説明

張力制御装置

【課題】紙の安定搬送と省エネルギーを両立した張力制御装置を提供する。
【解決手段】 張力制御器(16)の出力を常時監視する温度補正器(23)を設け、その値が最小速度補正設定器(24)の値以下の場合には温度設定器(17)に温度補正指令を出力するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙機のドライヤーとサイズプレス間の紙の張力を安定に保ち、かつ省エネルギーを達成する張力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機の動向は、高品質化、高速化、省エネルギー化である。高品質化、高速化を達成するためには紙の張力を安定に保ちかつライン速度を上げることが必要である。
図2に従来の抄紙機ドライヤーならびにサイズプレス(塗工装置)を示す。図2において、1は紙、2はドライヤー、3はサイズプレス、4はドライヤーロール制御装置、5はプレスロール制御装置である。また、6はドライヤー減速機、7はドライヤー駆動電動機、8はドライヤー速度検出器、9はドライヤー電動機制御装置、10はサイズプレス駆動電動機、11はサイズプレス速度検出器、12はサイズプレス電動機制御装置である。また、13は張力検出器、14はライン速度設定器、15は張力設定器、16は張力制御器、17は温度設定器、18は温度検出器、19は温度制御器、20は蒸気バルブ、21は蒸気タンク、22は蒸気配管である。
次に動作について説明する。基材である紙1が図面矢印の方向に流れており、ドライヤー2は複数のドライヤーロールで紙1を搬送する。ドライヤーロールはドライヤー駆動電動機7とドライヤー減速機6で連結され、プレスロールはサイズプレス駆動電動機10と連結されている。通常のサイズプレス3は紙を挟むように対向したプレスロールで構成され、駆動もプレスロールごとであるが説明を容易にするために図2では下側のロールを駆動しているものとした。
ドライヤー駆動電動機7はドライヤー速度検出器8を速度検出信号としてドライヤー電動機制御装置9で速度制御される。サイズプレス駆動電動機10はサイズプレス速度検出器11を速度検出信号としてサイズプレス電動機制御装置12で速度制御される。
【0003】
図2でライン速度設定器14はライン速度指令をドライヤー電動機制御装置9に与えている。サイズプレス3は紙1に適正な張力を与えるため、ドライヤーの速度指令に張力制御器16から出力される張力補正速度指令を加えたものをプレスロール速度指令として制御している。張力制御器16には張力設定器15を張力指令、張力検出器13の出力を張力検出値としてフィードバックしている。
図2でドライヤー2は温度制御器19を有しており、温度設定器17と温度検出器18で温度制御を行っている。その温度制御器19の出力で蒸気バルブ20の開度を調整し、蒸気タンク21からの蒸気量を制御することでドライヤー内の温度を制御している。
【0004】
従来の技術ではドライヤー温度を温度計で測定し、そのデータからドライヤー温度を最適に設定し、ドライヤー表面からの紙の剥離性を向上している。しかし、断紙を最小にするための制御については従来技術として公開されている。しかしながら、塗工前の張力制御とドライヤーの温度制御との関連性については開示されていない。
【特許文献1】特開2003−328288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のサイズプレス3では通紙完了後に速度制御から張力制御に切替え、塗工を開始している。通常の操業開始時はドライヤーの温度が低いので紙の乾燥量が少なく、従って紙のヤング率が低い。そのため張力制御器14の出力はプラス方向つまりサイズプレスの速度を上げる方向に出力されている。その後、ドライヤーの温度を所定の温度まで上昇させ製品をつくっている。その状態で張力制御を実施している場合、その速度指令がマイナス、つまりサイズプレスの速度を下げる方向となる場合がある。
それを式で表すと(1)式になる。
T=E*A*ΔV・・・・・・(1)
ここで、Tは塗工前張力、Eは紙のヤング率、ΔVはドライヤーとサイズプレスの速度比である。先にも書いたように通常ΔVは正の値である。しかしながら、ΔVがマイナスで運転している状況下では(1)式は成立しない。具体的に説明するとドライヤーの出口つまりサイズプレスの入口における紙のヤング率Eが非常に大きくなっているため、張力制御装置から弛ませる指令が出ているものと解釈できる。この過大なヤング率はドライヤーにおける過乾燥によるものである。つまり、ドライヤー温度が高いために紙が硬くなり、張力制御器14から速度を下げる信号が出ている。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、張力制御器14の出力に応じてドライヤー温度の設定値を変更することで紙の安定搬送と省エネルギーを両立した張力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1記載の発明は、複数のドライヤーロールで送りながら蒸気をあてて紙を乾燥させるドライヤーと、乾燥した紙をプレスロールで挟み塗料を塗布するサイズプレスと、を備えた抄紙機の張力制御装置であって、前記乾燥した紙の張力を検出する張力検出器と、張力設定値と張力検出値に基づいて張力補正速度指令を生成する張力制御器と、ライン速度指令と前記張力補正速度指令を加算してサイズプレス速度指令を生成する加算器と、前記サイドプレス速度指令どおりにプレスロール速度を制御するプレスロール制御装置と、前記ライン速度指令どおりにドライヤーロール速度を制御するドライヤーロール制御装置と、前記ドライヤーの温度を設定する温度設定器と、前記ドライヤーの温度を検出する温度検出器と、前記温度設定値と温度検出値に基づいて蒸気バルブを制御する温度制御器と、を備える張力制御装置において、最小速度補正設定値を設定する最小速度補正設定器と、
