説明

弁装置及び液体噴射装置

【課題】振動又は異音の発生を防止することができる弁装置及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】プリンタに配設される圧力調整弁30は、空気流路の途中に設けられ、空気を一時貯留する空気室44と、空気室44内の空気を外部に放出する大気連通孔37を有する弁座39と、空気室44の開口を被覆し、空気室44内外の圧力差に応じて変位するダイヤフラム40と、開弁状態のダイヤフラム40と弁座39との間の隙間を拡大する付勢ばね45とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を液体噴射ヘッドからターゲットに対して吐出する液体噴射装置として、インクジェット式プリンタ(以下、単にプリンタと言う)がある。プリンタは、液体としてのインクを貯留したカートリッジから、キャリッジに搭載された液体噴射ヘッドとしての記録ヘッドにインクを供給する。そして、記録ヘッドを駆動して、ターゲットとしての紙に対してインクを吐出する。このプリンタの中には、装置の小型化、キャリッジの負荷を軽減する等の目的で、カートリッジをキャリッジ以外の場所に配置する、いわゆるオフキャリッジ式のプリンタがある。
【0003】
このタイプのプリンタは、チューブ等から構成されたインク流路を介して、カートリッジから記録ヘッドにインクを供給するインク供給機構を備えている。このインク供給機構は、流路内での圧力損失及び重力等に抗して記録ヘッドにインクを供給するために、カートリッジに貯留されたインクを加圧してインク流路内に圧送することにより、記録ヘッドまでインクを送出している。
【0004】
このようなインク供給機構として、例えば、ケース及びインクパックから構成されたカートリッジ内に空気を圧送する空気供給機構を備えたものが提案されている。空気供給機構は、加圧ポンプと、カートリッジのケース内に空気を供給する空気流路と、圧力調整装置とを備え、ケース内に充填された空気の圧力により、可撓性材質からなるインクパックを押し潰す。これにより、インクパック内に充填されたインクが、インク流路に押し出される。
【0005】
圧力調整装置は、例えば、カートリッジに供給される加圧空気が所定圧以上になったとき、圧力を開放して、カートリッジに加わる圧力を所定範囲内に調節している。このような圧力調整装置として、特許文献1には、駆動レバーとダイヤフラム弁とを備えた圧力調整弁が記載されている。ダイヤフラム弁は、断面略コの字状のゴム成形品であって、外力が付加されないときには、大気連通孔を閉塞しない形状に成形されている。そして、駆動レバーが下動すると、駆動レバーに連動する支軸が、ばね部材の付勢力によりダイヤフラム弁を大気連通孔側に押圧し、ダイヤフラム弁は、押圧力に応じて弾性変形する。これにより、大気連通孔が閉塞され、強制的に閉弁される。このとき、圧力調整弁内の空気室の圧力が過剰となると、ダイヤフラム弁は、空気圧により、ばね部材の付勢力に抗して大気連通孔側から離間する方向に撓み、空気室内の空気を外部に放出するようになっている。また、駆動レバーが上動するとき、駆動レバーは支軸を引き上げ、ダイヤフラム弁は、弾性力によりもとの形状に戻り、大気連通孔を開放する。
【特許文献1】特開2002−211002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、最近、ゴム成形品からなるダイヤフラム弁はコストが嵩むため、合成樹脂からなる薄膜状のフィルムがダイヤフラム弁として採用される傾向にある。このフィルムは、ゴム成形品からなるダイヤフラム弁のように設計・射出成形等の工程がないため安価である。
【0007】
しかし、フィルムからなるダイヤフラム弁を採用した場合、ゴム成形品からなるダイヤ
フラム弁に比べ弾性力に劣る。このため、フィルムは、空気室内の圧力が所定圧以上になったときに、空気圧により開弁する方向に変位するものの、ダイヤフラム弁と大気連通孔との間の隙間が、非常に小さくなる。従って、空気室内の空気が、微小隙間を介して大気連通孔に流入する際に、その流速が増大し、振動や異音を発生する。
【0008】
本発明の目的は、振動又は異音の発生を防止することができる弁装置及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、流体が通過する流路の途中に設けられ、流体を一時貯留する貯留室と、前記貯留室内の流体を外部に放出する連通孔を有する弁座と、前記貯留室の開口を被覆し、前記弁座に対して変位するダイヤフラムと、前記ダイヤフラムを前記弁座に当接させて前記連通孔を閉塞する閉弁手段と、開弁する際に、前記ダイヤフラムと前記弁座との間の隙間を拡大する付勢手段とを備えた。
