説明

張力付与装置及びそれを備える繊維機械

【課題】走行する糸に張力を付与する張力付与装置において、上流側又は下流側での張力変動や糸太さの変動にかかわらず張力を安定して付与できる構成を提供する。
【解決手段】ディスクテンサ13は、第2ディスク72と、ソレノイド81と、押圧バネ86と、衝撃吸収部材としてのゲル部材65と、を備える。第2ディスク72は、走行している糸20に接触して張力付与作用を行う。ソレノイド81及び押圧バネ86は、糸20に対して付与する張力を増大させる方向に第2ディスク72を押圧することが可能である。ゲル部材65は、第2ディスク72とソレノイド81(又は押圧バネ86)との間に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、走行する糸に所定の張力を付与するための張力付与装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の張力付与装置は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1は、走行する糸を固定ディスクと作動ディスクで挟持して糸に一定の摩擦力を及ぼす構成のテンサを開示する。特許文献1において、固定ディスクはモータの回転軸に支持されており、回転可能である。一方、作動ディスクは固定ディスクと同一中心軸を有しており、支軸の回りに旋回可能なアームの先端に支持されている。アームにはスプリングが設けられており、これによりアームを付勢して作動ディスクを固定ディスクに圧接させる。
【特許文献1】実開平5−14602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1の構成は、例えばテンサより上流側又は下流側で糸に付与される張力が大きく変動する場合、糸に衝撃的な力が加わって、ディスクの部分で糸切れが頻発することがあった。また、糸は多少の太さムラを有しているが、例えば通常より太い部分(太ムラ)がディスクを通過した直後は、ディスクと糸との間が瞬間的に離れて張力を付与できなくなり(ゼロテンション)、糸の張力が瞬間的に大幅に減少することがあった。従って、特許文献1の構成は、糸切れを防止し、糸に張力を安定的に付与する観点から改善の余地が残されていた。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0005】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の張力付与装置が提供される。即ち、この張力付与装置は、作用部材と、押圧部と、衝撃吸収部材と、を備える。前記作用部材は、走行している糸に接触して張力付与作用を行う。前記押圧部は、前記糸に対して付与する張力を増大させる方向に押圧することが可能である。前記衝撃吸収部材は、前記作用部材と前記押圧部との間に配置される。
【0006】
これにより、例えば張力付与装置より上流側又は下流側で糸に付与される張力が変動したり、糸の太さムラの部分が作用部材を通過したりすること等によって作用部材に瞬間的な力が作用しても、その衝撃を衝撃吸収部材によって吸収することができる。従って、糸切れを効果的に防止できるとともに、押圧部によって糸に付与される張力の変動を効果的に抑制することができる。
【0007】
前記の張力付与装置においては、前記衝撃吸収部材はゲル部材によりなることが好ましい。
【0008】
これにより、糸に付与する張力を簡単な構成で安定化させることができる。また、圧縮永久歪みが一般的に少ないゲル部材を衝撃吸収のために用いることにより、長期間の使用によっても衝撃吸収性能を安定して発揮させることができる。
【0009】
前記の張力付与装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記衝撃吸収部材は、前記押圧部からの押圧力を受ける被押圧面を一側に備えるとともに、前記押圧力を前記作用部材へ伝達するための伝達面を他側に備える。前記被押圧面と前記伝達面の間の部分において、前記衝撃吸収部材の周囲に空間が形成されている。
【0010】
これにより、作用部材側から伝わる衝撃を、衝撃吸収部材が周囲を膨らませるように変形することで良好に吸収することができる。従って、小さな衝撃吸収部材を採用しても優れた衝撃吸収性能を発揮できるので、構成の小型化に貢献することができる。
【0011】
前記の張力付与装置においては、前記作用部材は回転可能なディスクであることが好ましい。
【0012】
これにより、ディスクを回転させることで、当該ディスクの新鮮な面を糸に接触させて張力付与作用を行わせることができる。従って、作用部材としてのディスクの摩耗及び汚れの蓄積を効果的に防止でき、メンテナンス頻度を低減することができる。
