説明

建物振動予測装置、建物振動予測方法及び建物振動予測プログラム

【課題】外部振動に起因する建物内の振動の状態を高精度に予測することのできる建物振動予測装置、建物振動予測方法及び建物振動予測プログラムを得る。
【解決手段】CPU22は、建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得し、取得した前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出し、導出した前記物理量を示す情報をディスプレイ18により表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物振動予測装置、建物振動予測方法及び建物振動予測プログラムに係り、より詳しくは、建物内における当該建物の外部からの加振力に応じた振動の発生状態を予測する建物振動予測装置、建物振動予測方法及び建物振動予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の竣工後に顕在化するために苦情に繋がりやすい当該建物内における振動の発生状態を、確定情報の少ない当該建物の建設計画段階や、供用後の振動対策前に予測することのできる技術が要望されている。
【0003】
この要望に応えるために適用できる従来の技術として、特許文献1には、建物内の振動レベル予測を、当該建物と同一構造システムの建物における、地盤振動と建物との共振の有無により分類される二段階の平均的振動レベル増幅量の何れか一方と、振動測定により測定される地盤の振動レベルとを加算して行う技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、建物での生活行為によって発生する建物の振動を評価する方法であって、予め基準となる建物の標準モデルを作成し、その標準モデルの建物に所定の基準外力を付与したときの第1の振動応答値と、その標準モデルの建物に当該建物での生活行為によって発生する建物の振動を想定した特定の生活行為を想定した外力を付与したときの第2の振動応答値とを求め、前記標準モデルの建物に対して個別に設計する建物の構造的要素を組み込んだ個別モデルを作成し、その個別モデルの建物に前記所定の基準外力を付与したときの第3の振動応答値を求め、前記第1、第2、第3の振動応答値に基づいて、その個別に設計する建物での生活行為によって発生する建物の振動を評価する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−215167号公報
【特許文献2】特開2003−3590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、建物の外部からの振動に起因して建物内に発生する振動の状態を高精度に予測するには、加振源における振動状態、加振源と建物の間の地盤による振動の減衰状態、振動が地盤から建物へ入力される際の当該振動の抑制効果、及び建物における共振状態といった、加振源から建物に至る振動伝搬経路上の特性や建物自身の特性を考慮する必要がある。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている技術では、上記減衰状態及び上記抑制効果を考慮したものとはなっていないため、外部振動に起因する建物内の振動の状態を必ずしも高精度に予測できるとは限らない、という問題点があった。
【0007】
また、上記特許文献2に開示されている技術は、加振源が建物の内部に存在する場合を対象としたものであり、外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することはできない、という問題点があった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、外部振動に起因する建物内の振動の状態を高精度に予測することのできる建物振動予測装置、建物振動予測方法及び建物振動予測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の建物振動予測装置は、建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出する導出手段と、前記導出手段によって導出された前記物理量を示す情報を表示する表示手段と、を備えている。
【0010】
請求項1記載の建物振動予測装置によれば、建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報が取得手段によって取得される。なお、上記取得手段による加速度情報、減衰率情報、損失率情報、及び共振増幅率情報の取得には、実測値のキーボード、ポインティング・デバイス、タッチ・パネル、タブレット等の入力装置を介した取得、ローカル・エリア・ネットワーク、インターネット、イントラネット等の通信回線を介した外部装置からの取得の他、予め定められたパラメータを所定の演算式に代入して算出することによる取得が含まれる。
【0011】
ここで、本発明では、導出手段により、前記取得手段によって取得された前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量が導出され、当該物理量を示す情報が表示手段によって表示される。なお、上記表示手段による表示には、ディスプレイ装置等による可視表示、画像形成装置等による永久可視表示、音声合成装置等による可聴表示が含まれる。
【0012】
このように、請求項1記載の建物振動予測装置によれば、建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得し、取得した前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出し、導出した前記物理量を示す情報を表示しているので、外部振動に起因する建物内の振動の状態を高精度に予測することができる。
【0013】
なお、本発明は、請求項2に記載の発明のように、前記導出手段が、前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報の同一振動数毎の値を乗算することにより前記物理量を導出するものとしてもよい。これにより、より簡易に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0014】
