説明

建物の外壁部の施工システム

【課題】 ゴンドラ操作と資材搬送とを独立させて外壁部に対する施工を効率的に行う。
【解決手段】 建物1の上部に設置した仮設の支持フレーム2からゴンドラ3を外壁部に沿って昇降可能かつ水平移動可能に吊り支持し、資材4を地表部と作業位置との間で外壁部に沿って搬送するための搬送手段を具備する。搬送手段としては、資材を水平搬送するとともに垂直搬送する走行式搬送機構5を用いる。あるいは資材を垂直搬送する垂直搬送手段と水平搬送する水平搬送手段とを組み合わせて、建物上部において資材を相互に受け渡す構成とする。垂直搬送手段としては仮設リフトあるいは建物側に離接可能なワイヤー式の揚重機構が好適である。水平搬送手段としてはワイヤー式の走行式搬送機構が好適である。巻上機は建物上部に設置する。垂直搬送を案内するガイドワイヤーを設ける。吊り足場12および養生ネット13を支持フレームから吊り支持して設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁部を施工するためのシステム、特に既存建物の外壁部に対して大規模な改修工事を行う場合等に適用して好適な施工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、建物の施工に際しては建物全体を覆うような仮設足場を設置することが通常であり、その仮設足場としては鋼製の枠組み足場が最も一般的である。しかし、枠組み足場を地表面から立設する場合にはその設置高さに自ずと限界があり、通常45mを越えるような高層建物の施工には適用が困難である。
【0003】
また、近年においては既存建物を使用しながらその外壁部を全面的に補修したりリニューアルするような大規模な改修工事を行うこともあり、そのような場合においても仮設足場を設けることがあるが、従来一般の枠組み足場を既存建物全体を覆うように設置することでは、工事中の建物の使用勝手が大きく損なわれるし、採光や通風が阻害されてしまうことから好ましいことではない。
【0004】
上記のように枠組み足場が設置できない場合、あるいは枠組み足場の設置が好ましくないような場合には、それに代えてゴンドラ足場が採用されることが多い。ゴンドラ足場は、建物の上部からゴンドラを外壁面に沿って昇降可能に(必要に応じてさらに水平方向にも移動可能に)吊り支持して設置し、そのゴンドラに作業員を搭乗させて作業位置に導くことでゴンドラ上から外壁部に対する各種作業を行うものであり、高層ないし超高層建物の施工に際して、あるいは既存建物の外壁部に対する各種の作業を行う場合に広く採用されている。
【0005】
ところで、ゴンドラ足場による場合には作業に必要な各種資材を作業員とともにゴンドラに積み込んで作業位置まで搬送することが一般的であるが、通常のゴンドラにはあまり大きな資材や大重量の資材は搭載することができないことから、従来一般にはゴンドラ足場による作業は窓面清掃や外壁の点検・検査、せいぜい外壁に対するシーリング工事や塗装工事等の軽作業に限定され、大形大重量の外壁材(たとえば外壁パネルや窓ガラス、サッシ等)の取付作業等の本格的な工事には適用し難いものであった。敢えてそのような本格的な作業をゴンドラ足場により行う場合には、資材揚重のためのクレーンを建物の屋上や外部に別途設置し、そのクレーンによって資材を揚重してクレーン操作により作業位置まで導いて位置決めを行った上でゴンドラ上から作業を行うことになるが、そのようにゴンドラとクレーンとを併用することではそれらの干渉が不回避であるので施工上の著しい制約を受け、効率的な作業は望めるものではない。
【0006】
なお、ゴンドラ足場による場合の資材搬送を効率的に行うものとして、特許文献1にはゴンドラ本体をクレーンにより吊り支持するとともに、ゴンドラ本体に資材保持ユニットを揚重する揚重機構を搭載しておき、資材を資材保持ユニットに積み込んで揚重機構によってゴンドラ本体の直下まで揚重するという工事用ゴンドラが提案されている。