【0013】
前記の張力付与装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記衝撃吸収部材は、前記押圧部からの押圧力を受ける被押圧面と、前記押圧力を前記ディスクへ伝達するための伝達面と、を備える。前記被押圧面及び前記伝達面の少なくとも何れか一方には耐摩耗シートが固定されている。
【0014】
これにより、被押圧面又は伝達面の部分において耐摩耗シートを滑らせることで、当該耐摩耗シートの部分を境界としてディスク(及びディスクと一体的に回転する部材)をスムーズに回転させることができる。また、耐摩耗シートの面を境にして相対回転するので、回転滑り部分で発生する抵抗及び騒音を抑制できるとともに、衝撃吸収部材が捩り作用を受けて損傷することを防止することができる。
【0015】
本発明の第2の観点によれば、前記の張力付与装置を備えることを特徴とする繊維機械が提供される。
【0016】
これにより、糸に適切な張力を安定して付与できるので、糸切れを抑制して生産効率を向上できるとともに、高品質の製品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は自動ワインダが備える糸巻取ユニット10の構成を示す側面図である。図2は糸巻取ユニット10の概略的な構成を示す正面図及びブロック図である。
【0018】
図1及び図2に示す糸巻取ユニット10は、給糸ボビン21から解舒される糸20をトラバースさせながら巻取ボビン22に巻き付けて、所定長で所定形状のパッケージ30とするものである。本実施形態の自動ワインダ(繊維機械)は、並べて配置された複数の糸巻取ユニット10と、その並べられた方向の一端に配置された図略の機台制御装置と、を備えている。
【0019】
それぞれの糸巻取ユニット10は、正面視で左右一側に設けられたユニットフレーム11(図1)と、このユニットフレーム11の側方に設けられた巻取ユニット本体16と、を備えている。ユニットフレーム11の内部には、糸巻取ユニット10の各部を制御するためのユニット制御部50が備えられる。
【0020】
前記巻取ユニット本体16は、巻取ボビン22を保持可能に構成されたクレードル23と、糸20をトラバースさせるとともに前記巻取ボビン22を回転させるための巻取ドラム(綾振ドラム)24と、を備えている。クレードル23は、巻取ドラム24に対し近接又は離間する方向に揺動可能に構成されており、これによって、パッケージ30が巻取ドラム24に対して接触又は離間される。図2に示すように、前記巻取ドラム24の外周面には螺旋状の綾振溝27が形成されており、糸20は前記綾振溝27によってトラバースされながら巻取ボビン22に巻き取られる。
【0021】
前記巻取ユニット本体16は、給糸ボビン21と巻取ドラム24との間の糸走行経路中に、給糸ボビン21側から順に、解舒補助装置12と、ディスクテンサ(張力付与装置)13と、スプライサ装置(糸継部)14と、クリアラ(糸品質測定器)15と、を配置した構成となっている。なお、以後の説明において、糸の走行方向の上流側及び下流側を単に「上流側」及び「下流側」と称する場合がある。
【0022】
前記糸巻取ユニット10の下部にはボビンセット部(給糸部)18が構成されている。このボビンセット部18には、トレー56に装着した状態の給糸ボビン21が図略の給糸ボビン供給装置によって供給される。ボビンセット部18にセットされた給糸ボビン21は、糸20を下流側へ供給する。
【0023】
解舒補助装置12は、給糸ボビン21の芯管に被さることが可能な規制部材40と、規制部材40を上下動させることが可能な図略のアクチュエータと、を備えている。規制部材40は、給糸ボビン21から解舒された糸20の回転と遠心力によって給糸ボビン21上部に形成されたバルーンに対し接触し、当該バルーンに適切なテンションを付与することによって糸20の解舒を補助する。解舒補助装置12は、給糸ボビン21からの糸20の解舒と連動して前記アクチュエータを駆動し、前記規制部材40を下降させるように構成されている。具体的には、前記給糸ボビン21のチェース部を検出するための図略のセンサが前記規制部材40の近傍に備えられており、このセンサがチェース部の下降を検出すると前記アクチュエータを駆動して前記規制部材40を下降させる制御が行われる。
【0024】