また、本発明は、請求項3に記載の発明のように、前記導出手段が、前記物理量を予め定められた条件毎に導出するものとしてもよい。これにより、より高精度に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0015】
特に、請求項3に記載の発明は、請求項4に記載の発明のように、前記予め定められた条件が、前記振動の予め定められた複数種類の継続時間、前記建物の用途、前記建物内に発生する振動の方向の少なくとも1つを含むものとしてもよい。これにより、前記予め定められた条件に含めた条件毎に、外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項5に記載の発明のように、前記複数種類の継続時間が、前記振動が連続的に生じる時間と、前記振動が非連続的に生じる時間とを含み、前記建物の用途が、一般事務室である第1用途と、応接室及び会議室である第2用途と、住居室である第3用途とを含み、前記振動の方向が、水平方向と、鉛直方向とを含むものとしてもよい。これにより、適用した条件毎に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0017】
ところで、振動数が少なく、波長が十分に長くなれば、地盤の振動と建物の基礎は同じ動きをすると考えられる。
【0018】
そこで、本発明は、請求項6に記載の発明のように、前記損失率が、上限値が1とされたものとしてもよい。これにより、より高精度でかつ簡易に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0019】
また、本発明は、請求項7に記載の発明のように、前記物理量の許容範囲を示す許容範囲情報が予め記憶された記憶手段を更に備え、前記表示手段が、前記物理量を示す情報を前記許容範囲情報と共に表示するものとしてもよい。これにより、予測結果が許容範囲に収まっているか否かを容易に判断することができ、利便性を向上させることができる。
【0020】
特に、請求項7に記載の発明は、請求項8に記載の発明のように、前記許容範囲情報が、前記物理量を必ず含めなければならない範囲を示す確保範囲情報と、ユーザによる苦情が生じないものとして統計的に予め定められた範囲を示す目標範囲情報の2段階の情報であるものとしてもよい。これにより、より利便性を向上させることができる。
【0021】
更に、本発明は、請求項9に記載の発明のように、前記導出手段が、同調質量ダンパを用いて前記建物において発生する振動を抑制した場合の前記物理量を更に導出するものとしてもよい。これにより、より利便性を向上させることができる。
【0022】
一方、上記目的を達成するために、請求項10記載の建物振動予測方法は、建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得し、取得した前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出し、導出した前記物理量を示す情報を表示するものである。
【0023】
従って、請求項10に記載の建物振動予測方法によれば、請求項1記載の発明と同様に作用するので、請求項1記載の発明と同様に、外部振動に起因する建物内の振動の状態を高精度に予測することができる。
【0024】
なお、請求項10に記載の発明は、請求項11記載の発明のように、前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報の同一振動数毎の値を乗算することにより前記物理量を導出するものとしてもよい。これにより、より簡易に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0025】
また、請求項10又は請求項11に記載の発明は、請求項12に記載の発明のように、前記物理量を予め定められた条件毎に導出するものとしてもよい。これにより、より高精度に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0026】
更に、請求項12に記載の発明は、請求項13に記載の発明のように、前記予め定められた条件が、前記振動の予め定められた複数種類の継続時間、前記建物の用途、前記建物内に発生する振動の方向の少なくとも1つを含むものとしてもよい。これにより、前記予め定められた条件に含めた条件毎に、外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0027】
一方、上記目的を達成するために、請求項14記載の建物振動予測プログラムは、建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップによって取得された前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出する導出ステップと、前記導出ステップによって導出された前記物理量を示す情報を表示する表示ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0028】
従って、請求項14に記載の建物振動予測プログラムによれば、コンピュータに対して請求項1記載の発明と同様に作用させることができるので、請求項1記載の発明と同様に、外部振動に起因する建物内の振動の状態を高精度に予測することができる。
【0029】
なお、請求項14に記載の発明は、請求項15に記載の発明のように、前記導出ステップが、前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報の同一振動数毎の値を乗算することにより前記物理量を導出するものとしてもよい。これにより、より簡易に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0030】
また、請求項14又は請求項15に記載の発明は、請求項16に記載の発明のように、前記導出ステップが、前記物理量を予め定められた条件毎に導出するものとしてもよい。これにより、より高精度に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0031】