前記張力補正速度指令と前記最小速度補正設定値に基づき温度補正指令を生成する温度補正器と、前記温度設定値と前記温度補正指令に基づいて新たな温度設定値を生成する温度設定器と、を備えることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の張力制御装置において、前記温度補正器は、前記張力補正速度指令が前記最小速度補正設定値よりも小さくなったとき前記張力補正速度指令に比例係数を乗じて温度補正指令を生成することを特徴とするものである。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の張力制御装置において、前記温度設定器は、前記温度設定値に前記温度補正指令を加算することにより新たな温度設定値とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1乃至3に記載の発明によると、運転中のサイズ前張力をサイズプレス速度で適正に制御することができ、なおかつドライヤー温度を適切に設定することが可能になり、運転中の紙切れ発生を減少することができる。また、運転中のドライヤー温度設定を変更することにより、張力が高すぎるときは適切な温度まで設定を下げることで蒸気使用量を減少する、つまり省エネルギーが達成される。なお、これら制御は自動的に行われるために省力化にも寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の張力制御装置の実施図例である。図1において、1は紙、2はドライヤー、3はサイズプレス、4はドライヤーロール制御装置、5はプレスロール制御装置である。また、6はドライヤー減速機、7はドライヤー駆動電動機、8はドライヤー速度検出器、9はドライヤー電動機制御装置、10はサイズプレス駆動電動機、11はサイズプレス速度検出器、12はサイズプレス電動機制御装置である。また、13は張力検出器、14はライン速度設定器、15は張力設定器、16は張力制御器、17は温度設定器、18は温度検出器、19は温度制御器、20は蒸気バルブ、21は蒸気タンク、22は蒸気配管である。
さらに本発明の特徴部分である温度補正器23と最小速度補正設定器24が設置されている。
【0012】
次に動作について説明する。図2の従来の張力制御装置と重複する動作については説明を省略する。
温度補正器23は張力制御器16の出力である張力補正速度指令を常時監視しており、張力補正速度指令と最小速度補正設定器24の設定値である最小速度補正設定値に基づいて温度補正指令を生成する。張力補正速度指令がプラスで最小速度補正設定値以上であるときは温度設定器17に対しては補正を行わず、温度補正指令はゼロになる。
張力補正速度指令が最小速度補正設定値より小さくなった(負を含む)場合は張力補正速度指令に定数を掛けた値を温度設定器17に温度補正指令として出力する。これにより、温度設定器17の温度設定値が変化し、紙が張りすぎた場合は設定を下げる指令を出力する。
温度制御器19は新たな温度設定値に従うように制御を実施する。つまり、蒸気バルブ22の開度を絞る方向に動作させ、ドライヤー2内の温度を下げる。これにより、紙1が含む水分量が増加することによってヤング率が下がり、その結果として張力が下がるのである。温度補正器23は最小速度補正設定値になるまでこの制御を続行する。
なお、運転中の張力制御についてはサイズプレスの速度補正とドライヤー温度変更が同時に行われるが温度制御器19の時定数が大きいので制御が干渉することはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の張力制御装置の構成図
【図2】従来の張力制御装置の構成図
【符号の説明】
【0014】
1 紙
2 ドライヤー
3 サイズプレス
4 ドライヤーロール制御装置
5 プレスロール制御装置
6 ドライヤー減速機
7 ドライヤー駆動電動機
8 ドライヤー速度検出器
9 ドライヤー電動機制御装置
10 サイズプレス駆動電動機
11 サイズプレス速度検出器
12 サイズプレス電動機制御装置
13 張力検出器
14 ライン速度設定器
15 張力設定器
16 張力制御器
17 温度設定器
18 温度検出器
19 温度制御器
20 蒸気バルブ
21 蒸気タンク
22 蒸気配管
23 温度補正器
24 最小速度補正設定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のドライヤーロールで送りながら蒸気をあてて紙を乾燥させるドライヤーと、乾燥した紙をプレスロールで挟み塗料を塗布するサイズプレスと、を備えた抄紙機の張力制御装置であって、前記乾燥した紙の張力を検出する張力検出器と、張力設定値と張力検出値に基づいて張力補正速度指令を生成する張力制御器と、ライン速度指令と前記張力補正速度指令を加算してサイズプレス速度指令を生成する加算器と、前記サイズプレス速度指令どおりにプレスロール速度を制御するプレスロール制御装置と、前記ライン速度指令どおりにドライヤーロール速度を制御するドライヤーロール制御装置と、前記ドライヤーの温度を設定する温度設定器と、前記ドライヤーの温度を検出する温度検出器と、前記温度設定値と温度検出値に基づいて蒸気バルブを制御する温度制御器と、を備える張力制御装置において、
最小速度補正設定値を設定する最小速度補正設定器と、
前記張力補正速度指令と前記最小速度補正設定値に基づき温度補正指令を生成する温度補正器と、
前記温度設定値と前記温度補正指令に基づいて新たな温度設定値を生成する温度設定器と、
を備えることを特徴とする張力制御装置。
【請求項2】
前記温度補正器は、前記張力補正速度指令が前記最小速度補正設定値よりも小さくなったとき前記張力補正速度指令に比例係数を乗じて温度補正指令を生成することを特徴とする請求項1記載の張力制御装置。
【請求項3】
前記温度設定器は、前記温度設定値に前記温度補正指令を加算することにより新たな温度設定値とすることを特徴とする請求項1記載の張力制御装置。

【図1】
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【図2】
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