説明

建設機械の回転装置

【課題】 Oリングおよびシールリングからなるフローティングシールを外側から保護して耐久性、寿命を向上することができるようにする。
【解決手段】 軸支持部材12の鍔部12Bと固定側シールリング19の大径鍔部19Aとの間で隙間17に臨む固定側Oリング21の外側面に吸油性材料24を塗布する。回転側Oリング22にも同様な吸油性材料24を、ローラ15のシール収容穴15Cと回転側シールリング20の大径鍔部20Aとの間で隙間17に臨む外側面に塗布する。この状態で、隙間17の外側から油液を注入すると、吸油性材料24が油液を吸収して異物侵入防止膜23を形成する。異物侵入防止膜23は、固定側シールリング19、回転側シールリング20、固定側Oリング21および回転側Oリング22のうち隙間17に臨む部位を外側から覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械において履帯案内ローラ、走行装置、遊動輪装置等として好適に用いられる建設機械の回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の装軌式車両の下部走行体は、左,右のサイドフレームを有するトラックフレームと、各サイドフレームの一端側に設けられる走行装置と、他端側に設けられる遊動輪装置と、走行装置の駆動輪(スプロケット)と遊動輪装置の遊動輪(アイドラ)とに巻装される履帯と、履帯を駆動輪および遊動輪に向けて案内する上,下の履帯案内ローラとにより大略構成されている。そして、上述の走行装置、遊動輪装置、履帯案内ローラ等は、建設機械の回転装置を構成している。
【0003】
ここで、建設機械の回転装置としての履帯案内ローラは、例えばサイドフレームに固定して設けられる軸支持部材(固定体)と、この軸支持部材にローラ支持軸等を介して回転可能に支持されるローラ(回転体)と、これら軸支持部材とローラとの間に形成された隙間をシールするフローティングシールとにより構成されている。
【0004】
そして、フローティングシールは、互いに摺接するシール面をもった一対のシールリングと、一方のシールリングの外周面と軸支持部材との間、他方のシールリングの外周面とローラとの間にそれぞれ挟持された一対のOリングとにより構成され、軸支持部材に対してローラが回転するときに、両者間の隙間を液密にシールするものである。これにより、例えばローラ内に潤滑油を封止し、この潤滑油によって軸とローラとの摺動部を潤滑することにより、ローラを長期に亘って円滑に回転させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、建設機械に用いる他の回転装置としての走行装置は、油圧モータと、油圧モータの回転を減速して駆動輪に伝達する減速機と、油圧モータを収容するモータハウジング(固定体)と減速機を収容する減速機ハウジング(回転体)との間の隙間をシールするフローティングシールとにより構成されている。
【0006】
そして、モータハウジングに対して減速機ハウジングが回転するときに、両者間の隙間をフローティングシールによって液密にシールすることにより、減速機ハウジング内に潤滑油を封止し、減速機構を構成する遊星歯車等を潤滑油によって適正に潤滑することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
ここで、上述した特許文献1の履帯案内ローラは、軸支持部材とローラとの間に形成された隙間をグリース等を充填することによって塞ぐ構成となっている。これにより、軸支持部材とローラとの間の隙間に外部からフローティングシールに向けて土砂、泥水等の異物が侵入するのを抑え、この異物によってフローティングシールが損傷されるのを防止することができる。また、特許文献2の走行装置は、モータハウジングと減速機ハウジングとの間の隙間にグリース等を充填することにより、モータハウジングと減速機ハウジングとの間の隙間に異物が侵入するのを抑える構成となっている。
【0008】
一方、他の従来技術として、軸支持部材等の固定体、一方のシールリングおよび一方のOリングによって囲まれる一方の環状空間と、ローラ等の回転体、他方のシールリングおよび他方のOリングによって囲まれる他方の環状空間とに、それぞれウレタンチューブ等からなる中空な環状の軟質弾性体を設ける構成としたフローティングシールが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平6−51082号公報
【特許文献2】特許第2939924号公報
