説明

建物用空調熱源システムの運転方法

【課題】制御応答にタイムラグを生じさせることなく建物用空調熱源システムを制御することができ、したがって無駄な空調エネルギーが消費されることを防止して省エネルギーを図ることが可能な建物用空調熱源システムの運転方法を提供する。
【解決手段】複数の熱源機器および複数のポンプを有する建物用空調熱源システムの運転方法であって、外気エンタルピまたは外気温度の値と建物の空調需要量とを予め関連付けておくとともに、この関連付けられた空調需要量を供給するための熱源機器およびポンプの運転方策を予め設定しておき、空調熱源システムの運転時の外気エンタルピまたは外気温度の値に基づいて、前記運転時における熱源機器およびポンプの運転方策を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物(ビル、工場、住宅等)の空調(冷房、暖房等)を行う空調熱源システムの運転方法に関し、さらに詳述すると、フィードフォワード制御を行って省エネルギーを図る建物用空調熱源システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の空調機を備えた建物用空調システムの制御方法では、各空調機において室内設定温度と実際の室内温度との偏差量に基づいて必要な空調用冷水量または温水量を制御し、各空調機の合計空調用冷水量または温水量から建物全体の空調需要量を決定している。これは、制御目標である室内温度の変化量に対応して空調用冷温水量を制御するフィードバック制御である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
上記フィードバック制御においては、制御量(空調用冷温水量)を変更してから実際の室内温度が変化するまでにタイムラグが生じるため、その時点で必要な空調需要量が供給されず、無駄な空調エネルギーが消費されてしまう。
【0004】
例えば、空調需要が増加する場合(事例として冷房)は、室内温度が上昇し空調需要が増加したときに、室内温度を設定値に戻すために制御量である空調用冷水量が増加するが、室内温度が変化するまでにはタイムラグがあるため、空調需要が実質上満たされても室内温度は設定値にはならず、まだ偏差量が存在するために必要量以上の空調用冷水が供給されてしまう。したがって、無駄な空調用エネルギーが消費されることになる。特に、室内の空調需要が増大して偏差量が急峻に増加した場合(空調開始時など)には、偏差量が大きく、そのため制御量も大きいことから、フィードバック制御にともなうタイムラグによる無駄な空調用エネルギーの消費が大きくなる。
【0005】
また、室内温度が低下して空調需要が減少した場合においては、室内温度を設定値に戻すために制御量である空調用冷水量は減少するが、室内温度が変化するまでにはタイムラグがあるためその間は室内温度が設定値にならず、まだ偏差量が存在するために必要以上に空調用冷水が消費されてしまう。
【0006】
【非特許文献1】空気調和・衛生工学便覧
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、建物用空調熱源システムを従来のフィードバック制御によって制御した場合、制御応答にタイムラグが生じることにより、無駄な空調エネルギーが消費される。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、制御応答にタイムラグを生じさせることなく建物用空調熱源システムを制御することができ、したがって無駄な空調エネルギーが消費されることを防止して省エネルギーを図ることが可能な建物用空調熱源システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するため、複数の熱源機器および複数のポンプを有する建物用空調熱源システムの運転方法であって、外気エンタルピまたは外気温度の値と建物の空調需要量とを予め関連付けておくとともに、前記関連付けられた空調需要量を供給するための熱源機器およびポンプの運転方策を予め設定しておき、空調熱源システムの運転時の外気エンタルピまたは外気温度の値に基づいて、前記運転時における熱源機器およびポンプの運転方策を選択することを特徴とする建物用空調熱源システムの運転方法を提供する。
【0010】
本発明において、前記熱源機器およびポンプの運転方策(以下、単に「熱源運転方策」という)の構成は必ずしも限定されないが、熱源機器の運転機種および/または運転台数と、ポンプの運転台数および/または運転周波数との組み合わせによって構成することが好ましい。
【0011】
本発明の原理は以下のとおりである。建物の空調需要には、大きく分けて、内部負荷(機器発熱、人体発熱等)による需要と、外部負荷(外気取り入れによる負荷、壁からの熱伝達負荷、日射負荷等)による需要がある。しかし、内部負荷を一定とみなした場合は、空調需要の変動は外部負荷による変動のみとなる。特に、コンピュータルームやクリーンルームなどは使用機器や在室人員の変動が小さいため、内部負荷は一定とみなすことができる。
【0012】