更に、請求項16に記載の発明は、請求項17に記載の発明のように、前記予め定められた条件が、前記振動の予め定められた複数種類の継続時間、前記建物の用途、前記建物内に発生する振動の方向の少なくとも1つを含むものとしてもよい。これにより、前記予め定められた条件に含めた条件毎に、外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得し、取得した前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出し、導出した前記物理量を示す情報を表示しているので、外部振動に起因する建物内の振動の状態を高精度に予測することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0034】
まず、図1及び図2を参照して、本発明が適用された建物振動予測装置10の構成を説明する。
【0035】
図1に示すように、本実施の形態に係る建物振動予測装置10は、本装置の全体的な動作を制御する制御部12と、ユーザからの各種情報等の入力に使用するキーボード14及びマウス16と、本装置による処理結果や各種メニュー画面、メッセージ等を表示するディスプレイ18と、を含んで構成されている。すなわち、本実施の形態に係る建物振動予測装置10は、汎用のパーソナル・コンピュータにより構成されている。
【0036】
次に、図2を参照して、本実施の形態に係る建物振動予測装置10の電気系の要部構成を説明する。
【0037】
同図に示すように、建物振動予測装置10は、建物振動予測装置10全体の動作を司るCPU(中央処理装置)22と、CPU22による各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM(Random Access Memory)24と、各種制御プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)26と、各種情報を記憶するために用いられる記憶手段として機能するハードディスク28と、前述のキーボード14、マウス16、及びディスプレイ18と、外部に接続された装置との間の各種情報の授受を司る外部インタフェース30と、を備えており、これら各部はシステムバスBUSにより電気的に相互に接続されている。なお、外部インタフェース30にはプリンタ50(図1では図示省略。)が接続されている。
【0038】
従って、CPU22は、RAM24、ROM26、及びハードディスク28に対するアクセス、キーボード14及びマウス16を介した各種情報の取得、ディスプレイ18に対する各種情報の表示、及び外部インタフェース30を介したプリンタ50による各種情報の印刷、を各々行うことができる。
【0039】
図3には、建物振動予測装置10に備えられたハードディスク28の主な記憶内容が模式的に示されている。同図に示すように、ハードディスク28には、各種データベースを記憶するためのデータベース領域DTと、各種処理を行うためのプログラムを記憶するためのプログラム領域PGとが設けられている。
【0040】
また、データベース領域DTには、後述する建物振動予測プログラムの実行時に用いられる性能評価曲線データベースDT1が予め記憶されている。
【0041】
本実施の形態に係る性能評価曲線データベースDT1は、一例として図4(A)に示される鉛直方向の振動に関する性能評価曲線と、一例として図4(B)に示される水平方向の振動に関する性能評価曲線を示す情報が記憶されたものとして構成されている。なお、図4におけるV−90、V−70等のV−XXや、H−90、H−70等のH−XXは、鉛直方向(V)、水平方向(H)に70秒間の正弦波加振を行っている環境においてXX%の人が振動を感じるレベルを示すものであり、このレベルの評価については、建物の設計者が建築主の合意のもとで設定すべきものとされている。なお、性能評価曲線については、日本建築学会環境基準,AIJES−V001−2004,「建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説」において詳述されているため、これ以上のここでの説明は省略する。
【0042】
ところで、建物の外部における振動は加振源に加振力が加わることによって発生する。従って、この加振力が何N(ニュートン)であるのかを同定し、当該加振力を建物内に発生する振動の予測に用いることが好ましい。しかしながら、例えば、対象とする加振源の振動が道路における車両の通行による振動等である場合には、車両が道路に与える加振力を直接測定することが難しい上、路面の状態等によっても加振力の加わり方が変化するため、加振力そのものを同定することは容易ではない。このことから、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、加振源近傍における振動を測定し、当該測定結果に基づいて、最終的に建物の内部で発生する振動を予測する。
【0043】
図5には、振動の予測対象とする建物(以下、「予測対象建物」という。)、加振源、及び振動の測定位置の位置関係の一例が示されている。なお、同図におけるrは加振源と予測対象建物との間の距離(m)を表し、rは加振源と測定位置との間の距離(m)を表し、Lは予測対象建物の上記振動が伝搬していく方向に対する基礎の長さ(m)を表し、Vは地盤を伝搬する上記振動の速度(m/s)を表す。ここで、伝搬速度Vはボーリング調査等の地盤特性調査によって得ることができる。
【0044】
ところで、建物内に発生する振動には、鉛直方向の振動と水平方向の振動がある。そこで、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、これらの2方向の振動について予測を行うものとされており、加振源近傍における振動の測定も、鉛直方向と水平方向の各方向について行う。なお、本実施の形態では、当該振動の測定を、加速度センサを用いて行うものとされており、例えば、当該振動の測定位置がアスファルト等の硬いものである場合には、加速度センサを当該アスファルトの表面上に直接設置するが、土等の柔らかいものである場合には、当該柔らかい部分を掘削して加速度センサを設置するようにしている。
【0045】
そして、本実施の形態では、以上の測定によって得られた加速度に対して1/3オクターブバンド周波数分析を実行することにより、一例として次の表1、表2、及び図6に示すように、加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報を得るものとしている。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