【特許文献3】特開平5−33870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した特許文献1による従来技術は、軸支持部材とローラとの間に形成された隙間内にゲル状のグリースを充填しているため、例えば油圧ショベルが泥濘地を走行する場合等において、土砂等の異物がグリースを押しのけて軸支持部材とローラとの間の隙間内に侵入するようになり、この異物によってフローティングシールが損傷してしまうという問題がある。また、特許文献2による従来技術においても、モータハウジングと減速機ハウジングとの間の隙間に充填したグリースが、油圧ショベルの走行時に外部から侵入してくる異物によって押しのけられることにより、この異物によってフローティングシールが損傷してしまうという問題がある。さらに、特許文献1,2の従来技術でも、Oリングやリップシールにより、土砂等の異物侵入を防止しているので、Oリングやリップシールが破損したら、フローティングシールも損傷する虞れがある。
【0011】
また、上述した特許文献3による従来技術は、前述した軟質弾性体の充填作業が難しく、作業性が悪いという問題がある。さらに、ウレタンチューブ等からなる中空な軟質弾性体が外部から隙間内に侵入した異物により損傷されることがあり、長時間の使用に対して耐久性、寿命を確保するのが難しいという問題がある。特に、外部の泥水等が前記隙間内に流入して凍結すると、この影響が軟質弾性体ばかりでなく、Oリングやシールリングにも及び、耐久性、寿命が低下するという問題がある。
【0012】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、Oリングおよびシールリングからなるフローティングシールを外側から保護して耐久性、寿命を向上することができ、シール性能を長期にわたって確保することができるようにした建設機械の回転装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため本発明は、建設機械の車体側に固定して設けられた固定体と、該固定体に対して回転可能に設けられ該固定体との間に外部に開口する隙間が形成された回転体と、前記固定体と回転体との間の前記隙間をシールするフローティングシールとを備え、前記フローティングシールは、前記固定体の内周側と前記回転体の内周側とに対向して配置され互いに摺接するシール面をもった一対のシールリングと、該各シールリングの外周面と前記固定体,回転体の内周面との間にそれぞれ挟持され、これらの間をシールすると共に前記各シールリングに対して軸方向の押圧力を付与する一対のOリングとにより構成してなる建設機械の回転装置に適用される。
【0014】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記各Oリングには、前記固定体,回転体の内周面と各シールリングとの間で前記隙間に臨む位置に吸油性材料を添加して設け、該吸油性材料は、前記固定体と回転体との間の前記隙間に外部から注入される油液を吸収して異物の侵入を防ぐ異物侵入防止膜を形成する構成としたことにある。
【0015】
また、請求項2の発明によると、前記吸油性材料は、ポリノルボルネンからなるポリマーの粉体または前記ポリマー製のシートを、前記Oリングの表面に塗布または接着して設ける構成としている。
【0016】
さらに、請求項3の発明によると、前記吸油性材料に吸収させる前記油液は、合成油、鉱油または生分解性油を用いる構成としてなる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、建設機械の回転装置(例えば、履帯案内ローラ)を組立てた状態で、固定体と回転体との間に形成された隙間内に外部から油液を注入すると、一対のOリングに塗布または付着させて設けた吸油性材料が油液を吸収して体積膨張することにより、前記隙間と各Oリングとの間に異物侵入防止膜を形成することができる。そして、この異物侵入防止膜は、外部からの泥水、土砂等の異物がOリングの周囲等に侵入して、堆積したり、固着したりするのを防止できる。
【0018】
従って、フローティングシールを構成する各シールリングのシール面が土砂等の侵入によって損傷したり、泥水や海水の侵入によって錆を生じたりするのを抑えることができ、また、フローティングシールを構成する各Oリングの弾性が、泥水等の凍結によって低下してしまうのを抑えることができる。これにより、各Oリングの弾性によって各シールリングのシール面を適正に摺接させ、相対回転する固定体と回転体との間を液密にシールすることができる。この結果、例えばフローティングシールによって封止した潤滑油を用いて固定体と回転体との間を潤滑することにより、前記固定体に対して回転体を円滑に回転させ、フローティングシールとしての耐久性、寿命を向上することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、吸油性材料をポリノルボルネンからなるポリマーの粉体または前記ポリマー製のシートを用いて形成することができる。