説明

引手及びそれを用いた引戸構造

【課題】引戸の開戸方向の軽さに関係なく、自然な操作で戸当たり部材の指詰防止部の引戸表面からの出没を可能とする引手の提供。
【解決手段】引戸D1、D2の表面に取り付けられ、指収納用の凹部3が設けられている引手本体2と、凹部3から出没可能にて所定角度で往復回動可能に枢着軸8に取り付けられ、開戸させる時にその操作部4に指を掛けて力を加えた場合、凹部3から突出方向に回転する指掛部材5と、指掛部材5に隣接して凹部3内に配設され、指掛部材5の回転に連動して凹部3からその指詰防止部7が出没可能にて所定角度で往復回動可能に枢支軸9に取り付けられた戸当たり部材6とで構成され、枢着軸8を越えて操作部4の反対側の戸当たり部材隣接側面5bから作動部10が突設され、枢支軸9を越えて指詰防止部7の反対側の指掛部材隣接側面7bに作動部10と係合して連動する係合部11が突設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅内の部屋又は収納等の開口部を開閉する引戸に取り付けられる引手及びそれを用いた引戸構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、引戸による開口部の開閉は、引戸の面に沿った方向(引戸と平行方向)のスライド移動により行うようになっており、この引戸の開閉を行い易くするために、従来から引戸に指を引っ掛けるための単なる凹部が設けられた引手を引戸の表面端部に設置することが行われている。
【0003】
しかしながら、この従来の単に凹部が設けられただけの引手を用いた引戸は、引き違い型引戸構造の場合、開口部を開く時に、第2〜5指を凹部に引っ掛け、親指を引戸の表面に添えた状態で開け閉めを行うが、開戸時に、引戸の引手が平行に設けられているもう1つの引き違い型の引戸の端部の際まで移動させると、もう1つの移動しない引戸の端部と指を掛けている移動側の引戸との問にある隙間に開戸側の引戸の表面に添えた親指が挟みこまれる、いわゆる指詰めを起こすおそれがあった。これは、控え壁の収納スペース内に引戸を収納するような場合も同様である。
【0004】
これを解決する手段として、引手本体内に引戸の開閉方向(戸の面に沿って平行方向)に摺動自在な指掛け用の移動ハンドルを設け、開戸時に該移動ハンドルに掛けた指の押圧力により、該移動ハンドルを引戸の開方向に摺動させ、この開方向の移動ハンドルの移動をカムのようなもので引手本体からストッパーを引戸の表面側に突出させて指詰めを起こす前にストッパーが控え壁や移動しない側の他の引戸の端面に当接して開戸側の引戸を停止させて親指の指詰めを防止するようなものが提案されている。(特許文献1〜3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−193711号公報
【特許文献2】特開2003−232165号公報
【特許文献3】特開2003−232164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが上記提案例の引手及び引戸では、戸の重量が軽い場合や静摩擦係数が小さくて引戸がよくすべり、移動ハンドルを移動させる力よりも小さい力しか必要としない場合、移動ハンドルが引戸の開方向に摺動せずストッパーが引戸本体から突出しないまま引戸自身が開方向に移動し、その結果、指詰防止機構を設けているものの機能せず指詰めを起こしてしまうと言うような問題があった。
【0007】
また、人体の構造上、手は、戸の面に沿って平行方向に動かすよりも、開こうとする際の初めの位置から、操作者側へ弧を描くように動かす方が自然であるため、移動ハンドルを引戸の開方向(戸の面に沿って平行方向)に動かす従来のものは、操作性もあまりよくないという問題もあった。
【0008】
