説明

建造物の補強工法

【課題】比較的小型の建造物の基礎を補強する工法であって、施工に必要な機器を施工するべき建造物の敷地内のみに配置することが出来る建造物の補強工法の提供。
【解決手段】建造物(1)の床材(3)下方で、基礎部材(5a、5b)と干渉させずに梁(7)を配置し、支持部材(10)により、前記梁(7)の両端を支持し、支持部材(10)は地中に挿入して梁(7)に作用する鉛直方向荷重を支持する地中挿入部材(16)を有し、地中挿入部材(16)は直線状部分(16c)と複数の螺旋状突起(16d)を備え、螺旋状突起(16d)は螺旋形の一部を構成しており、支持部材(10)が梁(7)を支持している部分の地表面(GL)からの鉛直方向距離(高さh)を調節して、梁(7)に作用する鉛直方向荷重を前記支持部材(10)で支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば個人住宅の様な比較的小型の建造物の基礎を補強する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図11〜図13では、個人住宅(家屋)の基礎枠組の一例を示している。
図11において、個人住宅の基礎枠組Fは、水平に延在する複数の大引12(以下、本明細書では「第1の大引き」と記載する)と、第1の大引12に直交する(図11では上下方向に延在する)複数の大引14(以下、本明細書では「第2の大引」と記載する)とで、基礎枠組1Fが形成されている。
上記の基礎枠組1Fを下方から支持する基礎部材が、図12で示されている。
【0003】
図12において、基礎部材は、延在する複数のベタ基礎5aと、点在する複数の柄5bとを有している。なお、以下において、ベタ基礎5aと柄5bを総称して、「基礎部材5」と表記する場合がある。
図12において、第2の大引14は、ベタ基礎5aによって、全長に亘って支持されている。また、図12で図示されていない第1の大引12(図13参照)は、柄5b等によって支持されている。
【0004】
図12を矢印A13から見た状態が、図13で示されている。
図13において、ベタ基礎5aが第2の大引14を支持している。第2の大引14(或いは、第1及び第2の大引12、14で構成されている基礎枠組1F)の上部には、複数の根太4が載置され、根太4の上部に床板3が載置されている。図面の簡略化のため、図13では、根太4及び床板3は部分的に示されている。
【0005】
ここで、基礎部材5が設置されている地盤が軟弱であり、基礎部材5を支持する力に乏しい場合には、当該地盤の支持力を向上させる必要がある。
しかし、係る地盤の支持力の向上を、従来の施工技術で行なうことは困難であった。個人住宅は、その敷地面積が小さい場合が多く、従来技術における各種工法を施工するのに必要な重機を乗り入れることが難しく、また、施工に際して、作業員や機械が隣接する家屋の敷地内に侵入しない様にすることも難しいからである。
地盤沈下等により、家屋の基礎部材5の水平度が損なわれてしまう場合にも、同様な問題が存在している。
【0006】
その他の従来技術として、例えば、床根太、端根太、床束を省略して、施工期間の短縮を可能にした床構造が存在する(例えば、特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)では、使用するべき機器や作業員が隣接する別の建造物の敷地内に侵入することなく、当該建造物の地盤の支持力を向上することが出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−188100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、個人住宅、家屋の様な比較的小型の建造物の基礎を補強する工法であって、施工に必要な機器や作業員が、施工するべき建造物の敷地内のみに留まった状態で施工することが出来る建造物の補強工法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の建造物(1)(例えば、個人住宅、家屋の様な比較的小型の建造物)の(基礎を補強する)補強工法は、