Oリングの表面には、前記粉体をペースト状物にした状態で塗布手段を用いて付着させることができる。また、前記ポリマー製のシートを用いる場合には、このシートをOリングの表面に接着することにより付着させることができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、合成油、鉱油または生分解性油からなる油液を吸油性材料に吸収させ、これを体積膨張させることにより異物侵入防止膜を形成することができる。特に、生分解性油を用いた場合には、外部環境等に悪影響を与えるのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態による下履帯案内ローラを備えた油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】下履帯案内ローラの軸受、ローラ、フローティングシールを図1中の矢示II−II方向から拡大してみた断面図である。
【図3】図2中のフローティングシール、異物侵入防止膜等を拡大して示す要部断面図である。
【図4】吸油性材料を固定側Oリングと回転側Oリングとに外側からそれぞれ塗布し、油液を注入する状態を示す図3と同様位置での断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態による駆動輪側の走行装置を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態による建設機械の回転装置を、油圧ショベルの履帯案内ローラに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0023】
ここで、図1ないし図4は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は建設機械としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、該上部旋回体3の前部側に俯仰動可能に設けられた作業装置4とにより大略構成され、この作業装置4を用いて掘削作業等を行うものである。
【0024】
5は下部走行体2を構成するトラックフレームで、該トラックフレーム5は、前,後方向に伸長した左,右のサイドフレーム6を有している(右側のみ図示)。そして、サイドフレーム6の一端側には駆動輪7が設けられ、サイドフレーム6の他端側には遊動輪8が設けられている。
【0025】
ここで、サイドフレーム6は、図2に示すように、横断面が逆U字状をなして車両の前,後方向に延びた中空な枠体として形成されている。サイドフレーム6の下端側には、前,後方向に延びる厚肉な左,右の下板6A,6Aが設けられ、これらの下板6A間には、後述の下履帯案内ローラ11がそれぞれ間隔をあけて複数個配設されている。
【0026】
9は駆動輪7と遊動輪8との間に巻装された履帯で、該履帯9は、駆動輪7側の走行装置(例えば、走行用の油圧モータ等を含む)によって駆動されることにより、後述の上履帯案内ローラ10、各下履帯案内ローラ11に案内されつつ、駆動輪7と遊動輪8との間を周回し、下部走行体2を走行させるものである。
【0027】
10,10はサイドフレーム6の上面側に回転可能に設けられた2個の上履帯案内ローラで、該各上履帯案内ローラ10は、履帯9を下側から支持することにより該履帯9を駆動輪7、遊動輪8に向けて案内するものである。
【0028】
11,11,…はサイドフレーム6の下板6Aに設けられた回転装置としての複数個の下履帯案内ローラで、該各下履帯案内ローラ11は、履帯9を駆動輪7、遊動輪8に向けて案内するものである。各下履帯案内ローラ11は、図2ないし図3に示すように、後述の各軸支持部材12、ローラ15、フローティングシール18等によって構成されている。
【0029】
12,12はサイドフレーム6の各下板6Aに固定して設けられた固定体としての左,右の軸支持部材である。これら左,右の軸支持部材12は、例えばカラー等と呼ばれ、後述のローラ支持軸13を左,右方向に水平に延ばした状態で支持するものである。各軸支持部材12は、左,右方向に延びる軸挿嵌孔12Aを有する段付き円筒状に形成され、サイドフレーム6の下板6Aにボルト(図示せず)等を用いて固定されている。
【0030】
