説明

張り出し架設工法における柱頭部PC桁仮固定構造

【課題】柱頭部PC桁仮固定部材の撤去が、短時間で、かつ容易に行なわれる柱頭部PC桁仮固定構造の提供。
【解決手段】張り出し架設を行なう橋梁の柱頭部PC桁11を下部工10の上端との間にコンクリート製の仮沓12を介在させるとともに、下部工10に対しPC緊張材13を使用して仮固定する張り出し架設PC桁の柱頭部仮固定に際し、仮沓12は、上下面に一体に突設した多数のせん断キー24有し、該せん断キー24を仮沓上面側の柱頭部PC桁下面及び下部工上面に嵌合させ、該せん断キー24によって仮沓12と柱頭部PC桁11及び下部工10と間の水平方向のせん断力に対抗させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁を片持式に順次張り出すことによって構築する張り出し架設工法において、橋脚等の下部工上に設置する柱頭部PC桁を仮固定するための張り出し架設工法における柱頭部PC桁仮固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、PC橋の張り出し架設工法では、架設後の連続桁全体にプレストレスを導入させるものであるが、張り出し架設途中においては橋脚等の下部工と、該下部工上に支持させた柱頭部PC桁とを仮固定させておき、これによって架設時の安定性を確保している。
【0003】
また、互いに対向して順次張り出された桁の端部間が互いに付き合わされて連続桁が形成された後、連続桁全体にプレストレスを導入するために、前記仮固定を解除する必要がある。
【0004】
従来の仮固定構造は、図5に示す構造が一般的であった(例えば特許文献1)。同図において1は主として橋脚からなる下部工であり、2は柱頭部PC桁である。この柱頭部PC桁2を形成する際に、下部工1上に鉄筋コンクリート製の仮沓3を設置するとともに、下部工1内に下端側を定着させたPC緊張材4を、仮沓3に貫通させて柱頭部PC桁2に挿通し、その上端を柱頭部PC桁2の上面側に支持させて緊張定着させ、これによって張り出し桁の上下方向の回転モーメントに対抗させている。
【0005】
一方、これとは別に、H型鋼5の両端を下部工1と柱頭部PC桁2に埋設した状態で設置し、これによって地震時の水平方向のせん断力に対抗させている。
【特許文献1】特開平7−71007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、上述した連続桁式の張り出し架設工法では、片持式によって張り出し形成した対向する桁端部が接合された状態の連続桁全体にプレストレスを導入するものであり、桁端部間が接合された後、速やかにプレストレスを導入する必要があるが、柱頭部PC桁と下部工間が仮固定されたままではプレストレスが導入されにくい。このため仮固定を速やかに解除する必要がある。
【0007】
しかし、上述した従来の柱頭部PC桁仮固定構造では、鉛直力を受けている仮沓は鉄筋コンクリート製である場合が多く、その撤去にはコンクリートのはつりと鉄筋の切断とを行なわなければならず、作業が著しく困難である。
【0008】
また、水平方向のせん断抵抗を受け持っているH型鋼は、上下の端部が柱頭部PC桁及び下部工内に埋設されているため、これをガス等で切断しなければならず、切断後にはその切断面が露出することとなり、その露出面に防錆処理を施さなければならない。
【0009】
以上のように、従来の柱頭部PC桁仮固定の解除には多くの困難な作業が必要であるため、短時間での撤去は困難であるとともに、耐久性等の問題があった。
【0010】
本発明はこのような従来の問題に鑑み、柱頭部PC桁仮固定部材の撤去が、短時間で、かつ容易に行なわれ、桁連続後に短時間でプレストレス導入作業を行なうことができる張り出し架設工法における柱頭部PC桁仮固定構造の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、張り出し架設を行なう橋梁の柱頭部PC桁を下部工の上端との間に、コンクリート製の仮沓を介在させるとともに、該柱頭部PC桁を下部工に対しPC緊張材を使用して仮固定する張り出し架設PC桁の柱頭部仮固定構造において、