建造物(1)の床材(3)下方で、基礎部材(ベタ基礎5a及び柄5b)と干渉させずに(ベタ基礎5a及び柄5bが配置されていない箇所に)梁(7)を配置する工程と、
前記建造物(1)の敷地(例えば、家屋の庭等)内に配置された支持部材(10)(受け)により、前記梁(7)の両端を支持する工程を含み、前記支持部材(10)は地中に挿入して梁(7)に作用する鉛直方向荷重を支持する地中挿入部材(16:例えば、パイプ表面に、部分的な螺旋形状のネジ山状の突起を形成した部材)を有し、地中挿入部材(16)は直線状部分(パイプ16c)と(パイプ16cに設けられた)複数の螺旋状突起(16d)を備え、螺旋状突起(16d)は螺旋形の一部を構成しており、
前記支持部材(10)が前記梁(7)を支持している部分の地表面(GL)からの鉛直方向距離(高さh)を調節して、前記梁(7)に作用する鉛直方向荷重を前記支持部材(10)で支持する工程を有することを特徴としている。
【0010】
本発明において、建造物(1)の床(3)の水平度を計測しつつ、前記支持部材(10)の地表面(GL)からの高さ(h)を変更する工程を有することが好ましい。
【0011】
そして本発明の実施に際して、地中挿入部材(16)と梁(7)との間に介在する鉛直方向寸法調整部材(20)により地表面(GL)と梁(7)の鉛直方向間隔を調整する工程を有することが好ましい。
その場合、地中挿入部材(16)の地上側端部に微調整部材(50:例えば、ネジ式ジャッキ)を設け、鉛直方向寸法調整部材(20)により地表面(GL)と梁(7)の鉛直方向間隔を調整する前記工程の後に、微調整部材(50)により地表面(GL)と梁(7)の鉛直方向間隔を微調整する工程を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上述する構成を具備する本発明によれば、基礎部材(ベタ基礎5a及び柄5b)と干渉しない様な態様で、建造物(1)の床材(3)下方に、(ベタ基礎5a及び柄5bが配置されていない箇所に)梁(7)を配置して、前記梁(7)の両端を前記建造物(1)の敷地(例えば、家屋の庭等)内に配置された支持部材(10)(受け)によって支持しているので、前記梁(7)が建造物の構造部材となり、建造物の基礎の一部として支持力を発揮するので、当該建造物の基礎を補強することが出来る。
その際に、前記梁(7)を支持する支持部材(10)は、建造物(1)の敷地内に配置されており、施工に必要な機器が建造物(1)の敷地以外の領域に侵入してしまうことはない。
【0013】
ここで本発明によれば、梁(7)の両端を支持する支持部材(10)は地中挿入部材(16)を有し、地中挿入部材(16)は直線状部分(16c)と(パイプ16cに設けられた)複数の螺旋状突起(16d)を備え、螺旋状突起(16d)は螺旋形の一部を構成しているので、人力等により適切なトルクを付加することにより、地中挿入部材(16)を回転して地中に挿入することが出来る。
そのため、施工に際して、重機等を使用する必要がなく、基礎を補強するべき家屋の敷地内に重機を乗り入れる必要が無い。
【0014】
そして、地中挿入部材(16)の螺旋状突起(16d)は螺旋形の一部を構成しており、全体に螺旋と形成されている訳ではない。そのため、地中挿入部材(16)を回転して地中に挿入した際に、例えばアースオーガの様に土を地中側に排出してしまうことがない。換言すれば、本発明によれば、地中挿入部材(16)を回転して地中に挿入した際の排土が少ない。
そして本発明によれば、螺旋状突起(16d)が螺旋形の一部を構成しているため、地中挿入部材(16)を回転する力は、螺旋状突起(16d)において、地中に押し込む力に変換される。
さらに、地中挿入部材(16)に建造物の荷重が作用した際に、螺旋形の一部を構成する螺旋状突起(16d)により支持されるので、建造物の荷重を確実に支持することが出来る。
【0015】
本発明において、建造物(1)の床(3)の水平度を計測しつつ、前記支持部材(10)の地表面(GL)からの高さ(h)を変更すれば、建造物の基礎を補強する際に、建造物(1)の床(3)が傾いてしまう事態を防止することが出来る。或いは、施工前の状態で既に床(3)が傾いている建造物であれば、基礎を補強するのと同時に、傾いている床(3)を水平状態に復帰させることが出来る。
