説明

引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法

【課題】引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートを巻取り機で巻き取る際に巻きシワの発生を防止できるとともに、厚さや機械的物性を均一にし、好適に熱可塑性樹脂シートを引抜延伸成形して製造することを可能にする引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】一対の引抜延伸ロールの間に通過させて熱可塑性樹脂シートを引抜延伸しつつ引抜延伸後の熱可塑性樹脂シート1’を巻取り機9で巻き取って、引抜延伸した熱可塑性樹脂シート1’を製造する方法において、一対の引抜延伸ロールと巻取り機9の間に設けた端部切断除去装置11によって、引抜延伸後の熱可塑性樹脂シート1’の幅方向T両端部1a、1b側をそれぞれ切断除去し、両端部1a、1b側を切断除去した引抜延伸後の熱可塑性樹脂シート1’を巻取り機9で巻き取るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雨樋等の建築部材の材料として、耐水性、難燃性、機械的特性に優れ、且つ価格が比較的安価であるため、塩化ビニル系樹脂が多用されているが、例えば、塩化ビニル系樹脂を用いて製造した雨樋は、塩化ビニル系樹脂の線膨張係数が7.0×10(1/℃)と大きいため、雨樋の設置時に伸縮を吸収しうる継手で接続したり、端部を自由端にする必要があった。
【0003】
このため、線膨張係数が低いポリエステル系樹脂シート(熱可塑性樹脂シート)を芯材とし、この芯材に塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂を押出成形によって一体に積層して雨樋などの積層成形体を製造することが提案、実用化されている。また、PETシートなどのポリエステル系樹脂シートをある程度加熱しながら一定方向に引っ張って延伸すると、延伸方向に分子配列が生じて機械的強度を向上させることができることから、引抜延伸したポリエステル系樹脂シートを芯材として用いるようにしている。
【0004】
一方、ポリエステル系樹脂は、低温で硬すぎて延伸に必要な柔軟性が不足し、高温で配向の緩和が支配的になる。このため、強度及び弾性率の優れたポリエステル系樹脂シートを得るためには、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜+20℃の温度範囲で引抜延伸成形することが必要とされている。そして、従来、上記の温度範囲で加熱した一対の引抜延伸ロールの間にポリエステル系樹脂シートを通過させて、引抜延伸したポリエステル系樹脂シートを製造するようにしている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−237699号公報
【特許文献2】特許第3804023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にポリエステル系樹脂シートを引抜延伸で成形する場合には、温度差に起因して、引抜延伸の前後でポリエステル系樹脂シートに幅方向の収縮が発生し、中央側よりも両端部側の厚みが大きくなって、幅方向の厚みに差(分布)が生じる場合があった。さらに、幅方向の厚みに差が生じると、ポリエステル系樹脂シートの端部側と中央側とで引抜延伸方向の長さに差異が発生する。
【0007】
そして、このように引抜延伸後のシートの端部側と中央側に厚みや長さの差異が生じていると、引抜延伸後のシートを巻き取る際に、巻取り機の巻きトルクの調整が難しくなり、引抜延伸後のポリエステル系樹脂シートの端部側に張力を合わせると中央側が弛み、中央側に張力を合わせると端部側が強く巻かれ、シワが発生しやすくなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を提供している。
【0009】