前記仮沓は、上下面に一体に突設した多数のせん断キーを有し、該せん断キーを仮沓上面側の柱頭部PC桁下面及び下部工上面に嵌合させ、該せん断キーによって仮沓と柱頭部PC桁及び下部工と間の水平方向のせん断力に対抗させるようにしたことにある。
【0012】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記仮沓は、側部周面を構成する鋼殻を有し、該鋼殻内に無筋コンクリートを充填して構成されていることにある。
【0013】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の何れか1の請求項の構成に加え、前記せん断キーは、橋軸方向と直交する向きの凹凸条を橋軸方向に交互に配置した波型に形成することによって構成されていることにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、仮沓として、上下面に一体に突設した多数のせん断キー有するものを使用し、該せん断キーを仮沓上面側の柱頭部PC桁下面及び下部工上面に嵌合させ、該せん断キーによって仮沓と柱頭部PC桁及び下部工と間の水平方向のせん断力に対抗させるようにしたことにより、従来使用していた水平方向のせん断抵抗を受け持たせるH型鋼が不要になり、柱頭部PC桁の仮固定解除作業は、PC緊張材の緊張解除と、仮沓の除去作業によって完了するため、従来に比べて作業工数が少なく、短時間で連続桁のプレストレスの導入を完了することができる。
【0015】
また、水平方向のせん断抵抗を受け持たせるH型鋼を使用しないため、その切断作業や切断作業後の防錆作業が不要となり、作業工数が著しく削減される。
【0016】
また、本発明では、前記仮沓は、側部周面を構成する鋼殻を有し、該鋼殻内に無筋コンクリートを充填して構成されていることにより、仮沓の撤去に際し、鋼殻はガス切断等によって切断することにより容易に除去でき、また、鋼殻除去後に残るコンクリートは無筋であるため、コンクリートブレーカーによって容易かつ短時間に除去できる。
【0017】
更に、本発明では、前記せん断キーは、橋軸方向と直交する向きの凹凸条を橋軸方向に交互に配置した波型に形成することによって構成されていることにより、マッチキャスト形式によって仮沓の上下面のせん断キーと整合する形状に、下側の下部工及び上側の柱頭部PC桁の各対応面が容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に本発明の実施の形態を図1〜図4に示した実施例に基づいて説明する。図において符号10は、橋脚等の下部工であり、11は下部工10上に仮固定した柱頭部PC桁である。この仮固定は、仮沓12とPC緊張材13とによってなされている。PC緊張材13は下端が下部工10内に埋設されて定着され、上端側が仮沓12を通して柱頭部PC桁11に貫通され、その上端が支圧板を介して定着具14により緊張定着されている。
【0019】
仮沓12は、図2〜図4に示すように、上下面を除く側部周面に鋼鈑からなる鋼殻20を備え、その内部にコンクリート21を打設して構成されており、コンクリートは鉄筋を使用しない無筋コンクリート構造となっている。
【0020】
鋼殻20は、仮沓12の側部周面を構成している他、その内部を複数の隔室に仕切る隔壁22が一体に備えられ、その各隔室内にコンクリート21が充填されて構成されている。
【0021】
仮沓12の上下面は、前記鋼殻20の上下縁部より後述するせん断キーの高さ分だけ突出されてコンクリート21が打設されており、該上下面に多数のせん断キー24が一体に形成されている。
【0022】
仮沓12の上下面は、凹溝24aと突条24bが交互に並べて形成されることにより断面が波型に形成され、その波型の凸部がせん断キー24となっている。この突条24aからなるせん断キー24を柱頭部PC桁11の橋軸方向と直交する方向に向けて設置している。
【0023】
この仮沓12の上下面と接合する柱頭部PC桁11の下面及び下部工10の上面は、互いに嵌りあう形状に形成されており、仮沓のせん断キー24の間に柱頭部PC桁11下面及び下部工上面のせん断キー25が密に嵌り合っている構造となっている。
【0024】