本発明はかかる従来例の問題点に鑑みてなされたもので、主として操作性がよく、しかも確実に指詰め防止機能が働くような引手の開発にあり、従としてこのような引手を用いることによって指詰めが起こらない引戸構造を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の引手(1)は引き違い又は控え壁の引戸構造の引戸に用いられるもので、
「引戸(D1)(D2)(D3)の表面に取り付けられ、指収納用の凹部(3)が設けられている引手本体(2)と、
該凹部(3)から出没可能にて所定角度で往復回動可能に枢着軸(8)に取り付けられ、開戸させる時にその操作部(4)に指を掛けて力を加えた場合、該凹部(3)から突出方向に回転する指掛部材(5)と、
該指掛部材(5)に隣接して前記凹部(3)内に配設され、指掛部材(5)の回転に連動して前記凹部(3)からその指詰防止部(7)が出没可能にて所定角度で往復回動可能に枢支軸(9)に取り付けられた戸当たり部材(6)とで構成され、
枢着軸(8)を越えて操作部(4)の反対側の戸当たり部材隣接側面(5b)から作動部(10)が突設され、
枢支軸(9)を越えて指詰防止部(7)の反対側の指掛部材隣接側面(7b)に作動部(10)と係合して連動する係合部(11)が突設されている」ことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の引手(1)は、「戸当たり部材(6)の指詰防止部(7)が突出した状態から凹部(3)に収納された状態に戻るようにするための戻り機構(M)を備えている」ことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の引手(1)は、「戸当たり部材(6)の指詰防止部(7)が突出した状態では引手本体(2)に対して垂直となる指詰防止面(7a)を有する」ことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の引手(1)は、「戸当たり部材(6)の指詰防止部(7)が突出した状態で保持される保持機構(H)を備えている」ことを特徴とする。
【0013】
請求項5は、「引き違い構造の引戸構造において、引戸(D1)(D2)の隣接側の面(d1)(d2)に請求項1〜4のいずれかに記載の引手(1)が取り付けられている」ことを特徴とする。
【0014】
請求項6は、「控え壁(T)の引戸収納部(t)に引戸(D3)を挿脱する引戸構造において、引戸(D3)の両面に請求項1〜4のいずれかに記載の引手(1)が取り付けられている」ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の本発明では、指掛部材(5)が引手本体(2)の凹部(3)から出没可能にて所定角度で往復回動可能に枢着され、開戸させる時にその操作部(4)に指を掛けて力を加えた場合、該凹部(3)から突出方向に回転するように形成されているので、手の動作は指を引手(1)の操作部(4)に掛けた初めの位置から操作者側へ弧を描くように動かして指掛部材(5)を回転させることができるような、構造上自然な動作であるため操作性がよい。
【0016】
しかもこの指掛部材(5)の回動に係合して連動し、その指詰防止部(7)が引手本体(2)の凹部(3)から出没する戸当たり部材(6)が設けられているので、引戸(D1)の開戸方向の軽さに影響されることなく確実に指詰防止作用を作動させることができ、もう一方の引戸(D2)や控え壁(T)の端部或いは該引戸(D2)や控え壁(T)との間の隙間などに移動側の引戸(Dl)の表面に置いた親指が挟み込まれたりせず、指詰めを確実に防止することができる。
【0017】
