説明

強磁性粒子粉末の製造方法、異方性磁石、ボンド磁石及び圧粉磁石

【課題】 本発明は、工業的に高純度、且つ優れた磁気特性を示す強磁性粒子粉末及びその製造方法に関する。また、該強磁性粒子粉末を用いた異方性磁石、ボンド磁石、圧粉磁石を提供する。
【解決手段】 メスバウアースペクトルよりFe16化合物相が80%以上の割合で構成される強磁性粒子粉末であり、該強磁性粒子は粒子外殻にFeOが存在するとともにFeOの膜厚が5nm以下である強磁性粒子粉末は、出発原料の一次粒子の(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)が50%以下、Uが1.55以下、Cが0.95以上、C2が0.40以上であり、平均粒子長軸長が40〜5000nm、アスペクト比(長軸径/短軸径)が1〜200である鉄化合物を用い、凝集粒子の分散処理を行い、次いで、メッシュを通した鉄化合物粒子粉末を160〜420℃にて還元処理し、130〜170℃にて窒化処理して得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子コアがFe16であり、外殻は非常に薄いFeOからなる酸化膜によって被覆されている高純度な強磁性粒子粉末の製造方法に関する。また、該強磁性粒子粉末を用いた異方性磁石、ボンド磁石及び圧粉磁石を提供する。
【背景技術】
【0002】
現在、ハイブリッド自動車や電気自動車、エアコンや洗濯機などの家電など身近ながらパワー・トルクが必要なモーター用の磁石としてNd−Fe−B系磁性粉末・成形体が用いられている。しかしながら、Nd−Fe−B系磁石材料としての磁石としての理論限界は目前である。
【0003】
さらに、格安の原料コストやアイソトープ元素含有率の低さなどに魅了され希土類元素原料の輸入は中国に大きく偏っており、いわゆる“中国リスク”として大きな問題になっている。そのため、レアアースを含まないFe16などのFe−N系の化合物が注目されている。
【0004】
Fe−N系の化合物のうちα”−Fe16は窒素を固溶するマルテンサイトやフェライトを長時間アニールした場合に晶出する準安定化合物として知られている。このα”−Fe16の結晶はbct構造であり、大きな飽和磁化を持つ巨大磁気物質として期待されている。しかしながら、準安定化合物といわれるように、この化合物を単離した粉末として化学的に合成された報告は極めて少ない。
【0005】
これまで、α”−Fe16単相を得るために、蒸着法、MBE法(分子線エピタキシー法)、イオン注入法、スパッタ法、アンモニア窒化法などの様々な方法が試みられた。しかし、より安定なγ‘−FeNやε−Fe2〜3Nの生成とともに、マルテンサイト(α’−Fe)やフェライト(α−Fe)様金属の共晶が起き、α”−Fe16単一化合物を単離して製造することに困難を伴う。一部、α”−Fe16単一化合物を薄膜として得ているが、薄膜では磁性材料への適用に限界があり、より幅の広い用途展開には不向きである。
【0006】
α”−Fe16に関する既存技術として、下記技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−340023号公報
【特許文献2】特開2000−277311号公報
【特許文献3】特開2009−84115号公報
【特許文献4】特開2008−108943号公報
【特許文献5】特開2008−103510号公報
【特許文献6】特開2007−335592号公報
【特許文献7】特開2007−258427号公報
【特許文献8】特開2007−134614号公報
【特許文献9】特開2007−36027号公報
【特許文献10】特開2009−249682号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Takahashi,H.Shoji,H.Takahashi,H.Nashi,T.Wakiyama,M.Doi,and M.Matsui, J.Appl.Phys., Vol.76, pp.6642−6647,1994.
【非特許文献2】Y.Takahashi,M.Katou,H.Shoji,and M.Takahashi, J.Magn.Magn.Mater., Vol.232, p.18−26, 2001.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1〜11及び非特許文献1及び2記載の技術では、未だ十分とは言い難いものである。
【0010】
即ち、特許文献1には、表面酸化被膜が存在する鉄粒子を還元処理した後、窒化処理してFe16を得ることが記載されているが、最大エネルギー積を高くすることは考慮されていない。また、窒化反応が長時間にわたるものであり、工業的とは言い難い。
【0011】
また、特許文献2には、酸化鉄粉末を還元処理して金属鉄粉末を生成し、得られた金属鉄粉末を窒化処理してFe16を得ることが記載されているが、磁気記録媒体用磁性粒子粉末として用いられるものであり、高い最大エネルギー積BHmaxを有すべく硬磁性材料として好適とは言い難いものである。
【0012】
また、特許文献3〜9では、フェライトに変わる磁気記録材料用の極大磁気物質として記載されているが、α”−Fe16単相は得られておらず、より安定なγ‘−FeNやε−Fe2〜3N、マルテンサイト(α’−Fe)やフェライト(α−Fe)様金属が混相として生成している。
【0013】
また、特許文献10では、添加元素が必須としながらも、その必要性について細かく議論されておらず、且つ、得られる生成物の磁気特性について、高い最大エネルギー積BHmaxを有すべく硬磁性材料として好適とは言い難いものである。
【0014】
非特許文献1〜2には、薄膜でのα”−Fe16単相を得ることに成功しているが、薄膜では適用に限界があり、より幅の広い用途展開には不向きである。また、汎用の磁性材料とするには生産性や経済性に問題がある。
【0015】
そこで、本発明では、高純度で非常に薄いFeOに覆われたFe16強磁性粒子粉末の製造方法、得られた強磁性粒子粉末を用いた異方性磁石、ボンド磁石、圧粉磁石の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以下の本発明によって解決することができる。