具体的には、本発明において、地中挿入部材(16)と梁(7)との間に介在する鉛直方向寸法調整部材(20)により地表面(GL)と梁(7)の鉛直方向間隔を調整する工程を行なうことにより、梁(7)を水平な状態にせしめ、以って、建造物(1)の床(3)が傾いた状態に対処することが出来る。
【0016】
ここで、前記鉛直方向寸法調整部材(20)がモルタルを注入して膨張させるタイプの部材であると、モルタルが固化した後は、地表面(GL)と梁(7)の鉛直方向間隔を調整することが出来なくなってしまう。
これに対して、地中挿入部材(16)の地上側端部に微調整部材(50:例えば、ネジ式ジャッキ)を設け、鉛直方向寸法調整部材(20)により地表面(GL)と梁(7)の鉛直方向間隔を調整する工程の後に、微調整部材(50)により地表面(GL)と梁(7)の鉛直方向間隔を微調整する工程を実行すれば、前記鉛直方向寸法調整部材(20)に注入されたモルタルが固化した後においても、微調整部材(50)により、地表面(GL)と梁(7)の鉛直方向間隔を再度調整(微調整)することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のA矢視側面面である。
【図3】地中挿入部材を示す図である。
【図4】地中挿入部材の作用を示す説明図である。
【図5】第1実施形態の作用効果を示す説明図である。
【図6】支持部材を示す説明図である。
【図7】第1実施形態により建造物を水平にする際の機器の配置を示すブロック図である。
【図8】第1実施形態により建造物の水平にする手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態の要部を示す図である。
【図10】第2実施形態により建造物の水平にする手順を示すフローチャートである。
【図11】家屋の基礎を例示する平面図である。
【図12】家屋の基礎におけるベタ基礎及び柄の配置を例示する平面図である。
【図13】図12のA13矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面の図1〜図10を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図11〜図13と同様な部材については、図1〜図10でも同様な符号を付して説明している。
最初に、図1〜図8を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
【0019】
図1において、第1〜第4の梁7A〜7Dの各々が、ベタ基礎5aと柄5bの間に延在している。
第1の梁7Aは、図1における左端のベタ基礎5a1と、縦方向(ベタ基礎5a及び梁7A〜7Dの各々が延在する方向)に間隔を空けて配置された4個の柄5b1との間に延在している。そして、第1の梁7Aは、ベタ基礎5a1と柄5b1に干渉しない様に配置されている。
図1において、第1の梁7Aの上端部7Acは、その縦方向寸法が、左端における第2の大引141及びベタ基礎5a1よりも長くなる様に設定されている。そのため、第1の梁7Aの上端部7Ac及び下端部7Adは、第2の大引141及びベタ基礎5a1の上端部及び下端部よりも、縦方向に突出する様に配置されている。
【0020】
第2の梁7Bは、図1において最も左側に位置する4個の柄5b1と、左から2番目に位置するベタ基礎5a2との間に延在している。そして、第2の梁7Bは、柄5b1とベタ基礎5a2に干渉しない様に配置されている。
第2の梁7Bは、その縦方向寸法が、左から2番目の第2の大引142及びベタ基礎5a2よりも長くなる様に設定されている。そのため、第2の梁7Bの上端部7Bc及び下端部7Bdは、第2の大引142及びベタ基礎5a2の上端部及び下端部よりも、縦方向に突出する様に配置されている。
【0021】
第3の梁7Cは、図1において、左から2列目に位置して縦方向に間隔を空けて配置された3個の柄5b2と、左から3番目のベタ基礎5a3との間に延在している。そして、第3の梁7Cは、柄5b2とベタ基礎5a3に干渉しない様に配置されている。
