説明

引け巣発生方法及び引け巣観察方法

【課題】引け巣を鋳造金型内の所望位置に容易に発生させ、該引け巣の挙動を観察することのできる引け巣発生方法及び引け巣観察方法を提供する。
【解決手段】本引け巣発生方法及び引け巣観察方法によれば、鋳造金型2内に予め引け巣の発生源3を配置することにより、溶湯の流入後に引け巣を容易に発生させて、その後引け巣の挙動を観察することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造金型内に人工的に引け巣を発生させ、該引け巣の発生から圧潰に至るまでの挙動を観察するための引け巣発生方法及び引け巣観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1には、エックス線を照射するエックス線照射手段と、金属材料からなり、エックス線照射手段により照射されたエックス線が透過可能な所定の肉厚を有する試験用の鋳型と、照射されたエックス線の強度を可視光の強度に変換して透過画像を結像する撮像管と、透過画像を撮像する撮像手段と、試験用の鋳型の内部に溶湯を供給する溶湯供給手段と、試験用の鋳型の温度を調整する鋳型温度調整手段とを具備した溶湯挙動可視化装置により鋳型における鋳造中の溶湯の挙動を精度良く把握することが開示されている。
【特許文献1】特開2006−162568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の発明では、溶湯の挙動を把握することが可能であるが、引け巣を人工的に発生させ、該引け巣の挙動を観察するまでには至っていない。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、引け巣を鋳造金型内の所望位置に容易に発生させ、該引け巣の挙動を観察することのできる引け巣発生方法及び引け巣観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の引け巣発生方法は、鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させることを特徴としている。これにより、引け巣を鋳造金型内の所望位置に確実に発生させることができる。
一方、本発明の引け巣観察方法は、鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させた後、該引け巣の挙動を観察することを特徴としている。また、本発明の引け巣観察方法は、鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させ、溶湯の充填を完了した後、所定時間間隔をおいた後鋳造圧を上昇させ、引け巣の発生からの挙動を観察することを特徴としている。これにより、引け巣の発生から圧潰するまでの挙動を観察することができる。
なお、本発明の引け巣発生方法及び引け巣観察方法の各種態様およびそれらの作用については、以下の発明の態様の項において詳しく説明する。
【0006】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。なお、各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付して、必要に応じて他の項を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施の形態等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要件を付加した態様も、また、各項の態様から構成要件を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項〜(4)項の各々が、請求項1乃至4の各々に相当する。
【0007】
(1)鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させることを特徴とする引け巣発生方法。
(2)前記引け巣の発生源は、空隙率50%以上の発砲スチロールであることを特徴とする(1)項に記載の引け巣発生方法。
(1)項及び(2)項の引け巣発生方法では、引け巣を鋳造金型内の所望位置に確実にまた容易に発生させることができる。
【0008】
(3)鋳造金型内に発生する引け巣の挙動を観察する引け巣観察方法であって、鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させた後、該引け巣の挙動を観察することを特徴とする引け巣観察方法。
(3)項の引け巣観察方法では、人工的に発生させた引け巣の挙動を容易に観察することが可能になる。
【0009】
(4)鋳造金型内に発生する引け巣の挙動を観察する引け巣観察方法であって、鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させ、溶湯の充填を完了した後、所定時間間隔をおいた後鋳造圧を上昇させ、引け巣の発生からの挙動を観察することを特徴とする引け巣観察方法。
(5)溶湯充填完了時点から鋳造圧を増加させるまでの間隔は、発生した引け巣がX線により可視化できる大きさに成長する時間よりは長く、鋳造金型内の溶湯が完全に凝固完了するまでの時間よりは短い時間に設定されることを特徴とする(4)項に記載の引け巣観察方法。
