説明

建築材用防蟻防腐剤

【課題】天然物質とポリスチレンを主体とした人体に無害でありながら、防蟻防腐性も高い建材用防蟻防腐剤を提供する。更に、使用済みの廃発泡ポリスチレンを構成成分として用いることにより、廃棄物の再利用を可能にするとともに、揮発性精油の保留機能を高め長期間の使用に耐える建築用防蟻防腐剤を提供する。
【解決手段】本発明建材用防蟻防腐剤は、スギ、ヒノキの葉部精油あるいは材精油の1種あるいは2種以上の混合精油にポリスチレンを溶解させた溶液を主成分とする。この溶液に多孔質無機粉体などの精油保留効果のある添加剤を加えることで、長期間の防蟻防腐効果を達成することができる。更に、ポリスチレンには使用済みの廃発泡スチロールを用いることで、廃棄物の再利用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材などの建築材に対するシロアリの食害や、腐朽菌による食害から建築材を防御するための、ヒノキ精油またはスギ精油を用いた新規な保存剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、家屋建築材用の防蟻防腐剤としては、砒素、クロム、水銀等の重金属系化合物や塩素系化合物、燐系化合物、ピレスロイド系化合物が汎用されてきたが、これらの物質は細菌、カビ、ダニ、シロアリに効果的な反面、居住空間に漂うと所謂、シックハウス症候群のような健康阻害の原因となることが問題であった。
【0003】
そこで、ヒバ油を代表とする揮発性の天然物系薬剤が開発されてきたが、建築材の表面に塗布するだけでは、長期間の効果の維持が困難であった。
【0004】
現在までに徐放効果を持たせるための工夫が色々となされてきたが、いまだ機能的および経済的に満足できる方法は見当たらない。
【0005】
特許文献1には木質系住宅の部材処理にヒノキチオールまたはそれを含む精油とシラフルオフェンを有効成分とする防蟻・防腐処理剤を用いる手法を提供している。
【0006】
【特許文献1】特開平11-79917
【0007】
本発明で用いるヒノキ精油は微量のヒノキチオールを含んではいるが、本発明は精油とポリスチレンを複合化させることを特長としており、特許文献1の請求範囲に抵触するものではない。
【0008】
特許文献2ではテルピノーレン、α−テルピネオール、テルピニルアセテートの1種または2種以上とヒバ精油とを混合した物質でなる木材用防蟻防腐剤を提供し、更に、これらの揮発性精油を合成樹脂エマルジョンあるいは無機質マイクロカプセルに含有させ徐放効果を持たせているが、この場合には、そのままでは防蟻防腐剤が施用された材料より容易に脱離するために担持させる何らかの手法を必要とする。
【0009】
【特許文献2】特開平10-203918
【0010】
本発明ではポリスチレン高分子が防蟻防腐剤を担持固定する能力を備えていることを明らかにし、本課題を解決した。
【0011】
特許文献3には植物精油を発泡スチロールの減容溶剤として用いる手法を提供しており、本発明においてもヒノキ精油、スギ精油を発泡スチロールの溶剤として用いるが、本発明はその溶液の使用法に関わるものであり、特許文献3の請求範囲には抵触しない。
【0012】
【特許文献3】特許公開2004-123986
【0013】
非特許文献1において、材精油中のα−カジノール、T−ムロロールなどのセスキテルペンアルコールが活性の主体であることを見出し、ヒノキ材の抗蟻性が材精油中の特定性成分に由来することが初めて報告された。
【0014】
【非特許文献1】金城一彦ら,木材学会誌,34(5),451-455(1988)
【0015】
非特許文献2において、イエシロアリはヒノキ葉精油により短時間で死滅すること、および木材腐朽菌(オオウズラタケ、カワラタケ)は精油により成長が抑えられることが報告された。
【0016】
【非特許文献2】大塚健治ら,高知大学農学部演習林報告 第24号,53-60(1997)
【0017】