ディスクテンサ13は、走行する糸20に所定のテンションを付与するものであり、糸20を挟んで対向するように対で配置されるディスク(張力付与部としてのディスク対73)を備えた構成となっている。このディスクテンサ13はディスクを糸20に押し付けるためのソレノイド及びバネを備えており、これによって、巻き取られる糸20に一定のテンションを付与し、パッケージ30の品質を向上させることができる。また、前記ディスク対73は低速で回転するように構成されており、常にディスクの新鮮な面が糸20に対面するようにしながら糸20にテンションを付与するように構成されている。これによりディスク対73の摩耗及び汚れの蓄積を抑制できるので、パッケージ30の品質低下を防止できるとともに、必要なメンテナンス頻度を減らすことができる。なお、ディスクテンサ13の詳細な構成は後述する。
【0025】
スプライサ装置14は、クリアラ15が糸欠点を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン21からの解舒中の糸切れ時等に、給糸ボビン21側の下糸と、パッケージ30側の上糸とを糸継ぎするものである。スプライサ装置14としては、圧縮空気等の流体を用いるもの又は機械式のもの等を使用することができる。
【0026】
クリアラ15は、糸20の太さを適宜のセンサで検出することで欠陥を検出するように構成されており、このクリアラ15のセンサからの信号をアナライザ52(図2)で処理することで、スラブ等の糸欠点を検出可能に構成されている。なお、前記クリアラ15は、単に糸20の有無を検知するセンサとしても機能させることができる。前記クリアラ15の近傍には、当該クリアラ15が糸欠点を検出したときに直ちに糸20を切断するための図略のカッタが付設されている。
【0027】
スプライサ装置14の下側及び上側には、給糸ボビン21側の下糸を捕捉して案内する第1中継パイプ25と、パッケージ30側の上糸を捕捉して案内する第2中継パイプ26と、が設けられている。第1中継パイプ25の先端には吸引口32が形成され、第2中継パイプ26の先端にはサクションマウス34が備えられている。2つの中継パイプ25,26には適宜の負圧源がそれぞれ接続されており、前記吸引口32及びサクションマウス34に吸引流を作用させることができる。
【0028】
この構成で、糸切れ時又は糸切断時においては、第1中継パイプ25の吸引口32が図1及び図2で示す位置で下糸を捕捉し、その後、軸33を中心にして上方へ回動することでスプライサ装置14に下糸を案内する。また、これとほぼ同時に、第2中継パイプ26が図示の位置から軸35を中心として上方へ回動し、ドラム駆動モータ53によって逆転されるパッケージ30表面上に存在する上糸をサクションマウス34によって捕捉する。続いて、第2中継パイプ26が軸35を中心として下方へ回動することで、スプライサ装置14に上糸を案内するようになっている。
【0029】
給糸ボビン21から解舒された糸は、スプライサ装置14の上方(下流側)に配置される巻取ボビン22に巻き取られる。巻取ボビン22は、当該巻取ボビン22に対向して配置される巻取ドラム24が回転駆動することにより駆動される。図2に示すように、この巻取ドラム24はドラム駆動モータ53の出力軸に連結されており、このドラム駆動モータ53の動作はモータ制御部54により制御される。このモータ制御部54は、ユニット制御部50からの運転信号を受けて前記ドラム駆動モータ53を運転及び停止させる制御を行うように構成している。
【0030】
以上の構成で、給糸ボビン21が糸巻取ユニット10の下部(ボビンセット部18)に供給されると、巻取ボビン22が駆動され、前記給糸ボビン21から糸20を解舒して前記巻取ボビン22に巻き取ることで所定長のパッケージ30を形成することができる。
【0031】
次に、ディスクテンサ13について図3を参照して詳細に説明する。図3はディスクテンサ13を正面側から見た斜視図である。図4は、ディスクテンサ13において第2ディスク72を押圧するための構成を詳細に示す正面概略図である。
【0032】
図3に示すように、ディスクテンサ13は、2つのディスク対73を支持するハウジング70を備えている。それぞれのディスク対73は、互いに対向して且つ軸線を一致させて配置される第1ディスク(固定側ディスク)71と第2ディスク(押圧側ディスク、作用部材)72とにより構成されている。
【0033】
ハウジング70には上下方向に細長い凹部74が形成されており、この凹部74の内部において、前記ディスク対73は上下に並べて2つ設けられている。それぞれのディスク対73は、前記凹部74の内部を走行する糸20を第1ディスク71及び第2ディスク72で挟むことができるように配置されている。
【0034】
下側(上流側)のディスク対73を上下に挟むようにして、糸20を案内するための2つの糸ガイド91,92が前記ハウジング70に固定されている。また、糸20が前記凹部74を抜ける箇所において糸ガイド93がハウジング70に固定されており、上側(下流側)のディスク対73を抜けた糸20を当該糸ガイド93により案内できるように構成されている。