第3の梁7Cは、その縦方向寸法が、左から3番目の第2の大引143及びベタ基礎5a3よりも長くなる様に設定されている。そのため、第3の梁7Cの上端部7Cc及び下端部7Cdは、第2の大引143及びベタ基礎5a3の上端部及び下端部よりも、縦方向に突出する様に配置されている。
【0022】
第4の梁7Dは、図1において、左から3列目に位置して縦方向に間隔を空けて配置された4個の柄5b3と、左端から4列目(右端)のベタ基礎5a4との間に延在している。そして、第4の梁7Dは、柄5b3とベタ基礎5a4に干渉しない位置に、配置されている。
第4の梁7Dは、その縦方向寸法が、右端における第2の大引144及びベタ基礎5a4よりも長くなる様に設定されている。そのため、第4の梁7Dの上端部7Dc及び下端部7Ddは、第2の大引144及びベタ基礎5a4の上端部及び下端部よりも、縦方向に突出する様に配置されている。
【0023】
本明細書及び図面において、ベタ基礎5a4〜5a4を包括的に、「ベタ基礎5a」と表現する場合がある。
また、柄5b1〜5b4を包括的に、「柄5b」と表現する場合がある。
さらに、第2の大引141〜144を包括的に、「第2の大引14」と表現する場合がある。
【0024】
第1〜第4の梁7A〜7Dの上端部及び下端部(図1では、符号7Ac、7Ad、7Bc、7Bd、7Cc、7Cd、7Dc、7Ddで示す箇所)の下方(図1では、紙面に垂直な方向であって、看者から離隔する側)に、支持部材10が設置されている。
図1を矢印A方向から矢視した図2において、支持部材10は、第2の梁7Bの下方にのみ示されている。換言すれば、図2では、第1、第3、第4の梁7A、7C、7Dの下方に設置されている支持部材は、符号「10」のみを示している。図面の簡略化のためである。
【0025】
図2において、第2の梁7Bの両端部7Bc、7Bd(図1参照)の下方に配置されている支持部材10は、第2の梁7Bを支持するために設けられている。
支持部材10は、上方の支持体200と、下方の地中挿入部材16により構成されており、図2では地中挿入部材16は、地中に埋設された状態である。
地中挿入部材16は図3で示されており、直線状のパイプ16cと、パイプ16cに設けられた複数の螺旋状突起16dを備えている。螺旋状突起16dは、螺旋形の一部を構成している。
【0026】
図3において、パイプ16cの上端部(図3では左端部)には四角頭16aが形成され、四角頭16aにはバール孔16bが貫通している。四角頭16aは地中挿入部材16を回転して地中に押し込む(挿入する)のに必要なトルクを付加するために設けられている。
地中挿入部材16の螺旋状突起16dは、右ねじ状の螺旋形の一部を構成しており、右方向回転(時計方向の回転)することにより、地中挿入部材16は地中に押し込まれる(挿入される)。
【0027】
ここで、図3、図4から明らかな様に、地中挿入部材16の螺旋状突起16dは螺旋形の一部分を構成しており、地中挿入部材16の長手方向全体に螺旋形が形成されている訳ではない。そのため、地中挿入部材16を回転して地中に押し込む(挿入する)際に、例えばアースオーガの様に排土してしまうことがない。換言すれば、地中挿入部材16を回転して地中に挿入した際に、排土量は少ない。
そして、螺旋状突起16dが螺旋形の一部を構成しているため、地中挿入部材16を回転する力が、螺旋状突起16dにおいて、地中に押し込む力に変換される。
また、螺旋形の一部を構成する螺旋状突起16dは、地中挿入部材16に作用する建造物の荷重を支持する。そのため、軟弱な土壌であっても、建造物の荷重を、地中挿入部材16により確実に支持することが出来る。
【0028】
図4で示すように、地中挿入部材16を回転して土壌Gに押し込んだ際に、土壌Gとの間に空隙CLが形成されてしまう恐れが存在する。これに対して、モルタルMを注入して、いわゆる「根固め」を行うことが出来る。
図4において、地中挿入部材16の直線状のパイプ16cの中央部分には、長手方向に延在する流路16Rが形成されている。地中挿入部材16を回転して、地中の所定深さまで押し込んだ後、図4で示すように、流路16Rの地上側からモルタルMを供給すれば、地中挿入部材16の地中側先端16Tから符号MRで示す様に、モルタルが地中側に注入される。
【0029】
