説明

引戸のガタツキ防止装置

【課題】 引戸のガタツキを防止して円滑な開閉操作を可能とする。
【解決手段】 上戸車11,11を支持する上戸車支持体22を、引戸8に対して天レール6に接近又は天レール6から離反する方向に略平行移動可能に支持する支持手段を、上戸車支持体22に設けられた、戸面垂直方向に突出し上下左右方向と異なる戸面方向に延びる、略平行な傾斜板25,25と、引戸8に設けられた、傾斜板25,25が摺動する、戸面垂直方向に突出する複数の摺動支持部15a,15aとにより構成した。また、上戸車支持体22を引戸8に対して固定する固定手段を、引戸8に形成された、傾斜板25,25と略平行な長孔16と、長孔16を通して上戸車支持体22に螺合するボルト17により構成した。さらに、上戸車支持体22を引戸8に対して天レール6に接近する方向に付勢する弾性体30を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納庫等の各種キャビネットの開口部に配置される引戸のガタツキを防止するガタツキ防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
収納庫等の各種キャビネットにおいて、該キャビネット本体の開口部を塞ぐと共にスライドして該開口部を開放する引戸が取付けられる。このような引戸の取付けを可能とするためには、該キャビネット本体の天レールと該引戸との間に、所定値以上の大きさの間隙を設ける必要がある。
【0003】
また、高さが高く幅の狭いキャビネットにおいては、該キャビネットの天レールに係合する複数(例えば2個)の上戸車及び該キャビネットの地レールに係合する複数(例えば2個)の下戸車を設けてなる引戸が用いられる。そして、該引戸も高さが高く幅の狭いものとなるため、上戸車間の距離及び下戸車間の距離は短く、上下の戸車間の距離は長くなる。したがって、前記天レールと前記引戸(上戸車)との間の所定値以上の大きさの間隙の存在により、該引戸の開閉時に、該引戸にガタツキが生じて円滑なスライド操作ができない場合が生じる。これは、該間隙の存在により該引戸のスライド操作時において戸面垂直方向軸まわりの回動(倒れ)が起こりやすく、該操作において引っ掛かり等が生じやすいためである。
【0004】
したがって、このような高さが高く幅の狭い引戸を円滑に開閉できるようにするためには、キャビネット本体への引戸の取付け後に、前記天レール及び上戸車間の間隙を狭めて、前記引戸の戸面垂直方向軸まわりの回動(倒れ)を抑制する必要がある。
【0005】
従来の引戸のガタツキ防止装置として、上戸車の走行用車輪と、該車輪を保持し且つ一端が枢軸を介してスライド部材に揺動可能に支持された支持アームと、前記車輪の一部がケースの上面の開口部から弾力的に突出するように前記支持アームを常時付勢するスプリングとを備え、該スプリングにより前記車輪を常時上方に向かって付勢するように構成してなるもの(例えば、特許文献1参照。)等がある。
【特許文献1】特開平11−200696号公報(図1−6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の引戸のガタツキ防止装置の構成では、特に高さが高く幅の狭い引戸に用いられた場合には、常時付勢する前記スプリングの弾性付勢力に抗して前記引戸の戸面垂直方向軸まわりの回動(倒れ)が生じ、前記引戸の円滑な開閉操作を行うことができないという問題点がある。また、常時弾性付勢力を付与する前記スプリングのばね定数と車輪及び支持アーム等の可動部分の質量により振動系が構成されるため、該振動系の振動によって前記引戸の円滑な開閉操作を行うことができない場合がある。さらに、特殊な部品を用いた比較的複雑な構成であると共に、上戸車の全ての走行用車輪にこのようなサスペンション機構を組み込む必要があるため、コストが嵩むという問題点もある。
【0007】
本発明は、前記のような問題点を解決するためになされたものであり、引戸の取付けを容易に行うことができ、該取付け後において該引戸のガタツキを容易に防止して該引戸の円滑な開閉操作を可能とする、引戸のガタツキ防止装置を得ることを目的とする。また、簡素な構成により、コストの上昇を抑制することができると共に信頼性を向上することができる引戸のガタツキ防止装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る引戸のガタツキ防止装置は、前記課題解決のために、キャビネットの天レール及び地レールに係合する複数の上戸車及び下戸車を設けてなる引戸において、前記複数の上戸車を支持する上戸車支持体と、該上戸車支持体を、前記引戸に対して前記天レールに接近又は前記天レールから離反する方向に略平行移動可能に支持する支持手段と、前記上戸車支持体を前記引戸に対して固定する固定手段とを備えてなるものである。