【0035】
前記ハウジング70の内部には開閉アーム76が支持されている。この開閉アーム76は上下に細長い形状に構成され、その上端部と下端部に支軸77がそれぞれ取り付けられている。2本の支軸77,77は互いに平行に配置され、ハウジング70に回転可能に支持されている。また、それぞれの支軸77は、その軸方向に移動可能とされている。
【0036】
支軸77のそれぞれは前記凹部74の内部(ハウジング70の外部)へ突出し、その先端に前記第1ディスク71が取り付けられている。また、ハウジング70の内部において、2本の支軸77にはそれぞれ回転ギア78が固定されている。2つの回転ギア78,78は何れも、ハウジング70の内部に回転可能に支持されたカウンタギア79と噛み合っている。
【0037】
前記開閉アーム76は適宜の連結機構を介して開閉アクチュエータ(図2の符号89)に連結されている。この開閉アクチュエータ89を駆動することにより開閉アーム76を動かし、上下2つの第1ディスク71を同時に、第2ディスク72から離れる方向及び第2ディスク72に近づく方向に移動させることができる。この構成により、2つのディスク対73を、閉鎖状態と開放状態との間で切り替えることができる。
【0038】
凹部74を挟んで前記開閉アーム76と反対側の位置には、バネ支持板80及びソレノイド(押圧部、押圧アクチュエータ)81が配置されている。また、ハウジング70の内部には、2本の支軸82,82が回転可能かつ軸方向移動可能に配置されている。2本の支軸82,82は互いに平行となるように上下に並べて配置され、それぞれの軸線が反対側の前記支軸77,77と一致するように配置されている。
【0039】
支軸82のそれぞれは前記凹部74の内部(ハウジング70の外側)へ突出し、その先端に前記第2ディスク72が取り付けられている。また、ハウジング70の内部において、2本の支軸82にはそれぞれ回転ギア83が固定されている。2つの回転ギア83,83は何れも、ハウジング70の内部に回転可能に支持されたカウンタギア84と噛み合っている。
【0040】
前記ソレノイド81はロータリソレノイドとして構成されており、その出力軸に押圧アーム85が固定されている。一方、下側(上流側)の支軸82に取り付けられた回転ギア83にはボス部が形成されており、このボス部には、円柱状に形成されたゲル部材(衝撃吸収部材)65が固定されている。
【0041】
図4に示すように、ゲル部材65の一側の端面は平坦な被押圧面66とされ、他側の端面は平坦な伝達面67とされている。そして、前記伝達面67は前記回転ギア83のボス部に密着させるようにして固定される一方、前記被押圧面66には円板状の耐摩耗シート68が貼り付けられている。この耐摩耗シート68には、前記ソレノイド81に連結されている押圧アーム85の先端部が対面している。
【0042】
以上の構成で、前記ソレノイド81に電流を印加すると、回転する押圧アーム85がゲル部材65の被押圧面66を押し、この押圧力は伝達面67を介して回転ギア83側へ伝達される。従って、ソレノイド81の力がゲル部材65、回転ギア83及び支軸82を介して伝達され、第2ディスク72が第1ディスク71側へ押し付けられる。この結果、下側のディスク対73の間を走行する糸20に張力を付与することができる。なお、第2ディスク72が第1ディスク71側へ押し付けられる力は、ソレノイド81へ印加する電流の大きさを変更することで調整することができる。
【0043】
前記バネ支持板80には、弾性体としての押圧バネ(押圧部)86の一端が固定されている。この押圧バネ86の他端には、円板状の押圧板87が固定される。一方、上側(下流側)の支軸82に取り付けられた回転ギア83にはボス部が形成されており、このボス部には、円柱状に形成されたゲル部材65が固定されている。
【0044】
このゲル部材65は下側(上流側)のゲル部材65と同一の構成であり、その一端側は被押圧面66とされ、他端側は伝達面67とされている。前記伝達面67は前記回転ギア83のボス部に固定される一方、被押圧面66には円板状の耐摩耗シート68が固定されている。この耐摩耗シート68には、前記押圧バネ86に固定された押圧板87が対面している。
【0045】
この構成で、前記押圧バネ86の弾性力が作用する押圧板87は、ゲル部材65の被押圧面66を押し、この押圧力は伝達面67を介して回転ギア83側へ伝達される。従って、押圧バネ86の力がゲル部材65、回転ギア83及び支軸82を介して伝達され、第2ディスク72が第1ディスク71側へ押し付けられる。この結果、上側のディスク対73の間を走行する糸20に張力を付与することができる。
【0046】