請求項1記載の引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法は、一対の引抜延伸ロールの間に通過させて熱可塑性樹脂シートを引抜延伸しつつ引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートを巻取り機で巻き取って、引抜延伸した熱可塑性樹脂シートを製造する方法において、前記一対の引抜延伸ロールと前記巻取り機の間に設けた端部切断除去装置によって、前記引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートの幅方向両端部側をそれぞれ切断除去し、両端部側を切断除去した引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートを前記巻取り機で巻き取るようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法においては、端部切断除去装置を用い、引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートの端部側を切断除去しながら巻取り機で巻き取るようにしたことで、両端部側を切断除去した引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートの幅方向中央側と両端部側の厚みの差をなくす(もしくは小さくする)ことができる。
【0011】
これにより、両端部側を切断除去した引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートを巻取り機で巻き取る際に、巻きトルクの調整を行うことなく、確実且つ容易に巻きシワの発生を防止できる。よって、厚さや機械的物性を均一にし、好適に熱可塑性樹脂シートを引抜延伸成形して製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂シート延伸装置を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂シート延伸装置の端部切断除去装置を示す斜視図である。
【図3】端部側を切断除去する前の熱可塑性樹脂シートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1から図3を参照し、本発明の一実施形態に係る引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法について説明する。なお、本実施形態は、例えば雨樋などを製造する際に芯材として用いられるポリエステル系樹脂シートを引抜延伸し、機械的物性を向上させたポリエステル系樹脂シート(熱可塑性樹脂シート)を製造する方法に関するものである。
【0014】
はじめに、ポリエステル系樹脂シートは、ポリエステル系樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロールクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等が用いられる。
【0015】
そして、このポリエステル系樹脂シートを引抜延伸成形するための熱可塑性樹脂シート延伸装置Aは、図1に示すように、延伸前のポリエステル系樹脂シート1が巻き回された供給ロール2と、供給ロール2から繰り出されたポリエステル系樹脂シート1を加熱する予熱炉3と、供給ロール2と予熱炉3の間に設けられた一対のブレーキロール4と、予熱炉3で加熱したポリエステル系樹脂シート1を互いの間に通過させて引抜延伸するための一対の引抜延伸ロール5とを備えている。
【0016】
また、軸線回りに回転駆動して引抜延伸ロール5から送られたポリエステル系樹脂シート1を引き取るとともに、ブレーキロール4でブレーキをかけながら一対の引抜延伸ロール5を通過するポリエステル系樹脂シート1を引っ張って引き抜く一対の第1引取り駆動ロール6を備えている。
【0017】
さらに、この熱可塑性樹脂シート延伸装置Aは、一対の第1引取り駆動ロール6から送られたポリエステル系樹脂シート1を熱風で加熱する熱処理炉7と、軸線回りに回転駆動し、熱処理炉7から送られたポリエステル系樹脂シート1を引き取るとともに、熱処理炉7中のポリエステル系樹脂シート1を引っ張ってさらに延伸させるための一対の第2引取り駆動ロール8と、一対の第2引取り駆動ロール8から送られた引抜延伸後のポリエステル系樹脂シート1’を巻き取る巻取り機9とを備えている。また、供給ロール2から巻取り機9の間には、ポリエステル系樹脂シート1の送り方向や張力を好適な状態に調節するための支持ロール10が適宜設けられている。
【0018】
さらに、本実施形態の熱可塑性樹脂シート延伸装置Aにおいては、図1及び図2に示すように、一対の第2引取り駆動ロール8と巻取り機9の間(一対の引抜延伸ロール5と巻取り機9の間)に、引抜延伸後のポリエステル系樹脂シート1’の幅方向T両端部1a、1b側をそれぞれ切断除去するための端部切断除去装置11が設けられている。
【0019】