地中側に注入されたモルタルMR(いわゆる「根固めモルタル」)は、地中挿入部材16と土壌Gの間の空隙CLに浸透して、固化する。
係る根固めモルタルMRが空隙CLに浸透して固化することにより、地中挿入部材16が建造物の荷重を確実に支持することが出来る。
【0030】
図2〜図4を参照して説明した地中挿入部材16により両端を担持された梁7により、建造物1を支持する状態が、図5で示されている。
図2を参照して上述した様に、梁7の端部を支持する支持部材10は、上方の支持体200と、下方の地中挿入部材16により構成されている。
図5において、梁7の左右方向両端部は、支持体200を介して、地中挿入部材16によって支持されている。これにより、建造物1は、ベタ基礎5a4〜5a4、柄5b1〜5b4による地耐力に加えて、梁7(7A〜7D:支持体200と地中挿入部材16)による地耐力を得ることが出来る。
【0031】
ここで、梁7の中央部、すなわち、支持体200、地中挿入部材16により支持されている箇所の間の部分が撓んでしまうことを防止するため、単体の支持体20を梁7と地表面GLの間に介在している。
そして、梁7の中央部に介在されている支持体200は、その下方に地中挿入部材16を配置していない。図6を参照して後述するが、支持体200は流体ジャッキとしての作用を奏する部材であり、梁7の撓みを補正して、梁7を水平な状態に近づけることが出来る。
【0032】
図6では、地中挿入部材16と梁7B(第2の梁)の間に位置する支持体200を例示している。
図6において、支持体200は、パッカー20と、台部24と、箱体22を備えている。
パッカー20(鉛直方向寸法調整部材)は、その内部に流体(例えばモルタルM)を注入することにより、支持体200の高さを変化させる機能を有している。
【0033】
図6において、チューブ20aを介して、パッカー20に流動体(例えばモルタルM)を注入することにより、パッカー20は(鉛直方向へ)膨張する。
パッカー20への流動体(例えばモルタルM)注入量を調節して、鉛直方向への膨張量を適宜調整することにより、パッカー20の鉛直方向寸法を調整し、以って、支持部材10の高さ寸法(鉛直方向寸法)を変化させ、図6における梁7Bの下端から地表面GLまでの距離(高さ寸法)hを調整することが出来る。
【0034】
箱体22は、パッカー20を収容する部材であり、且つ、支持体200を梁7(図6では梁7B)に接続する作用効果を奏する部材であり、断面がH型の材料で構成されている。
図6で示す様に、箱体22の上方の凹部に第2の梁7Bが嵌合しており、箱体22の下方の凹部内にパッカー20が収容されている。
また、箱体22の下方の凹部は、支持体200の台部24の上端部と嵌合している。
箱体22により、第2の梁7B、パッカー20、台部24は直線状に接続された状態を保持している。
図6では明示されていないが、台部24は地中挿入部材16の四角頭16aに対して、公知の手法により取り付けられている。
【0035】
再び図1において、第1の梁7Aの両端部の間の領域には、2個の支持体200が配置されている。
図4を参照して説明したように、梁7A〜7Dの両端部の間の領域(中央部)において、梁7の下方に配置される支持体200は、その地中側に地中挿入部材16は設けられていない。2個の支持体200は、梁7A〜7Dの中央部が下方に撓むことを防止するために設けられており、下方に撓んだ梁7A〜7Dを上方に押し上げて、梁7A〜7Dを水平(或いは水平に近い状態)に保持している。
【0036】
図1では明示されてはいないが、第1の梁7Aにおいて支持体200が配置されている箇所は、第1の大引12と第2の大引14(図2、図11参照)の交点である。
第1の大引12に負荷される荷重と第2の大引14に負荷される荷重により、第1の梁7Aの中央部の撓み量が大きくなり過ぎる場合に対処するためである。
第2の梁7B〜第4の梁7Dにおいても、2個の支持体200の位置は、第1の大引12と第2の大引14の交点である。
【0037】
第1実施形態により建造物1を補強する手順について、図1〜図5を参照して説明する。
以下において、第1の梁7A、第2の梁7B、第3の梁7C、第4の梁7Dの順番で作業する場合を対象にしている。