【0009】
ここで、前記上戸車支持体を前記引戸に対して前記天レールに接近する方向に付勢する弾性体を設けてなると好ましい。
【0010】
また、前記支持手段が、前記上戸車支持体及び引戸の一方に設けられた、戸面垂直方向に突出し引戸開閉方向と交差する傾斜方向に延びる、複数の略平行な傾斜板と、前記上戸車支持体及び引戸の他方に設けられた、該傾斜板が摺動する、戸面垂直方向に突出する複数の摺動支持部とにより構成されてなると好ましい。
【0011】
さらに、前記複数の摺動支持部が、前記傾斜板が通る複数の長孔の縁部であると好ましい。
【0012】
さらにまた、前記固定手段が、前記引戸に形成された、前記傾斜板と略平行な長孔と、該長孔を通して前記上戸車支持体に螺合するボルトとにより構成されてなると好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る引戸のガタツキ防止装置によれば、キャビネットの天レール及び地レールに係合する複数の上戸車及び下戸車を設けてなる引戸において、前記複数の上戸車を支持する上戸車支持体と、該上戸車支持体を、前記引戸に対して前記天レールに接近又は前記天レールから離反する方向に略平行移動可能に支持する支持手段と、前記上戸車支持体を前記引戸に対して固定する固定手段とを備えてなるので、前記複数の上戸車を、略水平状態を保って一体的に前記天レールに接近又は前記天レールから離反する方向に移動させることが可能であるため、前記引戸の前記キャビネットへの取付け作業を容易に行うことができる。また、該取付け後の前記天レールと前記上戸車間の間隙を狭める調整作業も、前記上戸車が一体的に略水平状態を保って上昇するため、容易なものとなる。そして、前記引戸の開閉時において、戸面垂直方向軸(前後方向軸)まわりの回動(倒れ)が抑制されるため、特に高さが高く幅が狭いキャビネットにおいて、前記引戸のガタツキが防止されて円滑なスライド操作が可能となる。
【0014】
また、前記上戸車支持体を前記引戸に対して前記天レールに接近する方向に付勢する弾性体を設けてなると、前記引戸の前記キャビネットへの取付け作業及び該取付け後の前記天レールと前記上戸車との間隙の調整作業が容易となる。
【0015】
さらに、前記支持手段が、前記上戸車支持体及び引戸の一方に設けられた、戸面垂直方向に突出し引戸開閉方向と交差する傾斜方向に延びる、複数の略平行な傾斜板と、前記上戸車支持体及び引戸の他方に設けられた、該傾斜板が摺動する、戸面垂直方向に突出する複数の摺動支持部とにより構成されてなると、前記支持手段をコンパクトかつ簡素な構成により実現することができるため、コストの上昇を抑制することができると共に信頼性を向上することができる。
【0016】
さらにまた、前記複数の摺動支持部が、前記傾斜板が通る複数の長孔の縁部であると、簡素な構成によりコストの上昇を抑制することができると共に該長孔が該傾斜板の前後方向の移動を規制する機能を有するため前記上戸車支持体の移動をより安定化することができる。
【0017】
また、前記固定手段が、前記引戸に形成された、前記傾斜板と略平行な長孔と、該長孔を通して前記上戸車支持体に螺合するボルトとにより構成されてなると、前記調整を完了した状態における該長孔に対する該ボルトの相対位置を保って、該一本のボルトを締めるのみの作業で前記上戸車支持体を前記引戸に対して固定することができるため、該固定作業の容易化を図ることができる。また、前記固定手段を簡素な構成により実現することができるため、コストの上昇を抑制することができると共に信頼性を向上することができる。さらに、該ボルト及び長孔が、前記上戸車支持体の平行移動をガイドする機能及び前後方向の移動を規制する機能を有するため、前記引戸の取付け作業時及び該取付け後の前記天レールと前記上戸車との間隙の調整作業時における前記上戸車支持体の移動の信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明は、添付図面に示された形態に限定されず特許請求の範囲に記載の要件を満たす実施形態の全てを含むものである。なお、本明細書においては、キャビネットを正面側から見て、手前側を前、その反対側を後、左右側をそれぞれ左右とする。