この端部切断除去装置11は、巻取り機9に向けて搬送される引抜延伸後のポリエステル系樹脂シート1’の両端部1a、1bからそれぞれ幅方向T内側の所定位置に配設された一対の切断刃12、13と、各切断刃12、13によって切り取られたポリエステル系樹脂シート1’の各端部1a、1b側の帯状の切断片1c、1dを巻き取って回収する一対の切断片巻取り機14、15とを備えている。また、各切断刃12、13は、ポリエステル系樹脂シート1’の端部1a、1bから任意の幅方向T内側の位置を切断できるように、その位置を適宜調節可能に設けられている。
【0020】
次に、上記構成からなる熱可塑性樹脂シート延伸装置Aを用い、引抜延伸したポリエステル系樹脂シート1’を製造する方法(本実施形態の引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法)について説明する。
【0021】
ポリエステル系樹脂シート1を引抜延伸成形する際には、図1及び図2に示すように、第1引取り駆動ロール6、第2引取り駆動ロール8を回転駆動するとともに巻取り機9を駆動する。第1引取り駆動ロール6、第2引取り駆動ロール8を駆動すると、ポリエステル系樹脂シート1が引っ張られ、供給ロール2からが繰り出される。そして、供給ロール2から繰り出されたポリエステル系樹脂シート1は、予熱炉3に送られて例えば60〜70℃に加熱される。加熱されたポリエステル系樹脂シート1は、予熱炉3から一対の引抜延伸ロール5の間に送られ、ブレーキロール4でブレーキをかけながら一対の第1引取り駆動ロール6に引っ張られ、一対の引抜延伸ロール5の間を通過するとともに引抜延伸される。
【0022】
さらに、ポリエステル系樹脂シート1は、一対の第1引取り駆動ロール6から熱処理炉7に送られ、例えば170℃の熱風で加熱される。そして、一対の第2引取り駆動ロール8の駆動によって熱処理炉7中のポリエステル系樹脂シート1が引っ張られることで、さらに延伸し、例えば5〜6倍に延伸したポリエステル系樹脂シート1’が得られる。
【0023】
一方、このとき、ポリエステル系樹脂シート1’の両端部1a、1b側と中央側の温度差に起因して、引抜延伸の前後でポリエステル系樹脂シート1’に幅方向Tの収縮が発生する。これにより、図3に示すように、中央側よりも両端部1a、1b側の厚みが大きくなって、幅方向の厚みに差が生じ、この幅方向Tの厚みの差に起因してポリエステル系樹脂シート1’の端部1a、1b側と中央側とで長さに差異が発生する。そして、端部1a、1b側と中央側の厚みや長さに差異が発生すると、引抜延伸後のポリエステル系樹脂シート1’を巻取り機9で巻き取る際にシワが発生しやすくなる。また、厚みや長さの精度が許容範囲を超えて不良品になるおそれもある。
【0024】
これに対し、本実施形態では、図1及び図2に示すように、一対の引抜延伸ロール5と巻取り機9の間に、端部切断除去装置11を設け、この端部切断除去装置11の切断刃12、13が、引抜延伸後、且つ巻取り機9に巻き取られる前のポリエステル系樹脂シート1’の両端部1a、1b側に切り込まれ、この樹脂シート1’の両端部1a、1b側がそれぞれ、所定の幅の帯状の切断片1c、1dとして切断除去される。また、各切断片1c、1dは、順次切断片巻取り機14、15に巻き取られる。
【0025】
そして、各切断刃12、13がその位置を調節可能に設けられ、引抜延伸後のポリエステル系樹脂シート1’の端部1a、1b側を任意の幅寸法で切断除去することができる。これにより、確実にポリエステル系樹脂シート1’の中央側よりも厚みが大きな両端部1a、1b側を切断除去するように調節しておくことで、巻取り機9に、厚みや長さに大きな差異が生じていないポリエステル系樹脂シート1’を巻き取ることができる。よって、巻取り機9に巻き取られた引抜延伸後のポリエステル系樹脂シート1’に巻きシワが発生することがない。
【0026】
〔実施例〕
ここで、実証試験について説明し、PET製原反(引抜延伸前の熱可塑性樹脂シート)1を引抜延伸成形し、引抜延伸後の樹脂シート1’の両端部1a、1b側をそれぞれ端部切断除去装置11で切断除去するようにした本発明の優位性を示す。
【0027】
まず、この実証試験では、表1(図1、図2参照)に示すように、幅200mm×厚さ1.0mmのPET製原反1と、幅170mm×厚さ1.0mmのPET製原反1をそれぞれ引抜延伸した。また、PET製原反1は、各75℃に予熱した後、直径200mm、面長400mm、ロール間隔0.2mm、加熱温度80℃の一対の引抜延伸ロール5の間を線速度2.0m/minで引抜延伸した。さらに、引き抜かれた樹脂シート1’を170℃に加熱した熱処理炉7に出口速度2.5m/minで通過させ、延伸倍率5〜6倍に引抜延伸成形した樹脂シート1’を製造するようにした。
【0028】