【0010】
これによれば、弁装置が開弁するとき、付勢手段により、ダイヤフラムと弁座との間の隙間が拡大される。従って、ダイヤフラムと弁座との間に生じた隙間が大きくなるため、貯留室内の流体が、弁座の連通孔を介して外部に放出される際に、振動・異音の発生を未然に防ぐことができる。
【0011】
この弁装置において、前記ダイヤフラムは、前記貯留室内外の圧力差に応じて撓むフィルムと、前記フィルムに取り付けられ、前記弁座と当接する当接部材とを備える。
これによれば、ダイヤフラムは、フィルムと当接部材とを備えている。このため、フィルムを用いることにより、貯留室内の流体の圧力変化による応答性を向上するとともに、コストを低減することができる。また、当接部材により、弁座と当接する際のシール性を向上できる。
【0012】
この弁装置において、前記付勢手段は、筒状に形成された前記弁座の内側に配設されている。
これによれば、付勢手段は、弁座内に配設されるので、弁座外に配設されるよりも省スペース化を図ることができる。
【0013】
この弁装置において、前記閉弁手段は、前記ダイヤフラムを押圧する閉弁位置で、前記ダイヤフラムと前記弁座とを当接させて閉弁状態とする開閉部材と、前記開閉部材を前記閉弁位置に付勢する開閉用付勢手段と、前記開閉部材を、前記ダイヤフラムを押圧しない開弁位置及び前記閉弁位置の間で移動させる移動機構とをさらに備えるとともに、前記付勢手段は、前記貯留室内が前記流体の圧力により所定圧に到達した際に、前記流体の圧力及び付勢力により、前記ダイヤフラムを前記開閉用付勢手段の付勢力に抗して開弁状態とする。
【0014】
これによれば、貯留室内が所定圧に到達したとき、流体の圧力及び付勢手段の付勢力が、開閉用付勢手段の付勢力を上回り、ダイヤフラムを開弁状態にする。このため、弁装置を、流路内の圧力を調整するレギュレータとして機能させるとともに、流路を開路して、流体を供給している際に、圧力が過剰となったとき、自動的に流体を外部に放出させることができる。
【0015】
本発明は、ケース及び液体が収容された液体収容部を有する液体収容体と、前記液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、前記液体収容体の前記ケースと前記液体収容部との間に加圧流体を供給し、前記加圧流体により前記液体収容部内の前記液体を押し出す加圧ユニットとを備えた液体噴射装置において、前記加圧ユニットは、加圧ポンプと、前記加圧ポン
プから送出される加圧流体の圧力を調整する弁装置とを少なくとも備えるとともに、前記弁装置は、流体が通過する流路の途中に設けられ、流体を一時貯留する貯留室と、前記貯留室内の流体を外部に放出する連通孔を有する弁座と、前記貯留室の開口を被覆し、前記弁座に対して変位するダイヤフラムと、前記ダイヤフラムを前記弁座に当接させて前記連通孔を閉塞する閉弁手段と、開弁する際に、前記ダイヤフラムと前記弁座との間の隙間を拡大する付勢手段とを備える。
【0016】
これによれば、弁装置が開弁するとき、付勢手段により、ダイヤフラムと弁座との間の隙間が拡大される。従って、ダイヤフラムと弁座との間に生じた隙間が大きくなるため、貯留室内の流体が、弁座の連通孔を介して外部に放出される際に、振動・異音の発生を未然に防ぐことができる。このため、液体収容体に液体を供給する際に、振動・異音の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
図1は、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンタ(以下、プリンタと言う)の概略構成を示す平面図である。図1に示すように、プリンタ1は、フレーム2を備え、フレーム2には、プラテン3が架設されている。プラテン3上には、図示しない紙送りモータを有する紙送り機構により紙が給送される。また、フレーム2にはプラテン3の長手方向と平行に、棒状のガイド部材4が架設されている。ガイド部材4には、キャリッジ5がガイド部材4の軸線方向に往復移動可能に挿通支持されている。また、キャリッジ5は、各プーリ6a,6bに張設されたタイミングベルト6を介してキャリッジモータ7に駆動連結されている。このため、キャリッジ5は、キャリッジモータ7の駆動により、ガイド部材4に沿って往復移動するようになっている。
【0018】