【0017】
即ち、本発明は、鉄化合物粒子粉末を160〜420℃にて還元処理し、次いで、130〜170℃にて窒化処理する強磁性粒子粉末の製造方法において、前記鉄化合物粒子粉末として、平均粒子長軸長が40〜5000nmであり、アスペクト比(長軸径/短軸径)が1〜200であり、(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)が50%以下であり、均等係数(U)が1.55以下であり、曲率係数(C)が0.95以上であり、広範囲の曲率係数(C2)が0.40以上である鉄化合物粒子粉末を用いることを特徴とする強磁性粒子粉末の製造方法である(本発明1)。
【0018】
また、本発明は、鉄化合物粒子粉末が、マグネタイト、ヘマタイト及びゲータイトから選ばれる一種以上である請求項1記載の強磁性粒子粉末の製造方法である(本発明2)。
【0019】
また、本発明は、本発明1又は2に記載の強磁性粒子粉末の製造方法において、得られる強磁性粒子が粒子外殻にFeOが存在するとともにFeOの膜厚が5nm以下である強磁性粒子粉末の製造方法である(本発明3)。
【0020】
また、本発明は、本発明1〜3のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法において、得られる強磁性粒子粉末のFeOの体積分率が、FeO体積/粒子全体体積において25%以下である強磁性粒子粉末の製造方法である(本発明4)。
【0021】
また、本発明は、本発明1〜4のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法において、得られる強磁性粒子粉末の保磁力Hが1.5kOe以上、5Kでの飽和磁化σが150emu/g以上である強磁性粒子粉末の製造方法である(本発明5)。
【0022】
また、本発明は、本発明1〜5のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法において、得られる強磁性粒子粉末の格子定数から算出される窒化率が8.0〜13mol%である強磁性粒子粉末の製造方法である(本発明6)。
【0023】
また、本発明は、本発明1〜6のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法によって得られた強磁性粒子粉末からなる異方性磁石である(本発明7)。
【0024】
また、本発明は、本発明1〜6のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法によって得られた強磁性粒子粉末を含有するボンド磁石である(本発明8)。
【0025】
また、本発明は、本発明1〜6のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法によって得られた強磁性粒子粉末を含有する圧粉磁石である(本発明9)。
【発明の効果】
【0026】
また、本発明に係る強磁性粒子粉末の製造方法は、高純度で安定なFe16粒子粉末を容易に得ることができるので、強磁性粒子粉末の製造方法として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
まず、本発明に係る強磁性粒子粉末の製造方法について述べる。
【0028】
本発明に係る強磁性粒子粉末の製造方法は、出発原料として(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)が50%以下、均等係数(U)が1.55以下、曲率係数(C)が0.95以上、広範囲の曲率係数(C2)が0.40以上であって、平均粒子長軸長が40〜5000nm、アスペクト比(長軸径/短軸径)が1〜200の酸化鉄又はオキシ水酸化鉄からなる鉄化合物粒子粉末を出発原料として用い、該鉄化合物粒子粉末を160〜420℃にて還元処理し、130〜170℃にて窒化処理して得ることができる。
【0029】
出発原料である鉄化合物粒子粉末は、酸化鉄又はオキシ水酸化鉄であり、特に限定されないが、マグネタイト(Fe)、γ−Fe、ヘマタイト(α−Fe)、ゲータイト(α−FeOOH)、β−FeOOH、γ−FeOOH、FeOなどが挙げられる。また、出発原料は単相でも不純物を含んでいてもよく、不純物としては主相以外の酸化鉄又はオキシ水酸化鉄を含んでいてもよい。
【0030】
本発明に係る強磁性粒子粉末を得るための出発原料は、(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)が50%以下である。(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)が50%を超える場合には、メスバウアースペクトルデータよりFe16化合物相の体積分率が80%未満となる。好ましくは、(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)が45%以下、より好ましくは、(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)が40%以下である。ここで粒子長軸長とは、様々な形状の粒子にて最も長い粒子の長さを表す。なお、球体や立方体など高い対称性を持つ形状では、そのいずれかの長さとする。
【0031】
本発明に係る強磁性粒子粉末を得るための出発原料は、均等係数(U)が1.55以下である。Uが1.55を超える場合には、メスバウアースペクトルデータよりFe16化合物相が80%未満となる。好ましくは、Uが1.50以下である。
【0032】
本発明に係る強磁性粒子粉末を得るための出発原料は、曲率係数(C)が0.95以上である。Cが0.95を未満の場合には、メスバウアースペクトルデータよりFe16化合物相の体積分率が80%未満となる。好ましくは、Cが0.96以上である。
【0033】
本発明に係る強磁性粒子粉末を得るための出発原料は、広範囲の曲率係数(C2)が0.40以上である。C2が0.40未満の場合には、メスバウアースペクトルデータよりFe16化合物相の体積分率が80%未満となる。好ましくは、C2が0.50以上である。
【0034】
本発明においては、平均粒子長軸長が40〜5000nm、アスペクト比(長軸径/短軸径)が1〜200の酸化鉄又はオキシ水酸化鉄を出発原料として用いる。