【表1】

【0029】
また、実施例1〜4では、幅200mm×厚さ1.0mmのPET製原反1を引抜延伸し、端部切断除去装置11によって樹脂シート1’の端部1a、1bから25mm(実施例1)、15mm(実施例2)、10mm(実施例3)、5mm(実施例4)の位置で切断除去した。そして、各実施例で製造した樹脂シート1’に対し、端部1a、1b側(端部1a、1bから10mmの位置)の厚みと、中央の厚みをそれぞれ計測するとともに、巻取り機9で巻き取りした状態を観察して巻きシワの有無を確認した。
【0030】
さらに、比較例1〜2では、端部切断除去装置11によって端部1a、1b側を切断せずに樹脂シート1’を製造し、実施例1〜4と同様、この引抜延伸後の樹脂シート1’に対し、端部1a、1b側の厚みと、中央の厚みをそれぞれ計測し、さらに、巻取り機9で巻き取りした状態を観察して巻きシワの有無を確認した。また、比較例1では、幅200mm×厚さ1.0mmのPET製原反1を引抜延伸し、比較例2では、幅170mm×厚さ1.0mmのPET製原反1を引抜延伸した。
【0031】
そして、この実証試験の結果、表1に示すように、比較例1、2はともにシート端部1a、1bの厚みが中央よりも大きくなり、巻きシワが発生することが確認された。これに対し、樹脂シート1’の端部1a、1b側を25mm切断除去した実施例1と、15mm切断除去した実施例2と、10mm切断除去した実施例3では、比較例1、2と比べ、端部1a、1b側の厚みが小さくなって端部1a、1b側と中央側の厚みの差がなくなり、さらに、巻きシワが発生することなく、良好に巻き取れることが確認された。一方で、樹脂シート1’の端部1a、1b側を5mm切断除去した実施例4では、シート端部1a、1bの切断幅が少な過ぎて厚みが大きいままとなり、巻きシワの発生が確認された。
【0032】
したがって、本実施形態の引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法においては、端部切断除去装置11を用い、引抜延伸後の樹脂シート1’の端部1a、1b側を切断除去しながら巻取り機で巻き取るようにしたことで、両端部1a、1b側を切断除去した引抜延伸後の樹脂シート1’の幅方向T中央側と両端部1a、1b側の厚みの差をなくす(もしくは小さくする)ことができる。
【0033】
これにより、両端部1a、1b側を切断除去した引抜延伸後の樹脂シート1’を巻取り機9で巻き取る際に、巻きトルクの調整を行うことなく、確実且つ容易に巻きシワの発生を防止できる。よって、厚さや機械的物性を均一にし、好適に熱可塑性樹脂シート1’を引抜延伸成形して製造することが可能になる。
【0034】
以上、本発明に係る引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 ポリエステル系樹脂シート(熱可塑性樹脂シート)
1’ 引抜延伸後のポリエステル系樹脂シート(熱可塑性樹脂シート)
1a 端部
1b 端部
1c 切断片
1d 切断片
2 供給ロール
3 予熱炉
4 ブレーキロール
5 引抜延伸ロール
6 第1引取り駆動ロール
7 熱処理炉
8 第2引取り駆動ロール
9 巻取り機
10 支持ロール
11 端部切断除去装置
12 切断刃
13 切断刃
14 切断片巻取り機
15 切断片巻取り機
A 熱可塑性樹脂シート延伸装置
T 幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の引抜延伸ロールの間に通過させて熱可塑性樹脂シートを引抜延伸しつつ引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートを巻取り機で巻き取って、引抜延伸した熱可塑性樹脂シートを製造する方法において、
前記一対の引抜延伸ロールと前記巻取り機の間に設けた端部切断除去装置によって、前記引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートの幅方向両端部側をそれぞれ切断除去し、
両端部側を切断除去した引抜延伸後の熱可塑性樹脂シートを前記巻取り機で巻き取るようにしたことを特徴とする引抜延伸による熱可塑性樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−245701(P2012−245701A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119388(P2011−119388)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】