また、各軸支持部材12の外周側には、後述のフローティングシール18を収容するため断面略L字状をなす円筒状の鍔部12Bが設けられている。軸支持部材12の鍔部12Bは、後述するローラ15の環状段差面15Eと隙間17を介して軸方向で対向する環状面からなる軸方向端面12Cと、鍔部12Bの径方向内側面となるシール装着面12Dとを有している。該シール装着面12Dは、軸方向端面12Cに対して径方向内側へと斜めに傾斜し、後述の固定側Oリング21が弾性変形状態で装着される凹窪面として形成されている。
【0031】
13は左,右の軸支持部材12に支持されたローラ支持軸で、該ローラ支持軸13は後述のローラ15を回転可能に支持するものである。ここで、ローラ支持軸13の軸方向(左,右方向)の両端部は、各軸支持部材12の軸挿嵌孔12A内に挿嵌され、抜止めピン14によって軸方向に抜止めされると共に、軸支持部材12に対して廻止めされている。
【0032】
15は左,右の軸支持部材12間に位置してローラ支持軸13に回転可能に支持された回転体としてのローラである。ここで、ローラ15は、中心部に軸挿通孔15Aが形成された段付き円筒体からなり、軸方向の両端側には径方向外向きに突出する大径なフランジ部15B,15Bが一体形成されている。また、ローラ15の両端側には、軸挿通孔15Aよりも大きな内径寸法を有し、後述のフローティングシール18が収容されるシール収容穴15Cと、該シール収容穴15Cよりも大きな内径寸法を有し、軸支持部材12の鍔部12Bを収容する軸受収容穴15Dとが、軸挿通孔15Aと同心状に形成されている。
【0033】
また、ローラ15のシール収容穴15Cと軸受収容穴15Dとの間は、図3に示すように環状段差面15Eとなり、該環状段差面15Eは、軸支持部材12の軸方向端面12Cと軸方向で対向している。ローラ15にも、シール収容穴15Cの周壁側にシール装着面15Fが設けられ、該シール装着面15Fは、環状段差面15Eに対して径方向内側へと斜めに傾斜し、後述の回転側Oリング22が弾性変形状態で装着される凹窪面として形成されている。さらに、軸挿通孔15Aの軸方向中間部には、潤滑油Lを貯留する油溜め室15Gが形成されている(図2参照)。
【0034】
そして、ローラ15の軸挿通孔15Aには、軸方向の両端側から円筒状のすべり軸受16,16が挿嵌して固着され、ローラ15は、各すべり軸受16を介してローラ支持軸13に回転可能に支持されている。ローラ15は、左,右のフランジ部15Bによって履帯9が左,右方向に位置ずれするのを規制しつつ、該履帯9を駆動輪7、遊動輪8に向けて案内するものである。このとき、ローラ支持軸13とすべり軸受16との摺動面は、ローラ15の油溜め室15Gから供給される潤滑油Lによって常時潤滑され、この潤滑油Lは、後述のフローティングシール18によってローラ15内に封止される。
【0035】
17,17は相対回転する軸支持部材12とローラ15との間に外部に開口した状態で形成された左,右の全周の隙間で、該各隙間17は、図2、図3に示すように、軸支持部材12の鍔部12Bとローラ15の軸受収容穴15Dとの間に全周に亘って環状に形成され、ローラ15の外部に開口している。ローラ15と軸支持部材12とは、両者間に隙間17を形成した状態で相対回転する固定体と回転体とを構成するものである。
【0036】
18,18は左,右の軸支持部材12とローラ15との間に設けられた左,右のフローティングシールである。このフローティングシール18は、回転するローラ15と軸支持部材12との間に形成された隙間17をシールするものである。そして、フローティングシール18は、油溜め室15Gに貯留した潤滑油Lをローラ15内に封止すると共に、泥水、土砂等の異物がローラ15内に侵入するのを抑えるものである。ここで、フローティングシール18は、図3及び図4等に示すように、後述の固定側シールリング19、回転側シールリング20、固定側Oリング21および回転側Oリング22等により構成されている。
【0037】
19は軸支持部材12側に位置する固定側シールリングで、該固定側シールリング19は、後述の回転側シールリング20と対をなすもので、該回転側シールリング20と対向した状態で、軸支持部材12に設けられた鍔部12Bの内周側に配置されている。ここで、固定側シールリング19は、例えば耐摩耗性、耐食性に優れた金属材料を用いて円筒状に形成され、回転側シールリング20と対面する大径鍔部19Aと、該大径鍔部19Aの外側端面に形成された環状なシール面19Bとを有している。また、鍔部12Bのシール装着面12Dと対面する固定側シールリング19の外周面19Cは、大径鍔部19Aに向けて徐々に拡径するテーパ面となり、この外周面19Cと鍔部12Bのシール装着面12Dとの間には後述の固定側Oリング21が弾性変形状態で装着される構成となっている。
【0038】
