が発生してしまう。このため、引抜成形した延伸ポリエステル系樹脂シートを連続して一軸延伸することはできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、ポリエステル系樹脂シートを引抜成形した後、一軸延伸して、引張強度、引張弾性率及び耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、一対の引抜ロール間を引抜いて、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを製造した後、連続して引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法において、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに傾斜ロールを押圧して引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのたるみを除去した後、一軸延伸することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、引抜延伸が、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度の一対の引抜ロール間を通して引抜く延伸方法であることを特徴とする請求項1記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であり、容易に引抜延伸することができる。
【0008】
請求項3記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、引抜延伸が、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱した後、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度未満、ガラス転移温度−20℃以上の温度の一対の引抜ロール間を通して引抜く延伸方法であることを特徴とする請求項1記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であり、容易に引抜延伸することができる。
【0009】
請求項4記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、一対の引抜ロールの温度より高い温度で一軸延伸することを特徴とする請求項2又は3記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法引張強度、引張弾性率及び耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られる。
【0010】
請求項5記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、一軸延伸温度が、昇温速度1℃/minで測定した示差操作熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であることを特徴とする請求項4記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であり、好適に一軸延伸することができる。
【0011】
請求項6記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸温度より高い温度で熱固定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であり、更に、引張強度、引張弾性率及び耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られる。
【0012】
請求項7記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、熱固定温度が、一軸延伸温度〜昇温速度1℃/minで測定した示差操作熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の融解ピークの立ち上がり温度であることを特徴とする請求項6記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であり、熱固定を安定して確実に行うことができる。
【0013】
請求項8記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、熱固定を、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが熱により収縮しないように固定した状態で行うことを特徴とする請求項6又は7記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であり、熱固定をより安定して確実に行うことができる。
【0014】
本発明で使用される熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等が挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0015】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.5〜4mmが好ましい。0.5mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、4mmを超えると延伸が困難となることがある。
【0016】
本発明においては、上記非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、駆動ロールで引張り、一対の引抜ロール間を通して引き抜いて引抜延伸するが、引抜延伸方法としては特に限定されず、例えば、非晶状態の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、該延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度の一対の引抜ロール間を通して引き抜いて引抜延伸する方法が挙げられる。
【0017】
上記引抜延伸する際の一対の引抜ロールの温度は、低温であると延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが硬すぎて引き抜くことができず、高温になると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが柔らかくなりシートを引き抜く張力によりシートが切断されるので、該延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度範囲が好ましく、より好ましくは該延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度〜該延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度範囲である。
【0018】
又、異なる引抜延伸延伸方法として、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱した後、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度未満、ガラス転移温度−20℃以上の温度の一対の引抜ロール間を通して引抜く延伸方法が挙げられる。
【0019】
上記引抜延伸する際の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、低温であると延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが白化したり、硬すぎて引き抜くことができず、高温になると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが柔らかくなりシートを引き抜く張力によりシートが切断されるので、引抜延伸する前に予め熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度以上に加熱されるのであり、好ましくはガラス転移温度+20℃以下である。
【0020】
上記引抜延伸する際の一対の引抜ロールの温度は、低温であると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが急冷され、結晶化して引き抜きにくくなり、高温になると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが柔らかくなりシートを引き抜く張力によりシートが切断されるので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度未満、即ち、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度以下であって、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃以上の温度範囲であり、好ましくは熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度未満、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−10℃以上の温度範囲である。
【0021】
又、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引き抜く際に、一対の引抜ロールは回転する必要はないが、温度分布を均一にするために引き抜き方向にわずかに回転していてもよい。