【特許文献1】特開2003−268968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示される工事用ゴンドラでは、資材を揚重するための揚重機構をゴンドラ本体を介してクレーンにより間接的に揚重するものであることから、クレーンとしてはゴンドラ本体と資材の双方を同時に揚重し得るような規模のものが必要であるばかりでなく、ゴンドラ本体の操作と資材揚重のための操作とを完全には独立させることができないものであり、その点で必ずしも十分な施工効率が得られないものである。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明はゴンドラによる外壁部に対する作業と、それに必要な資材搬送とを効率的に行うことが可能な有効な施工システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、建物の外壁部を施工するための施工システムであって、建物上部に設置した仮設の支持フレームから作業員が搭乗するゴンドラを外壁部に沿って昇降可能かつ水平移動可能に吊り支持し、かつ外壁部の施工のための各種の資材を地表部と作業位置との間で外壁部に沿って搬送するための搬送手段を具備し、前記搬送手段は、支持フレームに設けた軌条に沿って水平方向に走行するトロリーからワイヤーにより資材を昇降可能に吊り支持して、トロリーの走行により資材を水平搬送するとともにワイヤーの巻き取りおよび繰り出しにより資材を垂直搬送する構成の走行式搬送機構であることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、建物の外壁部を施工するための施工システムであって、建物上部に設置した仮設の支持フレームから作業員が搭乗するゴンドラを外壁部に沿って昇降可能かつ水平移動可能に吊り支持し、かつ外壁部の施工のための各種の資材を地表部と作業位置との間で外壁部に沿って搬送するための搬送手段を具備し、前記搬送手段は、資材を地表部と建物上部との間で垂直搬送する垂直搬送手段と、該垂直搬送手段との間で受け渡す資材を少なくとも建物上部において水平搬送する水平搬送手段とからなり、前記水平搬送手段は、支持フレームに設けた軌条に沿って水平方向に走行するトロリーからワイヤーにより資材を昇降可能に吊り支持して、トロリーの走行により資材を水平搬送する構成の走行式搬送機構であることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の施工システムであって、垂直搬送手段は、資材を搭載して外壁部に沿って昇降する仮設リフトであることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の発明の施工システムであって、垂直搬送手段は、建物上部に設置した巻上機からワイヤーにより資材を吊り支持して昇降させる構成の揚重機構であり、かつ、水平搬送手段としての走行式搬送機構は、建物上部に設置した巻上機からトロリーを介してワイヤーにより資材を吊り支持する構成であることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の施工システムであって、垂直搬送手段としての揚重機構は、資材をトロリーを介して吊り支持するとともに、該トロリーを支持フレームに設けた支持アームにより建物に対して離接する方向に移動可能として、該トロリーの移動により資材を建物に対して離接する方向に移動可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の施工システムであって、垂直搬送手段としての揚重機構は、支持アームと地表部との間に張設したガイドワイヤーにより資材の垂直搬送をガイドする構成であることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の施工システムであって、支持フレームからゴンドラの下方位置に吊り足場を吊り支持して設置するとともに、少なくとも作業位置の周囲を覆う養生ネットを支持フレームから吊り支持して設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、搬送手段による資材搬送作業をゴンドラ上での作業とは独立して行うことが可能であり、したがって資材搬送をクレーンやゴンドラ自体により行う場合に比較して資材搬送を効率的に行うことが可能であり、建物上部における外壁部に対する施工を効率的に実施することが可能である。