なお、表1、表2、及び図6に示した測定結果は、図5に示した測定位置における地盤振動のL10による測定結果であり、表1は測定結果を振動加速度レベルで表現したもので、表2は加速度で表現したものであるが、どちらも同じ振動量を表したものである。ここで、上記L10は、測定した全時間から得られる振動量の累積度数分布の上端部10%に相当する値である。なお、これについては、JIS Z 8735に詳細に記載されているので、これ以上のここでの説明は省略する。ここで、上記L10に代えて、測定した全時間から得られる振動量の最大値であるLmaxで評価することもできる。
【0048】
なお、本実施の形態では、上記加速度情報を導出するために、測定された加速度に対して実行する分析として1/3オクターブバンド周波数分析を適用しているが、これに限らず、1オクターブバンド周波数分析、1/6オクターブバンド周波数分析、FFT(高速フーリエ変換)分析等、従来既知の他の分析手法を適用することもできる。
【0049】
一方、建物振動予測装置10は、予測対象建物の内部に発生する振動を、予め定められた条件(以下、「予測対象条件」という。)別に予測するものとされている。なお、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、上記予測対象条件として、上記振動の継続時間、予測対象建物内の用途、及び予測対象建物内において発生する振動の方向の3種類の条件を適用している。
【0050】
また、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、上記継続時間として、上記振動が連続的に生じるモード(以下、「連続モード」という。)と、上記振動が非連続的に生じるモード(以下、「非連続モード」という。)との何れかのモードを選択的に適用することができ、上記予測対象建物内の用途として、一般事務室と、応接室及び会議室と、住居室との3種類の用途の何れかを選択的に適用することができ、更に、上記振動の方向として、鉛直方向及び水平方向の何れかを選択的に適用することができる。
【0051】
なお、建物振動予測装置10において、上記継続時間として連続モード及び非連続モードの2種類のモードを適用しているのは次の理由による。
【0052】
本発明の発明者らは、上記継続時間に関して多人数(37名)による、以下に示す官能試験を実施した。
【0053】
被験者を鉛直方向に振動可能とされた床面に対し、椅子に座った状態及び横臥した状態で一人ずつ載せ、その状態で上記床面を連続モード及び非連続モードの各々別で、かつ複数の振動の強さの各々別に鉛直方向に所定期間(ここでは、3分間)振動させた状態で、複数の状況の各々にあるものとイメージさせた状態における、「感じる振動の強さ」及び「感じ方」に関するアンケート調査を行った。
【0054】
図7には、このとき用いたアンケート用紙を示す。同図に示すように、ここでは、上記複数の振動の強さとして、V−90、V−70、V−30の3種類を適用し、上記複数の状況として、V−90については「一般事務室で椅子に座り執筆中」及び「劇場・映画館で座って観覧中」の2種類を、V−70については「会議室で椅子に座り打ち合わせ中」及び「劇場・映画館で座って観覧中」の2種類を、V−30については「会議室で椅子に座り打ち合わせ中」、「劇場・映画館で座って観覧中」及び「劇場・映画館で横たわって観覧中」の3種類を、各々適用した。
【0055】
一方、図8に、この官能試験で用いた振動の波形を示す。ここで、図8(A)は連続モードに対応する振動波形であり、ここではエアロビクスを行っているときに発生する波形(8Hz,5秒毎のうなり。)を用いた。また、図8(B)は非連続モードに対応する振動波形であり、ここでは、歩行を行っているときに発生する波形(8Hz,床の内部減衰定数h=5%。)を用いた。
【0056】
以上の官能試験の結果、連続モードではV−30において、非連続モードではV−70において過半数の人が振動を「ほとんど感じない」レベルであり、各モードで振動感覚に大きな差異が見られた。よって、連続モードではV−30が、非連続モードではV−70が一つの目安になる。
【0057】
以上の評価結果等より、振動の継続時間によって人が問題視する振動のレベルが異なると考えられることから、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、振動の継続時間として、連続モードと非連続モードの2種類を適用した。
【0058】
次に、図9を参照して、本実施の形態に係る建物振動予測装置10の作用を説明する。なお、図9は、ユーザによりキーボード14、マウス16等の操作によって実行指示が入力された際にCPU22により実行される建物振動予測プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムはハードディスク28のプログラム領域PGに予め記憶されている。
【0059】
まず、同図のステップ100では、予め定められた初期情報入力画面(図示省略。)を介して、予測対象建物や加振源に関する所定の情報を、キーボード14等を介して入力する。ここで、ユーザは、上述した手順で予め測定して導出した上記加速度情報を示す情報を入力する。また、ユーザは、前述した距離r、距離r、長さL、伝搬速度V等、これ以降の処理で必要とされる各種情報を、キーボード14等を介して入力する。更に、ユーザは、ここでの予測で適用する予測対象条件(継続時間、予測対象建物内の用途、及び振動の方向)を入力する。
【0060】
次のステップ102では、次に示すように、加振源と予測対象建物との間の地盤による振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報を導出する。
【0061】
すなわち、半無限均質地盤上の基礎を上下方向に定常加振した場合、その振動エネルギーの約70%は表面波(レイリー波;上下成分と波動の進行方向の水平成分)で伝搬すると考えられる。
【0062】
一般に、弾性波が半無限均質地盤を伝搬する場合の減衰率は、次の(1)式で求めることができる。
【0063】
【数1】

ここで、Xは加振源からr(m)離れている点の振動振幅を、Xは加振源に近い基準の点(ここでは、距離r(m)の点(測定位置))の振動振幅を、λは地盤の内部減衰を、nは振動の種類による係数(表面波等の2次元的に伝わる円筒波では‘0.5’。)を、各々表す。
【0064】
ここで、内部減衰λは、土の内部減衰定数hと、振動の伝搬速度Vと、振動の振動数fにより、次の(2)式で表される。
【0065】
【数2】