【0035】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄の粒子形状には特に限定はないが、針状、粒状、紡錘状、直方体状、球状などいずれでもよい。
【0036】
本発明における鉄化合物粒子粉末のアスペクト比(長軸径/短軸径)は1.0〜200である。この範囲を超えると目的とするメスバウアースペクトルよりFe16化合物相が80%以上で構成される強磁性粒子粉末を得ることが困難となる。より好ましいアスペクト比は1.0〜190、さらにより好ましくは1.0〜180である。
【0037】
出発原料である鉄化合物粒子粉末のBET比表面積は20〜250m/gであることが好ましい。BET比表面積が20m/g未満では、窒化が進みにくく、目的とするメスバウアースペクトルでのFe16化合物相が80%以上で構成される強磁性粒子粉末を得ることが困難となる。BET比表面積が250m/gを超える場合は、窒化が過剰に起きるためメスバウアースペクトルデータでのFe16化合物相が80%以上で構成される強磁性粒子粉末を得ることが困難となる。より好ましいBET比表面積は30〜200m/g、更により好ましくは35〜180m/gである。
【0038】
本発明における針状ゲータイト粒子や紡錘状ゲータイト粒子は、第一鉄塩水溶液と水酸化アルカリ、炭酸アルカリ又は水酸化アルカリ・炭酸アルカリとを反応して得られる水酸化第一鉄コロイド、炭酸鉄及び鉄含有沈殿物のいずれかを含む懸濁液中に酸素含有ガスを通気して酸化する、所謂、湿式法により得られる。
また、本発明における針状マグネタイト粒子や紡錘状マグネタイト粒子は、前記ゲータイト粒子を還元性雰囲気下、250〜500℃で加熱還元することにより得られる。
【0039】
本発明におけるマグネタイト粒子は、第一鉄塩水溶液と水酸化アルカリとを反応して得られる水酸化第一鉄コロイドを含む懸濁液中に酸素含有ガスを通気して酸化する、所謂、湿式法により得られる。また、本発明におけるマグネタイト粒子は、第一鉄塩水溶液、第二鉄塩水溶液と水酸化アルカリとを反応させる、所謂、湿式法により得られる。
【0040】
本発明におけるヘマタイト粒子は、前記湿式法により生成したマグネタイト粒子を、空気中500〜1000℃で加熱することにより得られる。また、本発明におけるヘマタイト粒子は、前記湿式法により生成したゲータイト粒子を、空気中80℃以上にて加熱することにより得られる。
【0041】
本発明においては、所定の粒度分布を有する鉄化合物粒子粉末を得るために、前記ゲータイト生成反応、マグネタイト生成反応において、原料の添加順序を制御する、反応速度を調整するような添加剤を共存させる、酸化速度を調整する、原料濃度を調整するなどの手段によって得ることができる。
【0042】
本発明において出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄の凝集粒子径は、D50が40μm以下、D90が150μm以下に制御することが好ましい。出発原料は粉末を用いるため一般に凝集粒子径がかなり大きい。その凝集粒子径を小さくする方法は特に限定されないが、例えば、アルコール化合物、ケトン化合物やトルエン、ヘキサン、四塩化炭素、シクロヘキサンなどの有機溶剤存在下でボールミルや遊星ボールミル、湿式アトマイズしたり、ジェットミル粉砕したりすればよい。より好ましくはD50が35μm以下、D90が125μm以下であり、さらにより好ましくはD50が30μm以下、D90が100μm以下である。
【0043】
本発明における鉄化合物粒子粉末は、熱処理前に予め250μm以下のメッシュを通すことが望ましい。250μmを超えるメッシュサイズでは、所望とする磁気特性を発揮する強磁性粒子粉末が得られにくい。より好ましくは236μm以下である。
【0044】
オキシ水酸化鉄に対して、必要により、脱水処理を行う場合、脱水処理の温度は80〜350℃が好ましい。80℃未満では脱水はほとんど進行しない。350℃を超える場合、次の還元処理において、低温で鉄金属粒子粉末を得ることが難しくなる。より好ましい脱水処理温度は85〜300℃である。
【0045】
脱水処理後にジェットミル、ボールミルなどでの粉砕処理を行ってもよい。これらの処理時には、ヘリウムやアルゴン、窒素などの不活性ガスを用いるとよい。
【0046】
脱水処理は空気若しくは窒素雰囲気が好ましい。
【0047】
還元処理温度は160〜420℃である。還元処理温度が160℃未満では鉄化合物粒子粉末が十分に金属鉄に還元されない。還元処理温度が420℃を超えると鉄化合物粒子粉末は還元されるものの、粒子間の焼結が進行するため窒化率が低下してしまう。好ましい還元処理温度は165〜380℃、より好ましくは170〜350℃である。
【0048】
還元方法としては、特に限定されないが、水素ガス流通や、各種ハイドライト化合物を用いた還元手法を用いてもよい。
【0049】
還元処理の時間は特に限定されないが、1〜24hが好ましい。24hを超えると還元温度によっては焼結が進み後段の窒化処理が進みにくくなってしまう。1h未満では十分な還元ができない場合が多い。より好ましくは1.5〜15hである。
【0050】
還元処理後にジェットミル、ボールミルなどでの粉砕処理を行ってもよい。これらの処理時には、ヘリウムやアルゴン、窒素などの不活性ガスを用いるとよい。
【0051】
還元処理を行った後、窒化処理を行う。
【0052】
窒化処理の温度は130〜170℃である。窒化処理の温度が130℃未満の場合には窒化処理が十分に進行しない。窒化処理の温度が170℃を超える場合には、γ‘−FeNやε−Fe2〜3Nが生成するため、目的とするメスバウアースペクトルよりFe16化合物相が80%以上で構成される強磁性粒子粉末は得られない。より好ましい還元温度は135〜165℃である。
【0053】
窒化処理の時間は50h以内であることが望ましい。工業的に生産するにはできる限りの短い時間で工程を完了させることで時間当たりの収量が増え、工業的な生産性に優れる。より好ましくは36h以内である。
【0054】
窒化処理の雰囲気は、NH雰囲気が望ましく、NHの他、N、HやCHなどの炭化水素ガス、さらに、これらに過熱水蒸気などを混合させてもよい。
【0055】