【0017】
また、資材の上下方向の垂直搬送と水平方向の水平搬送とを独立させて建物上部においてゴンドラにより資材の受け渡し作業を行うことにより、資材が大形大重量であるような場合、あるいは搬送距離が長いような場合にも、資材搬送を効率的に行うことができる。特に、垂直搬送を仮設リフトやワイヤー式の揚重機構により行い、建物上部での水平搬送を走行式搬送機構により行うことにより、搬送効率を十分に高めることができる。
【0018】
また、揚重機構や走行式搬送機構における巻上機を建物上部に設置することにより支持フレームを簡略化することができ、揚重機構により資材の揚重位置を建物に離接する方向に変更可能としたり、垂直搬送を案内するためのガイドワイヤーを設けることでより安定かつ高速での垂直搬送が可能となる。さらに、支持フレームから吊り足場および養生ネットを吊り支持して設置すれば高所での作業安全性も支障なく確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1〜図2は本発明の第1実施形態を示すものである。本実施形態の施工システムは中層程度の既存の建物1の外壁を全面的にリニューアルする場合の適用例であって、建物1の屋上に仮設の支持フレーム2を設置し、支持フレーム2からゴンドラ3を昇降可能かつ水平移動可能に吊り支持するとともに、外壁パネル等の各種の資材4を搬送手段としての走行式搬送機構5によって地表部から作業位置まで搬送するようにしたものである。
【0020】
支持フレーム2は鋼材からなるもので、屋上から各外壁面の外側に張り出すように設置されており、その張り出し部の下部にはゴンドラ3および走行式搬送機構5におけるトロリー6を水平方向に移動させるための軌条7,8がそれぞれ外壁面に沿って水平に設けられている。
【0021】
ゴンドラ3は軌条7からワイヤー9により吊り支持されて昇降可能かつ水平移動可能とされており、これに作業員が搭乗して所望の作業位置に移動することによって外壁施工に関わる各種の作業を行うものである。
【0022】
資材4の搬送手段としての走行式搬送機構5は、軌条8に沿って走行可能なトロリー6からワイヤー10によりフックブロック11を吊り支持するものであり、資材4を揚重して垂直方向に搬送し、かつ軌条8に沿ってトロリー6を走行させて水平方向へも搬送を行うものである。なお、走行式搬送機構5におけるトロリー6は電動式とし、そのトロリー6に巻上機を搭載してトロリー6自体を走行式ホイスト(いわゆるテルハ)として機能させることでも良いが、その場合は巻上機の重量を軌条8と支持フレーム2に見込む必要があるので、巻上機を屋上に設置してワイヤー10を適宜位置に設置したシーブを介して取り回すことでトロリー6に導くようにしても良く、その場合には巻上機の重量が軌条8や支持フレーム2にはかからないのでそれらの構成を簡略化することができる。
【0023】
また、ゴンドラ3の下方位置には吊り足場12が支持フレーム2から吊り支持されて設置され、吊り足場12と支持フレーム2との間には養生ネット13が取り付けられ、それら吊り足場12および養生ネット13は施工進捗に応じてその設置位置を変更可能なように支持フレーム2から昇降可能に吊り支持されている。吊り足場12は落下養生を主たる目的としてネットや軽量のエキスパンドメタルが好適に採用可能である。いずれにしても図2に示すように吊り足場の要所には走行式搬送機構5により垂直搬送する資材4を通過させるための開口部14を確保しておく。養生ネット13も落下養生を主目的とするものであり、図示しているように吊り足場12よりも上方全体を覆うことでも良いが、少なくとも作業位置とその周辺を覆うように設ければ良い。
【0024】
以上のように、本実施形態の施工システムでは、作業位置の下方に吊り足場12を設置してそれよりも上方に養生ネット13を取り付け、その内側においてゴンドラ3を移動させることでゴンドラ3を所望の作業位置に配置し、そこでの作業に必要な各種の資材4を走行式搬送機構5によって地表部から垂直搬送するとともにそのまま水平搬送して作業位置まで搬送し、ゴンドラ3に搭乗した作業員がその資材4を使用して外壁部施工に関わる各種の作業を行うものである。