【0022】
上記引抜延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性率に優れたシートが得られず、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなるので、2〜9倍が好ましく、さらに好ましくは4〜8倍である。
【0023】
本発明において引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、引張強度、引張弾性率、耐熱性等の物性を向上させるために、引抜ロールの温度より高い温度で一軸延伸するが、引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、その原反である熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが有する部分的な欠陥のために、延伸倍率が一定ならず長さが均一にならないためにたるみ(蛇行)が発生する。
【0024】
従って、本発明においては、一軸延伸する前に、引抜延伸された引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに傾斜ロールを押圧して、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのたるみ(蛇行)を除去する。
【0025】
具体的には、前述の引抜ロールと駆動ロールの間において、引抜延伸された引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに傾斜ロールを押圧して、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのたるみ(蛇行)を除去する。
【0026】
上記傾斜ロールとは、ロールの両端部の軸が引抜延伸された引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの進行方向、上方向等に移動自在に機械的に保持されロールであり、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのたるみ(蛇行)の状態に従って、進行方向、上方向等に移動させシートを押圧して、たるみ(蛇行)のある部分の引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを伸ばし、たるみ(蛇行)を除去する。
【0027】
尚、この傾斜ロールを使用する場合は、傾斜ロールの前方に引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの位置測定装置を設置し、位置測定装置でたるみ(シートの位置のずれ)を測定し、制御装置で傾斜ロールの位置(押圧状態)を制御するのが好ましい。
【0028】
又、異なる傾斜ロールの例は、ロールの両端部の軸がばね等により、それぞれ独立して引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの進行方向、上方向等に賦勢されているロールであり、たるみ(蛇行)のある部分の引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを押圧して伸ばし、たるみ(蛇行)を除去する。
【0029】
引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのポリエステル系樹脂は、延伸の阻害要因となる熱による等方的な結晶化及び配向が抑えられた状態で分子鎖は高度に配向しているので強度及び弾性率が優れているが結晶化度は低いので、加熱されると配向は容易に緩和され弾性率は低下してしまうという欠点を有している。
【0030】
しかし、この引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該ロールの温度より高い温度で一軸延伸することにより配向が緩和されることなく結晶化度が上昇し、加熱されても配向が容易に緩和されない耐熱性の優れた延伸シートが得られる。
【0031】
上記一軸延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。ロール延伸法とは、速度の異なる2対のロール間に延伸原反を挟み、延伸原反を加熱しつつ引っ張る方法であり、一軸方向のみに強く分子配向させることができる。この場合、2対のロールの速度比が延伸倍率となる。
【0032】
上記一軸延伸する際の温度は、引抜延伸する際の一対のロールの温度より高い温度であればよいが、高すぎると引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが溶融して切断されるので、昇温速度1℃/minで測定した示差操作熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度の温度範囲が好ましい。
【0033】
尚、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は約120℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃である。従って、ポリエチレンテレフタレートシートを一軸延伸する際は約120〜約230℃で一軸延伸するのが好ましい。
【0034】
上記一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性率に優れたシートが得られず、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなるので、1.1〜3倍が好ましく、さらに好ましくは1.2〜2倍である。また、一次延伸と一軸延伸の合計延伸倍率は、同様の理由で、2.5〜10倍が好ましい。
【0035】
更に、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの耐熱性を向上させるために熱固定するのが好ましい。
【0036】
熱固定温度は、一軸延伸温度より低いと熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まないので耐熱性が向上せず、昇温速度1℃/minで測定した示差操作熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の融解ピークの立ち上がり温度より高くなると熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し引張弾性率、引張強度等が低下するので、一軸延伸温度〜昇温速度1℃/minで測定した示差操作熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の融解ピークの立ち上がり温度が好ましい。
【0037】
又、熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷がかかっていると延伸され、フリーの状態では収縮するので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷はかかっていないが熱により収縮しないように固定した状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないのが好ましい。例えば、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両端をピンチロール等で負荷がかからないように保持した状態で熱固定するのが好ましい。従って、加熱は熱風、ヒーター等で行うのが好ましい。
【0038】
熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、一般に10秒〜5分が好ましい。
【0039】
本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法で製造された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、引張強度、引張弾性率、耐熱性が優れており、これらの性能を要求される建材等に好適に使用される。
【0040】
又、上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、積層されて使用されてもよいし、他の未延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート、延伸ポリオレフィン系樹脂シ−ト、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂、アクリレート系樹脂等の熱可塑性樹脂シートと積層されてもよい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法の構成は上述の通りであり、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートはたるみ(蛇行)のない状態で一軸延伸工程に供給され一軸延伸されるので、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート蛇行することなく一軸延伸され、引張強度、引張弾性率、耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが効率よく得られる。又、一軸延伸後熱固定した延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは更に耐熱性が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