20はローラ15側に位置する回転側シールリングで、該回転側シールリング20は、固定側シールリング19と同一部品からなり、ローラ15に設けられたシール収容穴15Cの内周側に配置されている。ここで、回転側シールリング20のうち固定側シールリング19と対面する部位には大径鍔部20Aが設けられ、該大径鍔部20Aの端面には、固定側シールリング19のシール面19Bに液密に摺接する環状なシール面20Bが形成されている。また、ローラ15のシール収容穴15Cの内周面(シール装着面15F)と対面する回転側シールリング20の外周面20Cは、大径鍔部20Aに向けて徐々に拡径するテーパ面となり、この外周面20Cとシール装着面15Fとの間には、後述の回転側Oリング22が弾性変形状態で装着される構成となっている。
【0039】
21はフローティングシール18の一部を構成する固定側Oリングで、該固定側Oリング21は、例えばブタジエンゴム等の耐油性を有するゴム材料等を用いて円環状の弾性リングとして形成されている。そして、固定側Oリング21は、軸支持部材12に設けられた鍔部12Bのシール装着面12Dと固定側シールリング19の外周面19Cとの間に弾性変形した状態で挟持されている。固定側Oリング21は、軸支持部材12の鍔部12Bと固定側シールリング19との間をシールすると共に、固定側シールリング19を回転側シールリング20に向けて軸方向に常時押圧するものである。
【0040】
22はフローティングシール18の一部を構成する回転側Oリングで、該回転側Oリング22は、前述した固定側Oリング21と同様に形成され、ローラ15のシール装着面15Fと回転側シールリング20の外周面20Cとの間に弾性変形した状態で挟持されている。そして、回転側Oリング22は、ローラ15のシール収容穴15Cと回転側シールリング20との間をシールすると共に、回転側シールリング20を固定側シールリング19に向けて軸方向に常時押圧するものである。
【0041】
これにより、固定側シールリング19のシール面19Bと、回転側シールリング20のシール面20Bとは、固定側Oリング21と回転側Oリング22から付与される軸方向の押圧力によって互いに衝合するように適正に摺接し、軸支持部材12に対するローラ15の回転を許しながら、当該軸支持部材12とローラ15との間の隙間17を液密にシールすることにより、ローラ15内に潤滑油Lを封止する構成となっている。
【0042】
23,23は本実施の形態で採用した異物侵入防止膜で、該各異物侵入防止膜23のうち一方の異物侵入防止膜23は、図3に示すように軸支持部材12の鍔部12Bと固定側シールリング19の大径鍔部19Aとの間で固定側Oリング21を隙間17側(外側)から覆い、軸支持部材12の軸方向端面12Cに達する位置まで径方向に膨出している。また、他方の異物侵入防止膜23は、ローラ15のシール収容穴15Cと回転側シールリング20の大径鍔部20Aとの間で回転側Oリング22を隙間17側(外側)から覆い、ローラ15の環状段差面15Eに達する位置まで径方向に膨出している。
【0043】
そして、これらの異物侵入防止膜23は、図3に示すように軸支持部材12とローラ15との間の隙間17内で互いに軸方向で衝合するように配置され、この状態で、2つの異物侵入防止膜23は、ローラ15、回転側シールリング20および回転側Oリング22が、軸支持部材12、固定側シールリング19および固定側Oリング21に対して相対回転するのを許しつつ両者の間を封止している。
【0044】
即ち、2つの異物侵入防止膜23は、図3に示すように固定側シールリング19、回転側シールリング20、固定側Oリング21および回転側Oリング22のうち隙間17に臨む部位を外側から覆う構成となっている。これにより、異物侵入防止膜23は、軸支持部材12とローラ15との間の隙間17を通じて外部からフローティングシール18に向けて泥水、土砂等の異物が侵入するのを抑え、フローティングシール18を異物から保護するものである。
【0045】
24は異物侵入防止膜23の素材となる吸油性材料で、該吸油性材料24は、例えばポリノルボルネンに代表される吸油性ポリマーからなる粉体をペースト状物として調製することにより形成されている。ここで、ペースト状物からなる吸油性材料24は、図4に示すように軸支持部材12の鍔部12Bと固定側シールリング19の大径鍔部19Aとの間で隙間17に臨む固定側Oリング21の外側面に予め決められた厚みをもって塗布される。また、回転側Oリング22についても、ペースト状物からなる吸油性材料24が同様に、ローラ15のシール収容穴15Cと回転側シールリング20の大径鍔部20Aとの間で隙間17に臨む外側面に塗布される。
【0046】