【0025】
したがって本実施形態の施工システムでは、たとえば外壁パネル等の大形大重量の資材4であっても走行式搬送機構5によってそれを設置するべき位置まで効率的に搬送することができるし、ゴンドラ3上の作業員は資材搬送には関与することなく搬送されてきた資材4を取り付けるといった作業のみに専念することができるものである。つまり、本実施形態の施工システムでは資材4の搬送作業とゴンドラ3上での作業を完全に独立して行うことができるものであり、特許文献1に示した従来のゴンドラ足場による場合に比べて作業の単純化と施工性向上を図ることができる。また、屋上や外部にクレーンを別途設置して資材揚重を行う場合のようにクレーンとゴンドラとの干渉による施工上の制約を受けることもないから、全体として優れた施工効率が得られるものである。勿論、吊り足場12および養生ネット13により高所での作業安全性も支障なく確保することができるし、従来一般の枠組み足場によって建物全面を覆ってしまう場合のように使用勝手が大きく損なわれたり採光や通風が犠牲になることもない。
【0026】
なお、図1に示したようにゴンドラ3および走行式搬送機構5を共通の支持フレーム2から吊り支持することでも良いが、搬送するべき資材4の重量が大きいような場合には、たとえば図3(a)に示すように走行式搬送機構5を支持するための支持フレーム2Aをメインフレームとしてそれにゴンドラ3を吊り支持するサブフレーム2Bを組み付けるようにしたり、あるいは(b)に示すように走行式搬送機構5の支持フレーム2Aとゴンドラ3の支持フレーム2Bとを独立に設けるようにしても良い。
【0027】
図4〜図5は第2実施形態を示すものである。これは建物1が高層ないし超高層の場合に好適な適用例であって、上記の第1実施形態のものとの相違点は資材4の搬送手段を垂直搬送手段と水平搬送手段とにより構成した点にあり、その他は上記の第1実施形態と基本的に同様のものである。すなわち、高層ないし超高層の建物1においては資材4を垂直方向に搬送するための所要揚程が自ずと大きくなるし、1回の搬送に要する搬送所要時間も長くなるので、上記実施形態のように単一の搬送手段によって垂直搬送と水平搬送の双方を行うことは寧ろ効率的ではない。そのため、本実施形態では資材4の垂直搬送と水平搬送とを垂直搬送手段と水平搬送手段とによりそれぞれ独立に行って建物上部においてそれらの間で資材4を受け渡すようにし、その資材4の受け渡しをゴンドラ3から作業員が行うようにしたものである。
【0028】
すなわち、図4に示すように、本実施形態においても図1に示した上記の実施形態における走行式搬送機構5と同様にトロリー19からワイヤー20により資材4を吊り支持して搬送する走行式搬送機構21を備えているのであるが、これは主として建物上部における水平搬送を行うための水平搬送手段として設けられたものであり、地表部から建物上部への垂直搬送はそれとは独立の垂直搬送手段としての仮設リフト22により行うものとしている。
【0029】
本実施形態における仮設リフト22は建物の外壁面に添わされて吊り足場12の内部まで固定された軌条23と、それにより案内されて昇降するケージ24からなるもので、地表部においてケージ24に資材4を積み込んで上昇させることにより、吊り足場12の要所に確保した開口部14を通して資材4を建物1の上部まで垂直搬送するものである。そして、本実施形態では、仮設リフト22により建物上部まで搬送した資材4に走行式搬送機構21およびゴンドラ3を接近させ、ゴンドラ3上からの作業員の手作業によって資材4を走行式搬送機構21に受け渡した後、その走行式搬送機構21によって資材4を作業位置まで水平搬送するとともに必要に応じて垂直方向にも搬送し、またゴンドラ3も作業位置まで移動させてそこで作業を行うものである。
【0030】
本第2実施形態では、資材4の垂直搬送と水平搬送とを独立に行うことから垂直搬送と水平搬送とを同時に並行して行うことも可能であるし、大形大重量の資材4も仮設リフト22により安定にかつ迅速に垂直搬送することが可能であるので、特に資材4が大形体重量でありかつ搬送距離が長いような場合には第1実施形態の場合よりも搬送効率を向上させることが可能であり、建物1が高層ないし超高層の場合にはより好適である。