また、戸当たり部材(6)に戸当たり状態を維持する保持機構(H)或いは戻り機構(M)のいずれか一方を備えている場合、前者では控え壁(T)やもう一方の開戸されない引違い引戸(D2)の端部に戸当たり部材(6)の指詰防止部(7)が当たる前に戻る方向に回動せず、指詰めを確実に防止できて安全に開戸することができるし、後者の場合は、引手(1)の操作時以外は戸当たり部材(6)が引手(1)の凹部(3)内に確実に収納されると共に、連動した指掛部材(5)も同時に収納されて見掛けがよいし、開戸側の引戸(D1)がある程度開いた状態で引手(1)から指先を離すと戻り機構(M)の作用で引手(1)を操作していない凹部(3)への収納状態に戻り、続いて開戸側の引戸(D1)の側端面(d6)を開戸側に更に押す操作で、2枚の引戸(D1)(D2)が重なった完全に開いた状態、換言すれば、引き残しをなくして出入口(21)の開口幅を最大限に広く取ることが出来、その場合例えば、車椅子等を用いる場合のように出入口(21)の幅を出来る限り広く取る必要がある場合において有用である。
【0018】
なお、引戸(D1)(D2)が完全に開いた状態から引戸(D1)又は(D2)を閉める方向に移動させる際の操作性を向上させるために、引戸(D1)(D2)の側端面(d6)に指先を掛ける取手や掘り込みを設けておいてもよい。
【0019】
また、保持機構(H)及び戻り機構(M)の両者を同時に備える場合は、保持機構(H)の方が戻り機構(M)より優先で、保持機構(H)が解除されたときに戻り機構(M)が作動するようになる。
【0020】
戸当たり部材(6)の指詰防止部(7)が突出した状態で、引手本体(2)に対して垂直とした場合、その指詰防止面(7a)に控え壁(T)又はもう一方の移動しない方の引戸(D2)の端部が当たる際に、指詰防止面(7a)と控え壁(T)又は引戸(D2)の端部とが面接触で当たるようになり、控え壁(T)又は引戸(D2)の端部が傷つくことを防ぐことができる。
【0021】
上記のような引手(1)を引戸(D1)(D2)に用いた場合、引戸(D1)(D2)の開戸方向の軽さに影響されず確実に戸当たり部材(6)が突出して指詰めを防止して安全に使用することができ、しかも操作性もよく使用時に戸当たり部材(6)や指掛部材(5)が引手(1)の凹部(3)から突出していて邪魔になるようなことのない引戸構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の引戸構造の正面図である。
【図2】図1のA−A’線断面図である。
【図3】本発明の控え壁の平断面図である。
【図4】本発明の引手の拡大正面図である。
【図5】図4のB−B’線断面図である。
【図6】図4の引手の裏面側からの斜視図である。
【図7】本発明の引手と対として使用される他の引手の正面図である。
【図8】本発明の引手の作動前の断面図である。
【図9】図8の引手の作動時の断面図である。
【図10】本発明の他の引手の作動時の断面図である。
【図11】図10の引手の保持機構の作動状態を示す部分拡大断面図である。
【図12】図11の引手のC−C’線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図示実施例に従って説明する。室内空間(R1)と室外空間(R2)との間を仕切る壁(20)には両空間(R1)(R2)を往来するための出入口(21)が開口している。この出入口(21)には、引き違い構造の場合、室内側及び室外側の引戸(D1)(D2)がそのパネル面に沿った方向にスライド可能に取り付けられている。(図1、2)
【0024】
室内側引戸(D1)の右端部及び室外側引戸(D2)の左端部の少なくとも両者の隣接面(d1)(d2)に本発明の実施形態に係る引手(1)がそれぞれ取り付けられている。本実施例の場合、両引戸(D1)(D2)の該引手(1)は互いに同じものが用いられている。隣接面(D1)(d2)の反対側の非隣接面(d3)(d4)には、前記引手(1)を取り付けてもいいが、引き違い構造の場合、非隣接面(d3)(d4)では指詰めを起こさないので、後述するような単なる凹部(41)が設けられている引手(40)を設けてもよい。
【0025】