(4)項及び(5)項の引け巣観察方法では、引け巣の発生・成長から鋳造圧の増加による圧潰までの挙動を観察することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、引け巣を鋳造金型内の所望位置に容易に発生させ、該引け巣の挙動を観察することのできる引け巣発生方法及び引け巣観察方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1及び図2に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る引け巣発生方法及び引け巣観察方法を具現化する引け巣観察装置1は、図1及び図2に示すように、試験用の鋳造金型2と、鋳造金型2内のキャビティ7の所定位置に固定される引け巣の発生源3と、X線を照射して鋳造金型2内に発生した引け巣の挙動を観察する挙動観察装置4とを備えている。
【0012】
試験用の鋳造金型2は、固定型5と、該固定型5に対して進退移動する可動型6とから構成され、固定型5と可動型6との間にキャビティ7が形成される。固定型5の端部には、プランジャースリーブ8が連結され、該プランジャースリーブ8内には、摺動自在に進退運動するプランジャーチップ9が挿入されている。
【0013】
また、固定型5及び可動型6には、キャビティ7を臨む位置に、X線透過に優れたX線透過材11がそれぞれ配設されている。X線透過材11は、所定厚の略矩形状に形成されている。固定型5及び可動型6は、X線透過材11が配置される部位を除いて鉄鋼材料のSKD材で形成されている。なお、X線透過材11は、X線透過に優れ、耐圧性及び耐熱性の観点からC/Cコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材)が最も好ましく、その他、CFRP(炭素繊維/樹脂複合材)、FMC(炭素繊維/アルミ複合材)、エンジニアリングプラスチック(高機能樹脂)等も採用することができる。
【0014】
さらに鋳造金型2を詳しく説明すると、固定型5及び可動型6のキャビティ7を臨む内壁面には、X線透過材11の形状に対応した凹部12がそれぞれ形成される。また、固定型5及び可動型6には、その外壁面から凹部12の底面に向かって貫通される観察孔13がそれぞれ複数形成される。この観察孔13の大きさ及び数量は、鋳造圧の付加によりX線透過材11に作用するせん断応力の大きさにより適宜決定される。そして、X線透過材11が、固定型5及び可動型6に設けた凹部12にそれぞれ接着剤により固着されて、各X線透過材11間がキャビティ7となる。
【0015】
鋳造金型2内のキャビティ7の所定位置に引け巣の発生源3が配置され、該発生源3は各X線透過材11のいずれか一方または両方のX線透過材11に接着剤により固定される。該引け巣の発生源3は、型温(150〜200℃)では消失せずに、アルミ溶湯(600〜650℃)との接触でガス化し、自身の大部分の体積を消失するようなものであり、本実施の形態では、空隙率50%以上の発砲スチロールが採用されている。
【0016】
挙動観察装置4は、X線をパルス状に鋳造金型2に向かって照射するX線照射装置15と、鋳造金型2を透過したX線の強度を可視光の強度に変換して透過画像を結像するX線感受部16と、該X線感受部16で結像した透過画像を高速で撮像して可視化画像(連続した静止画)を提供するハイスピードカメラ18と、該ハイスピードカメラ18により提供された可視化画像に基いて引け巣の大きさを定量的に演算する定量化演算部17とからなる。
【0017】
X線照射装置15は、タングステン等からなるターゲットを具備するX線管に、パルス状の直流電流を供給して、X線をパルス状に照射するものである。
【0018】
X線感受部16は、X線の強度を可視光の強度に変換して透過画像を結像するものであり、詳細な図示は省略するが、入口側(図1で右側)から出口側(図1で左側)に拡径された筒状の胴体と、該胴体の入口側に設けられ、イメージインテンシファイアと呼ばれる蛍光体が表面に塗布されたレンズと、胴体の入口側に設けられた二次蛍光面とを具備している。そして、鋳造金型2を透過したX線がX線感受部16のレンズに塗布された蛍光体に照射されると、該蛍光体はX線の強度に応じて電子を放出し、当該電子が二次蛍光面に衝突して二次蛍光面が可視光を発することにより透過画像が結像される。
【0019】
定量化演算部17には、鋳物と材質が同一で厚さの異なる複数の板材(例えば厚さt=4〜8mmの1mm間隔で5種類)にX線をそれぞれ照射して、各板材における多数の画素(x,y)の輝度値を計測することで算出される各板材における輝度値の平均値及び各板材における分散共分散の逆行列が入力されている。
また、定量化演算部17では、予め入力された各板材における輝度値の平均値及び各板材における分散共分散の逆行列と、ハイスピードカメラ18により提供された可視化画像とから引け巣の大きさ(体積)を定量化するものである。その演算方法は後で詳述する。
【0020】
ハイスピードカメラ18は、X線感受部16が結像した透過画像を撮像するもので、X線照射装置15から照射されるパルス状のX線に同期して開閉するシャッター(図示略)、すなわち、X線照射装置15がX線を照射しているときに開き、X線を照射していないときに閉じるシャッターを具備し、X線感受部16で結像した透過画像を撮像して、連続した静止画からなる可視化画像を提供するものである。
【0021】
次に、上述した構成からなる引け巣観察装置1を使用して、鋳造金型2内の所望位置に人工的に引け巣を発生させ、該引け巣の成長及び圧潰に至るまでの挙動を観察する方法を説明する。
まず、上述したように、試験用の鋳造金型2内のキャビティ7の所定位置に引け巣の発生源3を接着剤により固定する。