一方、上述した外部負荷の中で壁からの熱伝達負荷や日射負荷は、外壁の断熱性の向上や熱反射窓ガラスの採用などから負荷自体が小さくなってきている。したがって、空調需要の変動は外気取り入れによる負荷の影響が大きく、また外気の状態は外気エンタルピまたは外気温度で表すことができるため、結局、空調需要の変動は外気エンタルピまたは外気温度の変動として表現することができる。
【0013】
したがって、本発明では、外気エンタルピまたは外気温度の値と建物の空調需要量とを事前に関連付けておくとともに、関連付けられた空調需要量を供給するための熱源運転方策も事前に決定しておき、空調熱源システムの制御は運転時における外気エンタルピまたは外気温度の値に基づいて一義的に決定すること、すなわちフィードフォワード制御を行うことにより、制御応答にタイムラグを生じさせることなく、運転時の外気エンタルピまたは外気温度に応じた空調エネルギーを供給できるので、空調エネルギーの供給に無駄が生じず、省エネルギーを図ることができるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外気エンタルピまたは外気温度の値と熱源運転方策とを予め関連づけておくことにより、運転時の外気エンタルピまたは外気温度を取得するだけで、制御応答にタイムラグのない最適な空調制御が実施可能であり、これにより無駄な空調エネルギーが消費されることを防止して省エネルギーを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。本発明における建物用空調熱源システムは、複数の熱源機器および複数のポンプを有するものである。熱源機器としては、例えば、冷温水発生機、ターボ冷凍機、ヒートポンプチラー、ボイラ、蓄熱槽等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ポンプとしては、例えば、1次ポンプ、2次ポンプ、3次ポンプ等が挙げられ、また、2次ポンプとしては、複数の空調機にそれぞれ接続された冷温水ポンプ等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、建物用空調熱源システムの機器構成は適宜設定することができる。
【0016】
本発明において、外気エンタルピは、下記式(a)により算出することができる。1年間の外気エンタルピの推移の一例として、2006年1月1日から2006年12月31日までの外気エンタルピ(8時から18時の時間帯における平均値)の推移を図1に示す。
h=cpat+x(r+cpwt) …(a)
t :外気温度(℃)
x :外気の絶対湿度(kg/kg(DA))
h :外気エンタルピ(比エンタルピ)(kJ/kg(DA))
pa:乾き空気の定圧比熱(1.006kJ/kg(DA)K)
pw:水蒸気の定圧比熱(1.805kJ/kg(DA)K)
:0℃における水の蒸発潜熱(2501.6kJ/kg)
【0017】
図2に示すように、外気エンタルピと外気温度との間にはほぼ直線的な相関関係があるので、本発明では、空調熱源システムの運転日における外気温度の値を用いて熱源運転方策を選択することができる。
【0018】
本発明では、外気エンタルピまたは外気温度の値と建物の空調需要量とを予め関連付けておく。その方法としては、例えば、所定の外気エンタルピまたは外気温度の値に対応する建物の空調需要量を予め設定しておく方法が挙げられる。所定の外気エンタルピまたは外気温度の値に対応する建物の空調需要量は、建物の特性を考慮して設定する。
【0019】
本発明では、上記関連付けられた空調需要量を供給するための熱源運転方策(例えば、熱源機器の運転機種および/または運転台数と、ポンプの運転台数および/または運転周波数との組み合わせ)を予め設定しておく。その方法としては、例えば、最適運転解析手法などを用いて省エネルギーや排出COの点で最適となる運転方策を事前に解析により求めておく方法を挙げることができる。
【0020】
本発明では、クラスタ分析法などの類型化手法を用いて1年間の各日を空調需要量の類似性が強い日同士をまとめた複数のグループに類型化し、上記各グループ毎に熱源運転方策を予め設定することができる。すなわち、外気エンタルピは外気温度と外気湿度から求められるが、外気温度と外気湿度は時刻毎に変動するため、外気エンタルピの値も様々な値となる。そのため、空調需要も外気エンタルピや外気温度に従って非定常に変動する。しかし、空調需要を供給する場合には、運転すべき熱源機器やポンプの組み合わせ(運転方策)は限られており、空調需要が多少変動しても同じ運転方策で供給することができる。そこで、空調需要量をクラスタ分析手法などを用いて類型化しておき、この類型化した空調需要量と空調負荷とを関連付けることが好ましい。
【0021】
この場合、上記クラスタ分析法としては、一般に使用されている方法を用いることができる。また、グループに類型化するに当たって使用する外気エンタルピまたは外気温度の値としては、各日の特定の時刻における外気エンタルピまたは外気温度の値、各日の特定の時間帯(例えば8時から18時)における外気エンタルピまたは外気温度の平均値、あるいは各日の1日の外気エンタルピまたは外気温度の平均値などを使用することができる。上記グループの数に限定はないが、9〜15個とすることが適当である。