そしてこれら引手(1)(40)は、引戸(D1)(D2)の表面から裏面まで貫通する貫通孔(d5)に両側から取り付けられている(図8〜10)。本実施例では引手(1)(40)の組み合わせの場合を代表例として説明する。なお、控え壁(T)の場合は両面で指詰めを起こすので、両面に引手(1)が取り付けられることになる。以下の説明は、引き違いの場合を代表例として説明するが、控え壁(T)を含めたものとする。
【0026】
本発明に係る引手(1)の主要構成部材である引手本体(2)、指掛部材(5)、戸当たり部材(6)及び該引手(1)の対となるもう一方の引手(40)は、材質的には鉄、亜鉛、アルミニウム、ステンレス等の金属や合金、合成樹脂等を用いることができる。
【0027】
引戸(D1)〜(D3)に装着される前記引手(1)の基本形は、戻り機構(M)や保持機構(H)がなく、図4、5にその外形だけを示したように、その表側に開口するように形成された凹部(3)を有し、開口外周に外鍔(2a)が突設されている引手本体(2)と、引戸(D1)(D2)への装着状態に於いて、外鍔(2a)の上・下辺(2a1)(2a2)の中央部分間に架設された枢着軸(8)に枢着され、開戸時にその操作部(4)に第2〜5指を掛けて操作者側に引くようにして所定角度だけ回転させる指掛部材(5)と、指掛部材(5)に隣接して凹部(3)に配設され、該指掛部材(5)の所定角度の往復回動に連動して引手本体(2)からその指詰防止部(7)が突出するように枢着軸(8)と平行で外鍔(2a)の上・下辺(2a1)(2a2)間に架設された枢支軸(9)に枢支された戸当たり部材(6)とで構成されたもので、図6、8、9に示すその基本形の第1変形例では、戻り機構(M)が設けられ、第2変形例では図10〜12に示すように保持機構(H)が設けられている。図示していないが戻り機構(M)と保持機構(H)とを同時に設けることも可能であるが、その場合は保持機構(H)の保持力の方が戻り機構(M)の戻り力より若干勝る状態に設定されることになり、保持機構(H)を指で押し戻すことにより戻り機構(M)の作用で元に戻るようになっている。
【0028】
第1変形例の引手(1)を代表例として以下説明する。引手本体(2)は前述のように周囲全周に外鍔(2a)が突設され、凹部(3)が全体的に形成された浅い皿状のもので、その底部(2b)の戸当たり部材(6)が設けられている部分では、後述する指詰防止部(7)が回動するため、底部(2b)のその部分全体が段状に深く凹設されている。この部分を段状部分(2d)とする。
【0029】
そして、後述するバネ掛け柱(15)の移動を確保するための角形通孔(30)がその中央に穿設されており、この角形通孔(30)から離れた底部(2b)の所定位置にバネ掛け突起(16)が突設されている。このバネ掛け突起(16)はバネ掛け柱(15)と対をなす。そして、この引手本体(2)を引戸(D1)〜(D3)に装着した時の姿勢で外鍔(2a)の上辺を(2a1)、下辺を(2a2)、指掛部材(5)側に位置する辺を指掛側辺(2a3)、戸当たり部材(6)側に位置する辺を戸当側辺(2a4)とする。また、底部(2b)の段状部分(2d)に隣接する部分で底部(2b)の上・下辺に沿って上下一対の角長孔(31)が穿設されている。
【0030】
指掛部材(5)は凹部(3)内にて枢着軸(8)に所定角度で往復回動可能に枢着されており、該枢着軸(8)は外鍔(2a)の上・下辺(2a1)(2a2)にその両端が取り付けられている。枢着軸(8)を中心として指掛け側辺(2a3)側に向かって指掛部材(5)の操作部(4)が伸びており、操作部(4)と指掛け側辺(2a3)との間で指挿入口(3a)が形成されている。操作部(4)の内面(4a)側は第2〜5指を掛けやすいように全長に亘って緩やかな凹面、換言すれば、断面円弧状の凹曲面に形成されている。このようにすることで指先の腹の形状に沿い操作し易く、操作部(4)に指を掛けて操作者側に引くようにして回転させて、指先が掛かりやすく操作し易い。
【0031】