キャリッジ5のプラテン3に対向する面には、液体噴射ヘッドとしてのとしての記録ヘッド10が搭載されている。そして、キャリッジ5上には記録ヘッド10に流体及び液体としてのインクを供給する4個のバルブユニット11が搭載されている。各バルブユニット11は、プリンタ1に使用されるインクの色(種類)に対応して、本実施形態では4個具備されている。尚、記録ヘッド10の下面には図示しないノズルが設けられており、このノズルの吐出口からプラテン3上を搬送する紙上にインク滴が吐出されるようになっている。
【0019】
フレーム2の右端にはカートリッジホルダ12が設けられている。このカートリッジホルダ12には、液体収容体としてのカートリッジ13が4個着脱可能に備えられている。これらのカートリッジ13は、図2に示すように、内部が気密状態となっているケース14と、その内側に設けられた液体収容部としてのインクパック15とによって構成されている。各インクパック15は、袋状に形成された可撓性フィルムと、合成樹脂からなるインク供給口15aとからなり、その内部には、各種インクがそれぞれ充填されている。ケース14とインクパック15との間には、内部空間17が設けられている。
【0020】
図1に示すように、各インクパック15のインク供給口15aと、キャリッジ5上の各バルブユニット11とは、液体流路としてのインク供給路16を介してそれぞれ接続されている。各インク供給路16は、可撓性材質からなるチューブや、硬質樹脂材を切削して形成された流路等から構成される。
【0021】
フレーム2内の端部には、加圧ユニット20が搭載されている。加圧ユニット20は、供給流路としての空気供給路21を介して流体としての空気をカートリッジ13に圧送する装置である。空気供給路21は、加圧ユニット20の下流側の分配器26を境目として複数本(本実施形態では4本)に分岐し、各カートリッジ13にそれぞれ接続している。
【0022】
また、各カートリッジ13のケース14とインクパック15との間には、内部空間17が設けられている。また、各ケース14には、この内部空間17に連通する図示しない空気連通孔がそれぞれ形成され、各空気連通孔には、分岐した各空気供給路21(図1参照)が接続されている。従って、加圧ユニット20から圧送された流体としての空気は、空気供給路21を介して、カートリッジ13内の内部空間17にそれぞれ導入される。そして、内部空間17に空気が高圧状態で充填されると、空気圧によってインクパック15が押し潰される。これにより、インクパック15内のインクがインク供給路16に押し出され、バルブユニット11に供給される。
【0023】
次に、加圧ユニット20について、図3に従って説明する。加圧ユニット20は、図3に示すように、駆動モータ22、加圧ポンプ23、圧力センサ24及び弁装置としての圧力調整弁30を備えている。駆動モータ22は、例えばステッピングモータであって、その駆動軸が加圧ポンプ23に連結されている。加圧ポンプ23は、駆動モータ22が正回転すると、加圧流体としての加圧空気をカートリッジ13側に圧送し、駆動モータ22が逆転すると、カートリッジ13に圧送しない状態になる。
【0024】
また、駆動モータ22には、各歯車等を有する伝達機構25が連結され、駆動モータ22の回転力を、圧力調整弁30に伝達する。圧力調整弁30は、伝達機構25を介して伝達された回転力により、加圧ポンプ23からカートリッジ13に至る空気流路の一部を開閉する。また、圧力調整弁30には、圧力センサ24が隣設されている。圧力センサ24は、加圧ポンプ23が圧送する空気の圧力状態を検出し、検出結果を外部装置に出力する。そして、加圧空気が所定圧以下になったとき、外部装置を介して、駆動モータ22を制御して加圧ポンプ23を駆動させる。
【0025】
まず、駆動モータ22が正転すると、加圧ポンプ23が正転し、加圧空気が圧力センサ24を介して、圧力調整弁30に圧送される。圧力調整弁30は、カートリッジ13のインクを記録ヘッド10に供給する際には、閉弁して、加圧空気をカートリッジ13側に圧送する。プリンタ1の主電源がオフされた際には、空気流路を大気開放して、インクパック15に加えられる空気圧を解除することにより、記録ヘッド10からのインクの漏出を防止する。また、カートリッジ13に供給される加圧空気が所定の圧力以上になると、自動的に空気流路を大気開放して加圧空気を放出し、カートリッジ13内の空気圧が所定圧範囲内になるように調整している。
【0026】
次に、この圧力調整弁30の構成について、図4〜図7に従って詳述する。図4は、圧力調整弁30の斜視図、図5〜図7は圧力調整弁30の断面図又は要部断面図である。図4に示すように、圧力調整弁30は、加圧ポンプ23、圧力センサ24とともに一体に取り付けられる略板状の第1カバー31と、第1カバー31の上から取り付けられる第2カバー32とを備えている。第1カバー31及び第2カバー32は、ポリプロピレン等の合成樹脂から形成されている。