先ず、第1の梁7Aの両端部7Ac及び7Adに対応する位置で、地中挿入部材16を地中側に押し込む(挿入する)。
地中挿入部材16を地中側に押し込むに際しては、例えば、四角頭16aのバール孔16bにバール(図示せず)を貫通させ、当該バールを作業員(図示せず)の人力で回転させる。これにより、地中挿入部材16が回転して、螺旋状突起16dが地中側に切り込む方向に回転されて、地中挿入部材16は地中側に挿入される。
【0038】
地中挿入部材16が地中に押し込まれたならば(挿入されたならば)、必要に応じてモルタルMによって根固めを行う。ただし、地盤の状態その他の施工条件により、モルタルMによる根固めが不要な場合が存在する。
次に、第1の梁7Aを、ベタ基礎5a1と柄5b1の間に、ベタ基礎5a1及び柄5b1と干渉しない様に、縦方向(ベタ基礎5a1が延在する方向)へ延在する様に挿入する。
【0039】
第1の梁7Aを挿入した後、地中挿入部材16の上部に支持体200を配置して、第1の梁7Aの両端部7Ac、7Adを支持する。
そして、支持体200のパッカー20に、例えばモルタルMを適宜注入して、第1の梁7Aから地表面GLまでの高さ寸法hを調節する。
【0040】
第2〜第4の梁7B〜7Dについても、第1の梁7Aについて上述したのと同様な手順を実行する。
第1〜第4の梁7A〜7Dを配置することにより、それまでベタ基礎5a及び柄5bで支持していた建造物1の重量を、第1〜第4の梁7A〜梁7Dにも分担して付加させることが出来る。その結果、建造物1の基礎を補強することができる。
なお、第1〜第4の梁7A〜7Dの作業の順番は、上述した順番に限定される訳ではない。第1〜第4の梁7A〜7Dの作業をどの順番で実行するのかについては、ケース・バイ・ケースで定めれば良い。
【0041】
ここで、第1〜第4の梁7A〜梁7Dにおいて、その両端の間の領域(梁7A〜7Dの中央部)の撓み量が大きい場合には、当該中央部において、例えば第1の大引12と第2の大引14の交点の下方の位置に、支持体200を配置する。図示の実施形態では、第1〜第4の梁7A〜梁7Dの両端の間の領域では、2箇所ずつ、支持体200が配置されている。
すなわち、第1実施形態では、第1〜第4の梁7A〜梁7Dの両端部において、梁7A〜7D及び支持体200を介して、建造物1の荷重は地中挿入部材16により支持される。それと共に、梁7の中央部(地中挿入部材16で支持されている端部の間の領域)における撓みを防止するため、当該中央部(梁7の両端部の間の領域)に2箇所ずつ支持体200を配置して、梁7を水平状態に保っている。
【0042】
第1実施形態において、支持部材10のパッカー20に流動体(例えば、モルタルM)を注入する段階で、床面3を傾斜させることなく、水平にすることが出来る。
図7、図8を参照して、支持部材10によって、建造物1の傾斜を防止して、水平にする手順について説明する。
図7において、建造物1内の床材3上に、床材3の水平度を計測する水平度センサSを配置する。ここで、図7における左右の高さが異なっている場合において、センサSによって傾斜が検出される。
【0043】
図7において、床材3の左端部の下部と、床材3の右端部の下部には、梁7を介して、支持部材10が設置されている。
支持部材10の構成は、図2〜図6を参照して上述したのと同様である。
支持部材10は、鉛直方向寸法調整部材として作用するパッカー20を備えており、パッカー20に注入されるモルタルMの量により、支持部材10の高さ(地表面GLからの高さ寸法h:図6参照)が調節される。
【0044】
図7において、制御装置30が設けられており、制御装置30と水平度センサSは信号線L0により、情報信号が伝達可能に接続されている。そして、左側の支持部材10と制御装置30は信号線L1で信号伝達可能に接続され、右側の支持部材10と制御装置30は信号線L2で信号伝達可能に接続されている。より詳細には、信号線L1、L2は、左右の支持部材10におけるパッカー20(図6参照)にモルタルMを供給する供給源(図示せず)に接続されており、左右の支持部材10、10におけるパッカー20へ注入されるモルタルMの供給量(注入量)の制御信号を伝達する。