【0019】
図1〜図4は、本発明の実施の形態に係る引戸のガタツキ防止装置の説明図であり、図1は本発明の実施の形態に係る引戸のガタツキ防止装置が用いられたキャビネットの例を示す正面図、図2は同じく縦断右側面図であり、図2(a)はキャビネット本体への引戸の取付け時において上戸車が下がった状態、図2(b)はキャビネット本体に引戸を取り付けた後に上戸車が上昇して天レールとの間隙を小さくした状態を示している。また、図3は本発明の実施の形態に係る引戸のガタツキ防止装置の背面(後面)側から見た分解斜視図、図4は同じく背面(後面)図であり、図4(a)はキャビネット本体への引戸の取付け時において上戸車が下がった状態、図4(b)は上戸車に負荷がかかっていない自然状態又はキャビネット本体に引戸を取付けた後に上戸車が上昇して天レールとの間隙を小さくした状態を示している。
【0020】
キャビネット1は、正面側(前側)に開口部を備えると共に、平面視矩形の地板3、この地板3の左右両側に配設された側面視矩形の左側板4及び右側板5、これら地板3及び側板4,5の後端に配設された正面視(背面視)矩形の図示しない背板、前記側板4,5及び背板の上端に配設された平面視矩形の天板2、並びに前記開口部を覆い左右方向にスライドする引戸8(左引戸8A、中引戸8B及び右引戸8C)等により構成される。
【0021】
天板2下面に設けられた左右方向の天レール6は、個別の三条のレール6A,6B及び6Cからなり、地板3上面に設けられた左右方向の地レール7は、個別の三条のレール7A,7B及び7Cからなる。そして、各レールに、例えばスチール製の板材を板金加工により成形してなる各引戸8A、8B及び8Cに取付けられた、例えば樹脂製の上戸車11,11及び下戸車12,12を係合させることにより、各引戸8A,8B及び8Cは、前記天レール6A,6B及び6C並びに地レール7A,7B及び7Cに沿って、相互に干渉することなく左右方向にスライド可能となっている。
【0022】
また、引戸8の背面に設けられた図示しないリンク機構により、把手9,10を用いて左右の引戸8A又は8Cを開くスライド操作に連動して、中引戸8Bがスライドする連動開閉式引戸となっている。
【0023】
ここで、キャビネット1は、例えば高さが2000mm〜2200mm程度、左右の幅が700〜900mm程度の高さが高く幅が狭いものである。また、該キャビネット1に用いられる引戸8も、前記のとおり3枚の引戸が連動する連動開閉式であるため、例えば高さが1950mmから2150mm程度、左右の幅が250mm〜350mm程度と、特に高さが高く幅の狭いものである。したがって、上戸車11,11間の距離及び下戸車12,12間の距離は短く、上下の戸車11,12間の距離は長くなっている。よって、背景技術における説明のとおり、天レール6と引戸8(上戸車11,11)との間の所定値以上の大きさの間隙の存在により、該引戸8はスライド操作時に戸面垂直方向軸(前後方向軸)まわりの回動(倒れ)が起こりやすく、該操作において引っ掛かり等が生じやすいものである。
【0024】
以下において、本発明の実施の形態に係る引戸のガタツキ防止装置21の構成及び動作について説明する。なお、主に図3及び図4を用いて説明するが、図3及び図4は背面図であるため、各図に向かって右側が左側、左側が右側、手前側が後側、奥側が前側となっている。図3及び図4において、例えばスチール製の板材を板金加工により成形してなる上戸車支持体22は、左右方向に延びる略垂直板状とされ、上部に切欠き23,23が形成され、該切欠き23,23の下側から前方に延出する水平板部24,24が設けられている。また、上戸車支持体22の下部には、引戸8の戸面垂直方向(前方)に突出し、上方かつ左方(左方向に対して約30°上方に向かう傾斜方向)に向かって延びる、二個の略平行な傾斜板25,25が左右に設けられており、該傾斜板25,25の下部には突片26,26が垂下している。
【0025】
ここで、略平行な左右の傾斜板25,25の傾斜方向は、前記傾斜方向に限定されるものではなく、引戸開閉方向(左右方向)と交差する傾斜方向(上下左右方向と異なる戸面方向(戸面に沿う方向))とすればよい。ただし、該傾斜方向が上下方向に近づくと、上戸車支持体22の重力により後述する上戸車支持体22(上戸車11,11)を天レール6に接近させる方向に平行移動させる動作が困難となり、該傾斜方向が左右方向に近づくと、上戸車11,11を天レール6に接近又は離反させるためのストロークの確保が困難となる。したがって、該傾斜方向は、左右方向に対して、約25°から60°程度が好ましい範囲となる。なお、該傾斜板は必ずしも平面でなくてもよく、例えば円弧状の曲面等であってもよい。