【0027】
図5に示すように、第1カバー31の圧力調整弁30の形成位置には、有底筒状の第1外郭部33が張り出し形成されている。また、第1カバー31には、第1外郭部33の内側に連通する、流路を構成する空気導入孔34及び空気導出孔35が貫通形成されている。これらの空気導入孔34及び空気導出孔35は、加圧ポンプ23からカートリッジ13に至る空気流路を構成しており、空気導入孔34は、加圧ポンプ23側の空気流路と連通されている。また、空気導出孔35は、カートリッジ13側の空気流路と連通されている。
【0028】
さらに、第1外郭部33の内側底面には、略円筒状の連通部36が突出形成されている
。この連通部36の内側には、連通孔としての大気連通孔37が貫通形成されている。大気連通孔37は、第1外郭部33の内側と、第1外郭部33(第1カバー31)外部(大気)とを連通している。また、連通部36の周囲には、筒状のシール部材38が、連通部36を取り囲むように配設されている。シール部材38は、ゴム又は合成樹脂からなり、その高さ(図中x矢印方向の長さ)が、連通部36よりも大きく形成されている。また、シール部材38の基端は平面状に形成され、先端は、丸い先細り形状に形成されている。これらの連通部36及びシール部材38は、ダイヤフラム40が当接する弁座39を構成する。
【0029】
第1外郭部33の開口33aには、ダイヤフラム40が、図中x矢印方向及び反x矢印方向に変位可能に張られている。このダイヤフラム40は、フィルム41と、フィルム41よりも厚く形成された当接部材としての受圧板42とを備えている。フィルム41は、第1カバー31と溶着可能なポリエチレン等の合成樹脂から形成されている。そして、その周縁が、第1カバー31の上面31aに溶着されることにより、フィルム41と第1外郭部33の内側面とにより、貯留室としての空気室44が構成される。
【0030】
受圧板42は、板状のゴム又は合成樹脂からなり、大気連通孔37の入口及びシール部材38の入口を閉塞可能な大きさの円盤状に形成されている。この受圧板42は、フィルム41の略中央に貼着又は溶着されている。これらのフィルム41及び受圧板42からなるダイヤフラム40は、外力が加えられることにより、受圧板42とシール部材38とが当接し、大気連通孔37を閉塞する(閉弁状態)。また、フィルム41が、空気室44内の圧力に応じて、弁座39から離間する方向(x矢印方向)に変位すると、大気連通孔37を開放する(開弁状態)。尚、ダイヤフラム40の開弁状態とは、受圧板42が、シール部材38から完全に離間した状態だけでなく、受圧板42とシール部材38との間に隙間が形成された状態も含む。即ち、一部がシール部材38から離れ、一部がシール部材38と当接した状態も開弁状態である。
【0031】
また、連通部36の大気連通孔37内には、コイルばねからなる、付勢手段としての付勢ばね45が配設されている。付勢ばね45は、開弁状態の際に、受圧板42を、受圧板42とシール部材38との間の隙間を拡大するように付勢する。これにより、ダイヤフラム40が大気連通孔37から離間する動作の際、シール部材38(大気連通孔37の入口)と受圧板42との間に生じた隙間が、拡開される。
【0032】
一方、図4及び図5に示すように、第2カバー32は、板状の取付部46と、有蓋円筒状の第2外郭部47とを備えている。第2外郭部47の蓋部47aには、貫挿孔48が貫通形成されている。貫挿孔48には、閉弁手段としての開閉部材50が貫挿されている。開閉部材50は、板状に形成された係合部50aと、係合部50aから下方に延出形成され、第2外郭部47に貫挿される貫挿部50bとを備えている。貫挿部50bの下端には、球面状の当接部50cが形成されている。また、当接部50c近傍には、貫挿部50bの周方向に環状突部50dが形成されている。
【0033】
また、開閉部材50の環状突部50dには、環状のばね受け部51が嵌合されている。ばね受け部51の下側外周部には、環状の段差部51aが張り出し形成されている。そして、このばね受け部51の段差部51aと第2外郭部47の蓋部47aとの間には、開閉用付勢手段としてのコイルばね52が介在している。コイルばね52は、ばね受け部51及び開閉部材50をダイヤフラム40側に押圧する方向に付勢力を付与している。
【0034】
また、開閉部材50の係合部50aの下面50eには、開閉機構としてのカム機構55を構成する係合片60が当接している。図4に示すように、カム機構55は、第2外郭部47の蓋部47aから延出形成された一対の支持部57を備えている。
【0035】