そして、指掛部材(5)の両端には操作部(4)のカーブに合わせて柱状のストッパー部(51)が突設され、前記角長孔(31)にこのストッパー部(51)がそれぞれ移動可能に挿入されており、ストッパー部(51)が角長孔(31)の端部(31a)(31b)に突き当たることで指掛部材(5)の回動角度を規定している。ストッパー部(51)により指掛部材(5)の回転を所定角度位置でとめる構造の他例としては、図示しないが、引手本体(2)の凹部(3)の底面に開口側に突出する突起を設けておき、該突起にストッパー部が当たるようにしてもよい。
【0032】
更に、指掛部材(5)には枢着軸(8)を中心として操作部(5)の反対側の戸当たり部材隣接側面(5b)に戸当たり部材(6)に向かう作動部(10)が指掛部材(5)の全長に亘って突設されている。作動部(10)の先端部分は後述する戸当たり部材(6)の係合部(11)と係合しつつその回動を容易にするために全長に亘って丸く形成されている。
【0033】
戸当たり部材(6)は凹部(3)内にて外鍔(2a)の戸当たり側辺(2a4)と指掛部材(5)との間に配設されており、指掛部材(5)の回動に連動して所定角度で往復回動可能に枢支軸(9)に枢支されている。前記枢支軸(9)は枢着軸(8)に平行に配設され、その両端は外鍔(2a)の上・下両辺(2a1)(2a2)に取り付けられている。そして、枢支軸(9)を中心にして戸当たり部材(6)の指掛部材側面(7b)に指掛部材(5)側に向かって係合部(11)が戸当たり部材(6)の全長にわたって突設されており、係合部(11)が底部(2b)側にて重なり合うように作動部(10)と互いに係合関係を保つようになっている。係合部(11)の先端も作動部(10)との係合状態を保ちつつ円滑に回動するように全長に亘って丸く形成されている。
【0034】
戸当たり部材(6)の枢支軸(9)の戸当たり側辺(2a4)側に伸びる先の尖った略三角柱状の部分が指詰防止部(7)で、この部分が指掛部材(5)の動きに連動する戸当たり部材(6)の回動によって凹部(3)から出没する。この指詰防止部(7)の突出状態に於いて、外鍔(2a)に対して略直交する面が指詰防止部面(7a)で、この指詰防止部面(7a)に必要に応じて合成樹脂やゴム等のクッション性を有する弾性パッド(13)が略全面にわたって貼着され、指詰防止部面(7a)が引手本体(2)に対して垂直に突出される事と相俟って控え壁(T)又はもう一方の非移動側の引戸(D2)の端部の傷付きを防ぐ。
【0035】
図6において、指詰防止部(7)と係合部(11)との間において、引手本体(2)の底部(2b)に向かう突出部分が閉塞部分(12)で、その指詰防止面(7a)側の面が閉塞面(12a)であって、指詰防止部(7)が引手本体(2)から突出した時、指詰防止面(7a)と閉塞面(12a)との交線(7c)と戸当たり側辺(2a4)との間に発生する開口を閉塞する。従って、本実施例ではこの指詰防止面(7a)と閉塞面(12a)とは略直交するように形成されている。そして、この閉塞部分(12)の閉塞面(12a)の反対側の斜面(12b)にバネ掛け柱(15)が立設され、このバネ掛け柱(15)とバネ掛け突起(16)とにコイルバネ(17)が張設されており、これらで戻り機構(M)が形成されるようになっている。
【0036】
而して、出入口(21)が引戸(D1)(D2)によって閉じられている状態「或いは控え壁(T)から引戸(D3)が引き出されて閉戸されている状態」から開戸する場合、引手(1)の指挿入口(3a)に指を挿入し、指掛部材(5)の操作部(4)に指を掛け、枢着軸(8)を中心として操作部(4)を指挿入口(3a)から引き出すように引っ張って回動させ、その状態で一方の引戸(D1)を他方の引戸(D2)方向[又は、控え壁(T)に引戸(D3)を収納する方向]に押す。指掛部材(5)の引き出し方向の回動と共に作動部(10)が指詰防止部(7)の係合部(11)に係合しつつ引手本体(2)の底部(2b)側に回動し、その反作用として戸当たり部材(6)が枢支軸(9)を中心として回動し、指詰防止部(7)が引手本体(2)の凹部(3)から突出する。