本発明に係る強磁性粒子粉末について述べる。
【0056】
本発明に係る強磁性粒子粉末は、メスバウアースペクトルデータよりFe16化合物相が80%以上で構成される。メスバウアーでは、Fe16が生成される場合、内部磁場が330kOe以上の鉄サイトのピークが確認され、特に特徴的なのは、395kOe近傍のピークが現れることである。
一般には他相が多いと、ソフト磁石としての特性が強く表れてしまうために、強磁性ハード磁石材料としては不向きとなる。しかしながら、本発明では、強磁性ハード磁石材料として十分な特性を発揮できる。
強磁性粒子粉末は、粒子コアはFe16であり粒子外殻にFeOが存在するものであり、粒子のコアより外殻に向けFe16/FeOというシンプルな構造から構成される。Fe16とFeOはトポタクティックに接合しており、結晶学的に連続していることが好ましい。この外殻の酸化膜にはFeやFe、α−Feが含まれていてもよい。Fe16粒子が低純度であるとこれらの不純物が含まれることもあるが、高純度化によりFeOのみとなる。FeO膜厚は5nm以下であり、好ましくは4nm以下である。Fe16の高純度化に伴い、このFeO膜厚は薄くなる。FeO膜厚は、特に限定されないが、薄ければ薄いほど粒子に含まれるFe16体積分率が向上するため望ましい。FeO膜厚の下限値は特に限定されないが0.5nm程度である。
【0057】
本発明に係る強磁性粒子粉末表面のFeOの体積分率は、FeO体積/粒子全体体積において、25%以下であることが好ましい。Fe16を高純度化することでFeOの体積分率は減少する。より好ましいFeOの体積分率は23%以下であり、更に好ましくは3〜20%である。
【0058】
本発明に係る強磁性粒子粉末は、保磁力Hが1.5kOe以上、5Kでの飽和磁化σは150emu/g以上であることが好ましい。飽和磁化値σ及び保磁力Hが前記範囲未満の場合、硬磁性材料として磁気特性が十分とは言い難い。より好ましくは保磁力Hが1.6kOe以上、飽和磁化値σが180emu/g以上である。
【0059】
本発明に係る強磁性粒子粉末は、格子定数より求められる窒化率が8〜13mol%であることが好ましい。Fe16という化学組成式より求められる11.1mol%が最適である。より好ましい窒化率は8.5〜12.5mol%、更により好ましくは9.0〜12mol%である。
【0060】
本発明に係る強磁性粒子粉末のBET比表面積は5.0〜40m/gであることが好ましい。BET比表面積が5m/g未満では窒化率が低くなり、結果としてFe16の生成率が低下し、所望の保磁力や飽和磁化が得られない。40m/gを超えると、所望とする飽和磁化値が得られない。より好ましいBET比表面積は5.5〜38m/g、更により好ましくは6.0〜35m/gである。
【0061】
次に、本発明に係る異方性磁石について述べる。
【0062】
本発明に係る異方性磁石の磁気特性は目的とする用途に応じて所望の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、最大エネルギー積)となるように調整すればよい。
【0063】
磁気的な配向をさせる方法は特に限定されない。例えばガラス転移温度以上温度においてEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合)樹脂にメスバウアースペクトルよりFe16化合物相が80%以上で構成される強磁性粒子粉末を分散剤などとともに混練して成形し、ガラス転移温度を超えた付近の温度で所望の外部磁場をかけて、磁気的配向を促せばよい。または、ウレタン等の樹脂と有機溶剤と該強磁性粒子粉末をペイントシェーカーなどで強く混合・粉砕したインクをブレードやRoll−to−Roll法によって樹脂フィルムに塗布印刷し、素早く磁場中を通して、磁気的な配向をさせればよい。また、RIP(Resin Isostatic Pressing)を用いて、より高密度に、且つ、結晶磁気異方性を最大限に活かした磁気配向を行ってもよい。強磁性粒子粉末に予めシリカやアルミナ、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモンなどの絶縁被覆を行ってもよい。絶縁被覆の方法は特に限定されることなく、溶液中で粒子表面電位を制御することで吸着させる方法や、CVDなどで蒸着してもよい。
【0064】
次に、本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物について述べる。
【0065】
本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物は、本発明に係る強磁性粒子粉末を結合剤樹脂中に分散してなるものであって、該強磁性粒子粉末を85〜99重量%含有し、残部が結合剤樹脂とその他添加剤とからなる。
【0066】
強磁性粒子粉末に予めシリカやアルミナ、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモンなどの絶縁被覆を行ってもよい。絶縁被覆の方法は特に限定されることなく、溶液中で粒子表面電位を制御することで吸着させる方法や、CVDなどで蒸着してもよい。
【0067】
前記結合剤樹脂としては、成形法によって種々選択することができ、射出成形、押し出し成形及びカレンダー成形の場合には熱可塑性樹脂が使用でき、圧縮成形の場合には、熱硬化性樹脂が使用できる。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン(PA)系、ポリプロピレン(PP)系、エチレンビニルアセテート(EVA)系、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系、液晶樹脂(LCP)系、エラストマー系、ゴム系等の樹脂が使用でき、前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系、フェノール系等の樹脂を使用することができる。
【0068】
なお、ボンド磁石用樹脂組成物を製造するに際して、成形を容易にしたり、磁気特性を十分に引き出したりするために、必要により、結合剤樹脂の他に可塑剤、滑剤、カップリング剤など周知の添加物を使用してもよい。また、フェライト磁石粉末などの他種の磁石粉末を混合することもできる。