次に本発明の実施例を図面を参照して説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0043】
図1は、本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法の一例を示す説明図であり、図2は引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの状態を示す平面図である。
【0044】
図中1は熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの供給ロール、3はブレーキロール、4は予備加熱装置、5は引抜ロール、8は駆動ロールである。
【0045】
供給ロール1に巻回されている熱可塑性ポリエステル系樹脂シート2は、ブレーキロール3でブレーキをかけられながら駆動ロール8により引張られ、予備加熱装置4で所定温度に加熱された後、所定温度に設定されている一対の引抜ロール5の間を引き抜かれて、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6が得られる。
【0046】
引抜ロール5と駆動ロール8の間には傾斜ロール7が設置され、引抜ロール5と傾斜ロール7の間の情報に位置測定装置9が設置されている。傾斜ロール7は図1において引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6の下方に設置され、ロールの両端部の軸がそれぞれ独立して引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6の進行方向(図において右方向)に進退自在に保持されている。又、位置測定装置9と傾斜ロール7の両端部の軸がそれぞれ独立して制御装置(図示せず。)に接続されており、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6のたわみ(ずれ)を位置測定装置9によって測定し、そのデータにより傾斜ロール7が移動され傾斜ロール7により引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6を押圧したわみが除去されるようになされている。
【0047】
即ち、引抜き成形された引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6は、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの結晶化度のばらつき、加熱温度のばらつき等のために、図2において破線で示したようにたわみ(ずれ)が発生するので、傾斜ロール7により引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6を進行方向に押圧し、たるみ(ずれ)を除去し、実線で示したように、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6の進行方向を進行方向に対して平行になるように制御する。
【0048】
図中10は一軸延伸用の加熱炉であり、加熱炉10内には複数の延伸ロール11、11・・が設置されている。又、加熱炉10の出口側には冷却ロール12、駆動ロール13及び巻取機15が設置されている。
【0049】
たるみの除去された引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート6は、加熱炉10に供給され加熱されると共に延伸ロール11、11・・により延伸される。延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート14は、駆動ロール13により引張られ加熱炉10の出口から排出され、冷却ロール12により冷却されて、巻取機15により巻き取られる。
【0050】
(実施例1)
厚さ2mm、幅200mmのポリエチレンテレフタレートシート(帝人化成社製、商品名「A−PETシートFR」)2を上記延伸装置に供給し、予備加熱装置4で75℃に予熱した後、80℃に加熱された一対の引抜ロール(ロール間隔0.2mm)5間を駆動ロール8の速度を2m/minの速度に設定して引抜延伸し、次に加熱炉10中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を170℃に加熱し、駆動ロール13の速度を2.5m/minに設定してロール延伸して、延伸倍率が5倍(±0.2倍)の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0051】
この際に傾斜ロール7により引抜延伸ポリエチレンテレフタレートシート6にテンションをかけて延伸したところ蛇行レベルは±5mm以内で安定していた。
【0052】
尚、上記ポリエチレンテレフタレートシートのガラス転移温度は72℃、昇温速度1℃/minで測定した示差操作熱量曲線での結晶化ピークの立ち上がり温度は約118℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃であった。
【0053】
(比較例1)
傾斜ロール7を使用しない以外は実施例1で行ったと同様にして、延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得たところ、引抜延伸ポリエチレンテレフタレートシート6は50mm以上蛇行し、延伸は困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの供給ロール
2 熱可塑性ポリエステル系樹脂シート
3 ブレーキロール
4 予備加熱装置
5 引抜ロール
6 引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート
7 傾斜ロール
8 駆動ロール
9 加熱炉
10 位置測定装置
11 延伸ロール
12 冷却ロール
13 駆動ロール
14 延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート
15 巻取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、一対の引抜ロール間を引抜いて、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを製造した後、連続して引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法において、引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに傾斜ロールを押圧して引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのたるみを除去した後、一軸延伸することを特徴とする延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
引抜延伸が、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度の一対の引抜ロール間を通して引抜く延伸方法であることを特徴とする請求項1記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
引抜延伸が、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを駆動ロールで引張り、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱した後、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度未満、ガラス転移温度−20℃以上の温度の一対の引抜ロール間を通して引抜く延伸方法であることを特徴とする請求項1記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
一対の引抜ロールの温度より高い温度で一軸延伸することを特徴とする請求項2又は3記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
一軸延伸温度が、昇温速度1℃/minで測定した示差操作熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であることを特徴とする請求項4記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸温度より高い温度で熱固定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
熱固定温度が、一軸延伸温度〜昇温速度1℃/minで測定した示差操作熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の融解ピークの立ち上がり温度であることを特徴とする請求項6記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
熱固定を、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが熱により収縮しないように固定した状態で行うことを特徴とする請求項6又は7記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−76313(P2007−76313A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270316(P2005−270316)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】