支持部57には、回転軸59が回転可能に支持され、その回転軸59の一端には、駆動レバー58が連結されている。駆動レバー58は、上記した伝達機構25の駆動に従動して、所定の角度のみ回転するように構成されている。従って、回転軸59は、駆動レバー58の回転に従って回転する。
【0036】
図5に示すように、回転軸59には、上記した係合片60が支持されている。係合片60は、変形多角形に形成され、少なくとも第1〜第5の辺60a〜60eを有している。そして、回転中心となる回転軸59から、第1〜第5の辺60a〜60eまでの距離が互いに異なるようになっており、例えば第2の辺60bは、回転軸59からの距離が最も大きくなっている。また、第3の辺60cは、回転軸59からの距離が比較的小さくなっている。
【0037】
例えば、図5に示すように、係合片60の第2の辺60bが、開閉部材50の係合部50aの下面50eに当接した状態では、係合片60は、コイルばね52の付勢力に抗して、開閉部材50をx矢印方向に押し上げている。このとき、開閉部材50の当接部50cが、ダイヤフラム40から離間した状態になる。この状態では、ダイヤフラム40の受圧板42は、大気連通孔37内に配設された付勢ばね45の付勢力により、弁座39から離間する方向(x矢印方向)に押し上げられる。その結果、受圧板42とシール部材38との間に隙間が発生する。このため、空気室44内が大気開放されることにより、加圧ポンプ23からカートリッジ13に至る空気流路が大気開放される。
【0038】
また、駆動レバー58の回転に従動して、回転軸59が、図5中R1方向(反時計回り方向)に回転すると、係合片60の第2の辺60bが係合部50aに当接した状態から、図6に示すように、第3の辺60cが係合部50aに当接した状態に移行する。このとき、回転軸59(回転中心)から、係合部50aに当接した辺(第3の辺60c)までの距離が短くなるため、開閉部材50は、コイルばね52の付勢力により、反x矢印方向に押し下げられる。尚、コイルばね52の付勢力は、付勢ばね45の付勢力よりも大きくなるように設定されている。
【0039】
コイルばね52の付勢力により、反x矢印方向に押し下げられた開閉部材50は、その当接部50cにより、ダイヤフラム40をシール部材38に対して押圧する。これにより、受圧板42がシール部材38の先端が押し潰され、大気連通孔37が閉塞された閉弁状態となる。このため、加圧ポンプ23からカートリッジ13に至る空気流路は、大気開放されず密閉状態となり、加圧ポンプ23からの加圧空気が、カートリッジ13内の内部空間17に圧送される。
【0040】
次に、加圧ユニット20の作用について説明する。プリンタ1の主電源がオフされているとき、圧力調整弁30は、図5に示す開弁状態になっている。つまり、電源オフのときに圧力調整弁30を閉弁にしておくと、カートリッジ13内の充填空気によりインクパック15が加圧され、インクが、カートリッジ13に形成されたインク供給口(図示略)又は記録ヘッド10から漏出する可能性がある。また、カートリッジ13内の加圧空気が、カートリッジ13をカートリッジホルダ12に対して押し付け、カートリッジ13をカートリッジホルダ12から取り出すことが困難になる問題もある。このため、プリンタ1の主電源がオフされたときには、遅延回路等を用いて電源回路に電源が供給された状態を所定時間維持し、その間に駆動モータ22を逆転させる。駆動モータ22の逆転により、伝達機構25を介して、圧力調整弁30は開弁状態となる。
【0041】
プリンタ1の主電源がオン状態になり、印刷動作が開始されると、まず駆動モータ22が正転する。駆動モータ22の回転力は、伝達機構25を介してカム機構55に伝達され
、カム機構55の駆動レバー58を正方向に回転させる。駆動レバー58が正方向に回転すると、回転軸59がR1方向(図5中反時計回り方向)に回転する。これにより、係合片60のうち、回転中心からの距離が長い第2の辺60bから、図6に示すように、回転中心からの比較的距離が短い第3の辺60cが係合部50aの下面に係合した状態になる。その結果、開閉部材50は、係合片60に押し上げられた状態から、コイルばね52の付勢力により、ダイヤフラム40に接近する方向(反x矢印方向)に下降した状態となる。これに伴って、図6に示すように、開閉部材50の当接部50cは、ダイヤフラム40をシール部材38に向かって押圧する。これにより、図7に示すように受圧板42は、大気連通孔37内の付勢ばね45の付勢力に抗してシール部材38に圧接され、大気連通孔37を閉塞する。その結果、圧力調整弁30は閉弁状態となる。
【0042】
また、駆動レバー58は、例えば伝達機構に設けた規制部材等により、上記したように所定の角度のみ回転するようになっているため、駆動モータ22がさらに正方向に回転しても、圧力調整弁30には回転力が伝達されない状態になる。
