説明

延伸装置

【課題】ロールエッジ干渉の発生を抑制することにより被延伸材の過剰延伸を抑制する。
【解決手段】本発明の延伸装置は、外周面に環状溝が形成された延伸ロールと、被延伸材の幅方向の端部側を挟み込んだ状態で環状溝内に円弧状に嵌挿される把持用線材と、を備えて構成される把持手段によって、被延伸材を把持しつつ一方向に搬送させることにより、把持手段側において被延伸材を幅方向に広げて延伸を行う延伸装置である。延伸ロールは、被延伸材の搬送方向下流側に向かって末広がりに開く方向に傾けて配置され、延伸ロールの外周面は、環状溝より外側の外周面のエッジが面取りされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜材等の被延伸材を延伸する延伸装置にするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルム状、シート状等の形状を有する膜材の延伸技術としては、多数の把持手段、例えばクリップを設けたチェーンを膜材の両端側に各々備え、膜材の両端を各チェーンに設けた各クリップにより把持し、両チェーンをガイドレールに沿って、すなわち膜材を幅方向に広げる方向に駆動させることで膜材を延伸させる、というもの(テンタ方式)があった(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
しかしながら上記従来技術では、膜材の両端を、駆動(搬送)方向に間隔を置いて設けたクリップで把持して延伸するために、クリップ近くで延伸応力が集中することになる。このため、クリップ近くで延伸ムラ、ひいては穴あきや裂けが生じ、クリップ相互間ではネックイン(膜幅方向の収縮)が生じることになり、薄膜化が困難であるという問題があった。
【0004】
この問題を解決する延伸技術として、膜材の搬送方向下流側に向かって末広がりに開く方向に傾けて配置され、その外周面に環状溝が形成された延伸ロールと、膜材の幅方向端部を挟み込んだ状態で環状溝内に円弧状に嵌挿される把持用線材と、から膜材の把持手段を構成し、膜材を、延伸ロールと把持用線材とによって挟圧把持しつつ一方向に搬送させることにより幅方向に広げて膜延伸を行うものも考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−246693号公報
【特許文献2】特開2009−119884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記延伸ロールにより膜材を幅方向に延伸する場合、延伸の度合いは、延伸ロールが膜材の搬送方向下流側に向かって末広がりに傾けて配置される度合い、すなわち、搬送方向に対する延伸ロールの傾き(以下、「開角」と呼ぶ)に応じて変化することになる。このとき、この延伸ロールの開角が大きくなるのに応じて、延伸ロールの外周の環状溝部分と把持用線材とにより挟圧把持される膜材部分(延伸端部)の先頭部分(延伸開始点)よりも、環状溝よりも外側の端部(以下、「ロールエッジ」と呼ぶ)が膜材に先に接して延伸されることになる。なお、以下では、この現象を「ロールエッジ干渉」と呼ぶ。このロールエッジ干渉によって、設定延伸比に対して加速的に実際の延伸比が大きくなってしまうため、延伸限界において穴あきや裂けのような膜の劣化が発生してしまう。また、ロールエッジ干渉が発生すると、延伸ロールの外側の側面と膜材の耳部(延伸端部よりも外側の未延伸部)が干渉することになり、延伸ロールによる膜材の吐き出し効果が働き、設定延伸比に対して加速的に実際の延伸比が大きくなってしまうため、同様に、延伸限界において裂けのような膜の劣化が発生してしまう。
【0007】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、ロールエッジ干渉の発生を抑制することにより被延伸材の過剰延伸を抑制することが可能な延伸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
外周面に環状溝が形成された延伸ロールと、被延伸材の幅方向の端部側を挟み込んだ状態で前記環状溝内に円弧状に嵌挿される把持用線材と、を備えて構成される把持手段によって、前記被延伸材を把持しつつ一方向に搬送させることにより、前記把持手段側において前記被延伸材を幅方向に広げて延伸を行う延伸装置であって、
前記延伸ロールは、前記被延伸材の搬送方向下流側に向かって末広がりに開く方向に傾けて配置され、
前記延伸ロールの外周面は、前記環状溝より外側の外周面のエッジが面取りされている、
ことを特徴とする延伸装置。
適用例1の延伸装置では、延伸ロールの外周面は、環状溝より外側の外周面のエッジが面取りされているので、外周の環状溝部分と把持用線材とにより挟圧把持される被延伸材部分の先頭部分(延伸開始点)よりも、延伸ロールの外周の幅方向の外側の端部(ロールエッジ)が被延伸材に先に接して延伸されるのを抑制することができる。これにより、ロールエッジ干渉の発生を抑制することができ、被延伸材の過剰延伸を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としての延伸装置の要部を示す概略構成図である。
【図2】図1(A)中の延伸ロールの一部分を拡大して示す図である。