制御装置30は、水平度センサSの信号に基づいて、左右の支持部材10、10におけるパッカー20、20の各々に対するモルタルMの供給量(注入量)を決定して、左右の支持部材10、10の各々の高さ寸法h(図6参照)を調整する機能を有している。
【0045】
図1〜図6を参照して上述した補強工法を施工する際に、支持部材10のパッカー20に流動体(例えば、モルタルM)を注入する段階で、床面3を傾斜させることなく、水平にする手順について、主として図8に基いて、図7をも参照して説明する。
図8において、センサSにより水平度或いは床材3の傾斜を検出し、検出結果を制御装置30に伝達する(ステップS2)。
【0046】
制御装置30では、センサSで検出された床材3の水平度或いは傾斜が許容範囲内か否かを判断する(ステップS3)。
センサSで検出された床材3の水平度或いは傾斜が許容範囲内であれば(ステップS3がYes)、左右の支持部材10、10の各々のパッカー20に対して、同一量のモルタルMを注入する(ステップS4)。そして、ステップS8に進む。
【0047】
センサSによる検出の結果、例えば図5の左側が下がっている様な傾斜が存在する場合には(ステップS3が「左下り」)、左側の支持部材10のパッカー20に対するモルタル注入量を多くして(左モルタル量多)、右側の支持部材10のパッカー20に対するモルタル注入量を少なくする(右モルタル量少)(ステップS6)。そして、ステップS8に進む。
センサSによる検出の結果、例えば図5の右側が下がっている様な傾斜が存在する場合には(ステップS3が「右下り」)、右側の支持部材10のパッカー20に対するモルタル注入量を多くして(右モルタル量多)、左側の支持部材10のパッカー20に対するモルタル注入量を少なくする(左モルタル量少)(ステップS7)。そして、ステップS8に進む。
ステップS8では、モルタルMの注入を終了する。
図8を参照して説明した手順は、第1〜第4の梁7A〜梁7Dの全てについて、同様に行われる。
【0048】
パッカー20に対するモルタル注入量を調整して、左右の支持部材10の高さを調整することにより、第1実施形態に係る補強工法を施工した建造物1が傾いてしまうことを防止することが出来る。或いは、既に傾いてしまった建造物1の地耐力を向上するために第1実施形態を実施する際に、当該傾いた建造物1を水平な状態に復帰させることが可能である。
また、第1〜第4の梁7A〜梁7Dの両端の間の領域(中央部)に支持体200を配置している場合には、支持体200が載置される部分における梁7の撓み量を計測し、その撓み量がしきい値を越えた場合には、支持体200により梁7を上方に持ち上げて、撓み量を減少する制御を行なうことが可能である。
図7、図8では述べていないが、センサSで検出する床材3の傾斜についても、図7の左右における傾斜のみならず、それに直交する方向における傾斜(図7では、紙面に直交する方向の傾斜)を検出して、図8で示す様な制御を行なうことが望ましい。
【0049】
次に、図9、図10を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態では、地中挿入部材16の四角頭16aと、支持体200の台部24の間には、鉛直方向寸法調整部材であるネジ式ジャッキ50が設けられている。
ネジ式ジャッキ50は、地中挿入部材16の四角頭16aと一体的に構成されている。
図9では明示されていないが、ネジ式ジャッキ50は、スパナその他の工具を適宜用いることにより、四角頭16aに対して回転可能である。そして、ネジ式ジャッキ50を四角頭16aに対して回転することにより、ネジ式ジャッキ50の上端面と地表面GLとの間隔を調整可能に構成されている。
【0050】
図1〜図8の第1実施形態では、パッカー20にモルタルMを注入した後、モルタルMが固化すると、図6における梁7Bの下端から地表面GLまでの距離(高さ寸法)hを変更或いは調整することは出来ない。
それに対して、図9で示すようにネジ式ジャッキ50を設ければ、パッカー20に注入されたモルタルMが固化した後であっても、スパナその他の工具を適宜用いて、ネジ式ジャッキ50を四角頭16aに対して回転することにより、図9における梁7Bの下端から地表面GLまでの距離(高さ寸法)hを変更、調整することが出来る。