非特許文献3において、ヒノキ材の殺蟻性を研究して、材の種類により殺蟻活性はかなり異なること またヒノキ材の精油成分の中で、比較的揮発性の高いα−テルピニルアセテートの存在量が殺蟻活性の大きさに最も影響することが報告された。
【0018】
【非特許文献3】Ohtani Y.ら,Mokuzai Gakkaishi,43(12),1022-1029(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、自然界に存在する天然物質の防蟻防腐効果を利用して、人間の健康に悪影響を及ぼさない安全性の高い木材用防蟻防腐性付与物質を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
樹木精油、特にヒノキの精油あるいはスギの精油がシロアリに対して強力な殺蟻、防蟻効果を持つことはすでに知られている。
【0021】
特に、スギ精油中の殺蟻成分としては4‐テルピネオールおよびエレモール、ヒノキ精油中の殺蟻成分としてはα−テルピニルアセテート、α−テルピネオール、カンファーなどのモノテルペン類、T−ムロロール、α−カジノール、エレモールなどのセスキテルペン類であることを明らかにした。
【0022】
また、微量ではあるが、抗菌性に効果の高いヒノキチオールを比較的多く含むヒノキ精油の存在を明らかにし、すなわち、防蟻効果に優れ、防腐効果も示す天然の防蟻防腐剤が得られることを見出した。
【0023】
しかし、木材への塗布または含浸によりこれを使用した場合、長期間の保護効果を持続させるには、蒸発しにくいことが必要条件であるが、精油自身の沸点は200℃またはそれ以上であり、ある程度の揮発性を有するために、塗布直後より急激な揮散減少が観察された。
【0024】
特に、葉精油についてその傾向が著しいが、ポリスチレン溶液とすること、更には無機多孔質粉体などを添加することによって、精油の保留効果が高まり、既往の有害な合成薬品の代替として十分使用可能なことを見出した。
【0025】
更に、使用するポリスチレンは経済的な理由で廃発泡スチロールが適することを明らかにし、本発明に至った。
【0026】
発泡スチロールの使用は種々の環境問題を抱えており、回収・再資源化に向けて業界をあげて種々の技術が開発されているところであるが、廃発泡スチロールの減容化薬剤として知られるリモネンと同様に樹木の精油は発泡スチロールをよく溶かすので、減容化薬剤として使うこともできることを見出し、廃発泡スチロールを用いれば、廃棄物の回収利用にも有効であり、経済的に有利であることを明らかにした。
【発明の効果】
【0027】
本発明の建材用防蟻防腐剤は、既往品に性能が劣ることなく、人体には無害のシロアリ、木材腐朽菌に対する薬剤であって、従来使用されてきた重金属系、塩素系その他の薬剤がもたらしたような危険性がない。
【0028】
しかも、廃発泡スチロールを用いることができることから、廃棄物の再使用を可能にするばかりでなく、防蟻防腐効果を長期にわたって持続すること、更には、多孔質無機粉体などの精油の保留材を自己接着可能な防蟻防腐剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明について、実施例および比較例により具体的に説明するが、これらはこの発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0030】
ヒノキあるいはスギの精油に対してポリスチレン(Pst、試薬特級、分子量20000)を重量比で50:50、75:25、99:1の配合比で溶かし、本溶液を横3cm×縦3cm×厚さ1cmのアカマツ材の試料に薄く塗布し、室内で1週間放置して、表面を乾燥させた。
【0031】
塗布量は試料ごとに計量し、できるだけ同じ量に近くなるように塗布量を調節した。
【0032】
未塗布のアカマツ材試料およびPstの25%ベンゼン溶液を塗布したものをコントロールとして用いた。
【0033】
アカマツ材は、イエシロアリに対して、スギ材、ヒノキ材に比べて、食害をうけ易いために、試料として用いた。
【0034】
それぞれの木片試料を野外のイエシロアリの巣の近傍に設置したトラップ中に入れ、1ヶ月および3ヵ月間放置し、食害量を測定した。