【0026】
引戸8の上部には、垂直板状の前板部13a及び後板部13bが所定間隔をおいて平行に前後に対向配置されている。そして、後板部13bは、その下部が折り曲げられ、前方へ延出する水平板部14が設けられており、該水平板部14には左右方向の長孔15,15が左右に形成されている。該長孔15の前後方向の長さは、傾斜板25の前後方向の長さよりも長く、該傾斜板25を該長孔15内に挿入した状態における前後のクリアランスは、例えば1〜2mm程度となっている。したがって、該長孔15,15は上戸車支持体22の前後方向の移動を規制する機能を有している。
【0027】
左右の上戸車11,11は、上戸車支持体22の切欠き23により左右方向の移動が規制された状態で、上戸車支持体22の水平板部24上に載置される。そして、上戸車支持体22は、引戸8上部の前板部13a及び後板部13b間に上側から装入され、突片26,26が後板部13bの水平板部14に形成された左右の長孔15,15内に入る位置まで下降される。この状態では、上戸車11の前板部11b及び後板部11cがそれぞれ引戸8の前板部13a及び後板部13bに当接するため、上戸車11の前後方向の移動が規制された状態となる(図2も参照。)。
【0028】
上戸車支持体22の右部には孔27が穿設されており、該孔27の前側にはナット28がスポット溶接等により固定されている。また、引戸8の後板部13bの右部には、前記傾斜板25,25と略平行に傾斜長孔16が形成されており、該傾斜長孔16を通して座金18が装着されたボルト17が上戸車支持体22のナット28に螺合する。これら傾斜長孔16、ボルト17及びナット28等が上戸車支持体22を引戸8に対して固定する固定手段を構成している。なお、該固定手段により上戸車支持体22を引戸8に対して固定しない状態(ボルト17を緩めた状態)では、ボルト17の軸部が傾斜長孔16内を該傾斜長孔16に沿って移動可能となっている。
【0029】
また、上戸車支持体22を引戸8に対して固定する固定手段は、このような構成に限定されるものではなく、引戸8側に螺孔を設けてボルトを上戸車支持体に向けて突出させる等の上戸車支持体22を引戸8に対して固定できる適宜の構成を採用することができる。ただし、本実施の形態における傾斜長孔16、ボルト17及びナット28等からなる固定手段によれば、該固定手段を簡素な構成により実現することができるため、コストの上昇を抑制することができると共に信頼性を向上することができる。また、本実施の形態の固定手段によれば、該ボルト17及び傾斜長孔16が、後述する上戸車支持体22の平行移動をガイドする機能及び前後方向の移動を規制する機能を有するため、引戸8のキャビネット1への取付け作業時及び該取付け後の天レール6と上戸車11,11との間隙の調整作業時における上戸車支持体22の移動の信頼性を向上することができる。
【0030】
前記上戸車支持体22の略平行な左右の傾斜板25,25は、引戸8の後板部13bの水平板部14に形成された左右の長孔15,15を通り、該長孔の左縁の摺動支持部15a,15aと摺動する。したがって、上戸車支持体22は、略平行な傾斜板25,25の摺動支持部15a,15aに沿う移動により、戸面垂直方向軸(前後方向軸)まわりに回転せずに、略平行に移動可能となっている。したがって、左右の上戸車11,11は、略水平を保った状態で一体的に、引戸8に対して天レール6に接近又は天レール6から離反する方向に移動する。このような構成により、上戸車11,11の引戸8に対する天レール6に接近又は離反する方向への移動ストロークとして、例えば5mm〜10mm程度のストロークを容易に確保しながら、該上戸車11,11の移動を行うことができる。
【0031】
なお、傾斜板25,25下部の突片26,26は、上戸車支持体22の傾斜板25,25の摺動支持部15a,15aに沿う左上への移動を規制するストッパ機能、及び、上戸車支持体22の長孔15,15からの抜け止め機能を有している。ここで、上戸車支持体22の略平行な左右の傾斜板25,25の支持は、左右の長孔15,15の左縁の摺動支持部15a,15aではなく、引戸8の前板部13aと後板部13bとの間に架設したピン又は板等によってもよい。ただし、複数の摺動支持部が、本実施の形態のように傾斜板25,25が通る長孔15,15の縁部(左縁)15a,15aであると、簡素な構成によりコストの上昇を抑制することができると共に長孔15,15が傾斜板25,25の前後方向の移動を規制する機能を有するため上戸車支持体22の移動をより安定化することができる。