【0069】
これらの添加物は、目的に応じて適切なものを選択すればよく、可塑剤としては、それぞれの使用樹脂に応じた市販品を使用することができ、その合計量は使用する結合剤樹脂に対して0.01〜5.0重量%程度が使用できる。
【0070】
前記滑剤としては、ステアリン酸とその誘導体、無機滑剤、オイル系等が使用でき、ボンド磁石全体に対して0.01〜1.0重量%程度が使用できる。
【0071】
前記カップリング剤としては、使用樹脂とフィラーに応じた市販品が使用でき、使用する結合剤樹脂に対して0.01〜3.0重量%程度が使用できる。
【0072】
本発明におけるボンド磁石用樹脂組成物は、強磁性粒子粉末を結合剤樹脂と混合、混練してボンド磁石用樹脂組成物を得る。
【0073】
前記混合は、ヘンシェルミキサー、V字ミキサー、ナウター等の混合機などで行うことができ、混練は一軸混練機、二軸混練機、臼型混練機、押し出し混練機などで行うことができる。
【0074】
次に、本発明に係るボンド磁石について述べる。
【0075】
ボンド磁石の磁気特性は目的とする用途に応じて所望の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、最大エネルギー積)となるように調整すればよい。
【0076】
本発明におけるボンド磁石は、前記ボンド磁石用樹脂組成物を用いて、射出成形、押出成形、圧縮成形又はカレンダー成形等の周知の成形法で成形加工した後、常法に従って電磁石着磁やパルス着磁することにより、ボンド磁石とすることができる。
【0077】
次に、本発明における焼結磁石について述べる。
【0078】
本発明における焼結磁石は、強磁性粒子粉末を圧縮成形及び熱処理すればよい。磁場や圧縮成形の条件は、特に限定されず、作製する圧粉磁石の要求値になるよう調整すればよい。例えば、磁場は1〜15T、圧縮成形圧力は1.5〜15ton/cmが挙げられる。成形機器は特に限定されないが、CIPやRIPを用いてもよい。成形体の形状や大きさは用途に合わせて選択すればよい。
【0079】
強磁性粒子粉末に予めシリカやアルミナ、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモンなどの絶縁被覆を行ってもよい。絶縁被覆の方法は特に限定されることなく、溶液中で粒子表面電位を制御することで吸着させる方法や、CVDなどで蒸着してもよい。
【0080】
滑剤としては、ステアリン酸とその誘導体、無機滑剤、オイル系等が使用でき、ボンド磁石全体に対して0.01〜1.0重量%程度を使用してもよい。
【0081】
結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、PPS、液晶ポリマー、PEEK、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフタールアミド、ポリアミド等の熱可塑性樹脂あるいはこれらの混合物をボンド磁石全体に対して0.01〜5.0重量%程度を使用してよい。
【0082】
熱処理は連続炉やRF高周波炉など適宜選べばよい。熱処理条件は特に限定されない。
【0083】
次に、本発明に係る圧粉磁石について述べる。
【0084】
本発明に係る圧粉磁石は、得られた強磁性粒子粉末を磁場中で圧縮成形すればよい。磁場や圧縮成形の条件は、特に限定されず、作製する圧粉磁石の要求値になるよう調整すればよい。例えば、磁場は1.0〜15T、圧縮成形圧力は1.5〜15ton/cmが挙げられる。成形機器は特に限定されないが、CIPやRIPを用いてもよい。成形体の形状や大きさは用途に合わせて選択すればよい。
【0085】
強磁性粒子粉末に予めシリカやアルミナ、ジルコニア、酸化錫、酸化アンチモンなどの絶縁被覆を行ってもよい。絶縁被覆の方法は特に限定されることなく、溶液中で粒子表面電位を制御することで吸着させる方法や、CVDなどで蒸着してもよい。
【0086】
滑剤としては、ステアリン酸とその誘導体、無機滑剤、オイル系等が使用でき、ボンド磁石全体に対して0.01〜1.0重量%程度を使用してもよい。
【0087】
結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、PPS、液晶ポリマー、PEEK、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフタールアミド、ポリアミド等の熱可塑性樹脂あるいはこれらの混合物をボンド磁石全体に対して0.01〜5.0重量%程度を使用してよい。
【0088】
熱処理は連続炉やRF高周波炉など適宜選べばよい。熱処理条件は特に限定されない。
【実施例】
【0089】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0090】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄や得られた強磁性粒子粉末の比表面積値は、窒素によるB.E.T.法により測定した。
【0091】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄や得られた強磁性粒子粉末の一次粒子サイズは透過型電子顕微鏡(日本電子(株)、JEM−1200EXII)を用いて測定した。粒子120個以上をランダマイズに選び粒子サイズを計測した。得られたデータより、個数換算した平均粒子長軸長及び偏差平均、D10、D30、D60、U、C、C2の値を求めた。
なお、(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)は一次粒子長軸長のばらつきの度合いを表す。
はD60/D10より求められ、曲率の傾きを表し、1に近いほど一次粒子長軸長が揃っていて、逆に数字が大きくなるほど一次粒子長軸長のばらつきが大きくなる。
また、Cは(D30)/(D60×D10)より求められ、積算分布曲線のなだらかさを表す。値が小さいほど粒度分布が広いことを示す。
また、C2は(D40)/(D80×D20)より求められる。一般概念ではない算出だが、より広範囲にわたる積算分布曲線のなだらかさをわかりやすくするために本発明ではこの算出法も用いることとする。
【0092】