【0035】
各トラップには常時3000〜4000頭のイエシロアリが存在した。トラップ内の試料は定期的に位置を変更し、場所による食害の偏りを無くすようにした。
【0036】
シロアリによる食害結果を表1に示す。コントロールの木片では1ヶ月後に無処理木片で約25%の重量減少を示し、Pst塗布のみでは約20%の重量減少を示し、3ヵ月後にはともに原型を留めないほどに小破片となった。
【0037】
それに対して、精油・Pstを塗布した試料では3ヶ月後も10%以下の重量減少であり、スギ精油よりもヒノキ精油の方が幾分耐シロアリ活性は高かく、ヒノキ精油・Pst(75)を用いたものでは、3ヶ月後も重量減少はまったく無かった。
【0038】
【表1】

*:原型を留めず
【実施例2】
【0039】
ヒノキの精油100部に発泡スチロール25部を溶かし、発泡スチロールの見かけ比重は0.017g/cm3であったので、用いた試料溶液における発泡スチロールの減容化は約1/60倍であった。
【0040】
それぞれの溶液を実施例1と同様に試料木片に塗布して、1週間風乾後、シロアリトラップの中に3ヶ月間放置した。
【0041】
コントロール木片は実施例1と同様に3ヶ月で跡形も無く消失したが、ヒノキ精油・発泡スチロール溶液を塗布した試料は、3ヵ月後も0.3%の重量減少に留まり、試料表面にはシロアリにより全面にフラスが付着しており、嫌がっていることが観察された。
【実施例3】
【0042】
多孔性シリカ粉末、活性白土、ベントナイト、タルク、木炭粉をヒノキ精油・発泡スチロール(100: 25)溶液100部に対して5部添加して、よく攪拌した後、実施例1と同様に試料木片に塗布した。1週間風乾後、シロアリトラップの中に設置し、5ヶ月放置した。
【0043】
いずれの粉体を添加した場合でも、発泡スチロール・精油溶液を塗布した試料では5ヵ月後の重量減少は多孔質シリカ粉末、ベントナイト添加物、タルク添加物では0%、活性白土添加物では0.7%、木炭粉添加物では0.9%であった。
【0044】
試料表面にはシロアリにより全面にフラスが付着しており、これらの添加剤により精油の効力の低下を抑えることができた。
【実施例4】
【0045】
グルコース4%、ペプトン1%、寒天2.5%の水溶液を調製し、シャーレに分注後、120℃、20分間加熱滅菌し、室温にて放冷後、寒天倍地にヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、カワラタケ(Coriolus versicolor)を接種した。
【0046】
培地全面に菌糸が蔓延したところで、実施例2で調製した発泡スチロール・ヒノキ精油溶液を塗布した試料をシャーレの中に静置し、28℃のインキュベーター中で1〜3ヶ月培養した。
【0047】
コントロール試料では3ヶ月後にヒラタケ菌により約65%、カワラタケ菌では約5%の重量減少が見られ、それに対して、ポリスチレン・精油塗布試料では3ヶ月後においてもヒラタケ菌では8%、カワラタケ菌では1〜2%の重量減少であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキ精油またはスギ精油の配合割合が50重量%から99重量%まで、およびポリスチレンの配合割合が1重量%から50重量%までの建築材用防蟻防腐剤。
【請求項2】
請求項1に示す建築材用防蟻防腐剤100重量部あたり、多孔質シリカ粉体、活性白土、モンモリロナイト系粘土、タルク、粉末状炭の1種または2種以上を1重量部から50重量部まで添加した建築用防蟻防腐剤。
【請求項3】
発泡スチロール由来のポリスチレンを使用する請求項1および請求項2に示す建築材用防蟻防腐剤。

【公開番号】特開2006−160648(P2006−160648A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352894(P2004−352894)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】