【図3】比較例として従来の延伸ロールの一部分を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0012】
図1は、本発明の一実施例としての延伸装置の要部を示す概略構成図であり、図1(A)は上面図、図1(B)は左側面図(図1(A)を下方側から見た図)である。この延伸装置は、不図示の供給ロールから帯状に引き出された被延伸材10を、その幅方向の端部側を把持手段20によって把持しつつ、一方向、図示例では右方向(矢印a方向)に搬送させることにより、把持手段20側において幅方向に広げていって被延伸材の延伸を行う。図示例では、把持手段20を被延伸材10の左右(図中、上下)の各側に設け、被延伸材10の左右の幅方向端部側を各々把持手段20によって把持しているので、被延伸材10は、左右の把持手段20側、すなわち、被延伸材幅方向の左右の各側において幅方向に広げられる(両方向矢印b参照)。延伸後の被延伸材10は不図示の巻取ロールに巻き取られる。なお、被延伸材としては、分離膜、光学フィルム、包装材、衣料、断熱材又は絶縁材等に用いられる樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、塩化ビニル樹脂、ナイロン(商品名)、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0013】
把持手段20は、外周面21に環状溝22が形成された延伸ロールR1と、被延伸材10の幅方向端部側を挟み込んだ状態で環状溝22の適宜の回転角度範囲に亘ってその環状溝22内に円弧状に嵌挿される把持用線材23とを備えて構成される。
【0014】
ここで、延伸ロールR1は、被延伸材10の搬送方向下流側に向かって末広がりに開く方向に傾けて配置されており(図1(A)中、θ1参照)、被延伸材10を、延伸ロールR1と把持用線材23とによって挟圧把持しつつ、一方向、図示例では右方向に搬送させることにより、幅方向に広げていって延伸を行うように構成されている。なお、把持用線材としては、ステンレス、鉄、アルミニウム、タングステン、真鍮等の金属や、ナイロン(商品名)、ビニロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂等の樹脂、あるいは炭素繊維、麻、綿からなる線材等、特に、これらの線材からなる無端ワイヤや無端ベルト等が用いられる。ここでは無端ワイヤで構成されるものとする。
【0015】
把持用線材23は、回転軸が各々延伸ロールR1の同心円上に所定の回転角度をおいて配置された複数の、図示例では3個の搬送ロールR2〜R4間に掛け回されている。搬送ロールR2〜R4は、各々外周面を延伸ロールR1の外周面21の環状溝22に被延伸材10の幅方向端部側を介在させて対向配置されており、これにより、把持用線材23が延伸ロールR1の環状溝22の適宜の回転角度範囲に亘って円弧状に嵌挿されている。なお、各搬送ロールR2〜R4の把持用線材23が掛け回される外周面には、把持用線材23と延伸ロールR1とによる被延伸材10の延伸機能を妨げない程度の寸法の環状溝(図示せず)が形成されている。搬送ロールR2〜R4からの把持用線材23の脱落防止のためである。なお、複数の搬送ロールのうちの両端の搬送ロール、ここでは、搬送ロールR2,R4のみに上記環状溝を設けることにしてもよい。
【0016】
被延伸材10は延伸ロールR1と把持用線材23とによって挟圧把持されるが、この際、被延伸材10に与えられる挟圧力は調整可能であり、この挟圧力の調整のためにテンション調整機24を備えている。このテンション調整機24は、3個の搬送ロールR2〜R4中のいずれか隣接する2個の搬送ロール、図示例では搬送ロールR3,R4間において、把持用線材23を外周側から押圧してその張り具合を調整することにより、挟圧力を調整可能に構成されている。なお、テンション調整機24による把持用線材23の張り具合の調整を、把持用線材23を内周側から押圧して行うように構成してもよい。図1(B)に示す例では、テンション調整機24は電源ONでレバー25を矢印c方向に駆動してプーリ26を矢印d方向に移動させ、把持用線材23を外周側から押圧してその張り具合を強め、あるいは挟圧力を均等にするように構成されている。なお、図1(A)中の上下一対の把持手段20中の上側の把持手段20も図1(B)と同様に構成されている。ただし、上側の把持手段20の側面図(右側面図)は図1(B)を裏面側から透かして見た図となる。
【0017】
図1(A)に示すように、不図示の供給ロールから帯状に引き出された延伸前の被延伸材(ワーク)10は、その幅方向両端部が各々把持手段20により把持、具体的には延伸ロールR1の環状溝22と把持用線材23の間に挟み込まれた状態で矢印a方向に搬送される。延伸ロールR1は、被延伸材10の搬送方向下流側に向かって末広がりに開く方向に傾けて配置されているので(図1(A)中、θ1参照)、被延伸材10は、図1(A)中の矢印bに示すように幅方向に広げられながら、つまり延伸されながら矢印a方向に搬送される。延伸された被延伸材10は不図示の巻取ロールに巻き取られる。
【0018】