ここで、伝搬速度Vは上述したようにボーリング調査等の地盤特性調査によって得ることができる。また、内部減衰定数hは、岩の場合で‘0.01’、砂・シルトの場合で‘0.1’、粘土・粘土質土壌の場合で‘0.5’程度の値を用いる。更に、ここでは、振動数fとして、1/3オクターブバンドの中心周波数(1Hz、1.25Hz、1.6Hz、2Hz、2.5Hz、3.15Hz、4Hz、・・・)を用いる。
【0066】
例えば、内部減衰定数h=10%、伝搬速度V=150(m/s)と仮定し、加振源近傍の測定位置(r=10(m))から、予測対象建物の位置(r=40(m))までの減衰率情報を求めると、図10に示すものとなる。
【0067】
次のステップ104では、次に示すように、地盤を介して予測対象建物に入力する際の振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報を導出する。
【0068】
すなわち、地盤で発生した振動が建物に入力する場合、当該建物の基礎による振動の抑え効果が期待できる。この建物への振動低減効果を入力損失率τと呼んでおり、一般に次の(3)式で算出することができる。ここで、Lは振動が伝搬していく方向の基礎の長さ(m)を表す。
【0069】
【数3】

例えば、一例として伝搬速度V=90(m/s)、基礎の長さL=17(m)と仮定した場合、(3)式により求められる損失率情報は図11に実線で示したものとなる。しかしながら、振動数fが低く、振動の波長が十分長くなれば、地盤の振動と建物の基礎は同じ動きをすることから、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、入力損失率τが‘1’を超える振動数の範囲では、入力損失率τを‘1’として扱うものとしている。また、(3)式では、振動数が高くなるほど入力損失率τは小さな値となるが、実際には、地盤の種々の条件による増減が考えられる。そこで、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、入力損失率τが‘0.2’未満となる振動数範囲では、一律に入力損失率τを‘0.2’として扱っており、これにより、安全性を向上させることができる。この結果、入力損失率τは、図11における破線で示すものとなる。
【0070】
次のステップ106では、次に示すように、予測対象建物における振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を導出する。
【0071】
本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、水平方向については予測対象建物全体の水平方向の固有振動数による共振増幅を考慮し、鉛直方向については床スラブの固有振動数による共振増幅を考慮している。
【0072】
すなわち、鉛直方向の振動の特性は、床(小梁、大梁を含む。)の1次固有周期と減衰定数と有効質量で評価する。なお、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、一例として次に示すように、実測データの回帰式から予測した1次固有周期及び減衰定数を利用するものとする。
【0073】
床の振動特性は、実際に測定を行うことによって確認することが多いが、ここでは、この実測データを活用して、統計処理による回帰式により、床の振動特性(振動数、減衰定数)を予測する手法を採用する。
【0074】
具体的には、予測検討するに当たり、煩雑さを避けることと実用性を考慮して、予測対象建物の床のスパンと実測データ(振動数、減衰定数)の関係を統計的に分析して回帰式を求めることにより予測を行う。ここで、回帰式の信頼性を高めるために、データの母数を、床に関する基礎情報(ここでは、建設時期、建設地、室用途、梁の構造形式、床の構造形式、床のスパン)に基づいて絞り込むことを考える。ユーザは、上記基礎情報の中で、予測を行う床の着目する情報に併せてデータの有効母数を決定する。
【0075】
この手法は、ユーザが任意に着目する情報に対して回帰式による床の振動数及び減衰定数の予測(相関性が低い場合は、着目する情報を見直す。)を行うことが可能であることと、多くのデータを蓄積していくことにより、回帰精度が向上していくことが大きな特徴となっている。
【0076】
また、床の有効質量は、日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」の第489頁(付11.4)に記載されている次の(4)式を用いて算出することができる。なお、これについては、当該文献に詳述されているので、これ以上のここでの説明は省略する。
【0077】
【数4】

一方、スラブにおける鉛直方向の共振増幅率情報は、単純に1質点系の共振曲線から求めることができる。
【0078】
交通振動が地盤を伝搬し、建物に入力される場合等のとき、振動方程式は次の(5)式により示される。
【0079】
【数5】

ここで、ω(入力振動数)=ω(系の固有振動数)が共振状態のとき、xは次の(6)式で求められる。なお、aは基本振幅である。なお、振動方程式については従来既知であるので、これ以上のここでの説明は省略する。
【0080】
【数6】

ここでは、一例として、スラブの1次固有振動数と減衰定数に基づいて、次に示すように導出する。
【0081】
まず、共振増幅率は、減衰定数hを1/(2h)に代入して算出する。例えば、減衰定数hが2.5%の場合、共振増幅率は20倍(=1÷(2×0.025))となる。
【0082】
次に、上述した共振増幅率を適用する周波数帯域は、2次以上の固有振動数での共振増幅も考えられることから、スラブの固有振動数が含まれる1/3オクターブ帯域以上の全帯域とする。例えば、1次固有振動数が6.8(Hz)の場合、1/3オクターブの6.3(Hz)帯域以上に共振増幅率を適用する。
【0083】
一方、水平方向の振動の特性は、建物の水平方向の1次固有周期と減衰定数と有効質量で評価する。なお、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、一例として、建築基準法に基づく固有周期を建築基準法で規定されている演算式(S造(鉄骨造)でT=0.03×H(H:建物の高さ)、RC造(鉄筋コンクリート造),SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)でT=0.02×H(H:建物の高さ))で算定し、当該固有周期の逆数である固有振動数に、仕上げ等の二次部材による剛性増大率γを掛ける(乗算する)ことにより、予測対象建物の固有振動数を算定する。
【0084】
