説明

強化材を含有する樹脂の母材樹脂と強化部材とを分離する方法と、強化材を含有する樹脂

【課題】 情報機器の筐体は強化材を混入した強化樹脂である。この筐体は地球環境問題、資源節約の見地からリサイクル使用を要求されている。このため機器筐体に使用される樹脂のリサイクル方法は溶解した樹脂と未溶解のガラス繊維とを互いに分離している。しかしながら、樹脂を溶解するための熱が樹脂の性能、具体的には強度を低下させる。また母材樹脂全部を溶解させるために多くの熱量を要する。従ってこのリサイクル方法は大きな装置を必要になる。
【解決手段】 第1の温度で溶解する母材樹脂は第1の温度で溶解しない強化部材を第1の温度より低い第2の温度で溶解するコーティング材により被覆された強化材を含有し、前記コーティング材の少なくとも一部が前記母材樹脂の粉砕面に露出するように粉砕する工程と、前記コーティング材を溶解する第2の温度により、母材樹脂と強化材とを分離する工程とを含むリサイクル方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形品に使用される樹脂のリサイクルに係り、詳細には強化材を含有する樹脂から強化材を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、情報機器、携帯電話器等は高性能、小型軽量化が望まれている。特に軽量化に伴って情報機器、携帯電話器等の筐体は薄肉化になっている。このために筐体材料は薄肉成形を可能にする高強度な材料を使用している。具体的には樹脂中にガラス繊維、炭素繊維、マイカ等の強化材を混入した樹脂である。
【0003】
一方、携帯電話器、情報機器筐体は地球環境問題、資源節約の見地からリサイクルを要求されている。一般的なリサイクル方法は下記のように行なわれる。先ず強化材を混入した樹脂筐体をペレット状に粉砕する。そしてペレット状の樹脂を加熱溶融し、溶融した樹脂から強化材を分離し取り出す。このように粉砕された強化剤は強度が弱くなる。所望する特性値にするために分離し取り出された強化材の代わりに新しい強化材を混入する。このようにしてリサイクルされた樹脂は所望する特性値を得る。このような技術として下記特許文献1に記載された技術がある。
【0004】
特許文献1に開示されている樹脂のリサイクルの方法は樹脂中に含有するガラス繊維等の強化材を分離するために、溶剤と加熱とで樹脂を溶解している。そして溶解した樹脂と未溶解のガラス繊維とを分離している。
【特許文献1】特開2000―80199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は樹脂を溶解する加熱により樹脂の性能、具体的には強度を低下させる。また母材樹脂全部を溶解させるために多くの熱量を要する。従ってこのリサイクルの方法は大きな装置を必要になる。
【0006】
本発明の目的は加熱による樹脂の強度低下を防止し、大型装置を必要としない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1の温度で溶解する母材樹脂が第1の温度で溶解しない強化部材を第1の温度より低い第2の温度で溶解するコーティング材により被覆された強化材を含有し、前記コーティング材の少なくとも一部が前記母材樹脂の粉砕面に露出するように粉砕する工程と、前記コーティング材を溶解する第2の温度により、母材樹脂と強化材とを分離する工程によって行われる。従って、コーティング材のみを加熱溶解することで母材樹脂と強化材とを分離することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、母材樹脂と強化材との分離時の加熱による樹脂性能の低下することを防止し、さらに大型装置を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態を説明する。
【実施例】
【0010】
図1は本実施形態に係るリサイクル容易な樹脂の構成である。
図1に示すように、1は情報機器、携帯電話器等の筐体に使用される樹脂、2は母材樹脂、3は強化材、31は強化部材、32はコーティング材である。図は容易に理解できるように1つの強化材3のみを記載しているが、実際には多数の強化材3が分散している。
【0011】