この状態で、軸支持部材12とローラ15との間の隙間17には、例えばスポイト、ノズル等の手段を用いて油液25が図4中に示す矢示A方向に注入される。このとき、固定側Oリング21と回転側Oリング22との外側面に塗布された吸油性材料24は油液25を吸収して体積膨張することにより、図3に示すように2つの異物侵入防止膜23が隙間17とOリング21,22との間に形成される。そして、異物侵入防止膜23は、外部からの泥水、土砂等の異物がOリング21,22の周囲等に侵入して、堆積したり、固着したりするのを防止する。
【0047】
この場合、異物侵入防止膜23は、例えばポリノルボルネン等の吸油性ポリマーからなる吸油性材料24を素材として用いることにより、Oリング21,22よりも柔軟性が高くなっている。このため、異物侵入防止膜23によってOリング21,22が弾性変形したり、余分な負荷を受けたりすることはなく、フローティングシール18としての性能に悪影響を与えることはない。
【0048】
吸油性材料24により吸収させる油液25としては、ローラ15の油溜め室15G内に溜める潤滑油Lと同種の油液、例えば合成油、鉱油等を用いればよい。また、微生物によって分解される生分解性油を前記油液25として用いれば、周囲環境に与える影響を抑えることができる。
【0049】
本実施の形態による油圧ショベル1の下履帯案内ローラ11は上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0050】
油圧ショベル1のオペレータが走行操作を行うと、下部走行体2の駆動輪7により履帯9が遊動輪8との間で周回駆動される。下部走行体2に設けた各下履帯案内ローラ11は、それぞれのローラ15が軸支持部材12に対して回転することにより、履帯9を駆動輪7と遊動輪8との間で上,下動を抑えるように案内する。
【0051】
このとき、フローティングシール18の回転側シールリング20はローラ15と一体に回転し、この回転側シールリング20は、シール面20Bを固定側シールリング19のシール面19Bに摺接させることにより、回転するローラ15と軸支持部材12との間を液密にシールする。これにより、フローティングシール18は、ローラ15内に潤滑油Lを保持することができ、この潤滑油Lによってローラ支持軸13とすべり軸受16との摺動面等を適正に潤滑することができ、ローラ15の円滑な回転を補償することができる。
【0052】
ところで、下履帯案内ローラ11にあっては、相対回転する軸支持部材12とローラ15との間に外部に開口した全周の隙間17が形成され、油圧ショベル1の走行時に外部から侵入してくる泥水、土砂等の異物が隙間17を介してフローティングシール18のシール面19B,20B、固定側Oリング21、回転側Oリング22に付着すると、この異物によってフローティングシール18が損傷してしまう虞れがある。
【0053】
そこで、本実施の形態によれば、フローティングシール18を含む下履帯案内ローラ11の組立て時に、図4に示すようにペースト状物からなる吸油性材料24を、軸支持部材12の鍔部12Bと固定側シールリング19の大径鍔部19Aとの間で隙間17に臨む固定側Oリング21の外側面に塗布すると共に、回転側Oリング22についても同様な吸油性材料24を、ローラ15のシール収容穴15Cと回転側シールリング20の大径鍔部20Aとの間で隙間17に臨む外側面に塗布するようにしている。
【0054】
次に、この状態で、軸支持部材12とローラ15との間の隙間17には、例えばスポイト、ノズル等の手段を用いて油液25を図4中に示す矢示A方向に注入し、このときの油液25を、固定側Oリング21と回転側Oリング22との外側面に塗布された各吸油性材料24に吸収させる。これにより、各吸油性材料24は、油液を吸収して体積膨張し、図3に示すように2つの異物侵入防止膜23を隙間17とOリング21,22との間に形成する構成としている。
【0055】
即ち、2つの異物侵入防止膜23は、図3に示すように固定側シールリング19、回転側シールリング20、固定側Oリング21および回転側Oリング22のうち隙間17に臨む部位を外側から覆う構成としている。また、これらの異物侵入防止膜23は、軸支持部材12とローラ15との間の隙間17内で互いに衝合するように配置され、この状態で、2つの異物侵入防止膜23は、ローラ15、回転側シールリング20および回転側Oリング22が、軸支持部材12、固定側シールリング19および固定側Oリング21に対して相対回転するのを許しつつ両者の間を封止している。
【0056】
これにより、異物侵入防止膜23は、軸支持部材12とローラ15との間の隙間17を通じて外部からフローティングシール18に向けて異物が侵入するのを抑え、フローティングシール18を異物から保護することができる。このため、例えば油圧ショベル1が泥濘地等を走行するときに、泥水、土砂等の異物が、軸支持部材12とローラ15との間の隙間17から固定側Oリング21、回転側Oリング22に向けて侵入するのを、異物侵入防止膜23によって防止できる。