【0031】
次に、図6〜図13に第3実施形態を示す。図6は本第3実施形態の施工システムの基本構成を示す概要図であって、これは第2実施形態の場合と同様に資材の垂直搬送と水平搬送とを独立に行うものであり、その水平搬送手段としての走行式搬送機構31はワイヤー30により資材4を吊り上げて搬送する構成とされているが、垂直搬送手段としてはワイヤー32により資材4を吊り上げ、かつ吊り上げた資材4を建物に対して離接する方向にも若干移動させる構成の揚重機構33が採用されている。なお、本第3実施形態においてもゴンドラ3および吊り足場12、養生ネット13、およびそれらを吊り支持する支持フレーム2については、基本的に第1実施形態や第2実施形態と同様に構成すれば良いので、それらについての説明は省略し、図6〜図13においてもそれらの図示は省略してある。
【0032】
本第3実施形態の施工システムを図7〜図13を参照して以下に具体的に説明する。なお、図6に示した概要図では水平搬送手段としての走行式搬送機構31と垂直搬送手段としての揚重機構33を一外壁面に対してのみ図示するに留めているが、本実施形態では建物1の全外壁面を対象として、図7に示すように水平搬送手段としての4組の走行式搬送機構31を建物の全周にわたって設置しており、かつ垂直搬送手段としての揚重機構33を2方向の外壁面に対して兼用するものとして建物1の角部に2組設置している。
【0033】
すなわち、本実施形態における垂直搬送手段としての揚重機構33は、図8〜図9に示すように建物1の外側に向かって2方向に突出する2対の支持アーム34を有する門形の支持フレーム35を屋上の角部に設置し、それら支持アーム34のそれぞれに図10に示すように電動式のトロリー36を支持アーム34の長さ方向(つまり建物1に対して離接する方向)に移動可能かつ定位置に固定可能に設置し、各対のトロリー36からそれぞれワイヤー32によりフックブロック37を吊り支持し、そのフックブロック37を介して外壁パネル等の資材4を吊り上げる構成とされている。そして、図12に模式的に示すように、屋上に設置した巻上機38からワイヤー32を多数のシーブ39を介して双方のトロリー36および双方のフックブロック37間に取り回し、それら巻上機38とトロリー36とを連係制御することよりいずれかのトロリー36を選択的に支持アーム34に沿って移動させ、かついずれかのフックブロック37を選択的に昇降させることが可能とされており、それによりいずれか一方の外壁部に沿って資材4を揚重すなわち垂直搬送することができるものとされている。
【0034】
なお、図12に示すように、巻上機38はエンドレス式のものであって、それには余剰のワイヤー32を巻き取るためのワイヤーリール40が付設されている。符号41はワイヤー32の終端に取り付けられている過負荷防止装置である。また、図9〜図10に示すように、支持アーム34の先端部と地表部との間には垂直にガイドワイヤー42が張設されていて、フックブロック37はそのガイドワイヤー42により案内されつつ安定に昇降し得るものである。
【0035】
この揚重機構33によれば、資材4を揚重する際にはトロリー36を支持アーム34の先端側に位置させてそこに固定しておくことにより、資材4の揚重位置を図8に実線で示すように外壁から十分に離間させておくことができ、したがって揚重時の揺動により資材4が外壁に接触してしまうことを確実に防止でき、十分な高速搬送が可能なものである。また、揚重した資材4を建物上部において水平搬送手段としての走行式搬送機構31に受け渡す際には、トロリー36を建物側に移動させることで破線で示すように資材4を建物側に若干水平移動させることができ、それにより資材4を走行式搬送機構31に対して十分に接近させることができるので、その受け渡し作業を容易にかつ安全に行うことができるものとなっている。
【0036】