樹脂1は母材樹脂2内に強化材3を含有している。この母材樹脂2は具体的にはABS樹脂(旭化成ケミカルズ株の商品名スタイラックABS)で溶解温度は200度C〜240度Cである。強化材3はコーティング材32で強化部材31の全周囲を被覆したものである。コーティング材32は例えばポリブチレンサクシネート(以下PBSと略す)樹脂(昭和高分子株の商品名ビオノーレ)と、セルロース(以下CAと略す)樹脂(ダイセル化学工業株の商品名;セルグリーン)とを2対1(WT%)の割合で混ぜた物で溶解温度は約160度Cである。従ってコーティング材32の溶解温度は母材樹脂2の溶解温度より低い。強化部材31は具体的にガラス繊維(旭ガラス株製のガラスファイバー)で溶解温度は約600度Cから1000度Cである。従ってコーティング材32の溶解温度は母材樹脂2の溶解温度より低く、且つ強化部材31の溶解温度は母材樹脂2の溶解温度より高い。上記に記載された母材樹脂2はABS樹脂の他にPPE樹脂、PC樹脂を使用することもできる。また上述したコーティング材32はPBS樹脂の他に酢酸セルロース系樹脂、ポリカプロラクタン(以下PCLと略す)樹脂を使用することもできる。さらに上記に記載された強化部材31としてのガラス材の他に繊維状のけい酸塩、炭素、あるいは鱗片状のシリカ、アルミナ、マイカ等を使用することもできる。
【0012】
<強化材の製造方法>
(1)まず、溶解したコーティング材32を満たした容器が準備される。この容器に強化部材31を浸漬する。所定時間後、容器から出し乾燥させる。従って強化部材31の全周囲面をコーティング材32で被覆された強化材3が製造できた。詳細には強化部材31の形状は太さΦ10μm〜50μmで長さ0.1mm〜5mmのガラス繊維である。このガラス繊維の全周囲面が所定の膜厚10〜30μmのコーティング材32で被覆されている。
【0013】
上記の浸漬方以外に混練機を使用する方法が有る。例えばテクノベル株の製品名;2軸押出し機を使用する。この2軸押出し機は後端部に樹脂部材供給部を有し、この樹脂部材供給部に供給された樹脂を加熱溶解できる。そして2軸押出し機は先端部に射出部を有する。これら樹脂部材供給部と射出部との中間部に強化部材供給部を有している。この樹脂部材供給部にコーティング材32を供給し加熱溶解する。次に強化部材供給部に強化部材31を供給し、そして溶解したコーティング材32と強化部材31とを混合する。混合後、先端部の射出部から射出する。そして射出されたコーティング材32と強化部材31との混合物をペレット状にする。このペレット制作には東洋精機制作所株の製品名;ペレタイザーを使用できる。
【0014】
<樹脂成形品の製造>
(2)射出成形機(住友重機械工業株の商品名サイキャップ)を使用して成形品を製造した。この射出成形機は大略供給部、部材混合部、部材加熱部、射出部とから構成されている。この供給部に母材樹脂2と前述した強化材3とを供給した。または供給部に母材樹脂2と前述したペレット状の強化材3とを供給した。そして部材混合部で互いを均一に混合した。次に部材加熱部で加熱溶解する。
従って樹脂1ができる。続いて射出部のキャビティ内に樹脂1を射出する。
(3)そして金型を冷却し樹脂1を固形化する。この後、金型を開放してキャビティ内の成形品を取り出す。この成形品が前述した携帯機器、電子機器の筐体である。
【0015】
<母材樹脂と強化部材とを分離する方法方法>
ユーザーから回収された情報機器、携帯電話器等の製品、例えば筐体の樹脂および成形途中で発生した端材樹脂をリサイクルする。具体的にはこれらの樹脂を母材樹脂と強化材とを分離するものである。
【0016】
図2は本実施形態に係る樹脂の分離装置の概略説明図である。
【0017】
11は分離装置、12はメッシュ状の内容器、13は外容器、14遠心分離機用回転駆動装置、16は赤外線加熱機、17は熱風加熱機である。
【0018】
メッシュ状の内容器12は粉砕した樹脂1を収容する。この内容器12のメッシュのサイズは500メッシュ/インチである。このメッシュ状の内容器12は上部、側部から赤外線加熱機16、熱風加熱機17等で加熱される。そして内容器12内の下部に遠心分離機用回転駆動装置14が設けられ、内容器12に収容した樹脂1を内容器12と供に回転させる。この内容器12の外部に外容器13が設けられている。
【0019】
(4)図3は本実施形態に係るリサイクル容易な樹脂の分離状態を表す模式断面図である。図は理解し易いように実寸より強化材3を誇張して図示されている。強化材3はメッシュ容器内に1つのみを記載しているが、実際には粉砕された強化材3が多数分散している。上述したこのメッシュ状の内容器12の中に粉砕した樹脂1を収容する。この樹脂1は粉砕されてチップ状態にされている。具体的には強化材3のコーティング材32の少なくとも一部が母材樹脂3の破砕面に露出する寸法に粉砕されている。具体的には0.05mm〜0.1mmに粉砕されている。