【0043】
さらに駆動モータ22が正方向に回転すると、加圧ポンプ23がカートリッジ13側に向かって加圧空気を圧送する。加圧ポンプ23からの空気は、空気流路を介して、まず、圧力センサ24に送出される。圧力センサ24は、加圧ポンプ23とカートリッジ13との間で、空気圧を検出し、その時の圧力状態が予め定めた上限圧P1を上回った場合には、プリンタ1が備える図示しない制御回路に、上限圧P1の検出信号を出力する。
【0044】
また、圧力センサ24からの加圧空気は、圧力調整弁30の空気導入孔34から、空気室44に流入する。空気室44内の空気圧が所定圧以下である場合、空気室44の空気は空気導出孔35から送出され、空気流路を介してカートリッジ13に送出される。カートリッジ13の内部空間17に充填された加圧空気は、インクパック15を押し潰し、インクパック15内のインクは、インク供給路16に押し出される。インク供給路16に供給されたインクは、記録ヘッド10に供給され、図示しない圧電素子等の駆動により、紙に向かって吐出される。
【0045】
このように加圧ポンプ23から加圧空気が供給されているときや、加圧ポンプ23が停止しているとき、上記した制御回路は、圧力センサ24により検出された圧力状態に基づき、カートリッジ13に供給される空気の空気圧が、プリンタ1の状態に応じて適切な範囲になるように加圧ユニット20を制御する。
【0046】
具体的には、圧力センサ24が、上限圧P1を上回る圧力状態を検出すると、駆動モータ22の回転を停止して、加圧ポンプ23を停止し、その状態から、さらにカートリッジ13内に圧力が加えられないようにする。このとき、圧力調整弁30は、閉弁状態に保持されている。また、例えば加圧ポンプ23が停止しているとき、圧力センサ24bが下限圧P2を下回る圧力状態を検出すると、制御回路は、駆動モータ22を正転させて、加圧ポンプ23から加圧空気を圧送する。
【0047】
一方、圧力調整弁30は、加圧ポンプ23から加圧空気が供給されている間、圧力センサ24や制御回路が故障又は誤検出した場合にも、加圧ポンプ23からカートリッジ13に至る空気流路が過剰圧力とならないように、大気開放弁として機能する。上記したように、フィルム41は、弁座39に対して離間する方向(x矢印方向)及び接近する方向(反x矢印方向)に変位可能に設けられている。このため、圧力調整弁30の空気室44内の圧力が所定圧としての閾値Paを超えると、空気室44側からの加圧空気による押圧力
と、大気連通孔37内の付勢ばね45の付勢力との総和が、コイルばね52が付与する付勢力を上回る。その結果、図8に示すように、フィルム41がx矢印方向に変位して、受圧板42とシール部材38との間に、付勢ばね45によって拡大された隙間Sが生じる(
大気開放状態)。尚、付勢ばね45の付勢力や長さは、このときの受圧板42とシール部材38との間の隙間Sが、振動や異音が発生しない程度の大きさになるように設定されている。これにより、空気室44内の空気は、受圧板42とシール部材38との間に形成された隙間Sを通過する際に、フィルム41や受圧板42を振動させたり、乱流の発生等による異音を発生することなく、大気連通孔37に流入し、空気室44及び空気流路内の圧力は、大気圧まで低下する。このため、カートリッジ13や空気供給路21等の破損を未然に防ぐことができる。
【0048】
そして、圧力調整弁30が閉弁状態であるとき、プリンタ1が印刷を終了し、電源がオフされると、遅延回路等を用いて電源が投入されている状態を維持し、駆動モータ22が逆転する。これにより、上記したように、カム機構55の駆動レバー58が逆回転し、係合片60が、図5に示すように第2の辺60bに当接した状態になる。これにより、開閉部材50が、シール部材38と離間する方向に押し上げられ、ダイヤフラム40は付勢ばね45の付勢力により、開弁状態になる。
【0049】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、圧力調整弁30は、フィルム41及び受圧板42からなるダイヤフラム40と、第1外郭部33及びダイヤフラム40から区画形成される空気室44とを備えるようにした。また、連通部36の大気連通孔37内に付勢ばね45を備えるようにした。そして、付勢ばね45の付勢力を、開弁する際の受圧板42とシール部材38との間の隙間Sが、大気連通孔37に流入する空気流動による振動又は異音が発生しない大きさになるようにした。従って、フィルム41をダイヤフラム40に用いた場合でも、開弁状態の際に、空気流動による振動又は異音の発生を防止することができる。また、ダイヤフラム40を、フィルム41により構成したため、ゴム成形品を用いる場合に比べコストを低減することができる。
