説明

弁構造

【課題】弁座の弁体による閉鎖性能を向上させる。
【解決手段】弁機構10では、弁座16の表面に形成された親和性膜20が、液体に対する親和性を有しており、親和性膜20が液体を吸収することで、親和性膜20の表面に液体膜が形成される。このため、弁体24が弁座16の弁孔18を閉鎖する際には、液体膜によって弁体24と弁座16との接触面間の微小隙間を閉鎖でき、弁座16(弁孔18)の弁体24による閉鎖性能を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の通路を開閉する弁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
弁構造としては、バルブシート(弁座)をバルブ(弁体)が開閉して、バルブシートが構成する流体の通路を開閉可能にされたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このような弁構造では、バルブシートのバルブによる開閉の繰り返しによってバルブシートとバルブとの接触面(シール面)が磨耗して粗面となり、バルブシートとバルブとの接触面間で微小隙間が発生してバルブシートのバルブによる閉鎖性能(シール性能)が悪化する可能性がある。
【0004】
特に、通路を通過する流体が気体である場合には、バルブシートとバルブとの接触面が磨耗し易くバルブシートのバルブによる閉鎖性能が不安定になり易いと共に、気体は粘度が低いためバルブシートとバルブとの接触面間から漏れ易い。
【特許文献1】特開2003−269297公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、弁座の弁体による閉鎖性能を向上できる弁構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の弁構造は、流体の通路を構成する弁座と、前記弁座を開放することで前記通路を開放すると共に、前記弁座を閉鎖することで前記通路を閉鎖する弁体と、前記弁座及び弁体の少なくとも一方に設けられると共に、前記弁体が前記弁座を閉鎖する際における前記弁体と前記弁座との接触面に配置され、液体に対する親和性を有する親和性層と、を備えている。
【0007】
請求項2に記載の弁構造は、請求項1に記載の弁構造において、前記親和性層の表面を粗面にした、ことを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の弁構造は、請求項1又は請求項2に記載の弁構造において、前記親和性層を前記弁座及び弁体のうちの硬度が高い側に設けた、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の弁構造では、弁座が流体の通路を構成しており、弁体が弁座を開放することで通路を開放すると共に、弁体が弁座を閉鎖することで通路を閉鎖する。
【0010】
ここで、弁座及び弁体の少なくとも一方に設けられると共に、弁体が弁座を閉鎖する際における弁体と弁座との接触面に配置された親和性層が、液体に対する親和性を有している。このため、親和性層が液体を吸収することで、親和性層の表面に液体膜が形成される。これにより、弁体が弁座を閉鎖する際には、液体膜によって弁体と弁座との接触面間の隙間を閉鎖することができ、弁座の弁体による閉鎖性能(シール性能)を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載の弁構造では、親和性層の表面が粗面にされている。このため、親和性層が液体を吸収することで、親和性層の表面(特に凹部)に液体膜が良好に形成される。これにより、弁体が弁座を閉鎖する際には、液体膜によって弁体と弁座との接触面間の隙間を良好に閉鎖することができる。
【0012】
請求項3に記載の弁構造では、弁座及び弁体のうちの硬度が高い側に親和性層が設けられている。このため、弁座及び弁体のうちの硬度が低い側が親和性層に接触するため、親和性層の耐久性(特に耐摩耗性)を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1には、本発明の弁構造が適用されて構成された実施の形態に係る弁機構10が前方から見た断面図にて示されている。なお、図面では、弁機構10の右方を矢印RHで示し、弁機構10の上方を矢印UPで示す。
【0014】
本実施の形態に係る弁機構10は、容器状の弁箱12を備えている。弁箱12内には、通路14が左右方向へ形成されており、弁箱12内には、通路14に沿って左方(上流側)から右方(下流側)へ、流体(例えば水等の液体や水蒸気等の気体)が通過可能にされている。
【0015】
弁箱12内には、壁状の弁座16が形成されている。弁座16には、円状の弁孔18が形成されており、弁孔18は弁座16を上下方向へ貫通している。弁孔18の上部の径は、上方へ向かうに従い徐々に大きくされており、弁孔18の上部の周面は、上方へ向かうに従い径方向外方へ向かう方向へ傾斜されている。弁座16の全周は、通路14の周面の周方向全体と一体にされており、弁座16は通路14を弁孔18部分を除いて閉鎖(遮断)すると共に、弁孔18は通路14を構成している。
【0016】