それぞれの回転ギア83に固定されるゲル部材65は、高分子鎖の物理的又は化学的な三次元的ネットワーク構造を形成し、衝撃吸収作用を発揮させるようにしたもので、一般的なバネ部材等に比べて圧縮永久歪みが小さいという特徴を有している。本実施形態では、シリコンを主原料としたものをゲル部材65として採用している。また、前記耐摩耗シート68としては、例えばフッ素樹脂、超高分子ポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂等を円形シート状に成形し、硬度と低摩擦性を確保したものを採用することができる。
【0047】
なお、ディスクテンサ13より上流側においては、糸20には給糸ボビン21からの解舒に伴う張力(解舒テンション)が作用し、下流側において、巻取ボビン22への巻取に伴う張力(巻取テンション)が作用する。糸巻取ユニット10の実際の稼動時においては、これらの解舒テンション及び巻取テンションは様々な理由で変動し、これによって糸20に瞬間的な張力変動が生じることがある。しかしながら本実施形態では、押圧バネ86によって第2ディスク72に適度な押し圧力を作用させつつ、このような糸20の張力変動に伴う第2ディスク72の振動をゲル部材65によって効果的に緩衝できるので、糸切れ等の発生を良好に防止することができる。
【0048】
また、例えば紡績糸を自動ワインダで巻き取る場合、糸20の太さは厳密に一様であるとは限らず、(前述のクリアラ15で糸欠点として検出されるか否かを問わず)ディスクテンサ13を通過する糸20には多少の太さムラが存在する。従って、例えば糸20の太さが通常より大きくなっている部分(太ムラ)があった場合、その太ムラの部分はディスクテンサ13を高速で通過するときに第1ディスク71と第2ディスク72との間を押し広げようとするので、ディスク対73に瞬間的な力(衝撃)が作用することになる。しかしながら、本実施形態では前述したように、第2ディスク72に衝撃的な力が加わっても前記ゲル部材65によって吸収できるので、太ムラ部分の通過前後においてもディスク対73は糸20と良好に接触し、張力を安定して付与することができる。この結果、パッケージ30の品質を向上させることができる。
【0049】
図3に示すように、前記ハウジング70の内部には一対の駆動伝達ギア75,75が配置されている。2つの駆動伝達ギア75,75は図略の中心軸を介して相互に連結されており、両者が一体的に回転するように構成されている。ハウジング70の内部には図略の駆動ギアが配置されており、この駆動ギアは一側の駆動伝達ギア75に噛み合っている。前記駆動ギアはモータ(図2の符号88)の出力軸に固定されており、このモータ88を駆動することによって、両側の駆動伝達ギア75,75を回転させることができる。
【0050】
一側の駆動伝達ギア75は、下側(上流側)の支軸77に固定された回転ギア78に噛み合い、他側の駆動伝達ギア75は、下側(上流側)の支軸82に固定された回転ギア83に噛み合っている。従って、前記モータ88を駆動することにより4本の支軸77,82を一斉に回転させ、この結果、上下のディスク対73において、第1ディスク71及び第2ディスク72を同一の方向に等しい速度で回転させることができる。
【0051】
なお、2つのゲル部材65はそれぞれ回転ギア83と一体的に回転するが、前記被押圧面66には耐摩耗シート68が取り付けられているため、押圧アーム85の先端部(又は前記押圧板87)との間で滑るようにしてスムーズに回転することができる。これにより、回転ギア83(ひいては第2ディスク72)を円滑に回転させることができるとともに、一般的に捩り作用に弱いゲル部材65を保護して耐久性を向上させることができる。
【0052】
次に、本願発明者が行った張力測定実験について、図5のグラフを参照して説明する。図5(b)は、本実施形態のディスクテンサ13に糸20を実際に通過させたときの張力の変化を測定したものである。この実験は、糸20として綿のNe7の糸を用い、糸20の走行速度は1000m/分とし、ソレノイド81には105gの張力に相当する電圧を印加する条件で行った。なお、図5(a)には、従来の構成(即ち、ゲル部材65を省略し、押圧アーム85及び押圧板87で回転ギア83を直接押圧する構成)において、同様に糸の張力を測定した結果を比較のために示した。
【0053】
図5の2つのグラフは、糸走行中の張力の変化を10秒間にわたって示したものである。図5(a)のグラフには、糸張力が40cNを下回るレベルまで瞬間的に低下する箇所(破線の円で囲った部分)が観察される。このように、ゲル部材65を省略した従来の構成では、糸張力の大きな低下が相当の頻度で発生することが判る。一方、本実施形態の構成では図5(b)に示すように、糸張力が極端に低下する現象は発生せず、安定した張力を糸20に付与できていることが判る。