ここで、剛性増大率γは既往の事例(一例として、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)1994年9月「高速道路による環境振動制御設計法(その2)環境振動制御設計法」樫村他等)から、S造については1.3〜1.7程度を、SRC造,RC造については1.9〜2.1程度を各々適用する。また、減衰定数は略算で、S造については‘0.03’を、SRC造,RC造については‘0.05’を各々適用する。なお、以上の固有振動数と減衰定数は、日本建築学会により公開されている「建築物の減衰」のデータベースからも推測することができる。
【0085】
一方、有効質量は、予測対象建物の延べ面積、構造種別(S造又はRC造)、及び有効質量係数から略算することができる。ここでは、構造種別により、RC造については‘1.2(t/m)’、S造については‘0.7(t/m)’の床面積当たりの単位重量とした。更に、有効質量係数は、建物の1次固有周期に対しては、建築基準法公示第1457号で規定されている0.75程度を用いる。
【0086】
建物全体における水平方向の共振増幅率情報は、以上により求められる予測対象建物の1次固有振動数と減衰定数に基づいて、一例として次に示すように導出する。
【0087】
まず、共振増幅率は、鉛直方向の場合と同様に設定する。また、共振増幅率を適用する周波数帯域は、耐震壁等の影響で建物の剛性が高くなることで固有振動数が高くなる可能性も考慮し、1次固有振動数近傍の1/3オクターブ2帯域分とする。
【0088】
なお、図12には、以上の処理によって導出した共振増幅率情報の一例が示されている。なお、図12(A)が鉛直方向の振動に対するものであり、図12(B)が水平方向の振動に対するものである。
【0089】
次のステップ108では、上記ステップ100の処理によって入力した加速度情報と、上記ステップ102〜ステップ106の処理によって導出した減衰率情報、損失率情報、及び共振増幅率情報を、同一振動数毎に掛け合わせる(乗算する)ことにより、ユーザにより入力された条件毎に予測対象建物内の居室内で発生する振動の状態を示す情報(ここでは、当該振動の振動数毎の加速度振幅)を導出する。
【0090】
次のステップ110では、上記ステップ108の処理によって導出した振動状態を示す情報に基づいて、予め定められたフォーマットとされた評価結果画面を構成し、ディスプレイ18により表示する。
【0091】
図13及び図14には、上記ステップ110の処理によってディスプレイ18により表示された評価結果画面の一例が示されている。同図に示されるように、本実施の形態に係る評価結果画面では、上記振動状態を示す情報と共に、上記ステップ100の処理によって入力された条件に応じた性能評価曲線が表示される。ここで、図13は、上記条件として一般事務所における水平方向の振動で、かつ鉄道走行等による非連続振動が入力された場合の画面の一例であり、図14は、上記条件として一般事務所における鉛直方向の振動で、かつ鉄道走行等による非連続振動が入力された場合の画面の一例である。なお、上記性能評価曲線は、性能評価曲線データベースDT1から読み出すことにより得ることができる。
【0092】
なお、図13及び図14における「確保」ラインは、指定された用途及び継続時間の環境において上記振動状態を示す情報により示される値を必ず含めなければならない範囲を示すラインであり、「目標」ラインは、ユーザによる苦情が生じないものとして統計的に予め定められた範囲を示すラインである。
【0093】
具体的には、本発明者らによって予測対象条件の各々別に収集された苦情の情報に基づいて、過去に苦情が生じた振動加速度の上限値を全て含む性能評価曲線を「目標」ラインとして適用し、上記苦情の情報における特異なデータの存在と、ばらつきの範囲を考慮して、所定加速度(ここでは、目標ラインにおいて振動を感じた人数に加えて、総被験者数の20%に相当する人数が増えた人数だけ振動を感じる加速度に相当する加速度)だけ上記「目標」ラインより高加速度側に位置する性能評価曲線を「確保」ラインとしている。なお、本実施の形態に係る建物振動予測装置10では、各予測対象条件別の「目標」ライン及び「評価」ラインを示す情報がハードディスク28のデータベース領域DTに予め記憶されているが、これに限らず、ROM26等の他の記憶手段に記憶されている形態や、ユーザによって入力する形態等とすることもできることは言うまでもない。
【0094】
同図に示されるような評価結果画面がディスプレイ18によって表示されると、ユーザは、本建物振動予測プログラムの実行を終了する場合は当該画面の最下に表示されている終了ボタンをマウス16にてポインティング指定する一方、予め定められた制振対策を施した場合の振動状態の予測を実行させる場合は当該画面の最下に表示されている対策実施ボタンをマウス16にてポインティング指定する。ユーザによって終了ボタン又は対策実施ボタンがポインティング指定されると、次のステップ112が肯定判定となってステップ114に移行する。
【0095】
ステップ114では、ユーザによって評価結果画面上で指定されたボタンが対策実施ボタンであったか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ116に移行して、TMD(Tuned Mass Damper;同調質量ダンパ)による制振対策を施した場合の共振増幅率情報を導出し、その後に上記ステップ108に戻る。
【0096】
なお、本実施の形態に係る建物振動予測プログラムでは、上記ステップ116による共振増幅率情報の導出を、一例として著書「振動工学」にて記されている最適減衰を設定する手法を用いて行うが、これについての詳細は当該文献に詳述されているため、これ以上のここでの説明は省略する。
【0097】
ステップ116の処理に引き続き実行されるステップ108では、本ステップ116の処理によって導出された共振増幅率情報を適用し、再び居室内で発生する振動の状態を示す情報を導出する。この結果、次のステップ110にて、TMDによる制振効果が加味された振動状態を示す評価結果画面が再びディスプレイ18により表示されることになる。
【0098】
一方、上記ステップ114において否定判定となった場合には、ユーザによって本建物振動予測プログラムの終了が指示されたものと見なして本建物振動予測プログラムを終了する。
【0099】
本建物振動予測プログラムのステップ100〜ステップ106の処理が本発明の取得手段及び取得ステップに、ステップ108の処理が本発明の導出手段及び導出ステップに、ステップ110の処理が本発明の表示ステップに、各々相当する。