【0057】
この結果、例えば各シールリング19,20のシール面19B,20Bが、土砂等の異物侵入によって損傷したり、泥水の侵入によって錆が発生したりするのを抑えることができる。また、固定側Oリング21、回転側Oリング22に泥水等が付着するのを防止し、各Oリング21,22の弾性が泥水等の凍結によって低下してしまうのを抑えることができる。
【0058】
従って、固定側シールリング19のシール面19Bと回転側シールリング20のシール面20Bとを適正に摺接させ、フローティングシール18によって回転するローラ15と軸支持部材12との間を液密にシールすることができる。これにより、潤滑油Lが外部に漏れるのを防止し、この潤滑油Lによってローラ支持軸13とすべり軸受16との摺動面等を適正に潤滑することができるので、ローラ15を長期に亘って円滑に回転させることができ、下履帯案内ローラ11の信頼性を高めることができる。
【0059】
この場合、異物侵入防止膜23は、例えばポリノルボルネン等の吸油性ポリマーからなる吸油性材料24を素材として用いることにより、フローティングシール18のOリング21,22よりも柔軟性が高くなっている。このため、異物侵入防止膜23によってOリング21,22が弾性変形したり、余分な負荷を受けたりすることはなく、フローティングシール18としての性能に悪影響を与えるのを防ぐことができる。そして、異物侵入防止膜23は、外部からの泥水、土砂等の異物がOリング21,22の周囲等に侵入して、堆積したり、固着したりするのを防止できる。
【0060】
しかも、本実施の形態によれば、図3に示すように各異物侵入防止膜23を、軸支持部材12の軸方向端面12Cとローラ15の環状段差面15Eとの間で隙間17内を径方向外側に膨出するように形成している。このため、軸支持部材12とローラ15との間の隙間17内に侵入した異物(例えば、泥水等)が寒冷地等で凍結する場合でも、この影響がフローティングシール18を構成する各シールリング19,20のシール面19B,20Bに及ぶのを、異物侵入防止膜23のよって抑えることができる。
【0061】
この結果、固定側シールリング19のシール面19Bと回転側シールリング20のシール面20Bとを適正に摺接させ、回転するローラ15と軸支持部材12との間をフローティングシール18によって液密にシールすることができ、フローティングシール18としての性能を長期にわたって確保できると共に、その耐久性、寿命を向上することができる。
【0062】
次に、図5は本発明の第2の実施の形態を示し、第2の実施の形態の特徴は、異物侵入防止膜を油圧ショベルの走行装置に適用する構成としたことにある。なお、本実施の形態では上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0063】
図中、31は油圧ショベル1に用いられる回転装置としての走行装置を示し、該走行装置31は、第1の実施の形態で述べた駆動輪7用の走行装置に替えて用いられる。走行装置31は、走行装置ブラケット32に取付けられた油圧モータ33と、該油圧モータ33の回転を減速する減速機34と、該減速機34によって減速した回転を履帯9に伝達する駆動輪(スプロケット)35と、フローティングシール18と、後述の異物侵入防止膜38とを含んで構成されている。
【0064】
ここで、油圧モータ33は、走行装置ブラケット32に固定された円筒状のモータハウジング33A内に収容されている。一方、減速機34は、有蓋円筒状に形成された減速機ハウジング34Aと、この減速機ハウジング34A内に設けられた3段の遊星歯車減速機構34Bとにより構成され、減速機ハウジング34Aの外周側には駆動輪35が固定されている。
【0065】
この場合、減速機ハウジング34Aは、軸受36,36を介してモータハウジング33Aに回転可能に取付けられ、これら減速機ハウジング34Aとモータハウジング33Aとは、両者間に隙間37を形成した状態で相対回転する固定体と回転体とを構成している。
【0066】
そして、減速機ハウジング34Aとモータハウジング33Aとの間には、第1の実施の形態で述べたフローティングシール18が設けられ、該フローティングシール18によって減速機ハウジング34Aとモータハウジング33Aとの間の隙間37をシールすることにより、減速機ハウジング34A内に、遊星歯車減速機構34B等を潤滑する潤滑油を封止する構成となっている。
【0067】