(5)続いて容器10内のチップ状態の樹脂1を温度170度C〜190度C、より好ましくは約180度Cに加熱する。従って強化部材31を被覆したコーティング材32のみが溶解するが、母材樹脂2、強化部材31は溶解しない。加熱している期間中、この粉砕された樹脂1は内容器12と供に遠心分離機用回転駆動装置14で回転される。そしてコーティング材32の溶解が進行し、溶解したコーティング材32と強化部材31とが遠心力で除去される。そして強化部材31と母材樹脂2との分離が進行する。詳細には、溶解したコーティング材32の場所が徐々に空隙状態となる。やがて溶解した部分が進行して空隙部33が拡張され、この空隙部33から強化部材31とコーティング材32とが逸脱する。従って母材樹脂2と強化材3とが分離する。換言すると母材樹脂2、強化部材31、コーティング材32とが分離する。そして強化部材31と溶解したコーティング材32とが内容器12のメッシュを通過して外容器13内に移動する。従って内容器12内に母材樹脂2が残る。
(6)続いて強化部材31とコーティング材32とを分別回収する。具体的には上述した分離装置と同じ装置を使用する。但し、内容器12のメッシュサイズが前記と異なる。この内容器12のメッシュのサイズは800メッシュ/インチである。前述した同じ方法で強化部材31とコーティング材32とを分別回収できる。具体的にはコーティング材32がメッシュを通過して外容器13内に移動する。従って内容器12内に強化部材31が残る。
【0020】
強化部材31とコーティング材32とを分別回収するその他の方法を下記に記述する。
強化部材31とコーティング材32とを冷却した後、強化部材31と固化したコーティング材32とを回転ドラムの中で回転させて互いに摩擦し合う。摩擦することで強化部材31とコーティング材32とを分別回収できる。
(7)これら母材樹脂2、強化部材31、コーティング材32とは再度資源活用が可能である。
【0021】
(付記1) 第1の温度で溶解する母材樹脂は第1の温度で溶解しない強化部材を第1の温度より低い第2の温度で溶解するコーティング材により被覆された強化材を含有し、前記コーティング材の少なくとも一部が前記母材樹脂の粉砕面に露出するように粉砕する工程と、前記コーティング材を溶解する第2の温度により、母材樹脂と強化材とを分離する工程とを含むことを特徴とする母材樹脂と強化材とを分離する方法。(請求項1)
(付記2) 第1の温度で溶解する母材樹脂と、この母材樹脂中に第1の温度で溶解しない強化部材を含有してなり、該強化部材は第1の温度より低い第2の温度で溶解するコーティング材により被覆されていることを特徴とする樹脂。(請求項2)
(付記3) 付記1に記載の母材樹脂はABS樹脂以外としてPPE樹脂の少なくとも1つから成ることを特徴とする樹脂。
【0022】
(付記4) 付記1に記載のコーティング材は酢酸セルロース系樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクタン(PCL)樹脂の少なくとも1つから成ることを特徴とする樹脂。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、母材樹脂と強化材との分離時の加熱による樹脂性能の低下することを防止し、さらに大型装置を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る樹脂の構成である。
【図2】本実施形態に係る樹脂の分離装置の概略説明図である。
【図3】本実施形態に係る樹脂の分離状態を表す模式断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 リサイクル容易な樹脂、
2 母材樹脂、
3 強化材、
31 強化部材、
32 コーティング材、
33 空隙部、
11 樹脂の分離装置、
12 メッシュ状の内容器、
13 外容器、
14 遠心分離機用回転駆動装置、
16 赤外線加熱機、
17 熱風加熱機、


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の温度で溶解する母材樹脂は第1の温度で溶解しない強化部材を第1の温度より低い第2の温度で溶解するコーティング材により被覆された強化材を含有し、前記コーティング材の少なくとも一部が前記母材樹脂の粉砕面に露出するように粉砕する工程と、
前記コーティング材を溶解する第2の温度により、母材樹脂と強化材とを分離する工程とを含むことを特徴とする母材樹脂と強化材とを分離する方法。
【請求項2】
第1の温度で溶解する母材樹脂と、
この母材樹脂中に第1の温度で溶解しない強化部材を含有してなり、
該強化部材は第1の温度より低い第2の温度で溶解するコーティング材により被覆されていることを特徴とする樹脂。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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