【0054】
以上に示すように、本実施形態のディスクテンサ13は、第2ディスク72と、ソレノイド81と、押圧バネ86と、ゲル部材65と、を備える。第2ディスク72は、走行している糸20に接触して摩擦を発生させることで張力付与作用を行う。ソレノイド81及び押圧バネ86は、糸20に対して付与する張力を増大させる方向に第2ディスク72を押圧することが可能である。ゲル部材65は、第2ディスク72とソレノイド81又は押圧バネ86との間に配置される。
【0055】
これにより、ディスクテンサ13の上流側又は下流側での張力(解舒テンションや巻取テンション)が変動したり、糸の太さムラの部分が第2ディスク72を通過したりすること等によって第2ディスク72に瞬間的な力が作用しても、その衝撃をゲル部材65によって吸収することができる。従って、糸切れを効果的に防止できるとともに、ソレノイド81及び押圧バネ86によって糸20に付与される張力の変動を効果的に抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態のディスクテンサ13はゲル部材65を備え、このゲル部材65が衝撃を吸収するように構成されている。
【0057】
これにより、糸20に付与する張力を簡単な構成で安定化させることができる。また、圧縮永久歪みが一般的に少ないゲル部材65を衝撃吸収のために用いることにより、長期間の使用によっても衝撃吸収性能を安定して発揮させることができる。
【0058】
また、本実施形態のディスクテンサ13において、ゲル部材65は、ソレノイド81又は押圧バネ86からの押圧力を受ける被押圧面66を一側に備えるとともに、前記押圧力を第2ディスク72側へ伝達するための伝達面67を他側に備える。また、被押圧面66と伝達面67の間の部分において、ゲル部材65の外周面の周囲に空間が形成されている。
【0059】
これにより、第2ディスク72側から伝わる衝撃を、ゲル部材65が外周面を膨らませるように変形することで良好に吸収することができる。従って、小さなゲル部材65を採用しても優れた衝撃吸収性能を発揮できるので、ディスクテンサ13の構成の小型化に貢献することができる。
【0060】
また、本実施形態のディスクテンサ13においては、回転可能な第2ディスク72によって糸20に張力付与作用を行うように構成している。
【0061】
これにより、第2ディスク72の回転によって、当該第2ディスク72の新鮮な面が糸20に接触することになる。従って、第2ディスク72の摩耗及び汚れの蓄積を効果的に軽減することができる。
【0062】
また、本実施形態においてゲル部材65は、ソレノイド81又は押圧バネ86からの押圧力を受ける被押圧面66と、前記押圧力を第2ディスク72側へ伝達するための伝達面67と、を備える。そして、前記被押圧面66には耐摩耗シート68が固定されている。
【0063】
これにより、被押圧面66の部分において耐摩耗シート68を滑らせることで、当該耐摩耗シート68の部分を境界として、ソレノイド81又は押圧バネ86に対して第2ディスク72、回転ギア83、支軸82及びゲル部材65を円滑に回転させることができる。また、耐摩耗シート68の面を境にして相対回転させることで、回転滑り部分で発生する抵抗及び騒音を抑制できるとともに、ゲル部材65を捩りから保護し、損傷を防止することができる。
【0064】
また、本実施形態の自動ワインダは、上記のように構成されたディスクテンサ13を備えている。
【0065】
これにより、糸20に適切な張力を安定して付与しながら巻取ボビン22に巻き取ることができるので、糸切れを抑制して生産効率を向上できるとともに、高品質のパッケージ30を形成することができる。
【0066】
次に、自動ワインダの変形例について、図6を参照して説明する。この変形例の糸巻取ユニット10は、前記ディスクテンサ13の代わりにゲートテンサ13xを備えている。なお、本変形例において前記実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0067】
このゲートテンサ13xは、固定櫛歯45と可動櫛歯(作用部材)46とを備えている。固定櫛歯45と可動櫛歯46は、走行している糸20に接触して屈曲させることで張力付与作用を行う。可動櫛歯46は、櫛歯同士が噛合せ状態又は解放状態になるように、ロータリ式のソレノイド47により回動することができる。このソレノイド47は、糸20の屈曲を強める方向(即ち、糸20に対して付与する張力を増大させる方向)に前記可動櫛歯46を押圧することができる。
【0068】