ここで、ネジ式ジャッキ50による高さ寸法hの調整量は、パッカー20の膨張に比較して微小であるため、ネジ式ジャッキ50は高さ寸法hの微調整に用いられる。
【0051】
次に、主として図10を参照して、第2実施形態により建造物の水平にする手順を説明する。
図10において、先ずセンサS(図7参照)により建造物1の床板3の傾斜を計測する(ステップS11)。ステップS11は、図8のステップS2に対応する。
次に、パッカー20へのモルタルMの注入量を適宜制御して、高さh(図9参照)を調整する(ステップS12)。このステップS12は、図8のステップS3、S4、S6、S7に対応する。
パッカー20へモルタルMを注入した後、スパナその他の工具を適宜用いて、ネジ式ジャッキ50を四角頭16aに対して回転して、図9における梁7Bの下端から地表面GLまでの距離(高さ寸法)hを微調整する(ステップS13)。
【0052】
そして、支持体200で梁7の中央部を支持して、梁7の中央部の撓み量が大きくなることを防止する(ステップS14)。
なお、梁7の中央部の撓み量が小さい場合には、ステップS14は不要である。
【0053】
第2実施形態によれば、パッカー20へモルタルMを注入した後、パッカー20内のモルタルMが固化した後においても図9における梁7Bの下端から地表面GLまでの距離(高さ寸法)hを微調整することが出来るので、補強工法を施工した建造物1が傾いてしまうことの防止、或いは、既に傾いてしまった建造物1を水平な状態に復帰させることが、高精度で実施可能である。
図9、図10の第2実施形態におけるその他の構成及び作用効果については、図1〜図8の第1実施形態と同様である。
【0054】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
【符号の説明】
【0055】
GL・・・地表面
30・・・制御装置、CU
S・・・・水平度センサ
1・・・・建造物
3・・・・床材
5・・・・基礎部材
5a、5a1、5a2、5a3、5a4・・・ベタ基礎
5b、5b1、5b2、5b3、5b4・・・柄
7、7A、7B、7C、7D・・・・梁
10・・・支持部材
12・・・第1の大引
14、141、142、143、144・・・第2の大引
16・・・地中挿入部材
20・・・鉛直方向寸法調整部材(ジャッキ)、パッカー
50・・・鉛直方向寸法微調整部材(ネジ式ジャッキ)
200・・支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の床材下方で、基礎部材と干渉させずに梁を配置する工程と、
前記建造物の敷地内に配置された支持部材により、前記梁の両端を支持する工程を含み、前記支持部材は地中に挿入して梁に作用する鉛直方向荷重を支持する地中挿入部材を有し、地中挿入部材は直線状部分と複数の螺旋状突起を備え、螺旋状突起は螺旋形の一部を構成しており、
前記支持部材が前記梁を支持している部分の地表面からの鉛直方向距離を調節して、前記梁に作用する鉛直方向荷重を前記支持部材で支持する工程を有することを特徴とする建造物補強工法。
【請求項2】
建造物の床の水平度を計測しつつ、前記支持部材の地面からの高さを変更する工程を有する請求項1の建造物補強工法。
【請求項3】
地中挿入部材と梁との間に介在する鉛直方向寸法調整部材により地表面と梁の鉛直方向間隔を調整する工程を有する請求項1、2の何れかの建造物補強工法。
【請求項4】
地中挿入部材の地上側端部に微調整部材を設け、鉛直方向寸法調整部材により地表面と梁の鉛直方向間隔を調整する前記工程の後に、微調整部材により地表面と梁の鉛直方向間隔を微調整する工程を有する請求項3の建造物補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−237107(P2012−237107A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105393(P2011−105393)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(596162463)グラウト物産株式会社 (2)
【Fターム(参考)】