【0022】
また、上述のように類型化したグループ毎に熱源運転方策を設定する場合、1年間の各日における任意時刻の外気エンタルピまたは外気温度と各グループの熱源運転方策とが関連付けられたデータベースを用い、空調熱源システムの運転日の任意時刻における外気エンタルピまたは外気温度の値を用いてグループの熱源運転方策を選択することができる。これにより、空調熱源システムの運転日の実際の気候特性に応じて熱源運転方策を容易に選択することができる。
【0023】
本発明では、前述のようにクラスタ分析法などの類型化手法を用いて1年間の各日を空調需要量の類似性が強い日同士をまとめた複数のグループに類型化し、各グループに分類番号を付与して、外気エンタルピの分類データベースを構築することができる。また、上記各グループ毎の外気エンタルピの値と建物の空調需要量とを予め関連付けておくとともに、関連付けられた空調需要量を供給するための熱源運転方策を予め設定しておくことにより、外気エンタルピ分類番号と熱源運転方策のデータベースを構築することができる。
【0024】
ここで、外気エンタルピの値と建物の空調需要量と熱源運転方策との関連付けの一例を図3に示す。図3において、Aは外気エンタルピの値を示すグラフであり、図2に示したグラフを斜めに配置したものである。また、Bは外気エンタルピの値Aに関連付けられた建物の空調需要量、Cは建物の空調需要量Bに関連付けられた熱源運転方策を示しており、外気エンタルピの値Aに対応する空調需要量Bと熱源運転方策Cが外気エンタルピの値Aの水平横方向に示されている。
【0025】
本発明に係る建物用空調熱源システムの運転方法の一例を図4に示す。本例では、下記工程(1)〜(4)により建物用空調熱源システムを運転する。
(1)空調熱源システムの運転時における外気温度および外気湿度から前記式(a)を用いて外気エンタルピを計算する(S1)。
(2)前記外気エンタルピの分類データベースD1を用い、S1で計算した外気エンタルピの分類番号を選択する(S2)。
(3)前記外気エンタルピ分類番号と熱源運転方策のデータベースD2を用い、S2で選択した外気エンタルピの分類番号に対応する熱源運転方策を選択し、その熱源運転方策によって空調熱源システムを所定時間運転する(S3)。
(4)空調熱源システムの設定運転時間が経過したらS1に戻り、S1〜S4を繰り返す(S4)。
【0026】
ここで、図5(a)に従来の運転方法(フィードバック制御)による建物用空調熱源システムの運転結果、図5(b)に本発明の運転方法(フィードフォワード制御)による建物用空調熱源システムの運転結果を示す。図5(a)のフィードバック制御では制御のタイムラグにおける空調エネルギーの無駄が生じているが、図5(b)のフィードフォワード制御では上記空調エネルギーの無駄が生じないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】1年間の外気エンタルピの推移の一例を示すグラフである。
【図2】外気エンタルピと外気温度との関係の一例を示すグラフである。
【図3】外気エンタルピの値と建物の空調需要量と熱源運転方策との関連付けの一例を示す図である。
【図4】本発明に係る建物用空調熱源システムの運転方法の一例を示すフロー図である。
【図5】(a)は従来の運転方法による建物用空調熱源システムの運転結果、(b)は本発明の運転方法による建物用空調熱源システムの運転結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱源機器および複数のポンプを有する建物用空調熱源システムの運転方法であって、外気エンタルピまたは外気温度の値と建物の空調需要量とを予め関連付けておくとともに、前記関連付けられた空調需要量を供給するための熱源機器およびポンプの運転方策を予め設定しておき、空調熱源システムの運転時の外気エンタルピまたは外気温度の値に基づいて、前記運転時における熱源機器およびポンプの運転方策を選択することを特徴とする建物用空調熱源システムの運転方法。
【請求項2】
前記熱源機器およびポンプの運転方策は、熱源機器の運転機種および/または運転台数と、ポンプの運転台数および/または運転周波数との組み合わせによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の建物用空調熱源システムの運転方法。
【請求項3】
1年間の各日を空調需要量の類似性が強い日同士をまとめた複数のグループに類型化し、前記各グループ毎に熱源機器およびポンプの運転方策を予め設定することを特徴とする請求項1または2に記載の建物用空調熱源システムの運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−117039(P2010−117039A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288550(P2008−288550)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(501436861)株式会社イーアンドイープラニング (12)
【Fターム(参考)】