一方、本実施形態における水平搬送手段としての走行式搬送機構31は、屋上に設置した支持フレーム45から外壁面の外側に張り出す位置に軌条46を設け、その軌条46に沿って走行可能な電動式のトロリー47からワイヤー30によりフックブロック48を吊り支持するものであるが、本実施形態では図13に示すようにエンドレス式の巻上機49およびワイヤーリール50を屋上に設置してそこからのワイヤー30を多数のシーブ51を介してトロリー47とフックブロック48との間に取り回した構成とされていて、巻上機49およびトロリー47を連係制御することより資材4を主として水平搬送し、かつ建物上部において上下方向の搬送も行い得るものとなっている。
【0037】
本第3実施形態においても、資材4を揚重機構33により建物上部まで揚重し、建物上部においてゴンドラ3上からの作業により資材4を走行式搬送機構31に受け渡してさらに水平搬送することにより、作業位置までの資材4の効率的な搬送と、作業位置でのゴンドラ3上からの作業を効率的に行うことが可能である。
【0038】
以上で本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものでは勿論なく、ゴンドラや各搬送手段、支持フレームその他の要素の具体的な構成については、施工対象の建物の形態や規模、実施する作業内容等に応じて、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々な設計的変更や応用が可能である。
【0039】
たとえば、上記実施形態は既存建物を対象としてその外壁部をリニューアルする場合の適用例であり、特に既存建物に新たな外壁パネルを取り付けるために各種資材を地表部から建物上部に向けて搬送する場合を例にとって説明したが、各搬送手段は地表部と建物上部との間で両方向の搬送が可能であることはいうまでもなく、たとえば既存建物からの解体物を地表部に搬出する場合にも上記各搬送手段により逆の手順で効率的に搬出することができる。
【0040】
また、本発明は既存建物の改修工事に適用するのみならず、建物を新築する場合、特に枠組み足場を設置できないような高層ないし超高層建物の新築工事にも同様に適用できるものである。その場合、ゴンドラや搬送手段を吊り支持するための支持フレームは施工済みの屋上階に設置するか、あるいは建物上部の途中階に設置して施工進捗に伴い上層階へ適宜盛り替えていけば良い。
【0041】
また、上記実施形態では各外壁面に単一のゴンドラを設置したが、必要に応じて各外壁面に複数のゴンドラを設置しても勿論良いし、建物の形態や作業の内容、資材の形状や寸法等に対応して、たとえばL型や凹型あるいは2階建て型など最適な形態のゴンドラを採用すれば良く、そのようなゴンドラとは別に、垂直搬送手段と水平搬送手段との間で資材を受け渡す作業を行うための専用のゴンドラを備えることも考えられる。さらに、作業時におけるゴンドラの揺動を防止して安定性を高めるために、作業中はゴンドラを建物に対して連結固定し、移動時には解放可能なゴンドラの支持機構を設けることが好ましい。なお、吊り足場や養生ネットが不要な状況であればそれらを省略しても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態である施工システムの概要図である。
【図2】同、要部立面図および要部平面図である。
【図3】同、支持フレームの変形例である。
【図4】本発明の第2実施形態である施工システムの概要図である。
【図5】同、要部立面図および要部平面図である。
【図6】本発明の第3実施形態である施工システムの概要図である。
【図7】同、平面図である。
【図8】同、要部拡大平面図である。
【図9】同、要部拡大立面図である。
【図10】同、要部拡大図(図9におけるX−X線視図)である。
【図11】同、要部拡大図(図9におけるXI−XI線視図)である。
【図12】同、揚重機構におけるワイヤーの取り回しを示す図である。
【図13】同、走行式搬送機構におけるワイヤーの取り回しを示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 建物
2(2A,2B) 支持フレーム
3 ゴンドラ
4 資材
5 走行式搬送機構(搬送手段)
6 トロリー
7,8 軌条
9,10 ワイヤー
11 フックブロック
12 吊り足場
13 養生ネット
14 開口部
19 トロリー
20 ワイヤー
21 走行式搬送機構(水平搬送手段)