【0100】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得し、取得した前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出し、導出した前記物理量を示す情報を表示しているので、外部振動に起因する建物内の振動の状態を高精度に予測することができる。
【0101】
また、本実施の形態では、前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報の同一振動数毎の値を乗算することにより前記物理量を導出しているので、より簡易に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0102】
また、本実施の形態では、前記物理量を予め定められた条件毎に導出しているので、より高精度に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0103】
特に、本実施の形態では、前記予め定められた条件を、前記振動の予め定められた複数種類の継続時間、前記建物の用途、前記建物内に発生する振動の方向としているので、これらの条件毎に、外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0104】
また、本実施の形態では、前記複数種類の継続時間を、前記振動が連続的に生じる時間と、前記振動が非連続的に生じる時間とし、前記建物の用途を、一般事務室である第1用途と、応接室及び会議室である第2用途と、住居室である第3用途とし、前記振動の方向を、水平方向と、鉛直方向としているので、適用した条件毎に外部振動に起因する建物内の振動の状態を予測することができる。
【0105】
また、本実施の形態では、前記入力損失率を、上限値が1とされたものとしているので、より高精度でかつ簡易に外部振動に起因する建物内の振動の状態を高精度に予測することができる。
【0106】
また、本実施の形態では、前記物理量の許容範囲を示す許容範囲情報を記憶手段(ここでは、ハードディスク28)により予め記憶しておき、前記物理量を示す情報を前記許容範囲情報と共に表示しているので、予測結果が許容範囲に収まっているか否かを容易に判断することができ、利便性を向上させることができる。
【0107】
特に、本実施の形態では、前記許容範囲情報を、前記物理量を必ず含めなければならない範囲を示す確保範囲情報と、ユーザによる苦情が生じないものとして統計的に予め定められた範囲を示す目標範囲情報の2段階の情報としているので、より利便性を向上させることができる。
【0108】
更に、本実施の形態では、同調質量ダンパを用いて前記建物において発生する振動を抑制した場合の前記物理量を更に導出しているので、より利便性を向上させることができる。
【0109】
なお、本実施の形態では、各種データベースが予め記憶されたハードディスク28を内蔵した単体のパーソナル・コンピュータによって本発明を実現した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、当該ハードディスク28を内蔵しないパーソナル・コンピュータに、各種データベースが予め記憶された記憶媒体又は記憶装置が設けられた外部装置を、通信回線を介してネットワーク接続することにより、パーソナル・コンピュータと外部装置とによって本発明を実現する形態とすることもできる。この場合も、本実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0110】
また、本実施の形態では、建物振動の予測をコンピュータ・プログラムの実行による、ソフトウェアにより実現する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ハードウェアにより実現する形態とすることもできる。この場合の形態例としては、図9に示される建物振動予測プログラムの各ステップによる処理を実行する機能デバイスを作製して適用する形態を例示することができる。この場合も、本実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0111】
また、本実施の形態では、建物振動予測プログラムによる予測結果等を、ディスプレイ18を用いた表示によって提示する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、プリンタ50を用いた印刷によって提示する形態とすることもできる。この場合も、本実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0112】
その他、本実施の形態で説明した建物振動予測装置10の構成(図1〜図3参照。)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0113】
また、本実施の形態で示した建物振動予測プログラムの処理の流れ(図9参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0114】
また、本実施の形態で示した評価結果画面の構成(図13、図14参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0115】
また、本実施の形態で示した性能評価曲線データベースDT1の構成(図4参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0116】
また、本実施の形態で示した加速度情報及び共振増幅率情報の導出手法も一例であり、他の従来既知の手法を適用することができることは言うまでもない。
【0117】
また、本実施の形態で示した「目標」ライン及び「確保」ラインの設定方法も一例であり、他の統計的手法によって設定することができることは言うまでもない。
【0118】
更に、本実施の形態で示した各種演算式((1)式〜(3)式等参照。)も一例であり、必要に応じて新たなパラメータを追加したり、不要なパラメータを削除したりすることができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】実施の形態に係る建物振動予測装置の外観を示す斜視図である。