次に、試験用の鋳造金型2(この時の金型温度:150℃)を閉めて、プランジャーチップ9を前進させ、キャビティ7内に溶湯(この時の溶湯温度:730℃)を充填完了まで射出する。すると、キャビティ7内に固定した引け巣の発生源3は、溶湯との接触によりガス化してガス巣が生成され、該ガス巣を基点として引け巣が発生し、時間の経過に伴って次第に成長する。
【0022】
次に、充填完了時から所定時間間隔をおいてプランジャーチップ9を再び前進させて、溶湯を射出してキャビティ7内の鋳造圧を増加させる。すると、成長した引け巣が時間経過に伴って次第に圧潰される。なお、溶湯のキャビティ7内への充填完了時点から鋳造圧を増加させるまでの間隔は、発生した引け巣がX線により可視化できる大きさに成長する時間よりは長く、鋳造金型2内の溶湯が完全に凝固完了するまでの時間よりは短い時間で設定される。
【0023】
また、溶湯の射出開始と略同時に、X線照射装置15からX線の照射を開始すると共に、X線感受部16において鋳造金型2内の透視画像を結像して、ハイスピードカメラ18においてX線感受部16で結像した透視画像を撮像し、連続した静止画からなる可視化画像を提供する。
【0024】
一方、定量化演算部17では、まず、ハイスピードカメラ18により提供された可視化画像に基いて各画素(x,y)における輝度値が算出される。続いて、算出した各輝度値(例えば基準画素の輝度値、及び該基準画素の輝度値と該基準画素周辺の8画素の輝度値との差分)と、予め入力された各板材における輝度値の平均値及び分散共分散の逆行列とに基いて、厚さが相違する各板材の群までのマハラノビス距離が演算され、各板材の群のいずれかに特定される。例えば、マハラノビス距離が6、2mmと算出されれば、厚さが相違する各板材の群(板厚t=4,5,6,7,8mmの各群)との間でその違いが最小となる板厚6mmの板材の群が特定される。
そこで、定量化演算部17において、上述したように、マハラノビス距離に基づく板材の群が特定され、該特定された板材の群(板厚t=4,5,6,7,8mmのいずれか)と鋳物の厚さ(例えば8mm)とが相違した場合に引け巣が発生したものと認識され、該板材の群と鋳物の厚さとの差分から引け巣の深さが演算され、ひいては引け巣の体積が演算される。なお、引け巣の二次元的な大きさ(面積)は、可視化画像に基いて演算される。
【0025】
そして、キャビティ7に発生した引け巣の成長及び圧潰の挙動が、ディスプレイに定量化画像として時間経過に沿って表示される。詳しくは、ディスプレイには、引け巣の二次元的な模様及びその深さ(模様内側の色の相違等で表示)が時間経過に沿って表示され、しかも、引け巣の体積もデジタル表示される。なお、ディスプレイには、ハイスピードカメラ18で撮像された可視化画像も表示することもできる。
【0026】
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、試験用の鋳造金型2内のキャビティ7に引け巣の発生源3を固定し、溶湯との接触により引け巣を所望位置に確実にまた容易に発生させることができ、その後の引け巣の挙動を容易に観察することができる。
また、本発明の実施の形態によれば、溶湯の充填完了後、所定時間間隔をおいた後鋳造圧を上昇させて、引け巣の発生からの挙動を観察するので、特に、引け巣の圧潰の様子を観察することができる。
さらに、本発明の実施の形態によれば、定量化演算部17にて、ハイスピードカメラ18により提供された可視化画像に基いて算出された各画素(x,y)における輝度値と、予め入力された厚みが相違する各板材における輝度値の平均値及び分散共分散の逆行列とに基いて、厚さが相違する各板材の群までのマハラノビス距離を演算することで、引け巣の体積を定量化することができるので、引け巣の挙動を詳細にまた正確に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る引け巣発生方法及び引け巣観察方法を具現化する引け巣観察装置の模式図である。
【図2】図2は、図1のA部の拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
1 引け巣観察装置,2 鋳造金型,3 引け巣の発生源,4 挙動観察装置,15 X線照射装置,16 X線感受部,17 定量化演算部,18 ハイスピードカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させることを特徴とする引け巣発生方法。
【請求項2】
前記引け巣の発生源は、空隙率50%以上の発砲スチロールであることを特徴とする請求項1に記載の引け巣発生方法。
【請求項3】
鋳造金型内に発生する引け巣の挙動を観察する引け巣観察方法であって、
鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させた後、該引け巣の挙動を観察することを特徴とする引け巣挙動観察方法。
【請求項4】
鋳造金型内に発生する引け巣の挙動を観察する引け巣観察方法であって、
鋳造金型内に予め引け巣の発生源を配置し、その後、鋳造金型内に溶湯を流入して引け巣を発生させ、溶湯の充填を完了した後、所定時間間隔をおいた後鋳造圧を上昇させ、引け巣の発生からの挙動を観察することを特徴とする引け巣挙動観察方法。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−99680(P2010−99680A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272123(P2008−272123)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】