【0050】
(2)上記実施形態では、付勢ばね45を、大気連通孔37内に収容した。このため、連通部36の周囲等に配設する場合等よりも省スペース化を図ることができる。
(3)上記実施形態では、圧力調整弁30は、ダイヤフラム40を、シール部材38と当接する位置まで強制的に変位させる開閉部材50と、開閉部材50を駆動するカム機構55とを備えるようにした。このため、圧力調整弁30を、空気流路内の圧力を調整するレギュレータとしても機能させることができる。
【0051】
(4)上記実施形態では、加圧ポンプ23の駆動源と、圧力調整弁30を強制的に開閉する駆動源とを兼ねる駆動モータ22を備えるようにした。このため、加圧空気を発生させるためにポンプを複数設けることなく、加圧ポンプ23の駆動源を有効利用することができる。
【0052】
(5)上記実施形態では、圧力調整弁30をプリンタ1に搭載した。このため、静音化の要望があるプリンタ1の振動・異音を防止できるので、特に効果を発揮することができる。
【0053】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、加圧ユニット20に、圧力値を検出する圧力検出装置をさらに備えてもよい。そして、制御回路は、圧力検出装置から出力された圧力値が、許容空気圧を超えた場合、カートリッジ13や空気供給路21又はその他の部品の破損等を防止するために、駆動モータ22を逆転させ、圧力調整弁30を開弁状態にするようにしてもよい。この場合、制御回路は、駆動モータ22を逆転する。駆動モータ22が逆転すると、伝達機構25を介して、駆動レバー58が逆方向に回転する。これにより、回転軸59は、図6中R2方向(図6中時計回り方向)に回転し、第3の辺60cから、図5に示すように
第2の辺60bが係合部50aに当接した状態になる。このとき、係合片60は、コイルばね52の付勢力に抗して開閉部材50を押し上げる。その結果、開閉部材50はシール部材38から離間する方向に上昇し、ダイヤフラム40はシール部材38に当接しない状態になる。従って、圧力調整弁30を有効利用して、空気流路内の圧力をより細かく制御することができる。
【0054】
・加圧ユニット20の駆動モータ22、加圧ポンプ23、圧力センサ24、圧力調整弁30は、第1カバー31及び第2カバー32に一体によって取り付けられているとしたが、別設されていてもよい。
【0055】
・係合片60は、4角形、6角形等、上記した形状以外でもよい。
・上記実施形態では、連通部36の周囲に、筒状のシール部材38を設けるようにしたが、シール部材38を省略するようにしてもよい。
【0056】
・上記実施形態では、付勢ばね45を大気連通孔37内に設けるようにしたが、第1外郭部33の底面とフィルム41との間や、連通部36の外側等、その他の位置に配置するようにしてもよい。
【0057】
・上記実施形態では、開閉状態の受圧板42とシール部材38との間の隙間Sを拡大する付勢ばね45を、コイルばねとしたが、引っ張りばね等のその他のバネでもよい。また、バネ以外にも、大気連通孔37内に配設されたゴム部材等、その他の弾性部材でもよい。
【0058】
・上記実施形態では、コイルばね52を、開閉部材50を開弁位置に付勢するように設けても良い。例えば、第2外郭部47と、開閉部材50の係合部50aとの間に、コイルばね52を介在させてもよい。また、カム機構55は、このコイルばね52の付勢力に抗して、開閉部材50を閉弁位置に移動させる機構であればよく、カム以外の機構を有してもよい。
【0059】
・上記実施形態では、ダイヤフラム40を開閉する開閉部材50は、ソレノイドの通電・非通電によって駆動する、プランジャとしてもよい。この場合、カム機構55が省略され、開弁動作・閉弁動作の制御が容易となる。
【0060】
・上記実施形態では、加圧ポンプ23からカートリッジ13に送出される流体として空気を用いたが、液体でも良い。
・プリンタ1は、熱転写式等、インクジェット方式以外のプリンタにしてもよい。
【0061】
・圧力調整弁30は、プリンタ1又は液体噴射装置以外の装置に搭載されてもよい。
・液体噴射装置は、プリンタ1に限定されない。例えば、液体噴射装置は、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタ製造装置、有機ELディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極形成装置、バイオチップ製造用の生体有機物を噴射する噴射装置、精密ピペット用の製造装置等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施形態のプリンタの平面図。