【図2】実施の形態に係る建物振動予測装置の電気系の要部構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態に係る建物振動予測装置に備えられたハードディスクの主な記憶内容を示す模式図である。
【図4】実施の形態に係る性能評価曲線データベースのデータ構造を示す模式図である。
【図5】実施の形態に係る予測対象建物、加振源、及び振動の測定位置の位置関係の一例を示す概略平面図である。
【図6】実施の形態に係る建物振動予測装置により取得される加速度情報の一例を示すグラフである。
【図7】実施の形態において適用されたアンケート用紙を示す図である。
【図8】実施の形態において適用した官能試験で用いた振動の波形を示す波形図である。
【図9】実施の形態に係る建物振動予測プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施の形態に係る建物振動予測プログラムにより導出される減衰率情報の一例を示すグラフである。
【図11】実施の形態に係る建物振動予測プログラムにより導出される損失率情報の一例を示すグラフである。
【図12】実施の形態に係る建物振動予測プログラムにより導出される共振増幅率情報の一例を示すグラフである。
【図13】実施の形態に係る建物振動予測プログラムによる評価結果画面の表示例を示す概略図である。
【図14】実施の形態に係る建物振動予測プログラムによる評価結果画面の他の表示例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0120】
10 建物振動予測装置
14 キーボード
16 マウス
18 ディスプレイ(表示手段)
22 CPU
28 ハードディスク(記憶手段)
DT1 性能評価曲線データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出する導出手段と、
前記導出手段によって導出された前記物理量を示す情報を表示する表示手段と、
を備えた建物振動予測装置。
【請求項2】
前記導出手段は、前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報の同一振動数毎の値を乗算することにより前記物理量を導出する
請求項1記載の建物振動予測装置。
【請求項3】
前記導出手段は、前記物理量を予め定められた条件毎に導出する
請求項1又は請求項2記載の建物振動予測装置。
【請求項4】
前記予め定められた条件は、前記振動の予め定められた複数種類の継続時間、前記建物の用途、前記建物内に発生する振動の方向の少なくとも1つを含む
請求項3記載の建物振動予測装置。
【請求項5】
前記複数種類の継続時間は、前記振動が連続的に生じる時間と、前記振動が非連続的に生じる時間とを含み、
前記建物の用途は、一般事務室である第1用途と、応接室及び会議室である第2用途と、住居室である第3用途とを含み、
前記振動の方向は、水平方向と、鉛直方向とを含む
請求項4記載の建物振動予測装置。
【請求項6】
前記損失率は、上限値が1とされたものである
請求項1乃至請求項5の何れか1項記載の建物振動予測装置。
【請求項7】
前記物理量の許容範囲を示す許容範囲情報が予め記憶された記憶手段を更に備え、
前記表示手段は、前記物理量を示す情報を前記許容範囲情報と共に表示する
請求項1乃至請求項6の何れか1項記載の建物振動予測装置。
【請求項8】
前記許容範囲情報は、前記物理量を必ず含めなければならない範囲を示す確保範囲情報と、ユーザによる苦情が生じないものとして統計的に予め定められた範囲を示す目標範囲情報の2段階の情報である
請求項7記載の建物振動予測装置。
【請求項9】
前記導出手段は、同調質量ダンパを用いて前記建物において発生する振動を抑制した場合の前記物理量を更に導出する
請求項1乃至請求項8の何れか1項記載の建物振動予測装置。
【請求項10】
建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得し、
取得した前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出し、
導出した前記物理量を示す情報を表示する、
建物振動予測方法。
【請求項11】
前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報の同一振動数毎の値を乗算することにより前記物理量を導出する
請求項10記載の建物振動予測方法。
【請求項12】
前記物理量を予め定められた条件毎に導出する
請求項10又は請求項11記載の建物振動予測方法。
【請求項13】
前記予め定められた条件は、前記振動の予め定められた複数種類の継続時間、前記建物の用途、前記建物内に発生する振動の方向の少なくとも1つを含む
請求項12記載の建物振動予測方法。
【請求項14】
建物の外部に位置された加振源に加えられた加振力に応じて当該加振源において発生する振動の振動数毎の加速度を示す加速度情報、前記加振源と前記建物との間の地盤による前記振動の振動数毎の減衰率を示す減衰率情報、前記地盤を介して前記建物に入力する際の前記振動の振動数毎の損失率を示す損失率情報、及び前記建物における前記振動の振動数毎の共振増幅率を示す共振増幅率情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップによって取得された前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報に基づいて、前記加振力に応じて前記建物の内部において発生する振動の状態を示す物理量を導出する導出ステップと、
前記導出ステップによって導出された前記物理量を示す情報を表示する表示ステップと、
をコンピュータに実行させる建物振動予測プログラム。
【請求項15】
前記導出ステップは、前記加速度情報、前記減衰率情報、前記損失率情報、及び前記共振増幅率情報の同一振動数毎の値を乗算することにより前記物理量を導出する
請求項14記載の建物振動予測プログラム。
【請求項16】
前記導出ステップは、前記物理量を予め定められた条件毎に導出する
請求項14又は請求項15記載の建物振動予測プログラム。
【請求項17】
前記予め定められた条件は、前記振動の予め定められた複数種類の継続時間、前記建物の用途、前記建物内に発生する振動の方向の少なくとも1つを含む
請求項16記載の建物振動予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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