出発原料の凝集粒子の粒度分布測定は、溶媒には純水を用いて、Malvern製、Mastersizer2000Eによって測定した。得られたデータより、体積換算したD50(メディアン径)、D90の値を求めた。測定データは、超音波50%出力、1500rpmにて撹拌している純水中に所定量の試料を投入し、5秒後に測定を開始した。測定までの時間が長いと超音波及び撹拌にて凝集粒子がカイコウ・分散されてしまい本質を反映しなくなる。
【0093】
出発原料である酸化鉄又はオキシ水酸化鉄や、得られた強磁性粒子粉末試料の組成分析は、加熱した試料を酸で溶解し、プラズマ発光分光分析装置(セイコー電子工業(株)、SPS4000)を用い分析して求めた。
【0094】
出発原料及び得られた強磁性粒子粉末の構成相は、粉末X線回折装置(XRD、(株)リガク製、RINT−2500)による同定と、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子(株)、JEM−2000EX)、電子線分光型超高分解能電子顕微鏡(HREM、日立ハイテク、HF−2000)を用いた電子線回折(ED)、電子エネルギー損失分光法(EELS)、エネルギー分散X線分光法(EDS)、走査透過電子顕微鏡(STEM)分析・評価を行い決定した。EDやEELS、STEM、EDSによる分析・評価は、XRDでは分からない、不純物相としてのα−Fe、FeN、Fe3−xNがミクロに局在しているかを確認できる。
【0095】
FeOの体積分率は、以下のとおりに評価した。
まず、強磁性粒子粉末についてEELSを用いてFeOが粒子表面上に存在することを確認した。次いで、粒子表面近傍から10nm程度の何カ所かにおいてO(酸素)サイトのエネルギー状態を分析してFeOの存在位置を確認した。また別に強磁性粒子粉末のTEMあるいはHREM観察において、粒子の中心部とコントラストが異なる部分を確認し、前記EELSの結果と比較しFeOの存在位置を確認して、このコントラストが異なる部分がFeOであることを明らかにした。FeOの厚さを測定し、FeOの厚さと粒子形状からFeOの体積分率を算出した。
【0096】
得られた強磁性粒子粉末の格子定数は、XRDを用いて求めた。この格子定数を元に次の文献を参照して、窒素量を求めた。
(参考文献)
・ 高橋有紀子
東北大学大学院 工学研究科 電子工学専攻 2001年博士学位論文
題目:「(C,N)添加Fe基合金薄膜における非平衡α’、α"、γ相の合成と磁性に関する研究」
・ K.H.Jack,
Proc. Roy. Soc., A208, 216(1951)
“The iron−nitrogen system: the preparation and the crystal structures of nitrogen−austenite(γ) and nitrogen−martensite(α’)”
【0097】
得られた強磁性粒子粉末の磁気特性は、物理特性測定システム(PPMS+VSM、日本カンタム・デザイン(株))を用いて室温(300K)にて、0〜9Tの磁場中で測定した。別に5K〜300Kまでの磁化率の温度依存性の評価も行った。
【0098】
得られた強磁性粒子粉末のメスバウアー測定は次の2通りで行った。
(1)アルゴン雰囲気のグローブボックス中で強磁性粒子粉末をシリコングリースによく混ぜてアルミホイールに包み、液体ヘリウム温度〜室温の範囲で3〜4日間かけて行い、さらにデータを解析することで、得られた強磁性粒子粉末のFe16の生成比率を求めた。解析時の不純物相としては、α−Fe、FeN、Fe3−xNや、酸化鉄等のパラ成分を検討した。
(2)空気中に取り出した強磁性粒子粉末をシリコングリースによく混ぜてアルミホイールに包み、液体ヘリウム温度〜室温の範囲で3〜4日間かけて行い、さらにデータを解析することで、得られた強磁性粒子粉末のFe16の生成比率を求めた。解析時の不純物相としては、α−Fe、FeN、Fe3−xNや、酸化鉄等のパラ成分を検討した。
【0099】
実施例1
<出発原料の調整>
炭酸ソーダ424gを溶かした水溶液3.8Lを58℃として窒素ガスを4L/min流通させた。これに硫酸第一鉄7水塩を556g溶解した水溶液1.2Lを30秒間で投入した。その後、プロピオン酸ナトリウム15.36gを溶解させた150mlの水溶液を5秒で投入した。溶液温度は48℃まで下がり、そのまま3.5h保持させた。次に流通ガスを酸素に切り替えて4L/minにて流通させた。水溶液の温度は50℃を超えないように注意しながら、3.5h保持した。これをヌッチェで濾別分離して、試料5gに対して純水250ml相当の純水でよく洗浄した。続いて、125℃の通風乾燥機にて1晩乾燥させた。得られた試料は、平均粒子長軸長670nm、アスペクト比12.2、比表面積65.0m/gの紡錘状ゲータイト粒子であった。この粒子の(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)は11.0%、Uは1.24、Cは0.99、C2は0.97であった。
【0100】
<出発原料の粉砕処理>
次に、ヘキサン溶媒40mlに乾燥粉末試料3gを加え、3mmφの窒化ケイ素ビーズとともに、窒素ガス置換を行った遊星ボールミルにて室温で0.5hの粉砕を行い、再び粉末を取り出した。この粉末の粒度分布測定を行ったところ、D50が15.9μm、D90が48.0μmであった。
【0101】
<出発原料の還元処理及び窒化処理>
振動篩で250μm以下の凝集粒子のみを抽出した上記試料粉末50gをアルミナ製甲鉢(125mm×125mm×深さ30mm)に入れ、熱処理炉に静置させた。炉内を真空引きした後、アルゴンガスを充填し、再び真空引きする操作を3回繰り返した。その後、水素ガスを5L/minの流量で流しながら、5℃/minの昇温速度で282℃まで昇温し、2h保持して還元処理を行った。その後、148℃まで降温して水素ガスの供給を止めた。なお、この状態で取り出した試料は、α−Fe単相で、比表面積は9.3m/gであった。続いて、アンモニアガスと窒素ガスと水素ガスの混合比が9.5:0.45:0.05の混合ガスを全量で10L/min流しながら、148℃で9h窒化処理を行った。その後、アルゴンガスを流通させて室温まで降温し、アルゴンガス供給を止めて、窒素置換を3hかけて行った。次いで、直結しているグローブボックスに試料を取り出た。