22 仮設リフト(垂直搬送手段)
23 軌条
24 ケージ
30,32 ワイヤー
31 走行式搬送機構(水平搬送手段)
33 揚重機構(垂直搬送手段)
34 支持アーム
35 支持フレーム
36 トロリー
37 フックブロック
38,49 巻上機
39,51 シーブ
40,50 ワイヤーリール
41 過負荷防止装置
42 ガイドワイヤー
45 支持フレーム
46 軌条
47 トロリー
48 フックブロック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁部を施工するための施工システムであって、
建物上部に設置した仮設の支持フレームから作業員が搭乗するゴンドラを外壁部に沿って昇降可能かつ水平移動可能に吊り支持し、かつ外壁部の施工のための各種の資材を地表部と作業位置との間で外壁部に沿って搬送するための搬送手段を具備し、
前記搬送手段は、支持フレームに設けた軌条に沿って水平方向に走行するトロリーからワイヤーにより資材を昇降可能に吊り支持して、トロリーの走行により資材を水平搬送するとともにワイヤーの巻き取りおよび繰り出しにより資材を垂直搬送する構成の走行式搬送機構であることを特徴とする建物の外壁部の施工システム。
【請求項2】
建物の外壁部を施工するための施工システムであって、
建物上部に設置した仮設の支持フレームから作業員が搭乗するゴンドラを外壁部に沿って昇降可能かつ水平移動可能に吊り支持し、かつ外壁部の施工のための各種の資材を地表部と作業位置との間で外壁部に沿って搬送するための搬送手段を具備し、
前記搬送手段は、資材を地表部と建物上部との間で垂直搬送する垂直搬送手段と、該垂直搬送手段との間で受け渡す資材を少なくとも建物上部において水平搬送する水平搬送手段とからなり、
前記水平搬送手段は、支持フレームに設けた軌条に沿って水平方向に走行するトロリーからワイヤーにより資材を昇降可能に吊り支持して、トロリーの走行により資材を水平搬送する構成の走行式搬送機構であることを特徴とする建物の外壁部の施工システム。
【請求項3】
請求項2記載の施工システムであって、
垂直搬送手段は、資材を搭載して外壁部に沿って昇降する仮設リフトであることを特徴とする建物の外壁部の施工システム。
【請求項4】
請求項2記載の施工システムであって、
垂直搬送手段は、建物上部に設置した巻上機からワイヤーにより資材を吊り支持して昇降させる構成の揚重機構であり、
水平搬送手段としての走行式搬送機構は、建物上部に設置した巻上機からトロリーを介してワイヤーにより資材を吊り支持する構成であることを特徴とする建物の外壁部の施工システム。
【請求項5】
請求項4記載の施工システムであって、
垂直搬送手段としての揚重機構は、資材をトロリーを介して吊り支持するとともに、該トロリーを支持フレームに設けた支持アームにより建物に対して離接する方向に移動可能として、該トロリーの移動により資材を建物に対して離接する方向に移動可能であることを特徴とする建物の外壁部の施工システム。
【請求項6】
請求項5記載の施工システムであって、
垂直搬送手段としての揚重機構は、支持アームと地表部との間に張設したガイドワイヤーにより資材の垂直搬送をガイドする構成であることを特徴とする施工システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の施工システムであって、
支持フレームからゴンドラの下方位置に吊り足場を吊り支持して設置するとともに、少なくとも作業位置の周囲を覆う養生ネットを支持フレームから吊り支持して設置したことを特徴とする建物の外壁部の施工システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−348691(P2006−348691A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179346(P2005−179346)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(390022611)株式会社コシハラ (15)
【出願人】(000229689)日本ビソー株式会社 (30)
【Fターム(参考)】