図2は、図1(A)中の延伸ロールの一部分を拡大して示す図であり、図3は、比較例として従来の延伸ロールの一部分を拡大して示す図である。図2に示すように、本実施例の延伸ロールR1は、被延伸材10に接触する外周面21のうち、環状溝22より外側の外周面21bのエッジが面取りされている。そして、内側の外周面21aに対する外側の外周面21bの傾きの角度θ2は、延伸ロールR1の搬送方向に対する傾き(開角)の角度θ1以上となるように設定されている。ここでは、開角の角度θ1=30°、内側の外周面21aに対する外側の外周面21bの傾きの角度θ2=35°とした。
【0019】
一方、図3に示すように、比較例の延伸ロールR1cでは、被延伸材10に接触するが外周面21の環状溝22よりも外側の外周面のエッジが面取りされていない。この比較例の延伸ロールR1cの場合、延伸ロールの開角の角度θ1に応じて、環状溝22上の延伸開始点Psよりも、外周面の外側端上のエッジ部分(ロールエッジ)Reのほうが被延伸材10に先に接触してロールエッジ干渉が発生することになる。このロールエッジ干渉が発生すると、設定延伸比に対して加速的に実際の延伸比が大きくなってしまうため、過剰延伸が発生し、延伸限界において被延伸材10に裂けのような劣化が発生してしまう。また、ロールエッジ干渉が発生すると、延伸ロールの外側の側面と被延伸材10の耳部(環状溝22と把持用線材23によって挟圧把持されている被延伸材10の延伸端部よりも外側の未延伸部)が干渉することになり、延伸ロールR1cによる被延伸材10の吐き出し効果が働くことになる。この結果、設定延伸比に対して加速的に実際の延伸比が大きくなってしまうため、同様に、延伸限界において被延伸材10に裂けのような劣化が発生してしまう。
【0020】
しかしながら、本実施例の延伸ロールR1は、上記したように、被延伸材10に接触する外周面21のうち、環状溝22より外側の外周面21bのエッジが面取りされている。そして、内側の外周面21aに対する外側の外周面21bの傾きの角度θ2(=35°)は、延伸ロールR1の搬送方向に対する傾き(開角)の角度θ1(=30°)以上となるように設定されている。これにより、ロールエッジReが延伸開始点Psよりも先に被延伸材10に接触しないようにすることができる。この結果、ロールエッジ干渉の発生が抑制されることになり、設定延伸比よりも実際の延伸比が大きなって過剰延伸が発生し、延伸限界において被延伸材10に裂けのような劣化が発生してしまうことを抑制することができる。
【0021】
なお、上記実施例における構成要素の中の、独立クレームでクレームされた要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0022】
上記実施例では、延伸ロールR1の搬送方向に対する傾き(開角)の角度θ1=30°で、延伸ロールR1の外周面21の環状溝22よりも内側の外周面21aに対する外側の外周面21bの傾きの角度θ2=35°を例に説明した。しかしながら、これに限定されるものではなく、内側の外周面21aに対する外側の外周面21bの傾きの角度θ2が延伸ロールR1の搬送方向に対する傾き(開角)の角度θ1以上となるように、環状溝22よりも外側の外周面21bのエッジが面取りされていればよい。このようにすれば、ロールエッジ干渉の発生が抑制されることになり、設定延伸比よりも実際の延伸比が大きなって過剰延伸が発生して、延伸限界において被延伸材10に裂けのような劣化が発生してしまうことを抑制することができる。
【0023】
また、上記実施例では、延伸ロールR1、搬送ロールR2〜R4、把持用線材23及びテンション調整機24を備えて構成した把持手段20を、被延伸材10の幅方向の左右両端部側に各々一組設けた場合について述べたが、これのみに限定されることはない。例えば、被延伸材10の幅方向の左右両端部側に各々複数設けてもよい。また、被延伸材10の幅方向端部の片側のみに把持手段20を設け、被延伸材の幅方向片側についてのみ延伸を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0024】
10…被延伸材
20…把持手段
21…外周面
21a…外周面
21b…外周面
22…環状溝
23…把持用線材
24…テンション調整機
25…レバー
26…プーリ
R1…延伸ロール
R1c…延伸ロール
R2…搬送ロール
R3…搬送ロール
R4…搬送ロール
Re…ロールエッジ
Ps…延伸開始点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に環状溝が形成された延伸ロールと、被延伸材の幅方向の端部側を挟み込んだ状態で前記環状溝内に円弧状に嵌挿される把持用線材と、を備えて構成される把持手段によって、前記被延伸材を把持しつつ一方向に搬送させることにより、前記把持手段側において前記被延伸材を幅方向に広げて延伸を行う延伸装置であって、
前記延伸ロールは、前記被延伸材の搬送方向下流側に向かって末広がりに開く方向に傾けて配置され、
前記延伸ロールの外周面は、前記環状溝より外側の外周面のエッジが面取りされている、
ことを特徴とする延伸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−251439(P2011−251439A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125646(P2010−125646)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】