【0102】
<得られた試料の分析・評価>
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe16であり、メスバウアースペクトル測定により、Fe16化合物相は100%であった。平均粒子長軸長631nm、比表面積は9.3m/g、FeO膜厚は1nm未満で確認できなかった。従ってFeOの体積分率は0%であった。また、窒化率は10.8%であった。磁気特性を測定したところ、5Kでの飽和磁化値σ=235emu/g、保磁力H=2.6kOeであった。
【0103】
実施例2
実施例1と同様にして、紡錘状ゲータイトを得た。ただし、炭酸ソーダは424g(3.8L)、硫酸第一鉄7水塩は556g(1.2L)、プロピオン酸ナトリウム15.36g(180mL)、窒素ガス量は3.5L/min、酸素ガス量は4L/minとした。また、硫酸第一鉄水溶液を投入する炭酸ソーダ水溶液温度は50℃、窒素ガス及び酸素ガス流通中の保持温度は41℃とした。これをヌッチェで濾別分離し、試料5gに対して純水180ml相当の純水でよく洗浄した。得られた試料は、平均粒子長軸長282nm、アスペクト比6.8、比表面積112m/gの紡錘状ゲータイト粒子であった。この粒子の(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)は9.6%、Uは1.21、Cは0.97、C2は0.94であった。続いて、130℃の通風乾燥機にて1晩乾燥させた。さらにアトマイザー粉砕機と振動篩で90μm以下の凝集粒子のみを抽出した。この粉末の粒度分布測定を行ったところ、D50が21.6μm、D90が64.4μmであった。
【0104】
次に、実施例1同様に還元処理と窒化処理を行った。還元処理は292℃にて3h行った。なお、この状態で取り出した試料は、α−Fe単相で、比表面積は16.9m/gであった。窒化処理は、アンモニアガスを10L/minにて流しながら、152℃で7h窒化処理を行った。
【0105】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe16であり、メスバウアー測定よりFe16化合物相は93%であった。また、平均粒子長軸長269nm、比表面積は16.8m/g、FeO膜厚は2.8nm、FeOの体積分率は21.5%であった。また、窒化率は9.0%であった。磁気特性を測定したところ、5Kでの飽和磁化値σ=232emu/g、保磁力H=2.8kOeであった。
【0106】
実施例3
塩化第一鉄4水塩180gを2Lの純水に溶解させて22℃とした。空気を10L/min流通させて10分後に11.16gの苛性ソーダを溶かした209mlの水溶液を20分かけてゆっくりと加え、pHは7.0であった。1時間後、pH6.7となった反応溶液の100mlを300mlガラスビーカーに移し、室温にて、撹拌子を300rpmで回転させ24h反応した。これをヌッチェで濾別分離し、試料5gに対して純水200ml相当の純水でよく洗浄した。得られた試料は、平均粒子長軸長2700nm、アスペクト比45.0、比表面積83.2m/gの針状レピドクロサイト粒子であった。この粒子の(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)は12.2%、Uは1.13、Cは1.02、C2は0.99であった。120℃で1晩乾燥させ、続けて350℃で1hの熱処理を行った。瑪瑙乳鉢を用いたライカイ機で1h粉砕した。この粉末の粒度分布測定を行ったところ、D50が5.3μm、D90が13.8μmであった。さらに振動篩で180μm以下の凝集粒子のみを抽出した。さらに、還元処理と窒化処理を実施例2同様に行った。還元は水素気流中で260℃にて3h、窒化処理はアンモニアガス気流中で145℃にて8hそれぞれ行った。なお、還元処理後の状態で取り出した試料は、α−Fe単相で、比表面積は8.3m/gであった。
【0107】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe16であり、メスバウアー測定よりFe16化合物相は88%であった。また、平均粒子長軸長2630nmであり、比表面積は8.3m/g、FeO膜厚は2.3nm、FeOの体積分率は8.5%、窒化率は10.6%であった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ=221emu/g、保磁力H=2.7kOeであった。
【0108】
実施例4
硫酸第二鉄9水塩32.36gを500ml水溶液とした。18.6mol/Lの苛性ソーダ溶液に純水を加えて1.5Lとして、フッ素樹脂製アンカー型撹拌翼で280rpmにて撹拌しながら65℃に昇温した。この苛性ソーダ溶液に、上記した硫酸第二鉄水溶液を30秒間で投入し、さらに95℃に昇温して、6h保持した。これをヌッチェで濾別分離し、試料5gに対して純水200ml相当の純水でよく洗浄した。得られた試料は、平均粒子長軸長48nm、アスペクト比1.0、比表面積91.0m/gの立方体状マグネタイト粒子であった。この粒子の(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)は15.3%、Uは1.30、Cは0.91、C2は0.84であった。これをトルエン溶媒中15wt%固形分濃度で500μmの窒化ケイ素製ビーズを用いて湿式ビーズミル粉砕した。この粉末の粒度分布測定を行ったところ、D50が9.6μm、D90が15.3μmであった。さらに振動篩で180μm以下の凝集粒子のみを抽出した。さらに、還元処理と窒化処理を実施例2同様に行った。なお、還元処理後の状態で取り出した試料は、α−Fe単相で、比表面積は38.0m/gであった。
【0109】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe16であり、メスバウアー測定よりFe16化合物相は85%であった。また、平均粒子長軸長42nmであり、比表面積は37.8m/g、FeO膜厚は1.5nm、FeOの体積分率は13.8%、窒化率は11.8%であった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ=199emu/g、保磁力H=1.7kOeであった。