【図2】カートリッジの要部断面図。
【図3】加圧ユニットの斜視図。
【図4】圧力調整弁の斜視図。
【図5】開弁状態の圧力調整弁の断面図。
【図6】閉弁状態の圧力調整弁の断面図。
【図7】閉弁状態の圧力調整弁の要部断面図。
【図8】大気開放状態の圧力調整弁の要部断面図。
【符号の説明】
【0063】
1…液体噴射装置としてのプリンタ、10…液体吐出ヘッドとしての記録ヘッド、13…液体収容体としてのカートリッジ、14…ケース、15…液体収容部としてのインクパック、20…加圧ユニット、23…加圧ポンプ、30…弁装置としての圧力調整弁、33a…開口、34…流路を構成する大気導入孔、35…流路を構成する大気導出孔、36…弁座を構成する連通部、37…連通孔としての大気連通孔、38…弁座を構成するシール部材、39…弁座、40…ダイヤフラム、41…フィルム、42…当接部材としての受圧板、44…貯留室としての空気室、45…付勢手段としての付勢ばね、50…閉弁手段としての開閉部材、52…開閉用付勢手段としてのコイルばね、55…開閉機構としてのカム機構、56…移動機構としてのカム部材、Pa…所定圧としての閾値、S…隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が通過する流路の途中に設けられ、流体を一時貯留する貯留室と、
前記貯留室内の流体を外部に放出する連通孔を有する弁座と、
前記貯留室の開口を被覆し、前記弁座に対して変位するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムを前記弁座に当接させて前記連通孔を閉塞する閉弁手段と、
開弁する際に、前記ダイヤフラムと前記弁座との間の隙間を拡大する付勢手段と
を備えたことを特徴とする弁装置。
【請求項2】
請求項1に記載の弁装置において、
前記ダイヤフラムは、前記貯留室内外の圧力差に応じて撓むフィルムと、前記フィルムに取り付けられ、前記弁座と当接する当接部材とを備えることを特徴とする弁装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の弁装置において、
前記付勢手段は、筒状に形成された前記弁座の内側に配設されていることを特徴とする弁装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の弁装置において、
前記閉弁手段は、
前記ダイヤフラムを押圧する閉弁位置で、前記ダイヤフラムと前記弁座とを当接させて閉弁状態とする開閉部材と、
前記開閉部材を前記閉弁位置に付勢する開閉用付勢手段と、
前記開閉部材を、前記ダイヤフラムを押圧しない開弁位置及び前記閉弁位置の間で移動させる移動機構とをさらに備えるとともに、
前記付勢手段は、前記貯留室内が前記流体の圧力により所定圧に到達した際に、前記流体の圧力及び付勢力により、前記ダイヤフラムを前記開閉用付勢手段の付勢力に抗して開弁状態とすることを特徴とする弁装置。
【請求項5】
ケース及び液体が収容された液体収容部を有する液体収容体と、
前記液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
前記液体収容体の前記ケースと前記液体収容部との間に加圧流体を供給し、前記加圧流体により前記液体収容部内の前記液体を押し出す加圧ユニットとを備えた液体噴射装置において、
前記加圧ユニットは、
加圧ポンプと、
前記加圧ポンプから送出される加圧流体の圧力を調整する弁装置とを少なくとも備えるとともに、
前記弁装置は、
流体が通過する流路の途中に設けられ、流体を一時貯留する貯留室と、
前記貯留室内の流体を外部に放出する連通孔を有する弁座と、
前記貯留室の開口を被覆し、前記弁座に対して変位するダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムを前記弁座に当接させて前記連通孔を閉塞する閉弁手段と、
開弁する際に、前記ダイヤフラムと前記弁座との間の隙間を拡大する付勢手段とを備えることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−210299(P2007−210299A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35414(P2006−35414)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】