【0032】
上戸車支持体22の右端には、右方へ突出する突片29が設けられており、該突片29に外嵌される圧縮コイルばね30が上戸車支持体22と引戸8の右枠との間に介在して、上戸車支持体22を引戸8に対して左方に付勢するようになっている。したがって、前記固定手段により上戸車支持体22を引戸8に対して固定しない状態(ボルト17を緩めた状態)では、図4(b)のように上戸車支持体22の傾斜板25,25が引戸8の前記摺動支持部15a,15aに沿って斜め左上方へ移動し、ボルト17の軸部も該傾斜板25,25と略傾向な傾斜長孔16内を該傾斜長孔16に沿って左上方へ移動した状態となっている。よって、この状態では、引戸8の上端から上戸車11,11の走行用車輪11a,11aが上方へ突出した状態となっている。なお、前記圧縮コイルばね30により上戸車支持体22に付勢力を作用させる代わりに、引張コイルばね又はスリットの入ったゴム等の他の弾性体を用いてもよい。また、ボルト17と傾斜長孔16は、ボルト17の軸部と傾斜長孔16の上端部との当接により、上戸車支持体22の前記左上への移動を規制するストッパ機能を有している。
【0033】
以上のように、上戸車支持体22の下部に設けられた、引戸8の戸面垂直方向(前方)に突出し上下左右方向と異なる戸面方向に延びる略平行な傾斜板25,25と、該傾斜板25,25が摺動する摺動支持部15a,15aが、上戸車支持体22を引戸8に対して天レール6に接近又は天レール6から離反する方向に略平行移動可能に支持する支持手段を構成している。なお、該支持手段は、このような構成に限定されるものではなく、例えば平行リンクを用いる構成又はX字状のリンクを用いる構成等を適宜採用することができる。ただし、本実施の形態における傾斜板25,25及び摺動支持部15a,15aにより構成される支持手段によれば、該支持手段をコンパクトかつ簡素な構成により実現することができるため、コストの上昇を抑制することができると共に信頼性を向上することができる。
【0034】
図2(a)及び図4(a)に示すように、キャビネット本体の上下のレール6,7間に引戸8を取付ける場合においては、ボルト17を緩めて上戸車支持体22を引戸8に対して固定しない状態(以下において、「自由状態」という。)又は上戸車11,11を最も下げた状態でボルト17を締めて上戸車支持体22を引戸8に対して固定した状態(以下において、「下側固定状態」という。)で、引戸8の上端(上戸車11,11)を上レール6内に係合させた後に、下戸車12,12を下レールに係合させる。
【0035】
前記自由状態では、走行用車輪11a,11aに天レール6との当接等により負荷がかかった場合には、圧縮コイルばね30の前記付勢力に抗して上戸車支持体22と該上戸車支持体22と一体となった上戸車11,11は一体的に略水平状態を保って下降するため、走行用車輪11a,11aが引戸8の取付け時に邪魔になることはない。このようにして、引戸8の上端(上戸車11,11)と下戸車12,12を上下のレール6,7に係合させた状態では、図2(b)のように、圧縮コイルばね30の前記付勢力により上戸車支持体22が上昇し、走行車輪11a,11aが一体的に略水平状態を保って天レール6方向(上方)に突出して、天レール6及び上戸車11,11との間隙が狭められる。
【0036】
また、前記下側固定状態でも、走行用車輪11a,11aが引戸8の取付け時に邪魔になることはなく、この場合は、引戸8の取付け後にボルト17を緩めれば、図2(b)のように、圧縮コイルばね30の前記付勢力により走行車輪11a,11aが天レール6方向(上方)に突出して、天レール6及び上戸車11,11との間隙が同時に狭められる。
【0037】
以上のように、引戸8の取付け後に図2(b)のように天レール6及び上戸車11,11との間隙が狭められた状態(天レール6の上戸車11の走行車輪11aが当接した状態であってもよい。)で、ボルト17を締めれば、上戸車支持体22が引戸8に対して固定される。したがって、上戸車11,11及び下戸車12,12の走行車輪は回転するが、上戸車11,11及び下戸車12,12と引戸8とは、相対的に移動しない状態が保たれる。そして、天レール6及び上戸車11,11(走行車輪11a,11a)との間隙が狭められた状態となっているので、引戸8の開閉時において、戸面垂直方向軸(前後方向軸)まわりの回動(倒れ)が抑制される。したがって、引戸8のガタツキが防止されて円滑なスライド操作が可能となる。