図3及び図4に詳細に示す如く、弁座16の表面(特に弁孔18の全周)には、親和性層としての親和性膜20(例えば親水性膜)が形成(製膜、コーティング)されており、親和性膜20は、液体(例えば水)に対する親和性(例えば親水性)を有すると共に、肉厚が例えば1μ以上10μ以下にされてほぼ圧縮変形しなくされている。親和性膜20は、親和性の高い素材で製造された膜、膜表面の親和性を高めるように改質された膜、又は、界面活性剤でコーティングされた膜にされている。なお、親和性膜20(特に親水性膜)の素材としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ガラス製膜、セラミック、ニトロセルロース、酢酸セルロース等がある。
【0017】
親和性膜20は、液体の吸収性能(吸着性能)を有しており、親和性膜20は、液体を吸収することで、表面に安定した液体膜22(例えば水分膜)を形成可能にされている。通路14を通過する流体が気体である場合には、通路14の特に上流側から液体を親和性膜20に供給することで親和性膜20が液体を吸収することができ、また、通路14を通過する気体中に含まれる液体を親和性膜20が吸収することができる。
【0018】
弁座16の親和性膜20形成面は、粗面にされており、これにより、親和性膜20の表面が粗面にされている。このため、弁座16の親和性膜20形成面の表面粗さが調整されることで、親和性膜20の表面粗さが例えばサブミクロン(0.1μ以上1μ以下)のオーダーに調整されており、これにより、親和性膜20の表面に形成される液体膜22の膜厚を調整可能にされている。
【0019】
弁箱12内には、弁孔18の上側において、可動機構を構成する略円柱状の弁体24が設けられており、弁体24は、径が上方へ向かうに従い徐々に大きくされて、周面が上方へ向かうに従い径方向外方へ向かう方向へ傾斜されている。弁体24の硬度は、弁座16の基材(親和性膜20以外の部分)の硬度に比し小さくされている。
【0020】
弁体24の上端には、可動機構を構成する棒状の弁棒26の下端が固定されており、弁棒26は上下方向へ延伸されている。弁棒26は弁体24と一体に上下方向へ移動可能にされており、弁棒26が上方へ移動されることで弁体24が弁座16の弁孔18を開放して通路14を開放可能にされる(図1参照)と共に、弁棒26が下方へ移動されることで弁体24が弁座16の弁孔18を閉鎖して通路14を閉鎖可能にされている(図2参照)。
【0021】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0022】
以上の構成の弁機構10では、弁体24が弁座16の弁孔18を開放することで、通路14が開放されて、流体が通路14を左方から右方へ弁孔18を介して通過可能にされる。一方、弁体24が弁座16の弁孔18を閉鎖する(弁体24の全周が弁孔18の全周に押し付けられる)ことで、通路14が閉鎖されて、通路14を左方から右方へ通過する流体を弁孔18位置において弁体24が遮断可能にされている。
【0023】
ここで、弁座16の表面に形成された親和性膜20が、液体に対する親和性を有しており、親和性膜20が液体を吸収することで、親和性膜20の表面に安定した液体膜22が形成される(親和性膜20の表面が液体膜22によって濡れ拡げられる)。このため、通路14を通過する流体が気体である場合でも、弁体24が弁座16の弁孔18を閉鎖する際には、液体膜22によって弁体24と弁座16との接触面(シール面)間の微小隙間を閉鎖する(埋める)ことができ、通路14の弁孔18より上流側(左方)の流体が当該微小隙間から通路14の弁孔18より下流側(右方)へ漏れることを防止できて、弁座16(弁孔18)の弁体24による閉鎖性能(シール性能)を向上させることができる。
【0024】
さらに、弁座16の親和性膜20形成面が粗面にされて、親和性膜20の表面が粗面にされている。このため、親和性膜20の表面の特に微小凹部に液体膜22が良好に形成されることで、弁体24が弁座16の弁孔18を閉鎖する際には、液体膜22によって弁体24と弁座16との接触面間の隙間を良好に閉鎖することができる。
【0025】
また、弁体24が弁座16の弁孔18を閉鎖する際には、液体膜22が弁体24と弁座16との間の緩衝材及び潤滑材となる。このため、弁体24と弁座16(親和性膜20)との接触面の耐久性(特に耐摩耗性)を向上させることができる。
【0026】
さらに、硬度が弁体24に比し高い弁座16に親和性膜20が設けられている。このため、硬度が弁座16に比し低い弁体24が親和性膜20に接触するため、親和性膜20の耐久性(特に耐摩耗性)を向上させることができる。
【0027】
また、弁体24と弁座16との接触面に弾性変形し易いゴム等のシール材を設けた場合と異なり、親和性膜20が劣化等して塑性変形することを抑制できて弁体24と弁座16との接触面が増加することを抑制できると共に、弁座16の弁孔18を開閉するために弁体24を移動させる際の弁体24と弁孔18との隙間の管理が煩雑になることを抑制できる。これにより、通路14(弁孔18)を通過する流体の微量調量が困難になることを抑制することができる。
【0028】
なお、本実施の形態では、親和性膜20を弁座16の表面に形成した構成としたが、特に弁座16の硬度に比し弁体24の硬度が高い場合には、これと共に、又は、これに代えて、親和性膜20を弁体24の表面に形成した構成としてもよい。