可動櫛歯46とソレノイド47との間には、衝撃吸収部材としてのゲル部材65が配置されている。このゲル部材65としては、前述の実施形態と同様に、例えばシリコンを主原料としたものを採用することができる。
【0069】
この変形例のゲートテンサ13xにおいても、糸20の張力変動及び太さムラ等によって可動櫛歯46に作用する瞬間的な力(衝撃)をゲル部材65によって良好に吸収し、糸20に付与する張力の変動を効果的に抑制することができる。
【0070】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0071】
前記実施形態のディスクテンサ13は2つのディスク対73,73を備える構成であるが、1つ又は3つ以上のディスク対を備える構成に変更することができる。
【0072】
前記ゲル部材65の形状は、円柱状とすることに代えて、例えば円錐台形状、多角柱状、多角錐台形状等に変更することができる。また、前記ゲル部材65は回転ギア83に固定することに代えて、例えば支軸82の端面に固定したり、第2ディスク72に直接固定したりすることができる。
【0073】
前記実施形態のディスクテンサ13においては、ゲル部材65の伝達面67側が回転ギア83に固定され、被押圧面66側には耐摩耗シート68が固定されている。しかしながらこれに代えて、ゲル部材65の被押圧面66を押圧アーム85(又は押圧板87)に固定し、伝達面67側に耐摩耗シートを固定する構成に変更することができる。この場合、ゲル部材65は回転せず、当該ゲル部材65に対して回転ギア83が滑りながら回転することになる。
【0074】
前記実施形態のディスクテンサ13及び変形例のゲートテンサ13xは、自動ワインダに限らず、例えば紡績機等の他の繊維機械に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動ワインダが備える糸巻取ユニットの側面図。
【図2】糸巻取ユニットの正面図及びブロック図。
【図3】ディスクテンサを正面側から見た斜視図。
【図4】ディスクテンサにおいて第2ディスクを押圧するための構成を詳細に示す正面概略図。
【図5】本実施形態のディスクテンサを通過する糸の張力の変化を従来技術と比較して示すグラフ。
【図6】ゲートテンサを備えた変形例の糸巻取ユニットを示す正面図及びブロック図。
【符号の説明】
【0076】
13 ディスクテンサ(張力付与装置)
72 第2ディスク(作用部材)
65 ゲル部材(衝撃吸収部材)
66 被押圧面
67 伝達面
68 耐摩耗シート
81 ソレノイド(押圧部)
86 押圧バネ(押圧部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行している糸に接触して張力付与作用を行う作用部材と、
前記糸に対して付与する張力を増大させる方向に前記作用部材を押圧することが可能な押圧部と、
前記作用部材と前記押圧部との間に配置される衝撃吸収部材と、
を備えることを特徴とする張力付与装置。
【請求項2】
請求項1に記載の張力付与装置であって、
前記衝撃吸収部材はゲル部材によりなることを特徴とする張力付与装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の張力付与装置であって、
前記衝撃吸収部材は、前記押圧部からの押圧力を受ける被押圧面を一側に備えるとともに、前記押圧力を前記作用部材へ伝達するための伝達面を他側に備え、
前記被押圧面と前記伝達面の間の部分において、前記衝撃吸収部材の周囲に空間が形成されていることを特徴とする張力付与装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の張力付与装置であって、
前記作用部材は回転可能なディスクであることを特徴とする張力付与装置。
【請求項5】
請求項4に記載の張力付与装置であって、
前記衝撃吸収部材は、前記押圧部からの押圧力を受ける被押圧面と、前記押圧力を前記ディスクへ伝達するための伝達面と、を備え、
前記被押圧面及び前記伝達面の少なくとも何れか一方には耐摩耗シートが固定されていることを特徴とする張力付与装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の張力付与装置を備えることを特徴とする繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−286607(P2009−286607A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142853(P2008−142853)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】