この間、戸当たり部材(6)のバネ掛け柱(15)は前記戸当たり部材(6)の回動と共に回動し、コイルバネ(17)を引き伸ばす。そして、ストッパー部(51)は角長孔(31)を端から端まで移動し、角長孔(31)の一方の端部(31a)に当接して停止し、これにより指掛部材(5)の回動角度が規定される。前記コイルバネ(17)のバネ力は弱く、一方の引戸(D1)を他方の(D2)方向に押す時の押圧力(又は、控え壁(T)に引戸(D3)を収納する方向に押す時の押圧力)に負け、押圧移動の間は指掛部材(5)の復帰動作をさせることが出来ない。
【0037】
このようにしてこの作業の中で前述のように一方の引戸(D1)を他方の引戸(D2)方向(又は、控え壁(T)に引戸(D3)を収納する方向)に押す。この時、指詰防止部(7)が引手本体(2)の凹部(3)から突出しているので、一方の引戸(D1)が他方の引戸(D2)に略重なり合い、(又は、控え壁(T)に引戸(D3)にほぼ収納されて、)指をかけている側の引手(1)が他方の引戸(D2)(又は、控え壁(T))の端部に近接した時、前記戸当たり部材(6)の指詰防止部(7)が他方の引戸(D2)(又は、控え壁(T))の端部に当接してそれ以上の移動を停止させる。指掛部材(5)の操作部(4)は指詰防止部(7)から離れた位置にあり、親指は操作部(4)の表面に添えられた状態になるので、親指の指つめは確実に防止することが出来る。
【0038】
開戸が行われ、指掛部材(5)の操作部(4)から指を離すと、コイルバネ(17)の弾発力により戸当たり部材(6)は復帰方向に反転して指詰防止部(7)は凹部(3)内に戻り、同時に戸当たり部材(6)の係合部(11)の復帰方向の回動により、これに係合している指掛部材(5)の作動部(10)が押し戻され、操作部(4)も凹部(3)内に戻る。この時、指掛部材(5)のストッパー部(51)も復帰方向に移動して角長孔(31)の反対側の端部(31b)に当接して停止し、指掛部材(5)の表面(5a)と戸当たり部材(6)の表面(6a)は外鍔(2a)の表面に面一になる。そして、引戸(D1)又は(D3)を開戸方向に押すと、引戸(D1)はもう一方の引戸(D2)に完全に重なり、或いは引戸(D3)が控え壁(T)内に完全に収納され、指詰防止機構を設けたにも拘わらず開口部(21)は完全に開かれた状態となる。
【0039】
次に、第2変形例を説明する。第1変形例と同じ部分は同一番号を付して説明を省略し、異なる部分のみを説明する。保持機構(H)は、例えば図10〜13に示すように、引手本体(2)の上・下内側面(2c)に枢支軸(9)を中心とする弧状の凹溝(33)が形成され、外鍔(2a)側の凹溝(33)内の溝底に小突起(33a)が突設され、小突起(33a)から外鍔(2a)側の凹部分が保持凹部(33b)となる。
【0040】
一方、戸当たり部材(6)の前記上・下内側面(2c)に対向する面には保持用バネ(34)を収納するためのバネ収納凹溝(35)が凹設されており、変形略Z字状に形成された保持用バネ(34)の一端がバネ収納凹溝(35)の溝底にビス(37)で固定されており、保持用バネ(34)の他端に設けられた突起(36)が保持用バネ(34)の弾発力を受けながらバネ収納凹溝(35)中を戸当たり部材(6)の回動と共に移動するようになっている。
【0041】
これにより、第1変形例と同様、指掛部材(5)を指で引っ張り出す方向に回動させ、この回動に連動させて戸当たり部材(6)を回動させると指詰防止部(7)が引戸(D1)から突出し、同時にこの回動運動に合わせて突起(36)が弧状の凹溝(33)内を移動し、回動の最終時点で保持用バネ(34)が撓んで突起(36)が小突起(33a)を乗り越えて保持凹部(33b)に入り込みこの状態が保持される。これにより、控え壁(T)やもう一方の移動させていない引戸(D2)の端部に戸当たり部材(6)の指詰防止部(7)が当たる前に、例えば指が離れるなど意図しない場合でも、指詰防止部(7)が引手(1)内に戻ってしまうことを防ぐことができより安全に使用することができる。