【0029】
(実験例)
弁体24が弁座16の弁孔18を閉鎖する際に、弁体24と弁座16との接触面間の微小隙間から気体(流体)が完全に漏れない場合(気体が完全にシールされる場合)には、当該微小隙間の液体膜22の局所的な表面張力によって、液体膜22による当該微小隙間のシール作用が生じる。当該微小隙間は、高圧側(通路14の上流側)の気体の圧力が低圧側(通路14の下流側)の気体の圧力と液体膜22の表面張力との和と釣り合う状態で、シールされる。
【0030】
当該微小隙間の高圧側の気体の圧力と低圧側の気体の圧力との差をΔPとし、当該微小隙間の高圧側の気体の圧力をP1とし、当該微小隙間の低圧側の気体の圧力をP2とし、液体膜22成分(水)の表面張力をσとし、液体膜22成分(水)の接触角(親和性膜20の表面と液体膜22(水分膜)表面の親和性膜20表面への接触位置における接線との鋭角の最小角度)をθとし、当該微小隙間の半径(親和性膜20表面の微小凹部に接する円の半径)をRとすると、
ΔP=P1−P2=2σ×cosθ/R
となる。
【0031】
このため、図5に示す如く、親和性膜20の表面粗さが1zである場合には、ゲージ圧で0.29MPaまで加圧された気体(当該微小隙間の高圧側の気体)をシールできると共に、親和性膜20の表面粗さが0.1zである場合には、ゲージ圧で2.9MPaまで加圧された気体(当該微小隙間の高圧側の気体)をシールできる。
【0032】
一方、弁体24が弁座16の弁孔18を閉鎖する際に、弁体24と弁座16との接触面間の微小隙間から気体(流体)が微少量漏れる場合(気体が完全にはシールされない場合)には、当該微小隙間から流出する(押し出される)液体膜22成分の圧力損出が当該微小隙間から気体のみ流出する(押し出される)場合の気体の圧力損出に比し大きいために、当該微小隙間での気体のシール性が向上される。
【0033】
当該微小隙間からの気体の漏れ量をQとし、弁体24と弁座16とのシール幅(弁体24と弁座16との接触面の幅)をLとし、気体の密度をρとし、気体の粘度をμとすると、
Q=(πR×8)×{(P1−P2)/L}×(ρ/μ)
となる。
【0034】
このため、図6に示す如く、親和性膜20(親水性膜)の表面粗さが3.6zである場合には、親和性膜20の表面に液体膜22(水分膜)が形成される際(図6のS)が、親和性膜20の表面に液体膜22(水分膜)が形成されない際(図6のT)に比し、1/50の気体の漏れ量となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係る弁機構における弁体による弁座の開放状態を示す前方から見た断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る弁機構における弁体による弁座の閉鎖状態を示す前方から見た断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る弁機構における弁体と弁座との接触状態を示す前方から見た断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る弁機構における弁体と弁座との接触状態を詳細に示す前方から見た断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る弁機構において親和性膜の表面粗さが3.6z、1z、0.2z、0.1zである各場合における、弁体と弁座との接触面間の微小隙間の高圧側の気体の圧力と低圧側の気体の圧力との差(ΔP)と、当該微小隙間からの気体の漏れ量(Q)と、の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係る弁機構において表面粗さが3.6zである親和性膜の表面に液体膜が形成される場合(S)と当該親和性膜の表面に液体膜が形成されない場合(T)とにおける、弁体と弁座との接触面間の微小隙間の高圧側の気体の圧力と低圧側の気体の圧力との差(ΔP)と、当該微小隙間からの気体の漏れ量(Q)と、の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
10 弁機構(弁構造)
14 通路
16 弁座
20 親和性膜
24 弁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の通路を構成する弁座と、
前記弁座を開放することで前記通路を開放すると共に、前記弁座を閉鎖することで前記通路を閉鎖する弁体と、
前記弁座及び弁体の少なくとも一方に設けられると共に、前記弁体が前記弁座を閉鎖する際における前記弁体と前記弁座との接触面に配置され、液体に対する親和性を有する親和性層と、
を備えた弁構造。
【請求項2】
前記親和性層の表面を粗面にした、ことを特徴とする請求項1記載の弁構造。
【請求項3】
前記親和性層を前記弁座及び弁体のうちの硬度が高い側に設けた、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の弁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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