【0110】
実施例5
塩化第二鉄6水塩27.05gをビーカーに秤取り純水で500mlとした。これに尿素2.12gを加えて、室温で30min撹拌した。次にこの溶液を閉鎖系の圧力耐性容器に移して撹拌翼にて200rpmで撹拌子ながら85℃にて3.5h反応した。これをヌッチェで濾別分離し、試料1gに対して純水30ml相当の純水でよく洗浄した。得られた試料は、平均粒子長軸長130nm、アスペクト比2.6、比表面積96.0m/gの針状アカガナイトであった。この粒子の(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)は8.7%、Uは1.09、Cは0.99、C2は0.98であった。次いで、40℃で1晩乾燥させた。アトマイザー粉砕機後、実施例4同様に湿式ビーズミルにて粉砕処理を行った。この粉末の粒度分布測定を行ったところ、D50が5.6μm、D90が10.7μmであった。さらに振動篩で180μm以下の凝集粒子のみを抽出した。さらに、還元処理と窒化処理を実施例2同様に行った。還元処理は水素気流中で292℃にて2h、窒化処理はアンモニアガス気流中で150℃にて8hそれぞれ行った。なお、還元処理後の状態で取り出した試料は、α−Fe単相で、比表面積は20.0m/gであった。
【0111】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe16であり、メスバウアー測定よりFe16化合物相は84%であった。また、平均粒子長軸長122nmであり、比表面積は19.9m/g、FeO膜厚は1.9nm、FeOの体積分率は19.5%、窒化率は11.6%であった。磁気特性を測定したところ、飽和磁化値σ=199emu/g、保磁力H=2.0kOeであった。
【0112】
比較例
実施例2と同様にして、平均粒子長軸長143nm、アスペクト比4.9、比表面積130m/gの紡錘状ゲータイト粒子主相、わずかに20〜50nm程度の立方体状マグネタイトが混在した試料を得た。各原料の使用量は同じであったが、硫酸第一鉄水溶液を30秒間での投入とせず、10minかけて滴下し、窒素ガスの流通量を2L/min、空気ガスの流通量を18L/minとし、さらに空気ガス流通時の反応温度を55℃とした。この粒子の(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)は66.0%、Uは1.58、Cは0.95、C2は0.34であった。続いて、130℃の通風乾燥機にて1晩乾燥させた。次に、アルミナ乳鉢にて粉砕を0.5h行い、D50が14.5μm、D90が39.9μmの粉末試料を得た。
【0113】
次に、実施例1同様に還元処理と窒化処理を行った。還元処理は290℃にて4.5h行った。なお、この状態で取り出した試料は、α−Fe単相で、比表面積は19.4m/gであった。窒化処理は、アンモニアガスを10L/minにて流しながら、155℃で8h窒化処理を行った。窒化処理後は、室温にて炉内を窒素パージし、そのまま炉外に取り出した。
【0114】
得られた粒子粉末はXRD、EDよりFe16、FeN、α−Feが混在しており、メスバウアー測定よりFe16化合物相は68%であった。また、平均粒子長軸長122nm、比表面積は19.4m/g、FeO膜厚は8.8nm、FeOの体積分率は55.7%であった。また、窒化率は7.3%であった。磁気特性を測定したところ、5Kでの飽和磁化値σ=119emu/g、保磁力H=1.2kOeであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物粒子粉末を160〜420℃にて還元処理し、次いで、130〜170℃にて窒化処理する強磁性粒子粉末の製造方法において、前記鉄化合物粒子粉末として、平均粒子長軸長が40〜5000nmであり、アスペクト比(長軸径/短軸径)が1〜200であり、(粒子長軸長の偏差平均)/(平均粒子長軸長)が50%以下であり、均等係数(U)が1.55以下であり、曲率係数(C)が0.95以上であり、広範囲の曲率係数(C2)が0.40以上である鉄化合物粒子粉末を用いることを特徴とする強磁性粒子粉末の製造方法。
【請求項2】
鉄化合物粒子粉末が、マグネタイト、ヘマタイト及びゲータイトから選ばれる一種以上である請求項1記載の強磁性粒子粉末の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の強磁性粒子粉末の製造方法において、得られる強磁性粒子が粒子外殻にFeOが存在するとともにFeOの膜厚が5nm以下である強磁性粒子粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法において、得られる強磁性粒子粉末のFeOの体積分率が、FeO体積/粒子全体体積において25%以下である強磁性粒子粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法において、得られる強磁性粒子粉末の保磁力Hが1.5kOe以上、5Kでの飽和磁化σが150emu/g以上である強磁性粒子粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法において、得られる強磁性粒子粉末の格子定数から算出される窒化率が8.0〜13mol%である強磁性粒子粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法によって得られた強磁性粒子粉末からなる異方性磁石。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法によって得られた強磁性粒子粉末を含有するボンド磁石。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の強磁性粒子粉末の製造方法によって得られた強磁性粒子粉末を含有する圧粉磁石。


【公開番号】特開2012−231098(P2012−231098A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100177(P2011−100177)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】