【0042】
開戸が終了した後、突出状態にある指詰防止部(7)を凹部(3)への収納方向に指で押圧すると、保持用バネ(34)が撓んで突起(36)が小突起(33a)を乗り越えて弧状の凹溝(33)を移動し、最終的に指詰防止部(7)が凹部(3)に収納される。凹溝(33)内では保持用バネ(34)の弾発力で突起(36)が凹溝(33)の溝底に押圧されて収納状態が保持される。
【0043】
本発明に係る引戸構造は2枚からなる引戸に限られるものではなく、3枚以上の複数の引戸が水平方向にスライドすることにより開口部を開閉するものも含まれる。また、引戸と控え壁とからなる引戸構造は、1枚の戸と控え壁からなるものに限られるものではなく、例えば、2つの控え壁の間の開口部を2枚の引戸で開閉するものも含まれる。
【符号の説明】
【0044】
(D1)(D2)(D3) 引戸
(d1)(d2) 引戸(D1)(D2)の隣接側の面
(H) 保持機構
(M) 戻り機構
(T) 控え壁
(t) 引戸収納部
(1) 引手
(2) 引手本体
(3) 凹部
(4) 操作部
(5) 指掛部材
(5b) 戸当たり部材隣接側面
(6) 戸当たり部材
(7) 指詰防止部
(7a) 指詰防止面
(7b) 指掛部材隣接側面
(8) 枢着軸
(9) 枢支軸
(10) 作動部
(11) 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸の表面に取り付けられ、指収納用の凹部が設けられている引手本体と、
該凹部から出没可能にて所定角度で往復回動可能に枢着軸に取り付けられ、開戸させる時にその操作部に指を掛けて力を加えた場合、該凹部から突出方向に回転する指掛部材と、
該指掛部材に隣接して前記凹部内に配設され、指掛部材の回転に連動して前記凹部からその指詰防止部が出没可能にて所定角度で往復回動可能に枢支軸に取り付けられた戸当たり部材とで構成され、
枢着軸を越えて操作部の反対側の戸当たり部材隣接側面から作動部が突設され、
枢支軸を越えて指詰防止部の反対側の指掛部材隣接側面に作動部と係合して連動する係合部が突設されていることを特徴とする引手。
【請求項2】
戸当たり部材の指詰防止部が突出した状態から凹部に収納された状態に戻るようにするための戻り機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の引手。
【請求項3】
戸当たり部材の指詰防止部が突出した状態では引手本体に対して垂直となる指詰防止面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の引手。
【請求項4】
戸当たり部材の指詰防止部が突出した状態で保持される保持機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の引手。
【請求項5】
引戸の隣接側の面に請求項1〜4のいずれかに記載の引手が取り付けられていることを特徴とする引き違い構造の引戸構造。
【請求項6】
控え壁の引戸収納部に引戸を挿脱する引戸構造において、引戸の両面に請求項1〜4のいずれかに記載の引手が取り付けられていることを特徴とする引戸構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−127356(P2011−127356A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287687(P2009−287687)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000204985)大建工業株式会社 (419)
【出願人】(000169329)アトムリビンテック株式会社 (81)
【Fターム(参考)】