38は減速機ハウジング34Aとモータハウジング33Aとの間の隙間37内に設けられた異物侵入防止膜で、該異物侵入防止膜38は、第1の実施の形態で述べた異物侵入防止膜23と同様に構成され、減速機ハウジング34Aとモータハウジング33Aとの間の隙間37内に外部からフローティングシール18に向けて泥水、土砂等の異物が侵入するのを防止するものである。
【0068】
かくして、このように構成される第2の実施の形態による走行装置31にあっても、相対回転する減速機ハウジング34Aとモータハウジング33Aとの間の隙間37内に異物侵入防止膜38を設けることにより、当該隙間37に外部からフローティングシール18に向けて異物が侵入するのを防止することができる。これにより、フローティングシール18のシール性を良好に保つことができ、走行装置31を長期に亘って円滑に作動させることができる。
【0069】
なお、前記第1の実施の形態では、ポリノルボルネンからなるポリマーの粉体をペースト状物にして吸油性材料を形成し、これをOリング21,22に外側から塗布する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前記ポリマー製のシートを用いる場合には、このシートをOリングの表面に接着することにより付着させることができる。この点は第2の実施の形態についても同様である。
【0070】
また、前記第1の実施の形態では、建設機械の回転装置を下履帯案内ローラ11に適用した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば上履帯案内ローラ10に適用してもよい。また、油圧ショベルの遊動輪装置のように、相対回転する軸支持部材と遊動輪との間の隙間からフローティングシールに向けて異物が侵入するのを防止する場合にも適用することができるものである。
【0071】
また、前記第2の実施の形態では、建設機械の回転装置として油圧ショベルの走行装置31を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン等の装軌式車両、ホイールローダ等のホイール式車両にも適用できるものであり、要はフローティングシールを用いた種々の回転装置に適用できるものである。
【符号の説明】
【0072】
11 下履帯案内ローラ(回転装置)
12 軸支持部材(固定体)
13 ローラ支持軸
15 ローラ(回転体)
17,37 隙間
18 フローティングシール
19 固定側シールリング
19B,20B シール面
20 回転側シールリング
21 固定側Oリング
22 回転側Oリング
23,38 異物侵入防止膜
24 吸油性材料
25 油液
31 走行装置(回転装置)
33 油圧モータ
33A モータハウジング(固定体)
34 減速機
34A 減速機ハウジング(回転体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の車体側に固定して設けられた固定体と、該固定体に対して回転可能に設けられ該固定体との間に外部に開口する隙間が形成された回転体と、前記固定体と回転体との間の前記隙間をシールするフローティングシールとを備え、
前記フローティングシールは、前記固定体の内周側と前記回転体の内周側とに対向して配置され互いに摺接するシール面をもった一対のシールリングと、該各シールリングの外周面と前記固定体,回転体の内周面との間にそれぞれ挟持され、これらの間をシールすると共に前記各シールリングに対して軸方向の押圧力を付与する一対のOリングとにより構成してなる建設機械の回転装置において、
前記各Oリングには、前記固定体,回転体の内周面と前記各シールリングとの間で前記隙間に臨む位置に吸油性材料を添加して設け、
該吸油性材料は、前記固定体と回転体との間の前記隙間に外部から注入される油液を吸収して異物の侵入を防ぐ異物侵入防止膜を形成する構成としたことを特徴とする建設機械の回転装置。
【請求項2】
前記吸油性材料は、ポリノルボルネンからなるポリマーの粉体または前記ポリマー製のシートを、前記Oリングの表面に塗布または接着して設ける構成としてなる請求項1に記載の建設機械の回転装置。
【請求項3】
前記吸油性材料に吸収させる前記油液は、合成油、鉱油または生分解性油を用いる構成としてなる請求項1または2に記載の建設機械の回転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−71647(P2012−71647A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216818(P2010−216818)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】