仮沓12の設置は、先ず仮沓12を鋼殻20付きのコンクリートブロックとして形成しておき、これを下部工の上面形成に際し、仮沓20を下部工コンクリートの固化前に該下部工上面に置くことによって、仮沓20の下面が互いに密着して嵌りあう形状にせん断キー25を形成し、このようにして下部工10の上面に設置した仮沓20の上面に直接柱頭部PC桁11を形成するコンクリートを打設することによって仮沓20の上面が互いに密着して嵌りあう形状にせん断キー25を形成することができる。
【0025】
尚、上述したせん断キー24,25は、この実施例では断面波型に形成しているが、この他、断面が台形等の角型突条であってもよく、更には、格子状の凹溝を形成することによって形成される角型の突起であってもよい。
【0026】
このように、上下面にせん断キーを有する仮沓20を使用し、その上下面のせん断キー24を柱頭部PC桁11下面及び下部工10上面に密に嵌め合わせるとともに、PC緊張材13によって下部工10と柱頭部PC桁11間を引き寄せる方向の荷重をかけることにより、せん断キー24の存在によって、橋桁の張り出し施工時に生じる水平方向のせん断力に十分に対抗させることができ、従来使用していた耐せん断力用のH型鋼が不要となる。
【0027】
また、仮固定時及び橋桁張り出し施工時に仮沓12に作用する垂直荷重に対しては外周面の鋼殻20によって座屈が防止され、鉄筋コンクリートと同様又はそれ以上に、耐えることができる。
【0028】
そして、仮固定を解除する際には、従来と同様にPC緊張材13による緊張を解除した後、仮沓12の周面の鋼殻20は、その表面から切断することによって容易に除去でき、鋼殻20を除去したあとに残るコンクリート21は、鉄筋が埋設されていない無筋コンクリートであるため、コンクリートブレーカー等の簡易な装置により容易に除去することができる。
【0029】
このように、下部工間に跨った連続桁が完成した後の仮固定の解除は、PC緊張材13による緊張解除と、前述した仮沓12の短時間での容易な除去作業によってなされ、従来のようなH型鋼の除去が不要であるため、連続桁に対するプレストレスの導入作業を早期に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例である下部工に対する柱頭部PC桁の仮固定状態を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す実施例に使用されている仮沓部分の拡大断面図である。
【図3】図1に示す実施例に使用されている仮沓の平面図である。
【図4】同、側面図である。
【図5】従来の下部工に対する柱頭部PC桁の仮固定状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 下部工
11 柱頭部PC桁
12 仮沓
13 PC緊張材
14 定着具
20 鋼殻
21 コンクリート
22 隔壁
24 せん断キー
24a 凹溝
24b 突条
25 せん断キー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
張り出し架設を行なう橋梁の柱頭部PC桁を下部工の上端との間に、コンクリート製の仮沓を介在させるとともに、該柱頭部PC桁を下部工に対しPC緊張材を使用して仮固定する張り出し架設PC桁の柱頭部仮固定構造において、
前記仮沓は、上下面に一体に突設した多数のせん断キーを有し、該せん断キーを仮沓上面側の柱頭部PC桁下面及び下部工上面に嵌合させ、該せん断キーによって仮沓と柱頭部PC桁及び下部工と間の水平方向のせん断力に対抗させるようにしたことを特徴としてなる張り出し架設PC桁の柱頭部仮固定構造。
【請求項2】
前記仮沓は、側部周面を構成する鋼殻を有し、該鋼殻内に無筋コンクリートを充填して構成されている請求項1に記載の張り出し架設PC桁の柱頭部仮固定構造。
【請求項3】
前記せん断キーは、橋軸方向と直交する向きの凹凸条を橋軸方向に交互に配置した波型に形成することによって構成されている請求項1又は2の何れか1に記載の張り出し架設PC桁の柱頭部仮固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−37726(P2010−37726A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198327(P2008−198327)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】