【0038】
このようにして、引戸8のキャビネット1への取付け作業を容易に行うことができると共に、該取付け後の天レール6と上戸車11,11間の間隙を狭める調整作業も、上戸車11,11が前記のとおり一体的に略水平状態を保って上昇するため、容易なものとなる。そしてさらに、該調整後における上戸車支持体22を引戸8に対して固定する作業も、一本のボルト17を締めるのみの作業であるため、容易なものである。
【0039】
以上の説明においては、上戸車支持体22を引戸8に対して左方に付勢する圧縮コイルばね30等の弾性体を用いた場合を示したが、このような弾性体を設けない構成を採用してもよい。該弾性体を設けない場合においては、引戸8の取付け後において、ボルト17を手動により左上方へ移動させて上戸車支持体22を天レール6に近づくように平行移動させた状態(例えば図2(b)及び図4(b)と同様の状態。)とし、この状態を維持ながらボルト17を締めて上戸車支持体22を引戸8に対して固定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る引戸のガタツキ防止装置が用いられたキャビネットの例を示す正面図である。
【図2】同じく縦断右側面図であり、(a)はキャビネット本体への引戸の取付け時において上戸車が下がった状態、(b)はキャビネット本体に引戸を取付けた後に上戸車が上昇して天レールとの間隙を小さくした状態を示している。
【図3】本発明の実施の形態に係る引戸のガタツキ防止装置の背面(後面)側から見た分解斜視図である。
【図4】同じく背面(後面)図であり、(a)はキャビネット本体への引戸の取付け時において上戸車が下がった状態、(b)は上戸車に負荷がかかっていない自然状態又はキャビネット本体に引戸を取付けた後に上戸車が上昇して天レールとの間隙を小さくした状態を示している。
【符号の説明】
【0041】
1 キャビネット
6 天レール
7 地レール
8 引戸
11 上戸車
11a 走行用車輪
11b 前板部
11c 後板部
12 下戸車
13a 前板部
13b 後板部
14 水平板部
15 長孔
15a 摺動支持部
16 傾斜長孔
17 ボルト
18 座金
21 引戸のガタツキ防止装置
22 上戸車支持体
23 切欠き
24 水平板部
25 傾斜板
26 突片
27 孔
28 ナット
29 突片
30 圧縮コイルばね


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビネットの天レール及び地レールに係合する複数の上戸車及び下戸車を設けてなる引戸において、
前記複数の上戸車を支持する上戸車支持体と、
該上戸車支持体を、前記引戸に対して前記天レールに接近又は前記天レールから離反する方向に略平行移動可能に支持する支持手段と、
前記上戸車支持体を前記引戸に対して固定する固定手段とを備えてなる引戸のガタツキ防止装置。
【請求項2】
前記上戸車支持体を前記引戸に対して前記天レールに接近する方向に付勢する弾性体を設けてなる請求項1記載の引戸のガタツキ防止装置。
【請求項3】
前記支持手段が、前記上戸車支持体及び引戸の一方に設けられた、戸面垂直方向に突出し引戸開閉方向と交差する傾斜方向に延びる、複数の略平行な傾斜板と、前記上戸車支持体及び引戸の他方に設けられた、該傾斜板が摺動する、戸面垂直方向に突出する複数の摺動支持部とにより構成されてなる請求項1記載の引戸のガタツキ防止装置。
【請求項4】
前記複数の摺動支持部が、前記傾斜板が通る複数の長孔の縁部である請求項3記載の引戸のガタツキ防止装置。
【請求項5】
前記固定手段が、前記引戸に形成された、前記傾斜板と略平行な長孔と、該長孔を通して前記上戸車支持体に螺合するボルトとにより構成されてなる請求項1記載の引戸のガタツキ防止装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−161387(P2006−161387A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353739(P2004−353739)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(390007940)豊國工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】